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特開2023-149136アミノ化合物、当該アミノ化合物を用いたポリアミド酸及びポリイミド、並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149136
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】アミノ化合物、当該アミノ化合物を用いたポリアミド酸及びポリイミド、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/09 20060101AFI20231005BHJP
   C07C 209/48 20060101ALI20231005BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07C211/09 CSP
C07C209/48
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057548
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 将之
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】清水 健博
(72)【発明者】
【氏名】永易 杏菜
(72)【発明者】
【氏名】藤原 巧真
(72)【発明者】
【氏名】板井 基和
【テーマコード(参考)】
4H006
4J043
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC52
4H006BB15
4H006BC10
4H006BC19
4H006BE22
4J043PA04
4J043PC025
4J043PC026
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA44
4J043SA45
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA44
4J043TA47
4J043TA70
4J043TA71
4J043TA74
4J043UA122
4J043UA132
4J043UA262
4J043UB122
4J043UB152
4J043UB302
4J043UB402
4J043VA012
4J043VA022
4J043VA042
4J043VA052
4J043XA03
4J043XA14
4J043XA16
4J043XB27
4J043ZA43
4J043ZB47
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂組成物の硬化物の低誘電正接化を達成できるアミノ化合物、当該アミノ化合物を用いたポリアミド酸及びポリイミド、並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造を含む置換基を少なくとも2つ有するとともに、メチレン基に結合した第1級アミノ基を少なくとも2つ有するアミノ化合物である。

[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を含む置換基を少なくとも2つ有するとともに、メチレン基に結合した第1級アミノ基を少なくとも2つ有するアミノ化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1に記載のアミノ化合物。
【化2】
[式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又は下記一般式(3)の置換基を表す。Rは炭素数1以上のアルキレン基である。]
【化3】
[式(3)中、Xは結合位置を示す。]
【請求項3】
下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項1に記載のアミノ化合物。
【化4】
[式(4)中、C~Cは炭素原子を表し、C~Cの側鎖R11,R12,・・・,Rn1,Rn2は独立に水素原子又は下記一般式(1)の構造を含む置換基を表し、R11,R12,・・・,Rn1,Rn2に一般式(1)の構造を含む置換基を少なくとも2つ以上含む。また、nは6以上12以下の整数である。]
【化5】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
【請求項4】
ジアミン成分から誘導されるジアミン残基及びテトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有するポリアミド酸であって、
前記ジアミン成分が、請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリアミド酸。
【請求項5】
ジアミン成分から誘導されるジアミン残基及びテトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有するポリイミドであって、
前記ジアミン成分が、請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリイミド。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のアミノ化合物を製造する方法であって、次の(a)及び/又は(b)の手順を含むことを特徴とするアミノ化合物の製造方法。
(a):下記一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物と、脂肪族ジニトリルとを、強塩基を用いたカップリング反応を経由させたのちに、ニトリル基をアミノ基に変換すること。
(b):下記一般式(1)の構造を含む置換基と、エステル結合と、不飽和二重結合とを有する不飽和化合物を得たのちに、当該不飽和結合を介した二量化反応を行い、次いで、得られた前記不飽和化合物の二量体におけるエステル結合をアミド結合に変換する反応を経由したのちに、該アミド結合をアミノ基に変換すること。
【化6】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
【請求項7】
ジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物成分と、を反応させるポリアミド酸の製造方法であって、
前記ジアミン成分が、請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリアミド酸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で得られたポリアミド酸を、さらにイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ化合物、当該アミノ化合物を用いたポリアミド酸及びポリイミド、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される電子デバイスのデータ通信量は今後さらなる増加が見込まれており、データ伝送の高速化のため、通信周波数は高周波数化が進んでいる。通信周波数を高くするためには伝送損失を抑制する必要があり、低誘電率及び低誘電正接を有する材料が必要とされている。
【0003】
誘電特性を改善するため、アルキル基を有するジアミン化合物が提案されている(特許文献1)。特許文献1によると、ジアミン化合物の自由体積が大きいことにより、低誘電率化及び低誘電正接化が可能となるとしている。しかしながら、この特許にて好ましいとされている直鎖状アルキル基を用いる手法では、自由体積の確保が十分でなく、低誘電率化及び低誘電正接化に限界があるという問題があった。特許文献2は分岐したアルキル部位を有する単官能エポキシエステル又はエーテル化合物を硬化させて得られた硬化物において、元のエポキシ樹脂の硬化物よりも比誘電率を低減できることが開示されている。しかしながら、単官能エポキシエステル又はエーテル化合物に限定しているため、より汎用的に低誘電率化を提供するには限界があった。また、誘電正接を低減させることができるかどうかについては開示されていない。
【0004】
ところで、昨今、材料開発においても人工知能を用いて素材の構造や物性と化学的性質を結びつけるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)といった分野が盛んとなっており、機械学習と呼ばれる統計数理に基づいた情報処理技術を用いて材料開発が進められている。例えば、高分子やそのモノマーの化学構造を説明変数として、目的変数である高分子物性値を高精度に推定する推定モデルを作成する例が多数報告されており、例えば、非特許文献1や2では、モノマーの構造記述子を用いて分子内の特徴的な原子配列や電荷情報を数値変換したものを説明変数、高分子の屈折率やガラス転移温度を目的変数として回帰式を作成し、高分子の屈折率やガラス転移温度を高精度に推定する手法が開示されている。また、出願人も、分子の部分構造と第一原理計算により得られたポリイミドの比誘電率をデータセットとして比誘電率の推定モデルを作成し、ポリイミドの比誘電率を高精度に推定する技術を開発し、公開している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-142782号公報
【特許文献2】特許第6823294号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ACS Omega 2018, 3, 10, 13374-13386
【非特許文献2】J. Comput. Chem. Jpn., Vol. 18, No. 2, pp. 115-121 (2019)
【非特許文献3】2020年度 超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)成果報告会「高周波対応フレキシブル誘電材料の研究開発」日鉄ケミカル&マテリアル
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願の発明者らは、低伝送損失に寄与する材料開発を進める中で、前記の機械学習を使用した誘電正接の評価モデルを検討及び採用しながら、従来からの先技技術で開示されてきたアミノ化合物を用いた場合よりも低誘電正接を達成できるような新規なアミノ化合物について鋭意検討した結果、特定の多分岐アルキル構造を有するとともに、メチレン基に結合した第1級アミノ基を所定数有するアミノ化合物を用いることが有効であることを知見して、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、低誘電正接を達成できる新規なアミノ化合物及びそれを用いたポリイミドを提供することである。また、本発明の他の目的は、このような新規なアミノ化合物及びそれを用いたポリイミドの製造方法を提供することである。さらに、このような新規なアミノ化合物及びそれを用いたポリイミドの開発に際して、機械学習を使用した評価モデルを採用して伝送損失(例えば、誘電正接)の程度を評価する手法の提供もまた、本発明の目的とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕下記一般式(1)で表される構造を含む置換基を少なくとも2つ有するとともに、メチレン基に結合した第1級アミノ基を少なくとも2つ有するアミノ化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
〔2〕下記一般式(2)で表されることを特徴とする〔1〕に記載のアミノ化合物。
【化2】
[式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又は下記一般式(3)の置換基を表す。Rは炭素数1以上のアルキレン基である。]
【化3】
[式(3)中、Xは結合位置を示す。]
〔3〕下記一般式(4)で表されることを特徴とする〔1〕に記載のアミノ化合物。
【化4】
[式(4)中、C~Cは炭素原子を表し、C~Cの側鎖R11,R12,・・・,Rn1,Rn2は独立に水素原子又は下記一般式(1)の構造を含む置換基を表し、R11,R12,・・・,Rn1,Rn2に一般式(1)の構造を含む置換基を少なくとも2つ以上含む。また、nは6以上12以下の整数である。]
【化5】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
〔4〕ジアミン成分から誘導されるジアミン残基及びテトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有するポリアミド酸であって、
前記ジアミン成分が、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリアミド酸。
〔5〕ジアミン成分から誘導されるジアミン残基及びテトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有するポリイミドであって、
前記ジアミン成分が、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリイミド。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のアミノ化合物を製造する方法であって、次の(a)及び/又は(b)の手順を含むことを特徴とするアミノ化合物の製造方法。
(a):下記一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物と、脂肪族ジニトリルとを、強塩基を用いたカップリング反応を経由させたのちに、ニトリル基をアミノ基に変換すること。
(b):下記一般式(1)の構造を含む置換基と、エステル結合と、不飽和二重結合とを有する不飽和化合物を得たのちに、当該不飽和結合を介した二量化反応を行い、次いで、得られた前記不飽和化合物の二量体におけるエステル結合をアミド結合に変換する反応を経由したのちに、該アミド結合をアミノ基に変換すること。
【化6】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
〔7〕ジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物成分と、を反応させるポリアミド酸の製造方法であって、
前記ジアミン成分が、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のアミノ化合物を含有することを特徴とするポリアミド酸の製造方法。
〔8〕〔7〕に記載の方法で得られたポリアミド酸を、さらにイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアミノ化合物によれば、例えばポリイミドのような、樹脂組成物の硬化物の低誘電正接化を達成できる。また、本発明の製造方法によれば、そのようなアミノ化合物を製造することができる。さらには、本発明によれば、機械学習を使用した誘電正接の評価モデルを通じて、アミノ化合物及びそれを用いた樹脂組成物の硬化物の低伝送損失(例えば、低誘電正接)の程度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1で得られた化合物AのH-NMRスペクトルである。
図2図2は、実施例1で得られた化合物AのESI-MSスペクトルである。
図3図3は、誘電正接の推定モデルの作成において、教師データに含まれないポリイミド材料4種の誘電正接の実測値と推定値とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
<アミノ化合物>
本発明のアミノ化合物は、下記一般式(1)で表される構造を含む置換基を少なくとも2つ有するとともに、メチレン基に結合した第1級アミノ基を少なくとも2つ有する。
【化7】
[式(1)中、Xは結合位置を示す。]
【0014】
本発明のアミノ化合物は、分子中に、このような式(1)で表される構造を少なくとも2つ含むので、このような巨大な脂肪(炭化水素)鎖の存在によって、これを用いた分子それ自体及び樹脂組成物の硬化物等の誘電正接を小さくして、誘電特性の向上に寄与することができる。その理由は次のとおりと推察される。
すなわち、前記式(1)で表される構造は、巨大な脂肪(炭化水素)鎖であることから、分子の自由体積を大きくすることができると考えられ、自由体積を大きくすることで、極性基であるアミノ基及びこれに由来する基(例えば、ポリイミドとして用いられる場合はイミド基)の全体の体積に占める割合を低下させることができると考えられる。そうすると、分子(及び樹脂)全体の双極子モーメントを小さくすることができると考えられる。ここで、誘電正接に関しては、樹脂(誘電体)に電圧をかけた際に、双極子モーメントが電場に応答して運動することで電気エネルギーの一部が熱に変換されてロス(誘電損)が発生するが、この電気エネルギー損失の指標が誘電正接とされているところ、前記のような、自由体積の増大・双極子モーメントの低下が有効であると推察される。
【0015】
そして、このような式(1)で表される構造を含む置換基としては、この式(1)の基それ自体でもよく、また、この式(1)で表される構造が、結合位置Xを介して、式(1)を含む又は含まない他の基と結合したものであってもよい。他の基にも式(1)を含む場合の置換基の例としては、以下の式(3)の置換基などを挙げることができるがこれに制限されない。ここで、「他の基」としては、前記のものに制限されるものではなく、アミノ基以外の極性基が少ないか又は存在しない基であることが好ましく、より好ましくはヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であって、さらに好ましくは脂肪族炭化水素のみからなる基であることがよい。最も好ましくは、前記式(1)で表される構造を1つ又は複数有する脂肪族炭化水素のみからなる置換基を有することがよく、すなわち、アミノ化合物の分子全体として、前記式(1)で表される構造を2~12有する脂肪族炭化水素のみからなる(アミノ基を除く)アミノ化合物であることがよい。式(1)で表される構造の数を好ましい範囲にすることにより、アミノ基周辺のかさ高さを比較的抑えることができて、樹脂原料として用いる際の反応性を低下させることがないため好ましい。
【化8】
[式(3)中、Xは結合位置を示す。]
【0016】
また、本発明のアミノ化合物は、メチレン基に結合した第1級アミノ基を少なくとも2つ有する。
メチレン基に結合した第1級アミノ基を有するようにすることで、メチンや4級炭素にアミノ基が結合している場合に比べて、アミノ基近傍の構造のかさ高さを低くすることができると考えられ、それによって、アミノ基の隣の炭素が3級や4級炭素である場合と比較して、アミノ基を介した他の官能基(例えば、酸無水物基やエポキシ基など)との反応(接近)が行われ易くなると考えらえる。
【0017】
さらには、このようなアミノ基を少なくとも2つ有すると、ポリイミド、ポリアミド、エポキシなどの産業上有用な樹脂の材料として用いることができるため好ましい。好ましくは、アミノ化合物製造における経済性(あるいは難易度)等の理由から、このようなアミノ基を2~4個有するアミノ化合物であることがよく、より好ましくは2個である。
【0018】
そして、前記した構造的な特徴を有する本発明のアミノ化合物は、とくに制限されるものではないが、式(1)で表される構造の配置や、製造(合成)方法の予見性や合理性・効率性などの視点から、例えば、以下の一般式(2)又は(4)で表されるものを挙げることができる。
【化9】
【0019】
ここで、式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又は前記一般式(3)の置換基を表す。低誘電正接化のためには前記式(1)で表される構造が多いことが好ましく、R、Rがいずれも前記式(3)の置換基であることが好ましい。他方、前記したような、アミノ基と他の官能基などとの反応性の観点からすれば、R、Rのいずれか又は両方が水素原子であってもよく、本願発明の目的(低誘電正接化など)に応じて、適宜設定・変更することができる。
【0020】
また、式(2)中のRは炭素数1以上のアルキレン基である。Rとしては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、ヘキシレン基等の直鎖アルキレン基、好ましくは炭素数が1~14程度の直鎖アルキレン基であってもよく、また、イソプロピレン基、イソブチレン基、2-メチルプロピレン基等の、好ましくは炭素数が1~14程度の分岐鎖アルキレン基であってもよい。より好ましくは、炭素数が1~14程度の直鎖アルキレン基である。
【0021】
このような式(2)で表されるアミノ化合物は、制限されるものではないが、以下のような化合物A~Dを例示することができる。
【化10】
【化11】
【化12】
【0022】
一般式(4)で表されるアミノ化合物は以下で表される。
【化13】
【0023】
ここで、式(4)中、C~Cは炭素原子を表し、nは6以上12以下の整数である。
【0024】
また、式(4)中におけるC~Cの側鎖R11,R12,・・・,Rn1,Rn2は、独立に水素原子又は前記一般式(1)の構造を含む置換基を表し、R11,R12,・・・,Rn1,Rn2に前記一般式(1)の構造を含む置換基を少なくとも2つ以上含む。一般式(1)の構造を含む置換基については前述の定義と同様であるが、R11,R12,・・・,Rn1,Rn2において、前記一般式(1)の構造を含む置換基が2~8であることが好ましい。
【0025】
このような式(4)で表されるアミノ化合物は、制限されるものではないが、以下のような化合物E~Gを例示することができる。
【化14】
【0026】
本発明のアミノ化合物は、分子量が2000以下であることが好ましい。分子量が2000以下であると溶剤への溶解性の低下を防ぐことができ、樹脂原料として用いる際に好適である。
【0027】
本発明のアミノ化合物を樹脂原料等として用いる場合、他のアミノ化合物と併用することができる。その場合の本発明のアミノ化合物の含有量としては、適用される樹脂や用途にもよるが、低誘電正接化を好適に達成するためには、アミノ化合物全体に対して25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、本発明のアミノ化合物は混合物として使用してもよく、上記した例示化合物の混合物でも構わない。
【0028】
本発明のアミノ化合物は、その用途は制限されるものではなく、例えば、ポリイミドのジアミン成分、エポキシ硬化剤、ポリウレア原料、電子デバイス原料、樹脂改質剤、金属加工油、洗浄剤、添加剤、医薬品・農薬の中間原料などに用いることができるが、とりわけ低伝送損失(例えば、低誘電正接)が期待される電子デバイスの原料として広く使用することができ、ポリイミドのジアミン成分やエポキシ硬化剤として好適である。
【0029】
<アミノ化合物の製造方法>
本発明のアミノ化合物は、その製造方法は制限されず、公知の合成・製造技術を用いることができるが、低誘電正接に寄与するような自由体積が大きく尚且つ低極性の脂肪族骨格(t-ブチル基、メチル基、メチレン基など)を形成すること等の目的から、総じて、前記一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物を用いて、それを当該化合物どうしか、或いは他のアルキル鎖等と結合させて炭素-炭素結合を形成させてアミノ化合物の前駆体を得た後に、最後に当該前駆体中の所定の官能基をアミノ基に変換する手法を好適に用いることが好ましい。
【0030】
例えば、前記の一般式(2)及び(4)のアミノ化合物は、それぞれの一般式に包含される化学構造の共通性の観点から、次のような手順を含む方法により合成・製造することができるが、その限りでない。下記に示す製造方法のいずれか又はその全てを適宜採用することができ、さらには、公知の方法も適宜用いることができる。
【0031】
〔一般式(2)のアミノ化合物の製造例〕
一般式(2)のアミノ化合物は、前記一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物と、脂肪族ジニトリル化合物とを、強塩基を用いたカップリング反応を経由して結合させたのちに、ニトリル基をアミノ基に変換する手順を含むことが好ましい。
【0032】
式(2)のアミノ化合物を得ようとする場合、一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物としては、前記一般式(3)の置換基を有する化合物を用いることが好ましく、また、脂肪族ジニトリル化合物として式(2)中のRの構造を有する化合物を用いることが好ましい。このようにすることで、一般式(1)の構造を含む置換基(例えば、一般式(3)の置換基)である多分岐構造と、一般式(2)中のRの部分構造とを別個で導入・形成しつつも、強塩基を用いたカップリング反応によって、余分な極性官能基を導入せずに、炭素鎖を結合・伸長させることができる。さらには、予めニトリル基を持つものを用いることによって、カップリング反応の求核剤として、及び最終的に変換されるアミノ基の前駆体とすることができるため、好適である。
【0033】
一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物としては、例えば、イソステアリルアルコール、イソステアリン酸などを用いることができる。入手容易性などの理由から、好適には、一般式(3)の置換基を有する化合物としてイソステアリン酸(2,2,4,8,10,10-ヘキサメチルウンデカン-5-カルボン酸)を用いることがよい。この原料イソステアリン酸を、のちに脂肪族ジニトリルと反応させるために、段階的に塩素化や臭素化などの方法でハロゲン化させる手順を採用することができる。先ず、イソステアリン酸を還元剤によってアルコール化合物に還元する。この場合の還元剤としては、水素化アルミニウムリチウムなどを用いることができる。次いで、得られたアルコール体(以下の化合物2)を、トリフェニルホスフィンを用いながら四塩化炭素や四臭化炭素又はヨウ素などを作用させるアッペル反応によってハロゲン化物(以下の化合物3(臭素化物の例))を得ることができる。
【化15】
【0034】
他方、前記のとおり、一般式(2)中のRの部分構造を有しながらも、のちにアミノ基に変換できる化合物として、Rの構造を有する脂肪族ジニトリル化合物を用いる。Rについては前述の定義と同様であり、当該脂肪族ジニトリル化合物としては、例えば、プロパンジニトリル、ブタンジニトリル、ペンタンジニトリル、ヘキサンジニトリル、ヘプタンジニトリル、オクタンジニトリル、ノナンジニトリル、デカンジニトリル、ウンデカンジニトリルなどを用いることができる。
【0035】
次いで、前記で得られたハロゲン化物と、脂肪族ジニトリルとを反応(カップリング反応)させて、アミノ化合物の前駆体となる化合物(以下の化合物4)を得る。この反応に際して、前記の脂肪族ジニトリルを強塩基により、ニトリル基のα位炭素に結合している水素を引き抜く反応を行い、炭素アニオンを生成する。この場合の強塩基としては、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムテトラメチルピペリジンなどの求核性の低い強塩基を用いることができる。必要に応じて触媒などを用いてもよい。生成した炭素アニオンによる化合物3へのカップリング反応が求核付加的に起こり、下記の化合物4が得られる。そして、これにより得られた化合物4のニトリル基を、還元剤(例えば、水素化アルミニウムリチウム、ボラン-テトラヒドロフラン錯体など)により還元して、メチレン基に結合した第1級アミノ基に変換することで、例えば、脂肪族ジニトリルがデカンジニトリル(前記Rの炭素数が6)を用いた場合の前掲の化合物Aを製造することができる。
【化16】
【0036】
なお、脂肪族ジニトリルとして、グルタロニトリル(ペンタンニトリル)又はウンデカンジニトリルを用いた場合は、化合物Aの代わりに、それぞれ前掲の化合物B又は化合物Cを得ることができる。
【0037】
さらには、前記化合物4と化合物3とを混合して、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムテトラメチルピペリジンなどを反応させることで、化合物4に対して化合物3がカップリング反応した下記化合物5が得られ、前記同様に、そのニトリル基を前記の還元剤により還元して、メチレン基に結合した第1級アミノ基に変換することで、前掲の化合物Dを得ることができる。
【化17】
【0038】
なお、前記の製造方法の各工程では副生成物が生成する可能性があるが、通常行われるようなカラムクロマトグラフィーなどの精製手段を用いて精製することができる。
【0039】
〔一般式(4)のアミノ化合物の製造例〕
一般式(4)のアミノ化合物は、前記一般式(1)の構造を含む置換基と、エステル結合と、不飽和二重結合とを有する不飽和化合物を得たのちに、当該不飽和結合を介した二量化反応を行い、次いで、得られた前記不飽和化合物の二量体におけるエステル結合をアミド結合に変換する反応を経由したのちに、該アミド結合をアミノ基に変換する手順を含むことが好ましい。
【0040】
ここで、一般式(1)の構造を含む置換基を有する化合物を用いる意義や化合物の範囲などについては前記と同様である。一般式(4)に包含される化合物についてはその構造的な特徴として、主鎖であるC~Cの側鎖R11,R12,・・・,Rn1,Rn2において、一般式(1)の構造を含む置換基を少なくとも2つ以上有する構造を持つとともに、主鎖末端にはメチレン基に結合した第1級アミノ基を有するものであることから、一般式(1)の構造を含む置換基の多分岐構造の導入と、副反応を抑えつつ余分な極性官能基を導入せずに炭素鎖の結合・伸長とを行うことや、最終的なメチレン基に結合した第1級アミノ基への変換とを効率よく行う観点から、例えば、後述する手順を踏むことが効率的である。
【0041】
(化合物Eの製造例)
前記した化合物Eを例にとって、説明する。すなわち、原料化合物として、一般式(1)の構造を含む置換基を有するアルデヒド化合物を用いて、同じか又は異なるアルデヒド化合物をアルドール反応により二量化させる。一般式(1)の構造を含む置換基を有するアルデヒド化合物としては、3,5,5-トリメチルヘキサナールなどを挙げることができる。例えば、3,5,5-トリメチルヘキサナールをアルドール反応により二量化させ、下記化合物aを得る。この反応は、公知の手順・条件などを適宜採用することができるが、例えば、Bulletin of the Chemical Society of Japan, 1997, vol. 70, #8, p.1879-1886などを参照することができる。アルドール反応は一般的に構造異性体の混合物ができるが、本発明においては、必要な化合物を公知の方法で精製して合成手順を進めてもよく、混合物の状態で合成手順を進めてもよい。
【化18】
【0042】
次いで、得られた化合物aにおけるアルデヒド基だけをカルボン酸に変換し、それとともにカルボキシ基のエステル化を行って、下記化合物b(メチルエステルの例)を得る。エステル化により、以降の二量化反応において副反応を防止することができる。この反応は、例えば、Pinnik酸化反応を用いることができ、また、公知のアルキルハライドなどのエステル化剤による反応を用いることができ、さらには、公知の手順・条件なども適宜採用することができるが、例えば、Journal of Organic Chemistry; vol. 70; nb. 1; (2005); p.150-160などを参照することができる。
【化19】
【0043】
また、前記で得られた化合物aにおける水酸基を、例えば、トシル基、メシル基などの脱離能がよい置換基を導入したあとに、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンなどの求核性の低い強塩基のような化合物を用いた脱離反応を行うことにより、下記化合物cの不飽和化合物を得る。この反応についても、公知の手順・条件などを適宜採用することができるが、例えば、Synthesis, 2000, #9, p.1279などを参照することができる。
【化20】
【0044】
次に、活性白土などのような重合触媒を用いて、前記不飽和化合物(化合物c)の二量化反応を行う。不飽和二重結合を利用した二量化反応により、余計な極性基を残さずに炭素鎖を伸長できるため好ましい。重合触媒としては、液状又は固体状のルイス酸及びブレンステッド酸があげられるが、ブレンステッド酸の一種である固体酸触媒を用いるのが好ましく、活性白土(好ましくはモンモリロナイト系活性白土、ベントナイト系活性白土)、合成ゼオライト、シリカ/アルミナ、シリカ/マグネシア等が用いられる。これにより、化合物cの二量体である下記化合物dが得られる。この反応についても、公知の手順・条件などを適宜採用することができるが、例えば、特開平9-12712号公報などを参照することができる。
【化21】
【0045】
その後、水酸化ナトリウムなどを用いてエステル部位の加水分解を行った後、第1級アミドを形成させる。アミド結合形成には、例えば、硝酸マグネシウム6水和物などの触媒を用いて尿素などを作用させる。これにより、アミド化合物(下記化合物e)を生成することができる。この反応についても、公知の手順・条件などを適宜採用することができるが、例えば、Chem. Sci., 2020, 11, 5808-5818などを参照することができる。
【化22】
【0046】
そして、最後に、前記したような水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤を用いて、アミドをアミンに変換することで、メチレン基に結合した第1級アミノ基を有する目的のアミノ化合物を得ることができる(前掲の化合物E)。この反応についても、公知の手順・条件などを適宜採用することができるが、例えば、J. Med. Chem. 2018, 61, 9, 4004-4019などを参照することができる。
なお、この一連の製造方法の各工程でも副生成物が生成する可能性があるが、通常行われるようなカラムクロマトグラフィーなどの精製手段を用いて精製することができる。
【0047】
なお、一般式(4)に包含されるアミノ化合物として、例えば、前掲の化合物F及び化合物Gについても、前記の化合物Eの合成・製造手順に倣って以下のような手順により合成・製造することができるが、それに制限されない。
【0048】
(化合物Fの製造例)
3,5,5-トリメチルヘキサナールとアセトアルデヒドを物質量比1:1でアルドール反応により反応させ、下記化合物fを合成する。Pinnik酸化反応によりアルデヒドをカルボン酸に変換し、メチルエステル化合物を合成する。水酸基をトシル化し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)を用いて脱離反応を行うことで、アルケン(下記化合物g)を合成する。活性白土を触媒としてアルケン(下記化合物g)を二量化させ、下記化合物hを得る。化合物hのメチルエステル部位を水酸化ナトリウムで加水分解を行い、硝酸マグネシウム6水和物を触媒として尿素を作用させ、1級アミド(下記化合物i)を合成し、水素化アルミニウムリチウムを用いてアミドをアミンに変換することで、メチレン基に結合した第1級アミノ基を有する目的のアミノ化合物を得ることができる(前掲の化合物F)。この反応についても、前記した文献などを参照し、公知の手順・条件などを適宜採用することができる。
【化23】
【化24】
【0049】
(化合物Gの製造例)
3,5,5-トリメチルヘキサナールとアセトアルデヒドを物質量比1:1でアルドール反応により反応させ、下記化合物jを合成する。Pinnik酸化反応によりアルデヒドをカルボン酸に変換し、メチルエステル化合物(下記化合物k)を合成する。水酸基をトシル化し、ジアザビシクロウンデセン(DBU)を用いて脱離反応を行うことで、アルケン(下記化合物l)を合成する。活性白土を触媒として前掲のアルケン(前記化合物c)と下記アルケン(下記化合物l)とを反応させ、下記化合物mを得る。化合物mのメチルエステル部位を水酸化ナトリウムで加水分解を行い、硝酸マグネシウム6水和物を触媒として尿素を作用させ、1級アミド(下記化合物n)を合成し、水素化アルミニウムリチウムを用いてアミドをアミンに変換することで、メチレン基に結合した第1級アミノ基を有する目的のアミノ化合物を得ることができる(前掲の化合物G)。この反応についても、前記した文献などを参照し、公知の手順・条件などを適宜採用することができる。
【化25】
【化26】
【化27】
【0050】
<ポリアミド酸及びポリイミド並びにその製造方法>
前記のとおり、本発明のアミノ化合物は、低誘電正接を可能とすることから、ポリアミド酸及びポリイミドのジアミン成分として好適である。ジアミン成分として本発明のアミノ化合物を用いること以外は、公知の方法でポリアミド酸及びポリイミドを得ることができる。この場合、ジアミン成分として本発明のアミノ化合物は、前述のとおりの含有量で用いられることが好ましい。
【0051】
公知のとおり、ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物成分から誘導される4価の基であるテトラカルボン酸残基と、ジアミン成分から誘導される2価の基であるジアミン残基とを有して構成され、これらの構成成分が連結したものを1つの繰り返し単位としてみた場合に、その繰り返し単位の重合物から構成されるものである。また、本発明のポリイミドは、前記ポリアミド酸をイミド化してなるものである。いずれも公知の方法を用いて製造することができる。
【0052】
例えば、ポリイミド酸は、所定のテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分をほぼ等モルで有機溶剤中に溶解させ、通常0~100℃の範囲の温度で30分から24時間攪拌して重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、通常、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、γ‐プチロラクトン等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じて、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩などのフィラーやその他の成分を含有してもよい。
【0053】
ポリイミド酸及びポリイミドの合成において、テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分はそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。ジアミン成分として本発明のアミノ化合物を用いること以外は、テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、例えば、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等の物性を制御することができる。
【0054】
適用される樹脂や用途にもよるが、低誘電正接化を好適に達成するためには、ジアミン成分中において、本発明のアミノ化合物を25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
ここで、本発明のアミノ化合物以外のジアミン成分としては、ポリイミド酸及びポリイミドの製造に使用される公知のものを制限なく用いることができるが、芳香族ジアミン化合物が好ましい。また、脂肪族骨格を有するジアミン化合物を用いてもよい。例えば、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ‐α,α‐ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルベンゾチオフェンスルホン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。より好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3’-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールなどの芳香族ジアミン化合物や、ダイマージアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0055】
また、テトラカルボン酸二無水物成分は、ポリイミド酸及びポリイミドの製造に使用される公知のものを制限なく用いることができるが、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。また、脂肪族骨格を有するテトラカルボン酸の無水物を用いてもよく、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族鎖状テトラカルボン酸二無水物や、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、シクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(パラフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物、4,4’-(メタフェニレンジカルボニル)ジフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、4,4’-オキシジフタル酸ニ無水物(ODPA)、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、トリフルオロメチルベンゼン二無水物等が挙げられる。
【0056】
また、ポリアミド酸は、制限されないが、重量平均分子量が20,000~5,000,000の範囲内が好ましい。より好ましい下限は40,000、さらに好ましい下限は60,000である。また、より好ましい上限は1,500,000、さらに好ましい上限は1,000,000である。重量平均分子量が前記の下限値以上であることにより、イミド化後のフィルムが強靭になり、他方、重量平均分子量が前記上限値以下であることにより、ポリアミド酸溶液の粘度調整が行いやすくなるといった利点がある。
【0057】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0058】
樹脂フィルムとしてのポリイミドフィルムの形成方法については特に限定されないが、例えば、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を任意の基材上に塗布した後に熱処理(乾燥、硬化)を施して基材上にポリイミド層(又はポリアミド酸層)を形成した後、剥離してポリイミドフィルムとする方法を挙げることができる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。なお、樹脂フィルムとしては、単層又は複数層のポリイミド層を含むことができ、必要によりその他の層(材料)を設けてもよい。
【0059】
<機械学習による性能評価予測モデルについて>
機械学習による性能評価予測モデルについては、公知のものを用いることができ、さらには、目的などに応じて適宜変更や改変をしたものであってもい。例えば、高分子などの化合物を対象とする機械学習の手順としては、高分子やそのモノマーの分子構造情報と材料物性とを収集し、次いで高分子やそのモノマーの分子構造情報を数値(説明変数)に変換したのちに、説明変数と高分子の材料物性(目的変数)との関係性を推定モデルとして求める方法が一例として挙げられる。高分子やそのモノマーの分子構造を説明変数に変換する手法としては、たとえばRDKitなどのオープンソースのライブラリや、数密度ECFP法(Minami et al MRS Advances 2018 2975-2980)のような公知の手法を用いることができる。教師データを学習し、推定モデルを作成するためには、scikit-learnなどのオープンソースの機械学習ライブラリを用いることができ、目的の評価や材料開発に応じて適宜変更・改変して使用することができる。
【実施例0060】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0061】
実施例等に用いた化合物及び略号は、以下のとおりである。
・BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
・PMDA:ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物
・TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
・TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)
・m-TB:2,2’-ジメチルベンジジン
・DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
・下記化合物A~I
【0062】
【化28】
【化29】
【化30】
【0063】
【化31】
【0064】
【化32】
【0065】
[実施例1]
(化合物Aの製造)
アルゴンガス雰囲気下、反応容器に脱水テトラヒドロフランを仕込み、攪拌した。次に、氷冷下15℃以下で水素化アルミニウムリチウムを添加した。これに氷冷下5℃以下で、原料であるイソステアリン酸(2,2,4,8,10,10-ヘキサメチルウンデカン-5-カルボン酸)600gを滴下した。滴下終了後、室温に自然昇温し、終夜攪拌した。反応液を氷冷し、テトラヒドロフラン3Lで希釈した。硫酸ナトリウム10水和物600gを加えて攪拌し、クエンチした。反応液をろ過し、得られたろ液を濃縮し、無色オイル状の下記化合物2を501.2g得た。
次いで、アルゴンガス雰囲気下、反応容器に化合物2、四臭化炭素、脱水ジクロロメタン5Lを仕込み、攪拌した。これに氷冷下7℃以下で、トリフェニルホスフィン/ジクロロメタン溶液1.25Lを滴下した。滴下終了後、室温に昇温し、終夜攪拌した。反応液を濃縮し、得られた残渣にイソプロピルエーテル1.2L、ヘプタン5Lを加えて、50℃に加熱しながら撹拌した。溶液をろ過し、ろ液を濃縮し、オイル状の粗体を673g得た。これをカラムクロマトグラフィーにより精製(SiO, ヘプタン)し、無色オイルとして579.9gの下記化合物3を得た。
次いで、アルゴンガス雰囲気下、反応容器に原料であるデカンジニトリル、前記化合物3、脱水テトラヒドロフラン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素を仕込み、攪拌した。これに氷冷下5℃以下で、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドを滴下した。滴下終了後、室温に昇温し、終夜攪拌した。反応液を氷冷し、10%塩化アンモニウム水溶液5.4Lを滴下してクエンチした。分液処理にて有機層を分取した。得られた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で分液洗浄した後、有機層に乾燥剤として硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。乾燥剤をろ別し、ろ液を濃縮し、オイル状の粗体を得た。これをカラムクロマトグラフィーにより精製(SiO, ヘプタン/酢酸エチル=10/1)し、無色オイルとして205.2gの下記化合物4を得た。
そして、アルゴンガス雰囲気下、反応容器に前記化合物4、脱水ジエチルエーテルを仕込み、攪拌した。これに氷冷下8℃以下で、水素化アルミニウムリチウムを添加した。添加終了後、室温に昇温し、終夜攪拌した。反応液を氷冷し、12℃以下で蒸留水(35mL)、15%水酸化ナトリウム水溶液(35mL)、蒸留水(105mL)を順次滴下してクエンチを行った。析出物をろ別した。得られたろ液に乾燥剤として硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。乾燥剤をろ別し、ろ液を濃縮し、201gの前掲の化合物Aの粗生成物を得た。粗生成物にジエチルエーテル1L、活性炭(20g)を加えて攪拌した。ろ過にて活性炭を除去し、ろ液を濃縮して、薄緑色オイルとして197.7gの前掲の化合物Aを得た。
【0066】
【化33】
【化34】
【0067】
H-NMR、ESI-MS)
得られた化合物Aについて、H-NMR及びESI-MS測定により同定を行った。手順は以下のとおりである。
H-NMR測定:化合物AをCDClに溶解し、溶液をNMR管に移し、測定した。日本電子製FT-NMR装置(JNM-ECA 400)を用いて測定した。結果は以下のとおりである。図1にスペクトルを示した。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=2.7~2.4(m,4H),1.4~0.8(m,92H)
【0068】
ESI-MS:化合物Aをメタノールに溶解して測定に供した。Waters社製SQD2(シングル四重極質量分析計)を用いた。図2にスペクトルを示した。化合物Aのm/z=677.7(M+1)が確認された。
【0069】
[実施例2、比較例1]
(化合物Aと酸二無水物を用いたポリイミドの製造方法)
BTDA、DDA、化合物Aを表1の物質量比になるように混合し、N-メチル-2-ピロリドン及びキシレンを装入し、40℃でよく混合して、実施例2及び比較例1の各ポリアミド酸溶液を得た。これらの各ポリアミド酸溶液を撹拌しながら190℃に昇温し、N-メチル-2-ピロリドン及びキシレンを加えてそれぞれポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は約43000(実施例2)、約58000(比較例1)であった。
【0070】
(ポリイミドの誘電正接の評価)
得られたポリイミド溶液を離型フィルムの片面に塗布し、80℃で乾燥を行い、ポリイミドフィルム1を得た。
誘電正接は、Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C及びSPDR共振器を用いて、所定の周波数における樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の比誘電率及び誘電正接を測定した。なお、測定に使用した樹脂シートは、温度;23℃、湿度;50%の条件下で、48時間放置したものである。
【0071】
【表1】
【0072】
[誘電正接の推定モデルの作成]
ポリイミド分子構造の構造記述子を説明変数に、10GHzにおける誘電正接の実測データを目的変数として、Lasso回帰法により種々のポリイミド材料の教師データを学習し、誘電正接推定モデルを作成した。
この推定モデルを用いて、教師データに含まれないポリイミド材料4種の誘電正接を推定し、実測値と比較した。ポリイミド材料4種は前記と同様の方法でポリイミドフィルムとして作製して評価した。その結果、表2及び図3に示すように、誘電正接の実測値と誘電正接の推定値は良い一致を示した。実測値と推定値から計算した決定係数は0.97であった。なお決定係数とは、残差平方和を全平方和で割った値を、1から引いた数値であり、推定値が実測値をどの程度説明しているかを表す指標である。一般に、決定係数が0.5以上なら説明能力があり、1に近いほどその説明能力が高いとされていることから、今回作成した推定モデルの実測値に対する説明能力は十分高いと考えられる。
以上のことから、今回作成した推定モデルを用いることで、分子構造から誘電正接を精度よく推定することが可能である。
【0073】
【表2】
【0074】
[実施例3~9、比較例2~3]
そして、前記したアミノ化合物(化合物A~I)の構造について、この推定モデルを用いて、以下の組成について、誘電正接を推定した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表3の結果から、一般式(1)の構造を所定数有する本発明に係るアミノ化合物(化合物A~G)を使用したポリイミドフィルムは、公知のアミノ化合物である化合物H又は化合物Iを用いた場合よりも、誘電正接に優れることが推測された。すなわち、今回作成した誘電正接推定モデルの実測値に対する説明能力の十分な高さを踏まえれば、実際に合成及び評価した化合物Aも加えた際の対比として前記のような誘電正接の差異を確認できたことからすれば、本発明に係るアミノ化合物による低誘電正接化への寄与が十分に推認される。
図1
図2
図3