IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社digzymeの特許一覧 ▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ポリエーテルジオールの製造方法 図1
  • 特開-ポリエーテルジオールの製造方法 図2
  • 特開-ポリエーテルジオールの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147514
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ポリエーテルジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/18 20060101AFI20231005BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C12P7/18 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055052
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522127324
【氏名又は名称】株式会社digzyme
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】渡来 直生
(72)【発明者】
【氏名】礒崎 達大
(72)【発明者】
【氏名】根岸 孝至
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
(72)【発明者】
【氏名】沢 稔彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC05
4B064AC21
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】
酵素又は微生物触媒を用いたポリエーテルジオールの新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】
第1のリン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオールをリン酸化して、脂肪族ジオール 1-リン酸を製造し、第2のリン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオール 1-リン酸をリン酸化して、脂肪族ジオール 2-リン酸を製造し、前記脂肪族ジオール1-リン酸と前記脂肪族ジオール 2-リン酸を、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素の存在下で反応させてポリエーテルジオール 1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール 1-リン酸の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオールをリン酸化する工程を含む、脂肪族ジオール 1-リン酸の製造方法。
【請求項2】
リン酸化酵素が、
a)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
b)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールの1リン酸化を触媒する酵素活性を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオール 1-リン酸をリン酸化する工程を含む、脂肪族ジオール 2-リン酸の製造方法。
【請求項4】
リン酸化酵素が、
c)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
d)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素の存在下に、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸とを反応させてポリエーテルジオール 1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール 1-リン酸の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化してポリエーテルジオールを得る工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸をリン酸化酵素の存在下でリン酸化してポリエーテルジオール 2-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール 2-リン酸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 2-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール 2-リン酸と脂肪族ジオール 1-リン酸とを、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素の存在下で反応させてポリエーテルジオール1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化してポリエーテルジオールを得る工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法。
【請求項10】
3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素が、
e)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
f)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有するものである、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第1のリン酸化酵素、第2のリン酸化酵素、及び3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素をそれぞれコードする遺伝子を含む、微生物であって:
前記第1のリン酸化酵素が、
a)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
b)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールの1リン酸化を触媒する酵素活性を有する少なくとも一種の酵素であり、
前記第2のリン酸化酵素が、
c)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
d)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有する少なくとも一種の酵素であり、
前記3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素が、
e)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
f)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素活性を有する少なくとも一種の酵素である、前記微生物。
【請求項12】
脂肪族ジオールの存在下で請求項11記載の微生物を培養して、ポリエーテルジオール1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルジオールの製造方法に関する。より詳細には、酵素重合法による、脂肪族ジオールを原料としたポリエーテルジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)に代表されるポリエーテルジオールはポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂の原料として用いられる。PTMGの工業的な製法はテトラヒドロフラン(THF)のカチオン開環重合によるものであるが、原料となる1,4-ブタンジオールを一度THFに変換するため高温高圧下での脱水環化反応が必要となること;重合反応にも高い反応温度が必要であるため、環境負荷が高いプロセスであること;重合度制御が困難なため重合度の異なる多数の分子の混合物となり分子量分布が広いこと、とう問題がある。
【0003】
環境負荷の小さいポリマーの製造方法として、酵素や微生物を用いた方法がある。3-ヒドロキシ酪酸(3HB)及び3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)を微生物を用いて重合することで、ポリヒドロキシアルカノエート共重合体を得る方法(特許文献1)など、微生物、酵素触媒重合によるポリエーテルのバイオ製造は知られている。しかしながら、ポリエーテルジオールの微生物や酵素触媒重合による製造法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-009628号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、酵素又は微生物触媒を用いたポリエーテルジオールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは鋭意検討を行った結果、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素が、脂肪族ジオール 1リン酸と脂肪族ジオール 2リン酸とをエーテル結合する能力を有することを見出した。また脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素を発見し、この酵素を用いて脂肪族ジオールを原料としたポリエーテルジオールの酵素重合法を完成させた。
【0007】
本発明は、上記知見に基づくものであり、以下の[1]~[12]に関する。
[1] リン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオールをリン酸化する工程を含む、脂肪族ジオール 1-リン酸の製造方法。
[2] リン酸化酵素が、
a)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
b)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールの1リン酸化を触媒する酵素活性を有するものである、[1]に記載の方法。
[3] リン酸化酵素の存在下に脂肪族ジオール 1-リン酸をリン酸化する工程を含む、脂肪族ジオール 2-リン酸の製造方法。
[4] リン酸化酵素が、
c)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
d)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有するものである、[3]に記載の方法。
[5] 3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素の存在下に、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸とを反応させてポリエーテルジオール 1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール 1-リン酸の製造方法。
[6] [5]に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化してポリエーテルジオールを得る工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法。
[7] [5]に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸をリン酸化酵素の存在下でリン酸化してポリエーテルジオール 2-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール 2-リン酸の製造方法。
[8] [7]に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール 2-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール 2-リン酸と脂肪族ジオール 1-リン酸とを、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素の存在下で反応させてポリエーテルジオール1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法。
[9] [8]に記載の方法にしたがい、ポリエーテルジオール1-リン酸を製造し、前記ポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化してポリエーテルジオールを得る工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法。
[10] 3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素が、
e)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
f)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有するものである、[5]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 第1のリン酸化酵素、第2のリン酸化酵素、及び3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素をそれぞれコードする遺伝子を含む、微生物であって:
前記第1のリン酸化酵素が、
a)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
b)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールの1リン酸化を触媒する酵素活性を有する少なくとも一種の酵素であり、
前記第2のリン酸化酵素が、
c)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
d)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有する少なくとも一種の酵素であり、
前記3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素が、
e)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、又は
f)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素活性を有する少なくとも一種の酵素である、前記微生物。
[12] 脂肪族ジオールの存在下で[11]記載の微生物を培養して、ポリエーテルジオール1-リン酸を得る工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
微生物や酵素触媒による重合反応は、有機金属触媒を用いる重合反応と比べて、温和な条件下での重合が可能であり、環境負荷の低減が可能である。また酵素の厳密な基質特異性から分子量分布の狭いポリマー合成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】LC/MSによる1リン酸化物(1,4-ブタンジオール-1リン酸化物)の確認。
図2】LC/MSによる2リン酸化物(1,4-ブタンジオール-2リン酸化物)の確認。
図3】LC/MSによるエーテル結合物(PTMG2量体-1リン酸化物)の確認。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.脂肪族ジオール 1-リン酸の製造方法
本発明は、脂肪族ジオールを、リン酸化酵素によりリン酸化して、脂肪族ジオール 1-リン酸を製造する方法を提供する。
【0011】
本発明において、「脂肪族ジオール」は、飽和又は不飽和の脂肪酸ジオールであり、直鎖状でも分枝状でもよい。
【0012】
脂肪酸ジオールは、好ましくは、炭素数2~14、より好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~8、さらに好ましくは炭素数2~6の脂肪酸ジオールである。
【0013】
好ましくは、脂肪酸ジオールは、飽和の直鎖状脂肪酸ジオールであり、例えば、直鎖状のアルキレングリコール類、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられる。なかでも、1,4―ブタンジオールがより好ましい。
【0014】
本発明で使用される「リン酸化酵素」は、脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、メバロネートキナーゼ、グリセロールキナーゼ、エタノールアミンキナーゼ、3-ホスホメバロネートキナーゼ等を挙げることができる。
【0015】
「リン酸化酵素」の由来は特に限定されず、例えば、真核生物由来のもの、真正細菌等バクテリア由来のものが挙げられる。
【0016】
具体的には、「リン酸化酵素」としては、Staphylococcus 属、Escherichia 属、Klebsiella 属、Halobacterium 属、Pseudomonas 属、Firmicutes属、Arabidopsis属、Saccharomyces属、Bos属、Mus属由来のものを使用することができる。
【0017】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の具体例としては、例えば、配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む酵素(タンパク質)を挙げることができる。
【0018】
配列番号1で示されるリン酸化酵素は、Staphylococcus aureus 由来のMevalonate kinase(Uniprot ID: Q2G0I8)として、配列番号2で示されるリン酸化酵素は、Escherichia coli O127:H6由来のGlycerol kinase(Uniprot ID: B7UNP6)として、それぞれ公共のデータベースに登録されている。
【0019】
本発明で使用される「リン酸化酵素」は、上記配列を有するものに限定されるものではなく、配列番号1~2のいずれかに記載のアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性あるいは同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素活性を有する酵素(タンパク質)も包含する。
【0020】
また、本発明で使用される「リン酸化酵素」には、配列番号1~2のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1個または数個、具体的には、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素活性を有する酵素(タンパク質)も含まれる。
【0021】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の遺伝子は、下記アミノ酸配列をコードする。
a)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は
b)配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ、脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。
【0022】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の遺伝子には、例えば、配列番号1~2のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂肪族ジオールのリン酸化を触媒する酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む遺伝子も本発明のリン酸化酵素の遺伝子に含まれる。好ましくは、上記遺伝子は、Staphylococcu属又はEscherichia属由来である。
【0023】
ストリンジェントな条件としては、例えば、DNAを固定したナイロン膜を、6×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、1%SDS、100μg/mlサケ精子DNA、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコールを含む溶液中で65℃にて20時間プローブとともに保温してハイブリダイゼーションを行う条件を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、ハイブリダイゼーションの条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
【0024】
2.脂肪族ジオール 2-リン酸の製造方法。
本発明は、脂肪族ジオール 1-リン酸を、リン酸化酵素によりリン酸化して、脂肪族ジオール 2-リン酸を製造する方法を提供する。
【0025】
「脂肪族ジオール 1-リン酸」を構成する脂肪族ジオールは、上記1に記載したとおりである。脂肪族ジオール 1-リン酸としては、上記1の方法で得た脂肪族ジオール 1-リン酸を使用することができる。
【0026】
本発明で使用される「リン酸化酵素」は、脂肪族ジオール 1-リン酸のリン酸化を触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、5-ホスホメバロネートキナーゼ、イソペンテニルホスフェートキナーゼが挙げられる。
【0027】
「リン酸化酵素」の由来は特に限定されず、例えば、真核生物や古細菌由来のもの、真核生物由来のものが挙げられる。
【0028】
具体的には、具体的には、「リン酸化酵素」としては、Arabidopsis属、Oryza属、Nitrosopumilus属、Panicum属、Branchiostoma属、Methanofervidicoccus属、Methanocaldococcus属、Haloferax属、Thermoplasma属、Streptomyces属、Thermanaerothrix属、Longilinea属、Flexilinea属、Scytonema属、Archaea属由来のものを使用することができる。
【0029】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の具体例としては、例えば、配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む酵素(タンパク質)を挙げることができる。
【0030】
上記配列番号3で示されるリン酸化酵素は、Nitrosopumilus adriaticus由来のIsopentenyl phosphate kinase(Uniprot ID: A0A0D5C472)として、配列番号4で示されるリン酸化酵素は、Archaea Phylum由来のIsopentenyl phosphate kinase(Uniprot ID: A0A7C1LM50)として、配列番号5で示されるリン酸化酵素は、Panicum miliaceum由来のIsopentenyl phosphate kinase(Uniprot ID: A0A3L6SU37)として、配列番号6で示されるリン酸化酵素は、Branchiostoma belcheri由来のIsopentenyl phosphate kinase(Uniprot ID: A0A6P4ZPW9)として、配列番号7で示されるリン酸化酵素は、Methanofervidicoccus abyssi由来のIsopentenyl phosphate kinase(Uniprot ID: A0A401HP04)として、それぞれ公共のデータベースに登録されている。
【0031】
本発明で使用される「リン酸化酵素」は、上記配列を有するものに限定されるものではなく、配列番号3~7のいずれかに記載のアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性あるいは同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有する酵素(タンパク質)も包含する。
【0032】
また、本発明で使用される「リン酸化酵素」には、配列番号3~7のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1個または数個、具体的には、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有する酵素(タンパク質)も含まれる。
【0033】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の遺伝子は、下記アミノ酸配列をコードする。
c)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は
d)配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ、脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。
【0034】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の遺伝子には、配列番号3~7のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ脂肪族ジオール1-リン酸の2リン酸化を触媒する酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む遺伝子も本発明のリン酸化酵素の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件は、前述のとおりである。
【0035】
本発明で使用される酵素は、当該分野で周知の方法にしたがい、樹脂や適当な担体に固定化されたり(固定化酵素)、高分子やマイクロカプセルに包括(包埋)されていてもよい。また、酵素は半透膜などで原料と隔離した状態で使用されてもよい。以下の方法においても同様である。
【0036】
3.ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法
本発明は、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素の存在下に、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸とを反応させてポリエーテルジオール1-リン酸を製造する方法も提供する。
【0037】
脂肪族ジオール1-リン酸としては、上記1で得られたポリエーテルジオール1-リン酸を用いることができる。また、脂肪族ジオール 2-リン酸としては、上記2でそれぞれ得られたポリエーテルジオール2-リン酸を用いることができる。
【0038】
本発明で使用する「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」は、脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有し、これにより、脂肪族ジオール1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸からポリエーテルジオール1-リン酸を製造することができる。
【0039】
本発明で使用される「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」は、脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、ヘプタプレニルグリセリルフォスフェートシンターゼ、ゲラニルゲラニルグリセリルフォスフェートシンターゼが挙げられる。
【0040】
「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」の由来は特に限定されず、例えば、古細菌由来のもの、真正細菌等バクテリア由来、真核生物由来のものが挙げられる。
【0041】
具体的には、「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」としては、Aeropyrum属、Thermococcus属、Archaeoglobus属、Bacteroidetes属、Chitinophaga属、Zunongwangia属、Spirosoma属、Methanothermobacter属、Flavobacterium属、Bacillus属、Octadecabacter属、Pustulibacterium属、Crocinitomicaceae科由来のものを使用することができる。
【0042】
本発明で使用される「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」の具体例としては、例えば、配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む酵素(タンパク質)を挙げることができる。
【0043】
上記配列番号8で示される3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素は、Bacillus subtilis由来のHeptaprenylglyceryl phosphate synthase(Uniprot ID: O34790)として、配列番号9で示されるリン酸化酵素は、Flavobacterium johnsoniae由来のGeranylgeranylglyceryl phosphate synthase(Uniprot ID: A5FJK8)として、配列番号10で示されるリン酸化酵素は、Hugenholtzia roseola由来のgeranylgeranylglyceryl/heptaprenylglyceryl phosphate synthase(Uniprot ID: UPI0004282B8E)として、配列番号11で示されるリン酸化酵素は、Crocinitomicaceae bacterium由来のGeranylgeranylglyceryl phosphate synthase(Uniprot ID: A0A2E4SBV2)として、配列番号12で示されるリン酸化酵素は、Pustulibacterium marinum由来のGeranylgeranylglyceryl phosphate synthase(Uniprot ID: A0A1I7EWQ1)として、それぞれ公共のデータベースに登録されている。
【0044】
本発明で使用される「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素」は、上記配列を有するものに限定されるものではなく、配列番号8~12のいずれかに記載のアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性あるいは同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有する酵素(タンパク質)も包含する。
【0045】
また、本発明で使用される「リン酸化酵素」には、配列番号8~12のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1個または数個、具体的には、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活を有する酵素(タンパク質)も含まれる。
【0046】
本発明で使用される「リン酸化酵素」の遺伝子は、下記アミノ酸配列をコードする。
e)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列、又は
f)配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の配列同一性を有し、かつ、脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。
【0047】
本発明で使用される「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素活性」の遺伝子には、配列番号8~12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ脂肪族ジオール 1-リン酸と脂肪族ジオール 2-リン酸をエーテル縮合する触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む遺伝子も本発明の「3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素活性」の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件は、前述のとおりである。
【0048】
4.ポリエーテルジオール 2-リン酸の製造方法
本発明は、上記3の方法で得たポリエーテルジオール1-リン酸をリン酸化酵素の存在下でリン酸化する工程を含む、ポリエーテルジオール 2-リン酸の製造方法も提供する。
【0049】
5.ポリエーテルジオール 1-リン酸の製造方法
本発明は、上記4の方法で得たポリエーテルジオール 2-リン酸と、脂肪族ジオール 1-リン酸とを、3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素の存在下で反応させる工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法も提供する。
【0050】
6.ポリエーテルジオールの製造方法
本発明は、上記3の方法で得たポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化する工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法を提供する。本発明はまた、上記5の方法で得たポリエーテルジオール1-リン酸を脱リン酸化する工程を含む、ポリエーテルジオールの製造方法も提供する。
【0051】
ポリエーテルジオール1-リン酸の「脱リン酸」は、当該分野で周知の方法を用いて実施することができる。
【0052】
7.微生物触媒
本発明は、上記1.に記載したリン酸化酵素(第1のリン酸化酵素)の少なくとも一種、上記2.に記載されるリン酸化酵素(第2のリン酸化酵素)の少なくとも一種、及び上記3.に記載した3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール1-リン酸合成酵素の少なくとも一種をそれぞれコードする遺伝子を含む、微生物(微生物触媒)も提供する。
【0053】
上記微生物は、非組換え微生物であっても、組換え微生物であってもよい。すなわち、各酵素をコードする遺伝子は当該微生物の内因性の遺伝子であっても、外来性の遺伝子であってもよいし、一部が内因性で一部が外因性の遺伝子であってもよい。
【0054】
組換え微生物(形質転換体)は、各酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いて宿主微生物を形質転換することにより得られる。発現ベクターには、各酵素をコードする遺伝子をそれぞれ単独で含むものであってもよいし、2以上の酵素をコードする遺伝子を含むものであってもよい。
【0055】
発現ベクターは、公知の手法により作製することができる。一般的には、所定の酵素をコードする遺伝子の上流に転写プロモーター、場合によっては下流にターミネーターを挿入して発現カセットを構築し、このカセットを発現ベクターに挿入すればよい。あるいは、発現ベクターに転写プロモーターおよび/またはターミネーターがすでに存在する場合には、発現カセットを構築することなく、そのベクターの転写プロモーターおよび/またはターミネーターを利用して、その間に所定の酵素をコードする遺伝子を挿入すればよい。上述したように、1つの発現ベクターに2つ以上の酵素をコードする遺伝子を含める場合、それらの遺伝子は全て同一のプロモーター下に挿入されていてもよいし、異なるプロモーター下に挿入されていてもよい。プロモーターの種類は宿主において適切な発現を可能にするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌宿主において利用できるのものとしては、T7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、ラムダファージ由来PLプロモーター及びPRプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。
【0056】
所定の各酵素をコードする遺伝子は、例えば、(i)塩基配列情報に従い、プライマーを作製し、ゲノム等を鋳型として増幅することによって得ることもできるし、(ii)酵素のアミノ酸配列情報に従い、有機合成的にDNAを合成することによって得ることもできる。形質転換体の宿主となる細胞に応じて、遺伝子は最適化されていてもよい。
【0057】
発現ベクターに所定の酵素をコードする遺伝子を挿入するには、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法等を利用することができる。挿入の際に必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列などのリボソーム結合配列が知られており、これらの配列を遺伝子の上流に挿入してもよい。挿入にともない、遺伝子がコードするアミノ酸配列の一部を置換してもよい。また、ベクターには目的とする形質転換体を選別するための因子(選択マーカー)が含めることが好ましい。選択マーカーとしては、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子、資化性付与遺伝子などが挙げられ、目的や宿主に応じて選択されうる。大腸菌で選択マーカーとして用いられる薬剤耐性遺伝子としては、例えばアンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子が挙げられる。
【0058】
発現ベクターは、宿主に応じて、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、人工染色体DNAなどから選ばれる適切なものを用いればよい。例えば、大腸菌を宿主とする場合には、pTrc99A(GEヘルスケア バイオサイエンス)、pACYC184(ニッポンジーン)、pMW118(ニッポンジーン)、pETシリーズベクター(Novagen)などを挙げることができる。また2以上の挿入箇所を有するベクターとしてはpETDuet-1(Novagen)等を挙げることができる。必要に応じて、これらのベクターを改変したものを用いることもできる。
【0059】
発現ベクターは、所定の酵素をコードする遺伝子に、適切なプロモーターやターミネーター、マーカー遺伝子等を連結させた発現カセットを宿主のゲノム上に挿入することで、所定の酵素の発現を強化することができる。発現カセットがゲノム上に挿入された形質転換体を取得する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、相同組換えにより発現カセットをゲノム上に挿入する場合は、所定の酵素の発現カセットと任意のゲノム領域の配列を有し、宿主内で複製不可能なプラスミドを用いて形質転換を行うことで、当該プラスミド全体または発現カセットが挿入された形質転換体を得ることができる。その際、SacB遺伝子(レバンスクラーゼをコード)等のネガティブ選択マーカーを搭載したプラスミドや、複製機構が温度感受性(ts)のプラスミドを用いることで、2回の相同組換えにより発現カセットのみがゲノム上にされた形質転換体を効率的に取得することもできる。また、発現カセットのみから成るDNA断片を用いて形質転換を行うことで、ゲノム上のランダムな位置に発現カセットが挿入された形質転換体を得ることもできる。
【0060】
宿主がゲノム上に元々有する酵素(内因性酵素)を利用する場合は、ゲノム上の当該酵素遺伝子のプロモーターを強力なものに置換することで、その発現を強化することもできる。プロモーターとしては、上述した発現ベクターにおいて用いるプロモーターを同様に利用することができる。
【0061】
宿主となる微生物は、発現ベクター等を利用したタンパク質発現システムによって所定の酵素を発現することができる細胞であれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、放線菌(例えばロドコッカス属(Rhodococcus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium))などの細菌;酵母(例えばサッカロマイセス属(Saccharomyces)、キャンディダ属(Candida)、ピキア属(Pichia));糸状菌;植物細胞;昆虫細胞、哺乳類細胞などの動物細胞が挙げられる。これらの中でも、大腸菌、コリネバクテリウム属細菌およびロドコッカス属細菌、ならびにサッカロマイセス属酵母、キャンディダ属酵母およびピキア属酵母が好ましく、大腸菌がより好ましい。
【0062】
大腸菌としては、例えば、大腸菌K12株およびB株、ならびにそれらの野生株由来の派生株であるW3110株、JM109株、XL1-Blue株(例えば、XL1-BlueMRF')、K802株、C600株、BL21株、BL21(DE3)株、BN8株等が挙げられる。
【0063】
宿主への発現ベクターの導入方法は、宿主に適した方法であれば特に限定されるものではない。利用可能な方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、カルシウムイオンを用いる方法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法が挙げられる。
【0064】
発現ベクターが導入された形質転換体は、宿主として用いた細胞(菌体)に適した方法で培養して、各酵素を発現させればよい。
【0065】
8.微生物を利用したポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法
本発明は、脂肪族ジオールの存在下で7.に記載の微生物を培養して、ポリエーテルジオール1-リン酸を製造する工程を含む、ポリエーテルジオール1-リン酸の製造方法も提供する。
【0066】
微生物は、当該微生物から調製した休止菌体、膜透過性向上菌体、不活化菌体、破砕菌体、破砕菌体から調製した無細胞抽出物およびこれらに対して安定化処理を行った安定化処理物として使用してもよい。
【0067】
ポリエーテルジオール1-リン酸は、上記形質転換体を脂肪族ジオールを含む培養液中で培養し、得られる培養物からポリエーテルジオール1-リン酸を採取することにより製造することができる。
【0068】
本発明において、「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも包含する。
【0069】
微生物の培養は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行う。使用する培地は、宿主菌が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース及びデンプン等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、エタノール及びプロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸、若しくは有機酸のアンモニウム塩、又はその他の含窒素化合物が挙げられる。
【0070】
その他、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、必要に応じ、培養中の発泡を防ぐために消泡剤を添加してもよい。さらに、培地には酵素発現の誘導剤となる化合物を添加してもよい。
【0071】
微生物の培養条件は、ポリエーテルジオール1-リン酸の生産性及び宿主の生育が妨げられない条件であれば特に限定されるものではないが、通常、10℃~40℃、好ましくは20℃~37℃で5~100時間行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行い、例えば大腸菌であればpH4~9に調整する。
【0072】
培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養などが挙げられるが、特にロドコッカス菌の形質転換体を培養する場合には、振盪培養又は通気攪拌培養(ジャーファーメンター)により好気的条件下で培養することが好ましい。
【0073】
得られたポリエーテルジオール1-リン酸は、既に述べた方法で脱リン酸化することにより、ポリエーテルジオールを製造することができる。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[作成例1] 3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素及び脂肪族ジオールの1リン酸化酵素及び脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素発現大腸菌の作成
(1)大腸菌用脂肪族ジオールの1リン酸化酵素発現用プラスミドの作成
Staphylococcus aureus由来Mevalonate kinase(UniprotID:Q2G0I8)、およびEscherichia coli O127:H6由来Glycerol kinase(UniprotID:B7UNP6)(以下、各々J288VGA140-6、J288VGA140-4と称する)の遺伝子配列情報をNational Center for Biotechnology Information(NCBI)から得て、遺伝子合成により無細胞翻訳系PUREfrex2.0(ジーンフロンティア)のコドン頻度に最適化した。コドン最適化したJ288-VGA140-4、J288VGA140-6の遺伝子断片を、大腸菌発現ベクターpET-22b(+)(Novagen社)のNdeI-XhoI部位に挿入したプラスミドを作製した。ベクターに挿入したJ288-VGA140-6、J288VGA140-4に対応する配列をそれぞれ、配列番号13及び14に示す。導入方法は、消化産物 4μl、切断したpETDuet-1 1μl、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)5μlを加えて混合した後、16℃で1時間、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応液10μlを大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)100μlと混合し、氷上で30分間静置した。42℃で45秒間インキュベートした後、再び氷上で5分間静置した。SOC培地を500μl加え、37℃で1時間、200rpmで振とう培養を行った後、100μg/ml アンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0076】
37℃で一晩培養を行った後、生育したコロニーをLB液体培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃で24時間、200rpmで振とう培養を行った。培養液を遠心して菌体を回収し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を用い、添付プロトコールに従ってプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドを鋳型として再度PCRを行い、バンドの位置を確認した。得られたプラスミドDNAを、それぞれ、PTMG11/pPETDuet-1(J288-VGA140-4)、PTMG21/pPETDuet-1(J288-VGA140-6)と命名した。
【0077】
(2)大腸菌用脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素発現用プラスミドの作成
Panicum miliaceum由来Isopentenyl phosphate kinase(UniprotID:A0A3L6SU37)(以下、A0A3L6SU37と称する)の遺伝子断片は、以下に示したprimerでPCR増幅させることで、5'末端に制限酵素NdeIサイト、および3’末端に制限酵素XhoIサイトを付加した。PCRはPrimeSTAR MAX Premix(タカラバイオ社)のプロトコールに従って行った。
【0078】
A0A3L6SU37増幅用プライマー:
NdeI-6His.F aaaaaaCATATGCATCATCACCATCACC(配列番号19)
U37-XhoI.R aaaaaaCTCGAGTTACTTACTACTACGGATAATCGTACCCA(配列番号20)
PCR反応液組成:
鋳型DNA 2μl、2×PrimeSTAR Max Premix 25μl、10μM各々プライマー 2μl、滅菌水19μl(これらを混合して全量50μlとした。)
反応温度条件:
TaKaRa PCR Thermal Cylcer Dice Touch(型式TP350)を用い、98℃で10秒、58℃で5秒、72℃で10秒、空なるサイクルを30回繰り返した。ただし、1サイクル目の98℃での保温は30秒とした。
【0079】
PCRの増幅産物の確認は、1%アガロース(アガロースS:ニッポンジーン株式会社)ゲル電気泳動により分離後、GelRed(NEW ENGLAND BioLabs社、移行NEB社と子称)染色により可視化することにより行い、A0A3L6SU37由来の約1.1kbの断片が検出された。得られた各PCR増幅断片は、QIAquick PCR purification Kit(キアゲン社)のプロトコールに従い精製した。精製したPCR飯能駅はNEB社の制限酵素を用いた。PCR生成物10μlにCutsmartバッファー(キット添付)4μl、NdeI 1μl、XhoI1μl、滅菌水4μlを加えた。37℃で30分間処理した後、QIAquick PCR purification Kit(キアゲン社)で精製した。
【0080】
精製した消化産物は、同様にNdeI-XhoIサイトを切断したpETDuet-1に導入した。ベクターに挿入したA0A3L6SU37に対応する配列をそれぞれ、配列番号15に示す。導入方法は、PCR消化産物 4μl、切断したpETDuet-1 1μl、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)5μlを加えて混合した後、16℃で1時間、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応液10μlを大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)100μlと混合し、氷上で30分間静置した。42℃で45秒間インキュベートした後、再び氷上で5分間静置した。SOC培地を500μl加え、37℃で1時間、200rpmで振とう培養を行った後、100μg/ml アンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0081】
37℃で一晩培養を行った後、生育したコロニーをLB液体培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃で24時間、200rpmで振とう培養を行った。培養液を遠心して菌体を回収し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を用い、添付プロトコールに従ってプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドを鋳型として再度PCRを行い、バンドの位置を確認した。得られたプラスミドDNAを、PTMG31/pPETDuet-1(A0A3L6SU37)と命名した。
【0082】
(3)大腸菌用3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素発現用プラスミドの作成
Hugenholtzia roseola由来geranylgeranylglyceryl/heptaprenylglyceryl phosphate synthase(UniprotID:UPI0004282B8E)およびCrocinitomicaceae bacterium由来Geranylgeranylglyceryl phosphate synthase(UniprotID:A0A2E4SBV2)およびPustulibacterium marinum由来Geranylgeranylglyceryl phosphate synthase(UniprotID:A0A1I7EWQ1)(以下、各々UPI0004282B8E、A0A2E4SBV2、A0A1I7EWQ1と称する)の各遺伝子断片は、以下に示したprimerでPCR増幅させることで、5’末端に制限酵素NdeIサイトおよび3’末端に制限酵素XhoIサイトを付加した。PCRはPrimeSTAR MAX Premix(タカラバイオ社)のプロトコールに従って行った。
【0083】
UPI0004282B8E増幅用プライマー:
NdeI-6His.F aaaaaaCATATGCATCATCACCATCACC(配列番号19)
B8E-XhoI.R aaaaaaCTCGAGTTACGGAGTCTGAGGGAAGG(配列番号21)
A0A2E4SBV2増幅用プライマー:
NdeI-6His.F aaaaaaCATATGCATCATCACCATCACC(配列番号19)
BV2-XhoI.R aaaaaaCTCGAGTTAAGAGGCCAGGGTGCC(配列番号22)
A0A1I7EWQ1増幅用プライマー:
NdeI-6His.F aaaaaaCATATGCATCATCACCATCACC(配列番号19)
WQ1-XhoI.R aaaaaaCTCGAGTTAAATATTTTTCAGTTCGTTATAAAAGTC(配列番号23)
PCR反応液組成:
鋳型DNA 2μl、2×PrimeSTAR Max Premix 25μl、10μM各々プライマー 2μl、滅菌水19μl(これらを混合して全量50μlとした。)
反応温度条件:
TaKaRa PCR Thermal Cylcer Dice Touch(型式TP350)を用い、98℃で10秒、58℃で5秒、72℃で10秒、空なるサイクルを30回繰り返した。ただし、1サイクル目の98℃での保温は30秒とした。
【0084】
PCRの増幅産物の確認は、1%アガロース(アガロースS:ニッポンジーン株式会社)ゲル電気泳動により分離後、GelRed(NEW ENGLAND BioLabs社、移行NEB社と呼称)染色により可視化することにより行い、UPI0004282B8Eは約0.9kb、A0A2E4SBV2およびA0A1I7EWQ1は約0.8kbの断片が検出された。得られた各PCR増幅断片は、QIAquick PCR purification Kit(キアゲン社)のプロトコールに従い精製した。精製したPCR反応液はNEB社の制限酵素を用いた。PCR生成物10μlにCutsmartバッファー(キット添付)4μl、NdeI 1μl、XhoI 1μl、滅菌水4μlを加えた。37℃で30分間処理した後、QIAquick PCR purification Kit(キアゲン社)で精製した。
【0085】
精製した消化産物は、同様にNdeI-XhoIサイトを切断したpETDuet-1に導入した。ベクターに挿入したUPI0004282B8E、A0A2E4SBV2、A0A1I7EWQ1に対応する配列をそれぞれ、配列番号16-18に示す。導入方法は、PCR消化産物 4μl、切断したpETDuet-1 1μl、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)5μlを加えて混合した後、16℃で1時間、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応液10μlを大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)100μlと混合し、氷上で30分間静置した。42℃で45秒間インキュベートした後、再び氷上で5分間静置した。SOC培地を500μl加え、37℃で1時間、200rpmで振とう培養を行った後、100μg/ml アンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0086】
37℃で一晩培養を行った後、生育したコロニーをLB液体培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃で24時間、200rpmで振とう培養を行った。培養液を遠心して菌体を回収し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を用い、添付プロトコールに従ってプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドを鋳型として再度PCRを行い、バンドの位置を確認した。得られたプラスミドDNAを、それぞれ、PTMG41/pPETDuet-1(UPI0004282B8E)、PTMG42/pPETDuet-1(A0A2E4SBV2)、PTMG43/pPETDuet-1(A0A1I7EWQ1)と命名した。
【0087】
(4)3-(o-ゲラニルゲラニル)-グリセロール 1-リン酸合成酵素及び脂肪族ジオールの1リン酸化酵素及び脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素発現大腸菌の作成
上記で得られたPTMG11/pPETDuet-1(J288-VGA140-4)、PTMG21/pPETDuet-1(J288-VGA140-6)、PTMG31/pPETDuet-1(A0A3L6SU37)、PTMG41/pPETDuet-1(UPI0004282B8E)、PTMG42/pPETDuet-1(A0A2E4SBV2)、PTMG43/pPETDuet-1(A0A1I7EWQ1)各プラスミド溶液1μlを大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(バイオダイナミクス研究所)100μlに添加し、氷上で10分間静置した。42℃で45秒間ヒートショックを行い、再び氷上で5分間静置した。室温にしたSOC培地500μlを添加し、37℃で1時間、200rpmで振とう培養を行った。振とう後の培養液500μlをLB寒天培地(100μg/mlアンピシリン含有)に塗抹した。以上により取得した2種類の脂肪族ジオールの1リン酸化酵素発現株PTMG11株(J288-VGA140-4発現株)およびPTMG21株(J288-VGA140-6発現株)、脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素発現株PTMG31株(A0A3L6SU37発現株)、3種のエーテル結合酵素発現株PTMG41株(UPI0004282B8E発現株)、PTMG42株(A0A2E4SBV2発現株)、PTMG43株(A0A1I7EWQ1発現株)と命名した。37℃、24時間で生育したコロニーをLB液体培地(アンピシリン100μg/ml含有)で培養し、精製及び活性確認試験を行うまで20%グリセロール溶液で-80℃で保存した。また比較対象としてpPETDuet-1 empty vectorを導入したBL21(DE3)株も同様に作成した。
【実施例0088】
(前培養工程)
2種の脂肪族ジオールの1リン酸化酵素発現株PTMG11株(J288-VGA140-4発現株)およびPTMG21株(J288-VGA140-6発現株)、脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素発現株PTMG31株(A0A3L6SU37発現株)、3種のエーテル結合酵素発現株PTMG41株(UPI0004282B8E発現株)、PTMG42株(A0A2E4SBV2発現株)、PTMG43株(A0A1I7EWQ1発現株)をそれぞれ前培養培地[LB Broth(Sigma-Aldrich社、NaCl 10g/l、Trypton 10g/l、Yeast Extract 5g/l)、100mg/ml Ampicillin 4μlを全量4mlになるよう超純水に溶解させ滅菌したもの]4mlに植菌し、培養温度37度、200rpmで24時間振盪培養した(TAITEC社、BR-23FP)。
【0089】
(本培養工程)
上記で得られた前培養液4mlを、本培養培地[LB Broth(Sigma-Aldrich社、NaCl 10g/l、Trypton 10g/l、Yeast Extract 5g/l)、100mg/ml Ampicillin 200μlを全量200mlになるよう超純水に溶解させ滅菌したもの]200ml(500ml三角フラスコ)に植菌し培養温度37℃、200rpmでO.D.600が0.4になるまで振盪培養した((高崎科学器械株式会社、TB-16R-3)。その後、イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド(以下、IPTGと呼称)(富士フイルム和光純薬株式会社)を0.3mMとなるように添加した。添加後は、17℃、200rpmで24時間振盪培養し、目的タンパクの発現を誘導させた。
【0090】
(破砕工程)
上記で得られた培養液は、遠心分離処理5000rpm、4℃、15分(eppendorf社、Centrifuge 5804R)で菌体を回収した。菌体は、20mMリン酸ナトリウムバッファー5ml(pH7.4)(以降PBS液)に再懸濁した。懸濁液は、氷上で冷却しながら、BRONSON Digital Sonifierを用いて超音波破砕(amplitude15%、5sec-on/5ec-off、5min)を3回行った。超音波破砕によって得られた懸濁液を遠心分離処理5000rpm、4℃、15分行い、上清5mlを回収した。回収した上清は、後述する方法で活性を確認後、精製工程に供した。
【0091】
(精製工程)
回収した上清は、シリンジフィルター DISMIC 0.2μm(ADVANTEC社)を用いてフィルター濾過し、濾過された菌体破砕液を回収した。回収したろ過液は、HisTrap HP volume 1ml(Cytiva社)に供し、精製した。精製工程はCyitivaが推奨するプロトコールに従って行った。
【0092】
具体的には、滅菌水でカラムを洗浄後、20mM imidazole(東京化成工業株式会社)を含んだPBS液を用いて10mlで平衡化した。その後、フィルターろ過した上清5mlを平衡化したカラムにトラップさせた。次に20mM imidazole含有PBSでカラムを洗浄後、0.5M NaCl含有PBS駅に50mM、100mM、200mM、500mM imidazoleを素れぞれ溶解させた溶出液(以降、溶出液と呼称)を用いて、10mlでアイソクラティック溶出させた。His-Tag精製した発現タンパクは、Nano-Drop(登録商標)Spectrophotometer(ND-1000)で濃度を確認後SDS-PAGEに供した。バンドが確認された精製物は、Amicon(登録商標)Ultra-15 Ultracel-10K(メルク社)で脱塩、濃縮した。
【0093】
(1リン酸化酵素活性測定)
1リン酸化酵素活性は、1,4-ブタンジオールから1リン酸化の反応において生成するADP (アデノシン5'-二りん酸二ナトリウム三水和物)を用いてピルビン酸キナーゼによりホスホエノールピルビン酸からピルビン酸へと変換させ、生じたピルビン酸をL-乳酸デヒドロゲナーゼにより、乳酸へと変換する過程で反応系に添加したNADHが消費されることをNADHの減少量を波長340nmの吸光度でマイクロプレートリーダーにより、経時的に約5~10分間追うことで、測定を行った。その際の反応液は、下記の通りである。
【0094】
10mM β-NADH(折エント酵母工業株式会社)3μl、10mM Dithiothreitol(富士フイルム和光株式会社)3μl、1M MgCl2(富士フイルム和光株式会社)3μl、5mM ホスホエノールピルビン酸(Sigma-Aldrich社)3μl、5000U/ml L-乳酸デヒドロゲナーゼ ウサギ筋肉由来 Type II(Sigma-Aldrich社) 1μl、1000/mlピルビン酸キナーゼ ウサギ筋肉由来(Sigma-Aldrich社) 6μl、1M Tris-HCl(pH 7.5)30μl、25mM ATP (アデノシン5'-三りん酸二ナトリウム三水和物)(富士フイルム和光株式会社)3μl、250mM 1,4-ブタンジオール(東京家政工業株式会社)3μl、上清300μgを全量300μlになるよう調製した。
【0095】
(解析結果)
解析の結果、PTMG11株、およびPTMG21株のいずれの破砕液上清においても、酵素添加直後から吸光度340nmの減少を確認した。一方、比較対象のempty vectorを導入したBL21(DE3)は砕液上清および滅菌水では吸光度の減少は確認できなかった。以上より、PTMG11及びPTMG21は、1,4-ブタンジオールを1リン酸化する活性を有することを確認した。
【0096】
(ポリエーテル合成反応)
10mM β-NADH(オリエント酵母工業株式会社)3μl、10mM Dithiothreitol(富士フイルム和光株式会社)3μl、1M MgCl2 (富士フイルム和光株式会社)1M Tris-HCl (pH 7.5)30μl、25mM ATP (アデノシン5'-三りん酸二ナトリウム三水和物)(富士フイルム和光株式会社)3μl、500mM 1,4-ブタンジオール(東京化成工業株式会社)30μl、J288-VGA140-4、A0A3L6SU37、UPI0004282B8Eの精製タンパク各300μgを全量300μlになるよう調製した。反応は、30℃、4時間行った。
【0097】
(解析方法)
生成物の解析は、Agilent Technologies 6460 Triple Quad LC/MSを用いて行なった。カラムはagilent proshell 120 HILIC-Z 2.7μm 2.1×150mm(Agilent社)を使
用した。溶出方法は以下に示した。具体的には溶出には0.01%ギ酸を含む超純水(SolventA)と0.01%ギ酸を含むCH3CN(SolventB)を用いた。濃度勾配は、SolventAの混合比を10%(10分)、20%(10.1分から15分)、30%(15.1分から20分)、50%(20.1分から25分)、80%(25.1分から30分)のイソクラティック溶出で行った(流速0.2 ml/min、カラム温度40℃)。1,4‐ブタンジオール(表品)、1リン酸化体(反応物)、2リン酸化体(反応物)、リン酸化PTMG(反応物)はWaters SQ Detector 2により該当の質量電荷比(m/z)にて検出した。
【0098】
【表1】
【0099】
(反応物解析)
1リン酸化物:
1リン酸化反応後に約1.5分に1,4-ブタンジオール-1リン酸化物の分子イオンピーク([M+H]+=171)を検出したことから1リン酸化物の生成を確認した(図1)。
2リン酸化物
2リン酸化反応後に約2.1分に1,4-ブタンジオール-2リン酸化物の分子イオンピーク([M-H]-=249)を検出したことから2リン酸化物の生成を確認した(図2)。
エーテル結合物
エーテル結合反応後に約3.3分にPTMG2量体-1リン酸化物の分子イオンピーク([M+H]+=243)を検出したことから1,4-ブタンジオール重合の進行を確認した(図3)。
【0100】
以上のことから、1,4-ブタンジオールから脂肪族ジオールの1リン酸化酵素、脂肪族ジオール 1-リン酸の2リン酸化酵素及びエーテル結合酵素の作用によりPTMG2量体の変換を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、温和な条件下でポリエーテルジオールを重合でき、環境負荷の低減されたポリエーテルジオールの製造方法が提供される。
【0102】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【0103】
【化1】
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号13:ベクターに挿入された配列(J288-VGA140-6)
配列番号14:ベクターに挿入された配列(J288VGA140-4)
配列番号15:ベクターに挿入された配列(A0A3L6SU37)
配列番号16:ベクターに挿入された配列(UPI0004282B8E)
配列番号17:ベクターに挿入された配列(A0A2E4SBV2)
配列番号18:ベクターに挿入された配列(A0A1I7EWQ1)
配列番号19:プライマー(NdeI-6His.F)
配列番号20:プライマー(U37-XhoI.R)
配列番号21:プライマー(B8E-XhoI.R)
配列番号22:プライマー(BV2-XhoI.R)
配列番号23:プライマー(WQ1-XhoI.R)
図1
図2
図3
【配列表】
2023147514000001.app