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特開2023-149412グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法
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  • 特開-グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法 図1
  • 特開-グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149412
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/08 20060101AFI20231005BHJP
   A23C 9/142 20060101ALI20231005BHJP
   A23C 9/146 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23J3/08
A23C9/142
A23C9/146
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057965
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】武本 篤寛
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001BC08
4B001BC12
4B001BC99
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】ナチュラルチーズ製造の副産物であるホエイから、簡単かつ効率的にα-LaとGMPの含有量が高い組成物を得る。
【解決手段】ナチュラルチーズ製造の副産物であるホエイを改質して得られたマイクロパーティクルホエイを、濃縮および/又は透析ろ過する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロパーティクルホエイ溶液を、濃縮および/又は透析ろ過して、タンパク質総量においてグリコマクロペプチド含量を30重量%以上、αラクトアルブミン含量を30重量%以上含む溶液を得ることを含む、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記濃縮、および/又は透析ろ過が、精密濾過膜処理、限外濾過膜処理、イオン交換膜処理、又は遠心分離である、請求項1に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記濃縮、および/又は透析ろ過が、精密濾過膜処理又は限外濾過膜処理であり、
前記膜がポアサイズ10μm以下の精密濾過膜又は分画分子量50,000Da以上の限外濾過膜であり、そして
透過液として、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物を得る
請求項2に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロパーティクルホエイ溶液がホエイタンパク質溶液を加熱及びせん断処理して得られたものである請求項1~3のいずれかに記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロパーティクルホエイの体積基準のメジアン径(d50)が、0.1μm~100μmであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法により得られる組成物を濃縮及び/又は脱塩して乳糖、ミネラルを除去することを特徴とするグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記乳糖及び/又はミネラルの除去が、分画分子量10,000Da以下の限外濾過膜又は減圧濃縮を用いて行われる、請求項6に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の製造方法により製造されたグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物を、食品に添加すること
を含む、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有食品組成物の製造方法。
【請求項9】
ホエイのpHを調整することで、透過液側のαラクトアルブミン含有量を調節可能なグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンの含有量が高い組成物を得る製造方法。
【請求項10】
ホエイの加熱せん断時の加熱温度および加熱時間を調整することで、透過液側のαラクトアルブミン含有量を調節可能なグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンの含有量が高い組成物を得る製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルチーズ製造の副産物であるホエイなどに含まれるグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンを含油する有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルチーズ製造の副産物であるホエイには、β-ラクトグロブリン(β-Lg)、αラクトアルブミン(α-La)、およびグリコマクロペプチド(GMP)などが主要な成分として含まれている。一般に、ホエイタンパク質はカゼインまたは大豆タンパク質に比べ栄養価、利用効率が高いことから、母乳代替品または人もしくは動物の栄養組成物のタンパク質源として利用することが知られている。しかし、母乳代替品に利用する場合、主成分の一つであるβ-Lgは母乳に存在しないタンパク質でありアレルゲンとして作用することから、β-Lgを低減するか、あるいはα-La、および/もしくはGMP含有量の高いホエイタンパク質素材を利用することが望ましい。そこでこれまでチーズ製造時において副生するホエイからβ-Lgを低減するか或いはα-La、および/もしくはGMP含有量を高め、ホエイタンパク質の有効利用を図ろうとする試みがなされてきた。
【0003】
内田らは(特許文献1)、pH4.0~7.5のホエイを85℃以上の温度で加熱処理後または85℃以上の温度による加熱処理と同時に分画分子量50000Da以上のUF膜またはポアサイズ0.5μm以下の精密ろ過(MF)膜で処理して、透過液側にα-La含有量の高い乳画分を分離回収することよりなるα-La含有量の高い画分の製造方法を報告した。この製法では、加熱処理により変性したタンパク質を濃縮液側に得られるが、濃縮液の流動性が悪いため、工業的生産には不適切であった。実施例で記載されたタンパク質組成からは、タンパク質あたりのα-Laおよびβ-Lgの含量は、α-La 55~86%、β-Lg 14~20%であり、それらの比率(α-La/β-Lg)は、3.95~6.32であることが分かるが、GMPについては不明である。
【0004】
島谷らは(特許文献2)、乳質ホエイを冷却し、Ca及び/又はMgを添加後、pHを6~9に調整し、40~60℃で10~20分間加熱保持後、孔径1μm以下の膜を用い、精密濾過処理を行って生成した沈澱物を除去し、得られた濾過液のpHを4以上に調整後、分画分子量50,000以下の膜を用い、限外濾過処理を行い、得られた濃縮液をpH3.0~5.0に調整後、40~55℃で30~60分加熱保持後、生成した沈澱物を得、さらにpH6~8に調整し、沈澱物を溶解後、必要に応じ濃縮・脱塩・乾燥粉末化することを特徴とするシアル酸類を含有し同時にα-La含有量の高い組成物の製造方法を開示している。この方法では、GMPと明記されていないが、シアル酸類を含有することから、α-Laと同時にGMPを濃縮する方法が開示されていると推察される。一方で、CaやMgの添加物を添加する必要があり、さらに、pH調整や膜濃縮を繰り返すため工程が煩雑となるため、工業的生産には不適切であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願平4-68991号公報
【特許文献2】特開平5-268879号公報
【特許文献3】特開昭63-284133号公報
【特許文献4】特開昭63-233911号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bulletin of Experimental Biology and Medicine 96,889(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ホエイタンパク質の改質方法としてマイクロパーティクルホエイ溶液(MPホエイ)が製造され、例えば、チーズまたはヨーグルトなどの製品の食品材料として、使用されてきている。従来、それらの製品は、中性から酸性のpHを有するホエイタンパク質溶液を、ホエイタンパク質ゲルが生成されるタンパク質変性温度にまで加熱し、次いで、そのゲルが微粒子化するようにゲルを高剪断条件下に供することによって製造されている。本発明者らは、驚くべきことに、MPホエイを含む溶液からGMPおよびα-Laを膜処理のみで分離できることを見出し、さらに加熱せん断条件を調整することで、α-Laの含量を調節できることを明らかにした。本発明の方法によれば、濃縮液側のゲルネットワーク構造が破砕されるため流動性に優れ、工業的に有利である。
【0008】
本発明の目的は、チーズ製造時において副生するホエイからβ-Lgを低減し、かつα-La、およびGMPの含有量が高い組成物を調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、ホエイを加熱せん断処理することにより調製されるMPホエイを含む溶液を濃縮及び/または透析ろ過することにより、濃縮液(保持液)側に熱安定性の高いMPホエイ濃縮液(透析ろ過の保持液)を得て、透過液側にα-LaとGMPの含量が高い組成物が得られる調製法およびその調製法により得られるα-LaとGMPの含有量が高い組成物が提供される。
【0010】
本発明で利用するMPホエイは、体積基準のメジアン径(d50)が、0.1μm~100μmであることが好ましい。メジアン径(d50)が、0.1μm未満の場合は、MPホエイと、α-LaおよびGMPの分離が不十分となる問題があり、逆に100μmを超えるとゲルネットワーク構造が保持されるため濃縮側の流動性が低下する問題がある。
【0011】
さらに、本発明の製造方法で製造されたα-LaとGMPの含有量が高い組成物を、再濃縮及び/又は脱塩して、乳糖及び/又はミネラルを除去することにより固形あたりのα-LaとGMPの含有量が高い組成物を得ることができる。
【0012】
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
<1>マイクロパーティクルホエイ溶液を、濃縮および透析ろ過して、タンパク質総量においてグリコマクロペプチド含量を30重量%以上、αラクトアルブミン含量を30重量%以上含む溶液を得ることを含む、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<2>前記濃縮および/又は透析ろ過が、精密濾過膜処理、限外濾過膜処理、イオン交換膜処理、又は遠心分離である、<1>に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<3>前記濃縮、および/又は透析ろ過が、精密濾過膜処理又は限外濾過膜処理であり、
前記膜がポアサイズ10μm以下の精密濾過膜又は分画分子量50,000Da以上の限外濾過膜であり、そして
透過液として、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物を得る
<2>に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<4>前記マイクロパーティクルホエイ溶液が、ホエイタンパク質溶液を加熱及びせん断処理して得られたものである<1>~<3>のいずれかに記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<5>前記マイクロパーティクルホエイの体積基準のメジアン径(d50)が、0.1μm~100μmであることを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>前記グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンを含む溶液を再濃縮及び/又は脱塩して、乳糖及び/又はミネラルを除去すること
をさらに含む、<1>~<5>のいずれかに記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<7>前記乳糖及び/又はミネラルの除去が、分画分子量10,000Da以下の限外濾過膜又は減圧濃縮を用いて行われる、<6>に記載のグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物の製造方法。
<8><1>~<7>のいずれかに記載の製造方法により製造されたグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有組成物を、食品に添加すること
を含む、グリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミン含有食品組成物の製造方法。
<9>ホエイのpHを調整することで、透過液側のαラクトアルブミン含有量を調節可能なグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンの含有量が高い組成物を得る製造方法。
<10>ホエイの加熱せん断時の加熱温度および加熱時間を調整することで、透過液側のαラクトアルブミン含有量を調節可能なグリコマクロペプチドおよびαラクトアルブミンの含有量が高い組成物を得る製造方法。
【0013】
本発明において、ホエイタンパク質溶液を加熱及びせん断処理する手段としては、ホエイタンパク質溶液の温度を上昇させ、且つ同溶液に剪断力を与えられるものであれば種類を問わないが、掻き取り式熱交換器、薄膜旋回器やキャビテーター装置などが好適に利用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規なα-LaとGMPの含有量が高い組成物の調製法およびα-LaとGMPの含有量が高い組成物が提供される。一般的に母乳代替品に用いられる乳清タンパク質濃縮物は、タンパク質あたりのβ-Lg含量が40~70%、タンパク質あたりのα-La含量が20~30%、タンパク質あたりのGMP含量が10~20%である。α-LaとGMPの含有量が高い組成物はβ-Lgをほとんど含まないため、母乳代替品への利用が期待される。
【0015】
α-Laはカルシウム結合性のタンパク質であり、シスチン含量が高い特徴を有する。さらに、消化管運動調節作用、小腸管傷害の予防又は修復促進作用、抗潰瘍作用、月経前症候群の症状を抑制することなども報告されている。
【0016】
GMPは、チーズホエイに含まれるシアル酸が結合した糖ペプチドである。近年、糖蛋白質や糖脂質のような複合糖質中に含まれている糖鎖が、生体における細胞間識別に重要な役割を演ずることが知られ、シアル酸類はこの細胞間識別を行うレセプターに必要な構成成分として特に重要であることが認識されるようになってきている。また、母乳中には牛乳に比べ3~5倍程度のシアル酸類が含まれており、このシアル酸類も乳児の感染防御因子の一つとして機能するものと考えられている。特に、GMPには大腸菌の腸管細胞への付着を防止したり、インフルエンザウイルスの感染を防御する効果(特許文献3)などのほか、抗歯垢効果(特許文献4)や食欲低下作用(非特許文献1)があるため、母乳代替品、機能性食品等の食品及び医薬品素剤としても期待される。
【0017】
本発明では、チーズホエイからMPホエイを調製した後に濃縮または透析ろ過することで、α-LaとGMPの含有量が高い組成物が得られることを特徴とする。濃縮処理により濃縮側に回収されるMPホエイやセパレーター処理により重液側に回収されるMPホエイは、膜処理を施さない通常のMPホエイと比較して、タンパク質含量が高くなり、タンパク質組成が異なる以外に大きな違いは無く、通常のMP化したホエイタンパク質として様々な食品に利用可能である。また、透析ろ過処理により濃縮されずに透析ろ過の保持液として回収されるMPホエイはタンパク質組成が異なる以外に大きな違いはなく、通常の微粒子化したホエイタンパク質として様々な食品に利用可能である。さらに、MPホエイは、ホエイやホエイ濃縮物と比べ、熱安定性が高く、殺菌強度の高い飲料など、様々な食品に利用可能である。このように、通常のMPホエイから、α-LaとGMPの含有量が高い組成物と、濃縮した微粒子化ホエイの両者が調製可能となる。結果としてα-LaとGMPの含有量が高い組成物の製造コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ホエイのpHによる影響を示すグラフ
図2】せん断時の加熱温度による影響を示すグラフ
図3】せん断時の加熱時間による影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
本発明の実施に当たり、ホエイのpHやせん断時の加熱温度、時間を調整することで、透過液側のα-La量がどのように変化するかを調べた。
【0020】
[実験1]<ホエイのpHによる影響>
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、チーズホエイ(タンパク質組成、GMP:α-La:β-Lg=15:26:59)を濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は10k(#VF05P0)を用いた。乳酸(富士フイルム和光純薬社)でpH5.4~6.2に調整した2,000mLのチーズホエイを20倍まで濃縮し、得られた100mLの濃縮チーズホエイを加熱せん断処理に供した。
100mLの濃縮チーズホエイを、フィルミックス56-L(PRIMIX社)を用いて周速30m/s(回転体直径52mm、回転数11,000r/min)で90℃達温後5分間保持して処理し、室温まで冷却した後、MPホエイとした。得られた100mLのMPホエイをMF膜濃縮に供した。
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、MPホエイを濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は0.2μm(#VF05P7)を用いた。100mLのMPホエイを2倍に濃縮し、得られた50mLの透過液のタンパク質組成を分析した。
タンパク質組成はサイズ排除クロマトグラフィーにより分析した。得られた透過液を、後述する移動相で4倍に希釈し、0.45μmのフィルター(13P、クラボウ)で不溶物を除去し、分析に供した。分析には2本のTSKgel G3000PWXL(7.8mmI.D.×30cm,7μm、東ソー)を装着したe2695システム(ウォーターズ)を用い、UV検出器で210nmの吸収を測定した。移動相は0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液を用いて、流速0.3mL/minにて室温で120分間溶出した。
GMPは、固形当たりのGMP含量が約60%のGMP高含有素材(CGMP-10、アーラフーズ)を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。β-ラクトグロブリン(β-Lg)およびαラクトアルブミン(α-La)は、シグマ社の試薬を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。β-Lg、α-La、およびGMPのピーク面積の総和をタンパク質のピーク面積として、タンパク質のピーク面積に対するGMPのピーク面積の割合を、タンパク質あたりのGMP含量とした。
結果を図1に示す。このグラフから明らかなように、チーズホエイのpHが高いほど、MF膜透過液側のα-La濃度が高くなる。チーズホエイのpHを5.8以上に調整してMPホエイを製造した後にMF膜で濃縮すると、透過液側のα-La含量はタンパク質あたり40%以上となる。一方、チーズホエイのpHを5.8以下に調整してMPホエイを製造した後にMF膜で濃縮すると、透過液側のα-La含量は40%未満となる。
また、透過液側のGMPの含量は、チーズホエイのpHをどのように調整してもタンパク質あたり30%以上を維持する。
【0021】
[実験2]<せん断時の加熱温度による影響>
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、チーズホエイを濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は10k(#VF05P0)を用いた。乳酸(富士フイルム和光純薬社)でpH5.8に調整した2,000mLのチーズホエイを20倍まで濃縮し、得られた100mLの濃縮チーズホエイを加熱せん断処理に供した。
100mLの濃縮チーズホエイを、フィルミックス56-L(PRIMIX社)を用いて周速30m/s(回転体直径52mm、回転数11,000r/min)で76~90℃達温後5分間保持して処理し、室温まで冷却した後、MPホエイとした。得られた100mLのMPホエイをMF膜濃縮に供した。
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、MPホエイを濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は0.2μm(#VF05P7)を用いた。100mLのMPホエイを2倍に濃縮し、得られた50mLの透過液のタンパク質組成を分析した。
タンパク質組成はサイズ排除クロマトグラフィーにより分析した。得られた透過液を、後述する移動相で4倍に希釈し、0.45μmのフィルター(13P、クラボウ)で不溶物を除去し、分析に供した。分析には2本のTSKgel G3000PWXL(7.8mmI.D.×30cm,7μm、東ソー)を装着したe2695システム(ウォーターズ)を用い、UV検出器で210nmの吸収を測定した。移動相は0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液を用いて、流速0.3mL/minにて室温で120分間溶出した。GMPは、固形当たりのGMP含量が約60%のGMP高含有素材(CGMP-10、アーラフーズ)を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。Β-ラクトグロブリン(β-Lg)およびαラクトアルブミン(α-La)は、シグマ社の試薬を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。β-Lg、α-La、およびGMPのピーク面積の総和をタンパク質のピーク面積として、タンパク質のピーク面積に対するGMPのピーク面積の割合を、タンパク質あたりのGMP含量とした。
結果を図2に示す。このグラフから明らかなように、せん断時の加熱温度が高いほど、MF透過液側のα-La濃度が低くなる。85℃以上でせん断してMPホエイを製造した後にMF膜で濃縮すると、透過液側のα-La含量はタンパク質あたり35%未満となり、85℃未満でせん断してMPホエイを製造した後にMF膜で濃縮すると、透過液側のα-La含量はタンパク質あたり35%以上となる。透過液側のGMPの含量は、せん断時の加熱温度を調整してもタンパク質あたり30%以上を維持する。
【0022】
[実験3]<せん断時の加熱時間による影響>
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、チーズホエイを濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は10k(#VF05P0)を用いた。乳酸(富士フイルム和光純薬社)でpH5.8に調整した2,000mLのチーズホエイを20倍まで濃縮し、得られた100mLの濃縮チーズホエイを加熱せん断処理に供した。
100mLの濃縮チーズホエイを、フィルミックス56-L(PRIMIX社)を用いて周速30m/s(回転体直径52mm、回転数11,000r/min)で90℃達温後1~5分間保持で処理し、室温まで冷却した後、MPホエイとした。得られた100mLのMPホエイをMF膜濃縮に供した。
ペリスタルティックポンプMarlow323(Watson)にクロスフロー式の濃縮膜であるvivaflow(膜面積50cm、Sartorius社製)を接続し、MPホエイを濃縮した。ポンプは300rpmで運転した。濃縮膜は0.2μm(#VF05P7)を用いた。100mLのMPホエイを2倍に濃縮し、得られた50mLの透過液のタンパク質組成を分析した。
タンパク質組成はサイズ排除クロマトグラフィーにより分析した。得られた透過液を、後述する移動相で4倍に希釈し、0.45μmのフィルター(13P、クラボウ)で不溶物を除去し、分析に供した。分析には2本のTSKgel G3000PWXL(7.8mmI.D.×30cm,7μm、東ソー)を装着したe2695システム(ウォーターズ)を用い、UV検出器で210nmの吸収を測定した。移動相は0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液を用いて、流速0.3mL/minにて室温で120分間溶出した。GMPは、固形当たりのGMP含量が約60%のGMP高含有素材(CGMP-10、アーラフーズ)を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。Β-ラクトグロブリン(β-Lg)およびαラクトアルブミン(α-La)は、シグマ社の試薬を標準試料として使用して検量線を作成し、定量した。β-Lg、α-La、およびGMPのピーク面積の総和をタンパク質のピーク面積として、タンパク質のピーク面積に対するGMPのピーク面積の割合を、タンパク質あたりのGMP含量とした。
結果を図3に示す。このグラフから明らかなように、同じ加熱温度でも、加熱時間を調整することでα-La濃度を調製することもできる。90℃での加熱せん断を1分間、または5分間としてMPホエイを調製した後にMF膜で濃縮すると、透過液側のα-La含量は1分間ではタンパク質あたり50%となるが、5分間ではタンパク質あたり30%となる。
図1
図2
図3