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特開2023-147655光電変換素子、発電デバイス及び光電変換素子の製造方法
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  • 特開-光電変換素子、発電デバイス及び光電変換素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147655
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】光電変換素子、発電デバイス及び光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231005BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055295
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原田 千寛
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151BA11
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB27
5F151CB29
5F151DA20
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた光電変換素子を提供する。
【解決手段】上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有し、前記第1の金属酸化物層の体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上である、光電変換素子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、
少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有し、
前記第1の金属酸化物層の体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上である、
光電変換素子。
【請求項2】
前記第1の金属酸化物層の厚さが10nm以上500nm以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第1の金属酸化物層が、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、フッ素化スズ酸化物、及びインジウム亜鉛酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第1の金属酸化物層と前記活性層との間に第2の金属酸化物層を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第2の金属酸化物層が、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記第2の金属酸化物層と前記活性層との間にバッファ層を有する、請求項4又は5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記バッファ層が、正孔輸送層である、請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記光電変換素子が、低照度環境で使用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する、発電デバイス。
【請求項11】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、
少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有する光電変換素子を製造する方法であって、
前記第1の金属酸化物層をスパッタ法で形成する工程を有し、
前記スパッタ時の雰囲気が、酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気である、光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、発電デバイス及び光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子では、一対の電極の間に、活性層、及びバッファ層等が配置されている。この活性層において、有機無機ハイブリッド半導体材料を用いることが、高効率性のために注目を浴びており、例えば、ペロブスカイト系化合物を用いることが検討されている。電極としては、しばしば金が使用されるが、金は高価であるため、実用性を考慮して金以外の金属、例えば、銀等の使用が検討されている。
【0003】
活性層にハライド系有機無機ペロブスカイト半導体化合物を用いた場合、ハロゲン化物又はハロゲン元素、例えば、ヨウ化物は、電子輸送層又は正孔輸送層を通り抜けて拡散し、電極に到達することが報告されている。電極として銀が使用されている場合、銀が拡散してきたヨウ化物等と反応し、電極が劣化し、光電変換素子の耐久性を低下させることがあった。また、電極の金属イオンも、時間経過に伴って電子輸送層又は正孔輸送層を通り抜けて拡散し、活性層に到達して短絡やリークを生じさせることがあった。特に、銀イオンは膜中を移動しやすいことが知られている。
【0004】
特許文献1には、活性層と電極との間に金属酸化物よりなるバリア層をスパッタ法により形成することが開示されている。この特許文献1では、スパッタ時の雰囲気中の酸素がバリア層にダメージを与えるため、酸素濃度が低い方がよいとされている。このため、特許文献1の実施例では、酸素を含まないアルゴンガス中でバリア層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-220701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にエネルギーハーベスティング用途で重要な低照度環境での発電特性においては、微小なリークであっても発電特性に大きな悪影響を及ぼす。このため、金属電極材料の移動および拡散が光電変換素子の耐久性能において大きな問題となることから、これを改善する余地が残されていた。
特許文献1では、酸素を含まないアルゴンガス中でバリア層を形成しているが、さらなる耐久性の向上が求められる。
【0007】
本発明は、耐久性に優れた光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、拡散防止層としての金属酸化物層を比較的酸素濃度が高い雰囲気中でスパッタ成膜すると、形成される金属酸化物層の酸素欠陥が減少し、膜が緻密になることで、拡散防止性能に優れた金属酸化物層を形成することができ、また、このような緻密な金属酸化物層は、酸素欠陥の減少のために体積抵抗率が高いものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、
少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有し、
前記第1の金属酸化物層の体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上である、光電変換素子。
【0011】
[2] 前記第1の金属酸化物層の厚さが10nm以上500nm以下である、[1]に記載の光電変換素子。
【0012】
[3] 前記第1の金属酸化物層が、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、フッ素化スズ酸化物、及びインジウム亜鉛酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。
【0013】
[4] 前記第1の金属酸化物層と前記活性層との間に第2の金属酸化物層を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の光電変換素子。
【0014】
[5] 前記第2の金属酸化物層が、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、[4]に記載の光電変換素子。
【0015】
[6] 前記第2の金属酸化物層と前記活性層との間にバッファ層を有する、[4]又は[5]に記載の光電変換素子。
【0016】
[7] 前記バッファ層が、正孔輸送層である、請求項6に記載の光電変換素子。
【0017】
[8] 前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の光電変換素子。
【0018】
[9] 前記光電変換素子が、低照度環境で使用される、[1]~[8]のいずれかに記載の光電変換素子。
【0019】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の光電変換素子を有する、発電デバイス。
【0020】
[11] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、
少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有する光電変換素子を製造する方法であって、
前記第1の金属酸化物層をスパッタ法で形成する工程を有し、
前記スパッタ時の雰囲気が、酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気である、光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、耐久性に優れた光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態としての光電変換素子を模式的に表す断面図である。
図2】一実施形態としての太陽電池を模式的に表す断面図である。
図3】一実施形態としての太陽電池モジュールを模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0024】
<1.光電変換素子>
本発明の一実施形態である光電変換素子(以下、単に「光電変換素子」とも称する。)は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、を少なくとも有し、少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層の間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有し、前記第1の金属酸化物層の体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上である、光電変換素子、である。
【0025】
公知の光電変換素子では、電極を構成する金属のイオンが活性層やその近傍に移動し、短絡やリークを生じさせることがある。特に、電極に銀が含まれる場合、銀イオン(銀)は膜中を移動しやすいために短絡やリークを生じさせやすいことが報告されている。
しかしながら、本実施形態に係る上記の構成とすることにより、具体的には、体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上の緻密な第1の金属酸化物層を活性層と電極を構成する金属層との間に備える構成とすることにより、電極間の短絡及びリークを抑制し、耐久性を高めることができることを本発明者らは見出した。さらに、活性層と第1の金属酸化物層との間に、第2の金属酸化物層、更にはバッファ層を備える構成とすることにより、良好な初期特性を得ることができる。具体的には、バッファ層が活性層からの効率的な電荷抽出に寄与し、第2の金属酸化物層がバッファ層を覆うことにより、第1の金属酸化物層を成膜する際のプロセスダメージからバッファ層が保護されるために、高いエネルギー変換効率(PCE)が得られる。また、通常、第2の金属酸化物層に対し、高い導電性を担保しつつ膜中移動することで短絡やリークを生じさせ得る金属イオン成分Mn+(nは通常1,2,または3の自然数)を生じにくい組成の第1の金属酸化物層のスパッタ成膜時の酸素濃度を高くして酸素欠陥を低減することにより、短絡及びリークの抑制効果、特に低照度環境での耐久性を大幅に改善できることを見出した。
【0026】
以下、図1を用いて光電変換素子の各構成要素を説明する。図1は、光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が図1に示されるものに限られるわけではない。
図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極108がこの順に配置されている。また、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間に存在するバッファ層102、及び上部電極108と活性層103との間に存在するバッファ層104を有するが、これらのバッファ層102及びバッファ層104の少なくともいずれか一方の層が正孔輸送層であり、さらに、上部電極108は、第1の金属酸化物層106、及び金属層107を有する。バッファ層104と、第1の金属酸化物層106の間に、第2の金属酸化物層105を有していても良い。また、図1に示すように、光電変換素子100が、基材109を有していてもよく、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。また、後掲の実施例に示すように、活性層103とバッファ層104との間に界面欠陥の修復やエネルギー準位整合のための界面修飾層を有していてもよい。
【0027】
[1-1.電極]
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本実施形態に係る光電変換素子は、一対の電極を有し、少なくとも該一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層の間に配置される第1の金属酸化物層と、を少なくとも有する。電極は、これらの層のみからなっていてもよく、これらの層以外の層を有していてもよい。以下、金属層及び第1の金属酸化物層を備える電極を「特定電極」とも称する。バッファ層と、第1の金属酸化物層の間には、第2の金属酸化物層を有することが好ましく、第2の金属酸化物層を有することにより、第1の金属酸化物層を形成する際のプロセスダメージからその下の層が保護され、良好な初期特性を得ることができる。光電変換素子100は、少なくとも一対の電極の一方の電極が特定電極であればよく、両方の電極が特定電極であってもよい。具体的に、特定電極は、活性層からみて正孔輸送層を設ける場合はその正孔輸送層側に配置していても、電子輸送層を設ける場合はその電子輸送層側にも配置していてもよいが、特に、正孔輸送層側に位置する対向電極に光を反射する非透明電極を用いる場合、膜中を移動し得る金属イオンが生じやすい傾向となることが多いため、正孔輸送層側に配置されていることが好ましい。
【0028】
なお、本明細書では、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極とも呼ぶ。光電変換素子が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。図1は、上部電極108を特定電極とし、下部電極は特定電極でない光電変換素子100を示し、この構成に沿って説明を進める。
【0029】
一対の電極としては、正孔の捕集に適した電極と、電子の捕集に適した電極とを対で用いることができる。この場合、光電変換素子100は、下部電極101が正極であり上部電極108が負極であってもよいし、下部電極101が負極であり上部電極108が正極であってもよい。
【0030】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0031】
以下、特定電極の構成について具体的に説明するが、一対の電極の一方の電極として特定電極を採用しない場合、その電極の態様及びその製造方法は特段制限されず、周知技術を用いることできる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができ、また、以下に説明する金属層を使用することができる。
特定電極の厚さは、特段制限されないが、短絡やリークを誘引し得る、膜中を移動しやすい金属イオンMn+(nは通常1、2、または3の自然数)の移動を抑制する観点から、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることがさらに好ましく、80nm以上であることが特に好ましく、また、通常1000nm以下であり、800nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましく、400nm以下であることが最も好ましい。
特定電極でない電極を採用する場合、その厚さは、特段制限されないが、電荷輸送に求められる導電性を担保する観点から、通常10nm以上であり、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがさらに好ましく、また、成膜時間や使用材料量削減の観点から通常1000nm以下であり、800nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
[特定電極]
特定電極は、金属層107と、該金属層107及び前記活性層の間に配置される第1の金属酸化物層106を少なくとも有する。特定電極は、更に、前記バッファ層と、前記第1の金属酸化物層106の間に配置される第2の金属酸化物層105を有することが好ましい。この際、第1の金属酸化物層106を構成する材料と第2の金属酸化物層105を構成する材料とは異なる。また、活性層103に隣接してバッファ層104を備えることで電荷抽出能が向上し、前述した2つの金属酸化物層を金属層107とバッファ層104との間に配置することにより、良好な初期特性を保ちながらも、金属層107を構成する金属のイオンが、時間経過に伴って電極に隣接するバッファ層104や活性層103に移動し短絡やリークを生じさせることを抑制することができる。なお、本明細書における「金属酸化物層」の語は、第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層の区別なく用いられる場合、いずれの金属酸化物層をも対象とする語である。
【0033】
(金属層)
金属層107の構成は特段制限されず、単一の金属で構成されていてもよく、2種以上の金属からなる合金で構成されていてもよい。
金属層107が単一の金属で構成される場合、該金属の種類は特段制限されず、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、カルシウム、チタン、コバルト、ニッケル、又はパラジウム等が挙げられるが、実用性を考慮して金以外の金属であることが好ましく、特に、比較的薄膜でも導電性を確保するため、銀、銅またはアルミニウムであることが好ましい。
金属層107が合金で構成される場合、該合金の種類は特段制限されず、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、カルシウム、チタン、コバルト、ニッケル、及びパラジウム等よりなる群の金属から選択される2つ以上の金属を含む合金とすることができるが、上記の単一の金属で構成される場合と同様の理由から、金以外の金属から選択される2つ以上の金属を含む合金であることが好ましく、特に、銀、銅またはアルミニウムの少なくとも1つを含む金属合金であることが好ましい。
【0034】
金属層107の厚さは特段制限されないが、導電性と十分な光反射能を確保する観点から、通常20nm以上であり、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、また、通常500nm以下であり、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
(第1の金属酸化物層)
第1の金属酸化物層106の材料の種類は、第2の金属酸化物層105の材料と異なれば特段制限されず、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素化スズ酸化物(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモンドープインジウム酸化物(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、又はガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等が挙げられるが、ドーパントを含まず、酸素欠陥が導電性を担うものが好ましく、透過率、コスト、低抵抗率などを担保する観点からも、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素化スズ酸化物(FTO)、及びインジウム亜鉛酸化物(IZO)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、特に、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)を含むことが好ましい。これらの金属酸化物は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。また、下地の活性層やバッファ層へのプロセスダメージを防ぐため、低温成膜できることが好ましく、この観点からインジウム亜鉛酸化物(IZO)が特に好ましい。
第1の金属酸化物層106が酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素化スズ酸化物(FTO)、及びインジウム亜鉛酸化物(IZO)からなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、第1の金属酸化物層106中のこれらの金属酸化物の合計含有量は、特段制限されないが、透過率、低抵抗率などを確保する観点から、通常90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましく、また、上限は特段制限されず、100質量%(インジウム亜鉛酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、アンチモンドープインジウム酸化物(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、及びガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)からなる群より選択される少なくとも1つのみから構成されている態様)でもよく、99.99質量%以下であっても、99.9質量%以下であっても、99質量%以下であっても、98質量%以下であってもよい。
上記の含有量の範囲の条件は、第1の金属酸化物層106中のインジウム亜鉛酸化物の範囲の条件としても好ましく適用することができる。
【0036】
第1の金属酸化物層106の体積抵抗率は通常5×10-4Ω・cm以上であり、好ましくは6×10-4Ω・cm以上、より好ましくは7×10-4Ω・cm以上である。体積抵抗率が上述のように高い第1の金属酸化物層106は酸素欠陥が少なく緻密で、電極から生成される金属イオンや、活性層から生成されるハロゲンイオンの拡散防止性能に優れ、光電変換素子の耐久性の向上に有効である。第1の金属酸化物層106の体積抵抗率の上限は、特段制限されないが、電極としての機能と、膜内に生じる電界を抑制する観点から、第1の金属酸化物層106の体積抵抗率は、通常1×10-1Ω・cm以下であり、1×10-2Ω・cm以下であることがさらに好ましく、1×10-3Ω・cm以下であることが特に好ましい。
なお、第1の金属酸化物層の体積抵抗率とは低抵抗率計(Loresta-GP)での測定値であり、後述の実施例の項に記載の方法で測定することができる。
【0037】
第1の金属酸化物層106の厚さは特段制限されないが、被覆性や、短絡やリークを抑制して耐久性を高める観点からは厚い方が好ましく、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。一方で、抵抗上昇の抑制や、成膜時間や材料コストの節約の観点からは薄い方が好ましく、通常500nm以下であり、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
第1の金属酸化物層106は、バッファ層104と金属層107とが接触しないように層として存在することが好ましい。
【0038】
第1の金属酸化物層106の成膜法は特段制限されないが、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、ALD法等の乾式成膜法や、スピンコート法、ゾルゲル法、スプレー等の湿式成膜法で形成することができる。実施形態では、ペロブスカイト化合物やバッファ層へのプロセスダメージが少ない乾式法での成膜が好ましく、特に、スパッタ法が好ましく、特に後述の通り、スパッタ法により、酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気中で成膜することがより好ましく、酸素濃度0.6体積%以上の不活性ガス雰囲気中で成膜することがさらに好ましい。
【0039】
第1の金属酸化物層106の誘電率は、特段制限されず、適宜設定することができる。
【0040】
第1の金属酸化物層106の金属層107と接する側の表面粗さ(Ra)は、特段制限されず、適宜設定することができる。
【0041】
(第2の金属酸化物層)
第2の金属酸化物層105の材料の種類は第1の金属酸化物層106の材料と異なれば特段制限されず、例えば、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニオブ、又は酸化タンタル等が挙げられるが、エネルギー準位調整能の観点から、酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び酸化タングステンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、特に、酸化モリブデンを含むことが好ましい。これらの金属酸化物は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
第2の金属酸化物層105が酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び酸化タングステンからなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、第2の金属酸化物層105中のこれらの金属酸化物の合計含有量は、特段制限されないが、エネルギー準位を調整する観点から、通常90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましく、また、上限は特段制限されず、100質量%(酸化モリブデン、酸化バナジウム、及び酸化タングステンからなる群より選択される少なくとも1つのみから構成されている態様)でもよく、99.99質量%以下であっても、99.9質量%以下であっても、99質量%以下であっても、98質量%以下であってもよい。
上記の含有量の範囲の条件は、第2の金属酸化物層105中の酸化モリブデンの範囲の条件としても好ましく適用することができる。
【0042】
第2の金属酸化物層105の厚さは特段制限されないが、エネルギー準位調整能を担保しつつ抵抗を低く維持する観点から、通常1nm以上であり、2nm以上であることが好ましく、4nm以上であることがより好ましく、6nm以上であることがさらに好ましく、また、通常100nm以下であり、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
第2の金属酸化物層105は、バッファ層104と第1の金属酸化物層106とが接触しないように層として存在することが好ましい。
【0043】
第2の金属酸化物層105の成膜法は特段制限されないが、昇華性を有する化合物に対しては、真空蒸着法やスパッタ法等の乾式成膜法により形成することができる。また、溶媒に可溶な化合物に対しては、スピンコート法やインクジェット法、ダイコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等の湿式成膜法により形成することができる。特に、真空蒸着法やスパッタ法などの乾式成膜法による場合では、塗布法と比較して第2の金属酸化物層105がコンフォーマルに成膜され、下地層の表面を覆いやすいため、膜厚を薄くしても下地層と第1の金属酸化物層の接触を防ぐことができることが期待され、好ましい。中でも真空蒸着法など、下地となる活性層やバッファ層へのプロセスダメージが少ない製法が好ましい。第2の金属酸化物層105は、第1の金属酸化物層106のプロセスダメージから、活性層やバッファ層を保護する役割も期待できる。
【0044】
(特定電極の形成方法)
特定電極の形成方法は特段制限されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、金属層107の形成方法としては、塗布法、メッキ法、真空蒸着法及びスパッタ成膜法が挙げられ、第1の金属酸化物層106及び第2の金属酸化物層105の形成方法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、ゾルゲル法、塗布法等が挙げられるが、前述の通り、第1の金属酸化物層は、酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気下におけるスパッタ法で形成することが好ましい。
【0045】
[1-2.活性層]
図1の実施形態において、活性層103は光電変換が行われる層である。光電変換素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極108から取り出される。
活性層103は、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する。有機無機ハイブリッド型半導体化合物とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた材料であって、半導体特性を示す材料のことを指す。
【0046】
本実施形態において、有機無機ハイブリッド型半導体化合物は、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)であることが好ましい。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMXで表されるAMX型のもの、又は一般式AMXで表されるAMX型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。
【0047】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族乃至第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0048】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0049】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種類以上のカチオンを用いることが特に好ましい。一方、本実施形態の光電変換素子が室内光源等の低照度環境下で用いられる場合、安全性の観点から、スズ元素を含むことが好ましい。また、HOMOの浅いペロブスカイト半導体化合物とする観点からも、スズ元素を含むことが好ましい。なお、HOMOが浅いとは、イオン化ポテンシャルが比較的0に近いことを表す。
【0050】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。
一実施形態において、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンもしくは臭化物イオンを主に用いることが好ましいが、ヨウ化物イオンと臭化物イオンとを適当な比率で組み合わせてもよい。このように活性層にハロゲン化物(又はハロゲン元素)が含まれる場合、ハロゲン化物、例えば、ヨウ化物は、バッファ層104を通り抜け拡散し、上部電極108における金属層107に到達することがある。従来、ヨウ化物と反応した電極は、電極の劣化の進行を速め、光電変換素子の耐久性が低下することがあったが、第1の金属酸化物層106を設けることで、光電変換素子の耐久性が低下しなくなる。
これは、ヨウ化物による電極の劣化は、電荷の取出しへの影響によるものではなく、金属層107のシート抵抗の上昇に影響していたからであり、金属層107に、ヨウ化物と反応し難く、導電性を有する金属酸化物層を積層することで、金属層107のシート抵抗の上昇が抑えられ、耐久性が向上される。
【0051】
ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHPbI(3-x)Cl、CHNHPbI(3-x)Br、CHNHPbBr(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn、CHNHPb(1-y)SnyBr、CHNHPb(1-y)SnCl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Br、及びCHNHPb(1-y)SnBr(3-x)Cl、並びに、上記の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、CFNH、NHCH=NH、Csを用いたものやそれらを混合した組成等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0052】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、M及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また活性層103は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0053】
活性層103に含まれるペロブスカイト半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層103には、ペロブスカイト半導体化合物に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。
【0054】
活性層のイオン化ポテンシャルの範囲は、好ましくは-6.5eV以上、-5.0eV以下であり、より好ましくは-6.3eV以上、-5.3eV以下であり、特に好ましくは-6.1eV以上、-5.5eV以下である。
また、活性層のバンドギャップは、好ましくは1.2eV以上、2.6eV以下であり、より好ましくは1.4eV以上、2.4eV以下であり、特に好ましくは1.6eV以上、2.2eV以下である。
活性層のイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを上記範囲とすることによって、屋内や室内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯に対する、発電効率を向上させることができる。
特に、活性層のバンドギャップが上記範囲だと、屋内光源を受けることによって発生するエネルギーが、半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離するために十分なものとなり、かつ過剰とならず、発電効率を良好なものとすることができる。
【0055】
イオン化ポテンシャルは、サンプルに対して光を照射し、照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)を計測することで、算出することができる。測定機器は任意のものを用いることができるが、例えば、理研計器(株)のAC-2、AC-3等を用いることができる。
また、バンドギャップは、半導体化合物の吸収端波長と吸光度とから算出することができる。具体的には、透明ガラス基板等の適当な試料上に半導体化合物薄膜を成膜し、その透過スペクトルを測定し、横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(ahν)に変換し、この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出することができる。透過スペクトルは、例えば、日立ハイテク製U-4100等の分光光度計を使用して測定することができる。
【0056】
活性層のイオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記のペロブスカイト半導体化合物におけるカチオン成分を適宜変更することがあげられる。
また、活性層のバンドギャップを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記ペロブスカイト半導体化合物におけるハロゲン元素の構成比率を適宜変更することがあげられる。
【0057】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、一実施形態において10nm以上、別の実施形態において50nm以上、さらに別の実施形態において100nm以上、特に別の実施形態において120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層103の厚さは、一実施形態において1500nm以下、別の実施形態において1200nm以下、さらに別の実施形態において800nm以下である。
【0058】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、ペロブスカイト半導体化合物の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、ペロブスカイト半導体化合物を析出させることもできる。
【0059】
ペロブスカイト半導体化合物の前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト半導体化合物へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト半導体化合物へと変換可能なペロブスカイト半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、塗布液を塗布することにより得られた膜を加熱することにより、ペロブスカイト化合物前駆体をペロブスカイト化合物へと変換し、ペロブスカイト化合物を含有する半導体層を形成することができる。ペロブスカイト化合物前駆体の具体例としては、加熱により下記(1)で表されるペロブスカイト化合物へと変換可能である、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
一例としては、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物と、溶媒と、を含有する塗布液を作製し、この塗布液を塗布する方法が挙げられる。このような塗布液は、化合物を溶液中で加熱攪拌することにより作製することができる。この方法によれば、下記式(1)で表される化合物を含有する活性層103を作製することができる。
AMX ・・・(1)
AX ・・・(2)
MX ・・・(3)
A、M及びXの定義は上述の通りである。AXの具体例としてはハロゲン化アルキルアンモニウム塩が挙げられ、MXの具体例としては金属ハロゲン化物が挙げられる。AX及びMXは、ベロブスカイト半導体化合物AMXの前駆体である。
【0061】
別の例としては、上記式(2)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液と、上記式(3)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液と、をそれぞれ調製して塗布する方法が挙げられる。例えば、まず、上記式(3)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液を塗布することにより式(3)で表される化合物の層を形成する。その上に、上記式(2)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液を塗布することにより、下記式(1)で表される化合物を含有する活性層103を作製することができる。各塗布液を塗布した後には、加熱を行うことにより、層を乾燥させたり、あるいは貧溶媒を滴下するなどしてペロブスカイト半導体化合物の結晶化を制御したりすることができる。加熱は、例えば、40℃以上350℃以下で行うことができる。
【0062】
溶媒としては、Brandrup,J.ら編「Polymer Handbook, 4th Ed.」に記載の溶解度パラメータ(SP値)が、9以上であるものが好ましく、10以上であるものが特に好ましい。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ピリジン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。溶媒としては、2種類以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。なお、混合溶媒を用いる場合も、混合溶媒のうち少なくとも1種の溶媒の溶解度パラメータは10以上であることが好ましい。
【0063】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0064】
活性層103上には界面修飾層を形成してもよい。活性層103の表面や結晶粒界には配位不足の中心金属イオン(M2+)、カチオン空孔、ハロゲン化物空孔などの結晶欠陥が存在することが知られている。修飾材料は特に限定されないが、自由な孤立電子対をもつルイス塩基や、カチオン空孔を置換し得る陽イオンとアニオン空孔を置換し得る陰イオンとから構成される有機塩化合物は、これらの欠陥の不働態化に有効である。例えば、ルイス塩基とはピリジンやキノリンなどのヘテロ環系化合物であり、有機塩化合物とはフェネチルアミンよう化水素酸塩(PEAI)、ブチルアミンよう化水素酸塩(BAI)などのアンモニウムハライド塩である。界面修飾層は結晶欠陥を低減する役割がある一方で、抵抗成分ともなり得るため、薄く成膜することが好ましい。成膜方法としては任意の方法を用いることができるが、表面だけでなく結晶欠陥にも効果的に浸透する点から、スピンコート法、インクジェット法、ドロップキャスティング法、スプレーコート法などの溶液法で形成することが好ましい。スピンコート法は薄膜を均一に成膜することができるため、特に好ましい。
【0065】
[1-3.バッファ層]
光電変換素子は、一対の電極間に位置するバッファ層を有することが好ましい。光電変換素子は、バッファ層として、活性層を挟むように、正孔輸送層及び電子輸送層の2つの層を有することがより好ましい。図1においては、バッファ層102及びバッファ層104の少なくともいずれか一方の層が正孔輸送層となるが、上述したように、特定電極は正孔輸送層側にあることが好ましい。
正孔輸送層とは別のバッファ層は、電子輸送層としての層であってよい。なお、アノードと活性層との間に設けられたバッファ層は正孔輸送層と呼ばれることがあり、カソードと活性層との間に設けられたバッファ層は電子輸送層と呼ばれることがある。
【0066】
[1-3-1.バッファ層(正孔輸送層)]
正孔輸送層としてのバッファ層は、正孔輸送能を有すれば特段制限されないが、正孔輸送能を有する有機半導体化合物を含有することが好ましく、本発明の効果が得られる範囲で他の物質を含んでいてよい。n-i-p積層型光電変換素子の場合、正孔輸送層により輸送電荷量の制御が容易となる。以下、本項目において、バッファ層を正孔輸送層とも称する。
【0067】
(有機半導体化合物)
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを指す。なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が好ましくは1.0×10-6cm/V・s以上であり、より好ましくは1.0×10-5cm/V・s以上であり、さらに好ましくは5.0×10-5cm/V・s以上であり、特に好ましくは1.0×10-4cm/V・s以上である。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0068】
本明細書においては半導体化合物として有機半導体化合物が用いることが好ましいが、その種類は特に限定されず、例えば従来知られているものを用いることができる。有機半導体化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物が知られている。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、又はトリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又はトリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0069】
有機半導体化合物として好ましくはアリールアミン系化合物であり、より好ましくはトリアリールアミン系化合物である。アリールアミン系化合物とは、アリールアミン構造(アリール基と窒素原子との結合)を有する化合物のことであり、アリールアミン系ポリマーを含む。アリールアミン系ポリマーとは、繰り返し単位がアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリアリールアミン系化合物ともいう。また、トリアリールアミン系化合物とは、トリアリールアミン構造(3つのアリール基の同じ窒素原子への結合)を有する化合物のことであり、トリアリールアミン系ポリマーを含む。トリアリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がトリアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリトリアリールアミン系化合物ともいう。このようなアリールアミン系化合物又はトリアリールアミン系化合物は、ドーパントにより安定に酸化され、良好な半導体特性を示しうる点で好ましく、中でもトリアリールアミン系化合物がより好ましい。
【0070】
ここで、アリール基(又は芳香族基)は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを指し、単環のもの、縮合環のもの、及び単環又は縮合環が連結しているもの、を含む。芳香族基としては、特に限定されないが、炭素数30以下であることが好ましく、炭素数12以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、又はイミダゾリル基等が挙げられる。
【0071】
アリール基は、さらなる置換基を有していてもよい。アリール基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。アリール基が有している置換基として好ましくは、アミノ基又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。ここで、アミノ基として好ましくは、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、又は炭素数12~30のジアリールアミノ基である。
【0072】
(ドーパント)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上記の半導体化合物(好ましくはアリールアミンポリマー)に対するドーパントを含有するが、その態様は特段制限されない。ドーパントは、正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力を前記活性層に対して最適化するための物質である。
ドーパントとして使用できる物質としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートなどのホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデンなどのモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物などが挙げられる。ドーパントは、正孔輸送層の成膜前または成膜後で、少なくとも一つの半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機能する電子受容活性部位を産生する点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0073】
この超原子価ヨウ素化合物は、半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。また、電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように、超原子価ヨウ素化合物は、半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0074】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0075】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I-Ar]X構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば有機半導体化合物に関して既に挙げたものでありうる。Xは、任意のアニオンを表す。Xとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、X-はフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0076】
ドーパントの好ましい例としては、下記式(I)に表されるものが挙げられる。式(I)において、Xは、任意のアニオンを表し、具体例としては上記の通りである。
[R11-I-R12]X (I)
【0077】
式(I)において、R11及びR12は、それぞれ独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、脂肪族基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、又はテトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0078】
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、又はピリジル基等が挙げられる。
【0079】
なお、上記の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0080】
11及びR12は、それぞれ独立に好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は置換基として炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R11及びR12は、特に、パラ位にアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0081】
正孔輸送層中のドーパントの含有量は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
また、正孔輸送層において、前述の正孔輸送能を有する有機半導体化合物に対するドーパントの含有比率(ドーパント/半導体化合物の百分率)は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
なお、光電変換素子が複数のバッファ層を有する場合、それらの中の正孔輸送層に相当するいずれか1つの層が上記の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0082】
(その他の物質)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上記の半導体化合物及びドーパント以外の物質を含んでいてよく、例えば、光電変換(活性層)材料、接着性機能材料、フィラー、又は強度補助材等を含んでいてよい。
【0083】
[1-3-2.バッファ層(電子輸送層)]
光電変換素子は、上述した正孔輸送層としてのバッファ層以外にも電子輸送層としてのバッファ層を有していてもよい。以下、本項目において、バッファ層を電子輸送層とも称する。その態様は特段制限されず、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いればよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ハイブリッド型半導体化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0084】
正孔輸送層としてのバッファ層の厚さ、及び電子輸送層としてのバッファ層の厚さは、特段制限されず、用途に応じて適宜設定することができるが、一実施形態において、独立に、10nm以上、別の実施形態において15nm以上、さらに別の実施形態において20nm以上とすることができ、一方、一実施形態において1μm以下、別の実施形態において500nm以下、さらに別の実施形態において300nm以下、特に別の実施形態において200nm以下とすることができる。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、正孔や電子のキャリアの移動効率が向上しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
【0085】
特定電極と接する側のバッファ層の凹凸は、活性層と電極の接触を防止する観点から、平滑であることが好ましい。特定電極と接する側のバッファ層の表面粗さ(Ra)は、通常50nm以下であり、20nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることが特に好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このように表面粗さ(Ra)の小さい表面平滑なバッファ層を形成するためには、ペロブスカイト半導体化合物の表面凹凸をカバーできる膜厚のバッファ層を塗布法で形成すればよい。
なお、本発明においては、第1の金属酸化物層として体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上の金属酸化物層を形成する場合、このバッファ層の凹凸の影響を低減するという効果も得られる。
【0086】
また、正孔輸送層としてのバッファ層、及び電子輸送層としてのバッファ層のいずれも、層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、上述の有機半導体化合物、ドーパント、及び溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0087】
[1-4.基材]
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材109を有する。ただし、本発明に係る光電変換素子は基材109を有さなくてもよい。基材109の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0088】
[2.光電変換素子の作製方法]
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0089】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0090】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径は、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1m以下である。一方、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上、さらに好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径は、好ましくは4m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは0.5m以下である。一方、好ましくは1cm以上、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは5cm以上、特に好ましくは10cm以上、最も好ましくは20cm以上である。これらの径が小さいことはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、大きいことは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅は、好ましくは5cm以上、より好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。一方、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは2m以下である。幅が狭いことはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、広いことは光電変換素子100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0091】
また、上部電極108を積層した後に、光電変換素子100を50℃以上または80℃以上、一方、300℃以下、280℃以下、または250℃以下の温度範囲において、加熱することができる(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことで、光電変換素子100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られる。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなる。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0092】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、一実施形態において1分間以上、別の実施形態において3分間以上、一方、一実施形態において180分間以下、別の実施形態において60分間以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることができる。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することができる。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態である光電変換素子の製造方法は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層とを少なくとも有し、少なくとも前記一対の電極の一方の電極が、金属層と、前記金属層及び前記活性層との間に配置される第1の金属酸化物層とを少なくとも有する光電変換素子を製造する方法であって、前記第1の金属酸化物層をスパッタ法で形成する工程を有し、前記スパッタ時の雰囲気が、酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気である、光電変換素子の製造方法、である。
【0094】
本発明においては、このように第1の金属酸化物層の形成において、スパッタ法により酸素濃度0.5体積%以上の不活性ガス雰囲気中で成膜を行うことで、体積抵抗率5×10-4Ω・cm以上を満たす第1の金属酸化物層を形成することができ、好ましい。
【0095】
第1の金属酸化物層を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度は、緻密で酸素欠陥の少ない膜を形成する観点から、0.5体積%以上であり、好ましくは0.6体積%以上、より好ましくは0.7体積%以上であり、さらに好ましくは0.9体積%以上である。一方で、著しい高抵抗化を抑制する観点から、スパッタ雰囲気中の酸素濃度は2.5体積%以下、特に2.0体積%以下、とりわけ1.5体積%以下であることが好ましい。
このスパッタ雰囲気の不活性ガスとしては、スパッタ率が高く、安価で高純度なガスが流通していることから、アルゴンが好ましい。
【0096】
第1の金属酸化物層を成膜する際のその他のスパッタ条件については特に制限はない。
成膜速度は、緻密で酸素欠陥が少ない膜の形成には遅いことが好ましく、また、一方で、作業効率の点からは速いことが好ましい。そこで、成膜速度は、1Å/秒以上が好ましく、2Å/秒以上がより好ましく、また、一方で、20Å/秒以下が好ましく、10Å/秒以下がより好ましい。
【0097】
本発明の別の実施形態である光電変換素子の製造方法は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に配置される、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層及びバッファ層と、を少なくとも有する光電変換素子の製造方法であって、少なくとも、前記バッファ層の上に第1の金属酸化物層を形成する工程と、 前記第1の金属酸化物層の上に金属層を形成する工程と、を有する光電変換素子の製造方法である。
この光電変換素子の製造方法は、上記の工程以外の工程を有していてよい。
また、上記の各工程における各層を形成する方法は、特段制限されず、本明細書で説明する各層の形成方法、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等の塗布方法等を用いることができる。
【0098】
上記の製造方法において、前記バッファ層の上に第2の金属酸化物層を形成する工程を有していても良い。形成方法は特段制限されず、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等の塗布方法等を用いることができる。
【0099】
[3.光電変換特性]
光電変換素子100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子100に適当なスペクトルの光をある照射強度で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。一例として、光電変換素子100に色温度5000Kの白色LED光を適当な照射強度(照度)で照射することで、各照度における電流-電圧特性を測定することができる。
【0100】
光電変換素子100は低照度領域(10~5000ルクス)における発電効率に優れ、特に白色LED光等の光源を用いた場合において、光電変換効率を20%以上とすることができる。また、200ルクスにおける光電変換効率を25%以上とすることができる。この効率の上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
なお、この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、光電変換素子の電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量(例えば、強度AM1.5Gの太陽光であれば100mW/cm)で除した値(%)である。
【0101】
[4.発電デバイス]
一実施形態において、光電変換素子100は、発電デバイスとして好適に使用される。特に、室内等の低照度環境用の太陽電池として使用される場合、光電変換素子に照射される光量が少ないため発生する電荷も限定される。その際、電極間リークが存在するとその影響が相対的に大きくなり、リーク欠陥感度が高く、光電変換効率低下要因となるため、これを回避する目的で特に好適に使用される。図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、図2には本発明の一実施形態に係る太陽電池である太陽電池が示されている。図2に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、本発明に係る光電変換素子を有している。そして、保護フィルム1が形成された側(図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
なお、本明細書において、低照度環境とは、10~5000ルクスを意味し、典型的には200ルクス周辺である。
【0102】
光電変換素子を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0103】
本実施形態に係る太陽電池、特に上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。上記説明したとおり、本発明に係る光電変換素子を備える本実施形態に係る太陽電池は、低照度環境下で優れた変更効率を有することから、特にエネルギーハーベスティング用途に、好適に適用できる。
【0104】
本実施形態に係る太陽電池、特に上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、図3に示すように、本実施形態に係る太陽電池、特に上述した太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。
【実施例0105】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0106】
<実施例1>
[電子輸送層用塗布液の調製]
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加えることにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液を調製した。
【0107】
[活性層用塗布液の調製]
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとりグローブボックスに導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱撹拌することで活性層用塗布液1を調製した。
次に、別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.27:1:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr、及びMAClの合計濃度が0.54mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
【0108】
[界面修飾用塗布液の調製]
2-Phenylethylamine Hydroiodide(TCI社製)をバイアル瓶に量りとりグローブボックスに導入した。2-Phenylethylamine Hydroiodideの濃度が1mg/mLとなるように、溶媒としてイソプロプルアルコールを加えることにより界面修飾層用塗布液を調液した。
【0109】
[ポリトリアリールアミンの合成]
特開2019-173032号公報に記載されている方法と同様な方法にて、ポリトリアリールアミン化合物(A)(Mw:35,000、PDI:1.29)を合成した。
【0110】
[正孔輸送層用塗布液の調製]
200mgのポリトリアリールアミン(A)と、1.6mgの4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB,TCI社製)とをバイアル瓶に量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒として5.5mLのオルトジクロロベンゼンを加えた。次に、得られた混合液を150℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0111】
[バッファ層の表面粗さ(Ra)の測定]
正孔輸送層であるバッファ層の表面粗さ(Ra)は、走査型プローブ顕微鏡(型番:L-trace II)を用いて、原子間力顕微鏡測定(AFM)モードにて活性層上に形成したバッファ層の表面を測定した。
【0112】
[第1の金属酸化物層の体積抵抗率の測定]
第1の金属酸化物層であるIZO層の体積抵抗率は、低抵抗率計(Loresta-GPを用いて測定した。評価サンプルはガラス基板上のIZO膜とした。
【0113】
[光電変換素子の作製]
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜(下部電極)を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
【0114】
次に、上記のように調製した電子輸送層用塗布液を、室温で、上記の基板上に2000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ35nmの電子輸送層を形成した。その後、基板をホットプレート上150℃で10分間加熱した。
【0115】
さらに、基板をグローブボックスに導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1を電子輸送層上に150μL滴下し、2000rpmの速度でスピンコートした。次に、基板をホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。次に、基板が室温に戻った後、ヨウ化鉛層上に活性層塗布液2(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、150℃で20分間加熱することにより、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の活性層(厚さ650nm)を形成した。さらに、活性層上に界面修飾用塗布液(150μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、100℃で10分間加熱することにより、界面修飾層を形成した。
【0116】
次に、基板が室温に戻った後、活性層上に、正孔輸送層塗布液(150μL)を1000rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱することで、正孔輸送層(厚さ100nm)を形成した。形成された正孔輸送層の表面粗さ(Ra)を前述の方法で測定したところ4nmであった。
【0117】
次に、正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により、MoOを厚さ10nmに形成して第2の金属酸化物層とし、次いで真空スパッタ法により、アルゴン(Ar)流量20sccm、酸素(O)流量0.2sccm、圧力0.6Pa、13.56MHzのRF電源にて、投入電力300kW、成膜速度2.5Å/秒の条件でIZOを厚さ30nmに形成して第1の金属酸化物層とした。
なお、この第1の金属酸化物層形成後、前述の方法で体積抵抗率を測定したところ7.03×10-4Ω・cmであった。この値を表2に示す。
次いで、抵抗加熱真空蒸着法により銀を厚さ100nmで蒸着し、上部電極を形成した。
以上のようにして、光電変換素子を作製した。
【0118】
[エネルギー変換効率(PCE)の評価]
得られた光電変換素子に対し、素子面における照度が5,000lxになるよう設定した白色LED光を開放回路にて連続照射し、200lxにおける光電変換素子のエネルギー変換効率(PCE)を経時的に測定することにより初期のPCE及び時間経過によるPCEの維持率(耐久性)を評価した。PCEは、VOCからJSC方向に電圧を掃引したときの電流-電圧特性より算出した。初期のPCEの平均値及び200時間試験後のPCEの平均値の評価結果を表1に示した。
【0119】
<実施例2~4、比較例1>
実施例1において、第1の金属酸化物層のIZO層のスパッタ成膜時のアルゴン(Ar)流量20sccmに対して酸素(O)流量を表2に示す流量とし、スパッタ雰囲気中の酸素濃度を表2に示す濃度として(圧力は0.6Paのまま)、厚さ30mmのIZO層を形成したこと以外は同様にして光電変換素子を作製した。
このとき、成膜されたIZO層の体積抵抗率を測定し、結果を表2に示した。
また、比較例1の光電変換素子については、実施例1と同様にエネルギー変換効率(PCE)の評価を行い、結果を表1に示した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
実施例1~4及び比較例1より、体積抵抗率の高い緻密なIZO層により、光照射試験後の耐久性を向上させることができることが分かる。すなわち、本発明の素子構成とすることにより、光電変換素子の耐久性が向上することが裏付けられた。
体積抵抗率の低いIZO層は膜の緻密度が高くなく、開放回路での光照射試験を続けると、試験中に発生する熱や、対向電極に蓄積した電荷が形成する電界等によって、銀イオンの移動や拡散が起こる。そして、低照度環境では、発電量が小さいため、電極イオンの拡散に伴う短絡やリークに敏感になり、PCEの劣化を抑えきれなかったと考えられるが、体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上のIZO層であれば、このような問題が防止される。
また、このような体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上のIZO層は、スパッタ雰囲気中の酸素濃度を0.5体積%以上とすることで形成することができる。
以上の結果から、第1の金属酸化物層の成膜時のスパッタ雰囲気中の酸素濃度を0.5体積%以上として、体積抵抗率が5×10-4Ω・cm以上の第1の金属酸化物層を形成することで、連続駆動による経時的な金属イオンの拡散をも抑制し、高い初期特性を得ることができると共に、耐久性も改善することができることが分かる。
【符号の説明】
【0123】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3、9 ガスバリアフィルム
4、8 ゲッター材フィルム
5、7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 光電変換素子
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
104 バッファ層
105 第2の金属酸化物層
106 第1の金属酸化物層
107 金属層
108 上部電極
109 基材
図1
図2
図3