(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149363
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】吹出口部材および空調システム
(51)【国際特許分類】
E04H 3/22 20060101AFI20231005BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04H3/22
F24F13/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057893
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清
(72)【発明者】
【氏名】笠原 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】太田 望
(72)【発明者】
【氏名】段 宇惠
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩司
(72)【発明者】
【氏名】野部 達夫
【テーマコード(参考)】
3L080
【Fターム(参考)】
3L080BA07
3L080BA10
3L080BB04
(57)【要約】
【課題】利用者に新鮮空気を供給して他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システムを構築できる吹出口部材および空調システムを提供する。
【解決手段】新鮮空気を取り込む取込口21と取込口21の上方に設けられて新鮮空気を上方に吹き出す吹出口8と吹出口8の上方に設けられ吹出口8から吹き出された新鮮空気が沿って上昇するガイド面62を備えたガイド部6とガイド面62にガイドされて上昇した空気を衝突させて水平方向に拡散させる拡散面73を備えた拡散部7とを有し、ガイド面62は前方を向き上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前方に張り出す円弧面であり、拡散面73はガイド面62の前方かつガイド面62の上端部の高さに位置しガイド面62と交差する面であり、ガイド部6はガイド面62が後方に位置し拡散面73の後方に離れた第1姿勢とガイド面62が前方に位置し上端部が拡散面73と連続する第2姿勢とに切り替え可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方から前方に向かって低くなる階段状の段床に複数の座席が設けられる施設における一の座席の前方の段差の前方を向く起立面に設けられた新鮮空気を供給する供給口に取り付けられ、
前記新鮮空気を取り込む取込口と、
前記取込口の上方に設けられて前記取込口に供給された前記新鮮空気を上方に吹き出す吹出口と、
前記吹出口の上方に設けられ前記吹出口から吹き出された前記新鮮空気が沿って上昇するガイド面を備えたガイド部と、
前記ガイド面にガイドされて上昇した空気を衝突させて水平方向に拡散させる拡散面を備えた拡散部と、を有し、
前記ガイド面は、前方を向き、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前方に張り出す円弧面であり、
前記拡散面は、前記ガイド面の前方かつ前記ガイド面の上端部の高さに位置し、前記ガイド面と交差する面であり、
前記ガイド部は、前記ガイド面が後方に位置し前記拡散面の後方に離れた第1姿勢と、前記ガイド面が前方に位置し上端部が前記拡散面と連続する第2姿勢と、に切り替え可能である吹出口部材。
【請求項2】
前記拡散面の前縁部は、上下方向から見て、中間部が側端部よりも前方に張り出す円弧状である請求項1に記載の吹出口部材。
【請求項3】
前記ガイド面の両側方には、一対の側板部が設けられ、
前記ガイド面は、第1姿勢となると前記一対の側板部の後部側の間に配置され、前記第2姿勢となると前記一対の側板部の前縁部の間に配置される請求項1または2に記載の吹出口部材。
【請求項4】
前記ガイド部は、下部に設けられ、前記起立面に沿って水平に延びる回動軸を中心に回動して前記第1姿勢と前記第2姿勢とを切り替える請求項1から3のいずれか一項に記載の吹出口部材。
【請求項5】
前記ガイド部の前記第1姿勢と前記第2姿勢とを上方から切り替え可能である請求項1から4のいずれか一項に記載の吹出口部材。
【請求項6】
前記取込口の上方に位置し、前記取込口よりも前方に突出する突出板を有する請求項1から5のいずれか一項に記載の吹出口部材。
【請求項7】
下端部には、上下方向に貫通する孔部が形成された下板部が設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の吹出口部材。
【請求項8】
後方から前方に向かって低くなる階段状の段床に複数の座席が設けられる施設における一の座席の前方の段差の前方を向く起立面に設けられた新鮮空気を供給する供給口に取り付けられる吹出口部材を有し、
前記吹出口部材は、
前記新鮮空気を取り込む取込口と、
前記取込口の上方に設けられて前記取込口に供給された前記新鮮空気を上方に吹き出す吹出口と、
前記吹出口の上方に設けられ前記吹出口から吹き出された前記新鮮空気が沿って上昇するガイド面を備えたガイド部と、
前記ガイド面にガイドされて上昇した空気を衝突させて水平方向に拡散させる拡散面を備えた拡散部と、を有し、
前記ガイド面は、前方を向き、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前方に張り出す円弧面であり、
前記拡散面は、前記ガイド面の前方かつ前記ガイド面の上端部の高さに位置し、前記ガイド面と交差する面であり、
前記ガイド部は、前記ガイド面が後方に位置し前記拡散面の後方に離れた第1姿勢と、前記ガイド面が前方に位置し上端部が前記拡散面と連続する第2姿勢と、に切り替え可能である空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹出口部材および空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
階段状の段床に設けられた複数の座席を備える屋内施設の空調システムとして、床面の段差部に吹出口を設け、吹出口から吹き出された空気を座席の背もたれ部に沿って上昇させて上向きの気流を発生させる空調システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、新型コロナウイルスを原因とした感染症が発生し、不特定多数の人が集まる施設における飛沫感染や空気感染を介した感染症の拡大が懸念されている。このため、不特定多数の人が集まる施設における感染症の飛沫感染や空気感染の拡大を防止するために、利用者に新鮮空気を供給して他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システムを構築する必要がある。
【0005】
そこで本発明は、利用者に新鮮空気を供給して他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システムを構築できる吹出口部材および空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る吹出口部材は、後方から前方に向かって低くなる階段状の段床に複数の座席が設けられる施設における一の座席の前方の段差の前方を向く起立面に設けられた新鮮空気を供給する供給口に取り付けられ、前記新鮮空気を取り込む取込口と、前記取込口の上方に設けられて前記取込口に供給された前記新鮮空気を上方に吹き出す吹出口と、前記吹出口の上方に設けられ前記吹出口から吹き出された前記新鮮空気が沿って上昇するガイド面を備えたガイド部と、前記ガイド面にガイドされて上昇した空気を衝突させて水平方向に拡散させる拡散面を備えた拡散部と、を有し、前記ガイド面は、前方を向き、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前方に張り出す円弧面であり、前記拡散面は、前記ガイド面の前方かつ前記ガイド面の上端部の高さに位置し、前記ガイド面と交差する面であり、前記ガイド部は、前記ガイド面が後方に位置し前記拡散面の後方に離れた第1姿勢と、前記ガイド面が前方に位置し上端部が前記拡散面と連続する第2姿勢と、に切り替え可能である。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る空調システムは、後方から前方に向かって低くなる階段状の段床に複数の座席が設けられる施設における一の座席の前方の段差の前方を向く起立面に設けられた新鮮空気を供給する供給口に取り付けられる吹出口部材を有し、前記吹出口部材は、前記新鮮空気を取り込む取込口と、前記取込口の上方に設けられて前記取込口に供給された前記新鮮空気を上方に吹き出す吹出口と、前記吹出口の上方に設けられ前記吹出口から吹き出された前記新鮮空気が沿って上昇するガイド面を備えたガイド部と、前記ガイド面にガイドされて上昇した空気を衝突させて水平方向に拡散させる拡散面を備えた拡散部と、を有し、前記ガイド面は、前方を向き、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前方に張り出す円弧面であり、前記拡散面は、前記ガイド面の前方かつ前記ガイド面の上端部の高さに位置し、前記ガイド面と交差する面であり、前記ガイド部は、前記ガイド面が後方に位置し前記拡散面の後方に離れた第1姿勢と、前記ガイド面が前方に位置し上端部が前記拡散面と連続する第2姿勢と、に切り替え可能である。
【0008】
本発明では、供給口から供給され取込口から吹出口部材の内部に取り込まれた新鮮空気が、前方に張り出す、すなわち前方に凸となった円弧面であるガイド面に沿って上昇する。新鮮空気がガイド面に沿って上昇する際に、ガイド面の前方の空気が巻き込まれるため、風量が増加する。これにより、座席に着座する施設の利用者へ多くの新鮮空気を到達させることができ、他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システムを構築できる。その結果、座席が設けられる観客席などの換気効率が向上し、施設における感染症のマイクロ飛沫感染や空気感染の拡大を防止できる。
ガイド部が第1姿勢であると、ガイド面に沿って上昇する新鮮空気が拡散面に衝突せず拡散しないため、座席に着座する利用者が上昇してきた新鮮空気の噴流により気流感を得ることができる。ガイド部が第2姿勢であると、ガイド面に沿って上昇する新鮮空気が拡散面に衝突して拡散するため、新鮮空気を広い範囲に行き渡らせることができる。ガイド部が第2姿勢であると、ガイド部が第1姿勢である場合と比べて利用者に到達する新鮮空気の勢いが小さい。このため、利用者が新鮮空気の噴流により気流感を感じたい場合には、ガイド面を第1姿勢にし、利用者が新鮮空気の噴流を必要としない場合には、ガイド部を第2姿勢にすることが好ましい。ガイド部は、第1姿勢と第2姿勢とに切り替え可能であるため、利用者の好みに合わせた気流環境を形成できる。
【0009】
また、本発明に係る吹出口部材では、前記拡散面の前縁部は、上下方向から見て、中間部が側端部よりも前方に張り出す円弧状であってもよい。
【0010】
このような構成とすることにより、上昇して拡散板に衝突した空気が進む方向が広がり、より拡散させることができる。
【0011】
また、本発明に係る吹出口部材では、前記ガイド面の両側方には、一対の側板部が設けられ、前記ガイド面は、第1姿勢となると前記一対の側板部の後部側の間に配置され、前記第2姿勢となると前記一対の側板部の前縁部の間に配置されてもよい。
【0012】
このような構成とすることにより、ガイド部が第1姿勢となると、一対の側板部によってガイド面に沿って上昇する空気が側方に広がることを防止でき、新鮮空気を座席に着座する利用者へ到達させることができる。
【0013】
また、本発明に係る吹出口部材では、前記ガイド部は、下部に設けられ、前記起立面に沿って水平に延びる回動軸を中心に回動して前記第1姿勢と前記第2姿勢とを切り替えるように構成されていてもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、ガイド部を第1姿勢と第2姿勢に容易に切り替えられる。ガイド部を第1姿勢と第2姿勢に切り替える機構を簡便な構造にでき、製作やメンテナンスを容易にできる。
【0015】
また、本発明に係る吹出口部材では、前記ガイド部の前記第1姿勢と前記第2姿勢とを上方から切り替え可能であってもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、座席に着座する利用者が、吹出口部材の上方からガイド部を第1姿勢と第2姿勢とに容易に切り替えられる。
【0017】
また、本発明に係る吹出口部材では、前記取込口の上方に位置し、前記取込口よりも前方に突出する突出板を有していてもよい。
【0018】
このような構成とすることにより、吹出口部材の内部にゴミや液体などが入り込んだ場合に、そのゴミや液体などが突出板にあたるため、ゴミや液体などが取込口から供給口に入り込むことを防止できる。
【0019】
また、本発明に係る吹出口部材では、下端部には、上下方向に貫通する孔部が形成された下板部が設けられていてもよい。
【0020】
このような構成とすることにより、吹出口部材の内部にゴミや液体などが入り込んだ場合に、そのゴミや液体などを孔部から吹出口部材の外部に排出できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、利用者に新鮮空気を供給して他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による空調システムを示す図である。
【
図4】
図3のA-A線断面図であり、第1姿勢の吹出口部材の断面図である。
【
図9】寄与度を評価する実験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による吹出口部材および空調システムについて、
図1-
図7に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による吹出口部材1は、屋内施設11における空調システム12の供給口13に設けられる。屋内施設11は、例えば、屋内競技場、アリーナ等の観客を収容する施設である。屋内施設11は、映画館、劇場等であってもよい。供給口13は、屋内施設11における観客が収容される空間に新鮮空気を吹き出す。
【0024】
屋内施設11は、階段状の段床14と、段床14に設けられた多数の座席15と、を有している。座席15は、
図1に示す。段床14の段が連なる方向を前後方向と表記する。前後方向のうち、段床14が低い側を前側と表記し、段床14が高い側を後側と表記する。段床14における水平部分を水平部141と表記し、上下方向に延びる部分を起立部142と表記する。起立部142の表面を起立面143と表記する。起立面143の前面は、前方を向いている。前後方向に直交する水平方向を幅方向と表記する。図面では、幅方向を矢印Xで示し、前後方向を矢印Yで示し、上下方向を矢印Zで示す。
【0025】
供給口13は、起立面143に設けられている。新鮮空気は、供給口13から前方に吹き出される。吹出口部材1は、起立面143に取り付けられ、供給口13と接続されている。吹出口部材1の前には、座席15が設置されている。空調システム12では、吹出口部材1から吹き出される空気が上方に向かって吹出口部材1が設置された起立面143の後側に連続する水平部141に設置された座席15に着座した利用者に到達するように設定されている。
供給口13は、各座席15それぞれの前方の起立面143に1つずつ設けられている。吹出口部材1は、各座席15それぞれの前方に1つずつ設けられている。
以下の吹出口部材1の説明では、吹出口部材1が段床14の起立面143に取り付けられているものとする。
【0026】
図2から
図4に示すように、吹出口部材1は、背板部2と、一対の側板部3,3と、下板部4と、前板部5と、ガイド部6と、拡散部7と、を有している。背板部2は、起立面143に沿って配置される。一対の側板部3,3は、背板部2の幅方向の両側に設けられる。下板部4は、一対の側板部3,3の下端部の間に設けられる。前板部5は、一対の側板部3,3それぞれの前縁部の下部側の間に設けられる。ガイド部6は、一対の側板部3,3の間に前後方向に移動可能に設けられる。拡散部7は、一対の側板部3,3の上端部の間に設けられる。吹出口部材1を前後方向から見た正面視形状は、上下方向に延びる長方形状である。
【0027】
図5に示すように、背板部2は、平板状で、板面の形状が長方形状である。背板部2は、板面が前後方向を向き、上下方向に延びる姿勢で起立面143に沿って固定される。背板部2の下部側は、供給口13と重なる。背板部2における供給口13と重なる位置には、取込口21が設けられている。供給口13から供給された新鮮空気は、取込口21から吹出口部材1の内部に取り込まれる。本実施形態では、供給口13および取込口21は、四角形状であるが、四角形状に限定されず、円形であってもよい。
【0028】
図4に示すように、一対の側板部3,3は、それぞれ平板状で、板面が幅方向を向く姿勢で背板部2から前方に突出するように設けられる。一対の側板部3,3は、背板部2と上下方向の寸法が略同じである。一対の側板部3,3は、背板部2と同じ高さに配置される。本実施形態では、一対の側板部3,3がL字形状の金具9で起立面143に固定されことにより、段床14に固定される。金具9は、
図3に示す。
【0029】
側板部3の上下方向の中間部には、後部側に開口する切り欠き部37が形成されている。切り欠き部37は、側板部3の板面を貫通している。
側板部3の上下方向の中間部、すなわち切り欠き部37が形成された部分をのぞく上部および下部の後縁部31は、上下方向に直線状に延び、背板部2の側縁部と接続されている。側板部3の上縁部32および下縁部33は、前後方向に直線状に延びている。側板部3の上縁部32は、下縁部33よりも前側まで延びている。
【0030】
側板部3の前縁部34の形状は、2つの円弧が上下に連なった形状である。側板部3の前縁部34うち、下部側であり下側の円弧に相当する部分を第1曲線縁部35と表記し、上部側であり上側の円弧に相当する部分を第2曲線縁部36と表記する。第1曲線縁部35および第2曲線縁部36の円弧は、いずれも前側に張り出す円弧である。第1曲線縁部35は、下側から上側に向かって漸次前側に延びている。第1曲線縁部35は、下端部35aよりも上端部35bが前方に配置される。第2曲線縁部36の下端部36aは、第2曲線縁部36の上端部36bの鉛直方向の下側が配置される。第2曲線縁部36の下端部36aは、第1曲線縁部35の上端部35bと接続される。第2曲線縁部36の上端部36bは、側板部3の上縁部32の前端部32aと接続される。
【0031】
切り欠き部37の前縁部371(起立面143と対向する側と反対側の縁部)は、幅方向から見て、前側に張り出す円弧状である。上述しているように、切り欠き部37は側板部3を幅方向に貫通している。このため、側板部3の幅方向の一方側と他方側とは切り欠き部37を介して連通している。
【0032】
下板部4は、平板状である。下板部4は、板面が水平面となる向きに配置される。下板部4の幅方向の一方側の縁部は、幅方向の一方に配置される側板部3の下縁部33と接続される。下板部4の幅方向の他方側の縁部は、幅方向の他方に配置される側板部3の下縁部33と接続される。下板部4の後縁部は、背板部2の下縁部と接続される。下板部4の前縁部は、前板部5の下縁部と接続されている。
【0033】
前板部5は、一対の側板部3それぞれの前縁部34の下部側である第1曲線縁部35の間に、第1曲線縁部35に沿って設けられる。前板部5は、第1曲線縁部35に対応する円弧板状である。前板部5は、背板部2の取込口21の前方に間隔をあけて配置される。
【0034】
図2から
図4および
図6に示すように、拡散部7は、一対の側板部3の前縁部34の上端部近傍、すなわち第2曲線縁部36の上端近傍と接続される固定板部71と、固定板部71の上縁部から前方に突出する突出板部72と、を有している。固定板部71は、板面が長方形の平板状である。固定板部71の幅方向の一方側の縁部は、幅方向の一方側の側板部3の第2曲線縁部36と接続される。固定板部71の幅方向の他方側の縁部は、幅方向の他方側の側板部3の第2曲線縁部36と接続される。固定板部71の上端は、側板部3の上縁部32よりも少し下側に配置される。突出板部72は、固定板部71の上端から前側に向かって漸次上側に向かう斜め方向に延びている。突出板部72の下方を向く面を拡散面73と表記する。
【0035】
前板部5と拡散部7とは、上下方向に間隔をあけて配置されている。このため、一対の側板部3の間における前板部5と拡散部7との間には、前後方向に開口する開口部が設けられている。拡散面73の前縁部731は、幅方向の両側よりも幅方向中央部が前方に張り出した円弧状である。
【0036】
図2および
図4に示すように、ガイド部6は、円弧板状に形成されている。ガイド部6は、板面が前方および後方を向くように配置される。ガイド部6は、幅方向から見て、前側に張り出す円弧状となる向きに配置される。ガイド部6は、下部に設けられた軸部61下端部が一対の側板部3,3に取り付けられた軸部61の回動軸611回りに回動可能である。回動軸611は、幅方向に延びる。軸部61は、背板部2の取込口21の上側に少し間隔をあけて配置される。ガイド部6の下端部は、背板部2の取込口21の少し上側、すなわち供給口13の少し上側に配置される。ガイド部6の下端部6bは、背板部2と前板部5との間に配置される。
ガイド部6の上端部6bは、一対の側板部3,3の上端部と略同じ高さに配置される。
【0037】
ガイド部6は、
図4に示す上端部6bが背板部2の上端部に接触する第1姿勢と、
図7に示す上端部6b近傍が拡散部7に接触する第2姿勢との間で、回動軸611回りに回動可能である。ガイド部6の前側の面をガイド面62と表記する。
【0038】
ガイド部6の第1姿勢と第2姿勢との切り替え操作は、屋内施設11の管理者または利用者が、吹出口部材1の上方からガイド部6の上端部を把持してまたは、足先で前後方向に移動させることで可能である。
【0039】
ガイド部6は、下部側が前板部5の後方に重なって配置される。ガイド部6が第1姿勢および第2姿勢のいずれの場合も、ガイド部6の下部側と前板部5とは前後方向に離れている。供給口13から供給され取込口21から吹出口部材1の内部に取り込まれる新鮮空気は、ガイド部6の下部側と前板部5との間隔から上方に吹き出される。ガイド部6の下部側と前板部5との間隔が吹出口部材1の吹出口8である。吹出口8は、上下方向に開口し、一対の側板部3,3に幅方向から挟まれている。
【0040】
ガイド部6は、第1姿勢になると、一対の側板部3,3の前縁部34よりも後方に配置される。このとき、一対の側板部3,3は、ガイド部6よりも前側に突出している。ガイド部6は、第2姿勢になると一対の側板部3,3の前縁部34の間に配置される。第1姿勢のガイド部6と前板部5との間隔は、第2姿勢のガイド部6と前板部5との間隔より大きい。すなわち、ガイド部6が第1姿勢になった場合の吹出口8は、ガイド部6が第2姿勢になった場合の吹出口8よりも開口面積が大きい。
【0041】
図4に示すように、取込口21から吹出口部材1の内部に取り込まれる新鮮空気A1は、前板部5の後面に衝突して上方に向かい、吹出口8から上方に向かって吹き出される。吹出口8から上方に向かって吹き出された空気A2は、コアンダ効果によりガイド面62に沿って上昇する。このとき、ガイド面62に沿って上昇する空気A2にその前方の空気A3が巻き込まれるため、ガイド面62を上昇する空気の風量は、吹出口8から吹き出された風量よりも増加する。
【0042】
ガイド部6が第1姿勢であると、ガイド面62に沿って上昇する空気A2は、ガイド部6の上端部6bから上方かつ後方に向かう斜め方向に送り出される。本実施形態の吹出口部材1は、ガイド部6が第1姿勢であり、吹出口部材1に供給される新鮮空気の風量および風速が所定位置である場合に、ガイド部6の上端部6bから上方かつ後方に向かう斜め方向に送り出された空気が、吹出口部材1の後側に設置された座席15に着座した間隔の口元の高さまで到達するように設定されている。
【0043】
ガイド部6が第2姿勢であると、ガイド面62を上昇した空気A2は、拡散部7の拡散面73に衝突する。ガイド面62を上昇し拡散面73に衝突した新鮮空気は、斜め上方に拡散する。本実施形態では、拡散面73の前縁部731が前方に張り出した円弧状であるため、拡散面73に衝突した空気は、前方および側方に拡散する。ガイド部6が第2姿勢の場合には、ガイド面62に沿って上昇した空気を略水平方向に拡散させることができる。
【0044】
本実施形態では、多数の座席15それぞれの前方に吹出口部材1が1つずつ設けられている。このため、座席15に着座する利用者は、前方の吹出口部材1のガイド部6を切り替えることで、自身に供給される空気の風速を調整できる。
【0045】
図4に示すように、背板部2の取込口21の上縁部および側縁部に沿って設けられ、背板部2から前方に突出する突出板22が設けられている。突出板22における取込口21の上縁部に沿って設けられる部分は、後側から前側に向かって漸次上方に向かうように傾斜している。下板部4には、幅方向に延びて上下方向に貫通するスリット41が形成されている。スリット41は、本発明の孔部に相当する。
吹出口部材1の内部にゴミや液体などが入り込んだ場合には、そのゴミや液体などが突出板22にあたるため、ゴミや液体などが取込口21から供給口13に入り込まれることを防止される。突出板22は、水切りとして設けられる。また、ゴミや液体などが突出板22よりも下方に落下した場合は、下板部4に形成されたスリット41から下方に排出される。
【0046】
次に、上記の本実施形態による吹出口部材1および空調システム12の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による吹出口部材1および空調システム12では、供給口13から供給され取込口21から吹出口部材1の内部に取り込まれた新鮮空気が、前方に凸となった円弧面であるガイド面62に沿って上昇する。新鮮空気がガイド面62に沿って上昇する際に、ガイド面62の前方の空気が巻き込まれるため、風量が増加する。これにより、座席15に着座する屋内施設11の利用者へ多くの新鮮空気を到達させることができ、他の利用者の呼気を吸い込みにくい空調システム12を構築できる。その結果、座席15が設けられる観客席などの換気効率が向上し、屋内施設11における感染症のマイクロ飛沫感染や空気感染の拡大を防止できる。
【0047】
ガイド部6が第1姿勢であると、ガイド面62に沿って上昇する新鮮空気が拡散面73に衝突せず拡散しないため、座席に着座する利用者が上昇してきた新鮮空気の噴流により気流感を得ることができる。ガイド部6が第2姿勢であると、ガイド面62に沿って上昇する新鮮空気が拡散面73に衝突して拡散するため、新鮮空気を広い範囲に行き渡らせることができる。ガイド部6が第2姿勢であると、ガイド部6が第1姿勢である場合と比べて利用者に到達する新鮮空気の勢いが小さい。このため、利用者が新鮮空気の噴流により気流感を得たい場合には、ガイド面を第1姿勢にし、利用者が新鮮空気の噴流を必要としない場合には、ガイド部6を第2姿勢にすることが好ましい。新鮮空気A1の噴流を必要としない場合とは、新鮮空気による風が当たると寒く感じる等、風が当たらない状況を好む場合である。
ガイド部6は、第1姿勢と第2姿勢とに切り替え可能であるため、利用者の好みに合わせた気流環境を形成できる。
【0048】
また、本実施形態による吹出口部材1では、拡散面73の前縁部731は、上下方向から見て、中間部が側端部よりも前方に張り出す円弧状である。
このような構成とすることにより、上昇して拡散面73に衝突した空気が進む方向が広がり、より拡散させることができる。
【0049】
また、本実施形態による吹出口部材1では、ガイド面62の両側方には、一対の側板部3,3が設けられ、ガイド面62は、第1姿勢となると一対の側板部3,3の後部側の間に配置され、第2姿勢となると一対の側板部3,3の前縁部の間に配置されている。
このような構成とすることにより、ガイド部6が第1姿勢となると、一対の側板部3,3によってガイド面62に沿って上昇する空気が側方に広がることを防止でき、新鮮空気を座席に着座する利用者へ到達させることができる。
【0050】
また、本実施形態による吹出口部材1では、ガイド部6は、下部に設けられ、起立面143に沿って水平に延びる回動軸611を中心に回動して第1姿勢と第2姿勢とを切り替えるように構成されている。
このような構成とすることにより、ガイド部6を第1姿勢と第2姿勢に容易に切り替えられる。ガイド部6を第1姿勢と第2姿勢に切り替える機構を簡便な構造にでき、製作やメンテナンスを容易にできる。
【0051】
また、本実施形態による吹出口部材1では、ガイド部6の第1姿勢と第2姿勢とを吹出口部材1の上方から切り替え可能である。
このような構成とすることにより、座席15に着座する利用者が、吹出口部材1の上方からガイド部6を第1姿勢と第2姿勢とに容易に切り替えられる。
【0052】
また、本実施形態による吹出口部材1では、取込口21の上縁部および側縁部に沿って設けられ、背板部2からに前方に突出する突出板22が設けられている。
このような構成とすることにより、吹出口部材1の内部にゴミなどが入り込んだ場合に、そのゴミなどが突出板22に当たるため、ゴミなどが取込口21から供給口13に入り込むことを防止できる。
【0053】
また、本実施形態による吹出口部材1では、下板部4に上下方向に貫通するスリット41が形成されている。
このような構成とすることにより、吹出口部材1の内部にゴミなどが入り込んだ場合に、そのゴミなどをスリット41から吹出口部材1の外部に排出できる。吹出口部材1の内部を常に清潔に維持できる。
【0054】
本実施形態による吹出口部材を設けた空調システムにおいて換気性能を評価するための実験を行った。
実験では、トレーサーガスにCO2を活用した。以下のF値および寄与度について評価した。
F値 :他人の呼気をどの程度吸い込んでいるか。
寄与度:吹出口から吹き出された新鮮空気をどの程度吸い込んでいるか。
【0055】
F値は、以下の式(1)で示される。
図8にF値の実験方法を示す。
【0056】
【0057】
寄与度(ε)は、以下の式(2)で示される。
図9にF値の実験方法を示す。
【0058】
【0059】
F値については、本実施形態の吹出口部材1を採用した空調方式でガイド部6が第1姿勢である噴流方式と、座席の上方から空気を供給する従来方式と、を比較した。
寄与度については、本実施形態の吹出口部材1を採用した空調方式でガイド部6が第1姿勢である噴流方式と、第2姿勢である拡散方式と、座席の上方から空気を供給する従来方式と、を比較した。
【0060】
図10に示すように、噴流方式とすることにより、従来方式と比べてF値を25%から40%低減させることができ、他の観客の呼気を吸い込みにくいことがわかる。
図11に示すように、噴流方式および拡散方式とすることにより、従来方式と比べて寄与度を1.6倍から2倍とにでき、効率よく新鮮空気を供給できることがわかる。
【0061】
気流分布を測定することで環境可変性能の確認を行った。
図12に風速分布測定と温度分布測定の結果を示す。
図13に風速分布測定のコンター図を示す。
図12および
図13に示すように、本実施形態の吹出口部材1を採用した空調方式では、噴流方式および拡散方式のいずれも利用者の口元の高さに新鮮空気を供給できることがわかる。特に、噴流方式では、拡散方式よりも新鮮空気を利用者の口元に向かって供給できることがわかる。
【0062】
以上、本発明による吹出口部材の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、拡散面73の前縁部731は、上下方向から見て、中間部が側端部よりも前方に張り出す円弧状であるが、幅方向に延びる直線状や複数の凹部や凸部を持つ形状など円弧状以外であってもよい。拡散面73の向きや大きさは、適宜設定されてよい。
【0063】
上記の実施形態では、ガイド面62は、第1姿勢となると一対の側板部3,3の後部側の間に配置され、第2姿勢となると一対の側板部3,3の前縁部の間に配置されるが、第2姿勢の場合でも一対の側板部3,3の後部側の間に配置されてもよい。一対の3、3は、常にガイド面62の前方に突出していてもよい。
【0064】
上記の実施形態では、ガイド部6は、回動軸611を中心に回動して第1姿勢と第2姿勢とを切り替えるように構成されているが、ガイド部6の第1姿勢と第2姿勢とを切り替える姿勢は、上記以外であってもよい。例えば、ガイド部6がスライド移動して第1姿勢と第2姿勢とを切り替えるようにしてもよい。
ガイド部6の第1姿勢と第2姿勢との切り替えは、吹出口部材1の上方からではなく、側方や下方から出来るように構成されていてもよい。
【0065】
上記の実施形態では、取込口21の上縁部および側縁部に沿って背板部2からに前方に突出する突出板22が設けられ、吹出口部材1の内部に入り込んだゴミなどが供給口13に入り込むことを防止している。吹出口部材1の内部に入り込んだゴミなどが供給口13に入り込まないようにする機構は、上記以外であってもよいし、設けられていなくてもよい。突出板22は、取込口21の上縁部のみに沿って設けられていてもよい。突出板22は、取込口21の上縁部よりも上方、および側縁部の側方に設けられていてもよい。
【0066】
上記の実施形態では、下板部4にスリット41が形成され、吹出口部材1の内部に入り込んだゴミなどスリット41から排出できるように構成されている。吹出口部材1の内部に入り込んだゴミなどを外部に排出する機構は、上記以外であってもよいし、設けられていなくてもよい。下板部4には、幅方向に延びるスリット41に代わるゴミなどを外部に排出する丸孔などが形成されていてもよい。
【0067】
上記の実施形態では、側板部3に切り欠き部37が形成されているが、側板部3に切り欠き部37が形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 吹出口部材
3 側板部
4 下板部
6 ガイド部
7 拡散部
8 吹出口
11 屋内施設
12 空調システム
13 供給口
14 段床
15 座席
21 取込口
22 突出板
41 スリット(孔部)
62 ガイド面
73 拡散面
143 起立面
611 回動軸
731 前縁部