(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014761
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂に適したマスターバッチ組成物および繊維強化樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
C08J3/22 CEP
C08J3/22 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118906
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA15
4F070AA47
4F070AB03
4F070AB11
4F070AB22
4F070AC72
4F070AD02
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB04
4F070FB06
4F070FC06
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーと主材との相溶性が向上し、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好な繊維強化樹脂を製造可能な方法を提供すること。
【解決手段】(A)セルロースナノファイバー、および(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を含んでなる複合体を、(C)変性ポリオレフィンと混練する工程を含む、マスターバッチ組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体を、
(C)変性ポリオレフィン
と混練する工程を含む、マスターバッチ組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(A)セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、未変性セルロースおよび疎水変性セルロースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(A)セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、未変性セルロースである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレン/ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリメタクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリアクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアリルアミンおよびポリビニルホルマールならびにそれらの変性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂は、水溶性樹脂である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記(C)変性ポリオレフィンは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つにより変性された変性ポリオレフィンである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記マスターバッチ組成物は、組成物の質量を基準に、(A)セルロースナノファイバーを5質量%以上90質量%以下、(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を5質量%以上90質量%以下、(C)変性ポリオレフィンを1質量%以上40質量%以下の量で含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂および(C)変性ポリオレフィンの質量比は、2:1以上8:1以下である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
(A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体、ならびに
(C)変性ポリオレフィン
を含むマスターバッチ組成物を、
(D)熱可塑性樹脂を含む主材
と混練する工程を含む、繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂は未変性のポリオレフィンである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂に適したマスターバッチ組成物および繊維強化樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(CNF)は、パルプ等の植物繊維を化学的、機械的に処理し、ナノサイズまで細かく解きほぐしたものである。その軽さと強度から、繊維強化樹脂のフィラー材としての利用が研究されている。しかし、セルロースナノファイバーは構造中に多数のヒドロキシ基を有しているため、繊維強化樹脂のフィラー材として使用する場合、主材中に含まれる疎水性の高い樹脂との相溶性が課題となることがあった。
【0003】
セルロースナノファイバーと主材との相溶性を高めるための試みとして、例えば特許文献1にはアセチル化等の化学変性を施した変性セルロースナノファイバーを使用した繊維強化樹脂が開示されている。
【0004】
また、特許文献2および3には、あらかじめ未変性のセルロースナノファイバーを樹脂と混合した後、主材と混錬する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/163873号
【特許文献2】国際公開第2013/137449号
【特許文献3】特開2017-141323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、セルロースナノファイバーを変性させるために追加の工程を必要とし、工程が煩雑となり製造コストも増加するという課題があった。また、特許文献2および3に記載の方法では、未変性セルロースナノファイバーを使用していることから追加の工程は必要としないが、主材との相溶性は不十分なことがあり、主材中でセルロースナノファイバーが凝集することがあるため、主材との相溶性をより改善することが求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、セルロースナノファイバーと主材との相溶性が向上し、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好な繊維強化樹脂を製造可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明の製造方法が前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には以下の好適な態様が含まれる。
【0009】
[1](A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体を、
(C)変性ポリオレフィン
と混練する工程を含む、マスターバッチ組成物の製造方法。
[2]前記(A)セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、未変性セルロースおよび疎水変性セルロースからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の方法。
[3]前記(A)セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、未変性セルロースである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレン/ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリメタクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリアクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアリルアミンおよびポリビニルホルマールならびにそれらの変性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂は、水溶性樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記(C)変性ポリオレフィンは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つにより変性された変性ポリオレフィンである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記マスターバッチ組成物は、組成物の質量を基準に、(A)セルロースナノファイバーを5質量%以上90質量%以下、(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を5質量%以上90質量%以下、(C)変性ポリオレフィンを1質量%以上40質量%以下の量で含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂および(C)変性ポリオレフィンの質量比は、2:1以上8:1以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9](A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体、ならびに
(C)変性ポリオレフィン
を含むマスターバッチ組成物を、
(D)熱可塑性樹脂を含む主材
と混練する工程を含む、繊維強化樹脂の製造方法。
[10]前記熱可塑性樹脂は未変性のポリオレフィンである、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロースナノファイバーと主材との相溶性が向上し、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好な繊維強化樹脂を製造可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
本発明は、
(A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体を、
(C)変性ポリオレフィン
と混練する工程を含むマスターバッチ組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は
(A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体、ならびに
(C)変性ポリオレフィン
を含むマスターバッチ組成物を、
(D)熱可塑性樹脂を含む主材
と混練する工程を含む、繊維強化樹脂の製造方法にも関する。
【0014】
本発明の製造方法における「複合体」は、(A)セルロースナノファイバーおよび(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂(以下、単に「樹脂(B)」と称することがある)を必須成分として含む。複合体は前記二成分以外のその他の成分を含んでもよく、その他の成分としては、例えば解繊助剤、難燃剤、無機フィラー、有機フィラーほか、前記成分(A)および成分(B)とは異なる重合体等が挙げられる。複合体は、前記二成分およびその他の成分の混合物であってよく、その混合方法は特に限定されないが、例えば一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、2本ロール混練機等の各種練りこみ混錬装置を用いる方法や、各成分それぞれを液中に分散化したものを容器中でホモミキサー等の撹拌機を用いて撹拌したり、ラインミキサーに通した後に乾燥処理を行う方法等が挙げられ、前記成分の混合順序も特に限定されない。また、液中で各成分を混合したのちの乾燥処理についても、その手法は特に限定されず、例えば凍結乾燥、スプレー乾燥、抄紙等の処理を実施してもよい。
本発明の好ましい一実施態様において、前記複合体はセルロースナノファイバーの表面の少なくとも一部または全部に樹脂(B)のコーティングが形成されている。
【0015】
本発明の製造方法では、あらかじめ前記二成分を複合体とすることで、セルロースナノファイバーの表面に何らかの変化が起こり、ヒドロキシ基による凝集を抑制することができると考えられる。
また、複合体の形成を経ず、前記成分(A)~(C)を一度に混合したマスターバッチ組成物を用いて繊維強化樹脂を製造すると、セルロースナノファイバーの溶解度パラメータと(D)主材中の熱可塑性樹脂の溶解度パラメータとの差が大きいため、セルロースナノファイバーと主材との相溶性が悪く、主材中でのセルロースナノファイバーの凝集に繋がり得る。しかし、本発明の製造方法のように複合体を経ることで、前記成分(A)~(C)を一度に混合した場合に比べて、セルロースナノファイバーの溶解度パラメータを段階的に主材中の熱可塑性樹脂の溶解度パラメータに近づけることができる。そのため、本発明の方法で製造されたマスターバッチ組成物を主材と混合すると、主材中にセルロースナノファイバーを均一に分散することができる。
さらに、セルロースナノファイバーにアセチル化等の変性が不要であることから、セルロースの結晶構造の変化の影響を受けにくく、変性セルロースナノファイバーを用いた場合に比べて、より機械特性にすぐれた繊維強化樹脂を得ることができる。
【0016】
[(A)セルロースナノファイバー]
本発明において、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの原料としては特に限定されず、例えば植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農産物残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物等がセルロースを原料として産出するセルロース繊維含有材料、人工的に製造して得られるセルロース等が挙げられる。前記原料の中でも大量入手が可能であることから木材が好ましい。これらの原料は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
セルロースナノファイバーは、前記原料に由来するセルロースに対してリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー等により磨砕および/または叩解することによって、セルロース繊維を解繊および/または微細化して製造される。
【0018】
本発明に好適なセルロースナノファイバーの繊維径は、好ましくは4nm以上、より好ましくは10nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。また、繊維長は好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。セルロースナノファイバーの繊維径および繊維長が前記下限以上および前記上限以下であると、主材との相溶性が良好な傾向にある。セルロースナノファイバーの繊維径および繊維長は、例えば電子顕微鏡の視野内のセルロースナノファイバーの少なくとも100本以上について測定した平均値から求めることができる。
【0019】
セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、未変性セルロースおよび疎水変性セルロースからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
疎水変性セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部の水素原子が疎水性基に置換されているセルロースである。したがって、疎水変性セルロースから構成されるセルロースナノファイバーは、ナノファイバー間の水素結合による凝集が抑制され、主材との相溶性が向上する傾向にある。
疎水性基としては、アセチル基、プロピオニル基、プロパノイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、シクロヘキサンカルボニル基、ブチリル基、アクリリル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、ピバロイル基等の炭素数2~13のアシル基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4の直鎖または分岐アルキル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリル基等が挙げられる。これらの中でも、セルロースナノファイバーと主材との相溶性が向上し、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好となりやすいことから、アシル基が好ましく、中でもアセチル基またはベンゾイル基がより好ましい。
【0021】
セルロースへの疎水性基の導入は、当該技術分野で既知の方法を採用することができる。例えば、導入する疎水性基を有する疎水化剤とセルロースとを溶媒(例えば極性非プロトン性溶媒)中で撹拌しながら、または静置して反応させることにより行うことができる。
【0022】
疎水変性セルロース中の疎水性基による置換度(セルロースの繰り返し単位に存在するヒドロキシ基の水素原子が疎水性基で置換された程度;DS)は、好ましくは0.1~1.5、より好ましくは0.2~1.2である。置換度が前記範囲内であると、主材との相溶性が良好な傾向にある。置換度は、セルロースへの疎水性基の導入の条件(例えば疎水化剤の種類、量、反応時間等)を適宜調整することによって前記範囲内に調整することができる。置換度は中和滴定法、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)、元素分析法等によって求めることができる。
【0023】
上述のようにセルロースナノファイバーを構成するセルロースとして疎水変性セルロースを使用することができ、それによって主材との相溶性を向上させることができるが、その一方で疎水変性セルロースから構成されるセルロースナノファイバーでは、その結晶性が低下する傾向にある。セルロースナノファイバーの結晶性が低下した場合、主材と混合した場合の最終的な繊維強化樹脂の物性(例えば引張強度、曲げ弾性等)が低下する傾向にある。したがって、本発明の好ましい一実施態様において、セルロースナノファイバーを構成するセルロースは未変性セルロースであることが好ましい。
【0024】
[(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂]
本発明において、(B)溶解度パラメータが9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂の溶解度パラメータは、好ましくは9.4(cal/cm3)1/2以上、より好ましくは9.6(cal/cm3)1/2以上、さらに好ましくは9.8(cal/cm3)1/2以上、よりさらに好ましくは10.5(cal/cm3)1/2以上であり、好ましくは15.0(cal/cm3)1/2以下、より好ましくは14.2(cal/cm3)1/2以下、さらに好ましくは13.0(cal/cm3)1/2以下、よりさらに好ましくは12.4(cal/cm3)1/2以下、特に好ましくは11.7(cal/cm3)1/2以下、より特に好ましくは11.3(cal/cm3)1/2以下である。溶解度パラメータが前記下限以上および前記上限以下であると、セルロースナノファイバーとの相溶性が良好であるため、セルロースナノファイバーと複合体を形成しやすい。
【0025】
溶解度パラメータ(SP値)は、分子凝集エネルギーの平方根で表される値であり、以下の式(1)で表される。
[数1]
SP値(δ)=(ΔH/V)1/2 (1)
[式中、ΔHは、モル蒸発熱(cal)を表し、Vは、モル体積(cm3)を表す。]
【0026】
また、このパラメータは、分子の分散力項(δD)、双極子間力項(δP)および水素結合項(δH)により、以下の式(2)で表すことができる。
[数2]
δ2=(δD)2+(δP)2+(δH)2 (2)
物質のδD、δPおよびδHは、プログラム「HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)」によって計算できる。本明細書において物質のSP値はこのプログラムによって計算したδD、δPおよびδHを基に、式(2)に従い算出した。なお共重合体ポリマーのSP値に関しては、各ポリマーユニットのSP値をそれぞれ計算し、共重合組成比からモル分率で加重平均することで算出している。
【0027】
本実施形態の組成物において、樹脂(B)はSP値が9.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下である樹脂であれば特に限定されないが、セルロースナノファイバーとの複合体をより形成しやすい観点から、樹脂(B)は好ましくは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレン/ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリメタクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアクリル酸/ポリスチレン共重合体、ポリアクリレート/ポリスチレン共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアリルアミンおよびポリビニルホルマールならびにそれらの変性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であることが好ましい。なお上記計算式によって算出されたこれらの樹脂のSP値は、例えばポリ乳酸が10.5(cal/cm3)1/2、ポリブチレンサクシネートが10.3(cal/cm3)1/2、ポリカプロラクトンが9.8(cal/cm3)1/2、ポリグリコール酸が11.6(cal/cm3)1/2、ポリビニルアルコールが15.5(cal/cm3)1/2、ポリビニルピロリドンが10.4(cal/cm3)1/2、ポリ酢酸ビニルが9.6(cal/cm3)1/2、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール共重合体(モル分率20/80)が14.2(cal/cm3)1/2、ポリエチレン/ポリ酢酸ビニル共重合体(モル分率50/50)が9.1(cal/cm3)1/2、ポリメタクリル酸が11.6(cal/cm3)1/2、ポリメタクリレートの1種であるポリメタクリル酸メチルが9.2(cal/cm3)1/2、ポリアクリル酸が12.5(cal/cm3)1/2、ポリアクリレートの1種であるポリアクリル酸メチルが9.4(cal/cm3)1/2、ポリメタクリル酸/ポリスチレン共重合体(モル分率50/50)が10.7(cal/cm3)1/2、ポリメタクリレート/ポリスチレン共重合体の1種であるポリメタクリル酸メチル/ポリスチレン共重合体(モル分率50/50)が9.5(cal/cm3)1/2、ポリアクリル酸/ポリスチレン共重合体(モル分率50/50)が11.1(cal/cm3)1/2、ポリアクリレート/ポリスチレン共重合体の1種であるポリアクリル酸メチル/ポリスチレン共重合体(モル分率50/50)が9.5(cal/cm3)1/2、ポリアミドの1種であるナイロン6が11.7(cal/cm3)1/2、ポリウレタンの1種であるジフェニルメタンジイソシアネート/1,3-プロパンジオール共重合体(モル分率50/50)が11.9(cal/cm3)1/2、ポリエポキシ樹脂の1種であるビスフェノールA/エピクロルヒドリン共重合体(モル分率50/50)が10.7(cal/cm3)1/2、ポリエステルの1種であるポリエチレンテレフタラートが10.8(cal/cm3)1/2、ポリアリルアミンが11.3(cal/cm3)1/2、ポリビニルホルマールが9.7(cal/cm3)1/2である。これらの樹脂を構成する重合体は、直鎖状、分岐状など任意の構造であってよく、その分子量等は特に限定されない。また、その合成方法も当該技術分野で既知の方法により合成される。
【0028】
樹脂(B)における変性樹脂とは、例えば上述の樹脂と別の単量体単位を共重合させたもの、または樹脂骨格の側鎖もしくは末端に官能基を導入したものが挙げられる。変性により導入される単量体単位または官能基としては、アクリル酸エステル単量体単位、ビニル系単量体単位;カルボニル基、重合性不飽和炭化水素基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アセトアセチル基、アジリジン基、エステル基、カーボネート基、アジド基、鎖状または環状ヘテロ原子含有炭化水素基、アミノ基、スルフヒドリル基、金属キレート基、酸無水物基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アクリル基、アセチル基、アルコキシ基(例えばメトキシ基またはエトキシ基)等が挙げられる。変性は当該技術分野で公知の方法に従って実施することができる。
【0029】
樹脂(B)として変性樹脂を使用する場合、変性で導入する単量体単位または官能基の含有量は、樹脂(B)の変性樹脂の全構成単位に対して好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上であり、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。変性で導入する単量体単位または官能基の含有量が前記下限以上および前記上限以下であると、樹脂(B)のSP値を大きく変えることなく、樹脂(B)に所望の特性を付与しやすい。変性で導入する単量体単位または官能基の含有量は、例えばFTIR、NMR等を用いて測定することができる。
【0030】
樹脂(B)は、水溶性樹脂および水不溶性樹脂のいずれも使用することができるが、セルロースナノファイバーとの親和性を高める観点から水溶性樹脂もしくは水不溶性樹脂でも水分散性樹脂であることが好ましい。本発明において、「水溶性樹脂」とは親水性官能基などにより変性されることなく、それ自体が水溶性を有する高分子化合物であり、「水分散性樹脂」とは、水溶性が低いかまたは水溶性を有しないものの、水、水と親水性溶剤との混合溶剤などに分散可能な高分子化合物である。
【0031】
[(C)変性ポリオレフィン]
本発明において、変性ポリオレフィンとは、オレフィン単量体単位と、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの単量体単位(以下、「変性単量体単位」とも称する)とを有する重合体であり、前記(A)セルロースナノファイバーおよび樹脂(B)を含んでなる複合体と混錬しやすいことから、変性ポリオレフィンは、オレフィン単量体単位と、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの単量体単位とを有する重合体であることが好ましい。
【0032】
オレフィン単量体単位としては、直鎖または分岐α-オレフィン、環状オレフィン、共役ジエン等が挙げられる。直鎖α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等が挙げられる。分岐α-オレフィンとしては、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン等が挙げられる。環状オレフィンとしては、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン等が挙げられる。共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、繊維強化樹脂の強度が高まりやすいことから、エチレン、プロピレンおよび1-ブテンからなる群から選択される少なくとも1つのポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンは、これらのオレフィン単量体単位1種からなるホモポリマーであっても、2種以上のオレフィン単量体単位からなるコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、ランダムコポリマーであっても、ブロックコポリマーであってもよく、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
【0034】
不飽和カルボン酸単量体単位としては、(メタ)アクリル酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の無水物としては、上述の不飽和カルボン酸の無水物が挙げられる。不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸の無水物の誘導体としては、上述の不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸の無水物のエステル、アミド、ハロゲン化物等が挙げられる。前記単量体単位の中でも、樹脂(B)との相溶性を向上させる観点からマレイン酸、無水マレイン酸無水物、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、変性ポリオレフィンは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。変性ポリオレフィンの製造方法としては、当該技術分野で既知の方法を用いることができる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0035】
変性ポリオレフィン中の全構成単位に対する変性単量体単位の量は、好ましくは0.01~20モル%、より好ましくは0.1~10モル%、さらに好ましくは0.1~5モル%である。変性単量体単位の量が前記範囲内であると、主材樹脂との相溶性を下げることなく、樹脂(B)との相溶性を向上させることができる。変性ポリオレフィン中の変性単量体単位の量は、1H-NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)、FTIR等を測定することにより求めることができる。
【0036】
変性ポリオレフィンの酸価は、好ましくは25mgKOH/g以上、より好ましくは30mgKOH/g以上であり、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下である。変性ポリオレフィンの酸価が前記下限以上および前記上限以下であると、主材樹脂との相溶性を下げることなく、樹脂(B)との相溶性を向上させることができる。変性ポリオレフィンの酸価は、変性単量体単位の種類および/または量等を適宜調整することによって、前記下限以上および前記上限以下に調整することができる。酸価は変性ポリオレフィン1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)で表され、例えば後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0037】
変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは25,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは57,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは70,000以下である。変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)が前記下限以上および前記上限以下であると、繊維強化樹脂の強度が良好なものとなりやすく、加工性にも優れる傾向にある。変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、変性ポリオレフィンを構成する単量体単位の種類、重合度等を適宜調整することによって、前記下限以上および前記上限以下に調整することができる。重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法によって求めることができ、例えば後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0038】
変性ポリオレフィンの溶解度パラメータは、樹脂(B)の溶解度パラメータより低いことが好ましい。変性ポリオレフィンの溶解度パラメータが樹脂(B)の溶解度パラメータより低いことで、マスターバッチ組成物の製造を通してセルロースナノファイバーを段階的に疎水性に近づける、すなわち段階的にセルロースナノファイバーの溶解度パラメータを低減することができる。セルロースナノファイバーを段階的に疎水性に近づけることで、一度では均一な分散が困難であったセルロースナノファイバーと主材との相溶性が良好なマスターバッチ組成物となる。
【0039】
[マスターバッチ組成物]
本発明のマスターバッチ組成物の製造方法においては、まずセルロースナノファイバーおよび樹脂(B)を混合することによって複合体を形成させる。
【0040】
セルロースナノファイバーと樹脂(B)とを混合する際、セルロースナノファイバーは、分散媒に分散した分散液であることが、樹脂(B)との相溶性の観点から好ましい。分散媒は、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒、水と親水性有機溶媒との混合物等を用いることができるが、加工性の観点から水であることが好ましい。分散液中のセルロースナノファイバーの含有量は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。セルロースナノファイバーの含有量が前記範囲内であると、マスターバッチ組成物の製造に十分な量であり、かつ分散液の粘度の過剰な上昇を抑えやすい。
【0041】
樹脂(B)が水不溶性樹脂である場合、分散媒に分散した分散液であることが同様に好ましい。分散媒は樹脂(B)の種類および性質に合わせて上述したものから適宜選択してよいが、水であることが好ましい。また、樹脂(B)が水溶性樹脂の場合、樹脂(B)を水に溶解させた水溶液として使用することが好ましい。分散液中または水溶液中の樹脂(B)の含有量は、分散液または水溶液の粘度が高くなりすぎないよう、樹脂の種類等に応じて適宜調整することができる。
【0042】
セルロースナノファイバーの水性分散液は市販のものを使用することもでき、例えばBiNFi-s(セルロース)((株)スギノマシン製)、ELLEX-s(大王製紙(株)製)等を例示することができる。
【0043】
上記の分散液または水溶液中には、セルロースナノファイバーおよび樹脂(B)以外の添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤として、界面活性剤、相溶化剤、解繊助剤、難燃剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。これらの添加剤の量は、その種類と目的に合わせて適宜変更することができる。
【0044】
複合体は、例えばセルロースナノファイバーの水性分散液と樹脂(B)の水性分散液または水溶液とを混合後、凍結乾燥する方法で形成することできる。混合方法としては、セルロースナノファイバーの水性分散液と樹脂(B)の水性分散液または水溶液とを容器中でホモミキサー等の撹拌機を用いて撹拌する方法、セルロースナノファイバーの水性分散液と樹脂(B)の水性分散液または水溶液とをラインミキサーに通す方法等が挙げられる。なお、セルロースナノファイバーの水性分散液、樹脂(B)の水性分散液または水溶液の混合順序は特に限定されない。
【0045】
セルロースナノファイバーの水性分散液と樹脂(B)の水性分散液または水溶液の混合比率は、後述するマスターバッチ組成物中の各成分の含有量範囲を満たすような割合で混合することが好ましいが、通常水性分散液または水溶液中の固形分換算でセルロースナノファイバー100質量部に対して、樹脂(B)が好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下である。
【0046】
また、本発明の製造方法において、セルロースナノファイバーの水性分散液と樹脂(B)の水性分散液または水溶液とを混合、および凍結乾燥等の乾燥処理後に、得られた複合体を所望の大きさに調整するための処理を行ってもよい。そのような処理の方法は特に限定されず、例えば鋏による裁断、ボールミル等の粉砕機による粉砕等の処理を実施することができる。得られた複合体を所望の大きさに調整することによって、次工程において変性ポリオレフィンと混錬しやすくなる。
【0047】
次に、上述の複合体と変性ポリオレフィンとを所定の温度で混錬することによってマスターバッチ組成物を製造することができる。混練の方法は、例えば単軸押出機、二軸押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラーミキサー等の混練機を使用して混錬する方法が挙げられる。押出機による混練が生産性の面で好ましい。混練の温度および時間は、樹脂(B)および変性ポリオレフィンの種類によって適宜調整することができる。例えば混練の温度は通常130~300℃、好ましくは150~280℃であり、混練時間は通常3~30分、好ましくは5~20分である。
【0048】
組成物の質量を基準にしたマスターバッチ組成物中の(A)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは35質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。(B)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは45質量%以下である。(C)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは24質量%以下である。マスターバッチ組成物中の各成分の含有量が前記範囲内であると、セルロースナノファイバーと主材との相溶性を向上しやすく、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好な繊維強化樹脂を製造しやすい。
【0049】
マスターバッチ組成物中の(B)および(C)の質量比[(B)の質量:(C)の質量]は、好ましくは2:1以上、より好ましくは3:1以上であり、好ましくは8:1以下、より好ましくは7:1以下である。マスターバッチ組成物中の(B)および(C)の質量比が前記下限以上および前記上限以下であると、セルロースナノファイバーと主材との相溶性を向上しやすく、主材中でのセルロースナノファイバーの分散性が良好な繊維強化樹脂を製造しやすい。
【0050】
本発明におけるマスターバッチ組成物は、セルロースナノファイバーを変性ポリオレフィンに高濃度、すなわちマスターバッチ組成物を基準に、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは35質量%以上分散させた組成物であり、繊維強化樹脂を製造する場合、熱可塑性樹脂を含む主材等でこの組成物を希釈して使用できる。マスターバッチ組成物の使用により、セルロースナノファイバーを主材中に簡便な工程で均一に分散させることができる。
【0051】
[繊維強化樹脂の製造方法]
本発明は、
(A)セルロースナノファイバー、および
(B)溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下である樹脂、もしくはその変性樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂
を含んでなる複合体、ならびに
(C)変性ポリオレフィン
を含むマスターバッチ組成物を、
(D)熱可塑性樹脂を含む主材
と混練する工程を含む、繊維強化樹脂の製造方法も包含する。
【0052】
本発明において、(D)主材中の熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えばポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン-アクリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。これらの中でも繊維強化樹脂の物性(引張強度、曲げ弾性等)が高まりやすい観点から、疎水性が高い樹脂が好ましく、前記物性がより高まりやすい観点から未変性のポリオレフィンが好ましい。熱可塑性樹脂は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、疎水性が高い樹脂とは、溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)1/2未満である樹脂を指す。
【0053】
ポリオレフィンを構成する単量体単位としては、上述の変性ポリオレフィンが含み得るオレフィン単量体単位として列挙したものと同様のものが挙げられる。本発明において、未変性のポリオレフィンとは、ポリマー中にオレフィン単量体単位以外の単量体単位が含まれないことを意味する。ポリオレフィンは1種のオレフィン単量体単位が重合したホモポリマーであっても、2種以上のオレフィン単量体単位が重合した重合体であってもよい。2種以上のオレフィン単量体単位が重合した重合体である場合、ランダム重合体であっても、ブロック重合体であってもよい。
【0054】
主材は熱可塑性樹脂以外の添加剤を含んでよい。添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、レベリング剤、相溶化剤、界面活性剤、着色剤、金属粉末、可塑剤、UV吸収剤、導電材等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は種類および目的に応じ適宜調整することができる。
【0055】
マスターバッチ組成物と熱可塑性樹脂とを所定の温度で混錬することによって繊維強化樹脂を製造することができる。混練の方法は、マスターバッチ組成物で列挙した方法が挙げられる。押出機による混練が生産性の面で好ましい。混練の温度および時間は、熱可塑性樹脂の種類によって適宜調整することができる。混練温度は、通常130~300℃、好ましくは150~280℃であり、混練時間は、通常3~30分、好ましくは5~25分である。
【0056】
マスターバッチ組成物と主材との混合比率は、後述する繊維強化樹脂中のセルロースナノファイバーの含有量範囲を満たすような比率で混合することが好ましい
【0057】
繊維強化樹脂中に含まれるセルロースナノファイバーの含有量は、繊維強化樹脂の質量に基づいて好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。繊維強化樹脂中のセルロースナノファイバーの含有量が前記範囲内であると、セルロースナノファイバーの凝集を抑えつつ、機械特性にすぐれた繊維強化樹脂を得やすい。
【0058】
本発明の製造方法で得られた繊維強化樹脂は、ペレット状、粉末状、シート状、板状、フィルム状等の任意の形状に成形することができる。成形方法としては、押出成形、金型成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。尚、例中の「%」および「部」は、特記ない限り、それぞれ質量%および質量部を意味する。
【0060】
以下において使用される略号の意味は以下の通りである。
CNF:セルロースナノファイバー
PLA:ポリ乳酸
PP:ポリプロピレン
MPO:変性ポリオレフィン
【0061】
以下の製造例、実施例および比較例において、原材料として以下のものを用いた。
【0062】
(1)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法によって、下記の条件で測定を行った。
装置:東ソー社製 HLC-8121GPC/HT
カラム:東ソー社製 TSKgel GMHHR-H(S)HT 2本
温度:145℃
溶媒:o-ジクロロベンゼン
溶出溶媒流速:1.0ml/分
試料濃度:1mg/ml
測定注入量:300μl
分子量標準物質:標準ポリスチレン
検出器:示差屈折
重量平均分子量(Mw)の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレン標準試料を測定し、標準試料の保持時間と分子量から検量線を作成し算出を行った。
【0063】
(2)酸価
酸価は市販品である無水マレイン酸変性PP「ユーメックス1010」を除き、下記手順で測定した。
(a)精製
まず、製造例で得られた変性ポリオレフィンを以下のように精製した。
(i)変性ポリオレフィン5gを、キシレン125mL(変性ポリオレフィン1gに対してキシレン25mL)に添加した後、得られた混合物を140℃で2時間加熱して、変性ポリオレフィンを溶解させた。
(ii)得られた溶液を室温まで放冷した後、溶液をアセトン1500mL(変性ポリオレフィン1gに対してアセトン300mL)に滴下し、変性ポリオレフィンを析出させた。
(iii)析出した変性ポリオレフィンを200メッシュナイロンでろ取し、回収した変性ポリオレフィンを、アセトンで洗浄した。
なお、上記(ii)で得られた溶液をアセトンに滴下した際に、微細な変性ポリオレフィンが析出して、析出した変性ポリオレフィンが上記(iii)で使用する200メッシュナイロンを通過した場合は、上記(i)の操作をやり直し、上記(ii)および(iii)の操作で、アセトンの代わりにメタノールを使用した。
(iv)回収した変性ポリオレフィンを、終夜、60℃で真空乾燥した。
(v)上記(i)~(iv)の操作で得られた変性ポリオレフィンの量に合わせて、同じ仕込み比で上記(i)~(iv)の操作を繰り返して再度精製を行い、精製した変性ポリオレフィンを得た。
【0064】
(b)ブランク溶液の滴定
(i)キシレン100gおよびイオン交換水0.1gをビーカーにはかり取り、フェノールフタレイン指示薬数滴を添加して、ブランク溶液を調製した。
(ii)ビュレットを用いて0.02mol/LのKOHエタノール溶液を、ブランク溶液に滴下した。溶液の色が無色から赤色に変化し、赤色が1分間消えなくなった時点を終点とし、その時点の滴定量を読み取った。
【0065】
(c)試料溶液の滴定
(i)精製した変性ポリオレフィン0.2g、イオン交換水0.1gおよびキシレン100gをナスフラスコに測りとり、得られた混合物を150℃で2時間加熱して、変性ポリオレフィンを溶解させるとともに、変性ポリオレフィン中の酸無水物構造を加水分解させた。
(ii)得られた溶液を室温まで放冷した後、フェノールフタレイン指示薬数滴を添加して、試料溶液を調製した。
(iii)ビュレットを用いて0.02mol/LのKOHエタノール溶液を、試料溶液に滴下した。溶液の色が無色から赤色に変化し、赤色が1分間消えなくなった時点を終点とし、その時点の滴定量を読み取った。
(iv)下記式に従って、酸価を算出した(下記式中、FKOHは、KOHエタノール溶液のファクターを示す)。
酸価(mgKOH/g)=56.11(g/mol)×(FKOH×(試料溶液に対する滴定量(mL)-ブランク溶液に対する滴定量(mL))×0.02(mol/L)/変性ポリオレフィンの量(g)
【0066】
(3)SP値
各物質のSP値は、例えば2-エチルヘキシルアクリレート・無水マレイン酸によって変性したエチレン・プロピレン共重合体であれば、便宜上それを変性反応時に添加した2-エチルヘキシルアクリレート・無水マレイン酸全てによって定量的に変性された、2-エチルヘキシルアクリレート・無水マレイン酸・エチレン・プロピレンの共重合体とみなし以下のように算出した。
変性樹脂のSP値=(ポリ2-エチルヘキシルアクリレートのSP値)×(共重合体中の2-エチルヘキシルアクリレートのモル分率)+(ポリ無水マレイン酸のSP値)×(共重合体中の無水マレイン酸のモル分率)+(ポリエチレンのSP値)×(共重合体中のエチレンのモル分率)+(ポリプロピレンのSP値)×(共重合体中のプロピレンのモル分率)
なお、各ポリマー成分のSP値はプログラム「HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)」によって計算したδD、δPおよびδHより算出しており、以下のとおりである。
ポリ2-エチルヘキシルアクリレート:9.0(cal/cm3)1/2
ポリ無水マレイン酸:11.5(cal/cm3)1/2
ポリエチレン:8.6(cal/cm3)1/2
ポリプロピレン:8.2(cal/cm3)1/2。
また市販品である無水マレイン酸変性PP「ユーメックス1010」に関しては、酸価を基に樹脂中の無水マレイン酸含量を計算し、変性樹脂を無水マレイン酸・プロピレンの共重合体とみなすことで同様に算出した。
【0067】
<変性ポリオレフィンの製造>
(製造例1)
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた1000mlセパラブルフラスコに、ポリオレフィン(a-1)[エチレン・プロピレン共重合体(エチレン:プロピレン=15mol%:85mol%)]400g、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート68gを入れ、窒素雰囲気下、170℃に保たれた油浴中で溶融を行い、撹拌を行いながら系内が170℃になるように油浴の温度を調整した。系内が溶融した後、撹拌を行い均一な状態としながら、2-エチルヘキシルアクリレート48gと無水マレイン酸24g、パーブチルD4gを添加した。系内を170℃に保ったまま、2時間反応を行った後、アスピレーターでフラスコ内を減圧しながら、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテートと未反応の2-エチルヘキシルアクリレートと無水マレイン酸などの低分子の揮発物質を除去した。減圧終了後、反応物を取り出し、冷却することで、変性ポリオレフィンの固形品(C―2)を得た(酸価:29mgKOH/g、Mw:56,600、SP値:8.4(cal/cm3)1/2)。
【0068】
(製造例2)
製造例1と同様の工程で2-エチルヘキシルアクリレートを72g、無水マレイン酸36gに変更することで変性ポリオレフィンの固形品(C-3)を得た(酸価:41mgKOH/g、Mw:68,300、SP値:8.4(cal/cm3)1/2)。
【0069】
<変性ポリオレフィンの水性分散液の製造>
(製造例3)
撹拌機、温度計および還流冷却器を備えた1000mlセパラブルフラスコに、変性ポリオレフィン(C-2)179gを入れ、160℃の油浴中で溶融させた。その後、2-ブタノール27gを入れて溶解混合させ、N,N-ジメチルアミノエタノール11g、イオン交換水53gを加えて混合した後、90℃に保ちながら、イオン交換水を少量ずつ加えた。イオン交換水を369g加えたところで内容物を取り出し、エバポレーターを用いてイオン交換水以外の揮発成分を取り除き、変性ポリオレフィンの水性分散液(E―1)を得た。
【0070】
(製造例4)
製造例3で用いた変性ポリオレフィンを(C-3)に変更することでポリオレフィンの水性分散液(E-2)を得た。
【0071】
<CNFおよびPLAの複合体の製造>
(製造例5)
CNFの水性分散液(A-1)100部(固形分換算)とPLA水性分散液(B-1)200部(固形分換算)をポリビンに入れ、撹拌機を用いて混合した。次いで、その混合分散液を凍結乾燥することで、CNFとPLAの複合体(F-1)を得た。
【0072】
(製造例6)
製造例5で用いたPLA水性分散液(B-1)を100部に変更する以外は製造例5と同様に操作を行い、CNFとPLAの複合体(F-2)を得た。
【0073】
(製造例7)
製造例5で用いたPLAの水性分散液(B-1)を50部に変更する以外は製造例5と同様に操作を行い、CNFとPLAの複合体(F-3)を得た。
【0074】
<CNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体の製造>
(製造例8)
CNFの水性分散液(A-1)100部(固形分換算)とPLA水性分散液(B-1)200部(固形分換算)、変性ポリオレフィンの水性分散液(E-1)100部をポリビンに入れ、撹拌機を用いて混合した。次いで、その混合分散液を凍結乾燥することで、CNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体(G-1)を得た。
【0075】
(製造例9)
製造例8にて用いた変性ポリオレフィンの水性分散液を(E-2)に変更すること以外は製造例8と同様に操作を行い、CNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体(G-2)を得た。
【0076】
<CNFおよびPLA複合体と、変性ポリオレフィンとの混錬によるマスターバッチ組成物の製造>
(実施例1)
鋏を用いて粉末状に裁断したCNFとPLAの複合体(F-1)100部と、変性ポリオレフィン(C-1)33.3部とを卓上小型二軸混錬機(DSM Xplore社製 型式:MC15)を用いてシリンダー設定温度200℃で10分間混錬することでマスターバッチ組成物(H-1)を得た。得られた混錬物の組成比(質量比、以下同様)はCNF/PLA/MPO=25/50/25であった。
【0077】
(実施例2)
実施例1の変性ポリオレフィン(C-1)を8.3部に変更することでマスターバッチ組成物(H-2)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO=30.8/61.5/7.7であった。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同様の工程でCNFとPLAの複合体(F-2)100部と、変性ポリオレフィン(C-1)25部とを混錬することでマスターバッチ組成物(H-3)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO=40/40/20であった。
【0079】
(実施例4)
実施例1と同様の工程でCNFとPLAの複合体(F-3)100部と、変性ポリオレフィン(C-1)16.7部とを混錬することでマスターバッチ組成物(H-4)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO=57.1/28.6/14.3であった。
【0080】
(実施例5)
実施例1と同様の工程でCNFとPLAの複合体(F-1)100部と変性ポリオレフィン(C-2)33.3部とを混錬することでマスターバッチ組成物(H-5)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO=25/50/25であった。
【0081】
(実施例6)
実施例1と同様の工程でCNFとPLAの複合体(F-1)100部と変性ポリオレフィン(C-3)33.3部とを混錬することでマスターバッチ組成物(H-6)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO=25/50/25であった。
【0082】
上記実施例1~6のマスターバッチ組成物の組成比を表1に示す。
【0083】
【0084】
<CNF強化樹脂の製造>
(実施例7)
マスターバッチ組成物(H―1)100部とPP(D-1)150部とを卓上小型二軸混錬機(DSM Xplore社製 型式:MC15)を用いてシリンダー温度200℃で10分間混錬することで溶融混錬物(I-1)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であった。
【0085】
(実施例8)
実施例7と同様の工程で、マスターバッチ組成物(H―2)100部とPP(D-1)207.7部とを混錬することで溶融混錬物(I-2)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/2.5/67.5であった。
【0086】
(実施例9)
実施例7と同様の工程で、マスターバッチ組成物(H―3)100部とPP(D-1)300部とを混錬することで溶融混錬物(I-3)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/10/5/75であった。
【0087】
(実施例10)
実施例7と同様の工程で、マスターバッチ組成物(H―4)100部とPP(D-1)471.4部とを混錬することで溶融混錬物(I-4)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/5/2.5/82.5であった。
【0088】
(実施例11)
実施例7と同様の工程で、マスターバッチ組成物(H―5)100部とPP(D-1)150部とを混錬することで溶融混錬物(I-5)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であった。
【0089】
(実施例12)
実施例7と同様の工程で、マスターバッチ組成物(H―6)100部とPP(D-1)150部とを混錬することで溶融混錬物(I-6)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であった。
【0090】
(比較例1)
鋏を用いて粉末状にしたCNFとPLAの複合体(F-1)100部と、変性ポリオレフィン(C-1)33.3部と、PP(D-1)200部とを卓上小型二軸混錬機(DSM Xplore社製 型式:MC15)を用いてシリンダー設定温度200℃で10分間混錬することで溶融混錬物(I-7)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であり、組成物としては実施例7と同等であった。
【0091】
(比較例2)
比較例1の変性ポリオレフィン(C-1)を変性ポリオレフィン(C-2)に変更する以外は比較例1と同様の操作で溶融混錬物(I-8)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であり、組成物としては実施例11と同等であった。
【0092】
(比較例3)
比較例1の変性ポリオレフィン(C-1)を変性ポリオレフィン(C-3)に変更する以外は比較例1と同様の操作で溶融混錬物(I-9)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であり、組成物としては実施例12と同等であった。
【0093】
(比較例4)
鋏を用いて粉末状にしたCNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体(G-1)100部と、PP(D-1)150部とを卓上小型二軸混錬機(DSM Xplore社製 型式:MC15)を用いてシリンダー設定温度200℃で10分間混錬することで溶融混錬物(I-10)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であり、組成物としては実施例11と同等であった。
【0094】
(比較例5)
比較例4のCNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体(G-1)をCNF、PLAおよび変性ポリオレフィンの複合体(G-2)に変更する以外は比較例4と同様の操作で溶融混錬物(I-11)を得た。得られた混錬物の組成比はCNF/PLA/MPO/PP=10/20/10/60であり、組成物としては実施例12と同等であった。
【0095】
<CNF分散性の評価>
上記各実施例および比較例で作製したCNF強化樹脂コンパウンド1.5gを200℃条件下100kgで2分間プレスすることで幅150mm、長さ150mm、厚み0.1mmのフィルムを作製した。得られたフィルム表面の任意の位置を倍率100倍のデジタル顕微鏡で観察し、直径200μm以上のCNF凝集体が観測されない場合を○、観測された場合を×とした。結果を表2に示す。
【0096】
【0097】
実施例の方法で得られた樹脂では、セルロースナノファイバーと主材との相溶性が良好であるため、セルロースナノファイバーの凝集体が観察されず、分散性が改善されていた。一方、比較例の方法で得られた樹脂では比較的大きなセルロースナノファイバーの凝集体が観察され、セルロースナノファイバーと主材との相溶性がよくないことが分かった。