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特開2023-147612ミネラル結合ペプチドおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147612
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ミネラル結合ペプチドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/16 20160101AFI20231005BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20231005BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20231005BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L33/16
A23L33/18
A61K38/16
A61K38/17
A61K47/52
A23K20/147
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055206
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 菜那
(72)【発明者】
【氏名】前山 和輝
(72)【発明者】
【氏名】上西 寛司
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AB03
2B150AB10
2B150DC23
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD01
4B018MD05
4B018MD06
4B018MD20
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF06
4C076BB01
4C076CC40
4C076CC45
4C076CC50
4C076DD22
4C076DD22Q
4C076EE59
4C076FF52
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA33
4C084CA13
4C084CA15
4C084CA41
4C084CA45
4C084MA05
4C084NA03
4C084NA09
(57)【要約】
【課題】ミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有するという性質を示すことが判明し、微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないミネラル結合ペプチドを提供する。
【解決手段】本発明に係るミネラル結合ペプチドは、タンパク質由来ペプチドに少なくとも1種類のミネラルが結合している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質由来ペプチドに少なくとも1種類のミネラルが結合したミネラル結合ペプチド。
【請求項2】
タンパク質由来ペプチド1重量部あたり、少なくとも1種類のミネラルが0.001~0.6重量部結合した請求項1に記載のミネラル結合ペプチド。
【請求項3】
少なくとも1種類のミネラルが生体の生理作用を有する微量元素である請求項1または2に記載のミネラル結合ペプチド。
【請求項4】
微量元素が鉄、銅または亜鉛から選択される少なくとも1種類のミネラルである請求項3に記載のミネラル結合ペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のミネラル結合ペプチドを配合した飲食品または飼料。
【請求項6】
少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質由来ペプチドを含む溶液を混合するミネラル結合ペプチドの製造方法。
【請求項7】
炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液、少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質由来ペプチドを含む溶液を混合するミネラル結合ペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質由来ペプチドにミネラルが結合したミネラル結合ペプチドおよびその製造方法、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の維持には、鉄や亜鉛、銅などの微量ミネラルが必要であり、その中でも鉄はヘモグロビン合成に利用され、その欠乏は貧血を引き起こすだけでなく運動および認知機能等の低下を招くとことが知られている。亜鉛はタンパク質と結合して様々な機能を発揮し、その欠乏は皮膚炎、味覚や免疫機能等の障害を招くことが知られている。銅は生体内で機能する酵素に含まれており、エネルギーの生成等に関与していることが知られている。
【0003】
生体の維持に不可欠なこれらのミネラルには、それぞれ推奨される1日あたりの摂取量が公表されており、鉄は一日あたり7~10mg程度、亜鉛は8~12mg程度、銅は0.3~1mg程度である。これらの量のミネラルを日常的に飲食品から摂取することが望ましいが、食習慣や疾病、あるいは地域性等の要因により、飲食品のみでは充分量摂取することができないという事態も起こり得る。このため、飲食品からの摂取が難しい場合、鉄や亜鉛、銅といった様々な微量ミネラルを飲食品に添加し、補助的に摂取する方法が採られている。
【0004】
近年、鉄をはじめ様々なミネラルを含む補助食品が開発され市販されている。しかしながら、これらのミネラルの中で鉄や銅、亜鉛等は独特のミネラル臭や収斂味を有するため、そのままでは食用に適さないという問題があった。
例えば、塩化第二鉄や硫酸第一鉄等の無機ミネラル食品添加物の場合、ミネラルに由来する呈味性や収斂味とも呼ばれる独特のミネラル味が感じられる他、胃腸や粘膜を痛めるといった副作用を伴う場合があるため、その添加量を制限する必要があった。
【0005】
さらに、ヘム鉄や亜鉛酵母、銅酵母などの有機ミネラル食品添加物の場合、これら有機ミネラルを添加した飲食品では有機ミネラル食品添加物に含まれるミネラルに由来する呈味性やミネラル味だけでなくミネラルと結合した有機物由来の生臭さや独特の風味が問題となっていた。
【0006】
また、動物性タンパク質の摂取を制限する食習慣の場合、ヘム鉄に代表される有機ミネラル素材の摂取そのものが制限される。さらに、亜鉛や銅の摂取を目的とした酵母を使用した有機ミネラル素材では、酵母の風味だけでなく酵母の溶解性が良好でないため、沈殿や濁りが添加した飲食品で観察されることなどから、その添加量を制限する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2884045号
【特許文献2】特許第3223958号
【特許文献3】特許3580517号
【特許文献4】特許5155502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、炭酸イオンや炭酸水素イオンを介してミネラルと乳タンパク質由来ペプチドを結合させミネラル特有の収斂味のない中性条件の水溶液中で、安定な炭酸及び/又は炭酸水素イオン-ミネラル-乳タンパク質複合体を開発してきた(特許文献1:鉄-ラクトフェリン複合体、特許文献2:金属結合ラクトフェリン、特許文献3:鉄カゼインホスホペプチド複合体、特許文献4:鉄含有タンパク質組成物)。
しかしながら、これらの従来技術においては、すべて乳タンパク質に由来するペプチドが使用されており、他の動物性タンパク質や植物性タンパク質およびそれらに由来するペプチドは使用されてはいなかった。
【0009】
本発明の目的は、タンパク質由来ペプチドに複数種のミネラルが結合したミネラル結合ペプチドおよびその製造方法、ならびにそれらを配合したミネラル補給飲食品、医薬品および飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質に由来するペプチドと各種ミネラルとの結合性について鋭意研究を進めたところ、これまで報告されていた乳タンパク質以外の動物性タンパク質由来のペプチドや植物性タンパク質由来のペプチドにおいて、従来、1種類のミネラルを結合させていたところ、複数の種類のミネラルを同時かつ多量に結合させることができることを見出した。
【0011】
このミネラルを結合した乳タンパク質以外の動物性タンパク質および植物性タンパク質由来ペプチドは、ミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有するという性質を示すことが判明し、微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次のものからなる。
【0012】
(1)タンパク質由来ペプチドに少なくとも1種類のミネラルが結合したミネラル結合ペプチド。
(2)タンパク質由来ペプチド1重量部あたり、少なくとも1種類のミネラルが0.001~0.6重量部結合した上記(1)記載のミネラル結合ペプチド。
(3)少なくとも1種類のミネラルが生体の生理作用を有する微量元素である上記(1)または(2)に記載のミネラル結合ペプチド。
(4)微量元素が鉄、銅または亜鉛から選択される少なくとも1種類のミネラルである上記(3)に記載のミネラル結合ペプチド。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載のミネラル結合ペプチドを配合した飲食品または飼料。
(6)少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質由来ペプチドを含む溶液を混合するミネラル結合ペプチドの製造方法。
(7)炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液、少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質由来ペプチドを含む溶液を混合するミネラル結合ペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質由来のペプチドにおいて、複数の種類のミネラルを同時かつ多量に結合させることにより、ミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有し、微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないという格別の効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<素材>
本発明に使用する乳タンパク質以外の動物性タンパク質由来ペプチドを含む素材としては、例えば、牛肉や鳥肉、鶏卵、卵白、サケやタラ等の魚肉等のタンパク質を、タンパク質分解酵素あるいは酸やアルカリによって分解して得られるタンパク質由来ペプチド素材等を挙げることができる。
【0015】
本発明に使用する植物性タンパク質由来ペプチドを含む素材としては、例えば、大豆より分離した大豆タンパク質、エンドウ豆から分離したエンドウ豆タンパク質を、タンパク質分解酵素あるいは酸やアルカリによって分解して得られるタンパク質由来ペプチド等を挙げることができる。また、ヒヨコ豆、ソラマメ、ジャガイモや小麦、米といった植物から得られるタンパク質由来ペプチドを使用しても良い。
【0016】
<調製方法>
乳タンパク質以外の動物性および植物性タンパク質由来ペプチドの調製方法は、動物や植物から分離したタンパク質をトリプシン、ペプシン、キモトリプシン等のタンパク質分解酵素、あるいは、酸やアルカリによって分解される。タンパク質由来ペプチドは、完全に精製されている必要はなく、糖質や脂質といった他の成分が含まれていても構わない。
【0017】
また、タンパク質由来ペプチドを含む素材を製造する過程において、不溶性の成分が含まれている場合であっても、可溶のタンパク質及び/又はペプチドが含まれていれば構わない。不溶性の成分をあらかじめ除いた状態で使用する方法が好ましい。
【0018】
例えば、乳タンパク質以外の動物性および植物性タンパク質由来ペプチドを含有する水溶液としては、乾燥粉末の状態で市販されている動物性および植物性タンパク質由来のペプチド素材を再溶解し調製した水溶液を利用することもできる。
尚、これら乳タンパク質以外の動物性および植物性タンパク質由来ペプチドの調製方法は、公知の方法が知られており、これらの方法で大量に調製することができる。
【0019】
<ミネラル>
本発明に使用できるミネラルとしては、塩化第二鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、硝酸第一鉄、クエン酸鉄、炭酸亜鉛 、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、塩化銅、硫酸銅等が挙げられる。また、酢酸鉄、酢酸亜鉛、酢酸銅といった酢酸塩等を使用することも可能である。
【0020】
添加するミネラル量は、ペプチド素材中のタンパク質1重量部に対し、ミネラル0.0001~0.8重量部、好ましくは0.0005~0.7重量部、より好ましくは0.001~0.6重量部である。添加するミネラルの1種類の量が上記範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルに起因する沈殿が生じ、完全に結合せずミネラルがイオンの状態で残存するため好ましくない。
【0021】
本発明に使用できる炭酸、重炭酸は、炭酸水、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウムの炭酸水素塩や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、またはこれらの混合物を使用することができる。
炭酸、重炭酸、及び炭酸と重炭酸を含有する場合、その合計量は可溶性のタンパク質由来ペプチド1重量部に対し、0.0001~100重量部、好ましくは0.0005~75重量部、より好ましくは0.001~50重量部である。この範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルやペプチドに起因する沈殿が生じるため好ましくない。
【0022】
また、気体状の二酸化炭素の吹き込み、液体または固体状の二酸化炭素を添加した溶液、炭酸水等を利用してもよい。またこれらの溶液には、その他の成分、例えば糖質、脂肪等が含まれていても構わない。
炭酸、重炭酸、及び炭酸と重炭酸を含有する場合、その合計量は可溶性のタンパク質由来ペプチド1重量部に対し、0.0001~100重量部、好ましくは0.0005~75重量部、より好ましくは0.001~50重量部である。この範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルやペプチドに起因する沈殿が生じるため好ましくない。
【0023】
<製造方法>
ミネラル結合ペプチドの製造方法は、鉄や亜鉛、銅等のミネラル塩を含む水溶液に乳タンパク質以外の動物性または植物性タンパク質由来ペプチドを含む水溶液を加え十分に混合する方法、動物性または植物性タンパク質由来ペプチドと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、鉄や亜鉛、銅等、微量元素のミネラル塩を含む水溶液を加え十分に混合することで、炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質由来ペプチド複合体を調製することができる。
【0024】
また、乳タンパク質以外の動物性または植物性タンパク質由来ペプチドと、鉄や亜鉛、銅等のミネラル塩を含む水溶液に、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液を加え十分に混合することで、炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質由来ペプチド複合体を調製することができる。
【0025】
本発明に係る製造方法においては、乳タンパク質以外の動物性または植物性タンパク質由来ペプチドと、重炭酸イオン及びまたは炭酸イオンを含む水溶液にミネラル塩類を含む水溶液を添加し混合する製造法、動物性または植物性タンパク質由来ペプチドと、ミネラル塩類を含む水溶液に、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液を添加し混合する方法のどちらでもよい。
【0026】
上記いずれの製造方法においても、各水溶液のpHや温度等を調整する必要は特にない。いずれの製造法においても、重炭酸塩及び/または炭酸塩を使用して重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液を調製する場合は、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液と、ミネラル塩類を含む水溶液を混合させず、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、乳タンパク質以外の動物性または植物性タンパク質由来ペプチドが予め含まれているか、もしくはミネラル塩類を含む水溶液に動物性または植物性タンパク質由来ペプチドが予め含まれていることが好ましい。動物性または植物性タンパク質由来ペプチドが予め含まれていない状態で、重炭酸塩及び/または炭酸塩に由来する重炭酸イオン及び/又炭酸イオンを含む水溶液とミネラル塩類を含む水溶液とを混合させると、溶液中の水酸化イオンとミネラルイオンが反応し沈殿物が生じるため好ましくない。
【0027】
炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-ペプチド複合体を形成させた水溶液は、このままミネラル強化ペプチド素材として使用しても良いが、溶液中において形成させた複合体は容易に崩壊することはないため、複合体形成後に限外濾過膜等でこの水溶液を処理して水溶液から炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質由来ペプチド複合体を濃縮液として回収してもよい。
【0028】
上述したように、溶液を混合させて得られる炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-ペプチド複合体を、濃縮液として回収する場合には、溶液中に形成させた複合体が容易に崩壊しない性質を利用して、複合体を濃縮可能な限外濾過膜を使用して処理することで、濃縮液中にミネラルと結合したペプチドを回収することができる。
【0029】
水溶液に含まれる炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-ペプチド複合体の濃度を高める場合は、溶液中に形成させた複合体が容易に崩壊しない性質を利用して濃縮に使用した限外濾過膜をそのまま使用し、炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-ペプチド複合体を含む濃縮液に加え、膜処理を行うことで脱塩等の処理を行う。
【0030】
ミネラル結合ペプチドについては、限外濾過膜で処理することにより、複合体に含まれずミネラルと結合していないペプチドを除去することで、ペプチド当たりの金属量を高めた素材を得ることができる。この処理の際に使用できる膜の材質や膜濾過の方式は一般的に使用されているものであればどのようなものを用いてもよい。膜の材質はポリアクリルアミド、再生セルロース、ポリエチレン、4フッ化エチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の有機膜や、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ステンレス、ガラス等の無機膜を例示できる。膜モジュールの種類は、プリーツ型モジュール、スパイラル型モジュール、モノリス型モジュール、チューブ型モジュール等を例示できる。膜濾過の方式は全量濾過方式、クロスフロー方式、ダイアフィルトレーション方式等を例示できる。なお、限外濾過膜で処理する場合は、好ましくは分画分子量50000以下の限外濾過膜を使用して濃縮液中にミネラル結合ペプチドを回収することができる。濃縮で得た濃縮液中のペプチドと結合していないミネラルや炭酸水素塩または炭酸塩に由来する塩を除去するために濃縮に使用した限外濾過膜をそのまま使用して、好ましくは分画分子量50000以下の限外濾過膜を使用して脱塩処理をすることができる。脱塩処理を実施することで、素材あたりのミネラルと結合したペプチド量及びミネラル含量を高めた素材を得ることができる。
【0031】
上記ミネラル結合ペプチドについては、ミネラル剤等として、濃縮等により液体の状態で使用することもできるし、凍結乾燥や噴霧乾燥をして粉末の状態で使用することもできる。
ここで、膜処理の際の温度は、特に限定するものではないが、雑菌等の繁殖を抑制するために約10℃以下で行うことが好ましいが、膜処理後、加熱等により殺菌処理をするのであれば、10℃以上であっても問題はない。
【0032】
調製されたミネラル結合ペプチド素材は、ミネラル特有のミネラル臭や呈味性がなく、長期間にわたり安定で、使用したペプチドの性質を有しているため、ペプチド素材を使用する医薬品、飲食品および飼料等に配合するペプチド、ならびにミネラル元素補給素材として極めて有用である。
【実施例0033】
(実施例1)
大豆タンパク質由来ペプチド素材であるSoy Pepide HINUTE-AM(不二製油社製)50gを水10Lに溶解し、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製食品添加物)を30g加え良く攪拌した。この水溶液に水10Lに対して、硫酸第一鉄7水和物(関東化学株式会社食品添加物)8.0gを加えた水溶液を加え、30分攪拌し、20Lの水溶液を調製した。この結果、水溶液中に重炭酸-鉄-大豆タンパク質由来ペプチド複合体を形成させこの複合体を含む水溶液を得た。
攪拌後、重炭酸-鉄-大豆タンパク質由来ペプチド複合体を含む水溶液を限外濾過膜(マイクローザSLP-0053;旭化成工業社製:膜孔径10000)で処理し、生成した重炭酸-鉄-大豆タンパク質由来ペプチド複合体を含む濃縮液1.0Lを回収した後、イオン交換水を加えながら、膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収し、凍結乾燥し重炭酸-鉄-大豆タンパク質由来ペプチド複合体を含む乾燥粉末を30g得た。次に、重炭酸-鉄-大豆タンパク質由来ペプチド複合体乾燥粉末1gに含まれる鉄量を測定した結果、52mgであった。なお、本発明において鉄の測定はニトロソPSAP法による。
【0034】
(実施例2)
エンドウ豆タンパク質由来のペプチド素材であるBroadbean Peptone Solabia Group)200gを水50Lに溶解し、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製食品添加物)を84g加え良く攪拌した。この水溶液に、水25Lに対して酢酸亜鉛(富士フィルム和光純薬社製)22gを加えた水溶液、および水25Lに対し塩化第二鉄6水和物(純正化学株式会社製食品添加物)27gを加え、30分間攪拌し、100Lの水溶液を調製した。この水溶液中に、重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質由来ペプチド複合体を形成させこの複合体を含む水溶液を得た。
攪拌後、重炭酸-亜鉛-エンドウ豆タンパク質複合体を含む水溶液を限外濾過膜(マイクローザSLP-1053;旭化成工業社製:膜孔径10000)で処理して生成した重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質由来ペプチド複合体を含む濃縮液を6Lを回収した後、イオン交換水を加えながら、膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収し、凍結乾燥し重炭酸-亜鉛-エンドウ豆タンパク質複合体を含む乾燥粉末を110gを得た。次に、重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質由来ペプチド複合体乾燥粉末1gに含まれる亜鉛量48mg、鉄量は51mgであった。なお、本発明において亜鉛の測定は5-Br-PAPSを用いた直接法による。
【0035】
(実施例3)
ジャガイモ質由来ペプチド素材であるpotato Pepide HINUTE-AM(Solabia Group)200gを水50Lに溶解し、炭酸水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬社製)を158g加え良く攪拌した。この水溶液に対し、水25Lに対して硫酸銅5水和物(富士フイルム和光純薬社製)12.5gを加えた水溶液および水25Lに対し、塩化第二鉄6水和物(純正化学株式会社製食品添加物)27gを加え30分攪拌し、100Lの水溶液を調製した。この水溶液中に、重炭酸-銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材複合体を形成させこの複合体を含む水溶液を得た。
攪拌後、重炭酸-銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材複合体を含む水溶液を限外濾過膜(SM1812;Synder社製:膜孔径20000)で処理し、生成した重炭酸-銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材を含む濃縮液を10Lを回収した後、イオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し重炭酸-銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材を含む乾燥粉末100gを得た。次に、重炭酸-銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材乾燥粉末1gに含まれる銅量20mg、鉄量は50mgであった。なお、本発明において銅の測定はDiBr-PAESAを用いた直接法による。
【0036】
(実施例4)
サケタンパク質由来ペプチド素材であるSalmon Protein Hydrolysate(日成共益)1000gを水100Lに溶解し、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製食品添加物)を330g加え良く攪拌した。この水溶液に対し、水20Lに対して、塩化第二鉄6水和物(純正化学株式会社製食品添加物)54gを加えた水溶液を加え、30分攪拌した。次に、水40Lに対し、硫酸銅5水和物(関東化学株式会社食品添加物)25g加えた水溶液を30分攪拌した。
続いて、水40Lに対し、酢酸亜鉛(富士フィルム和光純薬社製食品添加物)22gを加えて30分攪拌し、200Lの水溶液を調製した。水溶液中には重炭酸-鉄-亜鉛-銅―サケタンパク質由来ペプチド複合体を形成させた水溶液を得た。
攪拌後、炭酸-鉄-亜鉛-銅―サケタンパク質由来ペプチド複合体を含む水溶液を、限外濾過膜(MQ2519;Synder社製:膜孔径50000)で処理し、生成した重炭酸-鉄-亜鉛-銅―サケタンパク質由来ペプチド複合体を含む濃縮液を20Lを回収した後、イオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収し、凍結乾燥し重炭酸-鉄-亜鉛-銅―サケタンパク質由来ペプチド複合体を含む乾燥粉末を120g得た。次に、炭酸-鉄-亜鉛-銅―サケタンパク質由来ペプチド複合体乾燥粉末1gに含まれる鉄量を測定した結果、鉄の含有量90mg、銅は37mg、亜鉛は54mgであった。
【0037】
(実施例5)
卵白タンパク質由来ペプチド素材であるペプチファイン(キユーピー株式会社)5gを水1Lに溶解し、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製食品添加物)を3.5g加え良く攪拌した。この水溶液に対し、水0.25Lに対して塩化第二鉄6水和物(純正化学株式会社製食品添加物)720mgを加えた水溶液を加え、30分間攪拌し、水溶液中は重炭酸-鉄―卵白タンパク質由来ペプチド複合体を形成させた水溶液を得た。
攪拌後、重炭酸-鉄―卵白タンパク質由来ペプチド複合体を含む水溶液を限外濾過膜(ビバフロー50 ザルトリウス社:膜孔径50000)で処理して生成した重炭酸-鉄―卵白タンパク質由来ペプチド複合体を含む濃縮液を240mlを回収した後、イオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し重炭酸-鉄―卵白タンパク質由来ペプチド複合体を含む乾燥粉末4.1gを得た。次に、重炭酸-鉄―卵白タンパク質由来ペプチド複合体乾燥粉末1gに含まれる鉄量を測定した結果、鉄の含有量35mgであった。
【0038】
〔評価結果〕
(試験例1)
実施例1で調製した鉄結合植物性ペプチド素材乾燥粉末100mgを市販の豆乳飲料200mlに加え溶解し、鉄強化豆乳飲料を調製した。この鉄強化豆乳飲料の鉄含量は、鉄結合植物性タンパク質素材による強化分を加えて3.6mg/100mlであった。鉄強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0039】
(試験例2)
実施例2で調製した亜鉛-鉄結合植物性ペプチド素材乾燥粉末100mgを市販の豆乳飲料200mlに加え溶解し、亜鉛強化豆乳飲料を調製した。この亜鉛-鉄結合強化豆乳飲料の亜鉛含量は、2.4mg/100ml、鉄含量3.6mg/100mlであった。亜鉛-鉄強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、亜鉛及び鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0040】
(試験例3)
実施例3で調製した銅-鉄-ジャガイモ質由来ペプチド素材粉末200mgを市販の乳飲料200mlに加え溶解し、銅―鉄強化乳飲料を調製した。この銅-鉄結合強化豆乳飲料の銅含量は、2.3mg/100ml、鉄含量5.1mg/100mlであった。銅-鉄強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、銅及び鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0041】
(試験例4)
実施例4で調製した鉄-亜鉛-銅結合サケタンパク質由来ペプチド素材乾燥粉末100mgを市販の乳飲料200mlに加え溶解し、ミネラル強化乳飲料を調製した。このミネラル強化乳飲料の鉄含量は、4.5mg/100ml、銅含量は1.8mg/100ml、亜鉛含量は2.5mg/100mLであった。このミネラル強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、ミネラル臭を感じたパネルの人数は0名であった。
【0042】
(試験例5)
実施例3で調製した鉄結合卵白タンパク質由来ペプチド素材乾燥粉末125mgを市販の乳飲料200mlに加え溶解し、鉄強化乳飲料を調製した。この鉄強化乳飲料の鉄含量は、2.1mg/100mlであった。鉄強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のミネラル結合ペプチドは、ミネラル臭を呈さず、長期間安定で保存性、耐熱性を有し、飲食品、医薬品及び飼料に適用できる。