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特開2023-149061エタノールを含有する生そば及びその製造方法並びにエタノールを含む生そばの異臭抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149061
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】エタノールを含有する生そば及びその製造方法並びにエタノールを含む生そばの異臭抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20231005BHJP
【FI】
A23L7/109 F
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057414
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤山 森
(72)【発明者】
【氏名】和田 祐典
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕二
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA04
4B046LB01
4B046LG02
4B046LG08
4B046LG09
4B046LG16
4B046LG21
4B046LG22
4B046LG29
4B046LG32
4B046LG51
4B046LP03
4B046LP12
4B046LP15
4B046LP31
4B046LP59
4B046LP72
(57)【要約】
【課題】本発明は、エタノールを含有する生そばにおいて保存中に発生する異臭が低減された生そば及びその製造方法並びに異臭抑制方法を提供することを課題とする。
【解決手段】そば粉を含む主原料粉の重量に対して、エタノールを1.25~5.0重量%、酸性ピロリン酸ナトリウムを0.1~0.6重量%及びビタミンCを0.1~0.6重量%含むことを特徴とするエタノールを含有する生そば及びそば粉を含む主原料粉と、エタノール、酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCを含む練り水と、を混錬した麺生地から生麺線を作製することを特徴とするエタノールを含有する生そばの製造方法により解決する。また、酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCに加えてビタミンB1を主原料粉の重量に対して0.01~0.07重量%含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
そば粉を含む主原料粉の重量に対して、エタノールを1.25~5.0重量%、酸性ピロリン酸ナトリウムを0.1~0.6重量%及びビタミンCを0.1~0.6重量%含むことを特徴とするエタノールを含有する生そば。
【請求項2】
主原料粉の重量に対して、ビタミンB1を0.01~0.07重量%含むことを特徴とする請求項1記載のエタノールを含有する生そば。
【請求項3】
そば粉を含む主原料粉と、エタノール、酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCを含む練り水と、を混錬した麺生地から生麺線を作製することを特徴とするエタノールを含有する生そばの製造方法。
【請求項4】
練り水にビタミンB1を含むことを特徴とする請求項3記載のエタノールを含有する生そばの製造方法。
【請求項5】
主原料粉の重量に対して、前記エタノールを1.25~5.0重量%、前記酸性ピロリン酸ナトリウムを0.1~0.6重量%及びビタミンCを0.1~0.6重量%練り水に含むことを特徴とする請求項3または4記載のエタノールを含有する生そばの製造方法。
【請求項6】
主原料粉の重量に対して、前記ビタミンB1を0.01~0.07重量%練り水に含むこと特徴とする請求項4または5記載のエタノールを含有する生そばの製造方法。
【請求項7】
麺中に酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCを含むことを特徴とするエタノールを含有する生そばの異臭抑制方法。
【請求項8】
麺中にビタミンB1を含むことを特徴とする請求項7記載のエタノールを含有する生そばの異臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを含有する生そば及びその製造方法並びにエタノールを含む生そばの異臭抑制方法に関する。
【0002】
従来、そば粉と小麦粉や澱粉などの主原料粉と練り水とを混捏し、作製した麺生地から製麺した生そばが多数上市されている。これらは、店頭ですぐに消費されるものもあれば、10℃以下のチルド帯で1か月程度の賞味期限を有するものや低加水によって常温で1か月程度の賞味期限を有するものがある。
【0003】
従来そば粉は、雑菌を多く含むため、生そばを保存するには、静菌する必要があり、チルド帯や常温で保存する生そばは、酢酸などの有機酸を添加することによりpHを下げ、酸度を上げたり、水分量や水分活性を低下させたり、脱酸素剤を加えたりして静菌している場合が多い。
【0004】
中華麺などの生麺の場合は静菌方法としては、主にエタノールが使用される場合が多いが、生そばにおいては、エタノールを使用すると異臭が発生するため、積極的にエタノールは使用されておらず、使用されたとしても、酸や水分などで静菌性を保った上で異臭が目立たない程度の量を添加するに留まっている。
【0005】
エタノールを含む生そばの静菌剤としては、特許文献1及び特許文献2の技術が知られている。
【0006】
特許文献1には、優れた日持ち向上効果を奏する生麺用日持ち向上剤に関する技術として、エタノール、乳酸、乳酸ナトリウム、重合度3の糖エタノールを17~33重量%および重合度4以上の糖エタノールを13~29重量%含有する還元水飴、ならびにコハク酸、アジピン酸およびフィチン酸よりなる群から選ばれる1種以上の有機酸を含む、生麺用日持ち向上剤が開示されている。しかしながら、静菌成分として用いるエタノールの風味、酸の風味の抑制できることについて記載されているものの、経時的に発生するアルデヒド臭が抑制されるかどうか記載されていない。
【0007】
また、特許文献2には、蕎麦麺などの各種麺類を製造する際に好適に使用することができ、その品質向上も図ることのできる麺製造用のエタノール製剤に関する技術として、イオン化ミネラル0.01重量%~2.0重量%と、保湿性タンパク質および/またはアミノ酸0.10重量%~2.00重量%と、残部のエタノールからなる麺類製造用エタノール製剤が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載された発明は、エタノール自体を2価以上のミネラルと反応させアルコラートとするものであり、本発明の技術とは全く異なるものである。
【0008】
一方、pH調整や麺質向上のためリン酸塩を使用した技術として、特許文献3及び4の技術が開示されている。
【0009】
特許文献3には、粘弾性に優れ、噛み応えのある良好な食感を有する麺類の製造方法に関する技術として、原料粉に、pH5.6~6.0の、リン酸および/またはリン酸塩の水溶液を添加、混合して麺生地を製造することを含み、該麺生地中に添加される該リン酸および/またはリン酸塩の乾物換算での合計量が、該原料粉100質量部あたり0.0001~0.05質量部である、麺類または麺皮類の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、滑らかでかつ良好な食感を有する麺の製造方法に関する技術として、多層麺の製造方法であって、A層及びB層を含む多層構造を有し、かつ該多層構造の少なくとも一方の最外層が該A層である多層生地を調製することを含み、該A層用の麺生地は、小麦粉を含む原料粉とpH5.6~6.0の水溶液から調製されており、該B層用の麺生地はpH7.0以上である、方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、これらの文献には、エタノールを含有した生そばに関する記載はなく、エタノールを含有した生そばの風味改善に関する記載もない。
【0012】
また、ビタミンB1やビタミンCをそばに添加する技術として特許文献5の技術が開示されている。特許文献5には、食物繊維強化低カロリー麺の製造方法に関する技術として、強力小麦粉、そば粉等の穀粒粉の少なくとも1つと活性小麦たん白質との混合物に水溶性及び不溶性の食物繊維を70%から10%混合して得られる粉粒混合物素材にビタミン類とミネラル類及びその他栄養成分を含有する添加物の少なくとも1つを添加して栄養分の調整を行い、単位重量当たりのエネルギー量が通常の麺類からえられるエネルギー量に比し50%から4%低下させるようにした食物繊維強化低カロリー麺の製造方法が記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献5に開示された技術のビタミンB1及びビタミンCの添加は栄養添加目的であり、エタノールを含有する生そばに関する記載はなく、エタノールを含有する生そばの風味改善に関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2017-93355号公報
【特許文献2】特開2013-138653号公報
【特許文献3】特開2020-178623号公報
【特許文献4】特開2020-162515号公報
【特許文献5】特開平01-196272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、エタノールを含有する生そばにおいて保存中に発生する異臭が低減された生そば及びその製造方法並びに異臭抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、生そばの風味改善として、保存性を保ちつつ、通常生そばの静菌目的で使用されている酢酸などの有機酸の酸臭や酸味を低減する方法について、鋭意研究した結果、有機酸の使用量を低減し、エタノールで静菌する方法を試みた。しかしながら、静菌に十分な量のエタノールを添加すると保存中にアルデヒド臭やエステル臭などの異臭が発生した。そこでさらに鋭意研究した結果、本発明に至った。
【0017】
すなわち、そば粉を含む主原料粉の重量に対して、前記エタノールを1.25~5.0重量%、前記酸性ピロリン酸ナトリウムを0.1~0.6重量%及びビタミンCを0.1~0.6重量%含むことを特徴とするエタノールを含有する生そばである。
【0018】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばとしては、ビタミンB1を主原料粉の重量に対して0.01~0.07重量%含むことが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばの製造方法としては、そば粉を含む主原料粉と、エタノール、酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCを含む練り水と、を混錬した麺生地から生麺線を作製するが挙げられる。
【0020】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばの製造方法としては、練り水にさらにビタミンB1を含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばの製造方法としては、主原料粉の重量に対して、エタノールを1.25~5.0重量%、酸性ピロリン酸ナトリウムを0.1~0.6重量%及びビタミンCを0.1~0.6重量%練り水に含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばの製造方法としては、主原料粉の重量に対して、さらにビタミンB1を0.01~0.07重量%練り水に含むことが好ましい。
【0023】
本発明に係るエタノールを含有する生そばの異臭抑制方法としては、麺中に酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンCを含むことが好ましい。
【0024】
また、本発明に係るエタノールを含有する生そばの異臭抑制方法としては、麺中にさらにビタミンB1を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、エタノールを含む生そばにおいて保存中に発生する異臭が低減された生そば及びその製造方法並びに異臭抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また、本発明に係る生そばは、蒸しや茹でなどの加熱処理がされていないチルド帯または常温保存の生そばを指す。
【0027】
1.麺原料配合
【0028】
(主原料粉)
本発明に係る生そばの主原料粉としては、そば粉の他に小麦粉や馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉及びコーンスターチ等の各種澱粉が挙げられる。前記澱粉として、生澱粉、α化澱粉、並びにアセチル化澱粉、エーテル化澱粉、酸化澱粉及び架橋澱粉等の加工澱粉を使用することもできる。主原料粉に対するそば粉の量は30%以上含まれることが好ましい。そば粉100%(十割そば)も可能であるが、製麺性の観点から80%(二八そば)以下が好ましい。
【0029】
(エタノール)
本発明に係るエタノールを含有する生そばは、静菌目的としてエタノールを含む。エタノールは、工業生産されたものでも、発酵により製造されたものでもよい。エタノールの含有量としては、有機酸などの含有量や保存期間によっても変わるが、エタノールとして主原料粉の重量に対して、1.25~5.0重量%含むことが好ましい。1.25重量%未満であると、保存性を担保できず、5.0重量%よりも多いとエタノール臭が目立ちそばの風味が悪くなる。エタノールはできるだけ少ない方が、風味の面で好ましく、保存性の面から考えると主原料粉の重量に対して、3.0~3.5重量%が好ましい。エタノールは、練り水に混合しても、練り水とは別に主原料と混合して生地としてもよいが、練り水と共に添加することが好ましい。
【0030】
(酸性ピロリン酸ナトリウム)
本発明に係るエタノールを含有する生そばは、酸性ピロリン酸ナトリウム(ピロリン酸二水素ナトリウム)を含む。酸性ピロリン酸ナトリウムは、練り水に溶解して添加することが好ましい。酸性ピロリン酸ナトリウムの含有量としては、主原料粉の重量に対して、0.1~0.6重量%含まれることが好ましい。0.1重量%よりも少なくなるとエタノールがそば粉の持つ酵素に分解されて発生する異臭であるアルデヒド臭の発生を抑制する効果が弱くなり、0.6重量%よりも多いと麺の味や食感に影響が出てくる。
【0031】
(ビタミンC)
本発明に係るエタノールを含有する生そばは、ビタミンCを含む。ビタミンCの種類としては、特に限定はなく、アスルコルビン酸だけでなく、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸パルミチン酸エステルなど、アスコルビン酸を化工したものでもよい。ビタミンCは、練り水に溶解して添加することが好ましい。ビタミンCの含有量としては、主原料粉の重量に対して、アスコルビン酸として0.1~0.60重量%含まれることが好ましい。0.1重量%未満であると、エタノールが脂肪酸等と反応して発生する異臭であるエステル臭を抑制する効果が弱く、0.6重量%よりも多いと麺の味に影響が出てくる。
【0032】
(ビタミンB1)
本発明に係るエタノールを含有する生そばは、ビタミンB1を含むことが好ましい。ビタミンB1の種類としては、特に限定はなく、ジベンゾイルチアミン・ジベンゾイルチアミン塩酸塩・チアミン塩酸塩・チアミン硝酸塩・チアミンセチル硫酸塩・チアミンチオシアン酸塩・チアミンナフタリン-1,5-ジスルホン酸塩・チアミンラウリル硫酸塩・ビスベンチアミンが挙げられる。ビタミンB1は、練り水に溶解して添加することが好ましい。ビタミンB1の含有量としては、主原料粉の重量に対して、チアミンとして0.01~0.07重量%含まれることが好ましい。0.01重量%未満であると、エタノールがアルコールと反応して発生した異臭であるアルデヒド臭を分解することで異臭を抑制することが難しくなり、0.07重量%よりも多いと逆に酵母様の異臭が発生し、そばの風味が悪くなる。
【0033】
また、本発明では、これら原料の他に生そばの製造において一般に使用されている食塩、pH調整剤、有機酸、有機酸塩、各種増粘剤、グルテン、卵白、麺質改良剤、食用油脂、酵素、保存料、各種色素及び香料等を添加することができる。これらは、主原料粉と一緒に粉体で添加しても、練り水に溶かすか懸濁させて添加してもよい。
【0034】
また、本発明においては、保存性を高めるために酢酸やクエン酸、乳酸などの有機酸やその塩を添加することができる。しかしながら、これらを添加するほど保存性は向上するが、酸味や酸臭などの風味が強くなり、そば独特の風味が悪くなる。そのため、酸味や酸臭が感じない程度まで添加することが好ましい。好ましくは酢酸、酢酸ナトリウム、氷酢酸などの酢酸類か、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸類が好ましい。添加量としては、酢酸類の場合は、酢酸として主原料粉の重量に対して、0.03~0.05重量%含まれることが好ましい。
【0035】
2.混捏工程
本発明に係る麺生地(ドウ)の作製方法は、常法に従って行えばよい。すなわち、バッチミキサー、フロージェットミキサー、真空ミキサー等で、主原料粉と練り水とが均一に混ざるように混捏すればよく、そぼろ状のドウを作製すればよい。
【0036】
3.製麺工程
次いで作製したドウから麺線を作製する。作製方法としては、常法に従って行えばよく、エクストルーダ等を用いてドウを押し出して麺線を作製する方法や、ドウをロールにより粗麺帯とした後、複合等により麺帯化し、さらにロールにより複数回圧延し、所定の麺帯厚とした後、切刃と呼ばれる切出しロールにより麺帯を切出し、麺線を作製する方法が挙げられる。麺帯を作製してから麺線を作製する場合、エクストルーダを用いて麺帯を作製した後、圧延、切出しを行ってもよく、また、複数の麺帯を合わせて多層構造を持つ麺帯を作製した後、圧延、切出しを行ってもよい。エクストルーダ等を用いて押出し麺帯又は押出し麺線を作製する場合は、減圧下で行うことが好ましい。
【0037】
4.その他
作製した生麺は、必要により打ち粉を行うか、麺の表面を乾燥し、適当な長さに切断した後、1食分ごとにポリエチレンやポリプロピレン等の袋に封入し、チルド帯の生そばや常温保存の生そばとすることができる。この時、保存性を高めるために脱酸素剤を加えてもよい。袋に封入した生麺は、スープや具材と共に袋や箱に入れ、店頭で販売することができる。
【0038】
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
【実施例0039】
(試験例1)
そば粉300g中力粉700gからなる主原料粉1Kgに麺質改良剤としてグルテン10gを粉体混合し、食塩10g、無水酢酸ナトリウム11g、醸造酢(酢酸として10重量%)18g、50%乳酸5gを水300gに溶解した練り水を加え、常圧ミキサーにて15分間混捏し、ドウを作製した。
【0040】
作製したドウを複合して麺帯を作製し、20分熟成した後、ロール圧延にて1.5mmまで麺帯を圧延し、20番角のロール切刃にて麺帯を切断し、麺線とした。
【0041】
次いで作製した麺線1食110gに対してサゴ澱粉の酸化澱粉からなる打ち粉4gをし、ポリエチレンの袋に脱酸素剤とともに密封し、生そばサンプルを作製した。
【0042】
(試験例2)
そば粉300g中力粉700gからなる主原料粉1Kgに麺質改良剤としてグルテン10gを粉体混合し、食塩10g、醸造酢(酢酸として10重量%)3g、エタノール製剤(エタノール50%)25gを水260gに溶解した練り水を加え、常圧ミキサーにて15分間混捏し、ドウを作製した。その後の方法は、試験例1の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0043】
(試験例3)
エタノール製剤(エタノール50%)60gとし、水を250gとする以外は、試験例2の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0044】
(試験例4)
エタノール製剤(エタノール50%)70gとし、水を240gとする以外は、試験例2の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0045】
(試験例5)
エタノール製剤(エタノール50%)100gとし、水を210gとする以外は、試験例2の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0046】
(試験例6)
練り水に酸性ピロリン酸ナトリウムを3.0g添加する以外は試験例3の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0047】
(試験例7)
練り水にビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩)を0.73g(チアミンとして0.40g)添加する以外は試験例3の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0048】
(試験例8)
練り水にビタミンC(L-アスコルビン酸)を3g添加する以外は試験例3の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0049】
(試験例9)
練り水に酸性ピロリン酸ナトリウムを3.0g、ビタミンC(L-アスコルビン酸)を3g添加する以外は試験例3の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0050】
(試験例10)
練り水に酸性ピロリン酸ナトリウムを1.0g添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0051】
(試験例11)
練り水に酸性ピロリン酸ナトリウムを6.0g添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0052】
(試験例12)
練り水にビタミンC(L-アスコルビン酸)を1.0g添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0053】
(試験例13)
練り水にビタミンC(L-アスコルビン酸)を1.5g添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0054】
(試験例14)
練り水にビタミンC(L-アスコルビン酸)を6.0g添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0055】
(試験例15)
練り水にビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩)を0.73g(チアミンとして0.40g)添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0056】
(試験例16)
練り水にビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩)を0.19g(チアミンとして0.10g)添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0057】
(試験例17)
練り水にビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩)を0.128g(チアミンとして0.70g)添加する以外は試験例9の方法に従って生そばサンプルを作製した。
【0058】
試験例1~17で作製した生そばサンプルを製造直後及び10℃以下の冷蔵庫で8日間保存後、1500mlの熱湯で3分間茹で、湯切り後、水洗し、氷水に10秒浸漬し、水切りしざるそば形式で喫食し、官能評価を行った。製造直後のサンプルについては、酸味・酸臭、アルコール臭について評価し、冷蔵保存後のサンプルについては、アルコール由来の異臭(アルデヒド臭及びエステル臭)について評価を行った。なお、評価については、ベテランのパネラー6人により行った。
【0059】
酸味・酸臭については、試験例1を基準として、試験例1と同等以下のものを1、酸味・酸臭は低減しているが不十分なものを2、酸味・酸臭は低減しており概ね可なものを3、酸味・酸臭が低減しており良好なものを4、酸味・酸臭がなく非常に良好なものを5とした。
【0060】
アルコール臭については、試験例1を基準として、アルコール臭を全く感じないものを5、アルコール臭を感じるが良好なものを4、アルコール臭を感じるが概ね可なものを3、アルコール臭を感じ劣るものを2、アルコール臭を強く感じ著しく劣るものを1とした。
【0061】
アルコール由来の異臭(アルデヒド臭)については、試験例3を基準として、試験例3と同等以下のものを1、アルデヒド臭は低減しているが不十分なものを2、アルデヒド臭が低減し概ね可なものを3、アルデヒド臭が低減し良好なものを4、アルデヒド臭をほとんど感じず、非常に良好なものを5とした。
【0062】
アルコール由来の異臭(エステル臭)については、試験例3を基準として、試験例3と同等以下のものを1、エステル臭は低減しているが不十分なものを2、エステル臭が低減し概ね可なものを3、エステル臭が低減し良好なものを4、エステル臭をほとんど感じず、非常に良好なものを5とした。
【0063】
また、試験例1~17について、製造直後及び冷蔵保存後の一般生菌数について微生物検査し、保存性の評価を行った。評価結果は、微生物の増殖がみられないものを◎、微生物の増殖がみられるが冷蔵保存後の一般生菌数が1グラム当たり1.0x10個未満のものを〇、微生物の増殖がみられ冷蔵保存後の一般生菌数が1グラム当たり1.0x10個以上3.0x10未満のものを△、3.0x10以上を×とした。
【0064】
官能試験結果及び保存性の評価結果について下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
試験例2~5で示すように、エタノールによっても、有機酸と同様に保存性を担保することができ、酸味・酸臭を抑えることができた。しかしながら、エタノールの添加量が多くなるほど、製造後のアルコール臭が強く感じるようになり、そばの風味に影響を及ぼすだけでなく、冷蔵保存後のアルデヒド臭やエステル臭などの異臭が強く感じた。エタノールの含有量としては、保存性の面から主原料粉の重量に対して、1.25重量%以上が好ましくより好ましくは3.0重量%以上である。また、そばの風味の面で主原料粉の重量に対して、5.0重量%以下が好ましく、より好ましくは3.5重量%以下である。
【0067】
試験例6~8で示すように、酸性ピロリン酸ナトリウム、ビタミンB1、ビタミンCを添加することにより、冷蔵保存後のエタノール由来の異臭が抑えられたが、それぞれにより、抑えられる異臭の質が違い、単体では不完全であった。酸性ピロリン酸ナトリウム及びビタミンB1はアルコールが分解されて発生するアルデヒド臭が抑えられ、ビタミンCはアルコールと脂肪酸が反応して発生するエステル臭が抑えられた。
【0068】
試験例9~14で示すように、酸性ピロリン酸ナトリウムとビタミンCを添加することにより、冷蔵保存後のエタノール由来のアルデヒド臭及びエステル臭の両方が抑制された。試験例9~11で示すように、冷蔵保存後のエタノール由来のアルデヒド臭を抑える上で、酸性ピロリン酸ナトリウムの添加量としては、主原料粉の重量に対して、0.1重量%以上で効果があったが、0.3重量%よりも多くてもほとんどアルデヒド臭を抑える効果が変わらず、0.6重量%となると麺の食感への影響や酸性ピロリン酸ナトリウムの風味を感じるようになった。よって、酸性ピロリン酸ナトリウムの添加量としては、主原料粉の重量に対して、0.1~0.6重量%の範囲が好ましいと考える。
【0069】
試験例9、12~14で示すように、エタノール由来のエステル臭を抑える上でビタミンCの添加量としては、主原料粉の重量に対して、0.1重量%以上で効果があったが、0.3重量%よりも多くてもほとんどエステル臭を抑える効果は変わらず、0.6重量%となると、麺に酸味を感じるようになった。よって、ビタミンCの添加量としては、主原料粉に対して0.1~0.6重量%の範囲が好ましいと考える。
【0070】
試験例15~17で示すように、酸性ピロリン酸ナトリウムとビタミンCにさらにビタミンB1を添加することにより、冷蔵保存後のエタノール由来のアルデヒド臭がさらに抑制された。試験例15~17で示すように、冷蔵保存後のエタノール由来のアルデヒド臭をさらに抑える上で、ビタミンB1の添加量としては、主原料粉の重量に対して、0.01重量%以上で効果があったが、0.04重量%よりも多くてもほとんどアルデヒド臭を抑える効果が変わらず、0.07重量%となるとビタミンB1由来の酵母っぽい風味を感じるようになった。よって、ビタミンB1の添加量としては、主原料粉の重量に対して、0.01~0.07重量%の範囲が好ましいと考える。