(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148962
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/956 20170101AFI20231005BHJP
【FI】
C01B32/956
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057262
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】大津 平
(72)【発明者】
【氏名】牛田 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未那
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146MA14
4G146MB02
4G146MB17A
4G146MB17B
4G146MB18A
4G146MB18B
4G146MB20A
4G146MB20B
4G146MB26
4G146MB30
4G146NA04
4G146NA25
4G146PA03
4G146PA06
4G146PA08
4G146PA10
4G146PA13
4G146PA18
(57)【要約】
【課題】α-SiCの二次粒子からなり、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として好適に用いられる炭化ケイ素粒子を提供する。
【解決手段】本発明の炭化ケイ素粒子は、α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.18m
2/g以上、ゆるみ嵩密度が0.7g/cm
3以下、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm
3/g以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.18m2/g以上、ゆるみ嵩密度が0.7g/cm3以下、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm3/g以上である、炭化ケイ素粒子。
【請求項2】
D50%粒子径が10μm以上100μm以下である請求項1記載の炭化ケイ素粒子。
【請求項3】
造孔材を用い、焼結助剤およびバインダを用いずに、α-SiCの一次粒子の造粒を行って造粒物を得、得られた造粒物を焼結することで、請求項1または2記載の炭化ケイ素粒子を製造する炭化ケイ素粒子の製造方法。
【請求項4】
前記一次粒子のD50%粒子径は0.05μm以上1.0μm以下であり、
前記造粒を、前記一次粒子と前記造孔材とからなり、前記造孔材の含有率が30体積%以上である原料を用いて行う請求項3記載の炭化ケイ素粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素粒子は、耐熱性、耐薬品性に優れるため、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として適している。しかし、これらの用途で望まれている「嵩密度が低く、特定の細孔径を有する炭化ケイ素粒子」従来品は存在しない。
特許文献1には、焼結助剤およびバインダを用いず炭化ケイ素粉末(一次粒子径D50:0.26μm)のみを焼結することで得られた二次粒子は、D50が43.2μmであり、比表面積は0.98m2/gであったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2020/194974号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、α-SiCの二次粒子からなり、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として好適に用いられる炭化ケイ素粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.18m2/g以上、ゆるみ嵩密度が0.7g/cm3以下、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm3/g以上である炭化ケイ素粒子を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、α-SiCの二次粒子からなり、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として好適に用いられる炭化ケイ素粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例及び比較例の炭化ケイ素粒子の差分細孔容積分布を示すグラフである。
【
図2】実施例1および2と比較例1の炭化ケイ素粒子の表面のSEM画像である。
【
図3】比較例2および3の炭化ケイ素粒子の表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
【0009】
〔構成〕
本実施形態の炭化ケイ素粒子は、α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.18m2/g以上、ゆるみ嵩密度が0.7g/cm3以下、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm3/g以上である。
【0010】
本実施形態の炭化ケイ素粒子において、比表面積は1.18m2/g以上5.00m2/g以下であることが好ましい。比表面積が1.18m2/gより小さいと空隙が不十分となり、比表面積が5.00m2/g以下であると顆粒崩れ(二次粒子を形成している一次粒子の一部が崩れ落ちること)を抑制し易い。なお、一次粒子とは単一の粒子、二次粒子とは複数の一次粒子が凝集および結合した粒子をいう。また、比表面積は1.21m2/g以上4.00m2/g以下であることがより好ましく、1.24m2/g以上3.00m2/g以下であることが特に好ましい。
【0011】
本実施形態の炭化ケイ素粒子において、ゆるみ嵩密度は0.3g/cm3以上0.7g/cm3以下であることが好ましい。ゆるみ嵩密度が0.3g/cm3以上であると顆粒崩れを抑制し易く、0.7g/cm3を超えると空隙が不十分となる。また、ゆるみ嵩密度は0.3g/cm3以上0.65g/cm3以下であることがより好ましく、0.3g/cm3以上0.60g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0012】
本実施形態の炭化ケイ素粒子において、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積は、0.35cm3/g以上1.00cm3/g以下であることが好ましい。細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm3/g以上であることで空隙が十分となる。細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が1.00cm3/g以下であることで顆粒崩れを抑制し易い。また、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積は、0.40cm3/g以上0.90cm3/g以下であることがより好ましく、0.45cm3/g以上0.80cm3/g以下であることが特に好ましい。
【0013】
本実施形態の炭化ケイ素粒子は、D50%粒子径が10μm以上100μm以下であることが好ましい。D50%粒子径が10μm以上であることで、成形物を製造する際の流動性が良好になり易く、100μm以下であることで二次粒子同士の隙間が大きくなることを抑制できる。また、D50%粒子径は20μm以上80μm以下であることがより好ましく、30μm以上60μm以下であることが特に好ましい。
【0014】
本実施形態の炭化ケイ素粒子は、造孔材を用い、焼結助剤およびバインダを用いずに、粒度を最適化したα-SiCの一次粒子の造粒を行って造粒物を得、得られた造粒物を焼結することで製造することができる。より具体的には、D50%粒子径が0.05μm以上1.0μm以下であるα-SiC一次粒子と、造孔材とからなり、造孔材の含有率が30体積%以上である原料を用いて行うことが好ましい。
【0015】
上記製造方法で用いるα-SiCの一次粒子のD50%粒子径が0.05μm以上であることで、一次粒子間に好適に空隙を形成することができる。α-SiCの一次粒子のD50%粒子径が1.0μm以下であることで、一次粒子間に形成される空隙が大きくなり過ぎることを抑制でき、所望の細孔径を有する空隙を得ることができるとともに、一次粒子間の付着力が低下することを抑制できるため造孔材を良好に含有させることができる。また、上記製造方法で用いるα-SiCの一次粒子のD50%粒子径は、0.10μm以上0.80μm以下であることがより好ましく、0.20μm以上0.60μm以下であることが特に好ましい。
【0016】
上記製造方法で用いる原料における造孔材の含有率は30体積%以上75体積%以下であることが好ましい。上記造孔材の含有率が30体積%以上であると一次粒子間に形成される空隙が好適な大きさとなり、75体積%以下であると顆粒崩れを抑制し易い。また、上記造孔材の含有率は、35体積%以上70体積%以下であることがより好ましく、40体積%以上65体積%以下であることが特に好ましい。
【0017】
〔作用、効果〕
本実施形態の炭化ケイ素粒子は、α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.18m2/g以上と高く、ゆるみ嵩密度が0.7g/cm3以下と低く、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.35cm3/g以上であるという特定の細孔径を有する。よって、本実施形態の炭化ケイ素粒子は、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として好適に用いることができる。
【実施例0018】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
〔炭化ケイ素二次粒子の製造〕
<実施例1>
α-SiCの一次粒子としては、D50%粒子径が0.26μmであるもの(株式会社フジミインコーポレーテッド製)を用意した。このD50%粒子径は、マイクロトラックベル株式会社製のMT-3300にてレーザー回折散乱法で測定した値である。なお、D50%粒子径とは、粉末の体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算頻度が50%となる粒子径を意味する。
造孔材として、平均粒子径が3μmである架橋アクリル単分散粒子(綜研化学株式会社製)」を用意した。
【0019】
先ず、上記α-SiC一次粒子と造孔材を、造孔材の含有率が45体積%となるように混合して、原料粉末を得た。
次に、上記原料粉末を水等の溶媒に分散させてスラリーを得た。このスラリーをスプレードライヤに供給して造粒を行い、α-SiC一次粒子と造孔材との混合粉末からなる造粒物を得た。
次に、得られた造粒物を、富士電波工業株式会社製の抵抗加熱式焼結炉FVS-Rを用いて焼結し、焼結顆粒(二次粒子)を製造した。焼結炉の運転条件は、雰囲気アルゴン、焼結温度1850℃、焼結時間4時間である。
得られた焼結顆粒について、目開き32μm、75μmのふるい網を用いて、粒度調整を行った。このようにして実施例1の炭化ケイ素二次粒子を得た。
【0020】
<実施例2>
上記α-SiC一次粒子と造孔材を、造孔材の含有率が60体積%となるように混合して、原料粉末を得た。造孔材の含有率以外は、実施例1と同じ方法で実施例2の炭化ケイ素二次粒子を得た。
【0021】
<比較例1>
造孔材を用いず、上記α-SiC一次粒子のみを混合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で比較例1のα-SiC二次粒子を得た。
【0022】
<比較例2>
比較例2用のα-SiCの一次粒子として、D50%粒子径が6.9μmであるもの(株式会社フジミインコーポレーテッド製)を用意した。このD50%粒子径は、ベックマン・コールター株式会社製のマルチサイザーIIIにて電気抵抗法で測定した値である。
造孔材を用いず、上記α-SiC一次粒子と焼結助剤とバインダを混合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いてα-SiC一次粒子と焼結助剤とバインダとの混合粉末からなる造粒物を得たことと、焼結炉の運転温度を1900℃とした以外は、実施例1と同じ方法で焼結顆粒(二次粒子)を製造した。
焼結助剤としては、硝酸アルミニウム9水和物(Al(NO3)3・9H2O)を用いた。焼結助剤の添加量は、α-SiC一次粒子100質量部に対して30質量部以下とした。
バインダとしては、アルカリ水溶性ポリマーを用いた。バインダの添加量は、α-SiC一次粒子100質量部に対して2質量部以下とした。
得られた焼結顆粒について、目開き32μm、53μmのふるい網を用いて、粒度調整を行った。このようにして比較例2の炭化ケイ素二次粒子を得た。
【0023】
<比較例3>
造孔材を用いず、実施例1と同じα-SiC一次粒子と焼結助剤とを混合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いてα-SiC一次粒子と焼結助剤との混合粉末からなる造粒物を得たことと、焼結炉の運転温度を1800℃とした以外は、実施例1と同じ方法で焼結顆粒(二次粒子)を製造した。
焼結助剤は、比較例2と同じものを用い、α-SiC一次粒子に対する添加割合を比較例2と同じにした。
得られた焼結顆粒を、ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製の遠心粉砕機を用いて解砕した。遠心粉砕機の回転速度は14000rpmである。その後、目開き32μm、53μmのふるい網を用いて、粒度調整を行った。このようにして比較例3の炭化ケイ素二次粒子を得た。
【0024】
〔炭化ケイ素二次粒子の物性測定〕
<粒子径>
得られた各炭化ケイ素二次粒子の粒子径(D10%粒子径、D50%粒子径、D90%粒子径)を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定した。比較例3についてはD50%粒子径のみを測定した。なお、D10%は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径であり、D90%は、同じく90%となる粒子径である。
【0025】
<ゆるみ嵩密度>
得られた各炭化ケイ素二次粒子のゆるみ嵩密度を、筒井理化学器機械株式会社製の嵩重測定器、JIS K-5101を用いて測定した。測定容器に粉末を自然落下させ、容器に満杯になるまで粉末を投入し、容器上端からはみ出た分の粉末を板ですり落とした後、粉末質量を測定し、質量の測定値を容器体積で除してゆるみ嵩密度を算出した。
【0026】
<比表面積>
得られた各炭化ケイ素二次粒子の比表面積を、株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置「Macsorb(登録商標)」を用いて測定した。
【0027】
<累積細孔容積>
得られた各炭化ケイ素二次粒子の差分細孔容積分布を、Quantachrome社製のPOREMASTER-60を用いて測定し、
図1に示すグラフを得た。また、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積(cm
3/g)を測定した。
【0028】
<SEM画像>
得られた各炭化ケイ素二次粒子の表面のSEM画像を、実施例1、2と比較例1については、1000倍、2000倍、3000倍、および10000倍の倍率で撮影し、比較例2、3については1000倍と2000倍の倍率で撮影した。その結果を
図2と
図3に示す。
【0029】
各炭化ケイ素二次粒子の製法および物性の測定結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1の結果から、「D50%粒子径が0.26μm(0.05μm以上1.0μm以下)であるα-SiC一次粒子と、平均粒径3μmの造孔材とからなり、焼結助剤およびバインダを含まず、造孔材の含有率が45体積%以上60体積%以下(30体積%以上)である原料」を用いて、α-SiC一次粒子の造粒および焼結を行うことで、「α-SiCの二次粒子からなり、比表面積が1.29m2/g(1.18m2/g以上)、ゆるみ嵩密度が0.34g/cm3以上0.51g/cm3以下(0.7g/cm3以下)、細孔径0.1μm以上5.0μm以下の累積細孔容積が0.48cm3/g以上0.59cm3/g以下(0.35cm3/g以上)であり、D50%粒子径が44.04μm以上45.83μm以下(10μm以上100μm以下)である炭化ケイ素粒子」、つまり、実施例1および2の炭化ケイ素粒子が得られることが分かる。
【0032】
また、
図2のSEM画像から、実施例1および2の炭化ケイ素粒子では、一次粒子同士の隙間による細孔に加え、造孔材によって形成された細孔も存在しており、嵩密度が低いものとなっていることが分かる。これに対して、比較例1の炭化ケイ素粒子は、実施例1および2の炭化ケイ素粒子よりも嵩密度が高いものとなっていることが分かる。また、
図3のSEM画像から、比較例2および3の炭化ケイ素粒子も、実施例1および2の炭化ケイ素粒子よりも嵩密度が高いものとなっていることが分かる。
【0033】
そして、実施例1および2の炭化ケイ素粒子は上記物性を有することにより、過酷環境下で使用される「特定サイズの固体物質を除去するためのフィルター」や「軽量部材」の材料として好適に用いることができる。
また、実施例1および2の炭化ケイ素粒子は、焼結助剤およびバインダを含まないものであるため、α-SiCの純度が高く、不純物の混入が問題となる用途にも好適に使用できる。