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特開2023-147616ミネラル結合タンパク質およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147616
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ミネラル結合タンパク質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/17 20160101AFI20231005BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20231005BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L33/17
A23L33/16
A23K20/147
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055211
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 菜那
(72)【発明者】
【氏名】前山 和輝
(72)【発明者】
【氏名】上西 寛司
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
【Fターム(参考)】
2B150DC23
2B150DH07
2B150DH08
2B150DH09
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE05
4B018MD05
4B018MD06
4B018MD20
4B018ME14
4B018MF02
(57)【要約】
【課題】ミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有するという性質を示すことが判明し、微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないミネラル結合タンパク質を提供する。
【解決手段】本発明に係るミネラル結合タンパク質は、タンパク質に少なくとも1種類のミネラルが結合している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質素材に少なくとも1種類のミネラルが結合したミネラル結合タンパク質。
【請求項2】
タンパク質素材1重量部あたり、少なくとも1種類のミネラルが0.001~0.6重量部結合した請求項1に記載のミネラル結合タンパク質。
【請求項3】
少なくとも1種類のミネラルが生体の生理作用を有する微量元素である請求項1または2に記載のミネラル結合タンパク質。
【請求項4】
微量元素が鉄、銅または亜鉛から選択される少なくとも1種類のミネラルである請求項3に記載のミネラル結合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のミネラル結合タンパク質を配合した飲食品または飼料。
【請求項6】
少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質素材を含む溶液を混合するミネラル結合タンパク質の製造方法。
【請求項7】
炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液、少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質素材を含む溶液を混合するミネラル結合タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質を除くタンパク質素材にミネラルが結合したミネラル結合タンパク質およびその製造方法、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の維持には、鉄や亜鉛、銅などの微量ミネラルが必要であり、その中でも鉄はヘモグロビン合成に利用され、その欠乏は貧血を引き起こすだけでなく運動および認知機能等の低下を招くとことが知られている。亜鉛はタンパク質と結合して様々な機能を発揮し、その欠乏は皮膚炎、味覚や免疫機能等の障害を招くことが知られている。銅は生体内で機能する酵素に含まれており、エネルギーの生成等に関与していることが知られている。
【0003】
生体の維持に不可欠なこれらのミネラルには、それぞれ推奨される1日あたりの摂取量が公表されており、鉄は一日あたり7~10mg程度、亜鉛は8~12mg程度、銅は0.3~1mg程度である。これらの量のミネラルを日常的に飲食品から摂取することが望ましいが、食習慣や疾病、あるいは地域性等の要因により、飲食品のみでは充分量摂取することができないという事態も起こり得る。このため、飲食品からの摂取が難しい場合、鉄や亜鉛、銅といった様々な微量ミネラルを飲食品に添加し、補助的に摂取する方法が採られている。
【0004】
近年、鉄をはじめ様々なミネラルを含む補助食品が開発され市販されている。しかしながら、これらのミネラルの中で鉄や銅、亜鉛等は独特のミネラル臭を有するため、そのままでは食用に適さないという問題があった。
例えば、塩化第二鉄や硫酸第一鉄等の無機ミネラル食品添加物の場合、ミネラルに由来する呈味性やミネラル味が感じられる他、胃腸や粘膜を痛めるといった副作用を伴う場合があるため、その添加量を制限する必要があった。
【0005】
さらに、ヘム鉄や亜鉛酵母、銅酵母などの有機ミネラル食品添加物の場合、これら有機ミネラルを添加した飲食品では有機ミネラル食品添加物に含まれるミネラルに由来する呈味性やミネラル味だけでなくミネラルと結合した有機物由来の生臭さや独特の風味が問題となっていた。
【0006】
また、動物性タンパク質の摂取を制限する食習慣の場合、ヘム鉄に代表される有機ミネラル素材の摂取そのものが制限される。さらに、亜鉛や銅の摂取を目的とした酵母を使用した有機ミネラル素材では、酵母の風味だけでなく酵母の溶解性が良好でないため、沈殿や濁りが添加した飲食品で観察されることなどから、その添加量を制限する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2884045号
【特許文献2】特許第3223958号
【特許文献3】特許第3596695号
【特許文献4】特許5155502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、炭酸イオンや炭酸水素イオンを介してミネラルと乳タンパク質を結合させミネラル特有の収斂味のない中性条件の水溶液中で、安定な炭酸及び/又は炭酸水素イオン-ミネラル-乳タンパク質複合体を開発してきた(特許文献1:鉄-ラクトフェリン複合体、特許文献2:金属結合ラクトフェリン、特許文献3:鉄カゼイン複合体、特許文献4:鉄含有タンパク質組成物)。
しかしながら、これらの従来技術においては、すべて乳タンパク質やそれらに由来するペプチドが使用されており、乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質は使用されてはいなかった。
【0009】
本発明の目的は、少なくとも1種類のミネラルを多量に結合したミネラル結合タンパク質、少なくとも1種類のミネラルを多量に結合したミネラル結合タンパク質の製造方法、およびそれらを配合したミネラル補給飲食品、医薬および飼料を提供することを課題することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質と各種ミネラルとの結合性について鋭意研究を進めたところ、これまで報告されていた乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質が、複数種類のミネラルを同時かつ多量に結合させることができることを見出した。
換言すれば、本発明は、少なくとも1種類のミネラル、特に生体に必須の微量ミネラルと、炭酸及び/又は重炭酸を介して結合し、安定な複合体を形成可能なタンパク質を探索した中で、乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質が乳タンパク質ラクトフェリンやカゼインタンパク質、ホエイタンパク質と同じく少なくとも1種類の多量のミネラルを結合可能であることを見出しなされたものである。
【0011】
この複数種類のミネラルを結合した動物性タンパク質および植物性タンパクは、結合したミネラルに由来するミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有するという性質を示し、これらを微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次のものからなる。
【0012】
(1)タンパク質素材に少なくとも1種類のミネラルが結合したミネラル結合タンパク質。
(2)タンパク質素材1重量部あたり、少なくとも1種類のミネラルが0.001~0.6重量部結合した上記(1)に記載のミネラル結合タンパク質。
(3)少なくとも1種類のミネラルが生体の生理作用を有する微量元素である上記(1)または(2)に記載のミネラル結合タンパク質。
(4)微量元素が鉄、銅または亜鉛から選択される少なくとも1種類のミネラルである上記(3)に記載のミネラル結合タンパク質。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載のミネラル結合タンパク質を配合した飲食品または飼料。
(6)少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質素材を含む溶液を混合するミネラル結合タンパク質の製造方法。
(7)炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液、少なくとも1種類のミネラルを含む溶液、及びタンパク質素材を含む溶液を混合するミネラル結合タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質において、少なくとも1種類のミネラルを同時かつ多量に結合させることにより、ミネラル臭を呈さず、長期間安定で、耐熱性を有し、微量元素補給の目的で飲食品、医薬品及び飼料に配合しても劣化しないという格別の効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<素材>
本発明に使用する動物性タンパク質素材としては、例えば、牛肉や鳥肉、鶏卵、魚肉等のタンパク質等を挙げることができる。本発明に使用する植物性タンパク質素材としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質等を挙げることができる。また、ヒヨコ豆、ソラマメ、リョクトウ、ジャガイモや小麦、米といった植物から得られるタンパク質を使用しても良い。
【0015】
動物性および植物性タンパク質を含有する水溶液としては、例えば、大豆タンパク質の場合、濃縮タンパク質、分離タンパク質等を製造する工程中に生じるタンパク質含有水溶液をそのまま使用する他、乾燥粉末の状態で市販されている大豆タンパク質素材を再溶解し、調製した水溶液を使用することもできる。他の動物性および植物性タンパク質や植物性タンパク質を使用した場合も同様である。また、タンパク質素材の中でも、特に植物性タンパク質を含む素材は、製造する過程において、不溶性の成分が含まれる場合であっても、可溶のタンパク質が含まれていれば構わない。ただし、一般的な方法に従って不溶性の成分を除いて使用するのが好ましい。
【0016】
<調製方法>
本発明に係るミネラル結合タンパク質は、乳タンパク質以外のタンパク質を含む溶液に、1種類または複数種のミネラルを含む溶液を加えて調整することができる。さらに、乳タンパク質以外の動物性タンパク質や植物性タンパク質を含む溶液に1種類または複数種のミネラルを含む溶液を加えた後、炭酸イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン及び重炭酸イオンを含む溶液を混合することにより調製することができる。また、他の動物性タンパク質や植物性タンパク質を含む溶液に、炭酸イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン及び重炭酸イオンを含む溶液を加えた後、1種類または複数種のミネラルを含む溶液を混合することにより調製することができる。詳細は後述する。
【0017】
<ミネラル>
本発明に使用できるミネラルとしては、塩化第二鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、硝酸第一鉄、クエン酸鉄、炭酸亜鉛 、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、塩化銅、硫酸銅等が挙げられる。また、酢酸鉄、酢酸亜鉛、酢酸銅といった酢酸塩等を使用することも可能である。
【0018】
添加するミネラル量は、可溶性のタンパク質1重量部に対し、ミネラル0.0001~0.8重量部、好ましくは0.0005~0.7重量部、より好ましくは0.001~0.6重量部である。添加するミネラルの1種類の量が上記範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルに起因する沈殿が生じ、完全に結合せずミネラルがイオンの状態で残存するため好ましくない。ただし、複数種類のミネラルが上記範囲内であれば、総量の添加量が上記範囲内を超えても問題とならない。
【0019】
本発明に使用できる炭酸、重炭酸は、炭酸水、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウムの炭酸水素塩や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、またはこれらの混合物を使用することができる。
炭酸、重炭酸、及び炭酸と重炭酸を含有する場合、その合計量は可溶性のタンパク質1重量部に対し、0.0001~100重量部、好ましくは0.0005~75重量部、より好ましくは0.001~50重量部である。この数値範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルやタンパク質に起因する沈殿が生じるため好ましくない。
【0020】
また、気体状の二酸化炭素の吹き込み、液体または固体状の二酸化炭素を添加した溶液、炭酸水等を利用してもよい。またこれらの溶液には、その他の成分、例えば糖質、脂肪等が含まれていても構わない。
炭酸、重炭酸、及び炭酸と重炭酸を含有する場合、その合計量は可溶性のタンパク質1重量部に対し、0.0001~100重量部、好ましくは0.0005~75重量部、より好ましくは0.001~50重量部である。この数値範囲を外れると、製造中あるいは保存中に添加したミネラルやタンパク質に起因する沈殿が生じるため好ましくない。
【0021】
<製造方法>
本発明に係るミネラル結合タンパク質の製造方法については、動物性および植物性タンパク質と重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、鉄や亜鉛、銅等の食品添加物として認められたミネラル塩を含む水溶液を加え十分に混合する方法、もしくは動物性および植物性タンパク質と鉄や亜鉛、銅等の食品添加物として認められたミネラル塩を含む水溶液に、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液を加え十分に混合する方法があり、これにより炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を形成することができる。
本発明では、動物性および植物性タンパク質と重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、ミネラル塩類を含む水溶液を添加し、混合する製造方法、動物性および植物性タンパク質とミネラル塩類を含む水溶液に、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液を添加し、混合する製造方法のどちらにおいても、各水溶液のpHや温度等を調整する必要はない。
植物性タンパク質を含む素材に含まれる可溶性のタンパク質のいくつかは、ミネラル塩類を含む酸性水溶液を多量に添加して溶液のpHが低下すると、溶液内に不溶性の物質を生じることがある。不溶性の物質が生じた後に炭酸水素イオンを含む溶液を添加しても不溶性の物質は完全に消失することはないため、このような植物性タンパク質を含む素材を用いて炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を形成させる場合は、動物性および植物性タンパク質と重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、ミネラル塩類を含む水溶液を添加し、混合する製造方法を選択する方が好ましい。
【0022】
また、上記の製造法においては、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン含む水溶液と、ミネラル塩類含む水溶液を混合させず、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含む水溶液に、動物性および植物性タンパク質が予め含まれているか、ミネラル塩類含む水溶液に動物性および植物性タンパク質が予め含まれていることが好ましい。動物性または植物性タンパク質が予め含まれていない状態で、重炭酸塩及び/または炭酸塩に由来する重炭酸イオン及び/又炭酸イオンを含む水溶液とミネラル塩類を含む水溶液とを混合させると、溶液中の水酸化イオンとミネラルイオンが反応し沈殿物が生じるため好ましくない。
【0023】
炭酸及び/又は重炭酸-ミネラルータンパク質複合体を形成させた水溶液は、このままミネラル強化タンパク質を含む水溶液として使用しても良いが、溶液中において形成させた複合体は容易に崩壊することはないため、複合体形成後に、限外濾過膜等でこの水溶液を処理して水溶液から炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を濃縮液として回収してもよい。
【0024】
上記で説明したように、溶液を混合させて得られる炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を濃縮液として回収する場合には、複合体を濃縮可能な限外濾過膜を使用して処理することで、濃縮液中にミネラルと結合したタンパク質が生成する。溶液に含まれる炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を高める場合には、濃縮に使用した限外濾過膜をそのまま使用し、脱イオン水を炭酸及び/又は重炭酸-ミネラル-タンパク質複合体を含む濃縮液に加え膜処理を行うことで脱塩等の処理を行えば良い。膜処理の際の温度は特に指定するものではないが、雑菌等の繁殖を抑制するためにも約10℃以下で行うのが好ましい。
【0025】
ミネラル結合タンパク質については、限外濾過膜で処理することにより、複合体に含まれないタンパク質やミネラルを除去することができる。複合体に含まれないタンパク質を除く事で、タンパク質当たりの金属量を高めた素材を得ることができる。この処理の際に使用できる膜の材質や膜濾過の方式は一般的に使用されているものであればどのようなものを用いてもよい。膜の材質はポリアクリルアミド、再生セルロース、ポリエチレン、4フッ化エチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の有機膜や、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ステンレス、ガラス等の無機膜を例示できる。膜モジュールの種類は、プリーツ型モジュール、スパイラル型モジュール、モノリス型モジュール、チューブ型モジュール等を例示できる。膜濾過の方式は全量濾過方式、クロスフロー方式、ダイアフィルトレーション方式等を例示できる。なお、限外濾過膜で処理する場合は、好ましくは分画分子量1000以上の限外濾過膜を使用して濃縮液中にミネラル結合タンパク質を回収することができる。濃縮で得た濃縮液中のタンパク質と結合していないミネラルや炭酸水素塩または炭酸塩に由来する塩を除去するために濃縮に使用した限外濾過膜をそのまま使用して、好ましくは分画分子量1000以上の限外濾過膜を使用して脱塩処理をすることができる。脱塩処理を実施することで、素材あたりのミネラルと結合したタンパク質量及びミネラル含量を高めた素材を得ることができる。
限外濾過膜、透析膜、イオン交換樹脂等で処理することにより、未反応のミネラルを除去することが望ましい。なお、限外濾過膜で処理する場合は、好ましくは分画分子量3000以下の限外濾過膜を使用して濃縮液中にミネラル結合タンパク質を回収することができる。また、透析膜で処理する場合は、好ましくは分画分子量3000以下の透析膜を使用して50倍以上のイオン交換水に対して適宜イオン交換水を交換しながら12時間以上の透析を行うことができる。さらに、イオン交換樹脂で処理する場合は、好ましくは陰イオン及び陽イオン交換樹脂混合型の樹脂を使用してミネラル結合タンパク質を回収することができる。
【0026】
上記ミネラル結合タンパク質については、ミネラル剤等として、濃縮等により液体の状態で使用することもできるし、凍結乾燥や噴霧乾燥をして粉末の状態で使用することもできる。
【0027】
調製されたミネラル結合タンパク質は、ミネラル特有のミネラル臭や呈味性がなく、長期間にわたり安定で、使用したタンパク質の性質を有しているため、タンパク質を使用する医薬、飲食品および資料等に配合するタンパク質ならびにミネラル元素補給素材として有用である。
【0028】
こうして、本発明者は、タンパク質に1種類のミネラルを結合させることが可能だけでなく複数種類のミネラルを同時に結合させることができることを初めて見出した。
【実施例0029】
(実施例1)
エンドウ豆タンパク質 Empro E86(サンブライト社)200gを水60Lに溶解し、常法に従い、不溶物を除いたタンパク質水溶液50Lを得た。この水溶液に、炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製 食品添加物)を160g加え良く攪拌した。その後、水25Lに対し硫酸第一鉄7水和物14gと、水25Lに対し、硫酸銅5水和物6.2gを加えた水溶液を加え、30分間攪拌した。水溶液中には、重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質由来タンパク質複合体が形成され、この複合体を含む水溶液100Lを得た。
続いて、重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質由来タンパク質複合体を含む水溶液を、限外濾過膜(MQ2519;Synder社製)で処理して生成した重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質由来タンパク質複合体を含む濃縮液5Lを回収し、この濃縮液にイオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し、重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質複合体を含む乾燥粉末を80g得た。次に、重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質由来タンパク質複合体紛末のタンパク質1gあたりの鉄量は40mg、銅量は20mgであった。なお、本発明において鉄の測定はニトロソPSAP法、銅の測定はDiBr-PAESAを用いた直接法による。
【0030】
(実施例2)
エンドウ豆タンパク質素材であるEmpro E86 HV(サンブライト)80gを水12Lに溶解し、常法に従い、不溶物を除いたタンパク質水溶液10Lを得た。この水溶液に、炭酸水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬社製 食品添加物)を23g加え良く攪拌した。その後、水5Lに対して、酢酸亜鉛2水和物3gを加えた水溶液と、水5Lに対して塩化第二鉄6水和物4gをそれぞれ加え、30分間攪拌した。水溶液中には、重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質複合体が形成され、この複合体を含む水溶液20Lを得た。
続いて、重炭酸-亜鉛-エンドウ豆タンパク質複合体を含む水溶液を、限外濾過膜(MK1812F:Synder社)で処理して生成した重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質複合体を含む濃縮液を1.8kgを回収し、この濃縮液にイオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し、重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質複合体を含む乾燥粉末を31g得た。次に、重炭酸-亜鉛-鉄-エンドウ豆タンパク質複合体乾燥物のタンパク質1gあたりの亜鉛は36mg、鉄量は30mgであった。なお、本発明において亜鉛の測定は5-Br-PAPSを用いた直接法による。
【0031】
(実施例3)
卵白タンパク質素材であるEAP-sport PLUS(セティ株式会社)200gを水50Lに溶解し、炭酸水素アンモニウム(富士フィルム和光純薬社製 食品添加物)を160g加え良く攪拌した。その後、水15Lに対して、硫酸銅5水和物(関東化学株式会社 食品添加物)7.5gを加えた水溶液と、水15Lに対して硫酸第一鉄7水和物31g、水20Lに対して酢酸亜鉛2水和物6.5gをそれぞれ加え、30分間攪拌した。水溶液中には重炭酸-鉄-銅-亜鉛―卵白タンパク質複合体が形成され、この複合体を含む水溶液100Lを得た。
続いて、重炭酸-鉄-銅-亜鉛―卵白タンパク質複合体を含む水溶液を、限外濾過膜(MK2519;Synder社製)で処理して生成した重炭酸-鉄-銅-亜鉛―卵白タンパク質複合体を含む濃縮液10Lを回収し、この濃縮液にイオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し重炭酸-鉄-銅-亜鉛―卵白タンパク質複合体を含む乾燥粉末を190g得た。次に、重炭酸-鉄-銅-亜鉛-卵白タンパク質複合体乾燥粉末1gあたりの鉄は30mg、銅は5mg、亜鉛は11mgであった。
【0032】
(実施例4)
分離大豆タンパク質であるプロファム781(エー・ディー・エム・ジャパン株式会社)6gを水0.8Lに溶解し、常法に従い、不溶物を除いたタンパク質水溶液0.5L得た。炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製 食品添加物)を3.5g加え良く攪拌した。その後、水0.5Lに対して、塩化第二鉄6水和物720mgを加えた水溶液を加え30分間攪拌した。水溶液中には重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体を形成され、この複合体を含む水溶液1Lを得た。
続いて、重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体を含む水溶液を限外濾過膜(ビバフロー50 ザルトリウス社)で処理して生成した重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体を含む濃縮液を100mlを回収し、この濃縮液にイオン交換水を加えながら膜処理することで脱塩した。
その後、濃縮液を回収して凍結乾燥し重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体を含む乾燥粉末を3.9g得た。次に、重重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体1gに含まれる鉄量を測定した結果、鉄の含有量40mgであった。
【0033】
〔評価結果〕
(試験例1)
実施例1で調製した重炭酸-鉄-銅-エンドウ豆タンパク質複合体の乾燥粉末100mgを、市販の豆乳飲料200mlに加え溶解し、鉄および銅強化豆乳飲料を調製した。この鉄-銅強化豆乳飲料の鉄含量は、鉄-銅結合植物性タンパク質素材による強化分を加えて鉄量2.5mg/100ml、銅量1.1mg/100mlであった。鉄および銅強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0034】
(試験例2)
実施例2で調製した亜鉛-鉄結合植物性タンパク質素材の乾燥粉末100mgを市販の豆乳飲料200mlに加え溶解し、亜鉛-鉄強化豆乳飲料を調製した。この亜鉛-鉄強化豆乳飲料の亜鉛含量は、1.8mg/100ml、鉄含量は、1.5mg/100mlであった。亜鉛-鉄強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0035】
(試験例3)
実施例3で調製した重炭酸-鉄-銅-亜鉛-卵白タンパク質複合体の乾燥粉末100mgを市販の乳飲料200mLに加えて溶解し、鉄-銅-亜鉛強化乳飲料を調製した。この鉄-銅-亜鉛強化乳飲料における鉄含量は、1.5mg/100mL、銅含量は、0.3mg/100mL、亜鉛含量は0.6mg/100mLであった。鉄-銅-亜鉛強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、鉄味を感じたパネルの人数は0名であった。
【0036】
(試験例4)
実施例6で調製した重炭酸-鉄-大豆タンパク質複合体を乾燥粉末100mgを市販の豆乳飲料200mlに加え溶解し、鉄-大豆タンパク質ミネラル強化乳飲料を調製した。このミネラル強化乳飲料の鉄含量は、3mg/100mLであった。このミネラル強化乳飲料の風味を10名のパネルで評価したところ、ミネラル臭を感じたパネルの人数は0名であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のミネラル結合タンパク質は、ミネラル臭を呈さず、長期間安定で保存性、耐熱性を有し、飲食品、医薬品及び飼料に適用できる。