(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148343
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】元素分析方法、元素分析装置、及び、元素分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/00 20060101AFI20231005BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N25/00 J
G01N21/61
G01N25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056303
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
【テーマコード(参考)】
2G040
2G059
【Fターム(参考)】
2G040AA02
2G040BA02
2G040BA25
2G040BB02
2G040CA01
2G040EA04
2G040EC09
2G040GA04
2G040ZA01
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059DD01
2G059EE01
2G059HH01
2G059JJ02
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】助燃剤の使用量を低減しつつ、試料を完全に燃焼させて元素分析を行うことができる元素分析方法を提供する。
【解決手段】試料を加熱炉で加熱し、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計で分析する元素分析方法であって、前記加熱炉の下流側に設けられたバルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱する第1加熱ステップと、前記第1加熱ステップの後において、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱する第2加熱ステップと、を備えた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱炉で加熱し、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計で分析する元素分析方法であって、
前記加熱炉の下流側に設けられたバルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱する第1加熱ステップと、
前記第1加熱ステップの後において、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱する第2加熱ステップと、を備えた元素分析方法。
【請求項2】
前記第1加熱ステップにおいて、前記試料は一部が酸化した未燃焼状態であり、
前記第2加熱ステップにおいて、前記試料は着火した燃焼状態である請求項1記載の元素分析方法。
【請求項3】
前記第1加熱ステップ及び前記第2加熱ステップにおいて、前記支燃性ガスが前記加熱炉内に供給され続ける請求項1又は2記載の元素分析方法。
【請求項4】
前記第1加熱ステップにおいて、前記試料の少なくとも一部が融解している状態である請求項1乃至3いずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項5】
前記試料が、金属の炭化物又は半金属の炭化物を含むものである請求項1乃至4いずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項6】
前記試料が、WC、SiC、TaC、TiC、NbC、Cr3C2、Cr4C、BCからなる群から選択される1又は複数の分子を含む請求項1乃至5いずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項7】
前記支燃性ガスが、O2である請求項1乃至6いずれか一項に記載の元素分析方法。
【請求項8】
試料を加熱炉と、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計と、を備えた元素分析装置であって、
前記加熱炉の下流側に設けられたバルブと、
前記バルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に前記支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱する第1加熱ステップを実行した後に、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱する第2加熱ステップを実行するように各機器を制御する制御器と、をさらに備えた元素分析装置。
【請求項9】
前記制御器が、
前記第1加熱ステップにおいて、前記試料は一部が酸化した未燃焼状態であり、
前記第2加熱ステップにおいて、前記試料は着火した燃焼状態であるように各機器を制御する請求項8記載の元素分析装置。
【請求項10】
前記制御器が、前記第1加熱ステップ及び前記第2加熱ステップにおいて、前記支燃性ガスが前記加熱炉内に供給され続けるように各機器を制御する請求項8又は9記載の元素分析装置。
【請求項11】
試料を加熱炉と、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計と、前記加熱炉の下流側に設けられたバルブと、を備えた元素分析装置に用いられるプログラムであって、
前記バルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に前記支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱した後に、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱するように各機器を制御する制御器としての機能をコンピュータに発揮させる元素分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる各種元素を分析する元素分析方法、元素分析装置、及び、元素分析装置用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の元素分析装置としては、例えば助燃剤とともに試料を加熱炉内において高周波誘導加熱し、試料から生じる分析対象ガスをガス分析計により元素分析するものがある。このような元素分析装置は、酸素(O2)ガス等の支燃性ガスを加熱炉内に供給し、試料の燃焼を促進させるように構成されている。
【0003】
ところで、金属の炭化物又は半金属の炭化物は非常に酸化しにくい性質(難燃性)を有しているものがあり、このような化合物が試料に含まれていると支燃性ガスを供給しながら高周波誘導加熱を行っても、試料全体について十分に燃焼させることができないことがある。また、仮に燃焼させることができたとしても、今度は燃焼の勢いを制御しにくく、試料が飛び散ってしまい、試料全体を完全に燃焼させることが難しいこともある。このため、金属の炭化物又は半金属の炭化物に含まれる例えばCの定量分析を精度よく行うことは難しい。
【0004】
なお、ニッケル(Ni)等の金属からなる助燃剤の使用量を増やすことで、このような難燃性の試料についても十分な燃焼を実現することは可能ではある。しかしながら、助燃剤が多くなるほどダストの発生量が増加してしまったり、元素分析のランニングコストが上昇してしまったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/230775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、助燃剤の使用量を低減しつつ、試料を完全に燃焼させて元素分析を行うことができる元素分析方法、元素分析装置、及び、元素分析装置用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る元素分析方法は、試料を加熱炉で加熱し、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計で分析する元素分析方法であって、前記加熱炉の下流側に設けられたバルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱する第1加熱ステップと、前記第1加熱ステップの後において、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱する第2加熱ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る元素分析装置は、試料を加熱炉と、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計と、を備えた元素分析装置であって、前記加熱炉の下流側に設けられたバルブと、前記バルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に前記支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱する第1加熱ステップを実行した後に、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱する第2加熱ステップを実行するように各機器を制御する制御器と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、第1加熱ステップにおいては前記加熱炉の下流側にある前記バルブが閉じられているので、試料の周囲でのみ支燃性ガスが消費されて、試料は蒸し焼きの状態となり例えば一部が融解した高温の状態にできる。第1加熱ステップにおいて試料が十分に高温となった後で、前記第2加熱ステップでは前記バルブが開放されるので、高温の前記試料に前記支燃性ガスが急激に吹き込まれることになり、前記試料を一気に燃焼させることができる。したがって、前記試料に金属の炭化物又は半金属の炭化物のような難燃性を有する分析対象が含まれていても、従来のように助燃剤を増やさなくても完全に燃焼させて元素分析を行うことが可能となる。このため、例えば金属の炭化物又は半金属の炭化物を含む試料であっても、従来よりも元素分析の精度を向上させつつ、ダストの発生や元素分析のランニングコストの上昇を抑制できる。
【0010】
前記第2加熱ステップにおいて難燃性を有する試料を完全に燃焼させて、元素分析の精度を向上させやすくするには、前記第1加熱ステップにおいて、前記試料は一部が酸化した未燃焼状態であり、前記第2加熱ステップにおいて、前記試料は着火した燃焼状態であればよい。
【0011】
前記第1加熱ステップにおいて高温となった前記試料に対して、前記第2加熱ステップにおいてすぐに前記支燃性ガスが高温となった前記試料に一気に吹き付けられるようにして、前記試料を完全に燃焼させやすくするには、前記第2加熱前記第1加熱ステップ及び前記第2加熱ステップにおいて、前記支燃性ガスが前記加熱炉へ供給され続けていればよい。
【0012】
前記第2加熱ステップにおいて前記試料を完全に燃焼させやすくするには、前記第1加熱ステップにおいて、前記試料の少なくとも一部が融解している状態であればよい。
【0013】
前記試料が、金属の炭化物又は半金属の炭化物を含むものであれば、本発明に係る元素分析方法又は元素分析装置により、試料を完全に燃焼させて、試料中に含まれる炭素を十分に分析対象ガスにして前記加熱炉から導出することが可能となる。したがって、金属の炭化物又は半金属の炭化物に含まれている炭素の分析精度を従来よりも向上させることができる。
【0014】
本発明に係る元素分析方法の好適な適用例としては、前記試料が、WC、SiC、TaC、TiC、NbC、Cr3C2、Cr4C、BCからなる群から選択される1又は複数の分子を含むものが挙げられる。
【0015】
難燃性の試料を完全に燃焼させるのに好適な前記支燃性ガスとしてはO2が挙げられる。
【0016】
本発明に係る元素分析装置において、前記制御器が、前記第1加熱ステップにおいて、前記試料は一部が酸化した未燃焼状態であり、前記第2加熱ステップにおいて、前記試料は着火した燃焼状態であるように各機器を制御するものであれば、特に金属の炭化物又は半金属の炭化物のような難燃性の試料であっても、前記第1加熱ステップにおいて試料を例えば融解させた状態にして、前記第2加熱ステップでは試料を完全に燃焼させて含まれている元素を精度良く分析することができる。
【0017】
前記制御器が、前記第1加熱ステップ及び前記第2加熱ステップにおいて、前記支燃性ガスが前記加熱炉内に供給され続けるように各機器を制御すれば、前記第2加熱ステップにおいて試料に対して一気に前記支燃性ガスが吹き付けて試料の燃焼を促進することが可能となる。
【0018】
既存の元素分析装置において、例えばプログラムを更新することにより本発明に係る元素分析装置と同様の効果を享受できるようにするには、試料を加熱炉と、加熱された前記試料から発生する分析対象ガスをガス分析計と、前記加熱炉の下流側に設けられたバルブと、を備えた元素分析装置に用いられるプログラムであって、前記バルブを閉鎖した状態で前記加熱炉内に前記支燃性ガスを供給しつつ、前記試料を高周波誘導加熱した後に、前記バルブを開放した状態で前記試料を高周波誘導加熱するように各機器を制御する制御器としての機能をコンピュータに発揮させる元素分析装置用プログラムを用いればよい。
【0019】
ここで、元素分析装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、SSD等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明に係る元素分析方法、及び、元素分析装置によれば、第1加熱ステップにおいては前記バルブを閉鎖しているので、前記試料の周囲では前記支燃性ガスが消費され尽くして前記試料を蒸し焼き状態で高温にできる。そして、前記第1加熱ステップの後の前記第2加熱ステップにおいては前記バルブを開放して高温の前記試料に前記支燃性ガスを一気に供給することができる。この結果、助燃剤を従来よりも増量しなくても難燃性の試料であっても完全に燃焼させることができ、元素分析の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態における元素分析装置を示す模式図。
【
図2】第1加熱ステップと第2加熱ステップにおける各機器の動作を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態における元素分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態の元素分析装置100は、難燃性を有する固体物質について元素分析するものである。なお、以下では元素分析装置100の一例として、試料W中の炭素(C)の含有量について分定量析するものについて説明する。ここで、試料Wは金属の炭化物又は半金属の炭化物を含むものである。例えば試料Wは機械加工に用いられる工具材料である超硬合金に使用される材料を含む。具体的に試料Wは、WC(タングステンカーバイド)、SiC(シリコンカーバイド)、TaC(タンタルカーバイド)、TiC(チタンカーバイド)、NbC(ニオブカーバイド)、Cr3C2(二炭化三クロム)、Cr4C(炭化クロム)、BC(炭化ホウ素)からなる群から選択される1又は複数の分子を含むものである。
【0024】
具体的に元素分析装置100は、試料WをO
2等の支燃性ガス中で燃焼させて、当該燃焼により生じる分析対象ガスに含まれる測定対象成分について赤外吸収法を用いて分析するものである。
図1に示すように、試料Wを収容して保持する容器Rを加熱して試料Wを燃焼させる加熱炉2と、試料Wの燃焼により生じたガスに含まれる測定対象成分を分析するガス分析計3とを備えている。なお、試料保持体である本実施形態の容器Rは、セラミックス等の磁性材料からなる、るつぼと称されるものである。容器R内には試料Wだけでなく、所定量の助燃剤も収容される。
【0025】
加熱炉2は、試料Wを収容した容器Rが配置される加熱空間2Sを有しており、当該加熱空間2Sには、キャリアガスであり、支燃性ガスでもある酸素ガス(O2)が供給される。このため、加熱炉2には、キャリアガス供給路4が接続されている。また、キャリアガス供給路4には、ガスボンベ41からのキャリアガス(酸素ガス)を精製するためのキャリアガス精製器42が設けられている。なお、ガスボンベ41のキャリアガスが清浄なガスであれば、キャリアガス精製器42は無くても良い。さらに、キャリアガス供給路4には、必要に応じて、開閉弁43、調圧弁44、例えばキャピラリー等の流量調整器45を設けても良い。
【0026】
また、加熱炉2は、高周波誘導加熱炉式のものであり、加熱空間2Sに配置された容器R内の試料Wを高周波誘導加熱するための加熱機構5が設けられている。この加熱機構5は、コイル51と、当該コイル51に高周波交流電圧を印加する図示しない電源とを有している。コイル51は、加熱炉2における側周壁に沿って巻回して設けられている。また、コイル51は、加熱空間2Sに配置された容器Rを取り囲む高さ位置に設けられている。
【0027】
そして、コイル51に高周波交流電圧が印加されると、磁性材料からなる容器Rに収容された試料Wの表面近傍に誘導電流が流れて、試料Wがジュール発熱する。そして、発熱に伴い酸素による燃焼反応が生じて試料Wが燃焼してガス(以下、分析対象ガスともいう。)を発生する。なお、容器R内に試料Wとともに例えば所定量のNi(ニッケル)等の金属からなる助燃材を収容して、助燃材に誘導電流を流し、当該助燃材により試料Wを加熱してもよい。助燃剤を用いる場合は、元素分析時のダストの発生量が許容値内となりようにその量を制限すればよい。
【0028】
加熱炉2により生じた分析対象ガスは、ガス流路6を通じて、ガス分析計3に導入される。ガス流路6は、一端が加熱炉2に接続されており、流路上流側からダストフィルタ61及びガス分析計3が設けられている。なお、ガス流路6の他端は大気に開放されている。本実施形態では、ダストフィルタ61及びガス分析計3の間に調圧弁62及び例えばキャピラリー等の流量調整器63を設けているが、これらは必須の構成ではない。また、ガス分析計3の下流側に例えばキャピラリー等の流量調整器64及び流量計65を設けているが、これらも必須の構成ではない。さらに、本実施形態のガス流路6は、除湿器が設けられていないので、分析対象ガスに含まれる水分が結露しないようにするために、少なくともガス分析計3までは、加熱機構6Hによって例えば100℃以上に加熱されている。この加熱機構6Hにより少なくともダストフィルタ61も100℃以上に加熱されている。加えて、本実施形態ではガス流路6上には例えばダストフィルタ61と加熱炉2との間には、加熱炉2の下流側の開閉を切り替えるためのバルブVが設けられている。すなわち、バルブVは開閉バルブであって、閉鎖されている場合には分析対象ガス及び支燃性ガスは加熱炉2内から外部へは流出しないことになる。バルブVが開放されている場合には、加熱炉2内から分析対象ガス及び支燃性ガスがガス流路6内を流れてガス分析計3へと流入することになる。
【0029】
ガス分析計3は、分析対象ガスに含まれる分析対象成分(ここでは、例えばCO、CO2等)の濃度に応じた信号を出力する。ガス分析計3は例えば非分散型赤外線(NDIR:Non-Dispersive InfraRed)検出器であり、詳細については図示しないが、フィラメントを具備する赤外光源、光チョッパ、ガス計測用セル、光学フィルタ、及び、検出器を備えたものである。なお、ガス分析計3はNDIR方式のものに限られず、例えば半導体レーザを用いてその発振周波数を変調して測定を行うものであってもよい。
【0030】
制御演算機構COMは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、キーボード、マウス、ディスプレイ等の各種入出力機器を備えたコンピュータであって、メモリに格納されている元素分析装置用のプログラムが実行されることにより、各機器が協業して少なくとも濃度算出器C1、制御器C2としての機能を発揮するものである。
【0031】
濃度算出器C1は、ガス分析計3の出力に基づいて試料Wに含まれていた元素の濃度を算出する。具体的には濃度算出器C1は、ガス分析計3で得られる吸光度に基づいて分析対象ガスに含まれる分析対象成分の濃度を積算し、積算値から本実施形態では元素として炭素(C)の質量に換算する。そして濃度算出器C1は、予めユーザにより入力されていた試料Wの全質量と算出された炭素の質量から試料W中に含まれていた炭素(C)の質量%濃度を算出する。
【0032】
制御器C2は、元素分析に関わる各種制御機器の動作を司るものであり、本実施形態では少なくともキャリアガス供給路4上の各種流体制御機器の制御、加熱炉2の高周波誘導加熱に関する制御、及び、加熱炉2の下流側に配置されているバルブVの開閉制御を行う。
【0033】
以下に制御器C2の詳細について、難燃性の試料Wの元素分析を行う場合の動作を交えながら詳述する。
【0034】
制御器C2は、難燃性の試料Wの元素分析を行う場合には、
図2に示すように少なくとも2種類の加熱状態が実現されるように各機器を制御する。具体的には制御器C2は、元素分析中は常に支燃性ガスである酸素を供給し続けるようにキャリアガス供給路4の各機器を制御する。また、制御器C2は、試料Wについて加熱を開始してから所定期間の間は加熱炉2による高周波誘導加熱を継続する。一方、ガス流路6上にあるバルブVについては、元素分析中に閉鎖状態から開放状態に切り替える。このバルブVの開閉状態の切替により、試料Wに対する加熱状態がそれぞれ異なる第1加熱ステップと、第2加熱ステップが実行されることになる。
【0035】
すなわち、第1加熱ステップでは、制御器C2は加熱炉2の下流側に設けられたバルブVを閉鎖した状態で加熱炉2内に支燃性ガスである酸素を供給しつつ、試料Wを高周波誘導加熱する。第1加熱ステップにおいては、バルブVは閉鎖されているので加熱炉2内から下流側へは試料Wから発生した分析対象ガス、及び、支燃性ガスは流出しない。このため、キャリアガス供給路4から支燃性ガスが供給され続けていたとしても、加熱炉2内の圧力が高くなっていくため、次第に上流側からの支燃性ガスの流入量は低減することになる。したがって、第1加熱ステップ中では加熱炉2内の試料Wの周囲においては支燃性ガスがほぼ消費されて、試料Wは蒸し焼きの状態となる。すなわち、第1加熱ステップでは試料Wについては一部について酸化はしているものの、完全に燃焼させるには至っていない状態である。また、第1加熱ステップの少なくとも終了時点では試料Wは、燃焼はしていないものの、その融点以上の温度となって融解している状態である。
【0036】
第2加熱ステップでは、第1加熱ステップの後において、バルブVを開放した状態で試料Wを高周波誘導加熱する。本実施形態では第1加熱ステップ及び第2加熱ステップは連続して実施され、両方のステップにおいて加熱炉2における高周波誘導加熱と、キャリアガス供給路4からの支燃性ガスの供給は維持され続ける。すなわち、制御器C2は第1加熱ステップを終了させ、第2加熱ステップを開始させるために、バルブVを閉鎖状態から開放状態に切り替える。このように加熱炉2の下流側にあるバルブVが開放されることで、加熱炉2内の高圧となったガスは下流側へと流出し、キャリアガス供給路4から新たな支燃性ガスが加熱炉2内へ流入できるようになる。そして、加熱炉2内の高温で融解している状態の試料Wに対して支燃性ガスが一気に流れ込むことになる。この結果、難燃性の試料Wであっても完全に燃焼させることができ、試料Wに含まれている炭素のほぼ全量を分析対象ガスにできる。
【0037】
また、第2加熱ステップにおいて試料Wの燃焼が完了した後に、制御器C2は加熱炉2における高周波誘導加熱を終了する。
【0038】
このように本実施形態の元素分析装置100であれば、加熱炉2の下流側のバルブVが閉鎖された状態の第1加熱ステップで試料Wを蒸し焼きの状態にし、例えば試料Wを融解させて次に支燃性ガスが供給された場合には試料Wが燃焼する高温状態にできる。そして、第1加熱ステップに続いてバルブVを開放する第2加熱ステップが実施されるので、融解した試料Wに対して十分な量の支燃性ガスが供給して一気に燃焼させることができる。このようバルブVの開閉により2段階の試料Wの加熱が実現されることにより、超硬合金等の耐熱性や耐火性の高い材料を含む試料Wであっても、ニッケル等の助燃剤の量を制限しつつ、完全に燃焼させることができる。
【0039】
この結果、難燃性の試料Wであっても元素分析の対象をほぼ全て分析対象ガスにしてガス分析計3で検出することができ、難燃性の試料Wの元素分析精度を向上させることができる。
【0040】
また、高い元素分析精度を実現しながら、ニッケル等の助燃剤の使用量を制限できるので、分析対象ガスに含まれるダストの量を低減できる。また、助燃剤の消費量を低減できるので、元素分析にかかるランニングコストを抑えることができる。
【0041】
加えて、第1加熱ステップ及び第2加熱ステップにおいて、バルブVの開閉状態のみを変更し、各ステップでは支燃性ガスの供給状態や加熱状態を変更していないので、難燃性の試料Wについて高精度な元素分析を簡単な制御だけで実現できる。このため、難燃性の試料Wを実現するために特殊な制御機器を導入したり、プログラムの大幅な改修を行ったりする必要がない。
【0042】
その他の実施形態について説明する。
【0043】
前記実施形態では、第1加熱ステップと第2加熱ステップはバルブVの開閉状態のみが異なっていたが、支燃性ガスの供給状態や加熱炉2の高周波加熱の状態も合わせて制御器C2が切り替えるようにしてもよい。例えば第1加熱ステップでは支燃性ガスの供給量を第2加熱ステップでの供給量よりも少なくしても良い。また、第1加熱ステップでは、支燃性ガスではなく、ヘリウム等の不活性ガスのみを供給するようにしてもよい。
【0044】
また、加熱炉2の高周波誘導加熱については第1加熱ステップと第2加熱ステップで印加電圧や周波数等のパラメータを異ならせてもよい。
【0045】
加えて、支燃性ガスの供給状態や加熱炉2の加熱状態についてはバルブVの開閉と無関係に独立して制御されてもよい。
【0046】
バルブVを閉鎖状態から開放状態に切り替えるタイミングについては、前記実施形態のように試料Wが融解しているかどうかに基づいて設定されてもよいし、試料Wの加熱時間や予測される温度等に基づいて設定されてもよい。例えば第1加熱ステップ中に試料Wが融解直前まで加熱し、第2加熱ステップにおいてすぐに試料Wが融解して燃焼が開始されるようにしてもよい。
【0047】
難燃性の試料Wについては前記実施形態で列挙したものに限られず、その他の組成を有するものであってもよい。また、試料Wの組成によっては元素分析の対象となる元素は炭素だけに限られない。
【0048】
助燃剤についてもニッケルに限られるものではなく、試料Wに応じて適宜選択されてもよい。
【0049】
ガス分析計3の分析方式はNDIR方式に限られるものではなく、例えばIRLAM(登録商標)(IRLAM: Infrared Laser Absorption Modulation:赤外レーザ吸収変調)等の別の方式を用いてもよい。
【0050】
支燃性ガスについては酸素ガスに限られるものではなく、試料Wの燃焼を助ける性質をもち、発生する分析対象ガスが、ガス分析計3で検出可能なものであればよい。
【0051】
バルブVについては、第1加熱ステップ及び第2加熱ステップの切り替えを制御するために専用のものを加熱炉2の下流側に設けても良いし、既存のバルブを利用してもよい。例えばガス流路6から加熱炉2内から流出するガスの一部についてガス分析計3を経由させずに排気するための排気流路との切替を行うための三方弁等をバルブVとして利用してもよい。要するに加熱炉2内に分析対象ガスや支燃性ガスを一時的に堰き止めることができるものであればよい。
【0052】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0053】
100 :元素分析装置
2 :加熱炉
2S :加熱空間
3 :ガス分析計
4 :キャリアガス供給路
5 :加熱機構
6 :ガス流路
6H :加熱機構
41 :ガスボンベ
42 :キャリアガス精製器
43 :開閉弁
44 :調圧弁
45 :流量調整器
51 :コイル
61 :ダストフィルタ
62 :調圧弁
63 :流量調整器
64 :流量調整器
65 :流量計
C1 :濃度算出器
C2 :制御器
R :容器
V :バルブ
W :試料