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特開2023-149247回転軸の封止構造、ロータリーエンコーダおよびロータリーエンコーダの制御方法
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  • 特開-回転軸の封止構造、ロータリーエンコーダおよびロータリーエンコーダの制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149247
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】回転軸の封止構造、ロータリーエンコーダおよびロータリーエンコーダの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01D5/245 110X
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057717
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 泰之
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA41
2F077AA42
2F077NN02
2F077NN03
2F077NN04
2F077NN14
2F077NN17
2F077NN27
2F077PP01
2F077PP05
2F077PP19
2F077VV02
2F077VV03
2F077VV04
2F077VV08
2F077VV09
2F077VV13
2F077VV14
(57)【要約】
【課題】摩擦の低減、確実な内部保護およびコスト低減を両立する回転軸の封止構造を提供する。
【解決手段】第一シール手段は、リング状弾性シール部材と、回転軸の軸線に直交する方向に延在する座面部と、リング状弾性シール部材と座面部とを軸線に平行な方向において接離させる移動機構を有する。第二シール手段は、軸通し孔と回転軸との間に設けられた非接触シールである。リング状弾性シール部材と座面部とが接触して軸通し孔と回転軸との間の隙間が封止される第一シール状態と、移動機構によりリング状弾性シール部材と座面部とが離間し、非接触シールによって軸通し孔と回転軸との間の隙間が封止される第二シール状態と、があり、第一シール状態と第二シール状態とは、回転軸の回転速さに応じて切り替えられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
収容空間を画成するハウジング部と、
回転軸を通すために前記ハウジング部に設けられた軸通し孔と、
前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間をシールして前記収容空間を封止する封止手段と、を備えた回転軸の封止構造であって、
前記封止手段は、第一シール手段と、第二シール手段と、を備え、
前記第一シール手段は、
リング状弾性シール部材と、
前記回転軸の軸線に直交する方向に延在する座面部と、
前記リング状弾性シール部材または前記座面部を前記軸線に平行な方向に相対移動させて前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを軸線に平行な方向において接離させる移動機構と、を有し、
前記リング状弾性シール部材は、前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に隙間が介在しないように直接的または間接的に取り付けられ、
前記座面部は、前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか他方に隙間が介在しないように連続的または別体として設けられ、
前記第二シール手段は、前記軸通し孔と前記回転軸との間に設けられた非接触シールである
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転軸の封止構造において、
前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが前記軸線に平行な方向において接触して前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される第一シール状態と、
前記移動機構により前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが前記軸線に平行な方向において離間し、前記非接触シールによって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される第二シール状態と、があり、
前記第一シール状態と前記第二シール状態とは、前記回転軸の前記ハウジング部に対する相対回転速さに応じて切り替えられる
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転軸の封止構造において、
回転速さが所定値以下のときは、前記第一シール状態によって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止され、
回転速さが所定値を越えると、前記第二シール状態によって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の回転軸の封止構造において、
前記移動機構は、
前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に設けられ、回転軸に平行な方向にスライドまたは変形する変位部材を有し、
前記リング状弾性シール部材または座面部は、前記変位部材に設置されており、
さらに、前記移動機構は、
前記変位部材に対して前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが接触する向きに付勢力を掛ける付勢手段と、
前記付勢手段の付勢力に抗して前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが離間する向きに前記変位部材に力を掛けて、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる変位力付与手段と、を有する
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項5】
請求項4に記載の回転軸の封止構造において、
変位力付与手段は、アクチュエータである
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項6】
請求項4に記載の回転軸の封止構造において、
変位力付与手段は、温度に応じて変形する材料で形成された温度変形部材である
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項7】
請求項6に記載の回転軸の封止構造において、
当該回転軸の封止構造がさらにベアリングを有しており、
前記温度変形部材は、前記ベアリングに直接または間接的に接していて、
前記ベアリングの温度が前記温度変形部材に伝熱される
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の回転軸の封止構造において、
前記移動機構は、
前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に取り付けられ、回転軸に平行な方向にスライドまたは変形する変位部材を有し、
前記リング状弾性シール部材または座面部は、前記変位部材に設置されており、
前記変位部材が良熱伝導性材料で形成されており、
前記温度変形部材は、前記変位部材に直接または間接的に接していて、
前記変位部材の温度が前記温度変形部材に伝熱される
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項9】
請求項4に記載の回転軸の封止構造において、
変位力付与手段は、ハウジング部の外部にある手動操作部からの手動操作を前記変位部材に伝えて変位させる変位伝達機構部である
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の回転軸の封止構造において、
前記第二シール手段は、ラビリンスシールである
ことを特徴とする回転軸の封止構造。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、を備えた
ことを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項12】
請求項5に記載の回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、
前記アクチュエータを駆動制御する駆動制御部と、を備え、
前記駆動制御部は、前記回転検出手段によって検出された回転速さが所定値を超えたとき、前記アクチュエータを駆動して、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる
ことを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項13】
請求項5に記載の回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、
前記アクチュエータを駆動制御する駆動制御部と、を備えたロータリーエンコーダの制御方法であって、
前記駆動制御部には、前記アクチュエータの駆動を開始させる判断閾値として回転速さの所定値が予め設定されており、
前記駆動制御部は、
前記回転検出手段で検出される回転の検出値を時々刻々モニターし、
前記回転検出手段によって検出された回転速さが所定値を超えたとき、前記アクチュエータを駆動して、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる
ことを特徴とするロータリーエンコーダの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を有するとともに防水(防油、防塵)等を必要とする機器の封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の駆動制御に用いられるセンサ装置(例えばロータリーエンコーダ)は、加工用の切削液が掛かりやすい苛酷な環境下で使用されることが多いので、内部に液体や異物が侵入しないように、防水(防油、防塵)等の対策が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-292036
【特許文献2】特開2015-1505
【特許文献3】特開平7-239039
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転部品と固定部品との隙間をシールする方法としては、オイルシールといった部品を用いて回転部品と固定部品との隙間を封止してしまうことが一般的には行われる。しかし、例えば、高速回転で長時間運転をするような場合、このような封止では摩擦によるトルクや熱が発生してしまう。
一方、非接触シールとしては、磁性流体シール、ラビリンスシール、エアシールなどがある。
しかし、磁性流体シールは、その原理上、磁石を配置することが必要になるため、例えば、磁気式エンコーダのセンサ装置の防水には不適であるという欠点がある。
また、ラビリンスシールは、シール機能を発揮できる程度の回転が生じていなければシール機能が働かず、静止時や低速回転時にはセンサ装置(ロータリーエンコーダ)のセンサは保護されない。
また、エアシールの場合、エアを送出するホースやコンプレッサをセンサ装置(ロータリーエンコーダ)の数だけ用意しなければならず、その設備を用意したうえに逐一配管することには相当の手間とコストを要する。
すなわち、回転軸の封止構造において、摩擦の低減、確実な内部保護およびコスト低減をバランスをとりながら実現することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転軸の封止構造は、
回転軸と、
収容空間を画成するハウジング部と、
回転軸を通すために前記ハウジング部に設けられた軸通し孔と、
前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間をシールして前記収容空間を封止する封止手段と、を備えた回転軸の封止構造であって、
前記封止手段は、第一シール手段と、第二シール手段と、を備え、
前記第一シール手段は、
リング状弾性シール部材と、
前記回転軸の軸線に直交する方向に延在する座面部と、
前記リング状弾性シール部材または前記座面部を前記軸線に平行な方向に相対移動させて前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを軸線に平行な方向において接離させる移動機構と、を有し、
前記リング状弾性シール部材は、前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に隙間が介在しないように直接的または間接的に取り付けられ、
前記座面部は、前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか他方に隙間が介在しないように連続的または別体として設けられ、
前記第二シール手段は、前記軸通し孔と前記回転軸との間に設けられた非接触シールである
ことを特徴とする。
【0006】
本発明の一実施形態では、
前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが前記軸線に平行な方向において接触して前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される第一シール状態と、
前記移動機構により前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが前記軸線に平行な方向において離間し、前記非接触シールによって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される第二シール状態と、があり、
前記第一シール状態と前記第二シール状態とは、前記回転軸の前記ハウジング部に対する相対回転速さに応じて切り替えられる
ことが好ましい。
【0007】
本発明の一実施形態では、
回転速さが所定値以下のときは、前記第一シール状態によって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止され、
回転速さが所定値を越えると、前記第二シール状態によって前記軸通し孔と前記回転軸との間の隙間が封止される
ことが好ましい。
【0008】
本発明の一実施形態では、
前記移動機構は、
前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に設けられ、回転軸に平行な方向にスライドまたは変形する変位部材を有し、
前記リング状弾性シール部材または座面部は、前記変位部材に設置されており、
さらに、前記移動機構は、
前記変位部材に対して前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが接触する向きに付勢力を掛ける付勢手段と、
前記付勢手段の付勢力に抗して前記リング状弾性シール部材と前記座面部とが離間する向きに前記変位部材に力を掛けて、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる変位力付与手段と、を有する
ことが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態では、
変位力付与手段は、アクチュエータである
ことが好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態では、
変位力付与手段は、温度に応じて変形する材料で形成された温度変形部材である
ことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態では、
当該回転軸の封止構造がさらにベアリングを有しており、
前記温度変形部材は、前記ベアリングに直接または間接的に接していて、
前記ベアリングの温度が前記温度変形部材に伝熱される
ことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態では、
前記移動機構は、
前記回転軸の外側面と前記軸通し孔の内側面のうちのいずれか一方に取り付けられ、回転軸に平行な方向にスライドまたは変形する変位部材を有し、
前記リング状弾性シール部材または座面部は、前記変位部材に設置されており、
前記変位部材が良熱伝導性材料で形成されており、
前記温度変形部材は、前記変位部材に直接または間接的に接していて、
前記変位部材の温度が前記温度変形部材に伝熱される
ことが好ましい。
【0013】
本発明の一実施形態では、
変位力付与手段は、ハウジング部の外部にある手動操作部からの手動操作を前記変位部材に伝えて変位させる変位伝達機構部である
ことが好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態では、
前記第二シール手段は、ラビリンスシールである
ことが好ましい。
【0015】
本発明のロータリーエンコーダは、
前記回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、を備えた
ことを特徴とする。
【0016】
本発明のロータリーエンコーダは、
前記回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、
前記アクチュエータを駆動制御する駆動制御部と、を備え、
前記駆動制御部は、前記回転検出手段によって検出された回転速さが所定値を超えたとき、前記アクチュエータを駆動して、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる
ことを特徴とする。
【0017】
本発明のロータリーエンコーダの制御方法は、
前記回転軸の封止構造と、
前記ハウジング部の前記収容空間内に設置され、前記回転軸と前記ハウジング部との相対回転を検出する回転検出手段と、
前記アクチュエータを駆動制御する駆動制御部と、を備えたロータリーエンコーダの制御方法であって、
前記駆動制御部には、前記アクチュエータの駆動を開始させる判断閾値として回転速さの所定値が予め設定されており、
前記駆動制御部は、
前記回転検出手段で検出される回転の検出値を時々刻々モニターし、
前記回転検出手段によって検出された回転速さが所定値を超えたとき、前記アクチュエータを駆動して、前記リング状弾性シール部材と前記座面部とを離間させる
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第一実施形態に係るロータリーエンコーダの断面模式図である。
図2】第一実施形態において、リング状弾性シール部材と座面部との接触が解除された状態を例示した図である。
図3】第三実施形態の構成を例示する図である。
図4】第四実施形態の構成を例示する図である。
図5】第五実施形態の構成を例示した図である。
図6】第六実施形態の構成を例示した図である。
図7】第七実施形態の構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第一実施形態)
本発明の係る第一実施形態について説明する。
本発明は、回転軸を有するとともに防水(防油、防塵)等を必要とする機器の封止構造に係るものである。このような回転軸を有するとともに防水を必要とする機器としては、例えば、センサ装置であるロータリーエンコーダが例として挙げられる。ロータリーエンコーダを例として第一実施形態を説明する。
【0020】
図1は、ロータリーエンコーダ100の断面模式図である。
なお、図を見やすくするため、ハッチングを省略している。
ロータリーエンコーダ100は、収容空間230を画成するハウジング部200と、回転入力軸としての回転軸110と、回転検出センサ部214と、封止手段300と、を備える。
【0021】
ハウジング部200は、ベース部210と、キャップ部220と、を備える。
ベース部210は、円板状の平板体である。
キャップ部220は、筒状であり、筒部の下端側において径外方向に延在する取付フランジ部221を有する。
取付フランジ部221により、キャップ部220はベース部210に取り付け固定されている。
ベース部210の上面側にキャップ部220が被せられて、ベース部210とキャップ部220との間に収容空間230が画成される。
【0022】
なお、構造説明の便宜のため、「上」、「下」の用語を用いるが、実際にロータリーエンコーダ100が使用されるときの設置姿勢(向き)を限定するものではない。
【0023】
キャップ部220は、その上端面側に回転軸110を通すための軸通し孔222を有する。
回転軸110は、軸通し孔222を通して、先端側がハウジング部200から突出し、基端側がハウジング部200内に軸受けされた状態でロータリーエンコーダ100に取り付けられている。本実施例では、固定側がハウジング部200であって、固定側に対して回転軸110が回転するとする。すなわち、回転軸110の先端側は、必要なカップリング(軸継ぎ手)を介して回転測定の対象物に連結され、対象物の回転駆動に従動して回転軸110は回転する。(これは相対的なもので、この関係を逆にして、回転軸110を固定側に取り付け、ハウジング部200が回転対象物に取り付けられていてもよい。)
【0024】
ハウジング部200の内部において、固定側であるベース部210に軸ぶれを吸収するカップリング211(継ぎ手)が設置されており、このカップリング211にブラケット212が取り付けられている。そして、ブラケット212にベアリング213が設けられている。このベアリング213で回転軸110が軸受けされている。
【0025】
回転検出センサ部(回転検出手段)214は、スケール215と、検出ヘッド216と、を有する。スケール215は、回転軸110と一体的に回転するように設けられている。スケール215の周期パターンからスケール215の回転を読み取る検出ヘッド216がブラケット212に担持されている。回転検出センサ部214としては、光電式エンコーダ、静電容量式エンコーダ、電磁誘導式エンコーダ、磁気式エンコーダなど既知の検出方式を採用すればよい。
【0026】
回転検出センサ部214で検出された回転検出信号はロータリーエンコーダ100の外部に引き出されて、対象物の位置制御を行うコントローラーに入力されたり、位置データとして測定記録部に記録される。本実施形態では、さらに、回転検出センサ部214で検出された回転検出信号は、ロータリーエンコーダ100自身の封止構造(具体的にはアクチュエータ333)の制御にも利用される。
【0027】
封止手段300について説明する。
封止手段300は、軸通し孔222と回転軸110との間の隙間をシールして収容空間230を液密に封止するものである。本実施形態においては、封止手段300は、第一シール手段310と、第二シール手段340と、を備える。第一シール手段310は、回転軸110が回転していない(静止している)とき、および、回転速さがまだ所定値以下のときに軸通し孔222と回転軸110との間の隙間を接触式で封止するものである。
【0028】
第一シール手段310について説明する。
第一シール手段310は、回転軸110に取り付けられるリング状弾性シール部材311と、ハウジング部200に設けられた座面部320と、リング状弾性シール部材311を回転軸110の軸方向に変位させる移動機構330と、を有する。
【0029】
リング状弾性シール部材311は、リング状のリング胴部312と、リング胴部312の端面から軸線方向にやや傾斜して突き出るように形成されたリップ部(突き出し部)313と、を有する。リング状弾性シール部材311は全体が合成樹脂であってもよいし、全体が金属性であってもよいし、リング胴部312とリップ部313とのうちの一方が樹脂で他方が金属の組み合わせで構成されていてもよい。
【0030】
キャップ部220の上側端面には軸通し孔222が設けられており、すなわち、キャップ部220の上側端面は軸通し孔222(回転軸110と言い換えてもよい)の軸線に対して直交する方向に延在する平坦面となっている。ここに、本第一実施形態では、キャップ部220の上側端面がリング状弾性シール部材311のリップ部313を受ける(着座する)座面部320となっている。
【0031】
移動機構330は、回転軸110に外嵌して取り付けられた変位部材331と、変位部材331およびリング状弾性シール部材311を座面部320に向けて付勢するバネ332と、回転軸110の回転速さに応じて駆動されるアクチュエータ333と、アクチュエータ333を駆動制御する駆動制御部335と、を有する。
【0032】
変位部材331は、回転軸110に対して隙間無く外嵌される筒状の部材である。
変位部材331は、回転軸110に外嵌された状態で回転軸110と一体的に回転するが、回転軸110の軸線方向にわずかに変位できるようになっている。
ここでは、変位部材331は例えば金属材料で形成されており、回転軸110の外側面に隙間無く外嵌するように内側面が仕上げられているが、所定以上の力(静止摩擦を越える程度の力)で軸方向に押し引きされたときには、変位部材331は軸方向にスライド移動できるようになっている。
あるいは、変位部材331と回転軸110との間に柔らかい可撓性の樹脂を流し込んでおいて、この可撓性樹脂の変形可能範囲で変位部材331が回転軸110に対して変位できるとしてもよい。
変位部材331の外側面にリング状弾性シール部材311が外嵌している。これにより、リング状弾性シール部材311も変位部材331と一緒に軸方向に変位可能となり、リング状弾性シール部材311は座面部320に対して接離する方向に移動できるようになっている。
【0033】
付勢手段としてのバネ332は、変位部材331に対して付勢力を掛け、リング状弾性シール部材311のリップ部313を座面部320に向けて付勢する。本実施形態では、回転軸110から鍔112が延在しており、この鍔112と変位部材331との間にバネ(コイルバネ)332が介装されている。コイルバネ332とすることで、コイルバネ332の内側に回転軸110を通すようにして一つのコイルバネ332を設置することも出来るし、回転軸110の周囲に120度間隔や90度間隔で複数のバネを配置するようにしてもよい。
【0034】
アクチュエータ333は、変位部材331を間にして、コイルバネ332とは反対側に設置されている。アクチュエータ333は、コイルバネ332の付勢力とは反対向きの力で変位部材331を変位させるものであり、アクチュエータ333は、駆動制御部335からの駆動信号によって起動して変位部材331を変位させる。本実施形態では、アクチュエータ333は、進退するロッド334の先端で変位部材331を押すものである。回転軸110が回転するとき、アクチュエータ333は回転軸110と一緒に回転する。したがって、アクチュエータ333に対する給電および制御信号の伝達は、ワイヤレス通信(給電)(例えば非接触コイルによる伝送)で行うのがよい。
【0035】
なお、アクチュエータ333を回転軸110とともに回転させずに、ハウジング部200(例えばブラケット212)に固定的に設ける場合、アクチュエータ333(のロッド334の先端)と変位部材331との間に摩擦が生じることとなるので、その摩擦力をできるだけ小さくするのが望ましく、摩擦が生じる部分にベアリングを介装することがその摩擦低減手段として考えられる。例えば、アクチュエータ333(のロッド334の先端)と変位部材331との間にベアリングがあってもよいし、アクチュエータ333のロッド334の先端に回転するローラやボールを付けておくとしてもよい。
【0036】
また、アクチュエータ333は1つでもよいが、所定間隔(例えば120度間隔や90度間隔)で複数のアクチュエータ333を設けるようにしてもよい。
【0037】
駆動制御部335は、収容空間230内に配置されている。駆動制御部335のメモリには、アクチュエータ333の駆動を開始させる判断閾値として回転速さの所定値が予め設定されている。駆動制御部335は、回転検出センサ部214で検出される回転の検出値を時々刻々モニターし、回転速さが所定値を超えたとき、アクチュエータ333に駆動信号を与える。これにより、変位部材331とともにリング状弾性シール部材311の位置が回転軸110の軸方向に変位し、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触状態が解除される。逆に、回転速さが所定値以下になったとき、駆動制御部335はアクチュエータ333の駆動信号を停止して、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触状態を回復させる。駆動制御部335とアクチュエータ333との間の通信は、非接触の無線(ワイヤレス)通信で行われる。
【0038】
第二シール手段340は、非接触式のシール手段で、回転軸110の回転速さが所定値を超えたときにシール機能を発揮するもので、ここではラビリンスシール340である。
図1において、キャップ部220の軸通し孔222の出入り口に対向する位置に第一シール手段310が配設され、キャップ部220内においてブラケット212と回転軸110との間に第二シール手段340(ラビリンスシール340)が配設されている。言い換えると、出入り口に近位する側に第一シール手段310が配設され、出入り口から遠い方に第二シール手段340(ラビリンスシール340)が配設されている。ハウジング部200の内部において、第二シール手段340(ラビリンスシール340)を間にして、軸通し孔222の出入口とは反対側に回転検出センサ部214(回転検出手段)がある。よって、ハウジング部200の内部において、第二シール手段340(ラビリンスシール340)を間にして、軸通し孔222の出入口とは反対側の空間が防水、防塵等で封止保護された収容空間230ということである。(なお、ラビリングシール340の固定側部品(ブラケット212の外側面)とキャップ部220の内壁とは所定の方法で封止されている。)
【0039】
ラビリンスシール340から水(油、塵埃)をキャップ部220の外に排出する排出口341がキャップ部220の側面に設けられている。第一シール手段310としてのリング状弾性シール部材311と座面部320との接触が解除された場合、所定値を超える回転(高速回転)があれば、ラビリンスシール340によってキャップ部220の外に排出される。
【0040】
ここに、駆動制御部335のメモリに予め設定される「アクチュエータ333の駆動を開始させる判断閾値として回転速さの所定値」とは、第二シール手段340であるラビリンスシール340がシール機能を発揮できる回転速さのことである。あるいは、「アクチュエータ333の駆動を開始させる判断閾値として回転速さの所定値」とは、第二シール手段340であるラビリンスシール340がシール機能を発揮できる回転速さにさらに安全性を見込んで、その105%、110%、あるいは120%等に設定されてもよい。
【0041】
以上の構成を踏まえて本実施形態の封止手段300の作用は次のようになる。
まず、回転軸110が静止あるいは低速回転のとき、アクチュエータ333は駆動されない。このとき、変位部材331を介してコイルバネ332によってリング状弾性シール部材311は座面部320に押し付けられる。リング状弾性シール部材311と座面部320との接触状態により、ハウジング部200内の収容空間230は、軸通し孔222の出入り口のところでシールされた状態になる(第一シール状態)。
【0042】
基本的には、外部電源等の動力源がなくても、コイルバネ332の付勢力によってリング状弾性シール部材311は座面部320に押し付けられるから、特別なことをしなくてもロータリーエンコーダ100の収容空間230は液密に封止された状態を常時保つ。そして、回転軸110が回転を始めたとしても、その回転が低速回転であれば、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触によってロータリーエンコーダ100の収容空間230は液密に封止された状態を保つ。回転時にリング状弾性シール部材311と座面部320とが接触していると、そこに摩擦が生じるが、回転が低速であれば摩擦が対象物に与える影響は十分に小さいと考えられる。
【0043】
次に、回転測定対象物が回転駆動を行い、回転速さが所定値を越えた場合、駆動制御部335からアクチュエータ333に駆動信号が送られる。すると、コイルバネ332の付勢力に抗し、アクチュエータ333の力によって変位部材331とともにリング状弾性シール部材311の位置が回転軸110の軸方向に変位し、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触が解除される。図2は、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触が解除された状態を例示した図である。このとき、所定値を超える回転(高速回転)があれば、ラビリンスシール340によってハウジング部200内の収容空間230は液密に封止される(第二シール状態)。また、リング状弾性シール部材311と座面部320とは接触しないので、摩擦が生じることがなく、例えば、回転対象物の動きを阻害したり、あるいは、リング状弾性シール部材311が磨耗してシール機能が低下するというような不都合が生じなくなる。
【0044】
本第一実施形態では、座面部320とリング状弾性シール部材311のリップ部313とを軸線に平行な方向で相対移動させて接離させるものである。
これに対する比較例として、例えば、リング状接触式シールを径方向に広げたり縮めたりして、シール対象との接離を切り替えるという考え方もある。ただし、リング状接触式シールを径方向に頻繁に径大変形させると、シールの素材が劣化してしまって、例えば内径が大きくなって戻らなくなるなどの問題があり、すぐにシール機能が低下してしまう。そこでシール機能を長く保つために、接触式シールの素材として弾性がやや強いものを使用したり、予め内径がゆるむことを見越して内径が小さめのリング状シールを使いたくなるが、これは回転時に強い摩擦力を生じる一因になる。この点、本実施形態のように、座面部320とリング状弾性シール部材311のリップ部313とを軸線に平行な方向で相対移動させて接離させることとすれば、頻繁に接離が繰り返されてもリング状弾性シール部材311が劣化しにくく、意図した通りのシール機能が長く維持されるようになる。
【0045】
(第二実施形態)
上記第一実施形態では、回転軸110の回転速さが所定値を超えたときに、アクチュエータ333を駆動してリング状弾性シール部材311と座面部320との接触状態を解除するとした。
これは、一つの閾値でリング状弾性シール部材311と座面部320との接触/非接触を切り替えるという一段階の切り替え制御である。
第二実施形態としては、回転速さの判断閾値を複数段で設定しておき、回転速さの上昇に応じて、徐々にアクチュエータ333を駆動し、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触圧が徐々に(段階的に)弱くなるようにしてもよい。
非接触シール(ラビリングシール)のシール力は回転数に正相関(遠心力だとすれば角速度の二乗に相関)する。非接触シール(ラビリングシール)は、回転が与えられればその回転に応じたシール力を発揮するのであるから、接触式の第一シール手段310(リング状弾性シール部材311)によって生じる摩擦力の影響と、接触式の第一シール手段310と非接触式の第二シール手段340とを組み合わせたシール力と、のバランスを考慮して、回転速さの上昇に応じてリング状弾性シール部材311と座面部320との接触圧が徐々に(段階的に)弱くなるようにするとよい。
【0046】
このように回転速さの上昇に応じてリング状弾性シール部材311と座面部320との接触圧を徐々に(段階的に)調整できるのは、座面部320とリング状弾性シール部材311のリップ部313とを軸線に平行な方向で相対移動させて接離させる構成の方が好適であると考えられる。例えば、リング状接触式シールを径方向に広げたり縮めたりしてシール対象との接離を切り替える方式では、接触圧を徐々に(段階的に)調整する機構を盛り込むのは難しいと考えられる。
【0047】
アクチュエータ333の駆動制御は、予め決まったタイミングで駆動するようにプログラミングされたプログラムで制御されるとしてもよいし、回転対象物の回転駆動時は常にアクチュエータ333を駆動して第一シール手段310の接触を解除するとしてもよい。また、間欠駆動としてもよい。また、別途にキャップ部220内(あるいは収容空間230内)に液体検知センサを設けておいて、液体侵入とアクチュエータ333の駆動タイミングに相関を持たせたり、液体侵入をモニタリングすることでユーザの要望に応じて液体侵入がおこる現象のパターンを記録し、傾向を学習することで、あらかじめ液体侵入が起こりそうなタイミングを予測して変位部材331の位置変更(第一シール手段310の接離の切替)をしてもよい。
【0048】
(第三実施形態)
上記第一実施形態では、変位部材331は回転軸110に沿ってスライド移動するとしたが、例えば、変位部材331を可撓性や弾性をもつ材料・部材で形成して、変位部材331が回転軸110の軸線方向に変形可能になっていてもよい。
図3は、第三実施形態の構成を例示する図である。例えば、図3においては、変位部材331が弾性体であり、外縁寄りの位置がアクチュエータ333によって軸線方向に平行に押し上げられると、せん断ひずみが生じるように外側が持ち上がり、リング状弾性シール部材311と座面部320との接触が解除される。このような変位部材331は、合成樹脂(合成ゴム)でもよいし、単体の板バネでもよいし、平行板バネや、平行リンクでもよいだろう。この場合、例えば、変位部材331自身に「リング状弾性シール部材311と座面部320とが接触する向きに付勢力を掛ける付勢手段」が内在されていると考えて、別体としての付勢手段(コイルバネ332)を省略してもよい。
【0049】
(第四実施形態)
上記第一実施形態では、変位部材331は回転軸110側に取り付けられ、変位部材331によってリング状弾性シール部材311を軸方向に変位させるとした。
第四実施形態として、図4に例示するように、変位部材350によって座面部320を変位させるようにしてもよい。
図4は、第四実施形態の構成を例示する図である。
図4においては、リング状弾性シール部材311が回転軸110に直接外嵌され、変位部材350がキャップ部220の軸通し孔222の内側面に設けられ、この変位部材350に座面部320が連続的に設けられている。
変位部材350は、キャップ部220の軸通し孔222の内側に受け入れられる円筒形の胴体部351と、胴体部351から径外方向に突き出た鍔面部352と、を有する。
鍔面部352とキャップ部220の上端面内側との間に付勢手段としてのコイルバネ332が介装されている。また、鍔面部352を間にしてコイルバネ332とは反対側にアクチュエータ333が設けられている。
図4の例では、コイルバネ332は引張りバネであって変位部材350とともに座面部320を引き上げてリング状弾性シール部材311と座面部320とを接触させる。アクチュエータ333が駆動する際には変位部材350を引き下げることで座面部320とリング状弾性シール部材311との接触を解除する。
【0050】
なお、変位部材350とキャップ部220の内側面(あるいは軸通し孔222)との間は、隙間がないように仕上げられているとしてもよいし、可撓性の樹脂でシールしてもよい。
【0051】
(第五実施形態)
移動機構330の構成としては、上記第一から第四実施形態の他にも可能なバリエーションは有り得る。
例えば、図5に例示のように、座面部320が回転軸110から径外方向に延在し、変位部材331、350がキャップ部220の軸通し孔222の内側面に設けられ、この変位部材331、350にリング状弾性シール部材311が担持されてもよい。この他、部材(部品)の配置も、付勢手段(コイルバネ332)、変位付与手段(例えばアクチュエータ333)が押すあるいは引く方向も上記例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で位置や方向を適宜入れ替えることができる。
【0052】
また、回転軸110がベース部210も貫くような場合には、回転軸110とベース部210の軸通し孔222との間にも封止手段300を設けることとすればよい。
【0053】
(第六実施形態)
第六実施形態として、変位力付与手段が電気や油空圧といった動力源を使用するものではなくて、温度に応じて変形する材料で形成された温度変形部材である場合を説明する。
図6は第六実施形態の構成を例示した図である。
図6において、変位力付与手段である温度変形部材は、形状記憶合金バネ336であり、ここでは、形状記憶合金バネ336は、温度の上昇によって伸張して変位部材350を押し上げるとする。(さらに、形状記憶合金バネ336は、温度の低下によって縮んで変位部材350を積極的に引き下げるとしてもよい。)
【0054】
ここで、第二シール手段340(ラビリンスシール340)内の回転軸側部342に良熱伝導性材料(例えば金属や金属を混ぜた樹脂)が含まれている。また、第二シール手段340(ラビリンスシール340)内の回転軸側部342と回転軸110との間に良熱伝導性の部材が介在配置されていてもよい。なお、本第六実施形態では、ベアリング213が第二シール手段340(ラビリンスシール340)の直下に配置されている。
【0055】
変位部材331は、良熱伝導性材料(例えば金属や金属を混ぜた樹脂)で形成されている。また、リング状弾性シール部材311も良熱伝導性材料(例えば金属や金属を混ぜた樹脂)で形成されているとよい。
【0056】
そして、形状記憶合金バネ336は、変位部材331とラビリンスシール340の回転軸側部342との間に配設されている。ここに、形状記憶合金バネ336には、ベアリング213からの発熱と、リング状弾性シール部材311(あるいは座面部320)の発熱と、が伝熱するようになっている。また、第一シール手段310(リング状弾性シール部材311、座面部320)との接触封止が解除された状態のとき、例えば、冷却液(あるいは切削液)が侵入したりすると、形状記憶合金バネ336は冷やされることになる。
【0057】
第六実施形態の封止手段300の作用は次のようになる。
回転軸110が静止または低速回転のときは、付勢手段(コイルバネ332)の力によって変位部材331が押し下げられてリング状弾性シール部材311と座面部320とが接触した封止状態を保つ。回転軸110が回転し、高速回転がある程度継続されると、リング状弾性シール部材311またはベアリング213に発熱が生じ、その熱が形状記憶合金バネ336に伝熱する。すると、形状記憶合金バネ336が変位部材331を押し上げて、リング状弾性シール部材311と座面部320とが離間し、摩擦の発生がなくなる。このときは、収容空間230はラビリンスシール340によって封止される(第二シール状態)。
【0058】
ここで、例えば、冷却液(あるいは切削液)が多量に掛けられて、ロータリーエンコーダ100の設置個所にも冷却液が侵入してきたり、さらには、キャップ部220の内部に想定以上の冷却液が侵入してくるような場合、形状記憶合金バネ336が冷却されて縮むから、コイルバネ332によって変位部材331とリング状弾性シール部材311とが押し下げられてリング状弾性シール部材311と座面部320との接触封止が回復する(第一シール状態)。この構成によれば、動力源や電気的な制御手段なしでも、第一シール状態と第二シール状態とが自動的に切り替えられ、摩擦の低減とロータリーエンコーダ100の安全な封止保護とをバランスよく両立できる。
【0059】
(変形例1)
なお、上記実施形態では、形状記憶合金バネ336は、回転に伴う第一シール手段310および第二シール手段340の発熱によって変形するものとしたが、形状記憶合金バネ336の変形を積極的に駆動制御するようにしてもよい。例えば、変位部材331、良熱伝導性部材343、および/または、座面部320の温度を検出するように温度センサを設置しておき、(第一実施形態で説明した)駆動制御部335が温度センサからの温度データをモニタするように設ける。回転軸の回転に伴う発熱が温度センサで検出され、温度上昇が予め設定された所定値を越えたとき、駆動制御部335が形状記憶合金バネ336に対して積極的に所定時間、所定値の電流を印加し、形状記憶合金バネ336の抵抗熱(ジュール熱)によって形状記憶合金バネ336の変形を積極的に促すようにしてもよい。
【0060】
(第七実施形態)
第七実施形態としては、変位部材350の変位を手動で行うようにしてもよい。
図7は、第七実施形態の構成を例示する図である。
図7において、例えば回転テーブルの回転を検出するために回転テーブルの回転駆動軸にロータリーエンコーダ100が付設されている。ロータリーエンコーダ100には封止手段300が適用されている。
【0061】
キャップ部220と変位部材350とはネジ353で螺合しており、変位部材350を回転させることで変位部材350がネジ送りで上下動するようになっている。ここでは、キャップ部220の上端側の外周に雄ネジが設けられ、リング状に形成された変位部材350の内周に雌ネジが設けられ、キャップ部220と変位部材350とが螺合している。リング状の変位部材350の上端に座面部320が連続的に設けられている。座面部320は、変位部材350の上端において、回転軸に直交する方向に平行に設けられている。
【0062】
回転テーブルの筐体の外部に、第一シール手段310の接離を切り替えるつまみ(手動操作部)360が設けられている。つまみ360のシャフトの先端にかさ歯車361が設けられ、変位部材350の外側のエッジにかさ歯車354が設けられ、つまみ360のかさ歯車361と変位部材350のかさ歯車354とが螺合している。これにより、ユーザが横方向から手動操作でつまみ360を回すと、それに応じて変位部材350が回転し、変位部材350がキャップ部220に対して変位する。すなわち、変位部材350に付設された座面部320がリング状弾性シール部材311に対して相対変位し、第一シール手段310としての座面部320とリング状弾性シール部材311との接触と離間とが切り替え操作される。ここに、つまみ360のかさ歯車361、変位部材350のかさ歯車354、および、変位部材350とキャップ部220とのネジ353、により、手動操作を変位部材に伝えて変位部材350を変位させる変位伝達機構部が構成されている。
なお、つまみ360は変位部材350に追従して上下動あるいは傾斜(傾動)するようにしておき、つまみ360のかさ歯車361と変位部材350のかさ歯車354との螺合が外れないようにつまみ360のシャフトまたはかさ歯車361を変位部材350の側に向けてバネ(付勢手段)等で付勢するようにしておいてもよい。
この構成によれば、変位部材350の変位を手動で操作でき、第一シール手段310の接離をユーザが任意に操作することができる。
【0063】
本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100 ロータリーエンコーダ
200 ハウジング部
210 ベース部
211 カップリング
212 ブラケット
213 ベアリング
214 回転検出センサ部
215 スケール
216 検出ヘッド
220 キャップ部
221 取付フランジ部
222 軸通し孔
230 収容空間
110 回転軸
112 鍔
300 封止手段
310 第一シール手段
311 リング状弾性シール部材311
312 リング胴部
313 リップ部
320 座面部
330 移動機構
331 変位部材
332 バネ(コイルバネ)
333 アクチュエータ
334 ロッド
335 駆動制御部
336 温度変形部材(形状記憶合金バネ)
340 第二シール手段(ラビリンスシール)
341 排出口
342 第二シール手段(ラビリンスシール)の回転軸側部
343 良熱伝導性部材
350 変位部材
351 胴体部
352 鍔面部
353 ネジ
354 変位部材のかさ歯車
360 つまみ
361 つまみのかさ歯車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7