(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147923
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】端子付き絶縁電線および金属表面コーティング用組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 191/00 20060101AFI20231005BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231005BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D191/00
C09D7/63
C09D7/61
H01B7/00 306
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055707
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】浅ヶ谷 菖一
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】秋山 輝
(72)【発明者】
【氏名】外池 翔
(72)【発明者】
【氏名】村上 弘国
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
【テーマコード(参考)】
4J038
5G309
【Fターム(参考)】
4J038BA201
4J038BA211
4J038HA236
4J038JA57
4J038JB24
4J038JC40
4J038JC42
4J038MA09
4J038NA03
4J038NA14
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
5G309FA04
5G309FA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属端子と金属導体との接合部のコート層が、高温下でも安定で、被コーティング材である金属材料に対して優れた耐食性を与える端子付き絶縁電線、及び、この端子付き絶縁電線のコート層の形成に好適な金属表面コーティング用組成物を提供する。
【解決手段】金属端1子と金属導体13との接合部7が下記成分(A)及び(B)を含むコート層17により覆われた端子付き絶縁電線10、及び、この端子付き絶縁電線のコート層の形成に好適な金属表面コーティング用組成物:
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属端子と金属導体との接合部が下記成分(A)及び(B)を含むコート層により覆われた端子付き絶縁電線:
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
【請求項2】
前記コート層が下記成分(C)及び(D)の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の端子付き絶縁電線:
(C)イソシアネート化合物とアミン化合物との反応物、
(D)脂肪酸金属塩。
【請求項3】
前記成分(D)が、炭素数が15~20の脂肪酸の、カルシウム、リチウム、アルミニウムおよびバリウムの少なくとも1種の金属塩を含む、請求項2に記載の端子付き絶縁電線。
【請求項4】
前記イソシアネート化合物がジイソシアネート化合物であり、
前記アミン化合物がモノアミン化合物及びジアミン化合物の少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の端子付き絶縁電線。
【請求項5】
前記成分(B)の分子量が200~1200である、請求項1~4のいずれか1項に記載の端子付き絶縁電線。
【請求項6】
前記コート層が下記成分(E)を含み、前記コート層中の前記成分(E)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して0.01~1質量部である、請求項1~5のいずれか1項に記載の端子付き絶縁電線:
(E)酸化チタン。
【請求項7】
前記コート層が下記成分(F)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の端子付き絶縁電線:
(F)多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物。
【請求項8】
前記金属端子が銅を含み、前記金属導体がアルミニウムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の端子付き絶縁電線。
【請求項9】
下記成分(A)及び(B)を含む金属表面コーティング用組成物。
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き絶縁電線および金属表面コーティング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や航空機等の移動体、産業用ロボット、OA機器、家電製品等の電気配線体として、金属導体を含む絶縁電線に金属端子(コネクタ)が装着された端子付き絶縁電線が用いられている。端子付き絶縁電線における金属導体と金属端子との接合部(端子接合部)は、塩水など電解液が付着すると金属の腐食が進行しやすい。例えば、銅端子を圧着したアルミニウム電線の端子接合部に電解液が付着した場合、導体であるアルミニウムのイオン化が助長され、端子接合部にガルバニック腐食が生じることが知られている。
端子接合部の金属の腐食を防ぐために、端子接合部に硬化性樹脂を塗布し、この樹脂を硬化させることによって、端子接合部への電解液の侵入を防ぐ試みがある。硬化反応の迅速性の観点から、紫外線硬化性の樹脂がしばしば用いられる。しかし、紫外線硬化性の樹脂を用いた場合、紫外線が十分に届かない深部まで十分に硬化させるのが難しい問題がある。これは、紫外線照射により生じるラジカル種の寿命が短いことが原因とされている。この問題に対処する技術として、例えば特許文献1には、紫外線硬化材料と特定の含金属化合物から構成される連鎖移動剤とを含有する紫外線硬化性組成物を用いることが提案されている。
【0003】
また、より簡便な防食方法として、硬化反応を伴わずに、端子接合部を単にコーティング材で被覆することにより、端子接合部の腐食を防止することも提案されている。このようなコーティング材として、例えば、特許文献2には、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含む金属表面コーティング用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-237863号公報
【特許文献2】特開2017-2300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の紫外線硬化性組成物を端子接合部のコート層の形成(封止)に適用した場合でも、紫外線を十分に照射し、ある程度、時間をかけて硬化反応を進めることが必要であり、作業効率の向上には制約がある。
特許文献2に記載の金属表面コーティング用組成物を用いてコート層を形成した場合は、高温下で脂肪酸アミドが液状となって流出するおそれがある。また、当該組成物に含まれるリン化合物由来のリン酸が、端子や導体を構成する金属を腐食させるおそれもある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、金属端子と金属導体との接合部のコート層が、高温下でも安定で、被コーティング材である金属材料に対して優れた耐食性を与える端子付き絶縁電線を提供することを課題とする。また、本発明は、コーティング処理において硬化反応を要さず、また、コーティング処理により形成したコート層は高温下でも安定で、被コーティング材である金属材料に対して優れた耐食性を与える金属表面コーティング用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者の上記課題は下記手段により解決される。
[1]
金属端子と金属導体との接合部が下記成分(A)及び(B)を含むコート層により覆われた端子付き絶縁電線:
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
[2]
前記コート層が下記成分(C)及び(D)の少なくとも1種を含む、[1]に記載の端子付き絶縁電線。
(C)イソシアネート化合物とアミン化合物との反応物、
(D)脂肪酸金属塩。
[3]
前記成分(D)が、炭素数15~20の脂肪酸の、カルシウム、リチウム、アルミニウムおよびバリウムの少なくとも1種の金属塩を含む、[2]に記載の端子付き絶縁電線。
[4]
前記イソシアネート化合物がジイソシアネート化合物であり、
前記アミン化合物がモノアミン化合物及びジアミン化合物の少なくとも1種である、[2]又は[3]に記載の端子付き絶縁電線。
[5]
前記成分(B)の分子量が200~1200である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の端子付き絶縁電線。
[6]
前記コート層が下記成分(E)を含み、前記コート層中の前記成分(E)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して0.01~1質量部である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の端子付き絶縁電線:
(E)酸化チタン。
[7]
前記コート層が下記成分(F)を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の端子付き絶縁電線。
(F)多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物。
[8]
前記金属端子が銅を含み、前記金属導体がアルミニウムを含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の端子付き絶縁電線。
[9]
下記成分(A)及び(B)を含む金属表面コーティング用組成物。
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
【0008】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の端子付き絶縁電線には、本発明の金属表面コーティング用組成物が用いられる。この組成物は、コーティング処理において硬化反応を要さず、また、コーティング処理により形成したコート層は高温下でも安定で、被コーティング材である金属材料に対して優れた耐食性を与える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る端子付き絶縁電線を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る端子付き絶縁電線の断面図である。
【
図3】実施形態における、圧着前の金属端子と絶縁電線とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の端子付き絶縁電線は、金属端子と金属導体との接合部が下記成分(A)及び(B)を含むコート層により覆われた端子付き絶縁電線である:
(A)潤滑油基油、
(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩。
【0012】
本発明の端子付き絶縁電線は、一実施形態において、上記コート層が下記成分(C)及び(D)の少なくとも1種を含む:
(C)イソシアネート化合物とアミン化合物との反応物、
(D)脂肪酸金属塩。
【0013】
また、本発明の端子付き絶縁電線は、一実施形態において、上記コート層が下記成分(E)を含む:
(E)酸化チタン。
【0014】
また、本発明の端子付き絶縁電線は、一実施形態において、上記コート層が下記成分(F)を含む:
(F)多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物。
【0015】
本発明の端子付き絶縁電線の好ましい実施形態について、適宜に図面を参照して説明する。なお、下記の実施形態は本発明の一例であり、本発明は、本発明で規定すること以外は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は端子付き絶縁電線10の斜視図であり、
図2は端子付き絶縁電線10の断面図である。また、
図3は、圧着前の金属端子1と絶縁電線11とを示す図である。なお、
図1では、コート層17を点線で示す。金属端子1、絶縁電線11及びコート層17については後述する。
【0017】
端子付き絶縁電線10は、絶縁電線11と、金属端子1とを有する。端子付き絶縁電線10では、
図1に示されるように、金属端子1と絶縁電線11とが接続される。絶縁電線11は、金属導体13と、金属導体13を被覆する絶縁層15とを有する。なお、
図1に示す端子付き絶縁電線10では、金属導体13が金属端子1に圧着されることにより両者が接続されるが、この接続方法に代えて、溶接などの他の電気接続方法が採用されてもよい。
【0018】
金属導体13は、例えば、複数の金属素線が撚り合わされた撚り線であり、
図1に示されるように、絶縁層15の先端から露出する。撚り線は、1種の金属素線から構成されてもよく、2種以上の金属素線から構成されてもよい。なお、1種の金属素線から構成されるとは、撚り線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料からなることをいい、2種以上の金属素線から構成されるとは、撚り線中に互いに異なる金属材料からなる金属素線を含むことをいう。撚り線中には、絶縁電線11を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれてもよい。
【0019】
金属導体13を構成する金属素線の構成材料は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、および、これらの材料に各種めっきが施された材料などである。また、補強線としての金属素線に含まれる材料は、例えば、銅合金、チタン、タングステン、およびステンレスなどである。さらに、補強線としての有機繊維は、例えば、ケブラーなどである。金属導体13を構成する金属素線は、軽量化の観点からアルミニウムを含むことが好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、および、これらの材料に各種めっきが施された材料からなることが好ましい。
【0020】
絶縁層15を構成する材料は、例えば、ゴム、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、および熱可塑性エラストマーなどである。これらは単独で用いられてもよく、2種以上混合して用いられてもよい。絶縁層15には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤は、例えば、難燃剤、充填材、および着色剤などである。
【0021】
金属端子1は、オープンバレル型であり、例えば、黄銅、銅合金、および銅などを含む。金属端子1は銅を含むことが好ましく、銅または銅合金からなることがより好ましい。金属端子1の表面の一部もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属のめっきが施されてもよい。
【0022】
金属端子1は、端子本体3と、圧着部5とを有する。端子本体3と圧着部5とは、トランジション部4を介して互いに連結される。トランジション部4は、端子本体3と一体的に構成され、圧着部5と端子本体3との間に位置し、例えば鉛直上方に開口する開口部を有する。
【0023】
端子本体3は、金属製の板状部材を、断面形状が矩形状の筒体となるように例えばプレス加工することで形成される。端子本体3は、
図2に示されるように、弾性接触片20を有する。弾性接触片20は、端子本体3を構成する板状部材の一部を内部に折り込むことにより形成される。端子本体3は、例えば、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、本実施形態では、端子本体3が、雄型端子などの挿入タブ(図示略)の挿入を許容する雌型端子である例を説明するが、本発明においては、この端子本体3の細部の形状は特に制限されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて、雄型端子の挿入タブが設けられてもよい。
【0024】
圧着部5は、金属端子1のうち絶縁電線11を圧着する部分であり、圧着前においては、
図3に示されるように、金属端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。圧着部5は、接合部7(導体圧着部)と、絶縁層圧着部9と、接合部7と絶縁層圧着部9との間に位置するバレル間部8とを有する。接合部7は、
図2に示されるように、絶縁電線11の先端側において絶縁層15から露出する金属導体13に圧着する。絶縁層圧着部9は、金属導体13が露出する側の絶縁層15の端部の近傍に圧着する。この端部は、金属端子1の長手方向において絶縁層圧着部9と接合部7との間に位置する。
【0025】
接合部7の内面の一部には、幅方向(金属端子1の長手方向に直交する方向)に、セレーション(図示略)が設けられてもよい。セレーションが設けられることにより、金属端子1に金属導体13が圧着される際に、金属導体13の表面の酸化被膜が破壊されやすくなり、金属端子1と金属導体13との接着面積が増加する。
【0026】
絶縁電線11の先端においては、
図2に示されるように、絶縁層15が剥離され、金属導体13が露出する。絶縁層15は、金属端子1の絶縁層圧着部9に圧着される。また、絶縁層15が剥離することにより露出する金属導体13は、接合部7に圧着される。本実施形態では、金属導体13と金属端子1とが接合部7において電気的に接続される。
【0027】
本実施形態では、
図2に示されるように、少なくとも、バレル間部8から接合部7までの露出する部位がコート層17に覆われる。金属導体13は、防食材として機能するコート層17によって外部に露出しないものとなる。ここで、コート層17は、金属導体13、絶縁層15および金属端子1のいずれに対しても密着性に優れる。このため、金属導体13および接合部7に外部から水分や塩水などが侵入して金属部分が腐食することが防止される。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、端子付き絶縁電線10が折り曲げられた場合であっても、コート層17と金属端子1との間、コート層17と金属導体13との間、およびコート層17と絶縁層15との間に隙間が生じにくくなり、防水性及び防食機能が維持される。
【0028】
コート層17は、例えば、後述する本発明の金属表面コーティング用組成物(以下、本発明の組成物と記述する場合がある。)により形成することができる。すなわち、本発明の組成物を、金属端子1と金属導体13を覆う所定の範囲に適用することにより、コート層17を形成することができる。本発明の組成物を用いたコーティング処理には、通常、滴下法または塗布法などが用いられる。コート層17の厚みは、例えば、0.01~0.1mmが好ましい。
【0029】
[金属表面コーティング用組成物]
次に、コート層17の形成に好適な本発明の組成物について説明する。本発明の組成物は、(A)潤滑油基油(以下、成分(A)と記述する。)と、(B)アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩(以下、成分(B)と記述する)と、を含有する。即ち、本発明のコート層は、成分(A)及び成分(B)を含有する。本発明の組成物は、成分(A)及び成分(B)を含有することによって、これを目的箇所に塗布等するだけでコート層17を形成することができる。このコート層17は高温下でも安定で、被コーティング材である金属材料に対して優れた耐食性を与える。なお、本明細書における「耐食性」とは、コート層17に覆われる被コーティング材(金属端子1ないし金属導体13)の腐食を抑制する機能を意味する。以下、本発明の組成物を構成する各成分について順に説明する。
【0030】
<成分(A)>
成分(A)としては、潤滑油基油であれば特に制限されず、一般的な潤滑性基油を広く用いることができる。したがって、成分(A)として、鉱油および合成油(炭化水素油)のいずれか1種またはこれらの混合物を用いることができる。また、成分(A)は、ワックス異性化油であってもよく、鉱油および合成油の少なくとも1種と、ワックス異性化油との混合物であってもよい。また、成分(A)は、高密度化を図る観点から、直鎖構造をとるものが好ましい。
【0031】
鉱油としては、高温下において溶融及び揮発しにくいものが好ましい。具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留することにより得られる潤滑油成分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄及び白土処理などの精製処理等を組み合わせて精製した、パラフィン鉱油又はナフテン鉱油などが挙げられる。
【0032】
合成油は、炭素数6以上の合成炭化水素油が好ましく、高温下で溶融及び揮発しにくく、さらに、低温下で金属端子1のクラックの発生を抑制するものが好ましい。具体的には、例えば、ポリ-α-オレフィン化合物、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン化合物、アルキルベンゼン化合物、アルキルナフタレン化合物などの少なくとも1種又は2種以上の混合物が挙げられる。例えば、特開2017-2300号公報の段落[0022]に記載された合成油は、本発明で用いる成分(A)として好ましい。
【0033】
ワックス異性化油としては、例えば、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは、高温高圧下において触媒反応を用いて一酸化炭素と水素から液体炭化水素を合成する、いわゆるFischer Tropsch合成法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは、硫黄と窒素を大量に含有していることから、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0034】
本発明の組成物中、成分(A)の含有量は、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、83質量%以上がさらに好ましい。また、当該含有量は通常は99質量%以下であり、98質量%が好ましく、97質量%以下がより好ましく、96質量%以下であることも好ましく、93質量%以下であることも好ましく、90質量%以下であることも好ましい。したがって、本発明の組成物中、成分(A)の含有量は、70~99質量%が好ましく、75~98質量%がより好ましく、80~97質量%がさらに好ましく、83~96質量%であることも好ましく、83~93質量%であることも好ましく、83~90質量%であることも好ましい。
【0035】
<成分(B)>
成分(B)のアルキル基は、成分(B)のスルホ基の金属塩を、金属端子1及び金属導体13を構成する金属材料と高密度に吸着させるために、直鎖構造をとることが好ましい。また、成分(B)のアルキル基の炭素数は、10~25が好ましい。
成分(B)のアルキル基と、スルホ基の金属塩とは、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。この場合、連結基は炭化水素構造であることが好ましい。この炭化水素構造中又は炭化水素構造の末端には、ヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)、カルボニル基等が存在してもよい。
【0036】
成分(B)における金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩であることが好ましい。具体例として、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などが挙げられるが、これらの塩に限定されるものではない。
【0037】
成分(B)は、成分(A)との相溶性向上の観点から、その分子量が200~1200が好ましく、300~1000がより好ましく、350~800がさらに好ましく、350~600がさらに好ましい。
【0038】
成分(B)として、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸の金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸の金属塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸の金属塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩、アルキル硫酸エステル化合物の金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル化合物の金属塩、およびアルカンスルホン酸の金属塩などが挙げられる。
【0039】
本発明の組成物中、成分(B)の含有量は、成分(A)100質量部に対して1~20質量部が好ましく、2~18質量部がより好ましく、2.5~16質量部がさらに好ましい。
【0040】
<その他の成分>
本発明の組成物は、成分(A)及び成分(B)に加えて、(C)イソシアネート化合物とアミン化合物との反応物(以下、成分(C)と記述する。)および(D)脂肪酸金属塩(以下、成分(D)と記述する。)の少なくとも1種を含有することができる。
また、(E)酸化チタン(以下、成分(E)と記述する。)を含有することも好ましい。
また、(F)多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物(以下、成分(F)と記述する。)を含有することも好ましい。
成分(C)~(F)について順に説明する。
【0041】
(成分(C))
成分(C)は、典型的には、イソシアネート化合物のイソシアネート基と、アミン化合物のアミノ基とが反応して尿素結合を形成することにより生成する反応物である。この反応物は、高温でも安定で、金属も有さず、疎水性が高い。そのため、本発明の組成物は、成分(C)を含有することにより、成分(B)の揮発や移行をより抑制できる傾向にある。また、成分(C)には、高温下での成分(A)の溶融及び揮発を防ぎ、コート層17が固体または半固体である状態を安定に維持する作用もある。
【0042】
上記イソシアネート化合物の分子量は、好ましくは100~500であり、より好ましくは150~400である。
【0043】
上記イソシアネート化合物は、好ましくジイソシアネート化合物であり、モノイソシアネート化合物またはイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネート化合物であってもよい。上記イソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネートなどが挙げられる。成分(C)の反応物の生成において、1種又は2種以上のイソシアネート化合物を用いることができる。
【0044】
上記アミン化合物は、過剰な重合を引き起こすことを抑制する観点から、好ましくはモノアミン化合物(アミノ基を1つ有する化合物)又はジアミン化合物(アミノ基を2つ有する化合物)であり、モノアミン化合物がより好ましい。アミン化合物は直鎖又は環状の脂肪族基、及び芳香族基(好ましくはベンゼン環基)の少なくとも1つを有することが好ましい。上記アミン化合物の分子量は、好ましくは50~250であり、より好ましくは75~200である。
アミン化合物の好ましい具体例としては、オクチルアミン、アニリン、シクロヘキシルアミン、へキシルアミン、およびヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
成分(C)の反応物の生成において、1種又は2種以上のアミン化合物を用いることができる。
【0045】
本発明の組成物が成分(C)を含有する場合、本発明の組成物中、成分(C)の含有量は、成分(A)100質量部に対して2~20質量部が好ましく、5~15質量部がより好ましい。
本発明の組成物において、成分(C)を含有する形態には、組成物中に成分(C)の反応物を配合する形態に加え、組成物中にイソシアネート化合物とアミン化合物とを配合して、組成物中で成分(C)の反応物を生成する形態も包含されるものとする。したがって、組成物中にイソシアネート化合物とアミン化合物とを配合する形態では、組成物中の成分(C)の含有量は、イソシアネート化合物とアミン化合物の各配合量の合計値とする。
【0046】
(成分(D))
本発明の組成物が成分(D)の脂肪酸金属塩を含有することにより、成分(C)を含有する場合と同様に、成分(B)の揮発や移行をより抑制できる傾向にある。また、成分(D)には、高温下での成分(A)の溶融及び揮発を防ぎ、コート層17が固体または半固体である状態を安定に維持する作用もある。
【0047】
成分(D)における脂肪酸の炭素数は、分散性の観点から、13~28であることが好ましく、15~25であることがより好ましく、18~22であることがさらに好ましい。成分(D)を構成する脂肪酸は飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよく、飽和脂肪酸が好ましい。また、成分(D)を構成する脂肪酸は直鎖脂肪酸が好ましい。成分(D)を構成する脂肪酸として、例えば、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リノール酸、リノレン酸、およびパルミチン酸などが挙げられる。
【0048】
成分(D)における金属塩の形態は特に制限されず、例えば、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩が挙げられる。また、アルミニウム塩の形態も好ましい。成分(D)の金属塩の好ましい具体例として、カルシウム塩、リチウム塩、アルミニウム塩およびバリウム塩が挙げられる。
【0049】
成分(D)の具体例として、ステアリン酸リチウム、ジベヘン酸カルシウム、およびジステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0050】
本発明の組成物が成分(D)を含有する場合、組成物中の成分(D)の含有量は、成分(A)100質量部に対して2~20質量部が好ましく、5~15質量部がより好ましい。
【0051】
(成分(E))
本発明の組成物に成分(E)の酸化チタンを含有させることにより、疎水性をさらに向上させて高い撥水性を付与することも好ましい。成分(E)の酸化チタンは、コート層17に、より高い撥水性を付与する観点から、表面処理されていてもよい。この表面処理に特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム及びカルボン酸化合物などで表面処理された酸化チタンが挙げられる。このカルボン酸化合物は、例えば、ステアリン酸化合物およびラウリン酸化合物などである。また、成分(E)の酸化チタンの結晶構造は、耐熱性及び耐候性を向上させる観点から、ルチル型であることが好ましい。成分(E)の酸化チタンは結晶粒径を、例えば10~100nmとすることができる。
【0052】
本発明の組成物が成分(E)を含有する場合、組成物中の成分(E)の含有量は、成分(A)100質量部に対して0.01~1質量部が好ましく、0.1~1質量部がさらに好ましい。
【0053】
(成分(F))
成分(F)は、多価アルコールの水酸基と、脂肪酸のカルボキシ基とが縮合反応してエステル結合により連結した構造を有する化合物である。本発明の組成物は、成分(B)に加えて、成分(F)を含有することによって、金属端子1及び金属導体13に対し、より高い耐食性を付与できる傾向にある。成分(F)は、脂肪酸とエステル結合している水酸基に加え、脂肪酸とエステル結合していないフリーの水酸基を有することが好ましい。
【0054】
成分(F)を構成する多価アルコールは、水酸基の数が2~10が好ましく、2~8がより好ましく、3~6がさらに好ましい。また、この多価アルコールの分子量は、好ましくは70~1100であり、より好ましくは70~1000であり、さらに好ましくは80~800であり、さらに好ましくは90~600である。成分(F)を構成する多価アルコールとして、例えば、ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、およびポリオキシエチレンソルビトールなどが挙げられる。
また、成分(F)を構成する脂肪酸は、その炭素数が好ましくは10~25であり、より好ましくは12~20である。成分(F)を構成する脂肪酸は飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよく、飽和脂肪酸が好ましい。また、成分(F)を構成する脂肪酸は直鎖脂肪酸が好ましい。成分(F)を構成する脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リノール酸、リノレン酸、およびオレイン酸などが挙げられる。
【0055】
成分(F)の分子量は200~1200が好ましく、300~1000がより好ましい。
成分(F)の具体例として、ソルビタン脂肪酸エステル化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル化合物、グリセリン脂肪酸エステル化合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物、プロピレングリコール脂肪酸エステル化合物、およびポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル化合物などが挙げられる。
【0056】
本発明の組成物が成分(F)を含有する場合、組成物中の成分(F)の含有量は、成分(A)100質量部に対して0.5~8質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましく、1.5~4質量部とすることも好ましい。
【0057】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記各成分以外の各種添加剤等を含有してもよい。
【0058】
本発明の端子付き絶縁電線の上記コート層は、上述した本発明の組成物を用いて形成することができるが、本発明の端子付き絶縁電線の上記コート層は、本発明の規定を満たす限り、本発明の組成物を用いて形成されるものに限定されない。
本発明の端子付き絶縁電線の上記コート層が含有する成分(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の組成物において説明した成分(A)及び(B)と同義であり、好ましい形態も同じである。また、本発明の端子付き絶縁電線の上記コート層が含有し得る成分(C)~(F)は、それぞれ、本発明の組成物において説明した成分(C)~(F)と同義であり、好ましい形態も同じである。ただし、コート層中に含まれる成分(C)は事実上、イソシアネート化合物とアミン化合物との反応物であり、反応前のイソシアネート化合物とアミン化合物が含まれ得る本発明の組成物とは、この点において異なり得るものである。
本発明の端子付き絶縁電線の上記コート層中、成分(A)~(F)の各含有量の好ましい範囲は、本発明の組成物中の成分(A)~(F)の各含有量の好ましい範囲と同じである。
【実施例0059】
本発明を、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。下記において、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0060】
[金属表面コーティング用組成物の調製]
<実施例1>
潤滑油基油a(商品名:Durasyn(登録商標)168、INEOS Oligomers社製、合成炭化水素油)100質量部に対して、ステアリン酸リチウムを10質量部混合し、この混合物を75℃で2時間加熱撹拌し、常温(25℃)まで冷却することで半固体状の組成物を得た。その後、この組成物中に、潤滑油基油a100質量部に対して5質量部の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名:ネオゲン(登録商標)、第一工業製薬社製、アルキル基の炭素数:10~18、分子量:360~460)と、0.1質量部のAl(OH)3/ステアリン酸 表面処理酸化チタン(商品名:TTO-55(C)、石原産業社製)とを混合することにより、金属表面コーティング用組成物を得た。
【0061】
<実施例2>
実施例1において、ステアリン酸リチウムを、ヘキサメチレンジイソシアネート4質量部およびオクチルアミン6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0062】
<実施例3>
実施例1において、潤滑油基油aを、潤滑油基油b(商品名:Durasyn(登録商標)148、INEOS Oligomers社製、合成炭化水素油)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0063】
<実施例4>
実施例3において、ステアリン酸リチウムを、ヘキサメチレンジイソシアネート4質量部およびオクチルアミン6質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0064】
<実施例5>
実施例1において、潤滑油基油aを、潤滑油基油c(商品名:FBKオイルRO68、ENEOS社製、鉱油)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0065】
<実施例6>
実施例5において、ステアリン酸リチウムを、ヘキサメチレンジイソシアネート4質量部およびオクチルアミン6質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0066】
<実施例7>
実施例3において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を潤滑油基油b100質量部に対して2.5質量部に変更し、さらに、ステアリン酸ソルビタン(商品名:リケマールS-300W、理研ビタミン社製)を潤滑油基油b100質量部に対して2.5質量部添加したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0067】
<実施例8>
実施例7において、Al(OH)3/ステアリン酸 表面処理酸化チタンを添加しないこと以外は、実施例7と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0068】
<実施例9>
実施例1において、潤滑油基油aを、潤滑油基油d(商品名:リニアレン8、出光興産社製、合成炭化水素油)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0069】
<実施例10>
実施例9において、ステアリン酸リチウムを、ヘキサメチレンジイソシアネート4質量部およびオクチルアミン6質量部に変更したこと以外は、実施例9と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0070】
<実施例11>
実施例3において、ステアリン酸リチウムを添加せず、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を、潤滑油基油b100質量部に対して15質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0071】
<比較例1>
実施例1において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0072】
<比較例2>
実施例2において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0073】
<比較例3>
実施例3において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0074】
<比較例4>
実施例4において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0075】
<比較例5>
実施例5において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例5と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0076】
<比較例6>
実施例6において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(商品名:プライサーフ(登録商標)、第一工業製薬社製)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0077】
<比較例7>
実施例1において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、マレイン酸モノアミドに変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0078】
<比較例8>
実施例1において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、アルケニルコハク酸ジカリウム(商品名:ラテムルASK、花王社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0079】
<比較例9>
実施例3において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、マレイン酸モノアミドに変更したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0080】
<比較例10>
実施例3において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、アルケニルコハク酸ジカリウム(商品名:ラテムルASK、花王社製)に変更したこと以外は、実施例3と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0081】
<比較例11>
実施例5において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、マレイン酸モノアミドに変更したこと以外は、実施例5と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0082】
<比較例12>
実施例5において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、アルケニルコハク酸ジカリウム(商品名:ラテムルASK、花王社製)に変更したこと以外は、実施例5と同様にして金属表面コーティング用組成物を得た。
【0083】
[性能評価]
<耐食性評価>
図1に示す端子付き絶縁電線を作製した。絶縁電線11のアルミニウム導体13は複数のアルミニウム素線を撚り合わせたものであり、アルミニウム導体13全体として、断面の直径は1.6mmの円形である。
各実施例及び比較例に係る金属表面コーティング用組成物を、アルミニウム導体13と銅端子1との接合部7を含む圧着部5に塗布し、コート層17(厚み約200μm)を形成した。コート層17に覆われた圧着部5を、3%塩化ナトリウム水溶液中に24時間浸漬させた。次いで、60℃、相対湿度95%の条件で48時間乾燥させて、圧着部5を、マイクロスコープを用いて平面視観察し、圧着部5の耐食性を下記の評価基準に当てはめて評価した。
なお、下記の「腐食面積率」とは、圧着部5の表面積(S1)に対する、圧着部5のうち腐食した部分の面積(S2)の百分率((S2/S1)×100)である。
(耐食性の判定基準)
◎:圧着部の腐食が認められない。
○:圧着部の腐食面積率が0%超え10%以下。
△:圧着部の腐食面積率が10%超え20%以下。
×:圧着部の腐食面積率が20%超え。
【0084】
<熱耐久性評価>
各実施例及び比較例に係る金属表面コーティング用組成物を、アルミニウム導体13と銅端子1との圧着部5に塗布し、コート層17(厚み約200μm)を形成した。コート層17の熱耐久性を、冷熱衝撃試験機(型式:TSA-103ES-W、エスペック社製)を用いて評価した。試験条件は、-40~125℃の温度サイクルを240サイクルとした。試験前後のコート層17の厚みを、マイクロスコープを用いた側方観察により測定し、下記評価基準に基づき熱耐久性を評価した。
(熱耐久性の判定基準)
〇:コート層の膜厚低下が認められない。
×:コート層の膜厚があきらかに低下する。
【0085】
実施例1~11に係る金属表面コーティング用組成物の組成と試験結果を表1に示し、比較例1~12に係る金属表面コーティング用組成物の組成と試験結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
(表1の注)
表中の数値:質量部
【0088】
【0089】
(表2の注)
表中の数値:質量部
【0090】
上記表に示されるように、コート層が、アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩を含まず、代わりに、他の界面活性剤を潤滑油基油と組み合わせて含有する場合には、いずれも耐食性に大きく劣る結果となった(比較例1~12のコーティング組成物を用いた端子付き絶縁電線)。
これに対し、コート層が、潤滑油基油と、アルキル基とスルホ基とを有する化合物の金属塩とを含有する場合には、端子接合部の耐食が効果的に抑えられることがわかる(実施例1~11のコーティング組成物を用いた端子付き絶縁電線)。また、これらの端子付き絶縁電線はいずれも、熱耐久性にも優れていた。