(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149406
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】チョコレート
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A23G1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057958
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有紗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅崇
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GG14
4B014GK12
4B014GP01
4B014GP27
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することにある。
【解決手段】
油脂を32.0質量%以上含有するチョコレートであって、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを20~50質量%、パーム分別軟質油を30~65質量%含有し、チョコレートに含まれる油脂の固体脂含量が、10℃で20~40%、20℃で5~20%、30℃で10%以下、40℃で1.5%以下であるチョコレート。
油脂A:下記の条件(A)から(E)を満たす油脂である。
(A)X3を3~15質量%含有する。
(B)X2Uを50~70質量%含有する。
(C)XXU/XUXの質量比が1.0~1.9である。
(D)XU2を15~35質量%含有する。
(E)U3を10質量%以下含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を32.0質量%以上含有するチョコレートであって、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを20~50質量%、パーム分別軟質油を30~65質量%含有し、チョコレートに含まれる油脂の固体脂含量が、10℃で20~40%、20℃で5~20%、30℃で10%以下、40℃で1.5%以下であるチョコレート。
油脂A:下記の条件(A)から(E)を満たす油脂である。
(A)X3を3~15質量%含有する。
(B)X2Uを50~70質量%含有する。
(C)XXU/XUXの質量比が1.0~1.9である。
(D)XU2を15~35質量%含有する。
(E)U3を10質量%以下含有する。
上記の(A)から(E)の条件において、X、U、X3、X2U、XUX、XXU、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XUX:1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリド
XXU:1位及び2位にX、3位にUが結合しているトリグリセリド、又は2位及び3位にX、1位にUが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
前記チョコレートがソフトチョコレートである請求項1に記載のチョコレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートに関する発明である。詳しくはソフトチョコレートに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
油脂を主原料とした油性食品のうち、チョコレートは、菓子の中でも一般消費者に広く好まれている商品である。チョコレートには、様々な食感の商品が存在しており、板チョコのような硬いチョコレート以外に、軟らかくてクリーム状のチョコレートが存在する。軟らかくてクリーム状のチョコレートは、通常、ソフトチョコレートと呼ばれている。ソフトチョコレートとしては、特許文献1~4等のソフトチョコレートが提案されている。
【0003】
通常、ソフトチョコレートには、物性を軟らかくするために、液状油が多く配合されることが多い。しかしながら、チョコレートに多くの液状油が配合されると、保形性が低下しダレ易くなることが知られている。そのため、ソフトチョコレートは、作業性の悪さや製造ラインの汚染が問題になることがあった。従って、ソフトチョコレートには、保形性を有することが求められる。
【0004】
ソフトチョコレートに保形性を持たせる方法として油分の減少や極度硬化油の添加が挙げられる。油分が減少することで粘度が高くなり口中の食感が悪化(ねっとり感が強くなる)したり、油脂中のココアバター濃度が上昇するためブルームが発生したりする。また、極度硬化油を添加することで、高融点成分が多くなり口どけが悪化する。そのため、保形性を高めたソフトチョコレートには食感の悪さやブルームのリスクの高さ、口どけの悪さが問題になることがあった。従って、保形性を有するソフトチョコレートには、ねっとり感が少なく、ブルームが発生しにくく、口どけの良いことが求められる。
【0005】
以上のようなことから、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-4657号公報
【特許文献2】特開2003-313582号公報
【特許文献3】特開2006-115724号公報
【特許文献4】特開2008-228641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の油脂及び特定の固体脂含量を特定の値に調整することで、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、油脂を32.0質量%以上含有するチョコレートであって、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを20~50質量%、パーム分別軟質油を30~65質量%含有し、チョコレートに含まれる油脂の固体脂含量が、10℃で20~40%、20℃で5~20%、30℃で10%以下、40℃で1.5%以下であるチョコレートである。
油脂A:下記の条件(A)から(E)を満たす油脂である。
(A)X3を3~15質量%含有する。
(B)X2Uを50~70質量%含有する。
(C)XXU/XUXの質量比が1.0~1.9である。
(D)XU2を15~35質量%含有する。
(E)U3を10質量%以下含有する。
上記の(A)から(E)の条件において、X、U、X3、X2U、XUX、XXU、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XUX:1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリド
XXU:1位及び2位にX、3位にUが結合しているトリグリセリド、又は2位及び3位にX、1位にUが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、前記チョコレートがソフトチョコレートである第1の発明のチョコレートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のチョコレートは、油脂を32.0質量%以上含有するチョコレートであって、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを20~50質量%、パーム分別軟質油を30~65質量%含有し、チョコレートに含まれる油脂の固体脂含量が、10℃で20~40%、20℃で5~20%、30℃で10%以下、40℃で1.5%以下であるチョコレートである。
油脂A:下記の条件(A)から(E)を満たす油脂である。
(A)X3を3~15質量%含有する。
(B)X2Uを50~70質量%含有する。
(C)XXU/XUXの質量比が1.0~1.9である。
(D)XU2を15~35質量%含有する。
(E)U3を10質量%以下含有する。
【0012】
本発明でチョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、調温工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含まない(水分が好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。)食品のことである。また、本発明でチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートのいずれであってもよい。
【0013】
本発明で、油脂は、チョコレートに含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、チョコレートがカカオマス、全脂粉乳、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で、油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。
【0014】
本発明のチョコレートは、油脂を32.0質量%以上含有するチョコレートであり、好ましくは、油脂を32.0~50.0質量%、より好ましくは32.2~45.0質量%、さらに好ましくは32.3~40.0質量%含有する。
本発明のチョコレートに含まれる油脂には、以下で説明する、油脂Aとパーム分別軟質油が所定量含有する。
【0015】
本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを20~50質量%含有し、好ましくは25~47質量%含有し、より好ましくは30~43質量%含有する。チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Aを前記範囲で含有すると、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0016】
本発明で用いられる油脂Aは、下記の(A)から(E)の条件を満たす油脂である。
(A)X3を3~15質量%含有する。
(B)X2Uを50~70質量%含有する。
(C)XXU/XUXの質量比が1.0~1.9である。
(D)XU2を15~35質量%含有する。
(E)U3を10質量%以下含有する。
【0017】
本発明の油脂Aは、X3を1~15質量%含有し、好ましくは3~12質量%含有し、より好ましくは5~10質量%含有する(条件(A))。
なお、本発明でX3は、Xが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である。また、本発明でトリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。また、本発明でXは、炭素数16~18の飽和脂肪酸である。
【0018】
本発明の油脂Aは、X2Uを50~70質量%含有し、好ましくは53~65質量%含有し、より好ましくは55~60質量%含有する(条件(B))。
なお、本発明で、X2UはXが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XXU+XUX+UXX)である。また、本発明で、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸である。
【0019】
本発明の油脂Aは、XXU/XUXの質量比が1.0~1.9であり、好ましくは1.1~1.8であり、より好ましくは1.3~1.6である(条件(C))。
なお、本発明で、XXU/XUXの質量比は、XUX含有量(質量%)に対するXXU含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、XUXは1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリドである。また、本発明で、XXUは1位及び2位にX、3位にUが結合しているトリグリセリド(XXU)又は2位及び3位にX、1位にUが結合しているトリグリセリド(UXX)である。
【0020】
本発明の油脂Aは、XU2を15~35質量%含有し、好ましくは20~33質量%含有し、より好ましくは23~30質量%含有する(条件(D))。
なお、本発明で、XU2はXが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。
【0021】
本発明の油脂Aは、U3を10質量%以下含有し、好ましくは8質量%以下含有し、より好ましくは1~5質量%含有する(条件(E))。
なお、本発明で、U3はUが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0022】
本発明の油脂Aが条件(A)~(E)の範囲を満たすと、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0023】
本発明のチョコレートの製造に使用される油脂Aは、下記のランダムエステル交換油Eを分別して低融点部を得ることで製造することができる。また、油脂Aは、下記のランダムエステル交換油Eと下記の油脂Fとの混合油を分別して低融点部を得ることで製造することができる。
【0024】
前記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Eは、ランダムエステル交換することにより得られ、X3を25~35質量%、X2Uを40~50質量%、XU2を15~25質量%、U3を5質量%以下含有し、XXU/XUXの質量比が1.6~2.0、X2O/X2Uの質量比が0.80~0.90、P/Stの質量比が11.0~14.0である。また、前記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Eは、好ましくは構成脂肪酸としてXを60~70質量%、Uを28~38質量%含有する。
【0025】
前記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Eは、好ましくはパーム中融点部とパームステアリンとの混合油をランダムエステル交換して得られる油脂である。前記パーム中融点部は、沃素価が好ましくは40~50である。前記パームステアリンは、沃素価が好ましくは8~20である。前記パーム中融点部とパームステアリンとの混合油の配合比(パーム中融点部:パームステアリン)は、好ましくは質量比70:30~60:40である。
【0026】
前記ランダムエステル交換油Eを製造するためのランダムエステル交換反応は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。前記ランダムエステル交換油Eを製造するためのランダムエステル交換反応は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法を用いてもよい。
【0027】
前記油脂Aの製造に使用される油脂Fは、X3を1~8質量%、X2Uを62~72質量%、XU2を17~27質量%、U3を5質量%以下含有し、XXU/XUXの質量比が0.2以下、X2O/X2Uの質量比が0.80~0.90、P/Stの質量比が8.0~11.0である。また、前記油脂Aの製造に使用される油脂Fは、好ましくは構成脂肪酸としてXを48~58質量%、Uを40~50質量%含有する。
【0028】
前記油脂Aの製造に使用される油脂Fは、好ましくは沃素価40~50のパーム中融点部である。
【0029】
本発明のチョコレートの製造に使用される油脂Aが前記ランダムエステル交換油Eと前記油脂Fとの混合油を分別して得られる低融点部である場合、前記ランダムエステル交換油Eと前記油脂Fとの混合油の配合比(ランダムエステル交換油E:油脂F)は、好ましくは質量比85:15~97:3である。
【0030】
本発明のチョコレートの製造に使用される油脂Aを得るための分別は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。前記低融点部を得るための分別は、好ましくはドライ分別(自然分別)である。ドライ分別は、油脂を槽内で攪拌しながら冷却することで油脂の結晶を析出させた後、圧搾及び/又はろ過することで、高融点部(硬質部又は結晶画分とも言う。)と低融点部(軟質部又は液状画分とも言う。)に分けられる。
【0031】
本発明のチョコレートでは、油脂Aの他に、さらにパーム分別軟質油が用いられる。本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂がパーム分別軟質油を好ましくは30~65質量%含有し、より好ましくは38~60質量%含有し、更に好ましくは43~55質量%含有する。チョコレートに含まれる油脂がパーム分別軟質油を前記範囲で含有すると、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0032】
本発明でパーム分別軟質油とは、パーム油やパーム分別油を分別して得られる軟質部(オレイン部)のことである。パーム分別軟質油としては、例えば、パームオレイン、パームスーパーオレイン等が挙げられる。パーム分別軟質油のヨウ素価は、好ましくは50~75であり、より好ましくは60~70である。以下、パーム分別軟質油は、油脂Bとする。
【0033】
本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Cを好ましくは0.3~10質量%含有し、より好ましくは0.5~5質量%含有し、さらに好ましくは0.8~3質量%含有する。
【0034】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Cは、炭素数16以上の脂肪酸含有量が95質量%以上の植物油の極度硬化油であり、好ましくは炭素数16~18の脂肪酸含有量が95質量%以上の植物油の極度硬化油である。なお、前記植物油の極度硬化油の水素添加前の原料油脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Cの具体例は、パーム油の極度硬化油、菜種油の極度硬化油、大豆油の極度硬化油、ハイエルシン菜種油の極度硬化油等である。また、本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Cは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Cは、好ましくは大豆油の極度硬化油である。
【0035】
本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が、下記油脂Dを好ましくは0.5~10質量%含有し、より好ましくは1~8質量%含有し、さらに好ましくは3~7質量%含有する。
【0036】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Dは、M2X+MX2を50質量%以上含有し、好ましくは60~90質量%含有し、より好ましくは65~80質量%含有する。なお、本発明でM2X+MX2は、M2X含有量とMX2含有量の合計含有量(質量%)のことである。また、本発明でM2Xは、Mが2分子、Xが1分子結合しているトリグリセリド(MMX+MXM+XMM)である。また、本発明でMX2は、Mが1分子、Xが2分子結合しているトリグリセリド(MXX+XMX+XXM)である。また、本発明でMは、炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸である。
【0037】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Dは、MX2/M2Xの質量比が好ましくは0.20~1.50であり、より好ましくは0.40~1.20であり、さらに好ましくは0.50~0.80である。なお、本発明において、MX2/M2Xの質量比は、M2X含有量(質量%)に対するMX2含有量(質量%)の比のことである。
【0038】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Dは、構成脂肪酸としてMを好ましくは35~65質量%含有し、より好ましくは40~60質量%含有し、さらに好ましくは45~55質量%含有する。
【0039】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Dは、構成脂肪酸として、Xを好ましくは35~65質量%含有し、より好ましくは40~60質量%含有し、さらに好ましくは45~55質量%含有する。
【0040】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂Dは、好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセリド(M3のみからなり、MCTともいう。)と前記油脂Cとの混合油をランダムエステル交換して得られる油脂である。前記油脂Dの製造に使用される前記油脂Cは、好ましくは菜種油の極度硬化油である。
MCTと前記油脂Cとの混合油をランダムエステル交換して前記油脂Dを製造するときのMCTと前記油脂Cとの混合油の配合比(MCT:油脂C)は、好ましくは質量比40:60~60:40であり、より好ましくは質量比45:55~55:45である。
前記油脂Dを製造するときのランダムエステル交換反応は、前記ランダムエステル交換油Eを製造するときのランダムエステル交換反応と同様の方法で行うことができる。
【0041】
本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が、乳脂肪を好ましくは0~15質量%含有し、より好ましくは0~10質量%含有し、さらに好ましくは0~8質量%含有する。
【0042】
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)、銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)及びガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定することができる。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定することができる。
油脂のSFCは社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)に準じて測定することができる。
油脂の沃素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
【0043】
本発明のチョコレートは、チョコレートに含まれる油脂の固体脂含量(以下、固体脂含量は、SFCともいう。)が10℃で20~40%、20℃で5~20%、30℃で10%以下、40℃で1.5%以下であり、好ましくは10℃で23~37%、20℃で8~18%、30℃で9%以下、40℃で1.45%以下であり、より好ましくは10℃で25~35%、20℃で10~16%、30℃で3~9%、40℃で1.4%以下である。チョコレートに含まれる油脂の10℃、20℃、30℃、40℃でのSFCが前記範囲であると、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0044】
本発明のチョコレートは、好ましくはソフトチョコレートである。なお、本発明でソフトチョコレートとは、25℃での性状がカスタードクリームのようなクリーム状で可塑性があり、食感が軟らかいチョコレートのことである。
【0045】
本発明のチョコレートは、ココアバターを好ましくは0~10.0質量%含有し、より好ましくは1.5~5.0質量%含有し、さらに好ましくは2.0~3.0質量%含有する。
【0046】
本発明のチョコレートは、好ましくは糖質を含有する。なお、本発明で、糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で、糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。また、本発明で糖質は、糖質そのものであり、その他の原材料(例えば、粉乳等)に含まれる糖質は含めない。
本発明のチョコレートの製造に使用される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖、乳糖である。
本発明のチョコレートは、糖質を好ましくは25~65質量%含有し、より好ましくは30~60質量%含有し、さらに好ましくは35~55質量%含有する。
【0047】
本発明のチョコレートは、油脂、糖質以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ成分、乳化剤(レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、酸化防止剤、着色料、香料等を使用することができる。
【0048】
本発明のチョコレートは、従来公知のチョコレートの製造方法で製造することができる。本発明のチョコレートは、例えば、油脂、カカオ成分、糖質、乳製品、乳化剤等を原料として、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、冷却工程等を経て製造することができる。また、本発明のチョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。
【0049】
本発明のチョコレートは、ノンテンパリング型チョコレートである。
また、本発明のチョコレートは、焼成して使用することもできる。
【0050】
本発明の実施の形態のチョコレートは、複合食品用に使用することができる。なお、本発明で複合食品とは、チョコレートと他の食品を組み合わせることで得られる複合食品のことである。
【0051】
前記複合食品の製造に使用される他の食品としては、例えば、ドーナツ、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、バターロール、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のベーカリー製品、カステラ、ワッフル、ボーロ、八つ橋、あられ、揚げせんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュー、エクレア、ミルフィーユ、パイ、タルト、マカロン、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、マシュマロ、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、クレープ、スフレ、ポテトチップス等の菓子、バナナ、りんご、イチゴ等の果物等が挙げられる。
【0052】
前記複合食品は、従来公知の複合食品の製造方法を用いることによって、本発明の実施の形態のチョコレートと他の食品とを組み合わせることで製造することができる。本発明の実施の形態の油性食品と他の食品とを組み合わせる方法としては、例えば、被覆、包餡、注入、巻く、挟む、付着等が挙げられる。
また、前記複合食品は、本発明の実施の形態のチョコレートと焼成前のベーカリー製品用生地とを組み合わせた後、組み合わせた生地を焼成することで製造することもできる。
【実施例0053】
次に実施例により本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
〔分析方法〕
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)、銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)及びガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定した。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定した。
油脂のSFCは社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)に準じて測定した。
油脂の沃素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
【0055】
〔ランダムエステル交換油Eの製造〕
パーム中融点部(沃素価:45)65質量部とパームステアリン(沃素価:11)35質量部を混合した。得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより、ランダムエステル交換油E(X3含有量:31.2質量%、X2U含有量:43.1質量%、XU2含有量:19.7質量%、U3含有量:2.6質量%、XXU/XUX質量比:1.88、X2O/X2U質量比:0.842、P/St質量比:12.2、X含有量:64.7質量%、U含有量:33.7質量%)を得た。
エステル交換は、常法に従い、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。
【0056】
〔油脂Aの製造〕
95質量部のランダムエステル交換油Eと5質量部のパーム中融点部(沃素価45、X3含有量:2.3質量%、X2U含有量:67.8質量%、XU2含有量:22.8質量%、U3含有量:3.0質量%、XXU/XUX質量比:0.124、X2O/X2U質量比:0.849、P/St質量比:9.37、X含有量:53.0質量%、U含有量:45.2質量%)を混合した。得られた混合油をドライ分別し、高融点部を除去することで低融点部を得た。該低融点部に脱臭処理を行ったものを油脂A(X3含有量:8.6質量%、X2U含有量:57.8質量%、XXU/XUX質量比:1.449、XU2含有量:26.0質量%、U3含有量:3.4質量%、XUX含有量:23.6質量%、XXU含有量:34.2質量%、X2O含有量:48.3質量%、X2O/X2U質量比:0.836、X含有量:55.2質量%、Z含有量:0.4質量%、M含有量:1.1質量%、U含有量:43.2質量%、TFA含有量:0.1質量%)とした。
【0057】
〔その他の原料油脂〕
沃素価67のパームオレインを油脂Bとした。
大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を油脂Cとした。
50質量部の構成脂肪酸が炭素数8と10の飽和脂肪酸からなる中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と50質量部の菜種極度硬化油とを混合し、80℃で攪拌しながら、得られた混合油脂100質量部に対して0.1質量部のナトリウムメチラートを触媒として添加した。さらに、80℃で30分間撹拌することにより、ランダムエステル交換反応を行った。得られたエステル交換油脂を、常法に従って精製し、これを油脂Dとした。
市販品のソフトチョコレート用油脂を油脂Xとした。
【0058】
〔チョコレートの製造〕
表1および2の配合に従って配合された原材料を用いて、実施例1~3、比較例1~4のチョコレートを製造した。すなわち、常法に従って、混合、微粒化(リファイニング)、精練(コンチング)、の各工程を経られた融液状のチョコレートを冷却固化した。また、実施例1~3、比較例1~4のチョコレートの測定結果を表1~2に示した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし)。
【0059】
〔口どけの評価〕
上記の方法により製造した、実施例1~3および比較例1~4のチョコレートの口どけについて、以下の評価基準に従って、専門パネラー5名により総合的に評価した。
○:融け残りがなく、良好
△:わずかに融け残りを感じる
×:融け残りを感じる
【0060】
〔ねっとり感の評価〕
上記の方法により製造した、実施例1~3および比較例1~4のチョコレートのねっとり感について、以下の評価基準に従って、専門パネラー5名により総合的に評価した。
○:ぼそぼそ感やねっとり感を全く感じない
△:ぼそぼそ感やねっとり感を少し感じる
×:ぼそぼそ感やねっとり感を強く感じる
【0061】
〔保形性の評価〕
上記の方法により製造した、実施例1~3および比較例1~4のチョコレートの保形性について、E型粘度計の応力依存測定を用いて評価した。
28℃に調温したチョコレート1.0mLに0~2000Paの応力を2回加え、歪率%が大きく変化した点である降伏応力Paの大小によりにより評価した。
○:降伏応力が30Pa以上である
△:降伏応力が10~30Paである
×:降伏応力が10Pa以下である
【0062】
〔ブルームの評価〕
上記の方法により製造した、実施例1~3および比較例1~4のチョコレートのブルームについて、以下の評価基準に従って、専門パネラー5名により総合的に評価した。
○:ブルームが発生していない。
△:ブルームが部分的に発生している。
×:ブルームが全体に発生している
【0063】
【0064】
【0065】
表1、2から明らかであるように、実施例のチョコレートは、口どけが良く、ねっとり感がなく、かつ、保形性が良く、ブルームが発生しにくいチョコレートであることがわかった。