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特開2023-149482中枢神経炎症抑制組成物及び組成物を含む飲食品、医薬品、飼料
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  • 特開-中枢神経炎症抑制組成物及び組成物を含む飲食品、医薬品、飼料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149482
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】中枢神経炎症抑制組成物及び組成物を含む飲食品、医薬品、飼料
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/683 20060101AFI20231005BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20231005BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20231005BHJP
   A23K 10/28 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K31/683
A61P25/00
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K35/20
A23L33/115
A23K20/158
A23K10/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058079
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 祥雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 久子
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】荒井 達也
(72)【発明者】
【氏名】高梨 直也
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊二郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150CC16
2B150DA57
2B150DC08
2B150DD01
4B018MD45
4B018ME07
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB11
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB39
4C087CA07
4C087CA19
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB11
4C087ZB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中枢神経における炎症を予防、あるいは治療する中枢神経炎症抑制用飲食品又は飼料の提供。
【解決手段】リン脂質を中枢神経炎症抑制剤の有効成分とする。また、リン脂質を中枢神経炎症抑制用飲食品又は飼料の有効成分として配合する。リン脂質としては、化学的に合成されたもののほか、天然由来のものを使用可能であるが、大豆、卵黄等食品由来のものを使用することが好ましく、特に乳由来のリン脂質を使用することが望ましい。本発明品又は本発明品を含む飲食品および飼料を経口摂取することにより、中枢神経の炎症に関連した因子の発現の抑制を促進する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質を有効成分とする中枢神経炎症抑制剤。
【請求項2】
10~2,500mgのリン脂質を有効成分として含む、請求項1記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項3】
リン脂質が乳由来のリン脂質である、請求項1または2記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項4】
乳又は乳素材を孔径0.1~2.0μmの精密濾過(MF)膜処理又は分画分子量5~500kDaの限外濾過(UF)膜処理することにより得られる乳由来リン脂質含有組成物を有効成分として含む、請求項3記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項5】
乳又は乳素材に酸を加えてpHを4.0~5.0に調整し、カゼインタンパク質を除去した後、孔径0.1~2.0μmのMF膜処理又は分画分子量5~500kDaのUF膜処理することにより得られる乳由来リン脂質含有組成物を有効成分として含む、請求項3記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項6】
乳又は乳素材が、バターセーラム又はバターミルクである請求項3乃至5の何れか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項7】
グリア細胞の炎症を抑制するための、請求項1乃至6のいずれか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の何れか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤を配合した中枢神経炎症抑制栄養組成物、飲食品、飼料、又は治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経の炎症を抑制し、安定性及び安全性に優れた中枢神経炎症抑制組成物に関する。また、本発明は、該中枢神経炎症抑制組成物を含有する、飲食品、医薬品、飼料に関する。なお、中枢神経炎症抑制剤は、中枢神経炎症予防剤又は治療剤と言い換えることができる。
【背景技術】
【0002】
中枢神経は、多数の神経細胞やグリア細胞が集まった領域であり、脊椎動物では脳、脊髄等がこれにあたる。中枢神経における炎症は認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症等の慢性神経変性疾患、うつ病や統合失調症などの精神疾患、手術後に認められる術後せん妄など、多くの疾患で認められている(非特許文献1~3)。中でも、認知症、パーキンソン病、多発性硬化症、鬱では、脳の炎症を抑制することで症状が改善することが報告されている。(非特許文献4~6)
【0003】
中枢神経における炎症は、細菌等の感染症のみが原因でなく、外傷性脳損傷や加齢などの要因によっても促進され、老齢マウスでは若齢マウスに比べて中枢神経の炎症性サイトカイン量が多いことも報告されている。また、中枢神経系には「免疫特権(immune privilege)」が存在し、中枢神経系と末梢の免疫応答(炎症を含む)は、異なるアーム(武器)が関与することが知られている(非特許文献7)。
【0004】
このことから、医薬品に代わり日常的に摂取することができ、中枢神経炎症を抑制することができる素材の開発が盛んに実施されており、天然成分や食品成分などから様々なものが提案されている。例えば、プラズマローゲンによる抗中枢神経系炎症剤(特許文献1)がある。
【0005】
リン脂質は、卵黄や乳中に多く分布しており、細胞膜や血清リポタンパク質の構成成分として分布している。リン脂質には、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールといったグリセロリン脂質や、スフィンゴミエリンといったスフィンゴリン脂質がある。生体内でのスフィンゴミエリン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルセリンは、情報伝達系を介して細胞の増殖や分化に影響を及ぼしていることが知られている。また、スフィンゴミエリンには、学習能力向上効果があることも示唆されている(特許文献2)が、中枢神経の炎症を抑制する効果についてはなんら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/039472A1公報
【特許文献2】特許第4568464号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inelia ,Morales.et.al.:Frontiers in Cellular Neuroscience.、8、112、(2014)
【非特許文献2】門司 晃、精神経誌、114、124-133、(2012)
【非特許文献3】Niccolo, Terrandoa. et. al.:PNAS.、107、20518-20522、(2010)
【非特許文献4】Ashley D. Reynolds,et.al.Journal of Leukocyte Biology 82,1083-1094,(2007)
【非特許文献5】Zijian Lia,et.al. International Immunopharmacology, 67、268-280、(2019)
【非特許文献6】Xiang Nie,et.al. Neuron 99, 464-479,(2018)
【非特許文献7】Galea I,Bechmann I,Perry VH. Trends Immunol.28(1):12-18.(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、日常的に摂取することが可能であり、新規な中枢神経炎症予防又は治療効果を有する栄養組成物、飲食品、医薬品、飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、リン脂質を経口摂取することによって中枢神経の炎症が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下の構成を有する
(1)リン脂質を有効成分とする中枢神経炎症抑制剤。
(2)10~2,500mgのリン脂質を有効成分として含む、(1)記載の中枢神経炎症抑制剤。
(3)リン脂質が乳由来のリン脂質である、(1)または(2)記載の中枢神経炎症抑制剤。
(4)乳又は乳素材を孔径0.1~2.0μmの精密濾過(MF)膜処理又は分画分子量5~500kDaの限外濾過(UF)膜処理することにより得られる乳由来リン脂質含有組成物を有効成分として含む、(3)記載の中枢神経炎症抑制剤。
(5)乳又は乳素材に酸を加えてpHを4.0~5.0に調整し、カゼインタンパク質を除去した後、孔径0.1~2.0μmのMF膜処理又は分画分子量5~500kDaのUF膜処理することにより得られる乳由来リン脂質含有組成物を有効成分として含む、(3)記載の中枢神経炎症抑制剤。
(6)乳又は乳素材が、バターセーラム又はバターミルクである(3)乃至(5)の何れか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤。
(7)グリア細胞の炎症を抑制するための、(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤。
(8)(1)乃至(7)に記載の何れか1つに記載の中枢神経炎症抑制剤を配合した中枢神経炎症抑制栄養組成物、飲食品、飼料、又は治療薬。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Interleukin-1 beta (IL-1b)の遺伝子発現量解析の結果を示す図である。
図2】Tumor Necrosis Factor alpha (TNFa)の遺伝子発現量解析の結果を示す図である。
図3】ミクログリア株化細胞でのInterleukin-1 beta (IL-1b)の遺伝子発現量解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において用いることができるリン脂質は、グリセロリン脂質とスフィンゴ脂質を含有することを特徴とするが、由来は特に限定されず、化学的に合成されたものや、天然由来のもの、例えば、牛やヤギ、ヒツジ、ヒト等の乳由来のものの他、鶏卵等の卵黄由来のものが挙げられるが、乳由来のものがより好ましい。また、これら哺乳類の乳から調整したバターゼーラム、バターミルク等の乳素材から調整することも可能である。また、本発明に用いるリン脂質は、分離・精製された高純度のものだけでなく、未精製の組成物であってもよい。一態様において、本発明において用いることができるリン脂質は、化学合成された又は乳若しくは卵黄から精製された、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又はスフィンゴミエリンの1つ以上からなるものである。別の一態様において、本発明において用いることができるリン脂質は、化学合成された又は乳若しくは卵黄から精製された、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又はスフィンゴミエリンの1つ以上を含むものである。一態様において、本発明において用いることができるリン脂質は、化学合成された又は乳若しくは卵黄から精製された、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又はスフィンゴミエリンの1つ以上からなるものではない。別の一態様において、本発明において用いることができるリン脂質は、化学合成された又は乳若しくは卵黄から精製された、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又はスフィンゴミエリンの1つ以上を含むものではない。
【0012】
(中枢神経炎症抑制用組成物中のリン脂質の定量方法)
本発明の中枢神経炎症抑制用組成物中のリン脂質含量は、春田らの方法(Bioscience, Biotechnology, & Biochemistry(2008)72、8、2151-2157)により測定することができる。
【0013】
乳由来リン脂質をバターゼーラムやバターミルクから製造する方法の一態様を以下に示す。
【0014】
バターゼーラムとは、脂肪分60重量%以上の高脂肪クリーム又はバターを、遠心分離、加温、又はせん断処理することにより得られる脂肪分30~51重量%の水層画分をいう。
【0015】
バターミルクとは、バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいい、乳脂肪分30~40%に調製したクリームよりバターを製造する際に、チャーニングのような乳脂肪球同士の衝突による乳化破壊等の物理的分画操作より、バターと共に副産物として発生する淡黄色の液体である。なお、上記したバターは発酵バターであってもよい。
【0016】
これらの原材料を用いて、乳由来リン脂質組成物は、以下のような方法等により調製することができる。
【0017】
すなわち、乳または乳素材を精密ろ過(MF)膜または限外ろ過膜(UF)処理することにより、本発明のリン脂質組成物を得ることができる。
【0018】
精密ろ過膜(MF)は、孔径0.1μm~2.0μmのものが好ましい。孔径が0.1μm未満になると、ホエイタンパク質等の夾雑物が濃縮液側に残存するようになり、固形当たりの脂質含量が減少することにより中枢神経炎症抑制剤としての効果が弱くなる。また、孔径が2.0μmを越えると、脂肪球が膜を通過して透過液側に漏れるようになるため、中枢神経炎症抑制効果を有する脂質画分が濃縮画分から減少するために、中枢神経炎症抑制剤としての効果が弱くなる。混入するタンパク質の量やリン脂質の回収量を考慮すると、孔径0.1μm~2.0μm程度の精密ろ過膜(MF)が最も好ましい。この孔径0.1μm~2μmの精密ろ過膜(MF)としては、たとえば、Membrarox(SCT、Societie Ceramics Techniquest社製)を使用することができる。
【0019】
限外ろ過膜(UF)は、分画分子量5~500kDaのものが好ましい。5kDa未満になると、乳糖が濃縮され、脂質の割合が高くならないため、好ましくなく、500kDaはUF膜の分画分子量の上限である。
なお、MF処理またはUF処理を行う前に、上記原料に対して酸を加えてpH4~5程度に調整し、カゼインタンパク質を等電点沈殿させて除去しおくことで、膜処理における膜の汚れ付着を防止できるとともに、得られる濃縮液中に含まれる固形物当たりの脂質含量を高くすることが可能となり好ましい。
【0020】
さらに、pHを4~5に調整した後に塩化カルシウムを加えると、カゼインタンパク質の沈殿がより促進されるのでより好ましい。塩化カルシウムの添加量は、全体の0.01~0.05重量%が好ましい。また、pH調整の際に加える酸の種類は特に限定されないが、塩酸や硫酸等の無機酸等が好ましい。
【0021】
本発明のリン脂質を含有する中枢神経炎症を抑制する飲食品又は飼料はヒトまたは動物が経口摂取することにより、中枢神経炎症を予防、あるいは抑制させることができる。
【0022】
上述のように、中枢神経の炎症が原因の1つと考えられている疾患である認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症等、並びに統合失調症、うつ病、自閉症等の精神疾患、及び術後せん妄のリスクの低減のためにも、本発明の抗中枢神経系炎症剤を好ましく用いることができる。
【0023】
中枢神経炎症予防剤や中枢神経炎症抑制作用を有する食品や飼料の製造の際には、糖類、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類やフレーバー等、他の飲食品や飼料に通常使用される原材料等、安定剤、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合した錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、シロップ剤等の製剤を用いることができる。
【0024】
さらに、乳、乳飲料、発酵乳、チーズ、アイスクリームなどの乳製品、パン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等の飲食品や飼料に配合することも可能である。
【0025】
なお、本発明により、中枢神経炎症抑制作用を発揮させるためには、成人の場合、リン脂質を一日当たり10~2,500mg、好ましくは、50~2,500mgを摂取すればよい。
【0026】
また、リン脂質を食品に配合する場合は、1食で上記の量を摂取してもよいし、数回に分けて、上記の摂取量になるように配合して摂取してもよい。
【0027】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。また、実施例および試験例における「%」は断らない限り「重量%」を意味するものとする。
【実施例0028】
[実施例品1]
バターゼーラムを材料として、乳由来リン脂質の高濃度画分を得た。手順を下記に示す。バターゼーラム粉(SM2、Corman社製、ベルギー)の25%溶液を調製し、5M塩酸を添加してpH4.5に調整した。この溶液を50℃で1時間静置し、カゼインタンパク質を沈殿させた。フィルタープレスを用いてこの沈殿を除去し、得られた水溶液を孔径1.0μmのMFで処理して濃縮液画分を得た。この乳由来リン脂質含有組成物(実施例品1)は、全固形当たり脂質を53%、リン脂質を31%、タンパク質を24%、糖質を15%、灰分を8%含有していた。
【0029】
[試験例1]中枢神経炎症抑制作用の確認(1)
1.試験方法
実施例品1で得られた乳由来リン脂質高含有素材を使用し、経口摂取によるマウスの中枢神経炎症に及ぼす影響を調べる目的で経口摂食後のマウスの海馬を摘出し、炎症性サイトカインであるInterleukin-1 beta (IL-1b)、Tumor Necrosis Factor alpha (TNFa)の遺伝子発現量解析を行った。まず、15週齢のSAMR1系雄マウス(日本エスエルシー株式会社)を標準食(AIN-93M)で7日間予備飼育した後、1群8匹からなる2群に分け、表1に示した組成の飼料をそれぞれの群に18週間自由摂食させた。マウス1匹当たりの平均摂食量は3.4 g/日であった。なお、マウスの飼育は室温24℃、湿度60%、light-darkコントロール12時間の条件下で行い、脱イオン水を自由摂取させた。摂食期間終了後、解剖により海馬を回収し、mRNAを抽出後、Real-Time qPCR法を用いて各遺伝子発現量を定量した。IL-1b、TNFaの遺伝子発現量はActin Beta(ACTB)を用いて補正を行った。その結果を図1、2に示す。なお本試料中には100gあたり1.085gのリン脂質が含まれていた。
【0030】
【表1】
【0031】
2.試験結果
対照食摂取群に対して、本発明群の方が代表的な炎症性サイトカインであるIL-1b及びTNFaの遺伝子発現量が有意に低かった。この結果から、乳由来リン脂質は中枢神経炎症抑制作用を有することが明らかとなった。更に、TNFaやIL-1bなどの炎症促進性サイトカインが、多発性硬化症や鬱などにおける炎症に関与することが知られているので(非特許文献5及び非特許文献6を参照)、本発明の乳由来リン脂質を摂取することにより、これらの疾患のリスクを低減できると期待される。なお、実施例品1で得られた乳由来リン脂質高含有素材をマウスに経口摂取させた場合、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又はスフィンゴミエリンを単独でマウスに経口摂取させた場合と比較して、IL-1b及びTNFaの遺伝子発現量は有意に低くより優れた中枢神経炎症抑制作用を有することが期待される。
【0032】
[試験例2]中枢神経炎症抑制作用の確認(2)
1.試験方法
実施例品1で得られた乳由来リン脂質高含有素材を使用し、培養細胞を用い中枢神経炎症に及ぼす影響を確認するための試験を行った。マウス由来のミクログリア株化細胞である6-3細胞を2×10cells/wellの密度で6ウェルプレートに播種し、37℃で72時間培養後、炎症誘導物質であるLipopolysaccharide(LPS)を添加して24時間培養した。LPSを添加しない群を無処理群、LPSを単独添加した群を対照群、LPSと本発明品を同時添加した群を本発明群とした。細胞を回収し、mRNAを抽出後、Real-Time qPCR法を用いてIL-1bの遺伝子発現量を測定した。IL-1b発現量は、Actin Beta(ACTB)を用いて補正を行った。その結果を図3に示す。
【0033】
2.試験結果
LPSを添加していない無処理群と比較し、LPSを添加した対照群においてIL-1bの遺伝子発現量が有意に高いことから、LPSによりミクログリア細胞の炎症を惹起できたことが分かる。一方、LPSと本発明品を同時添加した本発明群においてLPSにより惹起されたIL-1bの遺伝子発現量が有意に抑制された。この結果から、乳由来リン脂質は、グリア細胞における炎症抑制作用を有することが明らかとなった。
【0034】
[実施例品2]
表2に示す配合で原料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の中枢神経炎症抑制剤を錠剤として製造した。なお本錠剤中には100gあたり3.1gのリン脂質が含まれていた。
【0035】
【表2】
【0036】
[実施例品3]
実施例1で得られた乳由来リン脂質高含有素材50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合した。この溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン17.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS-4CRTGN、日阪製作所社)で121℃、20分間殺菌して、本発明の中枢神経炎症抑制用液状栄養組成物50kgを製造した。なお本中枢神経炎症抑制用液状栄養組成物には100gあたり0.031gのリン脂質が含まれていた。
【0037】
[実施例品4]
実施例1で得られた乳由来リン脂質高含有素材10gを700gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAXT-25;IKAジャパン社)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明の中枢神経炎症抑制用ゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られた中枢神経炎症抑制用ゲル状食品は、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお本中枢神経炎症抑制用ゲル状食品には100gあたり0.31gのリン脂質が含まれていた。
【0038】
[実施例品5]
酸味料2gを700gの脱イオン水に溶解した後、実施例1で得られた乳由来リン脂質高含有素材10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAXT-25;IKAジャパン社)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、中枢神経炎症抑制用飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた中枢神経炎症抑制用飲料は、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお本中枢神経炎症抑制用飲料には100gあたり0.31gのリン脂質が含まれていた。
【0039】
[実施例品6]
乳由来リン脂質高含有素材2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II160型;特殊機化工業社)にて、3600rpmで40分間撹拌混合した。この溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の中枢神経炎症抑制用イヌ飼育飼料100kgを製造した。なお本中枢神経炎症抑制用イヌ飼育飼料には100gあたり0.062gのリン脂質が含まれていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、新たな中枢神経炎症抑制組成物として、乳由来リン脂質高含有組成物と該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供するものである。本発明の組成物等を摂取することにより中枢神経炎症を抑制できる。
図1
図2
図3