(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149484
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】脳虚血性障害軽減用組成物及び該組成物を含む食品、医薬品、飼料
(51)【国際特許分類】
A61K 31/688 20060101AFI20231005BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231005BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20231005BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231005BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231005BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20231005BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231005BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20231005BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K31/688
A61P9/10
A61K35/20
A61K9/48
A61K9/20
A23L33/12
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L29/231
A23K20/158
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058083
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 達也
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 克典
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B041
4B117
4C076
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AB10
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4B018MD45
4B018MD71
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4C076AA36
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(57)【要約】
【課題】本発明は、新たな脳虚血性障害を軽減する組成物、該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分とする脳虚血性障害軽減用組成物、該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴミエリンを有効成分とする脳虚血性障害軽減用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用食品。
【請求項3】
請求項1に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用医薬品。
【請求項4】
請求項1に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフィンゴミエリンを含む脳虚血性障害軽減用組成物及び該組成物を含む食品、医薬品、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
脳虚血性障害とは、脳の血流が低下、あるいは一時的に止まることで起こる障害である。具体的には認知機能の低下や、意欲の低下、感情失禁、手足の麻痺や感覚の障害といった症状が現れる。一度脳が損傷を受けた場合の治療は困難であり、根本的な治療法はない。そのため、脳虚血性障害を軽減する食品、医薬品、飼料の開発が望まれている。
【0003】
スフィンゴミエリンはスフィンゴシン骨格を有するリン脂質の一種である。乳中や卵黄に多く分布し、細胞膜や血清リポタンパク質、神経細胞の髄鞘の構成成分として分布している。そして、スフィンゴミエリンは情報伝達系を介して細胞の増殖や分化に影響を及ぼすことが知られている。また、老化によるプロテインキナーゼC 活性の低下を抑制する効果があることが知れており、アルツハイマー型記憶障害の予防や治療に有効であることも示唆されている(特許文献1) 。また、スフィンゴミエリンの摂取が学習能力の向上にも有効であることが示唆されている(特許文献2)。
【0004】
しかし、スフィンゴミエリンの摂取が脳虚血性障害を軽減することは知られていない。
【0005】
これまでにホスファチジル-L-セリンの摂取が虚血再かん流性脳障害を軽減することが知られている(特許文献3)。また、スフィンゴミエリンから脂肪酸が加水分解して精製するスフィンゴシルホスホリルコリンが、好中球の蓄積及び過活性及び/又はIL-8の過剰放出を抑制することで、炎症性疾患、虚血-再潅流損傷に関連した疾患、又は微生物感染性疾患の治療に非常に有用に使用できるとされている(特許文献4)。しかし、当該特許では、虚血-再潅流障害に対するスフィンゴシルホスホリルコリンの有効性を明確にできる根拠はなく、また、スフィンゴミエリンの有効性は言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-146883公報
【特許文献2】特開2007-246404公報
【特許文献3】特開2000-136137公報
【特許文献4】特開2005-526789公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新たな脳虚血性障害を軽減する組成物、該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、脳虚血性障害を軽減する有用な方法について検討を進めた結果、スフィンゴミエリンが脳虚血性障害を軽減させることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には以下の構成が含まれる。
(1)スフィンゴミエリンを有効成分とする脳虚血性障害軽減用組成物。
(2)(1)に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用食品。
(3)(1)に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用医薬品。
(4)(1)に記載の脳虚血性障害軽減用組成物を含むことを特徴とする脳虚血性障害軽減用飼料。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、新たな脳虚血性障害を軽減する組成物として、スフィンゴミエリンを含む組成物と該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供するものである。本発明の組成物の摂取により脳虚血性障害を安全かつ簡易に軽減あるいは改善することが可能となった。また、本発明の組成物を予め摂取することにより脳虚血性障害を安全かつ簡易に予防することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】空間記憶を評価するプローブテストにおいて、スタートしてから初めてゴールにたどり着くまでの時間(Time to platform)を示すグラフである。偽手術ラット(sham):手術を実施したが脳虚血を実施せず、精製水を投与したラット。脳虚血ラット(RI):脳虚血処理を実施し、精製水を投与したラット。脳虚血+乳由来スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1、3000mg/kg)投与ラット(RI+MC5):脳虚血処置を実施し、乳由来スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1、3000mg/kg)を投与したラット。なお、実施例品1には3000mgにはスフィンゴミエリンが180mg含まれていた。
【
図2】空間記憶を評価するプローブテストにおいて、スタートしてから初めてゴールにたどり着くまでの時間(Time to platform)を示すグラフである。偽手術ラット(sham):手術を実施したが脳虚血を実施せず、精製水を投与したラット。脳虚血ラット(RI):脳虚血処理を実施し、精製水を投与したラット。脳虚血+乳由来スフィンゴミエリン精製物(180mg/kg)投与ラット(RI+SPM):脳虚血処置を実施し、乳由来スフィンゴミエリン精製物(長良サイエンス株式会社、180mg/kg)を投与したラット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物について以下に詳細に説明する。
【0012】
(スフィンゴミエリン)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物に用いるスフィンゴミエリンは試薬グレードのものだけでなく、鶏卵、大豆、乳等から調製したスフィンゴミエリンをそのまま用いることもできる。
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物に用いるスフィンゴミエリンは、鶏卵、大豆由来のものが好ましく、獣乳由来のスフィンゴミエリンがさらに好ましい。
【0013】
(脳虚血性障害軽減用組成物)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物におけるスフィンゴミエリンの含量は、2重量%以上100重量%以下であればよく、20重量%以上100重量%以下が好ましく、50重量%以上100重量%以下がさらに好ましく、70重量%以上100重量%以下が最も好ましい。
【0014】
(脳虚血性障害軽減用組成物の摂取量)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物の有効摂取量は、スフィンゴミエリンの摂取量として2mg/日以上となるように摂取すればよい。
また、本発明の脳虚血性障害軽減用組成物は、以下に記載のとおり、食品、医薬品、飼料に添加することができるが、その際の脳虚血性障害軽減用組成物の添加量は前記した有効量が摂取できるよう適宜調整すればよい。
【0015】
(脳虚血性障害軽減用組成物を含む食品、医薬品、及び飼料)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物はそのまま使用してもよいが、食品、医薬品、及び飼料に通常含まれる他の原材料とともに使用できることから、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に用いることも出来る。また、ヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品、及び飼料に配合することも可能である。
【0016】
(脳虚血性障害軽減用組成物中のスフィンゴミエリンの定量方法)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物中のスフィンゴミエリン含量は、春田らの方法(Bioscience, Biotechnology, & Biochemistry(2008)72、8、2151-2157)により測定することができる。
【0017】
(脳虚血性障害軽減用組成物の脳虚血性障害軽減作用の評価)
本発明の脳虚血性障害軽減用組成物の脳虚血性障害軽減作用は、例えば、試験対象となる動物に脳虚血を処置した場合において、本発明組成物を付与した場合と付与しなかった場合における行動特性、生体指標を比較することにより評価できる。脳虚血の評価指標は、認知機能、不安様行動、睡眠、攻撃性行動、脳虚血性障害応答関連遺伝子の発現などが挙げられる。より具体的には、実施例に示した動物実験で評価することができる。
【0018】
〔実施例品1〕乳由来スフィンゴミエリン脂質濃縮物の調製方法
バターセーラム粉(SM2、Corman社製)の25%溶液を調製し、5N塩酸を添加してpHを4.5に調整した。この溶液を50℃で1時間静置し、カゼインタンパク質を沈殿させた。フィルタープレスを用いてこの沈殿を除去し、得られた水溶液を孔径1.0μmのMF膜(SCT社製)で処理して濃縮液画分を得た。この濃縮液画分を凍結乾燥処理し、スフィンゴミエリン含有組成物を得た。この乳由来スフィンゴミエリン含有組成物は全固形当たり脂質を53重量%、スフィンゴミエリンを6重量%、タンパク質を24重量%、糖質を15重量%、灰分を8重量%含有しており、本発明の脳虚血性障害軽減用組成物としてそのまま使用可能である。
【実施例0019】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔試験例1〕脳虚血性障害軽減効果確認試験(1)
脳虚血を処置した場合に、本発明のスフィンゴミエリンを含む組成物とスフィンゴミエリンの投与により、前記脳虚血性障害が抑制されることを確認するための試験を行った。
1.試験方法
動物実験は、下記の手順により行なった。
13週齢のWistarラット(日本クレア株式会社)にモリス水迷路の空間記憶獲得訓練を5日間実施した。その後、椎骨動脈2本を焼灼した状態で、総頸動脈2本を10分間結紮、50分間開放、10分再結紮を行うことで、脳虚血を実施した。虚血日から7日間、精製水、スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1、3000mg/kg)、乳由来スフィンゴミエリン精製物(180mg/kg/day)を投与した。投与7日目に空間記憶を評価するプローブテストを実施し、スタートしてから初めてゴールにたどり着くまでの時間(Time to platform)を測定した。
結果は、統計処理ソフトを用いて処理し、Tukey-kramer型の多重比較によりコントロール群とそれ以外の群との差をそれぞれ検定した。
【0020】
2.試験結果
図1に示すとおり、Time to platformは偽手術ラットよりも脳虚血ラットで有意に延長し、スフィンゴミエリン濃縮物を摂取させた脳虚血ラットで有意に短縮した。これより、スフィンゴミエリン濃縮物に脳虚血による空間記憶障害に対する抑制作用があることが示唆された。また、
図2に示すとおり、Time to platformは偽手術ラットよりも脳虚血ラットで有意に延長し、スフィンゴミエリン精製物を摂取させた脳虚血ラットで有意に短縮した。スフィンゴミエリン精製物に脳虚血による空間記憶障害に対する抑制作用があることが示唆された。
【0021】
〔実施例品2〕脳虚血性障害軽減用カプセル剤の調製
表1に示す配合で原材料を混合後、常法により造粒し、カプセルに充填して、本発明の小胞体ストレス軽減用カプセル剤を製造した。なお、この脳虚血性障害軽減用カプセル剤の調製には、100gあたり乳由来スフィンゴミエリンが900mg含まれていた。
【0022】
【0023】
〔実施例品3〕
(脳虚血性障害軽減用錠剤の調製)
表2に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の小胞体ストレス軽減用錠剤を製造した。なお、この脳虚血性障害軽減用錠剤の調製には、100gあたり乳由来スフィンゴミエリンが1.2g含まれていた。
【0024】
【0025】
〔実施例品4〕脳虚血性障害軽減用ゲル状食品の調製
スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1)10gを700gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明の脳虚血性障害軽減用ゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られた脳虚血性障害軽減用ゲル状食品は、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。
なお、この脳虚血性障害軽減用ゲル状食品には、100gあたり乳由来リン脂質が60mg含まれていた。
【0026】
〔実施例品5〕脳虚血性障害軽減用飲料の調製
酸味料2gを700gの脱イオン水に溶解した後、スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1)10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、小胞体ストレス軽減用飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた脳虚血性障害軽減用飲料は、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。
なお、この脳虚血性障害軽減用飲料には、100gあたり乳由来スフィンゴミエリンが60mg含まれていた。
【0027】
〔実施例品6〕脳虚血性障害軽減用飼料の調製
スフィンゴミエリン濃縮物(実施例品1)2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社製)にて、3600rpmで40分間撹拌混合した。この溶液10kgに大豆粕12kg、大豆タンパク質14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の脳虚血性障害軽減用飼料イヌ飼育飼料100kgを製造した。
なお、この脳虚血性障害軽減用飼料イヌ飼育飼料には、100gあたり乳由来スフィンゴミエリンが12mg含まれていた。
本発明は、新たな脳虚血性障害を軽減する組成物として、スフィンゴミエリンを含む組成物と該組成物を含む食品、医薬品、及び飼料を提供する。本発明の組成物等を摂取することにより脳虚血性障害を安全かつ簡易に軽減することが期待できる。