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特開2023-149072水管理方法、水管理システム、及び複合堰
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  • 特開-水管理方法、水管理システム、及び複合堰 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149072
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水管理方法、水管理システム、及び複合堰
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A01G25/00 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057429
(22)【出願日】2022-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・研究集会名 2021年度(第70回)農業農村工学会大会講演会 開催場所 オンライン 開催日 2021年8月31日 ・刊行物名 「2021年度(第70回)農業農村工学会大会講演会講演要旨集」 発行日 2021年8月 ・刊行物名 「山形新聞 2021年9月16日朝刊、第3面」 発行日 2021年9月16日 ・刊行物名 「日本農業新聞 2021年9月16日、第1面」 発行日 2021年9月16日 ・刊行物名 「河北新報 2021年9月24日、第21面」 発行日 2021年9月24日 ・研究集会名 令和3年度応用水理研究部会講演会 開催場所 オンライン 開催日 2021年12月11日 ・刊行物名 「令和3年度応用水理研究部会講演会講演集」 発行日 2021年12月9日 ・展示会名 アグリビジネス創出フェア 開催場所 東京ビッグサイト 青海展示棟 展示日 2021年11月25日 ・放送番組 山形放送 番組名「YBC news every」 公開日 2021年12月9日
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤山 宗
(72)【発明者】
【氏名】中矢 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】浪平 篤
(57)【要約】
【課題】末端用水路における水管理を行うための技術を提供する。
【解決手段】水管理方法は、支線用水路200から分岐した末端用水路300の流量を制御する方法である。水管理方法は、堰板の下端と末端用水路300の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰10により、堰板の下部を流れる底流と堰板の上部を超える越流との両方により末端用水路300内の流量を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支線用水路から分岐した末端用水路の流量を制御する水管理方法であって、
堰板の下端と前記末端用水路の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰により、堰板の下部を流れる底流と堰板の上部を超える越流との両方により前記末端用水路内の流量を制御する、水管理方法。
【請求項2】
前記支線用水路と前記末端用水路との分岐点に設けられた配水ゲートの開閉により、前記支線用水路から前記末端用水路への水流を制御する、請求項1に記載の水管理方法。
【請求項3】
前記末端用水路に隣接する複数の圃場のそれぞれに対して設けられた前記複合堰により、前記末端用水路内の流量を制御する、請求項2に記載の水管理方法。
【請求項4】
前記末端用水路から圃場への給水を制御する給水栓を開いた状態とし、前記複合堰の高さを固定して、前記配水ゲートの開閉により、前記末端用水路から前記圃場への給水を制御する、請求項2又は3に記載の水管理方法。
【請求項5】
前記末端用水路に隣接する圃場の水位、並びに前記末端用水路内の水位及び流量の少なくとも一つに基づいて、前記配水ゲートの開閉を制御する、請求項2から4のいずれか1項に記載の水管理方法。
【請求項6】
支線用水路から分岐した末端用水路の流量を制御する水管理システムであって、
堰板の下端と前記末端用水路の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰を備えた、水管理システム。
【請求項7】
前記支線用水路と前記末端用水路との分岐点に設けられた配水ゲートと、
前記末端用水路に隣接する圃場の水位を測定する水位測定装置、並びに、前記末端用水路内の水位を測定する水位測定装置及び流量を測定する流量測定装置の少なくとも一つと、
前記末端用水路に隣接する圃場の水位、並びに前記末端用水路内の水位及び流量の少なくとも一つに基づいて、前記配水ゲートの開閉を制御する制御装置と、
をさらに備えた、請求項6に記載の水管理システム。
【請求項8】
支線用水路から分岐した末端用水路に設けられる複合堰であって、
堰板の下端と前記末端用水路の底との間に、堰板の下部を流れる底流が通過する底流通過領域と、
堰板の上部を超える越流が通過する越流通過領域とを有する、複合堰。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水管理方法、水管理システム、及び複合堰に関する。
【背景技術】
【0002】
開水路形式の農業用水路の末端用水路では、期別に加えて日単位でも水路流量が変化する。したがって、水田圃場へ均等に給水するために、末端用水路内の適切な水位管理が求められる。末端用水路の水位管理の方法としては、支線用水路から末端用水路への分岐点に設けられた配水ゲートや、末端用水路から各水田圃場への給水のための給水栓の開度を調整する方法、水田圃場毎に末端用水路に設けられた堰板の高さを調整する方法等が挙げられる。
【0003】
水田圃場や末端用水路の水位を管理する技術として、特許文献1から3に記載された技術が知られている。特許文献1には、作物の生育状態等を考慮して、弁体を開閉することにより圃場への給配水を制御する装置が記載されている。特許文献2には、小規模水田に設けられた堰板をモータの駆動により開閉することで、水田の水位を調整する装置が記載されている。特許文献3には、用水路と下流の水路との分岐点に設けられた山分け分流堰と、下流の水路に設けられた越流堰とにより、水田への給水を制御するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-106583号公報
【特許文献2】特開2019-24401号公報
【特許文献3】実用新案登録第3220836号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の末端用水路の水位管理方法では、配水ゲートや給水栓を開閉したり、堰板の高さを調整したりする必要があり、その操作に係る労力が問題となる。特許文献1から3に記載された技術は、このような水位管理のための技術であるが、末端用水路の水位管理のための労力を低減し得るさらなる技術が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、末端用水路における水管理を行うための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る水管理方法は、支線用水路から分岐した末端用水路の流量を制御する水管理方法であって、堰板の下端と前記末端用水路の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰により、堰板の下部を流れる底流と堰板の上部を超える越流との両方により前記末端用水路内の流量を制御する。
【0008】
本発明の一態様に係る水管理システムは、支線用水路から分岐した末端用水路の流量を制御する水管理システムであって、堰板の下端と前記末端用水路の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰を備えている。
【0009】
本発明の一態様に係る複合堰は、堰板の下端と前記末端用水路の底との間に、堰板の下部を流れる底流が通過する底流通過領域と、堰板の上部を超える越流が通過する越流通過領域とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、末端用水路における水管理を行うための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る水管理システムの要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一態様に係る複合堰を示す模式図である。
図3】従来の越流堰と本発明の一態様に係る複合堰を用いた実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔水管理システム〕
本発明の一態様に係る水管理システムについて、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明の一態様に係る水管理システム100の要部構成を示すブロック図である。図2は、本発明の一態様に係る複合堰10を示す模式図である。
【0013】
水管理システム100は、支線用水路200から分岐した末端用水路300の流量を制御するシステムである。支線用水路200は、農業用水路であり、水面が大気に接している開水路形式の水路であり得る。支線用水路200からは、複数の末端用水路300に分岐している。末端用水路300には圃場400が隣接しており、末端用水路300の流れの方向に略平行に複数の圃場400が配列している。圃場400は、一例として、水田圃場である。
【0014】
図1に示すように、水管理システム100は、複合堰10及び配水ゲート20を備えている。また、水管理システム100は、給水栓30、制御装置40、及び測定装置50を備え得る。
【0015】
(複合堰10)
複合堰10は、堰板11の下端と末端用水路300の底との間に空隙を有するように設けられている。すなわち、複合堰10は、堰板11の下端と末端用水路の底との間に、堰板の下部を流れる底流が通過する底流通過領域12と、堰板11の上部を超える越流が通過する越流通過領域13とを有している。これにより、複合堰10の堰板11の下部を流れる底流と、堰板11の上部を超える越流との両方により末端用水路300内の流量を制御する。すなわち、複合堰10は、従来の越流堰で利用されている越流に加えて、堰板11の下側を流れる底流を複合して利用するものである。
【0016】
複合堰10の越流通過領域13側は、全幅堰、四角堰、及び三角堰のいずれであってもよい。図2は、一例として、複合堰10の越流通過領域13側が全幅堰である場合を示している。堰板11の堰高H(堰板11の高さwと底流通過領域12の高さdとの和)は、末端用水路の流量に応じて、所望の堰上流水深hとなるように、設定することができる。
【0017】
従来の越流堰は、堰板を超える越流のみにより末端用水路内の流量を制御するので、流下能力が低い。そのため、末端用水路にて流量が増大すると比較的大きな水位上昇が生じる。そして、このような越流堰を用いて、末端用水路から各圃場への給水地点の水深を一定に保ち、下流の圃場への給水量も確保するためには、末端用水路内の流量に合わせて堰板の高さを変更する必要があり、その操作に係る労力が問題となる。
【0018】
水管理システム100においては、複合堰10により、底流と越流との両方により末端用水路300内の流量を制御するので、流下能力が高い。そのため、末端用水路300にて流量が変化しても、水位変動量は小さい。その結果、末端用水路300から各圃場400への給水地点の水深を一定に保ち、下流の圃場への給水量も確保することができる。複合堰10によれば、堰高Hを固定した状態で、末端用水路300から各圃場400への給水地点の水深を一定に保つことができる。
【0019】
複合堰10は、末端用水路300に隣接する複数の圃場400のそれぞれに対して設けられていることが好ましい。これにより、末端用水路300から各圃場400への給水地点の水深を一定に保ち、各圃場400への給水量を確保することができる。
【0020】
(配水ゲート20)
配水ゲート20は、支線用水路200と末端用水路300との分岐点に設けられている。すなわち、配水ゲート20は、末端用水路300の上流に設けられている。水管理システム100においては、配水ゲート20を開閉することにより、支線用水路200から末端用水路300への水流を制御する。配水ゲート20の形式は、特に限定されず、スルース式であっても、フラップ式であってもよい。
【0021】
水管理システム100において、末端用水路300から圃場400への給水は、給水栓30により制御される。一例として、水管理システム100は、給水栓30を開いた状態とし、複合堰10の堰高Hを固定して、配水ゲート20の開閉により、末端用水路300から圃場400への給水を制御する。水管理システム100においては、末端用水路300から各圃場400への給水地点の水深を一定に保ち、圃場400への給水量が確保されているので、圃場400への給水のために、給水栓の開度を調整したり、堰の高さを調整したりする必要がない。
【0022】
すなわち、水管理システム100によれば、配水ゲート20の開閉を制御するのみで、末端用水路300に隣接する圃場400への給水を制御することができる。また、末端用水路300に隣接する複数の圃場400のそれぞれの給水栓30を開いた状態とし、それぞれの複合堰10の堰高Hを固定して、配水ゲート20の開閉を制御することで、複数の圃場400への給水を一括して制御することができる。さらに、水管理システム100によれば、末端用水路300から各圃場400への給水地点の水深を一定に保つことができるので、配水ゲート20を開閉するのみで、各圃場400への一定給水を実現することができる。
【0023】
配水ゲート20の開閉は、制御装置40により制御され得る。末端用水路300に隣接する圃場400の水位並びに末端用水路300内の水位及び流量の少なくとも一つに基づいて、制御され得る。制御装置40は、一例として、配水ゲート20に設けられた駆動装置(図示せず)を遠隔操作することにより、配水ゲート20の開閉を制御してもよい。
【0024】
制御装置40は、測定装置50が測定した末端用水路300に隣接する圃場400の水位並びに末端用水路300内の水位及び流量の少なくとも一つに基づいて、配水ゲート20の開閉を制御してもよい。測定装置50は、一例として、圃場400に設けた水位計のような水位測定装置、並びに、末端用水路300に設けられた水位計のような水位測定装置及び流量計のような流量測定装置の少なくとも一つである。測定装置50は、測定したデータを制御装置40へ出力する。また、測定装置50は、測定したデータをクラウドサーバ上の記憶装置(図示せず)に格納してもよい。制御装置40は、一例として、無線通信又は有線通信により測定装置50から出力されたデータを取得する。
【0025】
制御装置40は、一例として、測定装置50が測定した末端用水路300に隣接する圃場400の水位が低い、末端用水路300内の水位が低い、又は、流量が少ない場合には、配水ゲート20を開いて末端用水路300の流量を増やし、圃場400への給水量を増加させる。また、制御装置40は、一例として、測定装置50が測定した末端用水路300に隣接する圃場400の水位高い、末端用水路300内の水位が高い、又は、流量が多い場合には、配水ゲート20を閉じて末端用水路300の流量を減らし、圃場400への給水量を低減する。
【0026】
また、制御装置40は、圃場400の水位並びに末端用水路300内の水位及び流量の少なくとも一つに基づき、圃場400の水位並びに末端用水路300内の水位及び流量の少なくとも一つを所定の範囲内に維持するように、配水ゲート20の開閉を制御してもよい。
【0027】
このように、水管理システム100は、圃場400の水位並びに末端用水路300内の水位及び流量の少なくとも一つを監視し、これらのデータに基づいて配水ゲート20の開閉を制御することで、末端用水路300に隣接する圃場400への給水を一括自動制御することができる。
【0028】
〔複合堰〕
本発明の一態様に係る複合堰は、支線用水路から分岐した末端用水路に設けられる複合堰であって、堰板の下端と前記末端用水路の底との間に、堰板の下部を流れる底流が通過する底流通過領域と、堰板の上部を超える越流が通過する越流通過領域とを有する。すなわち、上述した水管理システム100が備える複合堰10は、本発明に係る複合堰の一態様である。したがって、本発明の一態様に係る複合堰の詳細は、上述した複合堰10の説明に準じる。
【0029】
〔水管理方法〕
本発明の一態様に係る水管理方法は、支線用水路から分岐した末端用水路の流量を制御する水管理方法であって、堰板の下端と前記末端用水路の底との間に空隙を有するように設けられた複合堰により、堰板の下部を流れる底流と堰板の上部を超える越流との両方により前記末端用水路内の流量を制御する。また、水管理方法は、支線用水路と前記末端用水路との分岐点に設けられた配水ゲートの開閉により、前記支線用水路から前記末端用水路への水流を制御し得る。さらに、水管理方法は、末端用水路に隣接する複数の圃場のそれぞれに対して設けられた複合堰により、末端用水路内の流量を制御し得る。
【0030】
また、水管理方法は、前記末端用水路から圃場への給水を制御する給水栓を開いた状態とし、前記複合堰の高さHを固定して、前記配水ゲートの開閉により、前記末端用水路から前記圃場への給水を制御する。さらに、水管理方法は、前記末端用水路に隣接する圃場の水位並びに前記末端用水路内の水位及び流量の少なくとも一つに基づいて、前記配水ゲートの開閉を制御する。
【0031】
すなわち、上述した水管理システム100は、本発明に係る水管理方法を実行するための水管理システムの一態様である。したがって、本発明の一態様に係る水管理方法の詳細は、上述した水管理システム100の説明に準じる。
【0032】
従来、開水路形式の末端用水路での堰板(例えば、全幅堰)を用いた圃場への給水操作においては、必要な給水量を確保するために、圃場における給水箇所数の調整が実施されている場合もあり、堰板の設置地点の変更に多大な労力が生じている。そのため、灌慨期間をとおして堰板を固定した状態で各給水地点の水位を維持し、必要な給水量を確保できれば、その労力を削減できる。越流部を長く確保した斜長堰やduckbillweirを用いて、流下能力を高めることで水位変動を抑制する従来技術が、幹線用水路において適用されているが、施設構造が大掛かりであり、末端用水路での利用には不向きである。
【0033】
本発明の一態様に係る水管理方法によれば、従来の堰板を用いた簡易な構造により、越流に底流を併用した複合堰により流下能力を高めることができるので、末端用水路にも適用できる簡易な施設構造により水位変動を抑制し、給水量の確保を実現できる。
【0034】
上述した本発明の構成によれば、農業の維持及び発展につながる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」の達成に貢献できる。
【0035】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0036】
水理実験及び水理計算により、従来の全幅堰と本発明の一態様に係る複合堰の末端用水路における水位調整施設としての有効性を比較した。
【0037】
(実験方法)
水理実験は、水路延長10m、水路側壁高30cm、水路幅25cm、水路勾配無しのアクリル製の長方形断面開水路において、上流端から7mの位置に模型の全幅堰及び複合堰をそれぞれ設置して行った。実験ケースは、全幅セキ(堰高H=12cm)と複合堰(堰高H=13cm、底流開度d=1cm)の2ケースである。全幅堰と複合堰の流量係数Cは、流量と堰上流水深の計測結果をもとに、越流堰の流量の関係式を用いて算出した。
【0038】
末端用水路への複合堰の適用を想定し、水理実験から得られた流量係数Cを用いて現地水路を対象とした不等流計算を行った。不等流計算は、ベルヌーイの定理に準じた逐次計算法である。計算条件は、表1に示すように、全幅堰を用いた末端用水路での水位調整が実施されているA地区の諸元を参考に、水路延長50m、水路勾配1/580、上流端流量0.03m/sとした。
【表1】
【0039】
セキG1及びG2の位置は、30a圃場の短辺30mに1地点を想定し、水路上流から10m及び40mの地点とし、それぞれの堰高Hは各ケースで同一とした。給水はオリフィスによるものとし、その位置はGl及びG2のそれぞれ5m上流の地点とした。
【0040】
(結果と考察)
水理実験の結果から算定された越流堰の流量係数Cは全幅堰で1.65、複合堰で2.10であった。四角堰からの越流に底流を併用した複合堰の流量係数Cは、底流流入部の高流速の影響が堰上流に及び、速度水頭が増大することで大きくなると予測されている。今回対象とする越流堰は全幅堰であるが、同様な傾向であると推測される。
【0041】
水理計算の結果を、図3に示す。図3は、従来の越流堰と本発明の一態様に係る複合堰を用いた計算結果を示す図である。図3中のグラフ1001に示すように、G1の上流水位はCase1が最も高く、底流開度dが大きくなるにつれてCase2-1及びCase2-2の順で低くなった。また、G2の上流水位も同様な傾向であった。このように、複合堰は、底流開度が大きくなることによる底流流量の増大に加えて、前述の越流堰の流量係数Cの増大の効果が発現することで、流下能力が向上し、水位上昇を抑制できることが示された。
【0042】
水深の変化はオリフィスで給水する流量に影響を及ぼすため、図3中のグラフ1002に示すように、Out1とOut2の給水量は、水深が低下するにつれてCase1、Case2-1、Case2-2の順に小さくなった。このことから、複合堰は水位上昇を抑制し給水量を低減できることが示された。
【0043】
これらの結果より、図3中のグラフ1003に示すように、複合堰と全幅堰との水路流量の差は、給水を経るごとに大きくなり、Out2より下流では0.002m/sとなった。このように、複合堰は全幅堰に比べて下流水路の流量を増やせることから、複合堰をさらに多く配置することで下流水路流量の増大が見込めることが示された。
【符号の説明】
【0044】
10 複合堰
20 配水ゲート
30 給水栓
40 制御装置
50 測定装置(水位測定装置、流量測定装置)
100 水管理システム
200 支線用水路
300 末端用水路
図1
図2
図3