(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148224
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】オリーブ油の評価方法およびオリーブ油の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/03 20060101AFI20231005BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20231005BHJP
A23D 9/02 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
G01N33/03
G01N30/02 N
G01N30/88 C
G01N30/04 P
G01N30/86 J
A23D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056130
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊治
(72)【発明者】
【氏名】仲川 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西村 紗希
(72)【発明者】
【氏名】今義 潤
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DG01
4B026DP10
4B026DX01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オリーブ油を分析することにより、オリーブ油の鮮度すなわちオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価できるオリーブ油の評価方法を提供する。
【解決手段】オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて、前記オリーブ油におけるα-リノレン酸の酵素酸化量を定量化し、前記酵素酸化量に基づいて前記オリーブ油の原料とされたオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価する、オリーブ油の評価方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて、前記オリーブ油におけるα-リノレン酸の酵素酸化量を定量化し、前記酵素酸化量に基づいて前記オリーブ油の原料とされたオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価する、オリーブ油の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のオリーブ油の評価方法であって、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価することを含む、前記オリーブ油の評価方法。
【請求項3】
炭素数6を有する香気成分が、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナールおよび2E-ヘキセナールであり、
炭素数5を有する香気成分が、1-ペンテン-3-オンおよび1-ペンテン-3-オールである、請求項2に記載のオリーブ油の評価方法。
【請求項4】
前記条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価することを含む、請求項2または3に記載の前記オリーブ油の評価方法。
【請求項5】
所定の鮮度を有するオリーブ油の製造方法であって、
1)二種以上のオリーブ油をブレンドする工程と、
2)前記工程で得られたオリーブ油を評価する工程であって、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価し、前記基準を満たす場合に、前記オリーブ油を、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油と同等であると評価する工程と、
3)必要に応じて、前記条件1および2の少なくとも一方が、前記基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整する工程と
を含む、前記オリーブ油の製造方法。
【請求項6】
炭素数6を有する香気成分が、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナールおよび2E-ヘキセナールであり、
炭素数5を有する香気成分が、1-ペンテン-3-オンおよび1-ペンテン-3-オールである、請求項5に記載のオリーブ油の製造方法。
【請求項7】
前記工程2)において、前記条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価し、前記基準を満たす場合に、前記オリーブ油を、オリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油と同等であると評価することを含む、請求項5または6に記載の前記オリーブ油の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブ油の評価方法およびオリーブ油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、我が国におけるオリーブ油の消費量は増加傾向にあり、輸入量も増加している。オリーブ油は、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間が短いほど鮮度が高いとされ、商品価値が高い。
一般に、オリーブ油の評価は、訓練された専門パネルにより、「Defect(欠点風味)」、「Fruity(フルーティ)」、「Bitterness(苦み)」および「Pungent(辛み)」の各項目について10点で官能評価されている。一般消費者が家庭でテイスティングを楽しむための評価シートなども提案されているが(特許文献1など)、オリーブ油の官能評価には、特別な訓練が必要であり、専門パネルの育成および維持はオリーブ油の品質を保つ上で重要な課題である。
しかし、特別に訓練された専門パネルであっても、搾油後、油の状態になってから、搾油時のオリーブ果実の状態を予測することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、オリーブ油を分析することにより、オリーブ油の鮮度、すなわち、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示すオリーブ油の評価方法およびオリーブ油の製造方法にかかるものである。
[1]オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて、前記オリーブ油におけるα-リノレン酸の酵素酸化量を定量化し、前記酵素酸化量に基づいて前記オリーブ油の原料とされたオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価する、オリーブ油の評価方法。
[2]前記[1]に記載のオリーブ油の評価方法であって、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価することを含む、前記オリーブ油の評価方法。
[3]炭素数6を有する香気成分が、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナールおよび2E-ヘキセナールであり、
炭素数5を有する香気成分が、1-ペンテン-3-オンおよび1-ペンテン-3-オールである、前記[2]に記載のオリーブ油の評価方法。
[4]前記条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価することを含む、前記[2]または[3]に記載の前記オリーブ油の評価方法。
[5]所定の鮮度を有するオリーブ油の製造方法であって、
1)二種以上のオリーブ油をブレンドする工程と、
2)前記工程で得られたオリーブ油を評価する工程であって、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価し、前記基準を満たす場合に、前記オリーブ油を、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油と同等であると評価する工程と、
3)必要に応じて、前記条件1および2の少なくとも一方が、前記基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整する工程と
を含む、前記オリーブ油の製造方法。
[6]炭素数6を有する香気成分が、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナールおよび2E-ヘキセナールであり、
炭素数5を有する香気成分が、1-ペンテン-3-オンおよび1-ペンテン-3-オールである、前記[5]に記載のオリーブ油の製造方法。
[7]前記工程2)において、前記条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価し、前記基準を満たす場合に、前記オリーブ油を、オリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油と同等であると評価することを含む、前記[5]または[6]に記載の前記オリーブ油の評価方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、オリーブ油を分析することにより、オリーブ油の鮮度、すなわち、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間を適切に評価することができる。また、本発明によれば、オリーブ油の鮮度を適切に評価することにより、所定の鮮度を有するオリーブ油を簡便な方法で製造することができ、品質が保証されたオリーブ油を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】オリーブ果実の収穫から搾油までの一般的な工程を説明するためのフロー図である。
【
図2】酵素の基質特異性と酵素酸化量の関係を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施態様についてより具体的に説明する。
【0009】
1.オリーブ油の評価方法
図1は、オリーブ果実の収穫後、オリーブ果実からオリーブ油を分離するまで(すなわち、搾油)の一般的な工程を説明するためのフロー図である。
図1に示すとおり、オリーブ油は、オリーブ果実を収穫後、破砕して破砕オリーブを得る破砕工程;この破砕オリーブを攪拌混合してペースト状(オリーブペースト)にする攪拌工程;得られたオリーブペーストを遠心分離機などにより固体部分(ミール)と液体部分(水・油)とに分離する第1分離工程;および液体部分をさらに遠心分離機などにより水と油とに分離する第2分離工程を経て製造することができる。
前述したとおり、オリーブ油は、一般に、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間が短いほど鮮度が高いとされ、商品価値が高い。しかし、本発明者らが知る限り、オリーブ油の状態になってからオリーブ油の鮮度を適切に評価する方法はなく、また、特別に訓練された専門パネルであっても、搾油後、油の状態になってから、搾油時のオリーブ果実の状態を予測することは困難であった。このため、従来、オリーブ油の鮮度は、生産者および販売者による徹底的な品質管理によってのみ保証されていた。
【0010】
このような状況の下、オリーブ油の状態になってから、オリーブ油の鮮度を適切に評価することができれば、より客観的にオリーブ油の品質を保証することができる。また、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間が不明な場合も、オリーブ油の鮮度を知ることができる。
そこで、本発明らは、オリーブ油の鮮度を適切に評価する方法について種々検討した結果、オリーブ油に含まれるリノレン酸の酵素酸化で生成する過酸化脂質(ヒドロペルオキシドともいう)の立体異性体の差分に着目することによって、オリーブ油の鮮度を評価できることを見出した。なお、本明細書において、「オリーブ果実の収穫から搾油までの時間」とは、オリーブ果実の収穫時からオリーブ油を分離するまでの時間をいい、より具体的には、オリーブ果実の収穫時からオリーブ果実を破砕開始するまでの時間をいう。以下に詳しく説明する。
【0011】
オリーブ油の香りは、主として、オリーブ油に含まれるα-リノレン酸が搾油時に、オリーブ果実に含まれる酵素によって酸化されて過酸化脂質となり、この過酸化脂質がオリーブ果実に含まれる別の酵素によって切断されることで生じる香気成分によって構成される。オリーブ油の香りの生成経路を以下に示す。
【化1】
なお、前記生成経路で示した香気成分は一例であり、上記以外の香気成分が含まれ得る。
【0012】
上記のとおり、オリーブ油の香りを構成する香気成分は、
α―リノレン酸が、リポキシゲナーゼによって酸化修飾されて13-リノレン酸ヒドロペルオキシド(13-LnAOOH)が生成する工程i)(「酵素酸化工程」ともいう)と、
13-リノレン酸ヒドロペルオキシドが、ヒドロペルオキシドリアーゼをはじめとする酵素やラジカルを介した反応によって切断されて香気成分が生成する工程ii)(「切断工程」ともいう)によって生成される。
この経路を経て生成する香気成分は、炭素数6を有する香気成分である3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナール、2E-ヘキセナール、2Z-ヘキセナール、3E-ヘキセノール、および3-ヘキセン-1-オールアセテート等、および
炭素数5を有する香気成分である1-ペンテン-3-オール、1-ペンテン-3-オン、2-ペンテン-1-オール、および2-ペンテン-1-オン等が挙げられる。
前記炭素数6を有する香気成分のうち、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナール、および2E-ヘキセナールが、オリーブ油の香りへの寄与が高い成分である。
前記炭素数5を有する香気成分のうち、1-ペンテン-3-オールおよび1-ペンテン-3-オンが、オリーブ油の香りへの寄与が高い成分である。
【0013】
工程i)におけるα―リノレン酸の酵素酸化反応は、オリーブ果実の破砕工程時にオリーブ果実に含まれる酵素と基質であるα―リノレン酸が接触することで始まる。そして、この酵素酸化反応は、油とミールとの分離時(第1分離工程時)に前記酵素がミールに分配されることで基質であるα-リノレン酸と分離されて停止する。同様に、工程ii)における過酸化脂質の切断反応も、オリーブ果実の破砕工程から第1分離工程の間で主に起こる。
本発明者らは、工程i)によって生成される過酸化脂質は、従来、過酸化物価(POV)として測定されてきたが、オリーブ油は搾油直後であってもPOVが1~10程度であることから、前記オリーブ油の香りの生成経路においては工程i)ではなく、工程ii)が律速段階であると考えた。さらに、本発明者らは、収穫から搾油までの日数が短い方が高品質のオリーブ油が製造されると通説があることから、収穫から搾油までの日数で工程i)や工程ii)の一連の酵素反応の程度が変動する可能性を見出した。
これらのことから、本発明者らは、前記オリーブ油の香りの生成経路における13-リノレン酸ヒドロペルオキシドの生成量を測定し、酵素酸化量(すなわち酵素酸化がどれぐらい進んでいるか)を定量化することができれば、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間を推定することができると考えた。
しかし、13-リノレン酸ヒドロペルオキシドは、α―リノレン酸が空気中の酸素と反応する自動酸化(ラジカル酸化)によっても生じるため、POVの測定や13-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量の単純な測定を行っても、酵素酸化がどの程度進んでいるかを知ることはできない。
【0014】
そこで、本発明者らは、工程i)におけるα―リノレン酸の酵素酸化量を定量化するため、酵素の基質特異性に着目した。
図2は、酵素の基質特異性と酵素酸化量の関係を説明するための概念図である。
図2に示すとおり、酵素酸化においては、13-リノレン酸ヒドロペルオキシドのS体が、R体に対して、立体選択的に生成する(S体>R体)。一方、自動酸化においては、13-リノレン酸ヒドロペルオキシドのS体およびR体は非選択的に生成する(理論的にはS体:R体=50%:50%)。
本発明者らは、酵素酸化および自動酸化それぞれの酸化機構の特異性に着目し、13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドおよび13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの生成量の差分を用いて酵素酸化量を定量化できると考え、この差分と、香気成分量との関係を調べた結果、オリーブ果実の収穫から72時間未満、さらには24時間以内に搾油されたオリーブ油において、この差分と香気成分量に相関関係があることを見出した。この相関関係を満たすか否かを、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満、さらには24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準として用いることにより、オリーブ油の状態になってから、オリーブ果実の収穫後から搾油までの時間を評価することができる。
【0015】
すなわち、本発明にかかるオリーブ油の評価方法は、オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて、前記オリーブ油におけるα-リノレン酸の酵素酸化量を定量化し、前記酵素酸化量に基づいて前記オリーブ油の原料とされたオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価するものである。
【0016】
一連の酵素反応のうち、工程ii)が律速反応と考えられるため、オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて定量化した酵素酸化量が高くなりすぎることは、一連の酵素反応のうち工程ii)の反応が効果的に進んでいないことを示している。一連の酵素反応の程度が収穫から搾油までの日数で変動する可能性が考えられることから、オリーブ油に含まれる〔13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕と〔13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドの量〕との差分に基づいて定量化した酵素酸化量を測定し、この酵素酸化量に基づいて、所定の基準を満たすか否かを評価することで、収穫から搾油までの日数を評価することが可能である。
【0017】
本発明にかかるオリーブ油の評価方法の実施形態について説明する。
以下の実施形態では、香気成分の生成量を内部標準物質換算値として求め、これを、酸素酸化量を過酸化物価で補正した酵素酸化由来過酸化物価で除した値(すなわち、酵素酸化あたりの香気成分量)が、所定の基準を満たすか否かを評価することによりオリーブ油を評価する。
【0018】
すなわち、本発明の一実施形態にかかるオリーブ油の評価方法は、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価することを含む。
【0019】
本発明の一実施形態では、オリーブ油中の香気成分の測定に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いる。例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)としては、ガスクロマトグラフィー/飛行時間型質量分析法(GC-TOF/MS)を用いることができる。分析機器を用いることにより、測定者による誤差が少なく、より客観的にオリーブ油を評価することが可能である。
例えば、GC-TOF/MSを用いて、トータルイオンクロマトグラムを得、トータルイオンクロマトグラムにおける各香気成分のエリア値を内部標準物質のエリア値で換算して各香気成分値(すなわち、内部標準物質換算値)を求めることができる。
この際、内部標準物質は、前記式(1a)および(1b)に基づいて香気成分値を測定できるものであれば特に限定されないが、オリーブ油に含まれない成分である点、かつオリーブ油の香気成分を分析する分析条件で検出可能である点で、4-メチル-2-ペンタノールを用いることが好ましい。
ただし、ガスクロマトグラフィー(GS)を用いた香気成分分析としては、GC-TOF/MSの他にも、ガスクロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(GC-FID)やガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC-MS)などを用いる方法がある。他の方法を用いる場合、その原理から、式(1a)および式(1b)で補正することにより同様のデータが取得可能である。
【0020】
オリーブの品種によって香気成分の組成は異なる。また、炭素数6を有する香気成分と、炭素数5を有する香気成分とでは揮発性が異なり、保存状態によっても香気成分の組成は変わり得る。
そこで、本発明の一実施形態にかかるオリーブ油の評価方法では、香気成分を、炭素数6を有する香気成分と、炭素数5を有する香気成分とに分類し、トータルイオンクロマトグラムにおける炭素数6を有する香気成分のエリア値の合計値と、炭素数5を有する香気成分のエリア値の合計値の少なくとも一方に基づいてオリーブ油を評価する。
【0021】
炭素数6を有する香気成分としては、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナール、2E-ヘキセナール、2Z-ヘキセナール、3E-ヘキセノール、および3-ヘキセン-1-オールアセテート等が挙げられる。これらのうち、オリーブ油の香りへの寄与が特に高い3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナール、および2E-ヘキセナールの3成分の合計値に基づいて、オリーブ油の鮮度を評価してもよい。
炭素数5を有する香気成分としては、1-ペンテン-3-オール、1-ペンテン-3-オン、2-ペンテン-1-オール、および2-ペンテン-1-オン等が挙げられる。これらのうち、オリーブ油の香りへの寄与が特に高い1-ペンテン-3-オールおよび1-ペンテン-3-オンの2成分の合計値に基づいて、オリーブ油の鮮度を評価してもよい。これらの合計値に基づいてオリーブ油の鮮度を評価することができる。
【0022】
本発明の一実施形態では、α―リノレン酸ヒドロペルオキシドの測定に、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)を用いる。分析機器を用いることにより、多種にわたる過酸化脂質の中から、13-リノレン酸ヒドロペルオキシドのS体とR体を高い選択性を持って分析することができる。
SFC-MS/MSを用いて、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)クロマトグラムを得、MRMクロマトグラムにおける13―リノレン酸ヒドロペルオキシドのS体のエリア値とR体のエリア値の差分に基づいて酵素酸化量を定量化する。すなわち、次式に従って酵素酸化由来過酸化物価(POV)を算出し、これを酵素酸化量として定義することができる。
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
この際、13-リノレン酸ヒドロペルオキシドの標準物質がある場合は、直接定量した数値から酵素酸化量を求めることも可能であるが、標準物質の単離には複雑な工程が必要であるため、オリーブ油の過酸化物価を用いて補正することで使用しやすくなる。
ただし、過酸化脂質の立体異性体の分析としては、他にも、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC-MS/MS)を用いることもできる。さらには、過酸化脂質基をヒドロキシ基に還元した後に分析する方法がある。他の方法を用いる場合、その原理から、式(2)で補正することにより同様のデータが取得可能である。
【0023】
本発明の一実施形態では、式(1a)または(1b)で示されるとおり、分析時に使用した内部標準物質を用いて香気成分量を換算するため、使用する分析機器に依存することなく、オリーブ油を評価することができる。
本発明の一実施形態では、式(2)で示されるとおり、オリーブ油の過酸化物価を利用して酸素酸化量を補正した酵素酸化由来過酸化物価(POV)を用いるため、使用する分析機器に依存することなく、オリーブ油を評価することができる。
【0024】
各測定条件は、特に限定されず、当業者が使用する分析機器に応じて適宜設定することができる。例えば、実施例に記載の条件に従って分析することができる。
【0025】
本発明の評価方法では、例えば、前記条件1が、以下に示す判定基準1(炭素数6を有する香気成分に基づく)を満たしているか、前記条件2が判定基準2(炭素数5を有する香気成分に基づく)を満たしているか、あるいは前記条件1および2の両方が所定の判定基準を満たしている場合に、評価対象のオリーブ油を、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油、すなわち、オリーブ果実の収穫後72時間未満に分離されたオリーブ油、より具体的にはオリーブ果実が破砕開始されたオリーブ油であると評価することができる。
【0026】
<判定基準1>
前記式(1a)で求められる、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、前記式(2)で求められる酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値(すなわち、酵素酸化あたりのC6香気成分量(mg/meq))が、6.0mg/meq以上40mg/meq以下の範囲である。なお、この値は、好ましくは7.0mg/meq以上50mg/meq以下、より好ましくは8.0mg/meq以上40mg/meq以下、さらに好ましくは9.0mg/meq以上35mg/meq以下である。
<判定基準2>
前記式(1b)で求められる、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、前記式(2)で求められる酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値(すなわち、酵素酸化あたりのC5香気成分量(mg/meq))が、0.8mg/meq以上10mg/meq以下の範囲である。なお、この値は、好ましくは0.85mg/meq以上7.5mg/meq以下、より好ましくは0.9mg/meq以上6.0mg/meq以下、さらに好ましくは0.95mg/meq以上4.0mg/meq以下である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、例えば、前記条件1が、以下に示す判定基準1Aを満たしているか、前記条件2が、判定基準2Aを満たしているか、前記条件1および2の両方が所定の判定基準を満たしている場合に、評価対象のオリーブ油を、オリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油、すなわち、オリーブ果実の収穫後24時間以内に分離されたオリーブ油、より具体的にはオリーブ果実が破砕開始されたオリーブ油であると評価することができる。
【0028】
<判定基準1A>
式(1a)で示される炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、式(2)で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値(すなわち、酵素酸化あたりのC6香気成分量(mg/meq))が、8.0mg/meq以上40mg/meq以下の範囲である。なお、この値は、好ましくは9.0mg/meq以上35mg/meq以下である。
<判定基準2A>
式(1b)で示される炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、式(2)で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値(すなわち、酵素酸化あたりのC5香気成分量(mg/meq))が、0.85mg/meq以上7.5mg/meq以下の範囲である。なお、この値は、好ましくは0.9mg/meq以上6.0mg/meq以下、より好ましくは0.95mg/meq以上4.0mg/meq以下である。
【0029】
2.オリーブ油の製造方法
次に、本発明にかかるオリーブ油の製造方法について説明する。
本発明にかかるオリーブ油の製造方法は、所定の鮮度を有するオリーブ油の製造方法であって、
1)二種以上のオリーブ油をブレンドする工程と、
2)前記工程で得られたオリーブ油を評価する工程であって、
以下の条件:
<条件1>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1a):オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数6を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数6を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値、および
<条件2>
前記オリーブ油に所定量の内部標準物質を添加したものを分析用試料として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析して求められる、
式(1b):オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=(炭素数5を有する香気成分のエリア値(合計値)/内部標準物質のエリア値)×(内部標準物質の質量/オリーブ油の質量)
で示される、オリーブ油中の炭素数5を有する香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)を、
前記オリーブ油を分析用試料として用い、超臨界流体クロマトグラフィー/質量分析法(SFC-MS/MS)により分析して求められる、
式(2):酵素酸化由来過酸化物価(POV)=[{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)-(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}/{(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)+(13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシドのエリア値)}]×オリーブ油の過酸化物価(POV)
で示される酵素酸化由来過酸化物価(POV)で除した値
の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための基準を満たすか否かを評価し、前記基準を満たす場合に、前記オリーブ油を、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油と同等であると評価する工程と、
3)必要に応じて、前記条件1および2の少なくとも一方が、前記基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整する工程と
を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0030】
<工程1)>
工程1)では、二種以上のオリーブ油をブレンドする。
ブレンドするオリーブ油の品種、産地、収穫時期、収穫方法、搾油方法、および保管方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、ブレンド比も特に限定されない。
また、ブレンドするオリーブ油は、鮮度が分かっているものでもよく、鮮度が不明なものでもよい。また、鮮度が不明な場合、前記「1.オリーブ油の評価方法」を用いて、オリーブ油の鮮度を予め評価していてもよく、評価していなくてもよい。
【0031】
<工程2)>
工程2)では、前記工程1)でブレンドされたオリーブ油を評価する。評価方法は、前記「1.オリーブ油の評価方法」で述べたとおりである。
工程2)で、条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると判定するための各基準を満たす場合、ブレンドされたオリーブ油を、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油、すなわち、オリーブ果実の収穫後72時間未満に分離されたオリーブ油、より具体的にはオリーブ果実が破砕開始されたオリーブ油と同等であると評価することができる。
また、条件1および2の少なくとも一方が、前記オリーブ油がオリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油であると判定するための各基準を満たす場合、ブレンドされたオリーブ油を、オリーブ果実の収穫から24時間以内に搾油されたオリーブ油、すなわち、オリーブ果実の収穫後24時間以内に分離されたオリーブ油、より具体的にはオリーブ果実が破砕開始されたオリーブ油と同等であると評価することができる。
【0032】
条件1または2のいずれもが、所定の基準を満たさなかった場合は、オリーブ果実の収穫から72時間未満、あるいは24時間以内に搾油されたオリーブ油と同等の鮮度を有すると評価できない。
この場合は、次の工程3)において、上記条件1および2の少なくとも一方が、所定の基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整する。
【0033】
<工程3)>
工程3)では、前記条件1および2の少なくとも一方が、所定の基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整する。例えば、鮮度が高いことが既に知られているオリーブ油を配合するか、配合量を増量するなどし、再度、工程2)において、オリーブ油を評価することにより、前記条件1および2の少なくとも一方が、所定の基準を満たすようにオリーブ油の組成を調整することができる。
なお、工程2)において所定の条件を既に満たしている場合は、工程3)を省略してもよい。
工程3)で調整されたオリーブ油は、必要に応じて、再度、工程2)で評価してもよい。
任意に、工程2)および工程3)を繰り返すことにより、目的のオリーブ油(ブレンド物)を製造することができる。
【実施例0034】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。
【0035】
<オリーブ油の調製(オリーブ果実の収穫から搾油まで)>
オリーブ果実(コロネイキ種)を収穫した後、麻製の袋に入れて22℃に保存した。
収穫後保存期間を24時間、72時間、144時間、216時間とした果実を用いて室温22℃の条件下で搾油を行った。果実(約500g)をフードプロセッサーNational MK-K45(Panasonic株式会社製)で2分間せん断した。
次に、せん断した果実をキッチンエイドKSM51B(KitchenAid社製)に入れ、混合速度を目盛り1、混合時間を60分間または30分間にして混合した。
続いて、遠心分離(室温、3000rpm、5分間)を行い、上層の水と油の混合物を得た。得られた水と油の混合物を50mLファルコンチューブに移し、再度遠心分離(室温、3000rpm、5分間)を行い、上層のオリーブ油を得た。
【0036】
<オリーブ油の熟度>
収穫後のオリーブ果実は、その外観と中の色に基づいて熟度を決定した。すなわち、表1に基づいて、0.5刻みで熟度を決定した。
【表1】
【0037】
<オリーブ油の分析>
(1)過酸化物価分析
オリーブ油の過酸化物価(POV)(meq/kg)を基準油脂分析試験法2.5.2.1に準じて測定した。各実施例および比較例におけるPOVを表3に示す。
【0038】
(2)香気成分分析
香気成分の分析はGC-Tof/MS(Pegasus(登録商標)BT、LECOジャパン社製)で行った。10mLのガラスバイアルにオリーブ油1.5gを入れた後、内部標準物質として4-メチル-2-ペンタノール/メタノール(1.6mg/mL)を5μL添加し、バイアルに蓋をし、分析サンプルとした。分析サンプルを40℃で2分間加温した後、固相マイクロ抽出(SPME)ファイバー(50/30μm、DVB/CAR/PDMS、2cm)をバイアルのヘッドスペースに挿入し、40℃で40分間平衡化を行い、香気成分をSPMEファイバーに吸着させた。
次に、SPMEファイバーをGCの注入口に挿入し、260℃で2分間加熱を行うことで、香気成分をGCに導入した。GC-Tof/MSの条件は下記のとおりとし、トータルイオンクロマトグラムを得た。
【0039】
<測定条件>
カラム;DB-WAX-UI(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
キャリアガス;ヘリウム
流速;1.07mL/min
オーブン温度;40℃(10分間)→3℃/min→200℃(10分間)
スキャン範囲;m/z=45~400
スプリット比;1:10
イオン源温度;250℃
イオン化電圧;70V
【0040】
<解析方法>
解析は以下のとおり行った。
まず、3Z-ヘキセナール、3E-ヘキセナール、2E-ヘキセナール、1-ペンテン-3-オン、1-ペンテン-3-オール、4-メチル-2-ペンタノールのエリア値を求めた。得られたエリア値から下記の式を利用し、オリーブ油中のC6香気成分およびC5香気成分の内部標準物質換算値(mg/kg)を求めた。
式(1a’):C6香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=((3Z-ヘキセナールのエリア値)+(3E-ヘキセナールのエリア値)+(2E-ヘキセナールのエリア値))/(4-メチル-2-ペンタノールのエリア値)×(4-メチル-2-ペンタノールの添加量(8μg))/(油重量(1.5g))
式(1b’):C5香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)=((1-ペンテン-3-オンのエリア値)+(1-ペンテン-3-オールのエリア値))/(4-メチル-2-ペンタノールのエリア値)×(4-メチル-2-ペンタノールの添加量(8μg))/(油重量(1.5g))
【0041】
(3)過酸化脂質分析
過酸化脂質成分(13(S)-リノレン酸ヒドロペルオキシドおよび13(R)-リノレン酸ヒドロペルオキシド)は、エチルエステル体に変換した後に、SFC-MS/MS(Nexera SFC、株式会社島津製作所製)を用いて分析を行った。1.5mLのガラスバイアルにオリーブ油10mgを採取した後、10mM水酸化リチウム/エタノール溶液990μLを添加した。
続いて、そのガラスバイアルを多検体撹拌機ボルテックスミキサーマルチ BSR-MTV100(株式会社バイオメディカルサイエンス社製)にセットし、室温、2500rpm、40分間の条件で攪拌した。
攪拌後、反応液を固相抽出(Strata(登録商標)SI-1 Silica(55μm、70Å)100mg、Phenomenex社製)に通したものを、SFC用の分析サンプルとした。
SFC-MS/MSの分析条件は下記条件に設定し、キラルカラムを用いて13(S)-hydroperoxy-9Z,11E,15Z-octadecatrienoic acid ethyl ester(13S-HpOTE)と13(R)-hydroperoxy-9Z,11E,15Z-octadecatrienoic acid ethyl ester(13R-HpOTE)を分離した。また、ヒドロペルオキシド基の結合位置に特徴的なフラグメントイオンを検出するため、13S-HpOTEおよび13R-HpOTEはNa付加体をプリカーサーイオンとしたMRM分析によって検出した。
【0042】
<測定条件>
カラム;CHIRALPAK IG-3(4.6mmID×25cm)(株式会社ダイセル社製)
移動相A;二酸化炭素
移動相B;メタノール
流速;0.8mL/min
グラジエント;表2に記載のとおり
【表2】
メイクアップ;20mMギ酸アンモニウムメタノール溶液
メイクアップ流速;0.1mL/min
カラムオーブン温度;20℃
背圧;10MPa
イオン化;ESI(ポジティブ)
インターフェイス電圧;+4.0kV
インターフェイス温度;300℃
脱溶媒温度;526℃
MRM;m/z=361.3>275.0
【0043】
<解析方法>
解析は以下のとおり行った。
13R-HpOTEと13S-HpOTEのエリア値を求めた。得られたエリア値から下記の式を利用し、酵素酸化由来POV(meq/kg)を算出した。
式(2’):酵素酸化由来POV(meq/kg)=((13S-HpOTEのエリア値)-(13R-HpOTEのエリア値))/((13S-HpOTEのエリア値)+(13R-HpOTEのエリア値))×(POV(meq/kg))
【0044】
(4)酵素酸化あたりの香気成分量
酵素酸化あたりのC6香気成分量およびC5香気成分量を以下の式で算出した。
式:酵素酸化あたりのC6香気成分量=C6香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)/酵素酸化由来POV(meq/kg)
式:酵素酸化あたりのC5香気成分量=C5香気成分値の内部標準物質換算値(mg/kg)/酵素酸化由来POV(meq/kg)
【0045】
各実施例および比較例におけるオリーブ油の搾油条件および分析値を表3および表4に示す。
【表3】
【表4】
【0046】
(5)オリーブ油の評価方法
前記(4)で得られた酵素酸化あたりのC6香気成分量およびC5香気成分量の少なくとも一方が、所定の判定基準を満たすか否かに基づいて、オリーブ油の原料とされたオリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価することができる。
例えば、判定基準1の少なくとも一方を満たす場合、オリーブ油が、オリーブ果実の収穫から72時間未満に搾油されたオリーブ油であると評価することができる。また、判定基準2の少なくとも一方を満たす場合、オリーブ油が、オリーブ果実の収穫から24時間未満に搾油されたオリーブ油であると評価することができる。
<判定基準1>
酵素酸化あたりのC6香気成分量(mg/meq):6.0以上40以下
酵素酸化あたりのC5香気成分量(mg/meq):0.85以上10以下
<判定基準2>
酵素酸化あたりのC6香気成分量(mg/meq):8.0以上40以下
酵素酸化あたりのC5香気成分量(mg/meq):0.85以上7.5以下
【0047】
酵素酸化あたりの香気成分量が低値を示すということは、一連の酵素反応のうち、工程i)の反応と比較して、工程ii)の反応が十分に進んでいないことを意味する。したがって、これら一連の酵素反応を評価することで、オリーブ果実の収穫から搾油までの時間を評価することができたと言える。