(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147648
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】排ガス処理設備の洗浄方法、洗浄液及び洗浄剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/68 20060101AFI20231005BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20231005BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20231005BHJP
B01D 47/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01D53/68 220
F28G9/00 L
B01D53/78 ZAB
B01D47/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055285
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原島 慎吾
【テーマコード(参考)】
4D002
4D032
【Fターム(参考)】
4D002AA18
4D002AA22
4D002AA26
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA05
4D002BA16
4D002CA01
4D002EA01
4D002EA02
4D002EA05
4D002EA13
4D002GA01
4D002GB09
4D032AC01
4D032BB05
4D032CA10
(57)【要約】
【課題】排ガス処理設備における堆積物や付着物などの固形物を短時間で十分に除去することができる排ガス処理設備の洗浄方法を提供する。
【解決手段】排ガス処理設備は、排水を燃焼処理する燃焼室1と、該燃焼室1の内壁面に沿って水を流すノズルと、該ノズルに水を供給する給水ラインと、1次洗煙室11と、スクラバー20等を有する。スクラバー20の固形物を除去する場合、薬注装置50からアルカリ系洗浄剤水溶液を下部水槽44に注入し、pH8~14とする。循環ポンプ23を作動させてノズル21から散水してスクラバー20内を洗浄する。ミストキャッチャー40の上側からpH8~14の洗浄液を散水してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄方法であって、
前記排ガス処理設備の洗浄対象をpH8~14のアルカリ洗浄液で洗浄する排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項2】
前記排ガス処理設備は、熱により排ガスを分解処理する除害装置と、該除害装置からのガスが導入される湿式スクラバーとを有しており、
前記排ガス処理設備の洗浄方法は、該湿式スクラバー又はその構成部材を洗浄する方法である、請求項1の排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項3】
前記湿式スクラバーは、下部水槽と、該下部水槽から水が循環ポンプによって循環供給される散水手段とを有しており、
前記排ガス処理設備の洗浄方法は、該下部水槽に洗浄剤水溶液を添加する工程と、洗浄剤水溶液が添加された下部水槽内の水を前記散水手段に供給する工程とを有している、請求項2の排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項4】
前記湿式スクラバーはミストキャッチャーを備えており、
該ミストキャッチャーの上側に散水器を配置し、
該散水器にpH8~14のアルカリ洗浄液を供給してミストキャッチャー及びそれよりも下側の湿式スクラバー内部の洗浄を行う、請求項2の排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項5】
前記湿式スクラバーから一部の構成部材を取り外し、pH8~14のアルカリ洗浄液に浸漬して洗浄する、請求項2の排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項6】
前記アルカリは、コリン又はアンモニアである、請求項1~5のいずれかの排ガス処理設備の洗浄方法。
【請求項7】
電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄液であって、
pH8~14のアルカリ溶液よりなる湿式排ガス処理設備の洗浄液。
【請求項8】
前記アルカリは、コリン又はアンモニアである、請求項7の排ガス処理設備の洗浄液。
【請求項9】
電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄液を調製するための洗浄剤であって、
該洗浄液をpH8~14のアルカリ溶液とするためのアルカリ剤よりなる、排ガス処理設備用洗浄剤。
【請求項10】
前記アルカリ剤は、コリン又はアンモニアである、請求項9の排ガス処理設備の洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理設備の洗浄方法、洗浄液及び洗浄剤に係り、詳しくは、半導体製造プロセス等からの排ガスを処理するための排ガス処理設備の洗浄方法、洗浄液及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、LED、太陽電池等の製造プロセスからは、ペルフルオロ化合物などを含んだ排ガスが排出される。なお、この排ガス中にはWF6、CH2F2、Cl2、BCl3、F2、HF、SiH4、NH3、PH3、TEOS(テトラエトキシシラン)、TRIS(トリエトキシシラン)、TiCl4などが含まれることもある。このような排ガスを処理する排ガス処理設備(除害装置)では、燃焼、電気加熱、プラズマなどを用いて、ペルフルオロ化合物等を燃焼(酸化)又は熱分解反応させた後、当該装置に組み込まれた洗煙室で排ガスを洗浄し、ガス中のF2等を吸収除去する。
【0003】
この排ガスの燃焼処理装置として、燃焼室の内壁面に沿って水を流下させ、燃焼生成物の内壁面への付着を防止すると共に、内壁面を燃焼熱から防護するよう構成した水冷式燃焼方式の除害装置がある(特許文献1)。
【0004】
排ガスの浄化処理装置として湿式スクラバーが広く用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-24741号公報
【特許文献2】実開昭63-66132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水冷式燃焼方式の除害装置にあっては、除害装置内部や配管等において堆積物が生成し易く、除害装置を停止して堆積物を除去する作業が必要となる。なお、堆積物としてはタングステン(W)の酸化物などが挙げられるが、これ以外の固形物も生成する。
【0007】
従来の除害装置にあっては、堆積物が生成した場合、装置を停止し、作業者が洗浄作業を行うようにしており、手間、コスト及び時間がかかっていた。
【0008】
特許文献2には、湿式スクラバー内の底部にジェットスプレーノズルを設置し、上向きに洗浄水を噴出させてスクラバー内の多孔板に吹き付け、物理的に堆積付着物を剥離除去することが記載されているが、湿式スクラバー内部を十分に洗浄することはできない。
【0009】
本発明は、排ガス処理設備における堆積物や付着物などの主にタングステンの酸化物を主成分とする固形物を短時間で十分に除去することができる排ガス処理設備の洗浄方法、洗浄液及び洗浄剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の排ガス処理設備の洗浄方法は、電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄方法であって、前記湿式排ガス処理設備の洗浄対象をpH8~14のアルカリ洗浄液で洗浄する。
【0011】
本発明の一態様では、前記排ガス処理設備は、熱により排ガスを分解処理する除害装置と、該除害装置からのガスが導入される湿式スクラバーとを有しており、前記排ガス処理設備の洗浄方法は、該スクラバー又はその構成部材を洗浄する方法である。
【0012】
本発明の一態様では、前記湿式スクラバーは、下部水槽と、該下部水槽から水が循環ポンプによって循環供給される散水手段とを有しており、前記排ガス処理設備の洗浄方法は、該下部水槽に洗浄剤水溶液を添加する工程と、洗浄剤水溶液が添加された下部水槽内の水を前記散水手段に供給する工程とを有している。
【0013】
本発明の一態様では、前記湿式スクラバーはミストキャッチャーを備えており、該ミストキャッチャーの上側に散水器を配置し、該散水器にpH8~14のアルカリ洗浄液を供給してミストキャッチャー及びそれよりも下側の湿式スクラバー内部の洗浄を行う。
【0014】
本発明の一態様では、前記湿式スクラバーから一部の構成部材を取り外し、pH8~14のアルカリ洗浄液に浸漬して洗浄する。
【0015】
本発明の洗浄液は、電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄液であって、pH8~14のアルカリ溶液よりなる。
【0016】
本発明の洗浄剤は、電子部品製造プロセスからの排ガスを処理する排ガス処理設備の洗浄液を調製するための洗浄剤であって、該洗浄液をpH8~14のアルカリ溶液とするためのアルカリ剤よりなる。
【0017】
本発明の一態様では、前記アルカリは、コリン又はアンモニアである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、排ガス処理設備における固形物を洗浄剤により短時間で十分に溶解及び/又は分散除去することができる。本発明を半導体等の製造設備に適用した場合には、半導体等の製造プロセスマシンの稼動効率を向上させることができ、半導体等の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1,2を参照して実施の形態に係る方法が適用される除害設備の一例について説明する。
【0021】
この除害設備では、塔状の燃焼室1の上部に設けられたバーナ2に対し、半導体製造プロセスからの排ガスとブロワーからの空気が供給され、燃焼室1内において排ガスが燃焼処理される。
【0022】
なお、排ガスとしては電子部品製造プロセスで発生するガスが好適であり、特にWF6を含有するものが好適である。シラン類(SiH4,Si2H6,SiH2Cl2など)、シラン以外の他のガス成分(B2H6,PH3,NH3,N2O,H2,H2Se,GeHe,AsH3,CH4,C2H4,CO,Cl2,F2,ClF3,NF3,CH2F2,NO,O2,CF4,C4F8,C5F8,CHF3など)を含んでいてもよい。
【0023】
燃焼室1の内壁面に沿って水を流すようにノズル(図示略)が設けられており、該ノズルに対して給水ラインによって水が供給される。このノズルから流出した水が燃焼室1の内壁面を水膜状に流れ下り、内壁面が燃焼熱から防護される。なお、燃焼室1の内壁面を水が水膜状に流れることにより、燃焼ガス中の水可溶成分を吸収すると共に、微粒子を捕捉する。また、ガス温度を低下させる。
【0024】
内壁面を流れ下った水は、燃焼室底部のピット1aに溜まる。
【0025】
前記ノズルへの給水ラインは、配管3、ポンプ4、配管5、該配管5から分岐した配管6,7を有している。配管6は上記ノズルに接続され、配管7は燃焼室1の底部のピット1aに給水するように設けられている。
【0026】
燃焼室1に隣接して1次洗煙室11が設置されている。燃焼室1の下部と1次洗煙室11の下部同士はダクト12によって連通しており、燃焼室1からのガスが該ダクト12を介して1次洗煙室11内に導入され、1次洗煙室11内を上昇する。
【0027】
なお、燃焼室1のピット1a内の水の一部は、該ダクト12を通って1次洗煙室11のピット11aにオーバーフローにより流出する。燃焼室1のピット1a内の水の一部は、ダクト12とは別の水移送配管によってピット11aに移送されてもよい。
【0028】
1次洗煙室11の底部のピット11aの水がポンプ14及び配管15を介して散水器16によって散水される。1次洗煙室11内を上昇してきたガスが、散水器16から散水された水と接触してガス中の水可溶成分や微粒子が水に吸収ないし捕捉される。
【0029】
1次洗煙室11を通り抜けたガスは、ガス出口17からダクト18及び送風機19により、ガス導入口25を通って湿式スクラバー20に導入される。
【0030】
湿式スクラバー20内の上部のノズル21(散水手段)に対し、湿式スクラバー20内の底部の水が循環ポンプ23及び配管22によって供給される。ガスは、該ノズル21から散水された水と接触して水可溶成分と微粒子が水に吸収ないし捕捉された後、流出口26から流出する。湿式スクラバー20には洗浄用水が配管24によって補給される。
【0031】
燃焼室1,1次洗煙室11及びスクラバー20の底部の水は、配管31,32,33を介して取り出され、排水処理設備(図示略)に送水されて処理される。
【0032】
湿式スクラバー20の構成の詳細を
図2に示す。湿式スクラバー20内の上部には、ミストキャッチャー40が設けられている。ノズル21の下側にはグレイチング41が設けられている。
【0033】
湿式スクラバー20の下部水槽44の一部は側方に張り出しており、その上側にポンプ23が設置されている。下部水槽44内の水は、配管22aによってポンプ23に吸引され、配管22を介してノズル21に送水される。
【0034】
ノズル21から散水された水は、中間プレート42上に落下し、該中間プレート42に設けられた落水孔43を通って下部水槽44内に落下する。
【0035】
前記ガス流入口25は、中間プレート42よりも上側の湿式スクラバー側壁面に設けられている。
【0036】
下部水槽44に前記配管24が接続されている。下部水槽44の側面の上位箇所に溢流口45が設けられている。下部水槽44内の水位が該溢流口45よりも高くなると、下部水槽44内の水が溢流口45から中継タンク46に流出し、該中継タンク46から配管47を介して前記配管33に流出する。
【0037】
下部水槽44内の底部と配管47とを連通するように配管48が設けられており、該配管48に弁49が設けられている。弁49は下部水槽44から水抜きする場合のみ開とされ、その他のときは閉とされている。
【0038】
下部水槽44に対し、薬注装置50から洗浄剤の水溶液が配管51を介して注入可能とされている。薬注装置50は、洗浄剤の水溶液を貯留するタンクと、薬注ポンプと、該薬注ポンプを制御する制御回路とを有している。
【0039】
この実施の形態では、配管22と中継タンク46にそれぞれpH計52,53が設けられており、pH計52,53の検出信号が該制御回路に送信される。
【0040】
この湿式スクラバー20の固形物除去洗浄を行うには、送風機を停止した後、制御回路に洗浄開始指令信号を入力する。この信号が与えられると、制御回路は薬注ポンプを始動させ、pH計52の検出pHが8~14、特に10~13、とりわけ11~13となるように薬注を行う。
【0041】
薬注装置50によって湿式スクラバー20に洗浄剤水溶液を薬注することにより、ノズル21からpH8~14のアルカリ溶液よりなる洗浄液が噴出し、堆積物や付着物などの固形物が溶解及び/又は分散する。
【0042】
上記実施の形態では、排ガス処理を停止した状態で湿式スクラバー20の洗浄を実施しているが、排ガス処理を継続した状態で洗浄を実施してもよい。また、洗浄は定期的に実施してもよく、固形物が付着して排気能力や排ガス処理性能が落ちた場合などに実施してもよい。
【0043】
このように、この洗浄方法によると、スクラバー20の固形物をpH8~14、特にpH10~13、とりわけpH11~13のアルカリ洗浄液によって短時間で十分に溶解除去することができ、作業時間の短縮及び作業労務コストの低減を図ることができる。
【0044】
また、排ガス処理を継続した状態で洗浄を実施する態様にあっては、排ガス処理設備の停止に伴う半導体製造プロセスの稼動停止も防止され、生産性が向上する。
【0045】
洗浄剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メタ珪酸ナトリウム等の無機アルカリ剤、コリン、TMAH等の有機系アルカリ剤などのアルカリ系薬剤が好適であるが、これに限定されない。洗浄剤は、アルカリ系薬剤の他に、シリカスケール洗浄剤や、発泡剤(過酸化水等)やキレート剤(EDTA、ポリリン酸等)などの溶解補助剤、カルシウムスケール抑制剤、スライムコントロール剤(ジクロログリオキシム、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、クロロスルファミン酸、ビス-1,4-ブロモアセトキシ-2-ブテン、アメトリン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)などを含んでもよい。アルカリ剤は、電子部品工場等からの廃アルカリであってもよい。
【0046】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。例えば、上記実施の形態では、循環ポンプ23によりノズル21から洗浄剤水溶液を流出させているが、下部水槽44内に水中ポンプを配置し、ミストキャッチャー40の上側に散水器を配置し、水中ポンプの吐出水をホースを介して該散水器に供給して散水し、ミストキャッチャー40やその下側の領域の固形物を溶解及び/又は分散除去するようにしてもよい。
【0047】
この水中ポンプは、循環ポンプ23の近傍に設けた下部水槽点検口を介して下部水槽44内に配置することができる。また、ホースは、該下部水槽点検口を介して湿式スクラバー20外に引き出し、湿式スクラバー20の側面の点検窓(図示略)又は流出口26を通してスクラバー20内の上部に引き込むことができる。
【0048】
上記実施の形態では、アルカリ洗浄剤水溶液を下部水槽44に添加し、下部水槽44内の水をpH8~14の洗浄液としているが、薬注装置50のタンク内にpH8~14のアルカリ洗浄液を貯えておき、この洗浄液をノズル21やミストキャッチャー40の上側の散水器に供給するようにしてもよい。
【0049】
上記実施の形態では、湿式スクラバー内部を洗浄液で洗浄しているが、湿式スクラバーの構成部材(例えばノズル、ミストキャッチャー、下部水槽など)をスクラバーから取り外し、pH8~14の洗浄液を貯えた洗浄槽内の洗浄液に浸漬して洗浄するようにしてもよい。
【0050】
上記実施の形態は湿式スクラバー20の固形物を除去するものとしているが、1次洗煙室11や送風機19などの他の洗浄対象をpH8~14のアルカリ洗浄液で洗浄するようにしてもよい。この場合も、洗浄液を循環させて洗浄対象に供給してもよく、構成部材を取り外して洗浄液に浸漬し、洗浄してもよい。
【0051】
上記実施の形態では、除害装置は「燃焼式」であるが、これに限定されず、電熱式やプラズマ式などの熱を利用して除害するものであればよい。
【実施例0052】
[試験例1]
各種アルカリ水溶液による固形物の溶解試験を行った。なお、参考例として、超純水(UPW)に対する溶解性も試験した。
【0053】
<試験方法>
≪サンプル固形物≫
半導体製造プロセスの除害装置後段に設置されたスクラバーから採取した堆積物をサンプルとした。成分を分析したところ、W含有率がドライベースで約55wt%、Siがドライベースで約10wt%であった。
【0054】
≪アルカリの種類及び濃度≫
アルカリとしてNaOH、コリン、及びアンモニアの水溶液を用いた。濃度は、重量%(wt%)として0.01、0.1、1wt%とした。
【0055】
≪試験手順≫
試験手順は以下の通りとした。
i) 固形物を0.3g(初期量y)とり、300mlのアルカリ水溶液に加える。
ii) スターラーで10分間撹拌する。
iii) 上記ii)の溶液を1μmのガラスフィルターで吸引濾過し、フィルター上の残渣の乾燥重量を測定する。
iv) 固形物の初期量のうち、ガラスフィルターを透過した量(x)の割合を、溶解率として算出する。
すなわち、
溶解率=(1-x/y)×100%
である。
v) 残渣のSEM EDXを測定する。
【0056】
<試験結果1>
各アルカリ水溶液に対する固形物の溶解性を調べた。結果を表1及び
図3に示した。
【0057】
【0058】
表1及び
図3のとおり、撹拌時間10分の条件においては、コリン、アンモニアが高い溶解性を示すことが分かった。
また、アルカリの濃度が高くなるほど、溶解率が高くなることが示唆された。
一方で、NaOHでは、濃度が増加しても、溶解率が高くなっていない場合があった。
【0059】
<試験結果2>
固形物の溶解に必要な濃度及び撹拌時間の検討を行った。結果を表2及び
図4に示す。
【0060】
【0061】
表2及び
図4のとおり、コリン0.1wt%の場合、溶解する固形物成分が残存していると、撹拌時間の増加に伴い、徐々に反応が進み、溶解率が増加することが認められた。
コリン1wt%の場合、アルカリの濃度が固形物濃度に対して十分に高いと、反応時間が短くても溶解することが認められた。
【0062】
<考察>
図4の結果を見ると、1wt%のコリンとアンモニアが高い溶解率を示した。
これらのことから、高濃度のコリンとアンモニアは、本固形物の溶解能が高いことが認められた。
【0063】
[試験例2]
コリン水溶液に対する固形物(スクラバーから採取した堆積物)の添加量を異ならせた場合の溶解試験を行った。
【0064】
<試験方法>
100mLのコリン1wt%水溶液に対し、0.5,1,2,3又は5wt%となるように固形物(半導体製造プロセスの除害装置後段に設置されたスクラバーから採取した堆積物)を加えてサンプルNo.1~5とした。各溶液をスターラーで撹拌し、pH及び外観(ビーカーの底部から写真を撮影)の経時変化を測定及び観察した。表3に、各サンプルの試験条件を示す。溶液量はすべて100mLであるため、固形物の添加量がそのままwt%濃度となる。
【0065】
【0066】
<結果>
各サンプルについて、撹拌し、経時的にpHを測定した結果を表4に示す。また、この結果をグラフ化したものを
図5に示す。
【0067】
【0068】
図5を見ると、固形物濃度が2~5wt%の溶液(サンプルNo.3,4,5)は、攪拌30~45分でpHが7.2~7.6まで低下し、その後安定した。これは、コリン量に対し固形物量が多いことを意味している。外観観察の結果を見ても、サンプルNo.3~5では明らかな固形物の溶け残りが見られた。
【0069】
一方で、固形物濃度が0.5~1wt%の溶液(サンプルNo.1,2)では、撹拌に伴いpHが減少し、24時間撹拌後もアルカリ域でほぼ安定した。外観観察の結果を見ても、サンプルNo.1では撹拌5時間後で、サンプルNo.2では撹拌24時間後で固形物がほとんど溶解した様子が見られた。
【0070】
このことより、洗浄液のpHは8以上であることが必要であり、短時間で十分に固形物を溶解するためにはpH10以上が必要であることがわかる。また、pHの変化によって洗浄効果を確認することが可能であることも示唆されている。
【0071】
<考察>
試験結果から、以下の3点の知見が得られた。
・固形物の溶解に伴い、pHが減少する。
・固形物が残存している場合、pHが中性域で安定する。
・pHが高いほど、固形物を溶解させる効果が高い。
【0072】
これらのことから、現場での固形物の洗浄を考えた場合、pHが中性に達したときにアルカリを追加注入し、アルカリ域でしばらくpHが安定したならば固形物が溶解したと判断する制御方法が考えられる。また、アルカリは濃いほど反応速度が速くなるため、短時間での洗浄が求められる場合、固形物濃度に対して同濃度以上のアルカリで洗浄するべきであると考える。