(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147520
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】環状亜硫酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 327/10 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C07D327/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055066
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 葉裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 善幸
(57)【要約】
【課題】反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と沸点が近似した特定の有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる、環状亜硫酸エステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比で反応させる、一般式(2)で表される化合物を製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比で反応させる、一般式(2)で表される化合物を製造する方法。
【化1】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【化2】
(式中、R
1及びR
2は前記に同じ。)
【請求項2】
前記反応が、前記ハロゲン化チオニルが存在する反応系に、前記一般式(1)で表される化合物を連続的又は間欠的に導入してなり、前記一般式(1)で表される化合物の導入時の反応温度を0℃以下とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する反応系に、前記ハロゲン化チオニルを反応系に連続的又は間欠的に導入してなり、前記ハロゲン化チオニルの導入時の反応温度を0℃以下とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応が、前記ハロゲン化チオニルと前記一般式(1)で表される化合物とを、それぞれ同時に反応系に導入してなり、前記ハロゲン化チオニル及び前記一般式(1)で表される化合物の導入時の反応温度を0℃以下とする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状亜硫酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状亜硫酸エステルは、非水電解液の添加物として用いられている。非水電解液は、優れた電池特性を高い安定性で示すリチウム二次電池に供するため、一般的に、有機塩素化合物含有量を低減することを求められる。よって環状亜硫酸エステルにおいても、有機塩素化合物を含んでいると非水電解液の添加物として避けられる。
【0003】
特許文献1には、ジオール化合物とハロゲン化チオニルとを反応させ、環状亜硫酸エステルとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2011/016440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従前知られた環状亜硫酸エステルの製造方法では、原料比率を制御しておらず、環状亜硫酸エステルの反応収率が満足いくものではなく、且つ、副生物として、環状亜硫酸エステルとは沸点が近似した有機塩素化合物が多く生成されるものであり、結果として、製造された環状亜硫酸エステルを非水電解液の添加物とするためには、該有機塩素化合物を除去するために生産性の低下した蒸留等による精製を必要としていた。すなわち、該有機塩素化合物を含む環状亜硫酸エステルを蒸留により精製するためには、有機塩素化合物を多量の環状亜硫酸エステルと共に除去しなければならず、歩留まり悪化の原因となっていた。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる、環状亜硫酸エステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、環状亜硫酸エステルの製造おいて、ジオール化合物とハロゲン化チオニルとを特定のモル比率で反応させることにより、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と沸点が近似した特定の有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となることを見いだし、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下である。
[1]一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比で反応させる、一般式(2)で表される化合物を製造する方法。
【0009】
【0010】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【0011】
【0012】
(式中、R1及びR2は前記に同じ。)
[2]前記反応が、前記ハロゲン化チオニルが存在する反応系に、前記一般式(1)で表される化合物を連続的又は間欠的に導入してなり、前記一般式(1)で表される化合物の導入時の反応温度を0℃以下とする、[1]に記載の製造方法。
[3]前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する反応系に、前記ハロゲン化チオニルを反応系に連続的又は間欠的に導入してなり、前記ハロゲン化チオニルの導入時の反応温度を0℃以下とする、[1]に記載の製造方法。
[4]前記反応が、前記ハロゲン化チオニルと前記一般式(1)で表される化合物とを、それぞれ同時に反応系に導入してなり、前記ハロゲン化チオニル及び前記一般式(1)で表される化合物の導入時の反応温度を0℃以下とする、[1]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環状亜硫酸エステルの製造において、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と沸点が近似した特定の有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ジオール化合物A]
本発明は下記一般式(1)で表される化合物(以下「ジオール化合物A」と称する場合がある。)とハロゲン化チオニルとを特定のモル比で反応させ、下記一般式(2)で表される化合物(以下「環状亜硫酸エステルA」と称する場合がある。)を製造する方法の発明である。
【0015】
【0016】
(式中、R1及びR2はそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
該炭素数1から4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基及びn-ブチル基からなる群より選ばれた少なくともの一つの基が好ましく、エチル基及び/又はビニル基がより好ましく、ビニル基がさらに好ましい。又、R1及びR2の片方が水素であることが好ましい。R1及びR2を前記した好ましい基とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0017】
【0018】
(式中、R1及びR2は前記に同じ。)
【0019】
[ハロゲン化チオニル]
ハロゲン化チオニルとしては、フッ化チオニル、塩化チオニル、臭化チオニルが挙げられるが、副生するハロゲン化水素の取り扱いの容易さから、塩化チオニルが好ましい。
【0020】
ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとの反応における特定のモル比とは、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比とすることであり、モル比の下限は1:0.85が好ましく、1:0.9がより好ましい。モル比の上限は1:1.5が好ましく、1:1.2がより好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0021】
環状亜硫酸エステルAは、前記ハロゲン化チオニルが存在する反応系に、前記ジオール化合物Aを導入して反応させて製造しても、前記ジオール化合物Aが存在する反応系に、前記ハロゲン化チオニルを導入して反応させて製造しても構わない。さらに、前記のハロゲン化チオニルとジオール化合物Aとを、それぞれを同時に反応系に導入して製造してもよい。
【0022】
前記ハロゲン化チオニルが存在する反応系に、前記ジオール化合物Aを導入して反応させる場合には、前記ジオール化合物A導入時の反応温度は0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。該反応温度の下限は特に制限はないが、-50℃が好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。尚、前記ジオール化合物Aの反応系への導入の形態は連続的でも間欠的でも構わない。
【0023】
前記ジオール化合物Aが存在する反応系に、前記ハロゲン化チオニルを導入して反応させる場合も同様であり、前記ハロゲン化チオニル導入時の反応温度は0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。該反応温度の下限は特に制限はないが、-50℃が好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。尚、前記ハロゲン化チオニルの反応系への導入の形態は連続的でも間欠的でも構わない。
【0024】
前記ハロゲン化チオニル、前記ジオール化合物Aそれぞれを同時に反応系に導入する場合も、ハロゲン化チオニルが導入された時点で、ジオール化合物Aは反応系に存在し、ジオール化合物Aが導入された時点で、ハロゲン化チオニルは反応系に存在する。よって、前記ハロゲン化チオニル、前記ジオール化合物Aそれぞれの反応系への導入時の反応温度は、前記した温度範囲とすることが好ましい。
【0025】
反応系にはさらに、反応で副生するハロゲン化水素を吸収する化合物(以下「吸収化合物」と称する場合がある。)を導入してもよい。導入量としては、特に制限はないが、目的生成物の精製の観点から、ジオール化合物A量に対して、0.01モル%以下が好ましい。吸収化合物の種類としては、ジメチルフォルムアミド(以下「DMF」と称する場合がある。)等のN,N-二置換アミド、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン等の含窒素複素環化合物等が挙げられ、DMF、ピリジンが好ましい。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、各反応原料、反応により得られた生成物の分析は、内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより、内部標準物質としてトリデカンを使用し、実施した。生成物中、目的物質であるビニルエチレンサルファイトと沸点が近似した副生物である有機塩素化合物は4-アセトキシ-3-クロロ-1-ブテン(以下「ACL」と称する場合がある。)であった。
【0027】
(実施例1)
100mlのガラス製容器に塩化チオニル15.1g(0.128mol)を導入し、-40℃に冷却し、反応液とした。該反応液の温度を-40℃に保持したまま、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン10.1g(0.115mol)を少量ずつ、該反応液に導入し、反応を行った。次いで、-40℃で4時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を24.0g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は13.7g(0.103mol、反応収率90.0%)であり、ACL重量は0.00368gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.0269重量%副生していた。
【0028】
(実施例2)
500mlのガラス製容器に塩化チオニル74.1g(0.628mol)を導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液を-20℃に保持したまま、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン50.2g(0.570mol)を少量ずつ、該反応液に導入し、反応を行った。次いで、-20℃で3時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を115g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は68.0g(0.511mol、反応収率89.6%)であり、ACL重量は0.0336gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.0494重量%副生していた。
【0029】
(実施例3)
100mlのガラス製容器に塩化チオニル6.42g(0.0544mol)を導入し、-5℃に冷却し、反応液とした。該反応液を-5℃に保持したまま、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン4.23g(0.0481mol)を少量ずつ、該反応液に導入し、反応を行った。次いで、-5℃で2 時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を7.40g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は5.42g(0.0407mol、反応収率84.7%)であり、ACL重量は0.00280gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.0516重量%副生していた。
【0030】
(実施例4)
100mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン9.99g(0.113mol)を導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液を-20℃に保持したまま、塩化チオニル14.9g(0.126mol)を少量ずつ、該反応液に導入し、反応を行った。次いで、-20℃で3時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を28.2g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は13.3g(0.100mol、反応収率88.2%)であり、ACL重量は0.00754gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.0567重量%副生していた。
【0031】
(比較例1)
300mlのガラス製容器に塩化チオニル15.0g(0.127mol)を導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液を-20℃に保持したまま、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン3.66g(0.0415mol)を少量ずつ、該反応液に導入し反応を行った。次いで、-20℃で3時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を80g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は1.38g(0.0258mol、反応収率62.2%)であり、ACL重量は0.00145gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.1051重量%副生していた。
【0032】
(比較例2)
300mlのガラス製容器に塩化チオニル15.0g(0.127mol)を導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液に、DMF0.150g(0.00205mol)と1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン3.86g(0.0438mol)の混合溶液を少量ずつ、該反応液に導入し、反応を行った。次いで、-20℃で3時間攪拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌し、反応を停止した。その後、反応液を氷冷し、7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を56.6g加えて30分撹拌し、反応を停止した。その後、水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は0.745g(0.00559mol、反応収率12.8%)であり、ACL重量は0.00316gであった。製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対してACLが0.4241重量%副生していた。
【0033】
以上より、本発明の製造方法により、環状亜硫酸エステルAを製造すると、反応収率が向上し、該環状亜硫酸エステルAと沸点が近似した有機塩素化合物の副生を抑制できるとこが明らかである。