(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014888
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
B21D22/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119084
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 隆
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA11
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA21
4E137CA24
4E137DA02
4E137DA05
4E137DA11
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA26
4E137EA29
4E137EA36
4E137FA02
4E137FA15
4E137GB02
4E137GB08
4E137GB20
4E137HA04
4E137HA06
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】生産性を向上させるアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板を300℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、前記アルミニウム合金板を、100℃以下の温度に維持された金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を200℃未満に冷却するプレス加工工程とを含むアルミニウム合金板加工方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板を300℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、
前記アルミニウム合金板を、100℃以下の温度に維持された金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を200℃未満に冷却するプレス加工工程とを
含むアルミニウム合金板加工方法。
【請求項2】
前記金型は、重量比で3.5%以上5.5%未満のMgを含むアルミニウム合金、または、重量比で5.0%以上9.0%未満のZn及び1.3%以上2.5%未満のCuを含むアルミニウム合金による金型であり、
前記金型は、冷媒を流す冷却用水路を含み、前記冷媒は3L/分以上の量で前記冷却用水路に供給される、
請求項1に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項3】
前記プレス加工工程の前に、前記金型にミスト状の水または水溶性潤滑剤を、前記アルミニウム合金板の面積100cm2当たり10mg以上の量で噴霧する噴霧工程を含む、請求項1または2に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項4】
前記金型は、メッキ加工される、
請求項1から3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金板の厚さは1.5mm以上5mm未満であり、前記プレス加工工程における下死点保持時間は10秒未満であり、前記プレス加工工程後の前記アルミニウム合金板の高さは40mm以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ(アルミニウム合金)板材は、鋼板製品等の軽量化代替材として有効であり、1970年代からスチールによる飲料缶、ステンレス鋼や銅によるエアコン等の熱交換器、1980年代から鋼板による自動車外板材等の代替材として使用されてきた。また、アルミ板材は、1990年代以降では新規用途であるリチウムイオン電池用のバッテリーケース、液晶半導体製造装置等として使用されてきた。これら代替を含めた新規用途へのアルミ板材の使用には、加工技術の進展が大きく関係している。例えば、ビール缶等の飲料缶ではDI(Drawing and Ironing:絞りしごき)加工技術、熱交換器ではロウ付け技術等
の進展が、寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-284731号公報
【特許文献2】特開平9-78210号公報
【特許文献3】特開2014-240085号公報
【特許文献4】特開2015-199098号公報
【特許文献5】特開2020-26567号公報
【特許文献6】特開2018-30988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車外板材のアルミ化(アルミニウム合金化)も、アルミ板材に適したプレス技術(成形ガイドライン、金型形状の適正化、潤滑剤、ヘム加工法等)の進展による効果であるが、鋼板の成形性に追いつくことは困難である。そのため、現在では、車体のマルチマテリアル化が進められている。車体重量の大半を占める鋼板においては、従来のプレス(冷間)技術に加えて、ホットスタンプ技術の採用が顕著になっている。ホットスタンプ技術は、搭乗者保護向けキャビン用構造部品(鋼板の超ハイテン材)に適用されている。同様に、ホットスタンプ技術のアルミ板材への適用も考えられるが、鋼板(1500MPa以上)のような超高強度材に対抗できるコスト競争力のあるアルミ高強度材(600MPa以上)が得られにくいため、アルミ板材のホットスタンプ技術は、参考技術として展示会用に出展されているに過ぎない。
【0005】
一方、アルミ板材のプレス加工以外では、ダイカスト・冷間鍛造・熱間鍛造の技術がある。これらの技術は、各々の特長を活かして採用されているものの、近年、品質面およびコスト面での大きな進展は認められない。
【0006】
アルミ板材のプレス(冷間)製品は、軽量で、放熱性(熱伝導性)、内部品質(引け巣、ブローホール無)、耐食性等に優れる。しかし、アルミ板材のプレス製品は、鋼板に比べると成形性・コスト面で大きく劣る。また、アルミ板材のプレス製品は、ダイカスト製品に比べると形状の自由度(肉厚変化、複雑一体成型)に劣る。これらに対抗するアルミ材の加工法として冷間鍛造法および熱間鍛造法がある。いずれの方法も形状の自由度を大幅に高められるものの、加工前後に時間を要する熱処理工程があるため冷間プレス製品に比べ高コストで生産性に劣る。なお、アルミ板材のプレス成形性向上技術として、温間成形技術を用いた開発もあるが、その向上比率は高くはなくニーズを満足させることは難し
い。従来のアルミ板材の冷間鍛造技術、熱間鍛造技術では、加工前後に複雑な熱処理工程が求められる。
【0007】
また、アルミホットスタンプ技術の普及促進には、鋼板ホットスタンプ製品と比較してコスト競争力が重要であり、プレスの高速化が進められている。鋼板ホットスタンプ技術では、強度および形状凍結性等の観点から、プレス加工直後に急速冷却が求められ、成形品に直接水冷を施している。そのため、プレス速度が遅く、型内の冷却水除去等の工程が求められる。鋼板ホットスタンブ技術に関して、金型の冷却技術、金型への凝着予測(解析)技術、金型の材種、金型の潤滑被膜等に関する研究が報告されている。これらは、鋼板ホットスタンプ技術においては有効な技術であるが、ホットスタンプ開始温度が低く、熱伝導性に優れたアルミ材料を考慮されたものではないので、アルミホットスタンプ技術においては、プレスの高速化の解決には繋がらない。
【0008】
本発明は、生産性を向上させるアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
即ち、第1の態様は、
アルミニウム合金板を300℃以上580℃未満の温度で10分以内の時間保持する加熱工程と、
前記アルミニウム合金板を、100℃以下の温度に維持された金型に供給してプレス加工し、当該プレス加工の下死点で前記アルミニウム合金板を200℃未満に冷却するプレス加工工程とを
含むアルミニウム合金板加工方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性を向上させるアルミニウム合金板材のホットスタンプ加工技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、金型100の下型ダイセット122に設けられる冷却用水路150、熱電対設置孔160の例を示す図である。
【
図3】
図3は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、アルミニウム合金板のホットスタンプ加工方法の動作フローの例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例で使用する模擬金型900の下型の例を示す図である。
【
図6】
図6は、測定例2の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0013】
〔実施形態〕
(構成例)
図1は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。金型100は、上型110、下型120を含む。上型110は、上型ダイセット111、上型シワ押さえ部112、ポンチ113を含む。下型120は、下型シワ押さえ部121、下型ダイセット122を含
む。ここで、
図1は、金型100を正面から見ている図である。
図1の左から右への方向をx方向、紙面の表面から裏面への方向(金型100の正面から裏面への帆方向)をy方向、下から上への方向(下型ダイセット122から上型ダイセット111への方向)をz方向とする。上型ダイセット111及び下型ダイセット122は、プレス成形装置に固定される。上型シワ押さえ部112、ポンチ113は、上型ダイセット111に固定される。ポンチ113は、加工対象のアルミニウム合金板200を所定の形状に変形させる。ポンチ113の先端(下型120側)の形状は、例えば、錐形状、柱形状、または、任意の形状である。上型シワ押さえ部112、下型シワ押さえ部121は、加工対象のアルミニウム合金板200のしわの発生の抑制をする。下型シワ押さえ部121は、下型ダイセットに固定される。下型120は、上型110に対向して配置される。下型シワ押さえ部121の上には、加工対象となるアルミニウム合金板(供試材)200がセットされる。上型ダイセット111は、熱電対310を設置するための熱電対設置孔140を有する。また、下型ダイセット122は、冷却用冷媒を流す冷却用水路150、熱電対320を設置するための熱電対設置孔160を有する。冷却用水路150には、流入口及び流出口が設けられ、当該流入口から金型100を冷却するための水などの冷媒が導入され、当該流出口から排出される。熱電対設置孔140、熱電対設置孔160には、熱電対310、熱電対320が設置され、金型100の温度を測定する。金型100の材料は、例えば、鉄またはアルミニウム合金である。ここでは、縮みフランジ変形を抑制するためのシワ押さえ制御機構を必要としない。金型100の構成は、ここに記載されるものに限定されるものではない。
【0014】
上型110(または下型120)が、プレス加工装置の動作により上下方向に上死点と下死点との間を往復運動することで、上型110と下型120とが近づいたり遠ざかったりする。上型110と下型120とが近づいた際に、ポンチ113がアルミニウム合金板200に押し当てられ、アルミニウム合金板200が変形することによりプレス加工される。また、プレス加工装置は、水または水溶性潤滑剤をミスト状にして、金型100の上型110および下型120に向けて噴霧するスプレー噴霧器を備える。スプレー噴霧器は、加工対象のアルミニウム合金板が金型100にセットされる前に、上型110および下型120に、所定量のミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。
【0015】
絞り加工(縮みフランジ変形)では、金型100が、シワ押さえをスプリング等によりアルミニウム合金板200に押しつける制御をするシワ押さえ制御機構を有することが一般的である。しかし、シワ押さえ制御機構を使用すると、プレス加工時にアルミニウム合金板200とシワ押さえ制御機構とが接触してアルミニウム合金板200の温度を低下させ成形性低下を招くことがある。ここでは、シワ押さえ制御機構は使用されない。即ち、下型120のシワ押さえ部121の接触部は極力低減し、ポンチ部113の受け形状が下型120に存在する。
【0016】
金型100の材料として、例えば、5000系アルミニウム合金、7000系アルミニウム合金が使用される。金型100の表面は、研磨面のままでもよいが、アルミニウム合金板200の凝着防止のために、高硬度のクロムメッキ、ニッケルメッキ等のメッキ加工を施し、金型100の表面に低摩擦係数となる被膜を形成させることが望ましい。金型100に対するメッキ加工の方法として、電解、無電解、溶射等の方法があるが、金型100のサイズなどにより適宜、適切な方法が採用され得る。
【0017】
図2は、金型100の下型ダイセット122に設けられる冷却用水路150、熱電対設置孔160の例を示す図である。下型ダイセット122は、直方体形状を有する。冷却用水路150は、第1部分151、第2部分152、第3部分153を有する。
【0018】
図2の例では、下型ダイセット122の右側の側面に、冷却用水路150の流入口およ
び流出口、熱電対投入口が設けられる。冷却用水路150の第1部分151は、流入口からx方向に平行に伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の第2部分152は、第1部分151の流入口側の端とは反対側の端に接続され、y方向に平行に伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の第3部分153は、第2部分152の第1部分151と接続する端とは反対側の端に接続され、x方向に平行に流出口まで伸びる円筒形の水路である。冷却用水路150の流入口、流出口には、例えば、ホースやパイプなどが接続される。水などの冷媒が、冷却用水路150の流入口から導入され、第1部分151、第2部分152、第3部分153を通り、流出口から排出されることで、下型ダイセット122が冷却される。冷却用水路150の流入口、流出口には、例えば、ホースやパイプなどが接続される。下型ダイセット122が冷却されることで、下型シワ押さえ部121を含む下型120が冷却される。また、プレスの際に下型120と接触する上型110も冷却され得る。冷却用水路150の直径は、例えば、下型ダイセット122の厚さ(z方向の長さ)が50mmであるとき、10mmである。
【0019】
熱電対設置孔160は、下型ダイセット122の右側の側面に設けられる熱電対挿入口から、x方向に平行に伸びる円筒形の孔である。熱電対設置孔160は、下型ダイセット122の中央付近まで伸びる。熱電対設置孔160には、熱電対320が熱電対挿入口から挿入される。熱電対320の測温接点(温度を計測する部分)は、熱電対設置孔160内で、下型ダイセット122の中央付近に配置される。熱電対設置孔160に挿入された熱電対320により、金型100の下型ダイセット122の温度を測定することができる。
【0020】
冷却用水路150、熱電対設置孔160の形状は、ここに記載したものに限定されるものではなく、金型100などの形状等に合わせて適宜変更され得る。また、複数の冷却用水路が設けられてもよい。また、複数の熱電対設置孔が設けられ、複数の位置で温度が測定されてもよい。上型ダイセット111に設けられる熱電対設置孔160、熱電対310についても、下型ダイセット122に設けられる熱電対設置孔160、熱電対320と同様である。熱電対310、熱電対320の代わりに、サーミスタ、測温抵抗体、サーモカメラ等が使用されて、金型100の温度が測定されてもよい。冷却用水路150に冷媒が流されることで、金型100が冷却され、金型100にセットされたアルミニウム合金板200が冷却される。
【0021】
図3は、プレス加工装置の金型の構成例を示す図である。
図3の金型100では、上型ダイセット111に、下型ダイセット122の冷却用水路150と同様の冷却用水路130が設けられる。
図3の金型100の他の構成については、
図1の金型100と同様である。上型ダイセット111、及び、下型ダイセット122に、冷却用水路が設けられることで、金型100をより適切に冷却することができる。冷却用水路130に流される冷媒の量は、冷却用水路150に流される冷媒の量と同様である。
【0022】
(動作例)
図4は、アルミニウム合金板のホットスタンプ加工方法の動作フローの例を示す図である。アルミニウム合金板は、加工対象のアルミニウム合金の板である。アルミニウム合金板は、例えば、圧延処理後または圧延処理及び溶体化処理後の切板である。圧延処理とは、アルミニウム合金の製造工程で熱間圧延処理(及び冷間圧延処理)を意味する。溶体化処理とは、合金成分をアルミニウム合金中に溶け込ませた温度から急速に冷却する処理である。溶体化処理は、例えば、連続焼鈍ライン(CAL:Continuous Annealing Line)
により行われる。ここでは、プレス加工装置に金型100がセットされ、金型100の冷却用水路150には、冷媒が流されているとする。冷却用水路150には、3L(リットル)/分から10L/分の量の冷媒としての水が供給されているとする。プレス加工中において、冷媒により、金型100の内部温度及び表面温度が、100℃以下、好ましくは
、50℃以下に維持される。金型100の内部温度及び表面温度が、100℃以下もしくは50℃以下になるように、熱電対310、熱電対320で測定される金型100の温度に応じて、冷却用水路150に供給される冷媒の量が調整されてもよい。例えば、熱電対310、熱電対320で測定される温度が高いほど、冷却用水路150に供給される冷媒の量を多くする。ミスト噴霧により、金型100が十分冷却される場合には、冷却用水路150による冷却が行われなくてもよい。
【0023】
ここで、アルミニウム合金は、1000系アルミニウム、2000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、4000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、7000系アルミニウム合金を含む。アルミニウム合金は、ここに記載したものに限定されるものではない。1000系アルミニウムは、純度99.00%以上の純アルミニウムである。ここでは、1000系アルミニウムも、アルミニウム合金の一種とする。2000系アルミニウム合金(Al-Cu系合金)は、アルミニウムに主に銅(Cu)を添加したアルミニウム合金である。3000系アルミニウム合金(Al-Mn系合金)は、アルミニウムに主にマンガン(Mn)を添加したアルミニウム合金である。4000系アルミニウム合金(Al-Si系合金)は、アルミニウムに主にシリコン(Si)を添加したアルミニウム合金である。5000系アルミニウム合金(Al-Mg系合金)は、アルミニウムに主にマグネシウム(Mg)を添加したアルミニウム合金である。5000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、2%以上5%未満のMgを含むアルミニウム合金である。なお、金型用5000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、3.5%以上5.5%未満のMgを含むアルミニウム合金である。5000系アルミニウム合金は、これに限定されるものではない。6000系アルミニウム合金(Al-Mg-Si系合金)は、アルミニウムに主にマグネシウム及びシリコンを添加したアルミニウム合金である。6000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、0.4%以上1.0%未満のMg、0.7%以上1.5%未満のSi、0.01%以上0.2%未満のCuを含むアルミニウム合金である。6000系アルミニウム合金は、これに限定されるものではない。7000系アルミニウム合金(Al-Zn-Mg系合金)は、アルミニウムに主に亜鉛(Zn)及びマグネシウムを添加したアルミニウム合金である。7000系アルミニウム合金は、例えば、重量比で、5.0%以上9.0%未満のZn、1.3%以上2.5%未満のCuを含むアルミニウム合金である。7000系アルミニウム合金は、これに限定されるものではない。各アルミニウム合金は、ここに示した元素以外の元素を含む場合がある。
【0024】
S101では、電気ヒータ炉(電気炉)、誘導加熱炉、赤外線加熱炉などの加熱炉により、加工対象のアルミニウム合金板200に対して、300℃以上580℃未満の到達温度で10分未満の保持時間で加熱を行う。すなわち、加熱炉で、アルミニウム合金板200に対して、アルミニウム合金板200の温度を到達温度に上昇させた後、さらに、当該到達温度で10分未満の保持時間、加熱を行う。加熱の際、アルミニウム合金板200内の各位置の温度の温度差は、最大で40℃以内になることが望ましい。また、加熱の際、50℃/分以上の加熱速度であることが望ましい。加熱速度は、材料組織(結晶粒)に影響し、50℃/分未満では、結晶粒成長による成形性の低下、加工表面の肌荒れを招くほか、生産性の低下につながる。一方、材料内の温度分布の幅が大きいと強度ばらつきが大きくなるので、アルミニウム合金板200内の各位置の温度の温度差を40℃以内にすることが望ましい。アルミニウム合金板の厚さは、例えば、1.5mm以上5mm未満である。到達温度は、アルミニウム合金の種類によって変更され得る。到達温度は、例えば、3000系アルミニウム合金では300℃-500℃、5000系アルミニウム合金では300℃-450℃、6000系アルミニウム合金では400℃-550℃である。到達温度が300℃未満では、アルミニウム合金板の延性が不十分であり、成形性の向上度合いが低い。また、到達温度が580℃以上では、合金添加元素によってバーニング(溶融状態)が生じるため、好ましくない。到達温度での保持時間は10分以上でもよいが、到
達温度での保持時間が長いと生産性が大幅に低下するので、到達温度での保持時間は10分未満が望ましい。アルミニウム合金板の厚さが薄い(例えば、3mm未満)場合、到達温度での保持時間は1分未満であっても問題なく、できるだけ短くすることが望ましい。アルミニウム合金板の厚さが1.5mm未満では、搬送時等に変形が生じやすいため好ましくない。また、アルミニウム合金板の厚さが5mm以上でも、当該加工は可能であるが、押出し型材など他の方法の方が使い勝手がよい。よって、ここでのアルミニウム合金板200の厚さは、1.5mm以上5mm未満であることが好ましい。
【0025】
S102では、プレス加工機のスプレー噴霧器は、金型100の上型110および下型120に向けて、ミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。スプレー噴霧器は、上型110、下型120に対して、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm2当たり10mg以上の量のミスト状の水または水溶性潤滑剤を噴霧する。スプレー噴霧器によるミスト状の水または水溶性潤滑剤の噴霧は、金型100に加工対象のアルミニウム合金板200がセットされる前に行われる。噴霧量が、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm2当たり10mg未満では、冷却能力および潤滑性能が不足し、金型100へのアルミニウム合金板200の凝着を招く。また、噴霧量が、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm2当たり2000mg以上では、十分に冷却されるものの、金型100内に水または水溶性潤滑剤が過剰となる。金型100内に水または水溶性潤滑剤が過剰となると、金型100から液体(水または水溶性潤滑剤)を抜く水抜き作業が求められ、作業性悪化、品質低下を招く。よって、噴霧量は、加工対象のアルミニウム合金板200の面積100cm2当たり10mg以上2000mg未満が好ましい。ミスト噴霧による冷却は、行われなくてもよい。
【0026】
S103では、S101で加熱したアルミニウム合金板200を、加熱炉から取り出して、速やかに(例えば、5秒以内に)、プレス加工装置の金型100の下型シワ押さえ部121の上にセットする。アルミニウム合金板の加熱炉からの取り出し及び金型100へのセットは、例えば、周知のロボット等により行われる。当該ロボットは、例えば、アルミニウム合金板200を把持するアームを有し、所定時間加熱されたアルミニウム合金板200を加熱炉から取り出し、金型100に移動させる。また、当該ロボットは、プレス加工されたアルミニウム合金板200を金型100から取り出してもよい。
【0027】
S104では、プレス加工装置において、金型100の上型110を下死点まで移動させて、ポンチ113及び上型シワ押さえ部112をアルミニウム合金板200に接触させることで、アルミニウム合金板200を所定の形状に変形加工(プレス加工)させる。ここで、アルミニウム合金板200に加工した後の成形品の高さは、40mm未満であることが好ましい。ここではシワ押さえ制御機構を使用しないため、成形品の高さが40mm以上になると、フランジ部しわに伴う材料流入不足が生じる。ここで、成形品の高さとは、例えば、成形方向、すなわち、プレス加工における加工後のプレス方向での加工品の寸法をいう。よって、成形品の高さが40mm以上では、成形品にくびれ等が顕在化し製品性能を満足しないことがある。
【0028】
S105では、金型100の上型110を下死点で維持して、アルミニウム合金板200を200℃未満まで冷却する。例えば、上型110を下死点で1-10秒間維持すること(下死点保持時間1-10秒)で、アルミニウム合金板200が200℃未満まで冷却される。金型100は、予め水冷などにより冷却されているため、金型100の上型110と下型120との間に挟まれるアルミニウム合金板200も冷却される。アルミニウム合金板200の温度が200℃超では、強度を高める添加元素が析出し高強度を確保できない、成形品の変形が生じ易いといった問題がある。また、アルミニウム合金板200を200℃以下まで冷却することで、アルミニウム合金板200の到達温度と下死点での冷却温度との温度差(熱収縮率)を活用して、成形品の平坦度と金型100からの離型性を
向上させることができる。アルミニウム合金板200の温度は金型100に接触することによって低下し、温度差がアルミニウム合金板200にテンション(張り)を与えて平坦度の向上に寄与する。下死点での温度は低いほどよい。一方、熱収縮はアルミニウム合金板200がポンチ113側に張り付き、離型を困難にさせる。よって、アルミニウム合金板200の到達温度を適正化してテンションを低減することが好ましい。また、アルミニウム合金板200の熱収縮対策でも離型の難しい形状が存在する場合、例えば、金型100の凸側であるポンチ113側に数度(例えば、0~5度)の逃げ角を付与すると共に、加工時の変形抵抗の低減化が有効である。変形抵抗は、焼き付きである。変形抵抗は、金型100へのメッキ(例えば、ニッケルメッキ、クロムメッキ)加工、水溶性クーラント(潤滑剤)の塗布を適宜組み合わせることで、低減される。潤滑剤として、周知の離型剤が使用され得る。金型100へのメッキは、金型100とアルミニウム合金板200との間の摩擦係数を低減させることができる。
【0029】
冷却後、金型100からアルミニウム合金板200を取り出し、自然時効(室温(25℃程度)に放置)または人工時効処理(加熱)を行うことで、アルミニウム合金板200は高強度化する。例えば、100℃以上200℃未満で加熱する人工時効処理を行うと、より高い強度が得られる。また、人工時効処理は、上記のS101からS105のアルミニウム合金板200に対するプレス加工後の他の処理の後に行われてもよい。
【0030】
(実施例)
図5は、実施例で使用する模擬金型900の下型の例を示す図である。模擬金型900は、金型100を模擬した金型である。ここで、
図5は、模擬金型900の下型を上方から見ている図である。
図5の左から右への方向をx方向、下から上への方向をy方向、紙面の表面から裏面への方向(模擬金型900の下から上への方向)をz方向とする。模擬金型900は、上型及び下型を含む。上型及び下型の外形は、幅200mm(x方向)、奥行200mm(y方向)、高さ50mm(z方向)の直方体である。模擬金型900の下型は、冷却用水路930、第1熱電対設置孔941、第2熱電対設置孔942、凹部950を含む。冷却用水路930は、第1部分931、第2部分932、第3部分933を有する。凹部950は、模擬金型900の上面の中央に設けられる。凹部950の形状は、幅50mm(x方向)、奥行50mm(y方向)、深さ10mm(z方向)の直方体である。
図5の模擬金型900の下型の下側を正面、右側を右側面、左側を左側面、上側を裏面とする。また、模擬金型900の下型の上側を上面、下側を下面とする。
【0031】
模擬金型900の下型の右側面に、冷却用水路930の流入口および流出口が設けられる。流入口、流出口は、例えば、円形である。流入口の中心は、例えば、正面から37.5mm、上面から25mmの位置である。流出口の中心は、例えば、裏面から37.5mm、上面から25mmの位置である。冷却用水路930の第1部分931は、流入口からx方向に平行に伸びる円筒形の水路である。第1部分931の長さは、例えば、162.5mmである。冷却用水路930の第2部分932は、第2部分931の流入口側の端とは反対側の端に接続され、y方向に平行に伸びる円筒形の水路である。第2部分932の長さは、例えば、125mmである。冷却用水路930の第3部分933は、第2部分932の第1部分931と接続する端とは反対側の端に接続され、x方向に平行に流出口まで伸びる円筒形の水路である。第3部分933の長さは、例えば、162.5mmである。冷却用水路930の流入口、流出口には、例えば、ホースやパイプなどが接続される。冷却用水路930の直径は、例えば、10mmである。
【0032】
第1熱電対設置孔941は、模擬金型900の下型の右側面に設けられる熱電対挿入口から、x方向に平行に伸びる円筒形の孔である。熱電対挿入口の中心は、例えば、正面から100mm、上面から10mmの位置である。第2熱電対設置孔941は、下型の中央付近まで伸びる。第1熱電対設置孔941の長さは、例えば、70mmである。第2熱電
対設置孔942は、模擬金型900の下型の右側面に設けられる熱電対挿入口から、x方向に平行に伸びる円筒形の孔である。熱電対挿入口の中心は、例えば、正面から58.75mm、上面から10mmの位置である。第2熱電対設置孔942は、下型の中央付近まで伸びる。第2熱電対設置孔941の長さは、例えば、100mmである。第1熱電対設置孔941、第2熱電対設置孔942の直径は、例えば、5mmである。第1熱電対設置孔941、第2熱電対設置孔942には、熱電対が熱電対挿入口から挿入される。熱電対の測温接点(温度を計測する部分)は、それぞれ、第1熱電対設置孔941内、第2熱電対設置孔942内で、模擬金型900の中央付近に配置される。第1熱電対設置孔941、第2熱電対設置孔942に挿入された熱電対により、金型900の温度を測定することができる。模擬金型900は金属であり熱伝導率が高いため、熱電対で測定される模擬金型900の内部温度は、模擬金型900の表面温度(模擬金型900の温度)とみなしてよい。以下に示す測定例において、模擬金型900の温度は、第1熱電対設置孔941に挿入された熱電対の温度、第2熱電対設置孔942に挿入された熱電対の温度は、2つの熱電対で測定された温度の平均である。なお、以下に示す測定例において、第1熱電対設置孔941に挿入された熱電対の温度、第2熱電対設置孔942に挿入された熱電対の温度は、ほぼ同じであった。
【0033】
〈測定例1〉
模擬金型900を用いた際の温度の測定例1を示す。測定例1では、5052合金(Al-2.5%Mg-0.2%Cr)の150mm角、2mm厚の圧延材(アルミニウム合金板)を、500℃に加熱する。加熱されたアルミニウム合金板を、模擬金型900の下型の中央にセットし、その上に、模擬金型900の上型を載置する。すなわち、模擬金型900の下型と上型との間に、アルミニウム合金板が挟まれる(挿入される)。模擬金型900の冷却用水路930には、0L/分から15L/分の冷媒としての水を供給することができる。模擬金型900の材料は、アルミニウム合金または工具鋼材である。ここでは、プレス加工を想定して、模擬金型900の下型と上型の間にアルミニウム合金板をはさむこと(挿入すること)、模擬金型900の下型と上型の間からアルミニウム合金板を取り出すことを繰り返す。アルミニウム合金板は、1枚ずつ、挿入され、取り出される。ここでは、1枚のアルミニウム合金板当たり4回のプレス、1回当たり下死点保持時間5秒を想定して、下死点保持時間20秒(アルミニウム合金板をはさむ時間)である。なお、炉温安定化のため1枚のアルミニウム合金板当たりの作業時間(炉からの取出し時間間隔)を60秒として、模擬金型900の温度、取り出し後のアルミニウム合金板の温度を測定する。模擬金型900の温度は、第1熱電対設置孔941、第2熱電対設置孔942に挿入された熱電対によって測定される。初期状態(測定前)では、模擬金型900の温度は、常温(25℃程度)である。
【0034】
最初に、水冷をしない(冷却用水路930に冷媒を流さない;0L/分)場合について説明する。水冷をしない場合、模擬金型900の温度は徐々に上昇する。模擬金型900がアルミニウム合金である場合、アルミニウム合金板を30枚挿入した後から、模擬金型900の温度上昇率が高くなり、アルミニウム合金板を140枚挿入した後から、模擬金型900の温度は250℃程度で安定する。アルミニウム合金板を140枚挿入した後の、模擬金型900の温度の温度幅は20℃から30℃程度である。模擬金型900が工具鋼材である場合、アルミニウム合金板を140枚挿入した後から、模擬金型900の温度は230℃程度で安定する。アルミニウム合金板を140枚挿入した後の、模擬金型900の温度の温度幅は20℃から30℃程度である。工具鋼材よりもアルミニウム合金の方が安定する温度が高いのは、工具鋼材よりもアルミニウム合金の方が、熱伝導率が高いからである。
【0035】
次に、水冷をする(冷却用水路930に冷媒を流す)場合について説明する。ここでは、流す冷媒の水量を2L/分、5L/分、10L/分、15L/分とする。模擬金型90
0がアルミニウム合金である場合、10L/分、15L/分では、十分な冷却効果があり、アルミニウム合金板を20枚挿入した後から、模擬金型900の温度は30℃程度で安定する。また、2L/分では、冷却が不十分であり、模擬金型900の温度は緩やかに上昇する。また、5L/分では、模擬金型900の温度は30℃程度で安定する。模擬金型900が工具鋼材である場合、10L/分、15L/分では、十分な冷却効果があり、アルミニウム合金板を20枚挿入した後から、模擬金型900の温度は60℃程度で安定する。ただし、模擬金型900の温度の温度幅は、アルミニウム合金に比べて大きい。なお、10L/分と15L/分とでは、冷却効果に差が見られない。また、2L/分では、冷却が不十分であり、模擬金型900の温度は緩やかに上昇する。また、5L/分では、模擬金型900の温度は60℃程度で安定する。よって、模擬金型900がアルミニウム合金であっても工具鋼材であっても、3L/分以上10L/分未満とするのが適正である。
【0036】
なお、模擬金型900から取り出されたアルミニウム合金板の温度は、模擬金型900がアルミニウム合金である場合、70℃-150℃、模擬金型900が工具鋼材である場合、100℃-190℃であった。模擬金型900から取り出されたアルミニウム合金板の温度は、アルミニウム合金板の厚さにも影響される。また、ここでのアルミニウム合金板の温度は、プレス加工の加工加熱による温度上昇分は含まれない。実際のプレス加工の加工加熱による温度上昇分は、数十℃であると予想される。よって、プレス加工後のアルミニウム合金板の温度を200℃未満とするためには、金型をアルミニウム合金とし、3L/分以上10L/分未満の水量で冷却することが好ましい。
【0037】
〈測定例2〉
模擬金型900を用いた際の温度の測定例2を示す。測定例2では、5052合金(Al-2.5%Mg-0.2%Cr)の150mm角、2mm厚及び4mm厚の圧延材(アルミニウム合金板)を、500℃に加熱する。5052合金は、6000系アルミニウム合金と、同等の熱伝導率を有する。よって、ここでの結果は、6000系アルミニウム合金にも適用され得る。加熱されたアルミニウム合金板を、模擬金型900の下型の中央にセットし、その上に、模擬金型900の上型を載置する。すなわち、模擬金型900の下型と上型との間に、アルミニウム合金板が挟まれる(挿入される)。ここでは、模擬金型900の冷却用水路930には、5L/分の冷媒としての水を供給する。また、アルミニウム合金板を挿入する前に、模擬金型900の上型及び下型に、それぞれ、アルミニウム合金板の面積100cm2当たり0mg、20mg、500mg、5000mgのミストをスプレー噴霧器により噴霧する(ミスト冷却)。噴霧量0mgは、ミストの噴霧を行っていない。ここでは、ミストとして水を使用する。
【0038】
ミスト冷却を使用することで、アルミニウム合金板を直接水冷する場合に比べて、作業環境複雑化、金型複雑化、加工速度低下を抑制することができる。特に、6000系アルミニウム合金の焼き入れ(溶体化処理)には有効である。
【0039】
図6は、測定例2の測定結果を示す図である。ここで、試験材#1は2mm厚の5052合金であり、試験材#2は4mm厚の5052合金である。アルミニウム合金板を取り出すごとに、アルミニウム合金板の面積100cm
2当たり0mg、20mg、500mg、5000mgのミストをスプレー噴霧器で模擬金型900の上型及び下型に噴霧した。試験材の数は、それぞれ、30枚である。
図6の表に示される温度は、取り出し後のアルミニウム合金板(試験材)の温度である。アルミニウム合金板の温度は、挿入、取り出しを繰り返すにつれて、徐々に上昇した。試験材#1では、ミスト噴霧をしない場合(0mg/100cm
2)、アルミニウム合金板の温度は70℃から140℃である。20mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は60℃から110℃である。500mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は50℃から90℃である。5000mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は40℃から70℃である
。試験材#2では、ミスト噴霧をしない場合(0mg/100cm
2)、アルミニウム合金板の温度は80℃から150℃である。20mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は70℃から120℃である。500mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は60℃から100℃である。5000mg/100cm
2の場合、アルミニウム合金板の温度は50℃から80℃である。試験材の厚さが熱いほど、アルミニウム合金板の温度は高くなる。また、ミスト噴霧の量が多いほど、アルミニウム合金板の温度は低くなる。ここでのアルミニウム合金板の温度は、プレス加工の加工加熱による温度上昇分は含まれない。ここでは、実際のプレス加工の加工加熱による温度上昇分は、70℃であると仮定する。よって、プレス加工後のアルミニウム合金板の温度を200℃未満とするためには、ここでは、アルミニウム合金板の温度が130℃超であるものを評価「不良」とする。よって、0mg/100cm
2は、評価「不良」となる。また、5000mg/100cm
2は、冷却効果はあるがミスト噴霧量が多すぎて金型周辺の水飛び不具合の原因となる。よって、5000mg/100cm
2は、評価「不良」とする。よって、20mg/100cm
2、500mg/100cm
2が評価「良」となる。従って、ミスト噴霧の量は、金型の上型及び下型のそれぞれに、10mg/100cm
2以上2000mg/100cm
2未満が適切である。
【0040】
(実施形態の作用、効果)
本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法は、アルミニウム合金板200を、300℃以上580℃未満の到達温度で10分未満の保持時間、加熱炉で加熱する。金型100は、冷却用水路150に流される冷媒により冷却される。また、金型100は、ミスト噴霧により、冷却される。加熱されたアルミニウム合金板200は、加熱炉から取り出されて、金型100にセットされ、プレス加工される。プレス加工の際、アルミニウム合金板200は、金型100の下死点で200℃以下に冷却される。本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法によれば、アルミニウム合金の成形性を向上させ、これまで困難であった形状を可能とし、金型の工程数を減少させることができる。金型100を冷却することで、金型100の温度を100℃未満にすることができる。金型100を冷却することで、加工対象のアルミニウム合金板200を冷却することができる。また、アルミニウム合金板200を金型100の下死点で200℃以下に冷却することで、形状凍結性、平坦度に優れた成形品を生成することができる。冷却用水路による冷却、ミスト噴霧により、プレス加工後のアルミニウム合金板の直接水冷を省略することができる。直接水冷を行わないことで、プレス速度の低下、金型形状の複雑化、加工工程の複雑化を抑制できる。これにより、プレス加工工程の生産性、簡易性を向上させることができる。本実施形態のアルミニウム合金板に対するホットスタンプ加工方法は、使用するアルミニウム合金によって、種々の優れる特性を提供し、例えば、自動車の車体軽量化、電動化に必要な冷却部材、センサー部品などに適用されうる。
【0041】
また、6000系アルミニウム合金に対するホットスタンプ加工方法は、成形性に優れる鋼板(例えば、SPCE)と同等以上の強度と成形性を実現し、さらに、通常の6000系アルミニウム合金板の冷間プレス加工では難しいとされる形状を実現可能とする。6000系アルミニウム合金に対するホットスタンプ加工方法は、ダイカストによる方法と比べて、寸法精度(平坦度)に優れる。また、6000系アルミニウム合金は、熱伝導率(150W/m・K以上)、耐食性ともにダイカストによる製品(例:ADC12;熱伝導率80W/m・K)より優れるため、冷却性能および水回りの耐食性を必要とする部品に適用できる。
【0042】
以上の各実施形態は、可能な限りこれらを組み合わせて実施され得る。
【符号の説明】
【0043】
100 金型
110 上型
111 上型ダイセット
112 上型シワ押さえ部
113 ポンチ
120 下型
121 下型シワ押さえ部
122 下型ダイセット
130 冷却用水路
140 熱電対設置孔
150 冷却用水路
151 第1部分
152 第2部分
153 第3部分
160 熱電対設置孔
200 アルミニウム合金板
310 熱電対
320 熱電対
900 模擬金型
930 冷却用水路
931 第1部分
932 第2部分
933 第3部分
941 第1熱電対設置孔
942 第2熱電対設置孔
960 熱電対設置孔