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特開2023-149190非水系二次電池用負極の製造方法、非水系二次電池用負極、および非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149190
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極の製造方法、非水系二次電池用負極、および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20231005BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/66 A
H01M4/64 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057628
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017DD05
5H017HH03
5H050AA02
5H050AA14
5H050BA17
5H050CB07
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA09
5H050EA23
5H050FA02
5H050FA05
5H050FA06
5H050GA02
5H050GA04
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA08
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させることができる負極およびその製造方法、ならびに、レート特性に優れる非水系二次電池を提供する。
【解決手段】樹脂と粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、1次シートを得る1次シート成形工程と、前記1次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記1次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、2次シートを得るスライス工程と、前記2次シートを焼成して非水系二次電池用負極材料シートを得る焼成工程と、カーボン材料およびバインダーを含むアンダーコート層形成用スラリー組成物を集電体上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜が乾固する前に、前記非水系二次電池用負極材料シートを前記塗膜に貼り付ける貼付工程とを含む、非水系二次電池用負極の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、1次シートを得る1次シート成形工程と、
前記1次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記1次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、2次シートを得るスライス工程と、
前記2次シートを焼成して非水系二次電池用負極材料シートを得る焼成工程と、
カーボン材料およびバインダーを含むアンダーコート層形成用スラリー組成物を集電体上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜が乾固する前に、前記非水系二次電池用負極材料シートを前記塗膜に貼り付ける貼付工程とを含む、非水系二次電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記2次シートが300℃以上2000℃以下の温度で焼成される、請求項1に記載の非水系二次電池用負極の製造方法。
【請求項3】
前記粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含む、請求項1または2に記載の非水系二次電池用負極の製造方法。
【請求項4】
集電体と、前記集電体の上に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の上に形成され、かつ、前記アンダーコート層に接着した負極合材層とを備え、
前記アンダーコート層はカーボン材料およびバインダーを含み、
前記負極合材層は粒子状炭素材料を含み、
前記粒子状炭素材料は、前記負極合材層の表面に対して垂直に配向しており、
前記負極合材層中の樹脂の含有割合は8質量%以下であり、
前記負極合材層は自立膜として存在する、非水系二次電池用負極。
【請求項5】
前記アンダーコート層の厚みが1μm以上15μm以下である、請求項4に記載の非水系二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極合材層の表面のX線回折における(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)が、1.1以上である、請求項4または5に記載の非水系二次電池用負極。
【請求項7】
前記負極合材層の密度が1.3g/cm以下である、請求項4~6のいずれか一項に記載の非水系二次電池用負極。
【請求項8】
前記負極合材層の厚みが80μm以上である、請求項4~7のいずれか一項に記載の非水系二次電池用負極。
【請求項9】
前記粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含む、請求項4~8のいずれか一項に記載の非水系二次電池用負極。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか一項に記載の非水系二次電池用負極を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用負極の製造方法、非水系二次電池用負極、および非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、二次電池の更なる高性能化を目的として、電極(正極、負極)などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン二次電池などの二次電池に用いられる負極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層(負極合材層)とを備えている。そして、この負極合材層(「負極活物質層」と称することもある)は、例えば、負極活物質と、必要に応じて用いられる結着材等の樹脂成分とを含んでいる。
【0004】
そこで、近年では、この負極合材層を改良することで、二次電池の性能を更に向上させる試みがなされている。例えば、特許文献1では、二次電池の出入力特性(レート特性)等を向上させる目的で、負極活物質層中の負極活物質の全量の少なくとも50個数%を、電荷担体の吸蔵および放出が行われる方向が集電体の表面に対して45°以上90°以下となるように配向させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/088540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように樹脂製バインダーを用いて負極を作製すると、このバインダー成分が負極活物質の電荷担体吸蔵/放出反応を阻害することで、二次電池のレート特性などの電池特性が悪化することが予想される。したがって、負極内のバインダー成分を極力少なくすることで電池特性を向上し得ることが期待される。一方で、負極合材層を良好に形成するためにはバインダーが必要となる。
【0007】
そこで、本発明者は、レート特性が良好な二次電池を得ることを期待して、バインダーを用いて作製した負極を高温で焼成することでバインダー成分を除去することを検討した。しかしながら、高温焼成によりバインダー成分を除去すれば二次電池のレート特性を向上できるものの、糊の役割をしていたバインダー成分の消失により接着性が低下することに起因して、負極の強度(耐衝撃性)が低下し、負極がセパレータとの貼り合わせ工程に耐えられないことがあることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させることができる負極およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、レート特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂および粒子状炭素材料を含む所定のシートを焼成してなる非水系二次電池用負極材料シート(以下、単に「負極材料シート」ともいう)を用いて負極を作製するに際して、所定のアンダーコート層を集電体上に設けると共に、このアンダーコート層の塗膜が乾固する前に(すなわち、ウェットな状態で)、負極材料シートをアンダーコート層に貼り合わせれば、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させ得る負極が得られることを見出した。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用負極の製造方法は、樹脂と粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、1次シートを得る1次シート成形工程と、前記1次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記1次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、2次シートを得るスライス工程と、前記2次シートを焼成して非水系二次電池用負極材料シートを得る焼成工程と、カーボン材料およびバインダーを含むアンダーコート層形成用スラリー組成物を集電体上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜が乾固する前に、前記非水系二次電池用負極材料シートを前記塗膜に貼り付ける貼付工程とを含むことを特徴とする。このように、アンダーコート層を集電体上に設けると共に、該アンダーコート層となる塗膜が乾固する前に、所定の負極材料シートを該塗膜に貼り付ければ、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させ得る負極を製造することができる。
なお、本発明において、「塗膜が乾固する」とは、アンダーコート層形成用スラリー組成物からなる塗膜中に含まれている溶媒成分が70体積%以上除去されることをいう。
【0011】
本発明の非水系二次電池用負極の製造方法は、前記2次シートが300℃以上2000℃以下の温度で焼成されることが好ましい。このように、2次シートを上記所定の温度範囲内で焼成すれば、製造される負極材料シートの強度を十分に高く確保しつつ、非水系二次電池のレート特性を一層向上させることができる。
【0012】
本発明の非水系二次電池用負極の製造方法は、前記粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含むことが好ましい。このように、粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含めば、非水系二次電池に一層優れたレート特性を発揮させ得る。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用負極は、集電体と、前記集電体の上に形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の上に形成され、かつ、前記アンダーコート層に接着した負極合材層とを備え、前記アンダーコート層はカーボン材料およびバインダーを含み、前記負極合材層は粒子状炭素材料を含み、前記粒子状炭素材料は、前記負極合材層の表面に対して垂直に配向しており、前記負極合材層中の樹脂の含有割合は8質量%以下であり、前記負極合材層は自立膜として存在することを特徴とする。このように、集電体上の所定のアンダーコート層に所定の性状を有する負極合材層が接着していれば、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させ得る。
なお、本発明において、粒子状炭素材料の配向性、負極合材層中の樹脂の含有割合、および負極合材層の自立膜性は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
本発明の非水系二次電池用負極は、前記アンダーコート層の厚みが1μm以上15μm以下であることが好ましい。このように、アンダーコート層の厚みが上記所定の範囲内であれば、耐衝撃性に優れると共に、非水系二次電池に一層優れたレート特性を発揮させ得る。
なお、本発明において、アンダーコート層の厚みは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
本発明の非水系二次電池用負極は、前記負極合材層の表面のX線回折における(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)が、1.1以上であることが好ましい。このように、負極合材層の表面のX線回折における(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)が1.1以上であれば、非水系二次電池に一層優れたレート特性を発揮させ得る。
なお、本発明において、負極合材層の表面のX線回折における(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
本発明の非水系二次電池用負極は、前記負極合材層の密度が1.3g/cm以下であることが好ましい。このように、負極合材層の密度が上記上限値以下であれば、非水系二次電池に一層優れたレート特性を発揮させ得る。
なお、本発明において、負極合材層の密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
本発明の非水系二次電池用負極は、前記負極合材層の厚みが80μm以上であることが好ましい。このように、負極合材層の厚みが上記下限値以上であれば、非水系二次電池を高容量化することができる。
なお、本発明において、負極合材層の厚みは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
本発明の非水系二次電池用負極は、前記粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含むことが好ましい。このように、粒子状炭素材料が鱗片状黒鉛を含めば、非水系二次電池に一層優れたレート特性を発揮させ得る。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述したいずれかの非水系二次電池用負極を備えることを特徴とする。このように、本発明の非水系二次電池は、上述した非水系二次電池用負極を備えているため、優れたレート特性を発揮し得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させることができる負極およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、レート特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の非水系二次電池用負極(以下、単に「負極」ともいう)の製造方法は、例えば、本発明の負極の製造に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう)は、本発明の負極を備えている。
【0022】
(非水系二次電池用負極の製造方法)
本発明の非水系二次電池用負極の製造方法は、(A)樹脂と粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、1次シートを得る1次シート成形工程と;(B)1次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、1次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と;(C)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、2次シートを得るスライス工程と;(D)2次シートを焼成して非水系二次電池用負極材料シートを得る焼成工程と;(E)バインダーおよびカーボン材料を含むアンダーコート層形成用スラリー組成物を集電体上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と;(F)塗膜が乾固する前に、非水系二次電池用負極材料シートを該塗膜に貼り付ける貼付工程と、を含む。なお、本発明の非水系二次電池用負極の製造方法は、任意で、上記(A)~(F)以外のその他の工程を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の非水系二次電池用負極の製造方法によれば、耐衝撃性に優れ、かつ、二次電池に優れたレートを発揮させ得る二次電池用負極を製造することができる。そして、本発明の非水系二次電池用負極の製造方法によれば、本発明の二次電池用負極を効率よく製造することができる。
【0024】
<(A)1次シート成形工程>
1次シート成形工程では、樹脂と粒子状炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、1次シートを得る。
【0025】
<<組成物>>
上記組成物は、樹脂と粒子状炭素材料とを含む。なお、上記組成物は、繊維状炭素材料を更に含んでいてもよい。また、上記組成物は、樹脂、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料以外の成分(その他の成分)を更に含んでいてもよい。
【0026】
[樹脂]
樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂および固体樹脂のいずれも用いることができる。なお、樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、樹脂としては、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。なお、樹脂として液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整することができる。なお、樹脂全体に占める液状樹脂の含有割合が高いほど、1次シート内における粒子状炭素材料の充填率を容易に上げることができる。一方、樹脂全体に占める固体樹脂の含有割合が高いほど、一次シートの強度を上げることができる。
【0027】
‐液状樹脂‐
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0028】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)、ポリブテンが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
‐固体樹脂‐
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0030】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0031】
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料は、非水系二次電池の負極活物質として、リチウム等の電荷担体を吸蔵および放出し得る、炭素原子含有物質から形成される粒子状材料である。粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、黒鉛、カーボンブラック等が挙げられる。黒鉛としては、由来によって、天然黒鉛および人造黒鉛が挙げられる。また、黒鉛としては、形態的特徴によって、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛(鱗状黒鉛)、土状黒鉛、薄片化黒鉛等、球状黒鉛(楕円状黒鉛)が挙げられる。また、黒鉛は、処理が施されていてもなくてもよい。処理が施された黒鉛としては、例えば、酸処理黒鉛(例、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛)等が挙げられる。カーボンブラックは、黒鉛質の炭素微結晶が数層集まって乱層構造を形成した集合体であり、具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、主成分である炭素元素と異なるヘテロ元素(例、ケイ素、窒素、ホウ素等)を含有してもよい。これらの粒子状炭素材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
粒子状炭素材料は、鱗片状黒鉛を含むことが好ましく、鱗片状黒鉛からなることがより好ましい。鱗片状黒鉛を用いれば、得られる負極材料シート中での垂直方向への優れた配向性を得ることができ、その結果、二次電池のレート特性を更に向上させることができるからである。また、鱗片状黒鉛を用いれば、充填性および密着性が向上し、その結果、負極活物質同士の接合強度が更に向上して得られる負極材料シートの強度を更に向上させることができるからである。なお、鱗片状黒鉛としては、例えば、日本黒鉛工業株式会社製「UP20α」等が挙げられる。
【0033】
粒子状炭素材料の体積平均粒子径は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることが更に好ましく、12μm以上であることが一層好ましく、16μm以上であることがより一層好ましく、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが一層好ましい。粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、負極材料シートの密度が適度に低下することにより、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池のレート特性を更に向上させることができる。一方、粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、負極材料シートの密度が適度に高まることにより、得られる二次電池を高容量化することができる。
なお、本発明において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0034】
また、粒子状炭素材料は、アスペクト比(長径/短径)が、1.2超であることが好ましく、1.5超であることがより好ましく、3以下であることが好ましく、2.1以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料のアスペクト比が上記所定の範囲内であれば、負極材料シートの表面に対する粒子状炭素材料の配向角度が所望の範囲に容易に収まることから、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池のレート特性を更に向上させることができる。
本発明において、粒子状炭素材料のアスペクト比は、粒子の断面積が最大となる平面における短軸長に対する長軸長の比(すなわち、最大長軸長/最大短軸長)をいう。測定が容易であり測定誤差を低減する観点からは、粒子状炭素材料のアスペクト比は、鱗片状黒鉛の最大長軸長および最大短軸長を用いて求めることが好ましい。粒子の寸法を測定する装置は特に限定されず、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で好適に測定することができる。
【0035】
そして、組成物中の粒子状炭素材料の含有量は、樹脂100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、120質量部以上であることが更に好ましく、180質量部以上であることが一層好ましく、250質量部以上であることがより一層好ましく、500質量部以下であることが好ましく、450質量部以下であることがより好ましく、400質量部以下であることが更に好ましい。組成物中の粒子状炭素材料の含有量が上記下限以上であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に高めて、負極材料シートの強度を向上させると共に、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池を高容量化することができる。一方、組成物中の粒子状炭素材料の含有量が上記上限以下であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に低下させて、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池のレート特性を更に向上させると共に、当該二次電池の電解液注液性を高めることができる。
【0036】
また、組成物中の粒子状炭素材料の体積は、樹脂および粒子状炭素材料の合計体積に対して、25体積%以上であることが好ましく、37体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましく、53体積%以上であることが更に好ましく、75体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、65体積%以下であることが更に好ましい。組成物中の樹脂および粒子状炭素材料の合計体積に占める粒子状炭素材料の体積の割合が上記下限以上であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に高めて、負極材料シートの強度を向上させると共に、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池を高容量化することができる。一方、組成物中の樹脂および粒子状炭素材料の合計体積に占める粒子状炭素材料の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に低下させて、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池のレート特性を更に向上させると共に、当該二次電池の電解液注液性を高めることができる。
【0037】
[繊維状炭素材料]
組成物が任意に含み得る繊維状炭素材料は、得られる負極材料シートの強度を向上させ得る材料である。
繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、および、それらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ここで、上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、得られる負極材料シートの強度を更に向上させることができる。
【0039】
組成物中の繊維状炭素材料の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましい。組成物中の繊維状炭素材料の含有量が上記下限以上であれば、製造される負極材料シートの強度を高めることができる。一方、組成物中の繊維状炭素材料の含有量が上記上限以下であれば、製造される負極材料シート中の粒子状炭素材料の含有割合を十分に高く確保できるため、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池を十分に高容量化することができる。
【0040】
また、組成物中の繊維状炭素材料の含有量は、粒子状炭素材料100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい。組成物中の繊維状炭素材料の含有量が上記下限以上であれば、製造される負極材料シートの強度を高めることができる。一方、組成物中の繊維状炭素材料の含有量が上記上限以下であれば、製造される負極材料シート中の粒子状炭素材料の含有割合を十分に高く確保できるため、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池を十分に高容量化することができる。
【0041】
[その他の成分]
組成物が任意に含み得るその他の成分としては、例えば、シリコン活物質および分散剤が挙げられる。シリコン活物質および分散剤としては、特に限定されることはなく、既知のものを用いることができる。なお、組成物中のシリコン活物質および分散剤の含有量は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整することができる。
【0042】
また、1次シートとなる組成物中で、固形成分の合計体積(即ち、樹脂、粒子状炭素材料、および任意で追加した繊維状炭素材料、その他の成分の合計体積)に対する粒子状炭素材料の体積の割合(体積分率)は、25体積%以上であることが好ましく、37体積%以上であることがより好ましく、45体積%以上であることが更に好ましく、53体積%以上であることが一層好ましく、75体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、65体積%以下であることが更に好ましい。組成物中の樹脂および粒子状炭素材料の固形成分の合計体積に占める粒子状炭素材料の体積の割合が上記下限以上であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に高めて、負極材料シートの強度を向上させると共に、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池を高容量化することができる。一方、組成物中の樹脂および粒子状炭素材料の個性成分の合計体積に占める粒子状炭素材料の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される負極材料シートの密度を適度に低下させて、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池のレート特性を更に向上させると共に、当該二次電池の電解液注液性を高めることができる。
【0043】
[組成物の調製]
組成物は、特に限定されることはなく、上述した成分を混合することにより調製することができる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、粒子状炭素材料、ならびに任意で添加される繊維状炭素材料およびその他の成分と混合してもよい。なお、繊維状炭素材料として、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いる場合は、メチルエチルケトン等の溶媒にCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体と分散剤とを分散させてなる分散液を調製した後、当該分散液に少量の樹脂を添加し、溶媒を留去して得られるマスターバッチを、樹脂および粒子状炭素材料と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分間以上60分間以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上150℃以下とすることができる。
【0044】
<<組成物の成形>>
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、1次シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0045】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形(一次加圧)によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0046】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、1次シート成形工程で得られた1次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、1次シートを折畳または捲回して、樹脂および粒子状炭素材料を含む1次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、1次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて1次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、1次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、1次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに1次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、1次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0047】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された1次シート相互間の融着を促進することができる。
【0048】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.50MPa以下とすることができる。
また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。
さらに、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0049】
なお、1次シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、粒子状炭素材料が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。例えば、粒子状炭素材料が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、積層方向に略直交していると推察される。
【0050】
<(C)スライス工程>
スライス工程では、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる2次シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、2次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる
【0051】
なお、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
そして、このようにして得られた2次シートでは、厚み方向に粒子状炭素材料が良好に配向している。例えば、粒子状炭素材料が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、2次シートの厚み方向と略一致している。
【0052】
<(D)焼成工程>
焼成工程では、2次シートを焼成して、2次シートに含まれる樹脂を燃焼させて除去することにより、負極材料シートを得る。
【0053】
2次シートを焼成する際の加熱温度は、300℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましく、700℃以上であることが更に好ましく、2000℃以下であることが好ましく、1500℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることが更に好ましい。2次シートを焼成する際の加熱温度が上記下限以上であれば、製造される負極材料シート中の樹脂の含有割合を低減して、負極材料シートを備える負極を用いて製造した二次電池のレート特性を更に向上させることができる。一方、2次シートを焼成する際の加熱温度が上記上限以下であれば、過度な加熱によって製造される負極材料シートが有する構造等が損なわれることを抑制し、負極材料シートの強度を十分に高く確保することができる。
【0054】
なお、2次シートを焼成する際の加熱時間は、加熱温度に応じて調整可能であるが、例えば、30分間以上72時間以下とすることができる。
【0055】
<<負極材料シート>>
上述のようにして得られた負極材料シートは、粒子状炭素材料を含み、任意で、樹脂、繊維状炭素材料、および/またはその他の成分を更に含み得る。その他の成分としては、上述した<(A)1次シート成形工程>の項で説明したシリコン活物質などが挙げられる。
【0056】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料は、負極材料シートの表面に対して垂直方向に配向している。ここで、「垂直方向に配向している」とは、粒子状炭素材料の長軸が、負極材料シートの表面に対して、所定値以上の角度で配向していることをいう。粒子状炭素材料が負極材料シートの表面に対して垂直方向に配向していれば、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池のレート特性を更に向上させることができる。このような粒子状炭素材料の配向性は、例えば、粒子状炭素材料の配向角度の測定値を指標として評価することができる。なお、粒子状炭素材料の配向性は、例えば、上述した負極材料シートの製造工程、使用する粒子状炭素材料の性状(例えば、アスペクト比)、後述する1次シートの膜厚を始めとする成形条件、積層体の切断角度、および、焼成の条件(例えば、温度および時間)などによって調整することができる。
【0057】
粒子状炭素材料の配向角度を指標とする場合、粒子状炭素材料が負極材料シートの表面に対して垂直方向に配向していることとしては、負極材料シート中の粒子状炭素材料の配向角度は、負極材料シートの表面に対して、60°以上であることが好ましく、65°以上であることがより好ましく、70°以上であることが更に好ましく、90°以下であることが好ましい。粒子状炭素材料の配向角度が負極材料シートの表面に対して上記所定の範囲内であれば、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池のレート特性を更に向上させることができる。なお、本発明において、負極材料シートの表面に対する粒子状炭素材料の配向角度は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0058】
負極材料シート中の粒子状炭素材料の含有割合は、92質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%以下とすることができる。負極材料シート中の粒子状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、得られる二次電池のレート特性を更に向上させると共に、当該二次電池を高容量化することができる。
【0059】
[樹脂]
負極材料シートに任意で含まれる樹脂は、例えば、負極材料シートの前駆体である1次シートおよび2次シートを成形するために用いられた上述の樹脂のうちの一部が、焼成工程で燃焼せずに残存したものである。
【0060】
負極材料シートの樹脂の含有割合は、通常、8質量%以下であり、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。負極材料シート中の樹脂の含有割合が上記所定値以下であれば、リチウム等の電荷担体の移動を妨げ得る樹脂が少なくなることから、電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池に優れたレート特性を発揮させることができる。
また、負極材料シート中の樹脂の含有割合は、特に限定されず、0質量%以上とすることができる。そして、得られる二次電池のレート特性を更に向上させる観点から、負極材料シート中の樹脂の含有割合は0質量%であることが特に好ましい。
なお、負極材料シート中の樹脂の含有割合は、例えば、上述した負極材料シートの製造工程、使用する樹脂の種類および量、焼成の条件(例えば、温度および時間)などによって調整することができる。
【0061】
[繊維状炭素材料]
負極材料シートが繊維状炭素材料を含む場合、負極材料シートの繊維状炭素材料の含有割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.4質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。負極材料シート中の繊維状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、負極材料シートの強度を一層高めることができる。一方、負極材料シート中の繊維状炭素材料の含有割合が上記上限以下であれば、負極材料シート中の粒子状炭素材料の含有割合を十分に高く確保できるため、得られる二次電池を十分に高容量化することができる。
【0062】
[負極材料シートの表面の回折強度の比I(110)/I(004)]
負極材料シートの表面のX線回折における(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)は、1.1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、10以上であることが一層好ましく、20以上であることが特に好ましい。
ここで、負極活物質としての粒子状炭素材料は、そのX線回折パターンにおいて、(004)面に帰属するピークと(110)面に帰属するピークとが検出される。粒子状炭素材料の結晶構造における(110)面とは、炭素六員環からなる平面(すなわち、(004)面と等価な面)に垂直な面であることから、X線回折における(110)面のピーク強度と(004)面のピーク強度との比は、その粒子状炭素材料の結晶配向性を示す。そして、負極材料シートの表面のX線回折においてI(110)/I(004)の値が高いということは、負極材料シートの表面に垂直な方向(典型的には、負極の集電体の表面に垂直な方向に一致する。)への(004)面の配向性が高いことを示している。
したがって、回折強度の比I(110)/I(004)が上記所定値以上であれば、負極材料シートの表面に垂直な方向への(004)面の配向性が高まることから、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池は優れたレート特性を発揮することができる。
また、回折強度の比I(110)/I(004)は、特に限定されないが、90以下であることが好ましい。
なお、回折強度のI(110)/I(004)は、例えば、上述した負極材料シートの製造工程、使用する粒子状炭素材料の性状(例えば、アスペクト比)、後述する1次シートの膜厚を始めとする成形条件、および、焼成の条件(例えば、温度および時間)などによって調整することができる。
【0063】
[負極材料シートの密度]
負極材料シートの密度は、1.3g/cm以下であることが好ましく、1.26g/cm以下であることがより好ましく、1.23g/cm以下であることが更に好ましい。負極材料シートの密度が上記所定値以下であれば、負極材料シート中の空隙が増えることから、リチウム等の電荷担体の移動が容易になるため、得られる二次電池は優れたレート特性を発揮することができる。さらに、負極材料シートの密度が上記所定値以下であれば、負極材料シートの空隙が増えるため、得られる二次電池の電解液注液性を高めることができる。
また、負極材料シートの密度は、特に限定されないが、0.7g/cm以上であることが好ましく、0.85g/cm以上であることがより好ましく、1.05g/cm以上であることが更に好ましい。負極材料シートの密度が上記下限以上であれば、負極材料シートの強度を十分に高く確保することができる。また、負極材料シートの密度が上記下限以上であれば、得られる二次電池を高容量化することができる。
なお、負極材料シートの密度は、例えば、上述した負極材料シートの製造工程、使用する樹脂および粒子状炭素材料の種類、性状および量比、焼成の条件(例えば、温度および時間)などによって調整することができる。
【0064】
[負極材料シートの厚み]
負極材料シートの厚みは、80μm以上であることが好ましく、90μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが更に好ましく、また、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましい。負極材料シートの厚みが上記下限以上であれば、得られる二次電池を高容量化することができる。一方、負極材料シートの厚みが上記上限以下であれば、得られる二次電池を薄型化することができる。
【0065】
[負極材料シートの目付量]
負極材料シートの目付量は、7.5g/cm以上であることが好ましく、9g/cm以上であることがより好ましく、11g/cm以上であることが更に好ましく、12g/cm以上であることが一層好ましい。負極材料シートの目付量が上記所定値以上であれば、得られる二次電池を高容量化することができる。
また、負極材料シートの目付量は、特に限定されないが、30g/cm以下であることが好ましく、15g/cm以下であることがより好ましい。負極材料シートの目付量が上記所定値以下であれば、リチウム等の電荷担体の移動が容易になることから、得られる二次電池のレート特性を十分に高く確保することができる。
なお、本発明において、負極材料シートの目付量は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
<(E)塗膜形成工程>
塗膜形成工程では、アンダーコート層形成用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」ともいう)を集電体上に塗布して、スラリー組成物からなる塗膜を形成する。スラリー組成物は、特に限定されず、公知の方法を用いて塗布することができる。中でも、スラリー組成物はバーコート法により塗布することが好ましい。スラリー組成物の塗布量は、所望するアンダーコート層の厚み(乾燥後の厚み)に応じて適宜調整すればよい。
【0067】
<<スラリー組成物>>
上記スラリー組成物は、カーボン材料およびバインダーと、任意で、カーボン材料およびバインダー以外の成分(その他の成分)とを溶媒中で混合して調製することができる。これらの成分の混合は、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。
【0068】
[バインダー]
バインダーとしては、上述した「(A)1次シート成形工程」の項で挙げた樹脂を用いることができる。中でも、バインダーとしては、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。
【0069】
[カーボン材料]
カーボン材料としては、特に限定されないが、粒子状カーボン材料および繊維状カーボン材料が挙げられる。中でも、カーボン材料としては、粒子状カーボン材料および繊維状カーボン材料のうちの少なくとも1つを用いることが好ましく、粒子状カーボン材料を用いることがより好ましい。
【0070】
‐粒子状カーボン材料‐
粒子状カーボン材料としては、特に限定されないが、「(A)1次シート成形工程」の項で挙げた、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛(鱗状黒鉛)土状黒鉛、薄片化黒鉛等の球状黒鉛(楕円状黒鉛)、およびこれらを酸処理したもの(膨張性黒鉛、膨張化黒鉛)等を用いることができる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、得られる負極の耐衝撃性を更に高め、かつ、得られる二次電池のレート特性を更に高める観点から、粒子状カーボン材料としては膨張化黒鉛を用いることが好ましい。
また、得られる負極の耐衝撃性を更に高め、かつ、得られる二次電池のレート特性を一層高める観点から、粒子状カーボン材料の体積平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0071】
‐繊維状カーボン材料‐
繊維状カーボン材料としては、特に限定されないが、「(A)1次シート成形工程」の項で挙げた、カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることができる。中でも、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを用いることがより好ましい。
【0072】
[その他の成分]
その他の成分としては、スラリー組成物の塗工性を向上させるための増粘剤や、任意で含まれ得る繊維状の炭素ナノ構造体などを良好に分散させるための分散剤が挙げられる。
増粘剤としては、特に限定されることはなく、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩などが挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
また、分散剤としては、特に限定されることはなく、既知のものを用いることができる。
【0073】
[溶媒]
スラリー組成物に使用され得る溶媒としては、特に限定されず、水および有機溶媒の何れも使用することができる。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミン、ジメチルベンゼン(キシレン)、メチルベンゼン(トルエン)、シクロペンチルメチルエーテル、およびイソプロピルアルコールなどを用いることができる。中でも、水を用いることが好ましい。
また、これらの溶媒は、1種単独で、または2種以上を任意の混合比率で混合して用いることができる。
【0074】
[固形分濃度]
スラリー組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、スラリー組成物の塗工性を向上させる観点からは、35質量%以上58質量%以下であることが好ましい。
【0075】
<(F)貼付工程>
貼付工程では、上記(E)の工程で形成した塗膜が乾固する前に、上記(A)~(D)の工程を経て得られた負極材料シートをこの塗膜に貼り付ける。換言すると、貼付工程では、負極材料シートを、ウェットな状態のアンダーコート層に貼り付ける。塗膜が乾固した後に負極材料シートを貼り付けようとしても、負極材料シートとアンダーコート層との間の接着させることができず、得られる負極の耐衝撃性が悪化する。
負極材料シートを貼付ける際の、上記塗膜中に含まれていた溶媒成分の減少割合は、65体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることより好ましく、0体積%、すなわち溶媒成分が減少していない状態が特に好ましい。溶媒成分の減少割合が小さいほど、負極材料シートとアンダーコート層との間により高い接着性(密着性)が得られる。
負極材料シートの貼付けは、特に限定されず、例えば、負極材料シートを、乾固する前の塗膜(すなわち、ウェットな状態の塗膜)の上に載置し、該塗膜に対して押圧することにより行うことができる。
【0076】
<その他の工程>
その他の工程としては、上記(F)の工程を経て得られた、集電体、アンダーコート層、および負極材料シートから構成される積層電極(負極)を更に乾燥する乾燥工程が挙げられる。積層体の乾燥における温度は、例えば、10℃以上100℃以下とすることができ、乾燥時間は、例えば、1分間以上24時間以下とすることができる。また、乾燥は積層電極を加圧しながら行ってもよい。
【0077】
(非水系二次電池用負極)
本発明の非水系二次電池用負極は、集電体と、該集電体の上に形成されたアンダーコート層と、該アンダーコート層の上に形成され、かつ、該アンダーコート層に接着した負極合材層とを備えることを特徴とする。また、本発明の非水系二次電池用負極は、アンダーコート層がカーボン材料およびバインダーを含むことを特徴とする。さらに、本発明の非水系二次電池用負極は、負極合材層が粒子状炭素材料を含み、粒子状炭素材料が負極合材層の表面に対して垂直に配向しており、負極合材層中の樹脂の含有割合が8質量%以下であり、負極合材層が自立膜として存在することを特徴とする。そして、本発明の非水系二次電池用負極は、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させ得る。
【0078】
<負極合材層>
負極合材層は、粒子状炭素材料を含み、任意で、樹脂および繊維状炭素材料などのその他の成分を更に含み得る。負極合材層は、上述した「非水系二次電池用負極の製造方法」の項で説明した負極材料シートとすることができる。そして、負極合材層の性状および好ましい属性、並びに、負極合材層に含まれる各成分の性状および好ましい属性は、上述した負極材料シートのものと同じである。
【0079】
具体的には、負極合材層に含まれる粒子状炭素材料は負極合材層の表面に対して垂直に配向している。粒子状炭素材料が負極合材層の表面に対して垂直に配向していないと、得られる二次電池のレート特性が悪化する。また、負極合材層中の樹脂の含有割合は8質量%以下である。負極合材層中の樹脂の含有割合が8質量%を超えると、得られる二次電池のレート特性が悪化する。さらに、負極合材層中の粒子状炭素材料は鱗片状黒鉛を含むことが好ましい。
【0080】
ここで、負極合材層はアンダーコート層に接着している必要がある。具体的には、負極合材層は、アンダーコート層を介して集電体に貼り合わされている必要がある。負極合材層がアンダーコート層に接着していないと負極合材層が集電体と一体化せず、負極の耐衝撃性を確保することができない。接着は、例えば、上述したとおり、アンダーコート層形成用スラリー組成物の塗膜が乾固する前に負極材料シートを貼り付けることにより達成することができる。
【0081】
なお、負極合材層がアンダーコート層と接着しているか否かは、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0082】
そして、負極合材層は自立膜として存在する。負極合材層として負極材料シートを用いれば、負極合材層を良好に自立膜として存在させることができる。
負極合材層が自立膜であれば、負極を構成する部材を各々作製し貼り合わせることで負極を作製することができるため、生産性を向上させることができる。
【0083】
<アンダーコート層>
アンダーコート層は、カーボン材料およびバインダーを含み、任意で、カーボン材料およびバインダー以外の成分(その他の成分)を更に含む。カーボン材料、バインダーおよびその他の成分は上述した「非水系二次電池用負極の製造方法」の項目で説明したものを用いることができる。また、これらの成分の性状および好ましい属性も、「非水系二次電池用負極の製造方法」の項目で説明したものと同じである。
【0084】
<<カーボン材料>>
アンダーコート層に含まれるカーボン材料としては、特に限定されないが、粒子状カーボン材料および繊維状カーボン材料のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、粒子状カーボン材料を含むことがより好ましい。
アンダーコート層におけるカーボン材料の含有割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。アンダーコート層中のカーボン材料の含有割合が上記範囲内であれば、得られる二次電池のレート特性を更に高めることができる。
【0085】
<<バインダー>>
アンダーコート層に含まれるバインダーとしては、特に限定されないが、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)を含むことが好ましい。
アンダーコート層におけるバインダーの含有割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましい。アンダーコート層中のバインダーの含有割合が上記範囲内であれば、負極の耐衝撃性を向上させつつ、得られる二次電池のレート特性を更に高めることができる。
【0086】
<<その他の成分>>
アンダーコート層中におけるその他の成分の含有割合は、本発明の所望の効果が害されない範囲内で調整することができる。
【0087】
<<厚み>>
アンダーコート層の厚みは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましく、また、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。アンダーコート層の厚みが上記所定の範囲内であれば、負極の耐衝撃性を向上させつつ、非水系二次電池のレート特性を一層向上させることができる。
【0088】
<集電体>
集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の材料からなる集電体を用いることができる。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、上述した材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0089】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、上述した本発明の非水系二次電池用負極を備えることを特徴とする。
例えば、本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、負極として、本発明の非水系二次電池用負極を用いたものである。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用負極を用いているので、優れたレート特性を発揮することができる。以下、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合を例に挙げ、正極、電解液、およびセパレータについて記載するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0090】
<正極>
正極としては、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
なお、集電体としては、アルミニウム等の金属材料からなるものを用いることができる。また、正極合材層としては、既知の正極活物質と、導電材と、結着材とを含む層を用いることができる。
【0091】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。
【0092】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されず、既知のものを用いることができ、例えば、特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0093】
<非水系二次電池の製造方法>
本発明の非水系二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例0094】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。なお、実施例における各種の測定および評価は以下の方法に従って行った。
<X線回折>
負極材料シート(または塗布電極の負極合材層)の表面のX線回折は、PANalytical製「X’ Pert PRO MPD」を用いて行った。得られたピークの中から、(110)面に相当する2Θ=77度のピーク高さ(回折強度)、および、(004)面に相当する2Θ=54.5度のピーク高さ(回折強度)を用いて、(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)の値を算出した。
<樹脂の含有割合>
各実施例および比較例における配合、および焼成前後の重量の比較から、以下の数値を算出した。
理論残渣率=(粒子状炭素材料の合計値)÷(各配合の合計値)
実測残渣率=(焼成後重量)÷(焼成前重量)
樹脂の含有割合=1-(理論残渣率)÷(実測残渣率)
<粒子状炭素材料の配向角度>
負極材料シート(または塗布電極の負極合材層)中の粒子状炭素材料の配向角度は、負極材料シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、このときの倍率は700倍であった。この断面における粒子状炭素材料の長軸に50本線を引き、負極材料シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを負極材料シート(負極合材層)中の粒子状炭素材料の配向角度とした。
<厚み>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、負極材料シート(または塗布電極の負極合材層)の略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値(μm)を負極材料シート(負極合材層)の厚みとした。同様に、アンダーコート層の厚み(乾燥膜の厚み)を測定した。
<密度>
負極材料シート(または塗布電極の負極合材層)の質量、面積および厚みを測定し、質量を体積(=面積×厚み)で割ることにより、負極材料シート(負極合材層)の密度を算出した。
<目付量>
負極材料シート(または塗布電極の負極合材層)の密度に厚みを掛けることにより、負極材料シート(負極合材層)の目付量を算出した。
<負極合材層とアンダーコート層との接着の有無>
実施例および比較例で作製した負極(積層電極)を積層方向が水平方向と平行になるように水平な状態から90°傾けた際に、負極材料シート(または塗布電極)がアンダーコート層から離脱しなければ両者が接着していると判断し、負極材料シート(または塗布電極)がアンダーコート層から離脱した場合、両者は接着していないと判断した。
<耐衝撃性>
実施例および比較例で作製した各負極を13Φのハンドパンチ(野上技研製)で打ち抜いた。打ち抜いた時の負極の崩れ具合を下記基準に基づいて評価した。なお、負極合材層が集電体と一体になっていれば、打ち抜きの衝撃で負極が崩壊することはないが、接着が不十分な場合、打ち抜き時の衝撃で負極が崩れる。
A:打ち抜き後に負極合材層に欠けが一切見られない
B:打ち抜き時に負極合材層にクラックが入る
C:打ち抜き時に負極合材層に2つ以下の欠けが入る
D:負極が3個以上に分裂し、形を保てなくなる。
<自立膜性>
実施例および比較例で作製した各負極を直径10cmの円筒の表面に集電体を密着させるようにして這わせることで、負極材料シート(負極合材層)を集電体およびアンダーコート層から剥離させた。そして、負極材料シートのみが剥離される場合を、負極材料シート(負極合材層)が自立膜であると判断し、負極材料シート(負極合材層)がアンダーコート層と一体となって剥離される場合を、負極材料シート(負極合材層)が自立膜ではないと判断した。
なお、剥離したか否かの判別は目視で行ってもよいが、目視が困難な場合は走査型電子顕微鏡(SEM)等で解析を行ってもよい。
<レート特性>
<<電極評価用セルの製造>>
下記に示す構成で評価用のリチウムイオン二次電池のハーフセル(半電池)を作製した。なお、ハーフセルの作製は、各部材を17mmφサイズに打ち抜き、真空乾燥(120℃×10時間)した後、露点-80℃以下のドライボックス内にて行った。
〔ハーフセルの構成〕
作用極:負極(負極材料シートをアンダーコート層に貼り付けてなる負極、または、塗布電極をアンダーコート層に貼り付けてなる負極)
対極:Li金属
参照極:Li金属
セパレータ:ガラス不織布、ポリエチレン(PE)微多孔膜
電解液:濃度1.0MのLiPF溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を1体積%(溶媒比)含有)
<<充放電試験>>
得られた評価用のハーフセルについて、以下の条件1で充放電試験を行った。
(充放電試験条件)
(条件1)
充電条件:0.2C 充電電圧0.01V-CCCV(0.05Ccut)
放電条件:0.2C 終止電圧2.5V-CC
サイクル数:10サイクル
次いで、以下の条件2で更に充放電試験を行った。
(条件2)
試験温度:25℃
充電条件:0.2C 充電電圧0.01V-CCCV(0.05Ccut)
放電条件:2.0C 終止電圧2.5V-CC
サイクル数:10サイクル
試験温度:25℃
そして、0.2Cにおける放電容量(条件1にて測定)に対する2.0Cにおける放電容量(条件2にて測定)の割合を百分率で算出したもの(=(2.0Cにおける放電容量/0.2Cにおける放電容量)×100%)を充放電レート特性とし、下記基準で評価した。結果を表1に示す。充放電レート特性の値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能である(すなわち、レート特性に優れる)ことを示す。
A:充放電レート特性の値が65%以上
B:充放電レート特性の値が47.5%以上65%未満
C:充放電レート特性の値が30%以上47.5%未満
D:充放電レート特性の値が30%未満
【0095】
(実施例1)
<組成物の調製>
常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1312」、分解開始温度:336℃)140部と、常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 3350」、分解開始温度:375℃)140部と、粒子状炭素材料としての鱗片状黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、商品名「UP20α」、体積平均粒子径:20μm、アスペクト比=2)950部(全体を100体積部とした際に、60体積部に相当する量)とを加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、商品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。
【0096】
<1次シートの形成>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙1000μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.8mmの1次シートを得た。
【0097】
<積層体の形成>
続いて、得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約150mmの積層体を得た。
【0098】
<2次シートの形成>
その後、二次加圧された積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、縦150mm×横150mm×厚み0.10mmの2次シートを得た。
【0099】
<負極材料シートの作製>
その後、得られた2次シートを窒素雰囲気下にて1000℃で8時間焼成し、樹脂成分を燃焼させて除去することにより、負極材料シートを得た。得られた負極材料シートについて、(004)面の回折強度に対する(110)面の回折強度の比I(110)/I(004)、粒子状炭素材料の配向角度、厚み、密度、および目付量を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<アンダーコート層形成用スラリー組成物の調製>
平均粒径7μmの膨張化黒鉛(伊藤黒鉛社製:製品名「EC-1500」)を粉砕して平均粒径を1.5μmに調整した小粒径黒鉛粉末とバインダーとしてのスチレン‐ブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が100:0.2:0.2となるように配合した。得られた混合物を溶媒としての水に固形分濃度が27%になるように添加および混合し、アンダーコート層形成用スラリー組成物を得た。
【0101】
<積層電極(負極)の作製>
バーコーターNo.10(テスター産業社製、SA-203、No.10)を用いて、得られたアンダーコート層形成用スラリー組成物を集電体としての銅箔上に塗布して塗膜を得た。その後、塗膜が乾固しないうちに(溶剤減少率:10%)、塗膜に負極材料シートを載せ、次いで指で軽く押すことで、負極材料シートを塗膜と接着させた。なお、塗布から指での接着までの間は3秒であった。
そして、得られた積層体を、60℃で8時間真空乾燥させて、負極を得た。なお、アンダーコート層の乾燥膜厚は4μmであった。この負極を用いて各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例2)
アンダーコート層形成用スラリー組成物を塗布する際に、バーコーターNo.22(テスター産業社製、SA-203、No.22)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例3)
アンダーコート層形成用スラリー組成物を塗布する際に、バーコーターNo.6(テスター産業社製、SA-203、No.6)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例4)
負極材料シートを作製する際に、鱗片状黒鉛の配合量を950部から700部に変更(全体を100体積部とした際に、50体積部に相当する量)した以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1)
負極材料シートを貼り付ける前に、アンダーコート層形成用スラリー組成物の塗膜を60℃で8時間真空乾燥して乾固(溶剤減少率:90%)させた以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。なお、集電体である銅箔とアンダーコート層との間の接着は良好であったものの、負極材料シートとアンダーコート層との間の接着は全くなかったため、負極の耐衝撃性が悪かった。また、負極材料シートがアンダーコート層と接着しなかったため、ハーフセルを作製することができず、二次電池のレート特性を測定することができなかった。
【0106】
(比較例2)
実施例1で作製した負極材料シートに代えて、焼成をしなった二次シートをそのまま負極材料シートとして用いた以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。なお、負極材料シートを焼成しておらず、多量の樹脂成分を含むことから、負極が電極として作用せず、電池性能を全く示さなかった。
【0107】
(比較例3)
実施例1で作製した負極材料シートに代えて、下記のとおり調製した負極合材層用スラリー組成物をアンダーコート層上に塗布し、次いで得られた塗膜を乾燥することによりアンダーコート層上に負極合材層(厚み:108μm)が形成された塗布電極を製造した以外は実施例1と同様にして負極を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<負極合材層用スラリー組成物の調製>
実施例1で粒子状炭素材料として用いた鱗片状黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、商品名「UP20α」)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)とを、UP20α:CMC:SBR=97.5:1.0:1.5(質量比)となるように混合して、負極合材層用スラリー組成物を得た。
【表1】
【0108】
表1より、アンダーコート層形成用スラリー組成物からなる塗膜が乾固する前に、所定の二次シートを焼成してなる負極材料シートを該塗膜に貼り合わせて製造した負極を用いた実施例1~4では、負極の耐衝撃性が優れるとともに、非水系二次電池のレート特性が優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、耐衝撃性に優れ、かつ、非水系二次電池に優れたレート特性を発揮させることができる負極およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、レート特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。