(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148210
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056113
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】苅田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】白川 慶一
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB02
2H149BA02
2H149BB10
2H149FA02Z
2H149FA03W
2H149FA05X
2H149FA63
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】異物に起因する偏光板中の欠陥を抑制する偏光板の製造方法の提供。
【解決手段】樹脂フィルム(1)を、水系接着剤(4)を介して、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルム(3)の表面に貼合することにより、積層体(10)が得られる。積層体は、乾燥炉(20)を構成する複数の加熱室内で順次搬送され、各加熱室内で加熱される。積層体が通過する各加熱室内の温度は、T℃である。各加熱室内での積層体の搬送時間は、t秒である。T×tの合計は、X℃・秒である。Xが4400に達するまでに積層体が通過する加熱室内の温度は、T
1℃である。Xが4400に達した後に積層体が通過する加熱室内の温度は、T
2℃である。T
1の最大値はT
2の最大値よりも高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルムを含む偏光板の製造方法であって、
水を含む水系接着剤を介して、少なくとも一つの樹脂フィルムを、前記偏光子フィルムの少なくとも一方の表面に貼合して、積層体を得る貼合工程と、
前記積層体を乾燥炉内で搬送しながら、前記積層体を前記乾燥炉内で加熱する乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥炉が、複数の加熱室を含み、
前記乾燥工程において、前記積層体が前記複数の加熱室内を順次通過し、
前記積層体が前記乾燥炉内へ導入されてから任意の時点までに前記積層体が通過する各加熱室内の温度が、T℃と表され、
各加熱室内で前記積層体が搬送される時間が、t秒と表され、
T×tの合計が、X℃・秒と表され、
前記乾燥工程において前記Xが4400に達するまでに前記積層体が通過する前記加熱室内の温度が、T1℃と表され、
前記乾燥工程において前記Xが4400に達した後に前記積層体が通過する前記加熱室内の温度が、T2℃と表され、
前記T1の最大値が、前記T2の最大値よりも高い、
偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記積層体が前記乾燥炉内へ導入されてから前記Xが4400に達するまでの時間が、40秒以上70秒以下である、
請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記積層体が、前記樹脂フィルムとして、第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムを含み、
前記貼合工程では、前記第1樹脂フィルムが、前記水系接着剤を介して、前記偏光子フィルムの一方の表面に貼合され、
前記貼合工程では、前記第2樹脂フィルムが、水を介して、前記偏光子フィルムの他方の表面に貼合され、
前記乾燥工程後、前記第2樹脂フィルムが前記偏光子フィルムから剥離される、
請求項1又は2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記貼合工程の直後において、前記水を含む前記水系接着剤の厚みが、1μm以上10μm以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記貼合工程の直後において、前記偏光子フィルム及び前記第2樹脂フィルムの間にある前記水の厚みが、1μm以上10μm以下である、
請求項3に記載の偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、テレビ、コンピュータ、モバイルフォン(スマートフォン)、スマートウォッチ、携帯ゲーム機、又は車両の計器パネル等の画像表示装置(液晶ディスプレイ、又は有機ELディスプレイ等)に用いられる。偏光板は、保護フィルム及び位相差フィルム等の樹脂フィルムを偏光子フィルムの表面に直接又は間接的に積層することによって製造される。(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルムを含む偏光板の製造方法は、貼合工程及び乾燥工程を含む。貼合工程では、水を含む水系接着剤を介して、樹脂フィルム(例えば、保護フィルム)を、偏光子フィルムの表面に貼合することにより、積層体が得られる。乾燥工程では、積層体が乾燥炉内で搬送されながら、積層体が乾燥炉内で加熱される。乾燥工程により、水系接着剤に由来する水が積層体から除去され、樹脂フィルムが水系接着剤によって偏光子フィルムに接着される。
【0005】
貼合工程では、異物が偏光子フィルムと樹脂フィルムとの間に混入する可能性がある。異物は、視認が困難である程度に微小である。例えば、異物の寸法は10μm以下である。例えば、異物は、偏光子フィルム及び樹脂フィルム等の材料から生じる加工屑、又は大気中を浮遊する埃である。十分な水が偏光子フィルムと樹脂フィルムとの間に存在する場合、偏光子フィルム及び樹脂フィルムは互いに十分に密着せず、異物は偏光子フィルム及び樹脂フィルムに接触し難い。しかし、乾燥工程中に偏光子フィルムが乾燥に伴って十分に収縮する前に、水の殆どが樹脂フィルムと偏光子フィルムとの間から蒸発した場合、異物が樹脂フィルム及び偏光子フィルム其々の表面に接触し、積層体中に埋没する。異物が積層体中に埋没した状態において偏光子フィルムが乾燥に伴って収縮することに因り、偏光子フィルム(及び樹脂フィルム)は異物が接触する部分において局所的に変形し易い。異物に因る偏光子フィルム(及び樹脂フィルム)の局所的な変形は視認される。例えば、偏光子フィルム(及び樹脂フィルム)の局所的な変形は、角錐(ピラミッド)状の欠陥として、偏光板の表面(受光面)側から視認される。異物に起因する偏光子フィルム(及び樹脂フィルム)の局所的な変形は、偏光板の外観及び偏光能を損なう欠陥である。近年の偏光板の薄膜化に伴い、従来は視認されなかった微小な異物に因る偏光子フィルムの変形が顕在化している。例えば、偏光子フィルムの片面にのみ保護フィルムが接着された偏光板では、微小な異物に因る偏光子フィルムの変形が顕在化し易い。したがって、異物に起因する偏光板の欠陥を抑制することが求められる。
【0006】
本発明の一側面の目的は、異物に起因する偏光板中の欠陥を抑制する偏光板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る偏光板の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルムを含む偏光板の製造方法である。本発明の一側面に係る偏光板の製造方法は、水を含む水系接着剤を介して、少なくとも一つの樹脂フィルムを、偏光子フィルムの少なくとも一方の表面に貼合して、積層体を得る貼合工程と、積層体を乾燥炉内で搬送しながら、積層体を乾燥炉内で加熱する乾燥工程と、を含む。乾燥炉は、複数の加熱室を含む。乾燥工程において、積層体は複数の加熱室内を順次通過する。積層体が乾燥炉内へ導入されてから任意の時点までに積層体が通過する各加熱室内の温度は、T℃と表される。各加熱室内で積層体が搬送される時間は、t秒と表される。T×tの合計は、X℃・秒と表される。乾燥工程においてXが4400に達するまでに積層体が通過する加熱室内の温度は、T1℃と表される。乾燥工程においてXが4400に達した後に積層体が通過する加熱室内の温度は、T2℃と表される。T1の最大値は、T2の最大値よりも高い。
【0008】
積層体が乾燥炉内へ導入されてからXが4400となるまでの時間は、40秒以上70秒以下であってよい。
【0009】
積層体は、樹脂フィルムとして、第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムを含んでよい。貼合工程では、第1樹脂フィルムは、水系接着剤を介して、偏光子フィルムの一方の表面に貼合されてよい。貼合工程では、第2樹脂フィルムは、水を介して、偏光子フィルムの他方の表面に貼合されてよい。乾燥工程後、第2樹脂フィルムは偏光子フィルムから剥離されてよい。
【0010】
貼合工程の直後において、水を含む水系接着剤の厚みは、1μm以上10μm以下であってよい。
【0011】
貼合工程の直後において、偏光子フィルム及び第2樹脂フィルムの間にある水の厚みは、1μm以上10μm以下であってよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、異物に起因する偏光板中の欠陥を抑制する偏光板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1中の(a)は、貼合工程において得られる積層体の模式的な断面を示し、
図1中の(a)に示される断面は積層体の積層方向に略平行であり、
図1中の(b)は、乾燥工程を経た積層体の模式的な断面を示し、
図1中の(b)に示される断面は積層体の積層方向に略平行である。
【
図2】
図2は、乾燥工程に用いられる乾燥炉及び積層体其々の模式的な断面を示し、
図2に示される各断面は積層体の積層方向に略平行である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。各図に示すX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各図中のXYZ座標軸其々が示す方向は各図に共通する。
【0015】
本実施形態に係る偏光板の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルムを含む偏光板の製造方法である。本実施形態に係る偏光板の製造方法は、貼合工程及び乾燥工程を含む。
【0016】
図1中の(a)に示されるように、貼合工程では、少なくとも一つの樹脂フィルム(第1樹脂フィルム1)が、水を含む水系接着剤4を介して、偏光子フィルム3の少なくとも一方の表面に貼合される。その結果、積層体10が得られる。積層体10は、樹脂フィルムとして、第1樹脂フィルム1及び第2樹脂フィルム2を含んでよい。貼合工程では、第1樹脂フィルム1が、水系接着剤4を介して、偏光子フィルム3の一方の表面に貼合されてよい。貼合工程では、第2樹脂フィルム2が、水5を介して、偏光子フィルム3の他方の表面に貼合されてよい。偏光子フィルム3が薄いほど、偏光子フィルム3は偏光板の製造過程において破損し易い。したがって、偏光板の製造過程における偏光子フィルム3の破損を抑制するために、貼合工程において、第2樹脂フィルム2(剥離フィルム)が、偏光子フィルム3の表面に貼合される。つまり、第2樹脂フィルム2が偏光子フィルム3を補強する。第2樹脂フィルム2は、接着剤ではなく水5を介して、偏光子フィルム3の表面に密着しているに過ぎない。したがって、乾燥工程後に第2樹脂フィルム2は偏光子フィルム3から容易に剥離されてよい。つまり、第2樹脂フィルム2は、偏光板(完成品)に含まれなくてよい。
【0017】
水を含む水系接着剤4が第1樹脂フィルム1の表面全体に塗布された後、第1樹脂フィルム1が、水系接着剤4を介して、偏光子フィルム3の表面に貼合されてよい。
水を含む水系接着剤4が偏光子フィルム3の表面全体に塗布された後、第1樹脂フィルム1が、水系接着剤4を介して、偏光子フィルム3の表面に貼合されてもよい。
水5が第2樹脂フィルム2の表面全体に塗布された後、第2樹脂フィルム2が、水5を介して、偏光子フィルム3の表面に貼合されてよい。
水5が偏光子フィルム3の表面全体に塗布された後、第2樹脂フィルム2が、水5を介して、偏光子フィルム3の表面に貼合されてもよい。
第1樹脂フィルム1が偏光子フィルム3の一方の表面に貼合されると同時に、第2樹脂フィルム2が偏光子フィルム3の他方の表面に貼合されてよい。
第1樹脂フィルム1が偏光子フィルム3の表面に貼合された後、第2樹脂フィルム2が偏光子フィルム3の表面に貼合されてよい。
第2樹脂フィルム2が偏光子フィルム3の表面に貼合された後、第1樹脂フィルム1が偏光子フィルム3の表面に貼合されてもよい。
水系接着剤4及び水5其々の塗布は、ロール、バーコータ又はスプレー等の手段によって実施されてよい。
第1樹脂フィルム1及び第2樹脂フィルム2其々の貼合は、一対のロールから構成される貼合ロールによって実施されてよい。
【0018】
乾燥工程では、積層体10を乾燥炉内で搬送しながら、積層体10が乾燥炉内で加熱される。
図2に示されるように、乾燥炉20は、複数の加熱室を含む。乾燥工程において、積層体は複数の加熱室内を順次通過する。積層体が乾燥炉内へ導入されてから任意の時点までに積層体が通過する各加熱室内の温度は、T℃と表される。各加熱室内で積層体が搬送される時間は、t秒と表される。T×tの合計は、X℃・秒と表される。
加熱室の数は2以上である限り、加熱室の数は限定されない。例えば、加熱室の数は、2以上20以下、又は2以上10以下であってよい。例えば、乾燥炉に含まれる加熱室の数は、nと表される。nは、2以上の整数である。乾燥炉に含まれる任意の加熱室は、第k加熱室と表される。kは、1以上n以下の任意の整数である。第k加熱室内の温度Tは、T(k)と表されてよい。第k加熱室内で積層体が搬送される時間は、t(k)秒と表されてよい。乾燥工程において、積層体が最初に導入される加熱室は、第1加熱室である。乾燥工程において、積層体は、第(m-1)加熱室内を通過した直後、第m加熱室へ導入される。mは、2以上n以下の任意の整数である。積層体が乾燥炉(第1加熱室)内へ導入されてから任意の時点までに、積層体が第m加熱室内まで搬送される場合、上記のXは、下記数式1によって定義されてよい。
【数1】
【0019】
乾燥工程においてXが4400に達するまでに積層体が通過する加熱室内の温度は、T1℃と表される。乾燥工程においてXが4400に達した後に積層体が通過する加熱室内の温度は、T2℃と表される。T1の最大値は、T2の最大値よりも高い。
【0020】
乾燥工程の具体例は、以下の通りであってよい。
【0021】
各加熱室内の温度T(気温)は、常に個別に制御され、且つ監視(モニター)される。各加熱室内の温度Tは、一定且つ均一であってよい。例えば、各加熱室内は熱風によって加熱されてよい。
【0022】
積層体10は、積層体10の搬送方向Dにおいて長くてよい。例えば、搬送方向Dにおける積層体10の長さは、100m以上8000m以下であってよい。例えば、搬送方向Dに垂直な方向おける積層体10の幅は、0.5m以上2.5m以下であってよい。乾燥炉20内での積層体10の搬送速度は、乾燥炉20の内外に設置された複数の搬送用ロールによって自在に制御されてよい。乾燥炉20内での積層体10の搬送速度は一定であってよい。積層体10は、乾燥炉20内に設置された一つ以上の搬送用ロールによって搬送されてよい。各加熱室内での積層体10の搬送方向D(搬送経路)、及び各加熱室内での積層体10の搬送距離は、各加熱室の寸法及び搬送用ロールによって自在に調整及び設定されてよい。例えば、各加熱室内に設置された一つ以上の搬送用ロールを用いて、各加熱室内での積層体10の搬送経路を屈曲させることにより、各加熱室内での積層体10の搬送距離が延長されてよい。
【0023】
上述の通り、各加熱室内の温度Tを常時制御することができる。更に、積層体10の搬送速度、及び各加熱室内での積層体10の搬送距離に基づいて、各加熱室内で積層体10が搬送される時間tを自在に制御することもできる。したがって、T×tの合計であるXの値を自在に制御することができる。同様の理由により、T1の最大値をT2の最大値よりも高い値に制御することが可能である。同様の理由により、積層体10が乾燥炉20内へ導入されてからXが4400に達するまでの時間t4400を自在に制御することも可能である。
【0024】
乾燥炉20内での乾燥に因る偏光子フィルム3の収縮に伴って、偏光子フィルム3は更に収縮し難くなる。つまり、乾燥に因る偏光子フィルム3の収縮に伴って、偏光子フィルム3の表面は変形し難くなる。T1の最大値がT2の最大値よりも高い場合、水系接着剤4に由来する水の殆どが偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1、との間から蒸発する前に、偏光子フィルム3が十分に収縮することができる。つまり、T1の最大値がT2の最大値よりも高い場合、偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1との間に存在する水が偏光子フィルム3の表面への異物6の接触を抑制した状態において、偏光子フィルム3が十分に収縮して変形し難くなる。水の蒸発に伴って異物6が偏光子フィルム3の表面に接触する前に偏光子フィルム3が変形し難くなるので、異物6が接触する部分における偏光子フィルム3(及び第1樹脂フィルム1)の局所的な変形が抑制され、異物6に起因する偏光板中の局所的な欠陥が抑制される。同様の理由から、T1の最小値がT2の最大値以上であってよく、T1の最小値がT2の最大値よりも高くてもよい。
【0025】
偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1との間にある水系接着剤4は、高い粘度を有し、比較的多量の水を含む。水系接着剤4に由来する豊富な水は、偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1との間において、異物6と偏光子フィルム3との接触を抑制し得る。その結果、異物6に因る偏光子フィルム3(及び第1樹脂フィルム1)の変形も抑制され得る。また水系接着剤4自体が異物6を取り込むことにより、異物6と偏光子フィルム3との接触が抑制され得る。その結果、異物6に因る偏光子フィルム(及び第1樹脂フィルム1)の局所的な変形も抑制され得る。ただし、T1の最大値がT2の最大値以下である場合、偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1との間にある異物6に因る偏光子フィルム3の変形を十分に抑制することは困難であり、異物6に起因する偏光板中の局所的な欠陥を十分に抑制することは困難である。
【0026】
T1の最大値がT2の最大値以下である場合、偏光子フィルム3が乾燥に因り十分に収縮する前に、偏光子フィルム3との第2樹脂フィルム2と間の水5の殆どが蒸発し易い。つまりT1の最大値がT2の最大値以下である場合、偏光子フィルム3が十分に収縮する前に、偏光子フィルム3と第2樹脂フィルム2との間の異物6が偏光子フィルム3に接触し易い。異物6が偏光子フィルム3に接触した後、偏光子フィルム3が乾燥に因って更に収縮することにより、異物6が接触した部分において偏光子フィルム3(及び第2樹脂フィルム2)が局所的に変形し易い。
しかし、T1の最大値がT2の最大値よりも高い場合、水5の殆どが偏光子フィルム3と第2樹脂フィルム2との間から蒸発する前に、偏光子フィルム3が十分に収縮することができる。つまり、T1の最大値がT2の最大値よりも高い場合、偏光子フィルム3と第2樹脂フィルム2との間に存在する水5が偏光子フィルム3の表面への異物6の接触を抑制した状態において、偏光子フィルム3が十分に収縮して変形し難くなる。水5の蒸発に伴って異物6が偏光子フィルム3の表面に接触する前に偏光子フィルム3が変形し難くなるので、異物6が接触する部分における偏光子フィルム3(及び第2樹脂フィルム2)の局所的な変形が抑制され、異物6に起因する偏光板中の局所的な欠陥が抑制される。同様の理由から、T1の最小値がT2の最大値以上であってよく、T1の最小値がT2の最大値よりも高くてもよい。
【0027】
例えば、T1は、50℃以上100℃以下、53℃以上100℃以下、60℃以上100℃以下、65℃以上100℃以下、70℃以上100℃以下、75℃以上100℃以下、又は80℃以上100℃以下であってよい。T1が上記の60℃以上である場合、偏光子フィルム3が比較的短時間で十分に収縮し易い。つまり、水の蒸発に伴って異物6が偏光子フィルム3の表面に接触する前に、偏光子フィルム3が変形し難くなり易い。その結果、異物6が接触する部分における偏光子フィルム3の局所的な変形が抑制され易く、異物6に起因する偏光板中の局所的な欠陥が抑制され易い。T1が上記の100℃以下である場合、乾燥工程における積層体10の熱的劣化が抑制され易い。例えば、T2は、35℃以上80℃以下であってよい。
【0028】
T1の最大値は、60℃以上100℃以下、70℃以上100℃以下、又は80℃以上100℃以下であってよい。T1の最小値は、30℃以上80℃以下、40℃以上80℃以下、又は50℃以上70℃以下であってよい。
T2の最大値は、35℃以上90℃以下、40℃以上80℃以下、又は50℃以上80℃以下であってよい。T2の最小値は、30℃以上70℃以下、35℃以上65℃以下、又は35℃以上60℃以下であってよい。
【0029】
積層体10が乾燥炉20内へ導入されてからXが4400に達するまでの時間t4400は、40秒以上70秒以下、又は45秒以上65秒以下であってよい。時間t4400が40秒以上である場合、偏光子フィルム3の収縮が十分に促進され易い。時間t4400が70秒以下である場合、偏光子フィルム3が比較的短時間で十分に収縮し易い。その結果、水の蒸発に伴って異物6が偏光子フィルム3の表面に接触する前に、偏光子フィルム3が変形し難くなり、異物6が接触する部分における偏光子フィルム3の局所的な変形が抑制され易く、異物6に起因する偏光板中の局所的な欠陥が抑制され易い。さらに時間t4400が70秒以下である場合、乾燥工程における積層体10の熱的劣化が抑制され易い。
【0030】
乾燥工程において、積層体10が乾燥炉20へ導入されてから、乾燥炉20から出るまでの時間(乾燥工程の時間)は、1分間以上、3分間以上、又は5分間以上であってよく、60分間以下、30分間以下、又は15分間以下であってよい。
【0031】
貼合工程時に積層体10に含まれる水が多いほど、偏光子フィルム3と第1樹脂フィルム1(又は第2樹脂フィルム2)の間から水が蒸発する前に偏光子フィルム3が十分に収縮し易く、異物6が接触する部分における偏光子フィルム3の局所的な変形が抑制され易い。貼合工程時に十分な水を積層体10に含ませるために、貼合工程の直後において、水を含む水系接着剤4の厚みは1μm以上10μm以下であってよい。同様の理由から、貼合工程の直後において、偏光子フィルム3及び第2樹脂フィルム2の間にある水5の厚みは1μm以上10μm以下であってよい。水を含む水系接着剤4の厚みは、略均一であってよい。水5の厚みは、略均一であってよい。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子フィルム3は、ポリビニルアルコール系樹脂の延伸、染色及び架橋等の工程によって作製されてよい。例えば、偏光子フィルム3の厚みは、1μm以上50μm以下、又は3μm以上15μm以下であってよい。従来の偏光板の製造方法では、偏光子フィルム3が薄いほど、異物6に起因する偏光板の欠陥が形成され易い。しかし本実施形態によれば、偏光子フィルム3が薄い場合であっても、異物に起因する偏光板の欠陥を抑制することができる。
【0033】
例えば、第1樹脂フィルム1及び第2樹脂フィルム2其々は、透光性を有する熱可塑性樹脂であればよい。例えば、第1樹脂フィルム1及び第2樹脂フィルム2其々は、環状オレフィンポリマー系樹脂(COP系樹脂)、セルロースエステル系樹脂(トリアセチルセルロース等)、鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、又はこれらの混合物若しくは共重合体であってよい。第1樹脂フィルム1の組成は、第2樹脂フィルム2の組成と同じであってよい。第1樹脂フィルム1は、第2樹脂フィルム2の組成と異なっていてもよい。例えば、第1樹脂フィルム1の厚みは、2μm以上90μm以下であってよい。第2樹脂フィルム2の厚みは2μm以上90μm以下であってよい。第1樹脂フィルム1は、保護フィルム又はハードコート層と言い換えられてよい。第2樹脂フィルム2は、離型フィルムと言い換えられてよい。
【0034】
例えば、水を含む水系接着剤4は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液、及びウレタン系樹脂の水溶液のうち少なくとも一つであってよい。例えば、水系接着剤4に含まれるポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂、完全ケン化ポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、及びアミノ基変性ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の変性ポリビニルアルコール系樹脂であってよい。例えば、水系接着剤4中のポリビニルアルコール系樹脂の割合は、100重量部の水に対して1質量部以上10重量以下、又は1質量部以上5重量部以下であってよい。例えば、ウレタン系樹脂の水溶液は、二液型ウレタン系エマルジョン接着剤であってよい。
【0035】
偏光板の製造方法は、一つの以上の他の樹脂フィルム(樹脂層)を第1樹脂フィルム1の表面に直接又は間接的に貼合(積層)する工程を更に含んでよい。偏光板の製造方法は、一つの以上の他の樹脂フィルム(樹脂層)を、第2樹脂フィルム2が剥離された偏光子フィルム3の表面に直接又は間接的に貼合(積層)する工程を更に含んでよい。例えば、他の樹脂フィルム(樹脂層)は、保護フィルム、光学補償フィルム、位相差フィルム、離型フィルム、反射型偏光フィルム、防眩機能付フィルム、表面反射防止機能付フィルム、反射フィルム、半透過反射フィルム、ウインドウフィルム、粘着剤層、接着剤層、ハードコート層、タッチセンサー層、帯電防止層及び防汚層からなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。
【0036】
偏光板の製造方法は、上記の積層体を、画像表示装置の寸法及び形状に応じて加工する工程を更に含んでよい。例えば、切断、研削及び研磨によって、積層体が加工されてよい。例えば、積層体の加工手段は、回転刃、エンドミル及びレーザー等であってよい。
【0037】
例えば、完成された偏光板の厚みは、10μm以上300μm以下であってよい。
【0038】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能である。これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例0039】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
貼合工程では、水を含む水系接着剤が第1樹脂フィルムの表面全体に塗布された後、第1樹脂フィルムが、水系接着剤を介して、偏光子フィルムの一方の表面全体に貼合された。また貼合工程では、水が第2樹脂フィルムの表面全体に塗布された後、第2樹脂フィルムが、水を介して、偏光子フィルムの他方の表面全体に貼合された。第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムは、貼合ロール(一対のロール)を用いて同時に偏光子フィルムへ貼合された。貼合工程の直後において、水を含む水系接着剤の厚みは、2.0μmであった。貼合工程の直後において、偏光子フィルム及び第2樹脂フィルムの間にある水の厚みは、1.5μmであった。
【0041】
偏光子フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなっていた。偏光子フィルムの厚みは、8μmであった。
第1樹脂フィルムは、環状オレフィンポリマー系樹脂からなる保護フィルム(ハードコート層)であった。第1樹脂フィルムの厚みは、27μmであった。
水を含む水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液が用いられた。水溶液中のポリビニルアルコール系樹脂の割合は、100重量部の水に対して3.5質量部であった。
第2樹脂フィルムは、トリアセチルセルロースからなる離型フィルムであった。第2樹脂フィルムの厚みは、60μmであった。
【0042】
上記の貼合工程によって積層体が得られた。搬送方向における積層体の長さは、500mであった。搬送方向に垂直な方向における積層体の幅は、1330mmであった。
【0043】
乾燥工程では、積層体を乾燥炉内で搬送しながら、積層体が乾燥炉内で加熱された。乾燥炉は、第1加熱室R1、第2加熱室R2、第3加熱室R3及び第4加熱室R4から構成されていた。加熱工程の開始時点において、積層体は第1加熱室R1へ導入された。積層体は、第1加熱室R1、第2加熱室R2、第3加熱室R3及び第4加熱室R4の順に、各加熱室内で搬送されながら加熱された。加熱工程の終了時点において、積層体は第4加熱室R4から取り出された。
【0044】
乾燥炉内での積層体の搬送速度は所定の値に維持された。積層体の搬送速度を所定の値に調整するによって、各加熱室内で積層体が搬送される時間tは、下記表1に示される値に調整された。各加熱室内の温度Tは、下記表1に示される値に維持された。
積層体が乾燥炉内へ導入されてからXが4400に達するまでの時間t4400は、下記表2に示される値に調整された。Xの定義は、上述の通りである。
T1の最大値、及びT1の最小値は、下記表2に示される値に調整された。T1の定義は、上述の通りである。
T2の最大値、及びT2の最小値は、下記表2に示される値に調整された。T2の定義は、上述の通りである。
【0045】
上記以外の乾燥工程の諸条件は、下記表2に示される。
下記表2中のt4000は、積層体が乾燥炉(第1加熱室R1)内へ導入されてからXが4000に達するまでの時間である。
下記表2中のt6000は、積層体が乾燥炉(第1加熱室R1)内へ導入されてからXが6000に達するまでの時間である。
下記表2中のX(40)は、積層体が乾燥炉(第1加熱室R1)内へ導入されてから40秒が経過するまでのXである。換言すれば、X(40)は、積層体が第1加熱室R1内へ導入された時点から積層体が第1加熱室R1内で40秒間移送された時点までのXである。
下記表2中のX(70)は、積層体が乾燥炉(第1加熱室R1)内へ導入されてから70秒が経過するまでのXである。換言すれば、X(70)は、積層体が第1加熱室R1内へ導入された時点から積層体が第2加熱室R2内で28秒間移送された時点までのXである。
【0046】
上記の乾燥工程後、積層体の切断(分割)により、長方形状の試料が作製された。試料の寸法は、1250mm×500mmであった。第2樹脂フィルムを試料から剥離することにより、偏光子フィルム及び第1樹脂フィルムから構成される偏光板を得た。偏光子フィルム及び第1樹脂フィルムの間に埋没した異物に起因する欠陥の個数が計測された。欠陥の個数は、偏光板の表面を第1樹脂フィルム側から目視で観察することによって計測された。偏光板の表面は蛍光灯で照らされ、異物に起因する欠陥は光の反射によって特定された。
【0047】
偏光板の表面の単位面積当たりの欠陥の個数(単位:個/m2)が、下記表2に示される。
【0048】
(実施例2、3及び比較例1~4)
実施例2、3及び比較例1~4の場合、各加熱室内の温度Tは下記表1に示される値に維持された。
実施例2、3及び比較例1~4の場合、t4400は下記表2に示される値に調整された。
実施例2、3及び比較例1~4の場合、T1の最大値、及びT1の最小値は下記表2に示される値に調整された。
実施例2、3及び比較例1~4の場合、T2の最大値、及びT2の最小値は下記表2に示される値に調整された。
実施例2、3及び比較例1~4其々の乾燥工程の他の諸条件は、下記表2に示される。
【0049】
上記の事項を除いて、実施例1と同様の方法で、実施例2、3及び比較例1~4其々の貼合工程及び乾燥工程が実施された。実施例1と同様の方法で、実施例2、3及び比較例1~4其々の偏光板における欠陥の個数が計測された。実施例2、3及び比較例1~4其々の欠陥の個数は、下記表2に示される。
【0050】
【0051】
1…第1樹脂フィルム、2…第2樹脂フィルム、3…偏光子フィルム、4…水を含む水系接着剤、5…水、6…異物、10…積層体、20…乾燥炉、R1…第1加熱室、R2…第2加熱室、R(m-1)…第(m-1)加熱室、Rm…第m加熱室、R(n-1)…第(n-1)加熱室、Rn…第n加熱室。