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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148351
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】熱電変換素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/817 20230101AFI20231005BHJP
   H10N 10/853 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20231005BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L35/08
H01L35/18
H01L35/34
H01L35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056317
(22)【出願日】2022-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ジントル相材料の熱電特性最適化と熱電モジュールの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 哲虎
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 和夫
(72)【発明者】
【氏名】木方 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】永田 瑞貴
(72)【発明者】
【氏名】國岡 春乃
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎一
(57)【要約】
【課題】マグネシウムやアンチモン等を含む熱電材料部の隣に導電層が配置された熱電変換素子であって、これらの界面における抵抗値が十分に低い熱電変換素子の提供を目的とする。
【解決手段】当該熱電変換素子は、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部と、前記熱電材料部に隣接して配置された、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含み、かつ厚みが5μm以上100μm以下である導電層と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部と、
前記熱電材料部に隣接して配置された、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含み、かつ厚みが5μm以上100μm以下である導電層と、
を有する、
熱電変換素子。
【請求項2】
前記導電層が、鉄、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選ばれる、少なくとも一種の元素を含む、
請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記熱電材料部が、(Mg,Y)(Sb,Bi)、Mg(Sb,Bi,Te)、Mg(Sb,Bi,Se)、Mg(Sb,Bi,S)、(Mg,La)(Sb,Bi)、(Mg,Sc)(Sb,Bi)、およびMgAgSbからなる群から選ばれる少なくとも一種の材料を含む、
請求項1または2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部を準備する工程と、
前記熱電材料部に、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む材料を溶射し、導電層を形成する工程と、
を含む、熱電変換素子の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンで持続可能なエネルギー変換技術の開発は、学術界と産業界の双方から大きな注目を集めており、その一つとして、廃熱や自然熱を回収して電気エネルギーに変換する熱電変換素子が注目されている。熱電変換素子では、当該素子の一方の面を高温、他方の面を低温とすることで起電力が発生する。このような熱電変換素子では通常、N型の半導体材料を含むN型熱電材料部、およびP型の半導体材料を含むP型熱電材料部が、電極を介して直列に接続されている。
【0003】
従来、上記熱電変換素子の熱電材料部に使用可能な半導体材料(以下、「熱電材料」とも称する)として、ビスマス・テルル系の材料が知られており、ビスマス・テルル系の熱電材料を用いた熱電変換素子は既に実用化されている。一方で、ビスマス・テルル系以外の高性能な熱電材料も、近年多数開発されている。例えば、MgSb等といった、マグネシウムと、アンチモンおよび/またはビスマスとを含む熱電材料が開発されており(非特許文献1および2参照)、これらは、500℃程度でも、起電力を生じさせることから、高性能な熱電材料として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zihang Liu, et al., "Demonstration of ultrahigh thermoelectric efficiency of ~7.3% in Mg3Sb2/MgAgSb module for low-temperature energy harvesting", Joule, Vol. 5, pp.1196-1208
【非特許文献2】Pingjun Ying, et al., "Towards tellurium-free thermoelectric modules for power generation from low-grade heat", Nature Communications, Vol. 12, Article number 1121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、熱電材料を熱電変換素子に使用する場合、熱電材料と電極等とを接続する必要があり、これらの接合界面での抵抗が低い必要がある。しかしながら、MgSbを含む熱電材料は、隣接する層との界面での抵抗が高くなりやすい傾向がある。また、上記非特許文献2のように、MgSbを含む熱電材料と、隣接する層の材料とを一体焼結すれば、これらの界面抵抗を低減できるものの、一体焼結は、大量生産に向いていない。また、一体焼結で作製する層は、厚みが厚くなりやすい。したがって、当該熱電材料を用いた熱電変換素子は、現状実用化が難しい。
【0006】
ここで、MgSb等の熱電材料部と、隣接する層との界面抵抗が高くなる理由は、以下のように考えられる。MgSb等の熱電材料では、材料中のマグネシウムが水等と反応しやすい。そのため、湿式めっき等、溶媒を用いた成膜法で、熱電材料部上に層を形成すると、熱電変換材料が劣化することで、抵抗が高まると考えられる。また、当該熱電材料の表面には、酸化膜が形成されやすく、一般的な成膜法では、当該酸化膜を除去できないことも一因として考えられる。
【0007】
そこで本発明は、マグネシウムやアンチモン等を含む熱電材料部の隣に導電層が配置された熱電変換素子であって、これらの界面における抵抗値が十分に低い熱電変換素子の提供、および当該熱電変換素子を簡便に製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部と、前記熱電材料部に隣接して配置された、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含み、かつ厚みが5μm以上100μm以下である導電層と、を有する、熱電変換素子を提供する。
【0009】
また、本発明は、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部を準備する工程と、前記熱電材料部に、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む材料を溶射し、導電層を形成する工程と、を含む、熱電変換素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱電変換素子によれば、マグネシウムやアンチモン等を含む熱電材料部と、隣接する導電層との界面における抵抗値を十分に低くすることができる。また、本発明の熱電変換素子の製造方法によれば、このような熱電変換素子を、簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、本発明の一実施形態に係る熱電変換素子の平面図であり、図1Bは、図1AのA-A線での断面図である。
図2図2Aは、本発明の変形例に係る熱電変換素子の平面図であり、図2Bは、図2AのA-A線での断面図である。
図3】実施例1において、Mg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体に溶射によりNiを接合し、その両脇にCuブロックを、Agペーストを用いて接合した熱電変換素子のSEM画像である。
図4】実施例1で作製した熱電変換素子のEDSマッピングの画像である。
図5】実施例1で作製した熱電変換素子の熱電素子の電気抵抗分布を示すである。
図6】実施例1で作製した熱電変換素子の導電層の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0013】
1.熱電変換素子
本発明の熱電変換素子について説明する。本発明の熱電変換素子は、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料を含む熱電材料部と、当該熱電材料部に隣接して配置された、所定の元素を含む厚みが5μm以上100μm以下である導電層と、を有する。上述のように、従来、熱電材料部とこれに隣接する層(本発明では導電層)との界面抵抗を低くすることは難しかった。これに対し、本発明者らは、熱電材料部の表面に、溶射によって導電層を形成することで、熱電材料部と導電層との界面抵抗を低くできることを見出した。
【0014】
溶射とは、金属やセラミックス粒子等を加熱により、溶融、軟化させ、所望の物質(ここでは熱電材料部)に吹き付ける方法である。吹き付けられた粒子は、瞬時に冷却されて固化し、皮膜を形成する。本発明のように、溶射で導電層を形成すると、熱電材料部および導電層の界面抵抗が低くなる理由は、以下のように考えられる。前述のように、上記熱電材料部の表面には、酸化膜の層が形成されていることが多い。これに対し、溶射によって、半液体状の成分、もしくは液体状の成分を一定の速度で吹き付けると、熱電材料部の表面に存在する酸化膜が材料の衝突によって除去される。また、溶融、軟化した粒子を吹き付けると、熱電材料部の表面が、これらによってムラなく覆われやすく、緻密な膜が形成される。さらに、溶射では、水等の溶媒を使用する必要がないことから、熱電材料部が劣化し難いことも要因として考えられる。
【0015】
なお、一般的なめっき法等では、厚み5μm以上の導電層を形成することが難しい。一方で、一体焼成では、100μm以下の層を形成することが難しい。したがって、厚みが5μm以上100μm以下の導電層を形成するには溶射が好適である。
【0016】
図1Aおよび図1Bに、本発明の一実施形態に係る熱電変換素子100の図を示す。図1Aは、当該熱電変換素子100の平面図であり、図1Bは、図1AのA-A線での断面図である。当該熱電変換素子100は、熱電材料部110と、当該熱電材料部110に隣接して配置された2つの導電層120と、当該導電層120に隣接して配置された2つの接続層130と、これらに隣接して配置された第1電極140および第2電極150と、第2電極150側に配置された基板160と、を有する。なお、図1Aにおける点線は、P型熱電材料部110PおよびN型熱電材料部110Nの位置を示す。以下、当該熱電変換素子100の各層について説明するが、本発明の熱電変換素子100の構造は、当該構造に限定されない。
【0017】
(熱電材料部)
熱電材料部110は、起電力を発生させるための部材であり、P型熱電材料部110PおよびN型熱電材料部110Nの2種類で構成される。P型熱電材料部110PおよびN型熱電材料部110Nは、図1Aに示すように、平面視したときに交互に、かつ格子状に配置されている。また、P型熱電材料部110PおよびN型熱電材料部110Nは、第1電極140や第2電極150を介して、電気的に直列に接続されている。
【0018】
本実施形態では、P型熱電材料部110PおよびN型熱電材料部110Nのいずれか一方が、マグネシウムと、アンチモンおよび/またはビスマスとを含んでいればよく、両方がマグネシウムと、アンチモンおよび/またはビスマスとを含んでいてもよい。
【0019】
N型熱電材料部110Nを構成する材料の例には、(Mg,Y)(Sb,Bi)、Mg(Sb,Bi,Te)、Mg(Sb,Bi,Se)、Mg(Sb,Bi,S)、(Mg,La)(Sb,Bi)、(Mg,Sc)(Sb,Bi)等が含まれる。これらの中でも特に、(Mg,Y)(Sb,Bi)、Mg(Sb,Bi,Te)が比較的低温でも起電力を生じさせる点でより好ましい。なお、本明細書において、(Mg,Y)との記載は、Mg単体、Y単体、またはMgおよびYを含むことを表す。他の材料についても同様である。また、(Mg,Y)(Sb,Bi)との記載には(Mg,Y)3+α(Sb,Bi)2+β(ただし、-0.1≦α≦0.5であり、-0.1≦β≦0.1である)の材料も含むものとする。他の材料についても同様である。一般に、これらの材料においては、組成比が多少前後することがあるが、便宜上、上述のように整数で表している。
【0020】
一方、P型熱電材料部110Pを構成する熱電材料の例には、MgAgSb、(Mg,Na,Zn)Sb、(Mg,Li,Cd)Sb、(Mg,Ag)Sb等が含まれる。これらの中でも、特に、MgAgSbが、比較的低温でも起電力を生じさせる点でより好ましい。
【0021】
熱電材料部110の厚みは特に制限されず、所望の熱電変換性能等に応じて適宜選択されるが、通常2~5mm程度である。
【0022】
(導電層)
本実施形態における導電層120は、接続層130中の成分や、第1電極140、第2電極150中の成分が拡散することを防止するための層である。一方で、熱電材料部110で発生した電流を、第1電極140側、もしくは第2電極150側に伝えるための層でもある。
【0023】
当該導電層120は、上述のように、溶射によって形成された層、すなわち厚みが5μm以上100μm以下であり、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む層であればよい。なお、図1Bでは、導電層120が、熱電材料部110の両側に配置されているが、熱電材料部110の片側にのみ、当該導電層120が配置されていてもよい。また、図1Bでは、N型熱電材料部110N、およびP型熱電材料部110Pの両側に、それぞれ導電層120が配置されているが、N型熱電材料部110Nがマグネシウムおよびアンチモン等を含む熱電変換材料で構成され、P型熱電材料部110Pがマグネシウムおよびアンチモン等を含まない熱電変換材料で構成されている場合等には、N型熱電材料部110N側にのみ、当該導電層120が配置されていてもよい。また、この逆であってもよい。
【0024】
当該導電層120を構成する材料は、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいればよく、これらを二種以上含んでいてもよい。導電層120を構成する材料の具体例には、Ni、Fe、Al、Zn、Agや、これらの合金が含まれる。これらの中でも、Ni単体、Fe単体、Al単体が入手容易性や、電気伝導性、溶射の容易性の観点でより好ましい。
【0025】
なお、導電層120の電気伝導性は、これを構成する材料の電気伝導率に主に依存する。したがって、導電層120を構成する材料の電気伝導率は、1×10S/m以上が好ましく、10×10S/m以上がより好ましい。また、導電層120と熱電材料部110との間に電気を流すには両者間の接触抵抗を低くする必要がある。具体的には導電層120と熱電材料部110との間の接触抵抗を5×10-9Ωm以下にすることが好ましく、1×10-9Ωm以下がより好ましい。導電層120を構成する材料の電気伝導率が10×10S/m以上であり、かつ導電層120と熱電材料部110の間の接触抵抗が1×10-9Ωm以下であると、熱電材料部110で生じた電流を効率よく第1電極140もしくは第2電極150側に伝えやすくなる。
【0026】
導電層120の厚みは、5μm以上100μm以下であればよく、50μm以上100μm以下が好ましい。
【0027】
(接続層)
接続層130は、上述の導電層120と、後述の第1電極140または第2電極150とを接続するための層である。なお、上記導電層120と第1電極140または第2電極150とを、直接接続できる場合には、接続層130がなくてもよい。
【0028】
接続層130の種類や厚みは、十分な導電性を有する層であれば特に制限されず、例えばはんだや、ろう材からなる層であってもよく、金属ナノ粒子を焼成した層等であってもよい。例えば、銀ペーストを塗布し、焼成した層等であってもよい。
【0029】
接続層130の厚みは、1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましい。
【0030】
(第1電極および第2電極)
第1電極140および第2電極150は、図1Aおよび図1Bに示すように、パターン状に形成されている。第1電極140および第2電極150は、N型熱電材料部110NおよびP型熱電材料部110Pを直列につなぎ、熱電材料部110によって生じた電流を外部に取り出すことが可能であれば、その形状や厚み等は特に制限されない。
【0031】
第1電極140および第2電極150は、熱電変換素子100の使用環境において、十分な導電性を有する材料で構成されていればよい。また、熱電材料110(P型熱電材料110PやN型熱電材料110N)と熱膨張率が近いことが、より好ましい。第1電極140および第2電極150の具体例には、銅単体、アルミニウム単体、銀単体等が含まれる。
【0032】
(基板)
基板160は、上述の各部材を支持するための部材であり、絶縁性を有し、かつ熱電変換素子100の使用環境において、変形等を生じない基板であればよい。基板160の例には、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス材料が含まれる。また、基板160の形状や厚みは、熱電変換素子100の用途に応じて適宜選択され、例えば平板状の部材であってもよく、立体的な部材であってもよい。
【0033】
(その他)
上記の説明では、第2電極150側にのみ、基板160が配置されていたが、必要に応じて、第1電極140側にも基板が配置されていてもよい。また、第1電極140、第2電極150のどちらにも基板160が配置されていなくても良い。
【0034】
さらに、上述の説明では、熱電材料部110の両側に、導電層120、接続層130、電極(第1電極140、第2電極150)がそれぞれ配置されていた。ただし、上述の導電層120が、上述の電極(第1電極140、第2電極150)として機能してもよい。この場合、図2Aの平面図および図2Bの断面図(図2AのA-A線での断面図)に示すように、熱電変換素子200は、熱電材料部110と、当該熱電材料部110の両側に配置された2つの導電層120と、一方の導電層120に隣接して配置された基板160とを有する構成とすることができる。当該態様の熱電変換素子200における熱電材料部110、導電層120、および基板160は、上述の熱電材料部110、導電層120、および基板160と同様である。
【0035】
2.熱電変換素子の製造方法
次に、上述の熱電変換素子の製造方法について、説明する。ただし、上述の熱電変換素子の製造方法は、当該方法に限定されない。
【0036】
本発明の熱電変換素子の製造方法は、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部を準備する工程(熱電材料部準備工程)と、当該熱電材料部に、遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む材料を溶射し、導電層を形成する工程(導電層形成工程)と、を含む方法であればよい。必要に応じて、導電層と電極とを接合する工程や、さらに電極(もしくは導電層)と基板とを接合する工程等をさらに有していてもよい。
【0037】
(熱電材料部準備工程)
熱電材料部準備工程では、上述のP型熱電材料部およびN型熱電材料部を準備する。P型熱電材料部およびN型熱電材料部は、例えば焼成等によって形成してもよい。例えば、N型熱電材料部の組成が、Mg0.02Sb1.5Bi0.5である場合、以下のように調整することができる。まず、Mg単体、Y単体、Sb単体、Bi単体をそれぞれ、上記比率となるように混合し、加熱炉等で焼成する。得られた焼成体を粉末状に粉砕する。そして、所望の形状になるように、所定の温度および圧力でプレスする。これにより、Mg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体が得られ、これをN型熱電材料部とすることができる。P型熱電材料部についても、同様に形成することができる。
【0038】
(導電性形成工程)
導電性形成工程は、上述の熱電材料部準備工程で作製した熱電材料部の表面に、導電層の材料を溶射により吹き付け、導電層を形成する工程である。当該工程で使用する材料は、所望の材料に応じて適宜選択される。
【0039】
また、溶射の方法は、特に制限されず、低圧プラズマ溶射、大気圧プラズマ溶射、超高速溶射等、いずれの方法であってもよい。溶射を行う際には、材料として、平均粒形50μm程度の金属粒子(上述の導電層を形成する遷移金属、亜鉛、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む材料等の粒子)を準備する。そして、当該金属粒子を加熱し、溶融状態もしくは軟化状態とする。そして、当該粒子を公知の溶射装置から熱電材料部の表面に、所望の厚みになるまで吹き付けることで、導電層を形成する。
【0040】
導電層の厚みは、上述のように、5μm以上100μm以下が好ましく、50μm以上100μm以下がより好ましい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0042】
[界面抵抗の測定方法]
下記実施例および比較例では、熱電材料部と導電層との間の界面抵抗を、4端子法により測定した。4端子法では、測定プローブの位置を動かすことにより、抵抗の分布を測定することが可能であり、界面での抵抗を評価できる。
【0043】
[比較例1]
(Mg0.02Sb1.5Bi0.5の合成)
出発原料として、純度99.9%のMg、純度99.9999%のSb、純度99.9999%のBi、および純度99.9%のYを使用した。これらをMg0.02Sb1.5Bi0.5となるように秤量した。これらをアルミナタンマン管の中に入れ、SUS316Lのステンレス鋼のパイプ中に封入した。封入した原料を1180℃で10分間焼成後、室温まで温度を下げた。得られた溶融体を粉末状に粉砕した後、ホットプレスにて、70MPa、600℃、1時間保持することにより、緻密な焼結体を得た。
【0044】
(InGa塗布)
直方体状にカットした、上記Mg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体(熱電材料部)にInGaを塗布し、厚み1μmのInGa層(導電層)を形成した。そして、Cuブロックで挟み、CuブロックとMg0.02Sb1.5Bi0.5との間の抵抗を評価したところ、5.9×10-3Ωcmであり、極めて高い値だった。
【0045】
[比較例2]
(Niめっき)
比較例1と同様に作製したMg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体(熱電材料部)に、めっきにより厚み1μmのNiを接合して導電層(Ni層)を形成した。そして、当該Ni層をCuブロックとはんだ接合した。その結果、Mg0.02Sb1.5Bi0.5の電気抵抗が、Ni層形成前と比較して30倍になり、熱起電力が1/3となった。つまり、熱電材料自体が大幅に劣化し、素子性能が大幅に下がってしまった。
【0046】
[比較例3]
(Ni蒸着)
比較例1と同様に作製したMg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体(熱電材料部)に、蒸着によりNiを接合して厚み1μmの導電層(Ni層)を形成した。そして、Ni層をCuブロックとはんだ接合した。Cuブロックと、Mg0.02Sb1.5Bi0.5との間の界面抵抗を評価したところ、1×10-2Ωcmと極めて高い値だった。
【0047】
[比較例4]
(セラソルザ(登録商標)による接合)
比較例1と同様に作製したMg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体(熱電材料部)に、Cuブロックをセラソルザ(登録商標、導電層)により接合した。導電層の厚みは1μmであった。Cuブロックと、Mg0.02Sb1.5Bi0.5との間の界面抵抗を評価したところ、1×10-3Ωcmと極めて高い値だった。
【0048】
[比較例5]
(Al拡散接合)
Mg0.02Sb1.5Bi0.5の粉末をAl箔及びCu箔と一緒にホットプレスによって焼結し、Mg0.02Sb1.5Bi0.5焼結体(熱電材料部)にAl箔およびCu箔(導電層)を接合した。具体的には、Mg0.02Sb1.5Bi0.5の粉末の上に厚み50μmのAl箔を乗せ、さらにその上に厚み300μmのCu箔を乗せた。これらを70MPa、800℃、1時間の条件でホットプレスした。その結果、Mg0.02Sb1.5Bi0.5焼結体(熱電材料部)と厚み300μmのAlおよびCuを含む導電層との接合に成功した。しかし、Cu箔とMg0.02Sb1.5Bi0.5焼結体との間の界面抵抗は2×10-4Ωcmと極めて高い値だった。
【0049】
[実施例1]
(溶射)
比較例1と同様に作製したMg0.02Sb1.5Bi0.5の焼結体(熱電材料部)に、溶射により厚み70μmのNi層(導電層)を接合した。そして、当該Ni層と、CuブロックとをAgペーストにて接合した。Cuブロックと熱電材料部との界面抵抗を測定したところ、1×10-5Ωcmと低い値であった。熱電モジュールに使用する熱電変換素子として実用的な値であり、このような熱電変換素子であれば、熱電モジュールに組み込むことが可能である。図3に、当該熱電変換素子のSEM画像を示す。また、図4に当該熱電変換素子のEDSマッピングを示す。図4において、色の明るい部分が、Niが存在する箇所である。さらに図5に、当該熱電変換素子の電気抵抗分布を示す。当該結果から、熱電材料と導電層との界面抵抗が極めて低いことが明らかである。また、図6に、当該熱電変換素子のNi層(導電層)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真を示す。
【0050】
[実施例2]
(溶射)
Alを溶射した以外は、実施例1と同様に、厚み70μmの導電層を形成した。そして、当該Al層と、CuブロックとをAgペーストにて接合した。当該熱電変換素子のCuブロックと熱電材料部との界面抵抗を測定したところ、1×10-5Ωcmと低い値であった。熱電モジュールに使用する熱電変換素子として実用的な値であり、このような熱電変換素子であれば、熱電モジュールに組み込むことが可能である。
【0051】
[実施例3]
(溶射)
Feを溶射した以外は、実施例1と同様に厚み70μmの導電層を形成した。そして、当該Fe層と、CuブロックとをAgペーストにて接合した。当該熱電変換素子のCuブロックと熱電材料部との界面抵抗を測定したところ、1×10-5Ωcmと低い値であった。熱電モジュールに使用する熱電変換素子として実用的な値であり、このような熱電変換素子であれば、熱電モジュールに組み込むことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、マグネシウム、ならびにアンチモンおよび/またはビスマスを含む熱電材料部と、当該熱電材料部に隣接する導電層とを有する熱電変換素子が得られ、これらの界面抵抗が少ない。また、本発明の熱電変換素子の製造方法は、大量生産に適している。
【符号の説明】
【0053】
100、200 熱電変換素子
110 熱電材料部
110N N型熱電材料部
110P P型熱電材料部
120 導電層
130 接続層
140 第1電極
150 第2電極
160 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6