(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148293
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】排ガス冷却装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20231005BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20231005BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B7/60 ZAB
C04B7/44
F27D17/00 104D
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056231
(22)【出願日】2022-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】高木 智広
【テーマコード(参考)】
4G112
4K056
【Fターム(参考)】
4G112KA05
4K056AA12
4K056BA06
4K056CA08
4K056DB05
4K056DC06
(57)【要約】
【課題】
冷却ガスのプローブ内での逆流を抑制し、排ガスと冷却ガスとの混合を円滑にし冷却効率の高い、排ガス冷却装置及び方法を提供すること。
【解決手段】
本発明の排ガス冷却装置及び方法においては、プローブ2の円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、冷却ガスの導入方向は、該中心軸から距離rだけずれて配置されており、位置P1に配置される導入手段の距離r1は、位置P2に配置される導入手段の距離r2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置において、
該プローブは円筒形であり、
該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、
各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸から距離rだけずれて配置されており、
該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該距離r1は、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該距離r2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項2】
セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置において、
該プローブは円筒形であり、
該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、
各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸に垂直な断面となす角度θを持ち、
該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該角度θ1は、0度以上であり、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該角度θ2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の排ガス冷却装置において、該導入手段には、2つの導入部が配置され、各導入部の冷却ガスの導入方向と該円筒形の中心軸との距離rは、該中心軸から反対方向に同じ距離だけずれていることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の排ガス冷却装置において、該距離r1は0より大きく、該距離r2は0であることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の排ガス冷却装置において、該角度θ2は0度以下であることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の排ガス冷却装置において、該セメント原料を予熱するプレヒーターを備え、一つのプレヒータに該プローブが複数設置されていることを特徴とする排ガス冷却装置。
【請求項7】
セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却方法において、
該プローブは円筒形であり、
該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、
各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸から距離rだけずれて配置されており、
該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該距離r1は、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該距離r2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする排ガス冷却方法。
【請求項8】
セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却方法において、
該プローブは円筒形であり、
該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、
各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸に垂直な断面となす角度θを持ち、
該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該角度θ1は、0度以上であり、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該角度θ2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする排ガス冷却方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の排ガス冷却方法において、該導入手段には、2つの導入部が配置され、各導入部の冷却ガスの導入方向と該円筒形の中心軸との距離rは、該中心軸から反対方向に同じ距離だけずれていることを特徴とする排ガス冷却方法。
【請求項10】
請求項7又は9に記載の排ガス冷却方法において、該距離r1は0より大きく、該距離r2は0であることを特徴とする排ガス冷却方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の排ガス冷却方法において、該角度θ2は0度以下であることを特徴とする排ガス冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス冷却装置及び方法に関し、特に、セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業において、ナトリウム、カリウム等のアルカリや塩素等の種々の揮発性の不純物が含まれている産業廃棄物等をセメント原料の一部として利用することが進められている。これは、リサイクルの観点からも要望されている。特に、近年は、セメント生産量に対し、塩素含有産業廃棄物の処理量の増加や、高濃度塩素含有産業廃棄物の処理等が期待されており、セメントから塩素を除去する技術が望まれている。
【0003】
セメントから塩素を除去する技術としては、セメントキルンから排出される排ガスの一部をプローブで抽気し、該プローブ内で該排ガスの温度を1000℃程度から450℃以下に冷却し、塩素等の揮発性成分を排ガス中の微粉部分に濃縮し、当該微粉部分を分級除去することが提案されている。抽気するガスは、キルンの窯尻からの排ガスや、当該排ガスが導入されるプレヒータからの排ガスの何れであっても良い。
【0004】
特許文献1では、冷却ガスの一部がプローブ内を逆流し、プレヒータ等に流入することを抑制するため、プローブの排ガスを抽気する方向と冷却ガスをプローブ内に向けて供給する方向とがなす角度を70度以下に設定することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、プローブ内の燃焼ガス(排ガス)の吸引方向に対して直角方向、かつ、燃焼ガス流れの中心方向に低温ガス(冷却ガス)を吐出する複数の吐出口を備えた、直交流冷却型プローブが開示されている。
【0006】
プローブ内の排ガスを単に冷却するだけであれば、排ガスに対する冷却ガスの流量を増加するだけでも良いが、冷却ガスの流速や流量を増加すると、プローブの入口側(プレヒータ側)へ冷却ガスが逆流し、冷却ガスのリーク量が増加する原因となる。その結果、例えばプレヒータに供給される排ガスの温度が低下し、適切な石灰石の脱炭素率を実現するために必要な燃料も増加するなどの不具合を生じる。
【0007】
プローブでは、抽気された排ガスを急冷し、揮発性物質を速やかに気相から固相に相変化させることで、プローブの内面に付着し易い液相状態となることを抑制することが重要である。冷却効率が悪く急冷できない場合には、プローブ内に液相状態の揮発性物質が付着しコーチングを生成し、プローブの閉塞等の操業トラブルの原因にもなる。
【0008】
特許文献1の方法では、冷却ガスの流速が不足した場合には、冷却ガスと排ガスとの混合が不十分となる。また、特許文献2の方法では、冷却ガスが排ガスの流れに対して直角に導入されるため、冷却ガスの流速が大きくなると、冷却ガスがプレヒータへ逆流する不具合も生じる。このように、従来のプローブにおいても、冷却効率をより一層高めることが期待されている。
【0009】
特許文献3では、このような不具合を解消するため、円筒形のプローブに対し冷却ガスの導入部を、冷却ガスの導入方向が該円筒形の中心軸と重ならず、該導入方向と該中心軸に垂直な断面とがなす角度が30度以上、60度以下に設定することを提案している。この構成により、冷却効率が高くなることが確認されている。
【0010】
冷却効率を更に上げるため、冷却ガスの流量を増やした場合、冷却ガスのキルン側への逆流が発生し易すくなり、逆に冷却効率が下がる原因となる。また、逆流を抑えるため、冷却ガスの導入方向の角度をより大きくすると、排ガスと冷却ガスとが十分に混合されずに冷却ガスがプローブを通過し、冷却効果も低減することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5582414号公報
【特許文献2】特許第5411126号公報
【特許文献3】特許第6969693号公報
【特許文献4】特開平11-130490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、冷却ガスのプローブ内での逆流を抑制し、排ガスと冷却ガスとの混合を円滑にし冷却効率の高い、排ガス冷却装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の排ガス冷却装置及び方法は、以下の技術的特徴を有する。
(1) セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置において、該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸から距離rだけずれて配置されており、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該距離r1は、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該距離r2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0014】
(2) セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置において、該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸に垂直な断面となす角度θを持ち、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該角度θ1は、0度以上であり、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該角度θ2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0015】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の排ガス冷却装置において、該導入手段には、2つの導入部が配置され、各導入部の冷却ガスの導入方向と該円筒形の中心軸との距離rは、該中心軸から反対方向に同じ距離だけずれていることを特徴とする。
【0016】
(4) 上記(1)又は(3)に記載の排ガス冷却装置において、該距離r1は0より大きく、該距離r2は0であることを特徴とする。
【0017】
(5) 上記(2)又は(3)に記載の排ガス冷却装置において、該角度θ2は0度以下であることを特徴とする。
【0018】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の排ガス冷却装置において、該セメント原料を予熱するプレヒーターを備え、一つのプレヒータに該プローブが複数設置されていることを特徴とする。
【0019】
(7) セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却方法において、該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸から距離rだけずれて配置されており、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該距離r1は、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該距離r2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0020】
(8) セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却方法において、該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸に垂直な断面となす角度θを持ち、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該角度θ1は、0度以上であり、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該角度θ2よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0021】
(9) 上記(7)又は(8)に記載の排ガス冷却方法において、該導入手段には、2つの導入部が配置され、各導入部の冷却ガスの導入方向と該円筒形の中心軸との距離rは、該中心軸から反対方向に同じ距離だけずれていることを特徴とする。
【0022】
(10) 上記(7)又は(9)に記載の排ガス冷却方法において、該距離r1は0より大きく、該距離r2は0であることを特徴とする。
【0023】
(11) 上記(8)又は(9)に記載の排ガス冷却方法において、該角度θ2は0度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、セメント原料を焼成するキルンと、該キルンから排出される排ガスの一部を抽気するプローブと、該プローブに冷却ガスを導入し、該排ガスと該冷却ガスとを該プローブ内で混合した混合ガスを排出する排ガス冷却装置及び方法において、さらに、以下に示す(a)又は(b)の特徴を備えることにより、冷却効率をより高めることが可能となる。
(a)該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸から距離rだけずれて配置されており、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該距離r1は、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該距離r2よりも大きくなるように設定されていること。
(b)該プローブは円筒形であり、該プローブの円筒形の中心軸方向の異なる位置に該冷却ガスの導入手段を複数設け、各導入手段には、少なくとも1つの導入部が配置され、該導入部から導入される冷却ガスの導入方向は、該円筒形の中心軸に垂直な断面となす角度θを持ち、該キルンに近い位置P1に配置される該導入手段の該角度θ1は、0度以上であり、該キルンから離れている位置P2に配置される該導入手段の該角度θ2よりも大きくなるように設定されていること。
【0025】
この構成により、冷却ガスのプローブ内での逆流を抑制し、排ガスと冷却ガスとの混合を円滑にし冷却効率の高い、排ガス冷却装置及び方法を提供することが可能となる。具体的には、キルンに近い位置P1の導入手段には、排ガスと冷却ガスの円滑な混合を行い、排ガスの温度を速やかに冷却する役割を担っている。また、キルンから離れた位置P2にある冷却ガスの導入手段には、上述した入口側に近い導入手段の冷却ガスが、より長くプローブ内に滞在し、排ガスとよく混合され、プローブ出口の温度を適正な温度に維持するのを補助する役割がある。このような役割分担により、冷却効率をより高くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】排ガス用の配管から直接抽気する様子を説明する図である。
【
図2】排ガス用の配管からボックスを介し抽気する様子を説明する図である。
【
図3】本発明の排ガス冷却装置及び方法に係る概略図(その1)である。
【
図4】
図3の位置P1又はP2における断面図である。
【
図5】本発明の排ガス冷却装置及び方法に係る概略図(その2)である。
【
図6】
図5の位置P1又はP2における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の排ガス冷却装置及び方法について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の排ガス冷却装置及び方法の特徴は、プローブに供給する冷却ガスの導入手段を複数設け、これらを最適な条件で連動させることにより、冷却ガスの流量を増加させた際でも、排ガスのキルン側への逆流を抑制しながら、冷却効果をより高くすることを可能とする。
【0028】
プローブに複数個所から冷却ガスを導入する方法としては、特許文献2のように、プローブの中心軸方向の同じ位置において、プローブの周囲に複数の導入部を設置する方法や、特許文献4のように、該中心軸方向で異なる位置に、複数の導入部を設置する方法がある。しかしながら、特許文献2及び4に開示されている方法は、複数の導入部が設置されているが、個々の役割は基本的に同じであり、単に数を増加して、冷却効果を高めたに過ぎない。
【0029】
プローブの周りに十分な配管用の空間がある場合は、特許文献2及び4のような対応も可能であるが、一般的にプローブの周りにはキルンやプレヒータなどの様々な配管があり、十分な空間を確保することが難しい。本発明は、このような問題にも鑑みて、より少ない配管で効率的な冷却を実現したものである。
【0030】
本発明の排ガス冷却装置及び方法に使用する排ガスは、セメント原料を焼成するキルンの窯尻から抽出される排ガスであり、
図1に示すように、窯尻から排出される排ガス(EG1)を案内する配管1の途中に、排ガス(EG1)の一部(EG2)を抽気するプローブ2を設けている。また、
図2では、配管1から分岐するボックス10を設け、そのボックス内の排ガス(EG1’)の一部(EG2)を抽気するプローブ2を設けている。このようなボックス10を介することで、流量や流速の安定した排ガスをプローブ2に導入することができる。
【0031】
図1及び2に示した配管1は、キルンの窯尻から直接排出される排ガスを導入する配管に限定されない。キルンから排出される排ガスをセメント原料を加熱するプレヒータに導入する場合、プレヒータから排出される排ガスを案内する配管であっても良い。また、プレヒーターに複数のプローブを接続し、個々のプローブに本発明の排ガス冷却装置(方法)を組み込むことも可能である。
【0032】
図3は、本発明の排ガス冷却装置(以下では、装置を中心に説明する。)の概略を示す図である。
図3では、プローブ2の中心軸方向で異なる位置P1及びP2に、冷却ガスの導入部を設ける場合を説明しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、3つ以上の異なる位置に配置することも可能である。
【0033】
本発明の排ガス冷却装置では、プローブの中心軸方向の異なる位置に複数の冷却ガス導入手段を設けた場合、配置する位置よって各導入手段の役割が異なる。例えば、プローブ入口側(キルン側)に近い位置(位置P1)の導入手段には、排ガスと冷却ガスの円滑な混合を行い、排ガスの温度を速やかに冷却することが期待される。揮発性成分が冷却してプローブ等の内壁に付着する「コーチング」を防止するためには、コーチングが付着し易い温度(約800℃~約600℃)に維持される時間を短縮することが必要である。具体的には、排ガスと冷却ガスとが混ざり易い流れを形成することと、冷却ガスがプローブの入り口側に逆流することを防止することが重要となる。これらを実現する条件は、特許文献3にも開示されている各種条件が利用可能である。
【0034】
次に、プローブの入口側から離れた位置(位置P2)にある冷却ガスの導入手段には、上述した入口側に近い導入手段の冷却ガスが、より長くプローブ内に滞在し、排ガスとよく混合され、プローブ出口の温度を適正な温度に維持することである。このためには、プローブの上流側から流れて来る排ガスや冷却ガスを、容易に通過させない、ガスの通り抜けが悪い状態を形成することである。
【0035】
図3及び
図4で示すモデルの各パラメータについて、以下に説明する。なお、
図4は、
図3の位置P1又はP2における断面図である。また、冷却ガスの導入部の形状は、以下では円形を仮定しているが、方形や多角形であっても良いことは言うまでもない。
L1,L2:プローブ入口からの冷却ガス導入位置までの距離
r1,r2:プローブの中心軸と冷却ガスの導入方向との距離
θ1,θ2:プローブの中心軸に垂直な面と冷却ガスの導入方向とのなす角度
φ1,φ2:冷却ガスの導入管の内径
【0036】
排ガスと冷却ガスとの混合を円滑に行うためには、特許文献3に示すように、プローブの中心軸と冷却ガスの導入方向との距離rを0より大きくすることが好ましい。一般的に、距離rには適切な範囲がある。例えば、距離rがプローブの内側の半径に近くなると、冷却ガスがプローブの内壁近傍を流れ、プローブ中心付近の排ガスと冷却ガスが接触せず、冷却効率が低下する。
【0037】
また、プローブの中心軸に垂直な面と冷却ガスの導入方向とのなす角度θについても、特許文献3が示すように、例えば30度~60度の範囲に設定することで、冷却ガスのプローブの下流方向への流れを円滑に行い、排ガスと冷却ガスとの混合ガスの流れもスムーズになる。しかも、角度θが0度以上(角度が正の値は、プローブの下流側に向いて冷却ガスは導入され、角度が負の値は、プローブの上流側に向いて導入される。)であることにより、プローブ入口側への冷却ガスの逆流を抑制することができる。
【0038】
図3に示す排ガス冷却装置では、異なる位置P1及びP2にある冷却ガスの導入手段を比較すると、プローブの入口に近い位置P1に配置される導入手段の距離r1は、該入口から離れている位置P2に配置される導入手段の距離r2よりも大きくなるように設定されている。これにより、位置P1の導入手段では、冷却ガスと排ガスとの混合を円滑に行い、位置P2の導入手段により、冷却ガスを含む混合ガスのプローブ内での滞留時間を長くすることが可能となる。
【0039】
また、
図3に示す排ガス冷却装置では、プローブの入口に近い位置P1に配置される導入手段の角度θ1は、0度以上であり、該入口から離れている位置P2に配置される導入手段の角度θ2よりも大きくなるように設定されている。例えば、角度θ2は0度(プローブの中心軸方向に垂直)や負の角度(プローブの上流方向に向かう角度)を取ることもできる。これにより、位置P1の導入手段により、冷却ガスと排ガスの混合を円滑に行うと共に、プローブの下流側への流れをスムーズに行う。これに対し、位置P2の導入手段では、位置P1の導入手段よりは円滑な混合が阻害されており、冷却ガスを含む混合ガスの流れを妨げ、混合ガスのプローブ内での滞留時間を長くすることができる。
【0040】
距離L1及びL2については、一般的に冷却ガスの異なる導入手段の間隔(L2-L1)は大きい方が、排ガスと冷却ガスとの混合を十分に行うことができる。また、距離L1の値が大きい方が、冷却ガスの逆流も抑制できる。ただし、冷却装置が占有する場所が大きくなることを抑える観点から、プローブの直径Rを基準にすると、間隔(L2―L1)は、下限値は0.2R以上、より好ましくは0.5R以上、上限値は3R以下、より好ましくは2R以下の範囲に設定することが好ましい。また、距離L1は2R以下、より好ましくは1R以下に設定される。
【0041】
内径φ1及びφ2については、適切な範囲がある。例えば、φが小さすぎる(冷却ガス速度が速すぎる)場合には、冷却ガスがプローブの内壁近傍を流れ、プローブ中心部の排ガスと冷却ガスが接触しないため、排ガスと冷却ガスの混合が遅れ、冷却効率が低下することとなる。また、φが大きすぎる(冷却ガス速度が遅すぎる)場合には、冷却ガスが排ガス中に入り難くなり、結果として混合が進まずに排ガスの流れに乗って、プローブ下流側へ流され冷却効率が低下する。さらに、冷却ガスが排ガスに押し戻されて、冷却ガス送風機の運転が不安定になる。
【0042】
一般的に、φ1<φ2で、位置P1の方が冷却ガスの導入速度が大きい方が排ガスとの混合が円滑に進む。このため、内径φ2を基準とすると、内径φ1は、下限値は0.2倍、より好ましくは0.3倍以上であり、上限値は2倍以下、より好ましくは1.5倍以下の範囲に設定される。冷却ガスの導入用の配管の面積Sで比較する場合は、上述した数値の二乗の値、具体的には、下限値は0.04倍、よりこのましくは0.09倍、上限値は4倍以下、より好ましくは2.25倍以下に設定される。
【0043】
図3及び
図4の例では、一つの位置(P1又はP2)では、冷却ガスの導入手段が一つのみであったが、本発明はこれに限らず、
図5及びス6のように2つの導入手段を設けることも可能である。プローブの中心軸方向の同じ位置にある冷却ガス導入手段の数は、3つ以上であっても良いことは言うまでもない。
【0044】
同じ位置に複数の導入手段を設ける方が、冷却ガスの各導入手段に期待される役割を、より効果的に発揮させることができる。ただし、各導入手段毎に上述のパラメータ(r,θ,L,φ)を独立して設定することも可能であるが、複数の導入手段を同一面(プローブの中心軸に垂直な同じ断面)上に配置する場合には、各パラメータの値も同じにそろえる方が、相乗効果も高い。
【0045】
本発明の排ガス冷却装置及び方法の効果を確かめるため、
図5及び
図6に示すモデルについて、以下の境界条件を用いて、シミュレーションを行った。
(プローブの形状)
プローブの内径R:1.4[m]
(抽気ガスの特性)
プローブ入口での排ガス温度:1090℃
質量流量Q
0:34.1[kg/s]
密度ρ
0:0.266[kg/m
3]
流速V
0:14[m/s]
(冷却ガス)
冷却ガスの温度:25℃
質量流量Q:4.83[kg/s]
密度ρ:1.203[kg/m
3]
位置P1の導入部の配管内径φ1:0.131[m]
位置P2の導入部の配管内径φ2:0.254[m]
プローブの入口から位置P1の導入部の開口中心までの距離L1:1.03[m]
プローブの入口から位置P2の導入部の開口中心までの距離L2:1.88[m]
【0046】
また、プローブの冷却ガスの導入部から下流側にプローブの半径が、円錐台部分を経て狭くなる、所謂「絞り」がある場合についてもシミュレーションを行った。結果としては、「絞り」がある場合は、排ガスと冷却ガスの混合を補助する効果がある一方、冷却ガスがプローブの入口側に逆流する問題も発生し易い。ただし、絞りが存在しても、結果は大きく変化しなかったため、ここでは、絞りなしの結果を例示している。なお、「絞り」を設ける場合には、「絞り」に到達する前に、プローブから分岐する排気管が別途設けられる。
【0047】
シミュレーション結果の評価方法は、「プローブ内で排ガスと冷却ガスが完全に混合された場合の温度」に対する「プローブの出口における平均温度」の割合(%)で評価した。
(評価条件)
・割合が90%以上を「○」、それ以外を「×」で評価した。
【0048】
【0049】
なお、表1の各シミュレーションモデルにおいて、角度θ1=20度、角度θ2=0度とする。
表1の結果から、距離r1及びr2が0.15m又は0mの際に、冷却効果が高いという評価が得られている。この数値範囲を参考に、モデル5及び6のように、距離r1及びr2を互いに変更した場合は、r1>r2の方が冷却効果が高いことが理解される。
【0050】
【0051】
なお、表2の各シミュレーションモデルにおいて、距離r1=0.35m、r2=0.35mとする。
表2の結果から、いずれのモデルの評価も〇ではないが、数値を見ると、モデル8が最も冷却効果が高く、その次がモデル7となっている。これらは、角度θ2=0度としており、位置P2における冷却ガス導入手段により、冷却ガスを含む混合ガスの滞留時間を長くすることが影響していると評価される。
【0052】
以上のことから、距離rについては、r1>r2の方が冷却効果が高く、角度θについては、θ1>θ2の方が冷却効果が期待できる。特に、特許文献3のように、θ1を30度以上、60度以下に設定する場合はなおさらである。
【0053】
図3又は5では、プローブの中心軸方向の2つの異なる位置を選択したが、この2つの位置の間に他の導入手段を設ける場合には、両者のパラメータの間の数値を採用することが好ましい。
また、本発明には必要に応じて冷却ガスの導入部の下流側に散水機構や「絞り」を設けることができることは、言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、冷却ガスのプローブ内での逆流を抑制し、排ガスと冷却ガスとの混合を円滑にし冷却効率の高い、排ガス冷却装置及び方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 キルンからの排ガス用の配管
2 プローブ(円筒形)
3 冷却ガス導入管