(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014938
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】雑音除去・帯域制限装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 5/00 20060101AFI20230124BHJP
H04N 5/14 20060101ALI20230124BHJP
H04N 5/205 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G06T5/00 705
H04N5/14 040
H04N5/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119175
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】591053926
【氏名又は名称】一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康孝
【テーマコード(参考)】
5B057
5C021
【Fターム(参考)】
5B057AA20
5B057BA02
5B057CA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CB01
5B057CB08
5B057CB12
5B057CC01
5B057CE02
5B057CE06
5B057DB02
5B057DB06
5B057DB09
5C021XA06
5C021YA01
(57)【要約】
【課題】画質の劣化を抑制しつつ雑音除去及び帯域制限を行う。
【解決手段】雑音除去・帯域制限装置1は、動画像に対して時空間方向に周波数分解を行い、時空間周波数分解成分を生成する時空間周波数分解部11と、時空間周波数分解成分を閾値と比較することにより空間位相位置ごとに静止領域であるか動領域であるかを判別する静動領域判別部12と、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域の成分値を略0に縮退させて縮退済み時空間周波数分解成分を生成する縮退処理部14と、縮退済み時空間周波数分解成分に対して時空間方向に周波数再構成を行う時空間周波数再構成部15と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した動画像の雑音除去及び帯域制限を行う雑音除去・帯域制限装置であって、
動画像に対して時空間方向に周波数分解を行い、時空間周波数分解成分を生成する時空間周波数分解部と、
前記時空間周波数分解成分を閾値と比較することにより空間位相位置ごとに静止領域であるか動領域であるかを判別する静動領域判別部と、
前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域の成分値を略0に縮退させて縮退済み時空間周波数分解成分を生成する縮退処理部と、
前記縮退済み時空間周波数分解成分に対して時空間方向に周波数再構成を行う時空間周波数再構成部と、
を備える、雑音除去・帯域制限装置。
【請求項2】
前記静動領域判別部は、任意の空間位相位置において、時間高周波帯域成分が第1の閾値以下で且つ時間低周波・空間高周波帯域成分が第2の閾値以上である場合に、該空間位相位置を静止領域と判別し、該静止領域以外の空間位相位置を動領域と判別する、請求項1に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項3】
前記時空間周波数分解成分のうち、時空間最高周波帯域内のパワーの平均値を平均雑音パワーとして求める雑音パワー算出部を備え、
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間高周波帯域の成分値を略0に縮退させる、請求項1又は2に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項4】
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を略0に縮退させ、前記平均雑音パワー以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を所定の割合で縮退させる、請求項3に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項5】
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を略0に縮退させ、前記平均雑音パワー以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を所定の割合で縮退させる、請求項3又は4に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項6】
前記雑音パワー算出部は、前記時空間最高周波帯域内のパワーの最大値を最大雑音パワーとして求め、
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、前記時間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させる、請求項3から5のいずれか一項に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項7】
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、前記時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させる、請求項6に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項8】
前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、前記時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させる、請求項6又は7に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項9】
前記時空間周波数分解部は、前記動画像に対して時空間方向にウェーブレットパケット分解を行う、請求項1から8のいずれか一項に記載の雑音除去・帯域制限装置。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から9のいずれか一項に記載の雑音除去・帯域制限装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音除去・帯域制限装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
雑音除去の手法として、動画像の連続したフレーム画像間において、類似画像信号を3D形状のブロックマッチング(BM)で加重平均することを特徴とするBM3D雑音除去が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、空間方向のウェーブレット縮退処理により雑音を除去する手法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Dabov, A. Foi, and V. Katkovnik, “Image denoising by sparse 3-D transform-domain collaborative filtering,” IEEE Transactions on Image Processing, vol. 16, no. 8, pp. 2080-2095, 2007.
【非特許文献2】D. L. Donoho, I. M. Johnstone, G. Kerkyacharian, and D. Picard, “Wavelet shrinkage: asymptopia?,” Journal of the Royal Statistical Society, vol. 57, no. 2, pp. 301-471, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、雑音除去及び帯域制限を同時に処理する際に、時空間周波数情報と静動情報の両方を考慮していないため、画質が低下しやすいという問題があった。例えば、動画像における動領域の信号成分では動き速度に応じて時間高周波帯域のパワーが低下する。そのため、このような動画像の帯域をさらに抑制した場合には、多くの既存の動画像フォーマットは時間方向の標本化周波数が人間の知覚限界に比べて大幅に低いため、主観画質の大幅な劣化を招くおそれがある。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、画質の劣化を抑制しつつ雑音除去及び帯域制限を行うことが可能な雑音除去・帯域制限装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、一実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置は、入力した動画像の雑音除去及び帯域制限を行う雑音除去・帯域制限装置であって、動画像に対して時空間方向に周波数分解を行い、時空間周波数分解成分を生成する時空間周波数分解部と、前記時空間周波数分解成分を閾値と比較することにより空間位相位置ごとに静止領域であるか動領域であるかを判別する静動領域判別部と、前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域の成分値を略0に縮退させて縮退済み時空間周波数分解成分を生成する縮退処理部と、前記縮退済み時空間周波数分解成分に対して時空間方向に周波数再構成を行う時空間周波数再構成部と、を備える。
【0007】
さらに、一実施形態において、前記静動領域判別部は、任意の空間位相位置において、時間高周波帯域成分が第1の閾値以下で且つ時間低周波・空間高周波帯域成分が第2の閾値以上である場合に、該空間位相位置を静止領域と判別し、該静止領域以外の空間位相位置を動領域と判別してもよい。
【0008】
さらに、一実施形態において、前記時空間周波数分解成分のうち、時空間最高周波帯域内のパワーの平均値を平均雑音パワーとして求める雑音パワー算出部を備え、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間高周波帯域の成分値を略0に縮退させてもよい。
【0009】
さらに、一実施形態において、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を略0に縮退させ、前記平均雑音パワー以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を所定の割合で縮退させてもよい。
【0010】
さらに、一実施形態において、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を略0に縮退させ、前記平均雑音パワー以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値を所定の割合で縮退させてもよい。
【0011】
さらに、一実施形態において、前記雑音パワー算出部は、前記時空間最高周波帯域内のパワーの最大値を最大雑音パワーとして求め、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、前記時間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させてもよい。
【0012】
さらに、一実施形態において、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により動領域と判別された空間位相位置において、前記時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させてもよい。
【0013】
さらに、一実施形態において、前記縮退処理部は、前記静動領域判別部により静止領域と判別された空間位相位置において、前記時間低周波・空間高周波帯域のパワーが前記平均雑音パワー以上で且つ前記最大雑音パワー未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域の成分値が大きいほど弱く縮退させてもよい。
【0014】
さらに、一実施形態において、前記時空間周波数分解部は、前記動画像に対して時空間方向にウェーブレットパケット分解を行ってもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するため、一実施形態係るプログラムは、コンピュータを、上記雑音除去・帯域制限装置として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画質の劣化を抑制しつつ雑音除去及び帯域制限を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】画像フレームに対して時空間方向の1階ウェーブレットパケット分解を適用した様子を示す図である。
【
図3】時空間方向の1階ウェーブレットパケット分解により分割された各周波帯域を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置における雑音パワー算出部の処理を説明する図である。
【
図5】第1の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置の構成例を示すブロック図である。
図1に示す雑音除去・帯域制限装置1は、時空間周波数分解部11と、静動領域判別部12と、雑音パワー算出部13と、縮退処理部14と、時空間周波数再構成部15と、を備える。雑音除去・帯域制限装置1は、動画像信号の雑音除去と帯域制限を同時に行う装置である。
【0020】
図1に示す各機能部は制御演算回路(コントローラ)を構成する。該制御演算回路は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェアによって構成されてもよいし、プロセッサによって構成されてもよいし、双方を含んで構成されてもよい。
【0021】
時空間周波数分解部11は、入力した動画像I(t)に対して時空間方向に周波数分解を行い、時空間方向に周波数帯域が分解された時空間周波数分解成分を生成する。そして、時空間周波数分解部11は、生成した時空間周波数分解成分を静動領域判別部12及び縮退処理部14に出力する。また、時空間周波数分解部11は、時空間周波数分解成分のうち少なくとも時空間最高周波帯域成分を雑音パワー算出部13に出力する。
【0022】
例えば、時空間周波数分解部11は、処理対象となる時間位置t0における画像フレームI(t0)から分解階数とウェーブレットフィルタタップ長(例えば、ハールウェーブレットの場合であれば2)を考慮した長さの動画像フレームに対して、時空間方向にウェーブレットパケット分解処理を行う。ウェーブレットパケット分解は、入力画像に対して低周波帯域側及び高周波帯域側にオクターブ分解する。この場合、空間方向及び時間方向の全体のサイズは、入力動画像の画像フレームと同じサイズとなる。
【0023】
図2に、入力動画像の時間位置t
0における画像フレームI(t
0)に対して時空間方向にそれぞれ1階のウェーブレットパケット分解を適用した様子を示す。この場合、入力画像の周波帯域は、時間方向(時間周波数f
t方向)に時間低周波帯域L及び時間高周波帯域Hに分割され、それぞれがさらに空間方向(水平周波数f
h方向及び垂直周波数f
v方向)に分解される。
【0024】
図3に、時空間方向の1階ウェーブレットパケット分解により分割された各周波帯域を示す。時間低周波帯域Lは、時空間最低周波帯域LL(L)、時間低周波・水平低周波垂直高周波帯域LH(L)、時間低周波・水平高周波垂直低周波帯域HL(L)、及び時間低周波・水平高周波垂直高周波帯域HH(L)に4分割される。ここで、時間低周波帯域Lのうち、時空間最低周波帯域LL(L)を除く帯域LH(L)、HL(L)、及びHH(L)を時間低周波・空間高周波帯域H(L)と称する。ここで、(L)は時間低周波帯域であることを意味し、(H)は時間高周波帯域であることを意味する。同様に、時間高周波帯域Hは、時間高周波・水平低周波垂直低周波帯域LL(H)、時間高周波・水平低周波垂直高周波帯域LH(H)、時間高周波・水平高周波垂直低周波帯域HL(H)、及び時空間最高周波帯域HH(H)に4分割される。なお、分解階数は1階に限られるものではない。時空間周波数分解部11が入力画像を時空間方向にn階ウェーブレットパケット分解した場合には、入力画像の周波帯域は時間方向に2
n分割され、空間方向に4
n分割される。
【0025】
静動領域判別部12は、時空間周波数分解部11から入力した時空間周波数分解成分を閾値と比較することにより、処理対象となる画像フレームI(t0)の空間位相位置ごとに静止領域であるか動領域であるかを判別して、判別結果を示す静動領域情報を生成する。そして、静動領域判別部12は、生成した静動領域情報を縮退処理部14に出力する。
【0026】
一般に、静止領域では時間高周波帯域Hのパワーが略0となる。一方、動領域では動きぼやけにより、時空間最低周波帯域LL(L)以外では、パワーが低下する傾向にあるため、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーは静止領域よりも小さくなる可能性が高い。このような特性を利用して、静動領域判別部12は、任意の空間位相位置における時間高周波帯域Hのパワーが第1の閾値tH以下(略0)であり、且つ時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが第2の閾値tH(L)以上である場合に、該空間位相位置を静止領域と判定し、該静止領域以外の空間位相位置を動領域と判別する。そして、静動領域判別部12は、全ての空間位相位置において判別処理を行った結果を静動領域情報として出力する。
【0027】
第1の閾値tH及び第2の閾値tH(L)は、所定の値としてもよいし、任意の手法で動的に決定されてもよい。静動領域判別部12は、第1の閾値tH及び第2の閾値tH(L)を、時空間最低周波帯域LL(L)内のパワーに基づいて動的に決定してもよい。例えば、静動領域判別部12は、第1の閾値tHを時空間最低周波帯域LL(L)内の各要素位置におけるパワーの最大値の1%とし、第2の閾値tH(L)を時空間最低周波帯域LL(L)内の各要素位置におけるパワーの最大値の15%としてもよい。
【0028】
雑音除去・帯域制限装置1は雑音パワー算出部13を備えなくてもよい。この場合には、縮退処理部14は、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域Hの成分値を略0(所定の閾値以下)に縮退させて縮退済み時空間周波数分解成分を生成する。縮退処理部14は、その他の空間位相位置では縮退を行わないか、縮退量を制限する。そして、縮退処理部14は、縮退済み時空間周波数分解成分を時空間周波数再構成部15に出力する。このような処理を行った場合、動領域では縮退を行わないか制限することにより画質の劣化を抑制することができ、静止領域の時間高周波帯域成分については雑音除去及び帯域制限を行うことができる。
【0029】
以下では、雑音除去・帯域制限装置1が雑音パワー算出部13を備える場合について説明する。
【0030】
図4は、雑音パワー算出部13の処理を説明する図である。雑音パワー算出部13は、時空間周波数分解部11から、時空間周波数分解成分のうち時空間最高周波帯域HH(H)を入力する。雑音パワー算出部13は、
図4に示すように、時空間最高周波帯域HH(H)内の成分を用いて雑音パワーを算出し、本実施形態では時空間最高周波帯域HH(H)内の全成分のパワーの平均値を平均雑音パワーn
1として求める。そして、雑音パワー算出部13は、求めた平均雑音パワーn
1を縮退処理部14に出力する。なお、本実施形態では成分値の絶対値をパワーとする。
【0031】
縮退処理部14は、時空間周波数分解部11から入力した時空間周波数分解成分に対して、静動領域判別部12から入力した静動領域情報及び、雑音パワー算出部13から入力した平均雑音パワーn1に基づいて縮退処理を行い、縮退済み時空間周波数分解成分を生成する。そして、縮退処理部14は、縮退済み時空間周波数分解成分を時空間周波数再構成部15に出力する。縮退処理部14は、例えば水平方向の帯域制限周波数fhsを水平方向の標本化周波数の1/2とし、垂直方向の帯域制限周波数fvsを垂直方向の標本化周波数の1/2とし、時間方向の帯域制限周波数ftsを時間方向の標本化周波数の1/2とし、帯域制限量vsを0.1(20dBの減衰量に相当)とする。縮退処理部14は、これらの値を予め保持していてもよいし、外部から取得してもよい。
【0032】
一般に、熱雑音などのランダム雑音成分は全ての時空間周波帯域においてほぼ一定のパワーを持つ。また、動画像における静止領域の信号成分では、時間高周波帯域のパワーが略0となる。そのため、静止領域の時間高周波帯域では雑音成分が支配的となる。そこで、縮退処理部14は、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置において、時間周波数ftが帯域制限周波数fts以上である時間高周波帯域Hの成分値を略0に縮退させる。
【0033】
また、縮退処理部14は、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置について、時間周波数ftが帯域制限周波数fts未満、水平周波数fhが帯域制限周波数fhs以上、及び垂直周波数fvが帯域制限周波数fvs以上である時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを、式(1)に応じてyに縮退させる。すなわち、縮退処理部14は、静止領域と判別された空間位相位置について、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを略0に縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを所定の割合で縮退させる。
【0034】
【0035】
一方、動画像における動領域の信号成分では、動き速度に応じて時間高周波帯域のパワーが低下する。そのため、動画像の時間高周波帯域をさらに抑制した場合には、多くの既存の動画像フォーマットは時間方向の標本化周波数が人間の知覚限界に比べて大幅に低いため、主観画質の大幅な劣化を招くおそれがある。そこで、縮退処理部14は、静動領域判別部12により動領域と判別された空間位相位置において、時間周波数ftが帯域制限周波数fts以上である時間高周波帯域Hの成分値xを、式(2)に応じて縮退させる。すなわち、縮退処理部14は、動領域と判別された空間位相位置において、時間高周波帯域Hのパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間高周波帯域Hの成分値xを略0に縮退させ、時間高周波帯域Hのパワーが平均雑音パワーn1以上の場合には該時間高周波帯域Hの成分値xを縮退させない。
【0036】
【0037】
また、縮退処理部14は、静動領域判別部12により動領域と判別された空間位相位置において、時間周波数ftが帯域制限周波数fts未満、水平周波数fhが帯域制限周波数fhs以上、及び垂直周波数fvが帯域制限周波数fvs以上である時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを、式(1)に応じて縮退させる。すなわち、縮退処理部14は、動領域と判別された空間位相位置において、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを略0に縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを所定の割合で縮退させる。
【0038】
なお、静止領域及び動領域のいずれにおいても、時空間最低周波帯域LL(L)は縮退させない。式(1)(2)においてxが負値の場合は、yを負値とする。上記の例における縮退結果yをまとめると、表1に示すようになる。
【0039】
【0040】
時空間周波数再構成部15は、縮退処理部14から入力した縮退済み時空間周波数分解成分に対して時空間方向に周波数再構成(ウェーブレットパケット再構成)を行い、雑音除去及び帯域制限が施された動画像を生成し、雑音除去・帯域制限装置1の外部に出力する。
【0041】
次に、
図5を参照して、雑音除去・帯域制限装置1の動作について説明する。
図5は、雑音除去・帯域制限装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0042】
ステップS101では、時空間周波数分解部11により、動画像に対して時空間方向に周波数分解を行い、時空間周波数分解成分を生成する。
【0043】
ステップS102では、静動領域判別部12により、時空間周波数分解成分を閾値と比較することにより空間位相位置ごとに静止領域であるか動領域であるかを判別する。
【0044】
ステップS103では、雑音パワー算出部13により、時空間周波数分解成分のうち、時空間最高周波帯域内のパワーの平均値を平均雑音パワーとして求める。
【0045】
ステップS104では、縮退処理部14により、上記表1に従い、時空間最低周波帯域LL(L)を除く時空間周波数分解成分の縮退を行う。
【0046】
ステップS105では、時空間周波数再構成部15により、縮退済み時空間周波数分解成分に対して時空間方向に周波数再構成を行い、雑音除去及び帯域制限が施された動画像を生成する。
【0047】
上述したように、本実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置1は、動画像に対して時空間方向に周波数分解を行い、静動領域判別を行う。そして、静止領域と判別された空間位相位置では時間高周波帯域成分を略0に縮退させる。すなわち、雑音除去・帯域制限装置1は、時空間周波数情報と静動領域情報の両方を考慮して縮退処理を行うため、動画像の雑音除去と帯域制限を総合的に高画質に行うことが可能となる。また、雑音除去・帯域制限装置1を動画像符号化の前段に用いることで符号化難易度を低減させて符号化画質を向上させることも可能となる。
【0048】
また、雑音除去・帯域制限装置1は、任意の空間位相位置において、時間高周波帯域成分が第1の閾値以下で且つ時間低周波・空間高周波帯域成分が第2の閾値以上である場合に、該空間位相位置を静止領域と判別し、該静止領域以外の空間位相位置を動領域と判別してもよい。これにより、高精度に静止領域であるか動領域であるかを判別することが可能となる。
【0049】
また、雑音除去・帯域制限装置1は、時空間最高周波帯域内のパワーの平均値を平均雑音パワーn1として求め、時空間周波数分解成分と平均雑音パワーn1との比較に基づいて縮退処理を行ってもよい。これにより、時空間周波数分解成分が雑音成分であるか否かを判別でき、適切に雑音を除去することが可能となる。
【0050】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置について説明する。
図6は、第2の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置の構成例を示すブロック図である。
図6に示す雑音除去・帯域制限装置2は、時空間周波数分解部11と、静動領域判別部12と、雑音パワー算出部13’と、縮退処理部14’と、時空間周波数再構成部15と、を備える。第2の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置2は、第1の実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置1と比較して、雑音パワー算出部13’及び縮退処理部14’の処理が相違する。その他の処理は同様であるため、説明を省略する。
【0051】
雑音パワー算出部13’は、時空間周波数分解部11から、時空間周波数分解成分のうち時空間最高周波帯域HH(H)を入力し、時空間最高周波帯域HH(H)内の全成分のパワーの平均値を平均雑音パワーn1として求めるとともに、時空間最高周波帯域HH(H)内のパワーの最大値を最大雑音パワーn2として求める。そして、雑音パワー算出部13’は、求めた平均雑音パワーn1及び最大雑音パワーn2を縮退処理部14’に出力する。
【0052】
縮退処理部14’は、時空間周波数分解部11から入力した時空間周波数分解成分に対して、静動領域判別部12から入力した静動領域情報、並びに雑音パワー算出部13’から入力した平均雑音パワーn1及び最大雑音パワーn2に基づいて縮退処理を行い、縮退済み時空間周波数分解成分を生成する。そして、縮退処理部14’は、縮退済み時空間周波数分解成分を時空間周波数再構成部15に出力する。
【0053】
縮退処理部14’の処理の考え方は、第1の実施形態の縮退処理部14と同じである。すなわち、縮退処理部14’は、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置において、時間周波数ftが帯域制限周波数fts以上である時間高周波帯域Hの成分値を略0に縮退させる。また、平均雑音パワーn1及び最大雑音パワーn2に基づいて縮退処理を行うため、式(1)に代えて式(3)を用い、式(2)に代えて式(4)を用いる。
【0054】
【0055】
すなわち、縮退処理部14’は、静動領域判別部12により静止領域と判別された空間位相位置において、式(3)に例示するように、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを略0に縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1以上で且つ最大雑音パワーn2未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xが大きいほど弱く縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが最大雑音パワーn2以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを所定の割合で縮退させる。
【0056】
また、縮退処理部14’は、静動領域判別部12により動領域と判別された空間位相位置において、式(4)に例示するように、時間高周波帯域Hのパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間高周波帯域Hの成分値xを略0に縮退させ、時間高周波帯域Hのパワーが平均雑音パワーn1以上で且つ最大雑音パワーn2未満の場合に該時間高周波帯域Hの成分値xが大きいほど弱く縮退させ、時間高周波帯域Hのパワーが最大雑音パワーn2以上の場合には該時間高周波帯域Hの成分値xを縮退させない。
【0057】
また、縮退処理部14’は、静動領域判別部12により動領域と判別された空間位相位置において、式(3)に例示するように、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを略0に縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが平均雑音パワーn1以上で且つ最大雑音パワーn2未満の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xが大きいほど弱く縮退させ、時間低周波・空間高周波帯域H(L)のパワーが最大雑音パワーn2以上の場合に該時間低周波・空間高周波帯域H(L)の成分値xを所定の割合で縮退させる。
【0058】
上記の例における縮退結果yをまとめると、表2に示すようになる。
【0059】
【0060】
上述したように、本実施形態に係る雑音除去・帯域制限装置2は、時空間最高周波帯域内のパワーの平均値及び最大値をそれぞれ平均雑音パワーn1及び最大雑音パワーn2として求め、時空間周波数分解成分と平均雑音パワーn1及び最大雑音パワーn2との比較に基づいて縮退処理を行う。これにより、雑音除去・帯域制限装置1における効果に加え、段階的に縮退量を制御することができ、さらに画質の劣化を抑制することが可能となる。
【0061】
<プログラム>
上述した雑音除去・帯域制限装置1,2として機能させるために、それぞれプログラム命令を実行可能なコンピュータを用いることも可能である。ここで、コンピュータは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、ワークステーション、PC(Personal Computer)、電子ノートパッドなどであってもよい。プログラム命令は、必要なタスクを実行するためのプログラムコード、コードセグメントなどであってもよい。
【0062】
コンピュータは、プロセッサと、記憶部と、入力部と、出力部と、通信インターフェースとを備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などであり、同種又は異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。プロセッサは、記憶部からプログラムを読み出して実行することで、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。なお、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアで実現することとしてもよい。入力部は、ユーザの入力操作を受け付けてユーザの操作に基づく情報を取得する入力インターフェースであり、ポインティングデバイス、キーボード、マウスなどである。出力部は、情報を出力する出力インターフェースであり、ディスプレイ、スピーカなどである。通信インターフェースは、外部の装置と通信するためのインターフェースである。
【0063】
プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性(non-transitory)の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリなどであってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0064】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを統合したり、1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1,2 雑音除去・帯域制限装置
11 時空間周波数分解部
12 静動領域判別部
13,13’ 雑音パワー算出部
14,14’ 縮退処理部
15 時空間周波数再構成部