IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清フーズ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148722
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】冷凍麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20231005BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056904
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老原 脩
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武紀
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳祐
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA06
4B046LB10
4B046LC01
4B046LE05
4B046LG09
4B046LG16
4B046LG29
4B046LP01
4B046LP03
4B046LP12
4B046LP15
4B046LP22
4B046LP41
4B046LP51
4B046LP56
4B046LP69
4B046LP71
(57)【要約】
【課題】硬さ及び粘性を両立した食感の冷凍麺類を提供すること。
【解決手段】本発明の冷凍麺類の製造方法は、粉原料として、小麦粉とRVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70となる量比で含む粉原料を用い、
前記小麦粉が、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含む、冷凍麺類の製造方法である。但し、澱粉類とは、澱粉及び/又は加工澱粉を指す。
前記粉原料として、穀粉類及び澱粉類に対して、アルギン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上を0.1~1.5質量%含有する粉原料を用いる事が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉原料として、小麦粉とRVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70となる量比で含む粉原料を用い、
前記小麦粉が、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含む、冷凍麺類の製造方法。但し、澱粉類とは、澱粉及び/又は加工澱粉を指す。
【請求項2】
前記粉原料として、穀粉類及び澱粉類100質量部に対して、アルギン酸及びその誘導体からなる群から選択される1種以上を0.1~1.5質量部含有する粉原料を用いる、請求項1に記載の冷凍麺類の製造方法。
【請求項3】
前記小麦粉のうち、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉の割合が15質量%以上である、請求項1又は2に記載の冷凍麺類の製造方法。
【請求項4】
原料生地を80kgf/cm~200kgf/cmの圧力で生地を押出製麺して冷凍麺類を得る、請求項1~3の何れか1項に記載の冷凍麺類の製造方法。
【請求項5】
前記粉原料として、α化澱粉を3質量%~10質量%含む粉原料を用いる、請求項1~4の何れか1項に記載の冷凍麺類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉及び澱粉類を用いた冷凍麺類の製造方法に関する。特に本発明は、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個若しくは2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を用いた冷凍麺類の製造方法に関する。
【0002】
冷凍麺類については、従来より、冷凍及びその後の再加熱によって、調理直後の食感が失われやすいことが問題となっている。
例えば特許文献1では、80kgf/cm~200kgf/cmの圧力で生地を押出製麺して得られた生パスタ類をそのまま茹で調理した後、凍結することを含む冷凍調理済みパスタ類の製造方法であって、該生地の粉原料が、デュラム小麦粉及び/又はデュラムセモリナと、澱粉、加工澱粉、中力粉及び薄力粉から選択される少なくとも1種とを30:70~95:5の配合比で含有する、方法が記載されている。同文献では、当該方法にて、冷凍耐性が高く且つ解凍時に良好な外観と食感を呈すると記載されている。
【0003】
また特許文献2には、低アミロース小麦粉および/または化工澱粉を含有する生麺類を加圧条件下で茹でることを特徴とする茹で麺類の製造方法が記載されている。同文献には、当該方法によれば、麺類の老化を抑え、茹でてから時間が経った後も、優れた粘弾性を有すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/094724号
【特許文献2】特開2005-328783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、麺の食感にも多様性が求められており、その一つとして、食べ応えがある、具体的には硬くて粘りのある食感の麺が好まれる場合がある。
しかしながら、特許文献1及び2を含め、冷凍及び解凍後にも硬くて粘りのある食感の麺の製造方法について、従来十分な検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含む小麦粉と、RVA最大粘度が特定以上である澱粉類とを特定比率で含有することで、驚くべきことに、冷凍後及び解凍後において、硬さと粘性とを効果的に両立できることを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づくものであり、粉原料として、小麦粉とRVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70となる量比で含む粉原料を用い、
前記小麦粉が、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含む、冷凍麺類の製造方法を提供するものである。但し、澱粉類とは、澱粉及び/又は加工澱粉を指す。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷凍及び解凍後も、硬さと粘性とが効果的に両立される冷凍麺類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は冷凍麺類に関する。硬さと粘りは異なる方向性の物性である上、冷凍及び解凍後に伴い麺の粘性や硬さは低下しやすい。このため、解凍後にも硬くて粘りのある食感を高いレベルで両立させた冷凍麺類は、従来安定して得難いものであった。これを本発明は解決したものである。
【0010】
本発明における「麺類」には、麺と称される食品全般が包含される。具体的には例えば、ロングパスタ等のパスタ、スパゲッティ、うどん、蕎麦、素麺、冷麺、冷麦、中華麺、フォー、ビーフン等が挙げられる。
本発明の冷凍麺類は、麺線の冷凍物である冷凍麺線を含む。本発明の冷凍麺類は、典型的には、冷凍麺線の集合体である冷凍麺塊である。本発明で製造する冷凍麺類において、冷凍麺線の長手方向と直交する方向での断面(以下、「麺線断面」とも言う。)の形状は特に制限されず、円形、楕円形、三角形、四角形、五角形以上の多角形等であり得る。
【0011】
本発明で製造する冷凍麺類は、常法に従って加熱調理することで喫食可能な状態となる。斯かる加熱調理法は特に制限されず、例えば、湯を用いた茹で調理、飽和水蒸気又は過熱水蒸気を用いた蒸し調理など、水分の存在下での加熱調理法が挙げられる。
【0012】
本発明の冷凍麺類の製造方法は、粉原料に液体を加えて混捏して生地を調製する工程(生地調製工程)と、該生地を生麺線に成形する工程(生地成形工程)とを有する。前記粉原料は、常温常圧で粉体である。
【0013】
本発明の冷凍麺類の製造方法は、前記生地調製工程で用いる粉原料が、小麦粉とRVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70となる質量比で含み、
且つ、小麦粉が、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含むことを特徴の一つとしている。
【0014】
本発明で用いる粉原料の必須成分である小麦粉としては、麺類の製造で使用可能なものを特に制限無く用いることができ、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで言う「デュラム粉」とは、デュラム小麦由来の小麦粉を指し、具体的には例えば、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉が挙げられる。デュラムセモリナは、デュラム小麦由来の小麦粉のうち平均粒径が300μmを超えるものを指し、デュラム小麦粉は、デュラム小麦由来の小麦粉のうち平均粒径が300μm以下のものを指す。
【0015】
本発明では、小麦粉が、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉を含む。従って、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦に由来する小麦粉は、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1が全て発現する小麦に由来する小麦粉に比して、通常、澱粉中のアミロース含量は低いものとなる。一方で、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1の全ての発現を欠いた小麦に由来する小麦粉に比して、アミロース含量は高いものとなる。なお、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦には、アミロース含量10%以下のモチ性小麦は含まれない。
【0016】
本発明において、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦の小麦粉を特定粘度の澱粉類と組み合わせることで冷凍及び解凍後も硬さ及び粘りをともに得られる理由は明確ではないが、上記の組み合わせによって、麺中の澱粉が加熱調理中において膨潤しやすく、さらに麺中に一定量のタンパク質が含まれることが、硬さ及び粘りの両立に適していることが理由の一つと考えられる。
【0017】
アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか2個の発現を欠いた小麦としては、「つるぴかり」、「チクゴイズミ」、「ネバリゴシ」、「ニシホナミ」「あやひかり」、等が挙げられる。
また、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個の発現を欠いた小麦としては、「ホクシン」、「きたほなみ」,「きぬあかり」「さぬきの夢2009」等が挙げられる。
【0018】
本発明においては、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか2個の発現を欠いた小麦を用いることが解凍後の冷凍麺が特に粘性に優れる点で好ましい。またアミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦由来の小麦粉のアミロース含量は例えば15~27%であることが好ましい。具体的には、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個の発現を欠いた小麦における澱粉のアミロース含量としては、27%以下であることが、上記特定遺伝子型の小麦の入手容易性や粘り付与の観点から好ましく、いずれか2個の発現を欠いた小麦における澱粉のアミロース含量としては15~25%であることが入手容易性や粘り付与の観点から好ましい。従って、上記で挙げた各種の具体的な品種由来の小麦は、通常、澱粉中のアミロース含量が上記範囲内である。
【0019】
本発明において小麦粉中、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦粉の割合は、15質量%以上であることが硬さ及び粘りの向上効果に優れる点で好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが特に好ましい。
【0020】
本発明において、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦粉に加えて、アミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1をいずれも欠損していない小麦に由来する小麦粉として、デュラム粉又は強力粉を用いると、解凍後の粘性を維持しながら硬さを更に向上させる点で、好ましい。この観点から、前記のデュラム粉又は強力粉を用いる場合、小麦粉100質量部中、デュラム粉又は強力粉の量は、10質量部以上85質量部以下であることが好適であり、20質量部以上70質量部以下であることが特に好適である。
また、前記のデュラム粉又は強力粉を用いる場合、前記のデュラム粉、強力粉、及びアミロース合成遺伝子Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1のうち、いずれか1個又は2個の発現を欠いた小麦粉(ここで「特定小麦粉」ともいう)の合計量のうち、特定小麦粉の割合は10質量部以上90質量部以下が好適であり、20質量部以上、80質量部以下が特に好適である。
前記のデュラム粉、強力粉、特定小麦粉の合計量は、小麦粉中、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
【0021】
本発明では、原料粉として、RVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類を必須とする。本明細書において、澱粉類とは、澱粉及び/又は加工澱粉を指す。
以下では、RVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類を「特定澱粉類」とも言う。
【0022】
本発明で用いる粉原料の必須成分である特定澱粉類は、RVA最大粘度が前記特定下限以上にある澱粉であればよく、供給源となる植物は特に制限されない。特定澱粉類は、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、米澱粉、等であり得る。上記の通り、「澱粉類」は、澱粉及び/又は加工澱粉である。ここでいう澱粉とは未加工澱粉を指す。つまり、特定澱粉類は、RVA最大粘度が前記特定下限以上にある澱粉であれば未加工の澱粉でもよく、未加工の澱粉に、架橋、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化などの加工処理の1種以上を施した加工澱粉でもよい。本発明では、RVA最大粘度が前記特定下限以上にある澱粉を、1種又は複数種組み合わせて使用することができる。
【0023】
澱粉類は、水とともに加熱するとα化(糊化)して膨潤し、粘性が高まるという特性を有する。斯かる澱粉の粘度特性の測定手段として、ラピッドビスコアナライザー(RVA)と呼ばれる迅速粘度測定装置が知られている。RVAを用いた澱粉類の粘度特性の測定では、測定対象の澱粉類を水に懸濁させ、その懸濁液を攪拌しながら徐々に昇温してその粘度を測定する。一般に、澱粉類のRVA粘度特性は澱粉類の種類によって異なるが、多くの澱粉類に共通のRVA粘度特性は、昇温開始当初の比較的低温では粘度に大きな変化は見られないが、ある温度から急激に粘度が上昇を開始し、ピーク(最高粘度)に達した後、低下するというものである。斯かるRVA粘度特性において、急激な粘度上昇の開始温度は「糊化開始温度」、最高粘度は「RVA最大粘度」と呼ばれる(なお、「RVAピーク粘度」と呼ばれることもある)。
粉原料に含有される澱粉類のRVA最大粘度が3500mPa・s未満であると、解凍後の粘性が不足し、硬さ及び粘りが両立した冷凍麺類が得られない。硬さ及び粘りの両立一層優れたものとする観点から、特定澱粉類のRVA最大粘度は、好ましくは3500~12000mPa・s、より好ましくは3600~10000mPa・sである。
【0024】
澱粉類のRVA最大粘度は、澱粉類の種類(澱粉の供給源)を適宜調整することで調整できる。また例えば、当該澱粉類がヒドロキシプロピル化澱粉の場合は、ヒドロキシプロピル基の置換度を適宜調整することでRVA最大粘度を調整できる。また例えば、当該澱粉類が架橋澱粉の場合は、架橋度を適宜調整することでRVA最大粘度を調整できる。
【0025】
本発明における「RVA最大粘度」は、迅速粘度測定装置(ニューポート サンエンティフィク社製)を用いて以下の手順で測定された値である。
測定装置に付属のアルミ缶(測定対象物の収容容器)に、供試澱粉類を水分含量14質量%換算で3.0g、蒸留水25mL及び攪拌子を入れ、該アルミ缶をタワーにセットし、該攪拌子を回転数160rpmで回転させながら該アルミ缶を加熱してその内容物(澱粉類の懸濁液)の温度を上昇させつつ該内容物の粘度を測定する。前記内容物の加熱条件は、はじめに内容物の品温50℃を1分間保持した後、7分30秒間で該品温を95℃まで上昇させ、同温度で5分間保持した後、7分30秒間で該品温を50℃まで冷却させ、同温度で2分間保持する条件とする。そして、この加熱処理中の内容物の時間-粘度曲線を得、該粘度曲線におけるピークの粘度を供試澱粉のRVA最大粘度とする。時間-粘度曲線にピークが現れない場合は、前記内容物を95℃にて5分間保持している間の該内容物の最高粘度を供試澱粉類のRVA最大粘度とする。
【0026】
本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、特定澱粉類は馬鈴薯、タピオカ、米、ワキシーコーン由来のものが好ましい。また特定澱粉類が加工澱粉である場合、加工方法としては、アセチル基もしくはヒドロキシプロピル基を付与する置換処理が好ましい。
【0027】
粉原料は、小麦粉と特定澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70となる量比で含むことを別の特徴の一つとする。小麦粉と特定澱粉類との質量比が65:35よりも小麦粉が多い場合、解凍後の粘性が十分ではない。また、小麦粉と特定澱粉類との質量比が30:70よりも特定澱粉類が多くなる場合、解凍後の硬さが十分に得られないという問題が生じる。解凍後の粘性と硬さの両方を効果的に高める観点から、小麦粉と特定澱粉類とを、質量比として前者:後者が65:35~30:70であることがより好ましく、55:45~40:60であることが特に好ましい。
【0028】
また本発明において、小麦粉と特定澱粉類は、粉原料中、合計で60質量%以上を占めることが好ましく、65質量%以上100質量%以下を占めることがより好ましい。更に、小麦粉と加工澱粉の合計量中、加工澱粉が20質量%以上であることも好ましく、33質量%以上であることも好ましい。
【0029】
粉原料は、小麦粉および特定澱粉に加えて更に、アルギン酸及びその誘導体(以下、「アルギン酸類」とも言う。)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。アルギン酸類が含有されていると、冷凍麺類の解凍後の粘り及び硬さの両立した食感が一層向上し得る。
配合可能なアルギン酸類としては、例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウムが挙げられる。
アルギン酸類の含有量は、冷凍麺類の解凍後の粘り及び硬さの両立した食感に優れるとともに食味の点から、穀粉類及び澱粉類の全合計100質量部に対して、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.3~1.5質量部である。
なお、ここでいう穀粉類及び澱粉類における穀粉類としては、小麦粉、及び小麦粉以外の穀粉(例えば、米粉、大麦粉、ライ麦粉等)、α化穀粉等の加工穀粉が挙げられる。澱粉類としては、特定澱粉類並びに特定澱粉類以外の澱粉又は加工澱粉が挙げられる。穀粉類及び澱粉類は粉原料中60質量%以上を占めることが好適であり、65質量%以上を占めることがより好適であり、70質量%以上を占めることがより一層好適である。
【0030】
本発明で用いる粉原料は、特定澱粉類の一部として又は特定澱粉類が非α化澱粉である場合は特定澱粉類以外の澱粉として、α化澱粉を含有してもよい。粉原料にα化澱粉が含有されていると、特に、前記生地成形工程において圧延製麺法によって生地を生麺線に成形する場合の製麺性が一層向上し得る。
粉原料に含有可能なα化澱粉は、RVA最大粘度が3500mPa・s以上であっても3500mPa・s未満であってもよく、馬鈴薯澱粉等の原料澱粉にα化処理を施したものを特に制限無く用いることができ、例えば、α化馬鈴薯澱粉、α化タピオカ澱粉、α化ワキシーコーン澱粉、α化小麦澱粉、α化コメ澱粉;これらのα化澱粉に架橋処理、酸化処理等のα化処理以外の加工処理の1種以上を施したものが挙げられる。
粉原料におけるα化澱粉の含有量は、該粉原料の全質量に対して、好ましくは3~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。なお、RVA最大粘度が3500mPa・s以上であるα化澱粉の量は上記の特定澱粉類の量にも、α化澱粉の量にも含まれる。
【0031】
本発明で用いる粉原料は、前記の成分(小麦粉、特定澱粉類、アルギン酸類、特定澱粉類ではないα化澱粉)以外の他の成分を含有してもよい。斯かる他の成分としては、例えば、小麦粉、特定澱粉類及びα化澱粉以外の穀粉類及び澱粉類;小麦蛋白、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、膨張剤、乳化剤、増粘剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、アルコール、保存剤、酵素剤が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
前記生地調製工程において、生地の調製は常法に従って行うことができる。典型的には、粉原料に液体を添加し、ミキサー等を用いて混捏することで、多数の麺粒の集合体からなるそぼろ状の生地(粗生地、原料生地)を調製する。粉原料に加える液体としては、典型的には、水が用いられるが特に制限されず、例えば、水に塩などの調味料を溶解又は分散させた調味液、卵液等を用いることができる。粉原料に添加する液体の量は、製造する冷凍麺類の種類等に応じて適宜調整すればよい。例えば、粉原料に添加する液体の量は、粉原料100質量部に対して、25~50質量部とすることが好適である。
【0033】
前記生地成形工程では、前記生地調製工程で得られた生地を生麺線に成形する。これにより、本発明では、生地の生麺線への成形方法は特に制限されず、公知の製麺法を適宜利用することができる。好適な製麺法の具体例として、押出製麺法、圧延製麺法が挙げられる。
【0034】
押出製麺法は、粗生地(原料生地)を押出機に供給し、常圧下又は減圧下で適当な形状及び大きさの穴が開いたダイスから押し出して生麺線を得る手法である。押出製麺は一軸押出製麺機や二軸押出製麺機等を用いて常法に従って行うことができる。
押出製麺の場合、好ましくは生地(原料生地)を、80kgf/cm~200kgf/cmの圧力で押出製麺することが、十分な硬さを得るため好ましい減圧度は適宜設定してもよい
【0035】
押出製麺法では、押出機から得られる麺帯様又は麺柱様生地を圧延ロールで段階的に薄く延ばして麺帯を得、該麺帯を適当な切り刃で切断して生麺線を得る場合もある。
【0036】
圧延製麺法は、粗生地(原料生地)を圧延し、得られた生地を任意に複合し、複数回の圧延により段階的に薄く延ばして麺帯とし、該麺帯を適当な切り刃で切断して生麺線を得る手法である。ここで言う「圧延」とは、円筒状のロール等を用いて一定の厚さを有する生地を得る手法を指す。生地の圧延手段としては、少なくとも相対向する二方向から粗生地に圧力を加えてこれを成形し得る手段であればよく、例えば、一対のロール間に粗生地を供給して圧延する手段でもよく、プレス機を用いて粗生地を圧縮する手段でもよい。圧延製麺法における粗生地調整時の混練時減圧度は-0.01MPa~-0.1MPa、好ましくは-0.02MPa~-0.1MPaが好ましい。
【0037】
冷凍麺類の製造方法は、前記麺帯切断工程で得られた生麺線を乾燥させずに加熱調理して調理済み麺線を得る工程(加熱調理工程)を有することが好ましい。
ここで言う「生麺線を乾燥させない」とは、生麺線の含水率を一定程度以上意図的に低下させる工程(生麺線乾燥工程)を実施しないことを意味する。前記生麺線乾燥工程としては、例えば、生麺線に熱風を吹き付ける工程、雰囲気温度が比較的高温の環境に生麺線を静置する工程が挙げられ、本発明では、少なくとも特定麺線を製造する際にこれらの工程を実施しないことが好ましい。加熱調理に供される直前の生麺線の含水率は、好ましくは15~45質量%、より好ましくは20~40質量%である。ここで言う「含水率」は、絶乾法(測定対象を品温130℃に加熱し、加熱前後での重量変化を測定する方法)に従って測定した値である。
本発明において、生麺線の加熱調理法は特に制限されず、生麺線中の澱粉をα化し得る公知の方法を利用できる。生麺線の加熱調理法の具体例として、湯を用いた茹で調理、飽和水蒸気又は過熱水蒸気を用いた蒸し調理など、水分の存在下での加熱調理法が挙げられる。
【0038】
冷凍麺類の製造方法では、前記加熱調理工程で得られた調理済み麺線を冷凍する工程(冷凍工程)を有する。前記冷凍工程を経て、特定冷凍麺線を含む本発明の冷凍麺類が得られる。本発明において、生麺線の冷凍方法は特に制限されず、急速冷凍法、緩慢冷凍法等の公知の冷凍方法を利用できる。
【実施例0039】
〔実施例1~12、比較例1~3:冷凍麺の製造〕
(1)生地調製工程
下記表1及び表2の「粉原料配合(質量部)」の欄に記載の配合で原料を混合して粉原料を調製した。そして、調製した粉原料100質量部に対して水38質量部を添加し、製麺ミキサー(横型ピンミキサー)を用いて、減圧度-0.08MPaの環境で、高速5分間、低速10分間混捏してそぼろ状の粗生地を調製した(生地調製工程)。
【0040】
使用した原材料の詳細は下記のとおりである。
・低アミロース遺伝子型小麦粉A1:品種チクゴイズミ由来の小麦粉
・やや低アミロース遺伝子型小麦粉A2:品種きたほなみ由来の小麦粉
・デュラム小麦粉:日清製粉株式会社製、商品名「デュエリオ」
・強力粉:日清製粉株式会社製、商品名「ミリオン」
・澱粉類B1:馬鈴薯アセチル化澱粉、RVA最大粘度8690mPa・s
・澱粉類B2:タピオカヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、RVA最大粘度3703mPa・s
・澱粉類B’:うるち米リン酸架橋澱粉、RVA最大粘度2400mPa・s
・α化澱粉:α化馬鈴薯澱粉(RVA最大粘度2894mPa・s)
・アルギン酸類:アルギン酸プロピレングリコールエステル
【0041】
(2)生地成形工程
次に、調製した粗生地を、下記の押出製麺法又は圧延製麺法により、生スパゲティ(生麺線)に成形し、該生スパゲティの集合からなる生麺類を製造した(生地成形工程)。
【0042】
(押出製麺法)
粗生地を、パスタ製造機を用いて、押出圧力120kgf/cm、減圧度-0.08MPaの条件で押出し、太さ2.0mmの生スパゲティ(生麺線)を得た。
【0043】
(圧延製麺法)
粗生地を整形ロールにより帯状に整形して粗麺帯を得、更に該粗麺帯を2枚重ねて整形ロールに通すことで複合粗麺帯を得た。次に、前記複合粗麺帯を圧延ロールにより3回圧延して、厚さ2.0mmの麺帯を得た(圧延工程)。次に、前記麺帯を切り刃(丸15番)により切断し、太さ2.0mmの生スパゲティ(生麺線)を得た。
【0044】
(3)加熱調理及び冷凍工程
上記生麺線を乾燥させずに沸騰水で3~5分間茹でた後、水冷して茹で麺線(調理済み麺線)を得た。次に、得られた茹で麺線40gに対し、油脂濃度50質量%の乳化液を2g付着させた後、その茹で麺線をポリプロピレン製容器に収容し、該容器を-35℃の環境に静置して、該容器内の茹で麺線を急速冷凍し、目的の冷凍麺類を得た。
【0045】
〔評価試験〕
評価対象の冷凍麺類を庫内温度-18℃の冷凍庫で1週間保存した後、電子レンジを用いて600W40秒加熱し喫食可能な状態となるまで加熱解凍し、その解凍した麺類を10名の専門パネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準により評価してもらった。前記専門パネラーは、麺類の食感を評価する業務に5年以上従事している者であった。評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1及び表2に示す。
【0046】
<硬さの評価基準>
5点:非常に硬さがあり好ましい。
4点:硬さがあり好ましい。
3点:やや硬さがあり好ましい。
2点:やや硬さが不足しておりやや好ましくない。
1点:非常に軟らかく好ましくない。
【0047】
<粘性の評価基準>
5点:非常に粘性があり好ましい。
4点:粘性があり好ましい。
3点:やや粘性があり好ましい。
2点:やや粘性が不足しておりやや好ましくない。
1点:非常に粘性が不足しており好ましくない。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
上記表1及び表2の通り、やや低アミロースもしくは低アミロース遺伝子型小麦粉を含む小麦粉及びRVA最大粘度が3500mPa・s以上である澱粉類を質量比65:35~30:70となる割合で含有する生地原料を用いる各実施例では、硬さの評価点が4.0以上、粘性の評価点が4.4以上と、顕著に優れた食感評価が得られた。各実施例の食感は、まるで盛岡冷麺のような硬さと粘りを感じさせるものであった。これに対し、上記特定の小麦粉及び特定澱粉類を用いているが上記質量比の範囲外である比較例1、RVA最大粘度が3500mPa・s未満の澱粉類を用いた比較例2、小麦粉として低アミロース遺伝子型小麦粉に該当しない小麦粉のみを用いた比較例3では、いずれも粘性に劣り、また硬さ評価も劣る傾向にあった。