(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149004
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20231005BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20231005BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20231005BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
B32B7/027
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057315
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】蔵谷 祥太
【テーマコード(参考)】
4F100
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F100BA01
4F100BA05
4F100BA11
4F100CA23A
4F100EJ30
4F100GB41
4F100JJ01
4F100JJ01A
5E322AA01
5E322AB11
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA17
5F136FA18
5F136FA23
5F136FA52
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】厚み方向の熱伝導性を良好に発揮しつつ、機械化されたラインにおける取り扱い性を備える熱伝導シートを提供する。
【解決手段】複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、前記熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含み、且つ平坦部面積率が70%以上であり、そして少なくとも一方の主面において、前記主面の平面視面積225cm
2当たりに付着したサイズが0.04mm
2以上4.0mm
2以下である切粉の個数が1.0個以上20.0個以下である、熱伝導シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含み、且つ平坦部面積率が70%以上であり、そして
少なくとも一方の主面において、前記主面の平面視面積225cm2当たりに付着したサイズが0.04mm2以上4.0mm2以下である切粉の個数が1.0個以上20.0個以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性充填材の体積分率が30体積%以上45体積%以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性充填材の体積平均粒子径が150μm以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
樹脂と熱伝導性充填材とを含有する一次シートの積層体を、スライス機構を用いて前記積層体の積層方向に平行な面でスライスすることで、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートを得る工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、
前記スライス機構は、
スライド面を有する支持台、
逃げ面と、すくい面と、前記逃げ面とすくい面との交差角部よりなる刃先とを有し、前記刃先が前記スライド面から突出するように配置された刃、
前記刃先との接触により前記積層体から切り出されたスライス片が通過可能であり、且つ前記すくい面に沿って前記支持台に形成された間隙、及び
前記すくい面に対して略垂直となるよう配置され、且つ前記間隙を通過した前記スライス片を受け取り可能に設けられた滑り板を備え、
前記スライスを、前記積層体の積層方向側面を前記スライド面に押圧しながら、前記積層体の積層方向端面が主スライス面となるようにスライドさせ前記刃と接触させることで行い、前記積層体から切り出されたスライス片を前記滑り板に沿って滑動させて回収し、そして
前記スライスに際して、前記積層体及び前記スライス機構を前記スライド面側から平面視した場合に、前記積層体の積層方向から前記刃の前記刃先の延在方向までの角度αと、前記積層体の積層方向から前記滑り板の延在方向までの角度βとの差の絶対値が0°以上15°以下である、熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記角度αが60°以上75°以下である、請求項4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記滑り板は、前記積層体から切り出された前記スライス片と接する表面の静摩擦係数が0.4以下である、請求項4又は5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及び熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導率が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介在させた状態で発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
従って、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用される熱伝導シートには、厚み方向に優れた熱伝導性を発揮することが求められている。
【0005】
例えば特許文献1及び2では、樹脂と熱伝導性充填材を含有する一次シートの積層体を、積層方向に平行な面でスライスすることにより熱伝導シートを作製している。このようにして得られた熱伝導シートは、複数の条片が並列接合した構造を有し、そして熱伝導性充填材が厚み方向に配向しているため、厚み方向に良好な熱伝導性を発揮しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-5594号公報
【特許文献2】特開2018-89733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで近年、熱伝導シートの製造及び検査を行うラインの機械化が進んでいる。例えば、熱伝導シートの搬送には、複数の吸引孔による吸引力で被搬送体を吸着させるピックアップアームが用いられている。また熱伝導シートの外観検査では、ラインカメラにより撮像して得た被検査画像を用いた検査の自動化が進められている。
しかしながら、従来の熱伝導シートは、ピックアップアームによる搬送を行うと落下や剥がれが発生する場合があった。また従来の熱伝導シートは、ラインカメラによる撮像を行うとピント調整に時間を要することがあり、またピントが合わず外観検査に供し得る程度の明瞭性を有する被検査画像を取得できないことがあり、検査の効率が低下する場合があった。
すなわち、従来の熱伝導シートには、厚み方向に熱伝導性を良好に発揮しつつ、機械化されたラインにおける取り扱い性を備えることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった。ここで、本発明者は、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートの製造時に生じ得る切粉、及び熱伝導シートの形状に着目した。そして、本発明者は、熱伝導シート主面の所定面積当たりの切粉の数を所定範囲内とし、且つ熱伝導シートの平坦部面積率を所定の値以上とすれば、熱伝導シートが厚み方向の熱伝導性(以下、「熱伝導性」と略記する場合がある。)を良好に発揮しつつ、機械化されたラインにおける取り扱い性を備えること、そして所定の製造方法を用いれば、上述した熱伝導シートを効率良く製造可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、前記熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含み、且つ平坦部面積率が70%以上であり、そして少なくとも一方の主面において、前記主面の平面視面積225cm2当たりに付着したサイズが0.04mm2以上4.0mm2以下である切粉の個数が1.0個以上20.0個以下であることを特徴とする。このような性状を有する熱伝導シートは、厚み方向に優れた熱伝導性を発揮することができる。また当該熱伝導シートは、機械化されたラインにおける取り扱い性に優れる。具体的に、当該熱伝導シートは、ピックアップアームによる搬送を行う際の落下や剥がれが十分抑制され、またラインカメラによる撮像の際に迅速にピント調整が実行され、外観検査を効率良く進めることができる。
【0010】
本明細書において、「平坦部面積率」とは、熱伝導シートの平坦部面積が、熱伝導シート主面(一方の主面)の面積に占める割合であり、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
本明細書において、熱伝導シートの「主面」とは、熱伝導シートにおける最大面積を有する面及び当該面に対向する面を意味し、通常、二つの主面の面積は実質的に同等である。
本明細書において、「切粉」とは、熱伝導シートに含まれる成分のうちの少なくとも一種からなる微小な物体である。例えば、切粉は、樹脂及び/又は熱伝導性充填材を含有する。本発明の一実施形態において、切粉は、樹脂及び/又は熱伝導性充填材のみから構成される。なお切粉は、樹脂と熱伝導性充填材とを含有する一次シートの積層体をスライスして熱伝導シートを製造する際に生じるものであるが、熱伝導シートの主面に付着し、且つ上記のように熱伝導シートに含まれる成分のうちの少なくとも一種からなる微小な物体であれば、これに限定されない。
本明細書において、熱伝導シートの「主面の平面視面積225cm2当たりに付着したサイズが0.04mm2以上4.0mm2である切粉の個数」(以下、「所定面積当たりの切粉数」と略記する場合がある。)は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
本明細書において、切粉の「サイズ」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
本発明の熱伝導シートは、前記熱伝導性充填材の体積分率が30体積%以上45体積%以下であることが好ましい。熱伝導性充填材の体積分率が上述した範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導率、及び機械化されたラインにおける取り扱い性を更に向上させることができる。
本明細書において「熱伝導性充填材の体積分率」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0012】
本発明の熱伝導シートは、前記熱伝導性充填材の体積平均粒子径が150μm以下であることが好ましい。熱伝導充填材の体積平均粒子径が上述した値以下であれば、熱伝導シートの熱伝導率を更に向上させることができる。
本明細書において「熱伝導性充填材の体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を意味する。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と熱伝導性充填材とを含有する一次シートの積層体を、スライス機構を用いて前記積層体の積層方向に平行な面でスライスすることで、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートを得る工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、前記スライス機構は、スライド面を有する支持台、逃げ面と、すくい面と、前記逃げ面とすくい面との交差角部よりなる刃先とを有し、前記刃先が前記スライド面から突出するように配置された刃、前記刃先との接触により前記積層体から切り出されたスライス片が通過可能であり、且つ前記すくい面に沿って前記支持台に形成された間隙、及び前記すくい面に対して略垂直となるよう配置され、且つ前記間隙を通過した前記スライス片を受け取り可能に設けられた滑り板を備え、前記スライスを、前記積層体の積層方向側面を前記スライド面に押圧しながら、前記積層体の積層方向端面が主スライス面となるようにスライドさせ前記刃と接触させることで行い、前記積層体から切り出されたスライス片を前記滑り板に沿って滑動させて回収し、そして前記スライスに際して、前記積層体及び前記スライス機構を前記スライド面側から平面視した場合に、前記積層体の積層方向から前記刃の前記刃先の延在方向までの角度αと、前記積層体の積層方向から前記滑り板の延在方向までの角度βとの差の絶対値が0°以上15°以下であることを特徴とする。本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、厚み方向の熱伝導性を良好に発揮しつつ、機械化されたラインにおける取り扱い性を備える熱伝導シートを効率良く製造することができる。
【0014】
本明細書において刃の「逃げ面」とは、その一部をスライスにより切り出された積層体が進行する側の面を意味し、刃の「すくい面」とは、スライスにより積層体から切り出された部分(スライス片)が進行する側の面を意味する。
本明細書において「略垂直」とは、一方と他方とがなす角度が90±20°の範囲内に入ることを意味する。
本明細書において積層体の「積層方向端面」とは、複数の一次シートが積層してなる直方体形状の積層体において、積層方向の端に位置する天面及び底面(又はそれらの一方)を意味し、同「積層方向側面」とは、積層方向端面以外の四つの面(又はそれらの何れか)を意味する。
本明細書において積層体の「主スライス面」とは、積層体のスライスが開始する時に刃先と接触する面のうち、一回のスライスが終了するまでに接触する刃先の延在方向長さが最も長い面を意味する。
本明細書において、「積層体の積層方向から刃の刃先の延在方向までの角度α」とは、スライスに際して、積層体及びスライス機構をスライド面の垂直上方から平面視した場合に、積層体の積層方向と平行な直線(積層方向直線)と、刃先の延在方向に延びる直線(刃先直線)とが交差する点を中心として、積層方向直線を刃先直線と重なるまで回転させた際の回転角度であり、0°≦α≦90°の範囲をとりうる。なお、二つの直線が平行である場合はα=0°とし、二つの直線が垂直である場合はα=90°となる。
本明細書において、「積層体の積層方向から滑り板の延在方向までの角度β」とは、スライスに際して、積層体及びスライス機構をスライド面の垂直上方から平面視した場合に、積層体の積層方向と平行な直線(積層方向直線)と、滑り板の延在方向に延びる直線(滑り板直線)とが交差する点を中心として、積層方向直線を滑り板直線と重なるまで、上記角度αと同じ方向に回転させた際の回転角度であり、0°≦β<180°の範囲をとりうる。なお、二つの直線が平行である場合はβ=0°とし、二つの直線が垂直である場合はβ=90°となる。
本明細書において、「積層体の積層方向から刃の刃先の延在方向までの角度αと、積層体の積層方向から滑り板の延在方向までの角度βとの差の絶対値」を、「|α-β|」と略記する場合がある。
なお「直方体」は、長方形及び/又は正方形の六面を有する立体形状であるが、本明細書においては、「直方体」は全体のシルエットが直方体の形状であればよく、角が丸みを帯びているようなものも含まれる。
【0015】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記角度αが60°以上75°以下であることが好ましい。角度αが60°以上75°以下であれば、スライスによる切粉の発生量を十分に低減させ、また熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができる。
【0016】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記滑り板は、前記積層体から切り出された前記スライス片と接する表面の静摩擦係数が0.4以下であることが好ましい。滑り板の表面の静摩擦係数が0.4以下であれば、積層体から切り出されたスライス片を滑り板に沿って良好に滑動させることができる。
本明細書において、「静摩擦係数」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、厚み方向の熱伝導性を良好に発揮することができ、且つ機械化されたラインにおける取り扱い性を備える熱伝導シート、及び当該熱伝導シートを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に従う熱伝導シートの一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明に従う熱伝導シートの製造方法により積層体をスライスする際の積層体と刃との位置関係の一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明に従う熱伝導シートの製造方法の一例を用いて熱伝導シートを製造する過程を示す説明図(側面図)である。
【
図4】本発明に従う実施例の熱伝導シートの製造方法を用いて積層体をスライスする様子を示す平面図である。
【
図5】比較例の熱伝導シートの製造方法を用いて積層体をスライスする様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の熱伝導シートは、電子部品等の発熱体と、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体との間に挟み込んで使用されるものであり、例えば本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0020】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、複数の条片を並列接合してなる。例えば
図1の熱伝導シート1は、隣接する複数の条片2が互いの長手方向側面同士で接合して形成されている。
図1では、複数の条片2の幅が略等しい場合を示しているが、複数の条片2の幅は異なっていても良い。また複数の条片2は、同じ組成でもよいし、異なる組成でもよい。
そして、熱伝導シートを構成する複数の条片の合計数は、特に限定されず、例えば30本以上300本以下とすることができる。
【0021】
<熱伝導シートの組成>
熱伝導シートは、樹脂と、熱伝導性充填材とを含み、任意に添加剤を更に含み得る。
【0022】
<<樹脂>>
ここで、樹脂としては、常温常圧下で液体の樹脂と、常温常圧下で固体の樹脂との少なくとも一方を用いることができる。なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0023】
常温常圧下で液体の樹脂としては、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂及び常温常圧下で液体の熱硬化性樹脂が挙げられる。
そして、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
また、常温常圧下で液体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。
【0024】
また、常温常圧下で固体の樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂及び常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂が挙げられる。
そして、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。
また、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。
中でも、樹脂としては、常温常圧下で液体のフッ素樹脂と、常温常圧下で固体のフッ素樹脂とを用いることが好ましい。
なお、上述した樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<<熱伝導性充填材>>
熱伝導性充填材としては、特に限定されることなく、例えば、アルミナ粒子、酸化亜鉛粒子、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、酸化マグネシウム粒子及び粒子状炭素材料(例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛、カーボンブラック等)などの粒子状材料、並びに、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物などの繊維状材料が挙げられる。中でも、熱伝導性充填材としては、窒化ホウ素粒子、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張性黒鉛及び膨張化黒鉛等の鱗片状粒子材料;並びに、CNTなどの繊維状炭素ナノ材料;からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、鱗片状粒子材料を用いることがより好ましく、鱗片状黒鉛及び膨張化黒鉛等の異方性黒鉛を用いることが更に好ましく、膨張化黒鉛を用いることが特に好ましい。これらの熱伝導性充填材を用いれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に高めることができる。
なお、熱伝導性充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱伝導性充填材は、体積平均粒子径が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましく、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることが更に好ましい。熱伝導性充填材の体積平均粒子径が150μm以下であれば、積層体をスライスする際に生じる切粉のサイズが過度に大きくなることを抑制しうる。また、熱伝導性充填材の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができる。
【0027】
熱伝導シートにおける熱伝導性充填材の体積分率は、熱伝導シートの体積全体を100体積%として、30体積%以上であることが好ましく、35体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましく、45体積%以下であることが好ましく、43体積%以下であることがより好ましい。熱伝導シートに占める熱伝導性充填材の体積分率が30体積%以上であれば、積層体をスライスする際に生じる切粉のサイズが過度に大きくなることを抑制しうる。一方、熱伝導シートに占める熱伝導性充填材の体積分率が45体積%以下であれば、積層体をスライスする際に生じる切粉の発生量を低下させることができる。そして、熱伝導シートに占める熱伝導性充填材の体積分率が上述した範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができる。
【0028】
<<添加剤>>
熱伝導シートに任意に含有させ得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、難燃剤、可塑剤、靭性改良剤、吸湿剤、接着力向上剤、濡れ性向上剤、イオントラップ剤などが挙げられる。
なお、添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
<熱伝導シートの性状>
熱伝導シートは、上述した通り所定の値以上の平坦部面積率を有し、且つ所定面積当たりの切粉数が所定の範囲内であることが必要である。
【0030】
<<平坦部面積率>>
本発明の熱伝導シートは、平坦部面積率が70%以上であることが必要であり、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。平坦部面積率が70%未満であると、ピックアップアームによる搬送を行う際の落下や剥がれを抑制することができず、機械化されたラインにおける取り扱い性が損なわれる。平坦部面積率の上限値は、特に限定されず100%とすることができる。
なお、平坦部面積率は、熱伝導シートの製造条件を変更してカールを抑制する等して高めることができる。そしてカールが抑制された熱伝導シートの製造には、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法が好ましく用いられる。
【0031】
<<所定面積当たりの切粉数>>
本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面を観察した際に、平面視面積225cm2当たりに付着したサイズが0.04mm2以上4.0mm2以下である切粉の個数が、1.0個以上20.0個以下であることが必要であり、15.0個以下であることが好ましく、10.0個以下であることがより好ましく、8.0個以下であることが更に好ましい。
本発明者の検討によれば、熱伝導シートの主面に切粉が存在することで、ラインカメラによる撮像の際に切粉に焦点(ピント)が合いピント調整が効率良く行われることが明らかとなった。一方、熱伝導シートの主面の切粉の数が過大になると、熱伝導シートの厚みがばらつくためと推察されるが、厚み方向の熱伝導性が損なわれることも明らかとなった。すなわち、本発明の熱伝導シートは、所定面積当たりの切粉数が1.0個以上であることにより、ラインカメラによる撮像の際にピント調整を効率良く行うことができ、機械化されたラインにおける取り扱い性が確保される。一方、本発明の熱伝導シートは、所定面積当たりの切粉数が20.0個以下であることで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性が確保される。
なお、所定面積当たりの切粉数は、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いることで上述した所定の範囲内に効率良く制御することができる。また、積層体に含まれる熱伝導性充填材の体積分率(即ち、熱伝導シートに含まれる熱伝導性充填材の体積分率)を低下させたり、積層体に含まれる樹脂の体積分率(即ち、熱伝導シートに含まれる樹脂の体積分率)を上昇させたりすることで、所定面積当たりの切粉数を低減することができる。
【0032】
切粉は、繊維状、粉状又は小片状など任意の形状を有し得る。
そして本発明の熱伝導シートは、上述した所定面積当たりの切粉数を充足していれば特に限定されず、サイズが0.04mm2未満の切粉及び/又はサイズが4.0mm2超の切粉が主面に付着していてもよい。しかしながら、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させると共に、外観を良好とする観点から、サイズが0.04mm2未満の切粉、及びサイズが4.0mm2超の切粉は、何れの主面にも付着していないことが好ましい。換言すると、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させつつ外観を良好とする観点から、主面に付着した切粉は全て、サイズが0.04mm2以上4.0mm2以下の範囲内であることが好ましい。そして、主面に付着した切粉は全て、サイズが0.04mm2以上2.0mm2以下の範囲内であることが好ましく、0.04mm2以上0.8mm2以下の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
なお切粉のサイズは、例えば、積層体に含まれる熱伝導性充填材の体積分率(即ち、熱伝導シートに含まれる熱伝導性充填材の体積分率)を上昇させたり、積層体に含まれる樹脂の体積分率(即ち、熱伝導シートに含まれる樹脂の体積分率)を低下させたりすることで、小さくすることができる。また切粉のサイズは、例えば、積層体に含まれる熱伝導性充填材の体積平均粒子径(即ち、熱伝導シートに含まれる熱伝導性充填材の体積平均粒子径)を小さくすることで、小さくすることができる。
【0034】
なお、本発明の熱伝導シートは、双方の主面において上述した所定面積当たりの切粉数の条件が満たされていてもよく、一方の主面において上述した所定面積当たりの切粉数の条件が満たされており他方の主面において満たされていなくてもよい。そして熱伝導シート厚み方向の熱伝導性を更に向上させる観点からは、一方の主面において上述した所定面積当たりの切粉数の条件が満たされ、且つ他方の主面において所定面積当たりの切粉数は1.0個未満であることが好ましく、0個(検出不可)であることがより好ましい。
【0035】
<<その他の性状>>
熱伝導シートの平面視面積は特に限定されず、熱伝導シートの用途に応じて適宜調整することができる。
熱伝導シートは、平均厚みが1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましい。平均厚みが1000μm以下であれば、熱伝導シートの実装時のデバイス内における配置の自由度を高めることができる。また、平均厚みが20μm以上であれば、熱伝導シートの強度を十分に確保することができる。
【0036】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、少なくとも樹脂及び熱伝導性充填材を含み、そして複数の条片を並列接合してなる構造を有する熱伝導シートを製造する際に用いられる。中でも、本発明の熱伝導シートの製造方法は、上述した本発明の熱伝導シートを製造する際に好適に用いることができる。
【0037】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と熱伝導性充填材とを含有する一次シートの積層体を、スライス機構を用いて積層体の積層方向に平行な面でスライスすることで、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートを得る工程を含む。
【0038】
<積層体>
熱伝導シートの材料となる積層体は、樹脂と、熱伝導性充填材とを含有し、任意に添加剤を更に含有する一次シートを複数枚積層してなる。
なお、樹脂、熱伝導性充填材及び添加剤としては、上述した本発明の熱伝導シートと同様のものを用いることができ、その好適な態様についても上述した本発明の熱伝導シートと同様であるため、以下では説明を省略する。
【0039】
積層体は、上述した通り複数の一次シートが積層されてなる構造を有する。
図2の例では、積層体10は、積層方向Dの最端に位置する一次シートの主面である天面11及び底面12(積層方向端面)と、積層方向Dに積層された一次シートの側面で形成される4つの積層方向側面13~16との合計六面を有する。ここで、積層方向端面である天面11及び底面12は同等の面であり、且つ、各積層方向側面13~16はそれぞれ同等の面である。
なお
図2では、一例として、積層体が立方体である場合を例に挙げて説明しているが、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0040】
積層体は、樹脂と、熱伝導性充填材とを含有し、任意に添加剤を更に含有する樹脂組成物をシート状に成形して得た一次シートを積層、折畳又は捲回して得ることができる。
なお、一次シートを積層してなる積層体では、通常、一次シートの表面同士の接着力は、一次シートを積層する際の圧力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、一次シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層を行ってもよいし、一次シート表面に接着剤を塗布した状態又は一次シートの表面に接着層を設けた状態で積層を行ってもよいし、一次シートを積層させた積層体を積層方向に更にプレスしてもよい。
【0041】
<スライス機構>
スライス機構は、少なくとも、支持台と、支持台のスライド面から刃先が突出した刃と、刃のすくい面に沿って支持台に形成された間隙と、刃のすくい面に対して略垂直となり、且つ間隙を通過したスライス片を受け取り可能なように設けられた滑り板とを備えることを必要とする。
【0042】
スライス機構の一例は、例えば
図3(a)~(c)に示すように、スライド面21を有する支持台20と、すくい面31、逃げ面32、すくい面31及び逃げ面32の交差角部よりなる刃先を有する刃30と、すくい面に隣接して設けられた間隙40と、刃30のすくい面31に対して略垂直に配置され、スライスにより生じたスライス片60を受け取り可能な滑り板50とを備えている。
図3の例においては、刃30は支持台20に固定され、滑り板50は刃30を介して支持台20に固定される。
図3(b)に示すように、スライス時に積層体10から切り出されたスライス片60は、刃30のすくい面31側に設けられた間隙40を通過する。そして間隙40を通過したスライス片は、
図3(c)に示すように滑り板50に到達し、滑り板50の表面上を滑動して(滑り落ちて)、例えば予め準備しておいた回収部(図示せず)に受け渡される。
【0043】
ここで、滑り板は、積層体から切り出されたスライス片と接する表面の静摩擦係数が、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。静摩擦係数が0.4以下であれば、積層体から切り出されたスライス片を滑り板に沿って良好に滑動させることができる。
また滑り板の形状は、特に限定されないが、スライス機構のスライド面側から平面視した際に、長方形状であることが好ましく、刃のすくい面と平行方向に延びる辺が長辺となり、刃のすくい面と垂直方向に延びる片が短辺となる長方形であることがより好ましい。なお本明細書においては、「長方形」には角が丸みを帯びているようなものも含まれる。
【0044】
なお、スライス機構は、特許文献1(特開2021-5594号公報)に記載されたように、刃のすくい面に対向配置されたガイド部材、そして更には刃のすくい面に接しつつガイド部材に対向するように配置された補助ガイド部材を備えていてもよい。スライス機構がガイド部材を備えることにより、又はガイド部材及び補助ガイド部材を備えることにより、熱伝導シートのカールを抑えることができる。一方で、このような構成を採用すると、ガイド部材とすくい面(すくい面が補助ガイド部材を備えている場合は、ガイド部材と補助ガイド部材)の間の間隙にスライス片が詰まってしまい、熱伝導シートの歩留まりが低下するという問題が生じることが明らかとなった。よって、本発明の熱伝導シートの製造方法で用いるスライス機構は、歩留まりを向上させる観点から、上述したガイド部材及び補助ガイド部材の双方を有さないことが好ましい。加えて本発明の熱伝導シートの製造方法を用いれば、上述したガイド部材及び補助ガイド部材を用いずとも、カールが抑制され平坦部面積率が所定の値以上確保された熱伝導シートを効率良く製造することができる。
【0045】
<スライス>
本発明の熱伝導シートの製造方法においては、上述したスライス機構を用いてスライスを行うに際し、(積層方向側面でなく)積層方向端面が主スライス面となるように刃及び積層体の位置を調整することが必要である。
従来、支持台上で積層体と刃を接触させて熱伝導シートを得るに際しては、刃への衝撃を軽減することを目的として積層方向側面を主スライス面としていた。しかしながら本発明者らの検討によれば、積層方向側面を主スライス面とすると、積層方向端面に負荷がかかってしまい、切粉が過度に生じることが明らかとなった。
この点について、
図2を例に挙げて説明する。
図2において、積層方向Dと直交する方向に積層体10をスライドさせ、主スライス面を積層方向側面13としてスライスを実行したとする。かかる場合、主スライス面に隣接し且つ切り終わり側の面となる底面12(積層方向端面)に最も負荷がかかる。そして底面12では、積層方向Dと直交する方向に配向した熱伝導性充填材が重なりあった構造が形成されているためと推察されるが、ほつれが容易に生じうる。このほつれが積層方向側面16から切り出されたスライス片の上に多く落下し、切粉として多量に付着するため、上述した本発明の熱伝導シートにおける所定面積当たりの切粉数の上限値を上回ることになる。
一方、
図2において、積層方向Dに積層体10をスライドさせ、主スライス面を積層方向端面である天面11としてスライスを実行したとする。かかる場合、主スライス面に隣接し且つ切り終わり側の面となる積層方向側面13に最も負荷がかかる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、積層方向側面は積層方向端面に比して上記ほつれが生じ難く、スライス片の上に落下する切粉の数を大幅に低減できることが明らかとなった。
上記知見を踏まえ、本発明の熱伝導シートの製造方法では、積層方向端面が主スライス面となるように積層体のスライスを行うこととした。このスライス方法により、所定面積当たりの切粉数を上述した所定の範囲内に容易に制御することができる。
【0046】
またスライスに際しては、積層体及びスライス機構をスライド面側から平面視した場合に、積層体の積層方向から刃の前記刃先の延在方向までの角度αと、積層体の積層方向から滑り板の延在方向までの角度βとの差の絶対値(|α-β|)が、0°以上15°以下であることが必要である。
【0047】
|α-β|が0°以上15°以下であると、滑り板は、積層体と刃先とが接触するスライスにより生じたスライス片を、その変形を抑制しながら良好に受け取ることができ、熱伝導シートとして用いられるスライス片の平坦部面積率の低下を抑制することができる。|α-β|が15°を超えると、スライス片がその角で滑り板と接触する確率が上昇するためと推察されるが、スライス片として得られる越伝導シートのカールを抑制することができず平坦部面積率が低下する。
図4の(a)~(d)に、|α-β|が0°以上15°以下を満たす場合の例を記載する。
図4の(a)~(d)について、α及びβ、並びに|α-β|の値はそれぞれ以下の通りである。なお
図4及び5では、角度は必ずしも数値通りではなく、理解を容易するために表記した数値から適宜大小させている場合がある。
(a)α=65°、β=65°、|α-β|=0°
(b)α=65°、β=80°、|α-β|=15°
(c)α=65°、β=50°、|α-β|=15°
(d)α=70°、β=65°、|α-β|=5°
【0048】
なお
図5の(e)、(f)は、|α-β|が15°超となる場合の例である。
図5の(e)、(f)について、α及びβ、並びに|α-β|の値はそれぞれ以下の通りである。
(e)α=65°、β=115°、|α-β|=50°
(f)α=45°、β=65°、|α-β|=20°
【0049】
角度αは、60°以上であることが好ましく、62°以上であることがより好ましく、65°以上であることが更に好ましく、75°以下であることが好ましく、72°以下であることがより好ましく、70°以下であることが更に好ましい。角度αが上述した範囲内であれば、スライスによる切粉の発生量を十分に低減させ、また熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができる。
【0050】
角度βは、50°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましく、65°以上であることが更に好ましく、90°以下であることが好ましく、85°以下であることがより好ましく、80°以下であることが更に好ましい。角度βが上述した範囲内であれば、スライス片として得られる熱伝導シートのカールを十分に抑制して平坦部面積率を高めることができる。結果として、ピックアップアームによる搬送を行う際の落下や剥がれを十分に抑制し、機械化されたラインにおける取り扱い性を更に向上させることができる。
【0051】
積層体をスライスするに際し、積層体の積層方向側面をスライド面に押圧する際の圧力は、0.05MPa以上であることが好ましく、0.10MPa以上であることがより好ましく、0.20MPa以上であることが特に好ましく、0.50MPa以下であることが好ましく、0.40MPa以下であることがより好ましい。圧力が0.05MPa以上であれば、積層体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み精度を確保することができ、一方、圧力が0.50MPa以下であれば、積層体が潰れるのを抑制することができる。
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は、-20℃以上30℃以下とすることが好ましい。
【実施例0052】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、各種評価及び測定方法は以下のものを使用した
【0053】
<熱伝導性充填材の体積分率>
熱伝導シートにおける熱伝導性充填材の体積分率は、熱伝導性充填材の添加量及び比重、並びに、各樹脂の添加量及び比重を用いて算出した。
<平坦部面積率>
熱伝導シートを水平な台上に載値し、熱伝導シートを真上(熱伝導シート表面に対し90度の撮像角度)から3Dカメラ(Basler社製;型番「acA1600-60gm」;1600×1200pix)で撮像した。なお撮像に際しては、バー照明(CCS社製;型番「LDL2-275X」)×6本を用いて熱伝導シートに光を照射した。得られた熱伝導シートの画像について、熱伝導シートの高さを計測し、画像に歪みが発生している部分(即ち、カールやシワ等で熱伝導シートが台から浮いている部分)は除外して、平坦部を特定した。その後、画像処理(平滑処理、エッジ処理及び二値化処理)を行い、平坦部の中で最大面積がとれる矩形のうち最も短い辺の距離を平坦部短辺L(cm)、最も長い辺の距離を平坦部長辺W(cm)とし、熱伝導シートの主面の面積をS(cm2)として、以下の式で平坦部面積率を算出した。
平坦部面積率(%)=(L×W)/S×100
<切粉のサイズ特定、所定面積当たりの切粉数>
検査ステージ(200mm×200mmの透明アクリル板)の上に、熱伝導シート(150mm×150mm×0.1mm)を設置した。検査ステージ上の熱伝導シートの表面の垂線に対し40度(熱伝導シートの表面に対し50度)の照射角度から白色LEDバー照明(型番「LDL2-275X」CCS社製;色温度7,800K;消費電力27W)を照射し、真上から8KのモノクロCMOSラインカメラ(Basler社製;型番「raL8192-12gm」;8192px×1px)で撮像し、シート表面の8bitのモノクロ画像を得た。なお撮像は、照明及びカメラを熱伝導シートの表面に対し平行に走査しながら行った。
上述のようにして得られたモノクロ画像について、画像処理(平滑処理及びエッジ処理)を行った後、二値化処理することで異物存在箇所を特定し、異物存在箇所のみを切り抜いた異物画像を取得した。取得した異物画像から、目視により切粉の画像をピックアップし、画像の画素数と画像の分解能から切粉の長軸長l(mm)と短軸長s(mm)を測定し、切粉のサイズを以下の式で算出した。
切粉のサイズ(mm2)=l×s
そして、サイズが0.04mm2以上4.0mm2以下である切粉の個数N(単位:個)を数えた。そして熱伝導シートの主面の面積をS(cm2)とし、以下の式で所定面積当たりの切粉数を算出した。
所定面積当たりの切粉数(個/225cm2)=N/S×225
なお、上記のようにしてサイズを特定した切粉のサイズを元に、以下のようにランク付けした。
A:観測された切粉について、サイズが全て0.04mm2以上0.8mm2以下の範囲内
B:観測された切粉について、サイズが全て0.8mm2超2.0mm2以下の範囲内
C:観測された切粉について、サイズが全て2.0mm2超4.0mm2以下の範囲内
<厚み方向の熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び比重ρ(g/m3)を、それぞれ、以下の方法で測定した。
<<厚み方向の熱拡散率α>>
熱拡散率・熱伝導率測定装置(株式会社アイフェイズ製、製品名「アイフェイズ・モバイル 1u」)を使用して、ISO 22007-3の規定に基づき測定した。
<<定圧比熱Cp>>
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、25℃における比熱を測定した。
<<比重ρ(密度)>>
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、各測定値を、下記式:
λ=α×Cp×ρ
に代入し、25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。そして以下の基準で評価を行った。
A:熱伝導率λが30W/m・K以上
B:熱伝導率λが20W/m・K以上30W/m・K未満
C:熱伝導率λが20W/m・K未満
<平均厚み>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの中心および四隅の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値を求めた。
<歩留まり>
積層体の質量をM0(g)とし、当該一つの積層体から、間隙での詰まり等なく熱伝導シートとして得られたスライス片の合計質量をM1(g)として、下記式:
歩留まり=M1/M0×100
に代入し、歩留まり(質量%)を求めた。
<静摩擦係数>
静摩擦係数は、JIS K7312に準拠し、試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-IS20kN」)を用いて測定した。
具体的には、テーブルに固定した約120×120mmの試験片(滑り板)上に、総重量を200gに調整した移動重錘を載せ、100mm/分の速度で試験片に対して水平に重錘を引っ張ることで、重錘を引っ張る際の試験力(N)を測定した。得られた試験力(N)を下記式:
μs=As/B
に代入し、静摩擦係数を求めた。ここで上記式中、μsは静摩擦係数、Asは始動時の最大引張試験力(N)、Bは重錘による重力(N)である。
<機械化されたラインにおける取り扱い性>
<<ピント調整>>
スライス片として得られた熱伝導シートを、真上から8Kのラインカメラ(Basler社製;型番「rsL8192-12gm」)で撮像し、ピント調整に要した時間を計測した。そして以下の基準で評価した。なお熱伝導シートが、切粉が付着している主面を有する場合は、当該主面を撮像し、熱伝導シートに切粉が付着していない場合は任意に選択した一方の面を撮像した。
良好:ピント調整に要した時間が2秒以下
不良:ピント調整に要した時間が2秒超又はピント調整不可
<<ピックアップアームによる搬送>>
熱伝導シートの平坦部を、複数個所細孔の開いた幅100mmのピックアップアームで吸着し、50cmの距離を搬送した。同じ試験を10回繰り返し、搬送中にピックアップアームからの落下及び剥がれが何れも発生しなかた場合を成功とし、成功率(=成功回数/10×100%)を算出した。なお、熱伝導シートを吸着し持ち上げるまでの吸着待機時間は2秒、搬送速度は50cm/秒とした。成功率について、以下の基準で評価した。
A:成功率が100%
B:成功率が80%又は90%
C:成功率が80%未満
【0054】
(実施例1)
<積層体の製造>
樹脂としての常温常圧下で液体のフッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」、熱可塑性)70部及び常温常圧下で固体のフッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」、熱可塑性)30部、並びに、熱伝導性充填材としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。得られた解砕後の混合物を、離形処理を施した厚み100μmのPETフィルム(基材フィルム)と、基材フィルムとは異なる離形処理を施した厚み75μmのPETフィルム(カバーフィルム)のそれぞれを一対の圧延ロール表面にそれぞれ這わせた(密着させた)加熱ロール式ラミネート装置(ヒラノ技研工業株式会社製)に250g/分の供給速度で供給し、圧延ロールの間隙を通過させることで、厚み0.8mmの1次シートを得た。
なお、圧延の条件は、以下の通りである。
間隙幅:650μm
ロール温度:100℃
ロール線圧:0.35t(トン)/cm
ロール速度:1m/分
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度23℃、圧力0.2MPaで90分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの直方体状の積層体を得た。
<熱伝導シートの形成>
スライド面を有する支持台と、
図3に示した刃と同様の形状の刃を備える木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)に対して、
図3に示すように刃のすくい面に対して垂直となるように滑り板(平面視長方形状の板、静摩擦係数:0.1)を設置し、スライス機構とした。
上述のスライス機構に、上述の積層体を積層方向側面がスライド面と接するように載置した。そして、積層体を0.3MPaの圧力でスライド面に押圧しながら、積層体の積層方向端面が主スライス面となるようスライドさせて、積層方向に対して平行に(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線方向に)スライスした。そして、スライス片として縦150mm×横150mm×平均厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。なお、積層体の積層方向と刃の延在方向とのなす角度αは65°、積層体の積層方向と滑り板の延在方向とのなす角度βは65°とした。スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図4の(a)に示す。
図4中、Dは積層体10の積層方向に平行な直線、Eが刃先の延在方向に延びた直線、Fが滑り板の延在方向に延びた直線であり、積層体10の進行方向を矢印で示している。
そして、得られた熱伝導シートについて、各種評価を行った。結果を表1に示す。なお表1に掲載した「所定面積当たりの切粉数」を測定した主面と反対側の主面については、切粉は確認されなかった。以降の実施例及び比較例において同様である。
【0055】
(実施例2)
角度βを80°に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図4の(b)に示す。
【0056】
(実施例3)
角度βを50°に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図4の(c)に示す。
【0057】
(実施例4)
角度αを70°に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図4の(d)に示す。
【0058】
(実施例5)
実施例1で用いたスライス機構に、更にガイド部材(長さ:3.5cm、静摩擦係数:0.1)及び補助ガイド部材(静摩擦係数:0.1)を取り付け、スライス機構とした。なお、ガイド部材と補助ガイド部材の間隔は、0.5mmに調整した。ガイド部材及び補助ガイド部材の取り付けは、特許文献1(特開2021-5594号公報)の実施例1、及び当該文献の
図1の記載に従って行った。
上記で得られたスライス機構を用いた以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
スライド面を有する支持台と、
図3に示した刃と同様の形状の刃を備える木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)に対して、実施例5と同様にしてガイド部材及び補助ガイド部材を取り付け、スライス機構とした。滑り板は設置しなかった。
上記で得られたスライス機構を用い、且つ角度αを45°に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
角度βを115°に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図5の(e)に示す。
【0061】
(比較例3)
角度αを45°に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図5の(f)に示す。
【0062】
(比較例4)
積層方向側面が主スライス面となるよう積層体をスライドさせ、且つ角度αを45°に、角度βを55°にそれぞれ設定した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライド面の垂直上方から平面視した場合の積層体、刃(刃先)、及び滑り板の位置関係を
図5の(g)に示す。
【0063】
(比較例5)
実施例1と同様にして積層体を製造した。得られた積層体を、積層方向側面(
図2における15の面)が底になるように台上に立たせ、積層方向側面(
図2における16の面)全体を金属板で押さえ、上から(
図2における13の面側から)0.1MPaの圧力をかけて、積層体を固定した。なお、積層体のその他の面の固定は行わなかった。また積層体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、刃(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.全長:200mm)を取り付け、スライス速度:200mm/秒の条件で積層体の積層方向(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線に一致する方向)にスライスして、縦150mm×横150mm×平均厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
以下に示す表1中、
「ガイド部材等」は、ガイド部材及び補助ガイド部材を意味し、
「端面」は、積層体の積層方向端面を意味し、
「側面」は、積層体の積層方向側面を意味する。
【0065】
【0066】
表1より、実施例1~5の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導性に優れ、また機械化されたラインにおける取り扱い性を十分に備えることが分かる。
本発明によれば、厚み方向の熱伝導性を良好に発揮しつつ、機械化されたラインにおける取り扱い性を備える熱伝導シート、及び当該熱伝導シートを製造する方法を提供することができる。