(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149524
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】高純度薬品用ポリエチレン樹脂及びそれよりなる容器
(51)【国際特許分類】
C08F 10/02 20060101AFI20231005BHJP
B65D 1/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08F10/02
B65D1/02 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058139
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 広崇
【テーマコード(参考)】
3E033
4J100
【Fターム(参考)】
3E033AA01
3E033BA15
3E033CA11
3E033CA20
3E033FA03
3E033GA02
4J100AA02P
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4J100EA05
4J100FA09
4J100FA22
4J100FA35
4J100GB05
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】 ポリエチレン樹脂を高純度薬品容器として使用した場合に、該樹脂の溶出物や劣化物等の汚染物質の溶出を極力抑え、耐薬品性に優れた高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂及びそれよりなる容器の提供を目的とする。
【解決手段】
MFRが10~40g/10分、密度が0.960~0.970g/cm3であるエチレン系重合体と、HLMFRが0.01~3g/10分、密度が0.920~0.940g/cm3であるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、特定の性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が10~40g/10分、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cm3であるエチレン系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.01~3g/10分、密度が0.920~0.940g/cm3であるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(9)の性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
(1)密度が0.940~0.955g/cm3
(2)HLMFRが1~15g/10分
(3)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15
(4)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量100000以上の成分が35重量%以上
(6)耐環境応力亀裂(ESCR)が1000時間以上
(7)13C-NMRの測定から求められる炭素原子1000Cあたりの炭素原子数4以下の短鎖分岐数が3個以上
(8)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して20PPM以下
(9)70%硝酸に40℃×35日間浸漬後のシャルピー衝撃強度保持率が50%以上
【請求項2】
添加剤を含まない、請求項1に記載の高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
【請求項4】
未洗浄容器に超純水を充填し、40℃×35日間静置保管後の内容液から溶出する0.1μm以上の微粒子数が20個/mL以下である、請求項3に記載の高純度薬品用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度薬品用容器ポリエチレン樹脂及びそれよりなる容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子工業分野の著しい発達に伴って、高純度薬品の需要が高まっている。高純度薬品は、例えば、大規模化、集積化されたLSI等の電子回路の製造に不可欠の薬品として使用されている。具体的には、ウエハー洗浄・エッチング用、配線・絶縁膜エッチング用、治具洗浄用、現像液、レジスト希釈液、レジスト剥離液、乾燥用等の用途として、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、過酸化水素水、イソプロピルアルコール、キシレン、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、メタノール、酢酸、リン酸、アンモニア水、PGMEA(酢酸プロピレングリコールメチルエーテル)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等が用いられている。これらの高純度薬品容器材料として、ポリエチレン樹脂が用いられている。半導体回路の集積度の向上とともに、これらの薬品中の不純物や微粒子に対する低減化の要求が一層厳しくなっており、この厳しい要求を満足させるために、これらの薬品を充填する容器に対するクリーン性の要求も年々高まっている。また、上記の要求とともに、これら薬品を充填する容器の大型化、耐薬品性等の要求も高まっている。
【0003】
この問題を解決するための方法として、ポリエチレン樹脂の炭化水素系溶媒抽出量や低分子成分の含有量を抑え、酸化防止剤、中和剤並びに耐光剤の添加量を極力制限した容器の提案があるが、ポリエチレン樹脂に残存する触媒成分による灰分の影響に対する改良が不十分であり、薬品に溶出する金属不純物濃度に対する対策が未完成である。また、微粒子のレベルが0.2μm以上と十分でない(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、密度が0.950~0.965g/cm3、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが5~20g/10分、定ひずみESCRが40時間以上、灰分量が20質量PPM以下である性状を有する成形性、ESCRに優れる高純度薬品容器用ポリエチレン及び高純度薬品容器が提案されているが、耐薬品性の指標となるESCRは、大型な1000Lの容器(Intermediate Bulk Containers:IBC)に対しては不十分であり、微粒子のレベルも0.2μm以上と十分でない(特許文献3参照)。
【0005】
さらには、密度が0.940~0.970g/cm3、温度190℃、21.6kg荷重のメルトフローレートが2~8.5g/10分、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)より求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15、GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下、ESCRが130時間以上である性状を有する超高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂及び高純度薬品容器が提案されているが、ESCRがIBC容器に対しては不十分であった(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-62161号公報
【特許文献2】特開平7-257540号公報
【特許文献3】特開2018-172177号公報
【特許文献4】特許第6705157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂であって、該ポリエチレン樹脂を高純度薬品容器として使用した場合に、該樹脂の溶出物や劣化物等の汚染物質の溶出を極力抑え、耐薬品性に優れた高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂及びそれよりなる容器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、密度、メルトフローレート、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求められる分子量等の特性、ESCR、金属の含有量等が特定の性状を有するポリエチレンを使用することにより、ポリエチレン由来の微粒子や重合触媒成分由来の金属不純物が少なく、耐薬品性に優れた高純度薬品容器が得られることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0009】
即ち、本発明の各態様は以下に示す[1]~[4]である。
[1] 190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が10~40g/10分、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cm3であるエチレン系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.01~3g/10分、密度が0.920~0.940g/cm3であるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(9)の性状を有する高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
(1)密度が0.940~0.955g/cm3
(2)HLMFRが1~15g/10分
(3)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15
(4)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量100000以上の成分が35重量%以上
(6)耐環境応力亀裂(ESCR)が1000時間以上
(7)13C-NMRの測定から求められる炭素原子1000Cあたりの炭素原子数4以下の短鎖分岐数が3個以上
(8)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して20PPM以下
(9)70%硝酸に40℃×35日間浸漬後のシャルピー衝撃強度保持率が50%以上
[2] 添加剤を含まない、上記[1]に記載の高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のポリエチレン樹脂からなる高純度薬品容器。
[4] 未洗浄容器に超純水を充填し、40℃×35日間静置保管後の内容液から溶出する0.1μm以上の微粒子数が20個/mL以下である、上記[3]に記載の高純度薬品用容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様である高純度薬品容器用ポリエチレン樹脂を使用した場合、該ポリエチレン樹脂由来の微粒子や重合触媒成分由来の金属不純物が少なく、耐薬品性に優れた高純度薬品容器を成形することができる。また、特に200L以上の大型容器に適し、充填された薬品に対して微粒子成分の溶出量が少なく、長期保管後も微粒子の溶出量が少ない高純度薬品容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様である高純度薬品用ポリエチレン樹脂は、190℃、2.16kg荷重のメルトフローレート(MFR)が10~40g/10分、密度(JIS K6922―1)が0.960~0.970g/cm3であるエチレン系重合体と、190℃、21.6kg荷重のメルトフローレート(HLMFR)が0.01~3g/10分、密度が0.920~0.940g/cm3であるエチレン系重合体の2成分を含み、該2成分の重量比が40:60~60:40であり、以下の(1)~(9)の性状を有する。
(1)密度が0.940~0.955g/cm3
(2)HLMFRが1~15g/10分
(3)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が8~15
(4)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分が0.30重量%以下
(5)GPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量100000以上の成分が35重量%以上
(6)耐環境応力亀裂(ESCR)が1000時間以上
(7)13C-NMRの測定から求められる炭素原子1000Cあたりの炭素原子数4以下の短鎖分岐数が3個以上
(8)含有金属量がポリエチレン樹脂に対して20PPM以下
(9)70%硝酸に40℃×35日間浸漬後のシャルピー衝撃強度保持率が50%以上
高純度薬品用ポリエチレン樹脂は、チーグラー系触媒又はメタロセン系触媒等の高活性触媒により製造できる。例えばチタン、ジルコニウム等の遷移金属化合物、マグネシウム化合物及び有機アルミニウム化合物からなる高活性チーグラー系触媒を重合用触媒として用い、エチレンもしくは、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンを所望の密度となる割合にして共重合することにより、好適に製造することができる。
触媒は、特許第3319051号に記載の触媒を上げることができる。
【0012】
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロプレン、1-ブテン、4-メチル-1ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセンなどを挙げることができる。
【0013】
該ポリエチレン樹脂の製造における重合方法は、薬品に溶出する金属不純物濃度を低く抑え、また、微粒子の発生の原因となる低分子重合体の樹脂への取り込みを制限するため、炭素数が6以上かつ10以下の重合溶媒、例えば、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等を用いるスラリー重合であり、MFRが10~40g/10分、密度が0.960~0.970g/cm3である低分子量エチレン系重合体と、HLMFRが0.01~3g/10分、密度が0.920~0.940g/cm3である高分子量エチレン系重合体の2成分からなり、該2成分の重量比が40:60~60:40である。低分子量成分および高分子量成分の2成分は、例えば二段重合法で製造できる。
【0014】
また、該ポリエチレン樹脂は以下に示すように密度、HLMFR、分子量分布(Mw/Mn)、分子量1000以下の成分、炭素数1000あたりの短鎖分岐数、ESCRおよび含有金属量を特定するものである。
【0015】
すなわち、該ポリエチレン樹脂の密度(JIS K6922-1)は0.940~0.955g/cm3であり、好ましくは0.945~0.949g/cm3である。0.940g/cm3未満では容器内の薬品への溶出ポリマー成分が増加し、微粒子の発生原因となる。また、密度が0.955g/cm3を超えると容器のESCRが低下する。
【0016】
該ポリエチレン樹脂のHLMFR(JIS K6922-1)は1~15g/10分であり、好ましくは5~10g/10分である。1g/10分未満では容器の表面肌が悪化する。また、15g/10分を超えると容器のESCRが低下する。
【0017】
該ポリエチレン樹脂のGPCにより求められるMwとMnの比Mw/Mnは8~15である。該Mw/Mnが8未満では分子量分布が狭く容器の表面肌が悪化し、また、容器のESCRも低下する。該Mw/Mnが15を超えると、分子量分布が拡大して低分子量成分が増加し、容器の微粒子が増加する。また、パリソン結合部であるピンチオフ部の形状が悪くなり、容器の落下強度が低下する。
【0018】
該ポリエチレン樹脂のGPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量1000以下の成分は0.30重量%以下である。分子量1000以下の成分が0.30重量%を超えると、低分子量成分が増加し、容器から溶出する微粒子数が増加する。
【0019】
該ポリエチレン樹脂のGPCを用いて得られる分子量分布曲線において、分子量100000以上の成分が35重量%以上である。分子量100000以上の成分が35重量%以上であると、耐薬品性に優れる。分子量100000以上の成分が35重量%未満であると、容器の落下強度は低下し、該ポリエチレン樹脂の2つ以上の結晶にまたがる分子鎖(タイ分子)の生成確率も低下するため、ESCRが低下する。
【0020】
該ポリエチレン樹脂のESCRは1000時間以上である。ESCRが1000時間未満では、200Lよりも容量の大きい容器に薬品、例えば界面活性剤等を充填し、6か月以上放置した場合、容器が環境応力亀裂により破損する場合がある。
【0021】
該ポリエチレンの炭素数1000あたりの炭素原子数4以下の単鎖分岐の数は3個以上である。単鎖分岐の数が3個以上であると、耐薬品性に優れる。短鎖分岐数が3個よりも少ない場合、タイ分子の生成確率およびESCRが低下する。また、短鎖分岐は分子量100000以上の高分子量エチレン系重合体に含まれることが好ましい。低分子量エチレン系重合体に短鎖分岐が含まれると薬品中に溶出し、容器から溶出する微粒子数が増加する。
【0022】
該ポリエチレン樹脂の含有金属量はポリエチレン樹脂に対して20PPM以下である。含有金属量が20PPM以下であれば、高純度薬品への金属溶出量が少ないため、薬品中の金属不純物濃度を抑制することができる。含有金属量は、全樹脂に対する金属分の割合を重量PPMで示すものである。含有金属量は樹脂を灰化したのちにアルカリ溶融して得られるもので、Mg、Al、Ti等の残存物である。
【0023】
該ポリエチレンを温度40℃の70%硝酸に35日浸漬した後のシャルピー衝撃強度保持率は浸漬前と比較して、50%以上である。一般的にポリエチレン樹脂は硝酸に弱いため劣化の進行が早く、強度が低下しやすい。40℃×35日浸漬後のシャルピー衝撃強度保持率が50%以上であれば、容器にして輸送等で衝撃が加わっても破損なく使用できる。
【0024】
さらに、該ポリエチレン樹脂は、酸化防止剤、耐光安定剤、及び中和剤等の全ての添加剤が無添加であることが好ましい。ここで、中和剤とはステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛に代表される脂肪酸金属塩とハイドロタルサイト類であって、何れも薬品中に溶出して金属汚染物質となるものであり、無添加であることが好ましい。
【0025】
該ポリエチレン樹脂はブロー成形により容器状に成形することにより高純度薬品容器となる。特に、クリーンルーム内に設置したブロー成形機を使用し、フィルターで微粒子を取り除いたエアーをブローエアーに用いたブロー成形方法はクリーンな容器を製造するのに好ましい。容器形状および容器の容量は特定しないが、内容物のバリア性や容器の強度を補強するために、該樹脂を内層に使用し、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、およびポリアミド樹脂等を中間層に使用したり、FRP等を外層にして補強してもかまわない。
【0026】
該ポリエチレン樹脂を用いて成形した未洗浄容器に超純水を充填し、内容液溶出する0.1μm以上の微粒子数は、40℃×35日保管後にて20個/mL以下であることが好ましい。0.1μm以上の微粒子数が20個/mL以下であれば、LSIの微細化に対応できる。
【0027】
該ポリエチレン樹脂を用いて成形する容器は、例えば1000Lの容器(Intermediate Bulk Containers:IBC)が挙げられる。それより小型の容器として、例えば200Lドラム、20L工業薬品缶が挙げられる。
【実施例0028】
以下、本発明について実施例により説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例で使用する試験方法は、以下の通りである。
【0029】
(1)密度
JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0030】
(2)HLMFR
JIS K6922-1に準拠して、190℃、荷重21,6kgで測定した。
【0031】
(3)Mw/Mn
東ソー製HLC-8321GPC/HT(カラム:東ソー製TSKgel guardcolumnHHRおよびTSKgelGMHHR-H)を使用し、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いてGPCによって測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。
【0032】
(4)分子量1000以下および100000以上の成分
GPC測定により得られた分子量分布曲線から1000以下の成分および100000以上の成分の積分量の割合を算出した。
【0033】
(5)耐環境応力亀裂(ESCR)
JIS K6922-2に準拠し、試験片を温度50℃のノニオン系海面活性剤(10wt%水溶液)に浸漬させ、試験片が50%の確率で割れる時間(F50値)を測定した。
【0034】
(6)炭素原子1000Cあたりの短鎖分岐数
Bruker製 AVANCE600を使用して、13C NMR測定により得られたNMRスペクトルにおいて、5~50ppmにピークトップを有するすべてのピーク面積の総和を1000としたときの、炭素原子数が2の分岐が結合したメチン炭素に由来するピーク面積と、炭素原子数が4の分岐が結合したメチン炭素に由来するピーク面積から短鎖分岐の数を算出した。
【0035】
(7)含有金属量
試料を灰化したのちにアルカリ溶融を行い、溶液化したものを測定溶液とし、Optima 8300を使用して、ICP-AES測定により、試料中の含有金属量を測定した。
【0036】
(8)シャルピー衝撃強度
JIS K7111に準拠して試験片を作製し、試験片を温度40℃の70%硝酸に35日間浸漬させた。
浸漬後の試験片を雰囲気温度23℃にて衝撃強度を測定し、浸漬前の衝撃強度値との比較より強度保持率を求めた。強度保持率が50%以上であったものを「○」、50%以下となったものを「×」とした。
【0037】
(9)ブロー成形
50mmΦの押出スクリューを有するブロー成形機MSE-50E/54M-A((株)タハラ製)を用いて、シリンダー温度180~190℃、スクリュー回転数16~18回転でダイス先端よりパリソンを連続押出し、平均肉厚1mm、内容積800mLの容器を成形した。
【0038】
(10)微粒子数
ポリエチレン系樹脂組成物をブロー成形することで得られた内容積800mL容器を使用した。23℃のクリーンルーム内にて未洗浄容器に600mLの超純水を充填し、蓋をして15回振とうし、設定温度40℃のクリーンオーブン(ヤマト科学(株)製、DE411)内にて35日間静置保管後、充填水中の0.1μm以上の微粒子数を微粒子カウンター(リオン(株)製、コントローラー:KE-40B1、パーティクルセンサー:KS-42A)で測定した。水中の微粒子数は個/mLで示す。
【0039】
実施例1
〈ポリエチレンAの製造〉
内容積370Lの連続式重合器の第1段目に脱水精製したヘキサンを110L/時間、有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを110mmoL/時間、特開平7-41513号公報に従い調製したMg、Al、TiおよびClを主成分とするチーグラー系固体触媒成分を0.70g/時間、エチレンを24.0kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.50moL/moLとなるようにそれぞれを供給しながら、温度85℃、全圧30kg/cm2、平均滞留時間3.4時間の条件下で連続的に第1段目のエチレン重合(低分子量成分)を行った。低分子量成分のMFRは20g/10分、密度は0.970g/cm3であった。
【0040】
第1段目の重合体を含むヘキサンスラリーは、フラッシュタンクにて未反応の水素およびエチレンを除去した後、内容積545Lの第2段目重合器に導入した。この重合器に追加のヘキサンを45L/時間供給しながら、エチレンを24.0kg/時間、1-ブテンを8.1kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.020moL/moLとなるようにそれぞれを供給しながら、温度80℃、全圧20kPa/cm2、平均滞留時間3.3時間の条件下でエチレン重合(高分子量成分)を行った。高分子量成分のHLMFRは0.10g/10分、密度は0.925g/cm3であった。第2段目重合器から排出物はフラッシュタンクにて、未反応の水素、エチレン、1-ブテンを除去し、50L/時間のヘキサンにて洗浄した後、乾燥工程を経てエチレン系共重合体の混合物パウダーを得た。低分子量成分の割合は49重量%、高分子量成分の割合は51重量%とした。上記の製造プロセスで2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンAを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0041】
ポリエチレンAをブロー成形し、得られた容器を用いて上記した微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
〈ポリエチレンBの製造〉
第2段目重合器の1-ブテンを8.5kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.025moL/moLとして供給した以外は、実施例1と同様に、ヘキサン中でエチレンとブテン-1を共重合して、二段重合法により重合パウダーを得た。第2段目重合器の高分子量成分のHLMFRは0.05g/10分、密度は0.922g/cm3であった。2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンBを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0043】
ポリエチレンBをブロー成形し、得られた容器を用いて上記した微粒子測定を行った。結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
ポリエチレンCとして、下記市販の高密度ポリエチレンを使用した。
【0045】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 8900(HLMFR=2.5g/10分、密度=0.954g/cm3)
実施例と同様にして、ポリエチレンCをブロー成形し、微粒子数を測定した。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0046】
比較例2
ポリエチレンDとして、下記市販の高密度ポリエチレンを使用した。
【0047】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 8D01A(HLMFR=8.0g/10分、密度=0.957g/cm3)
ポリエチレンDをブロー成形し、微粒子数を測定した。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0048】
比較例3
ポリエチレンEとして、下記市販の高密度ポリエチレンを使用した。
【0049】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 8022(HLMFR=25g/10分、密度=0.958g/cm3)
ポリエチレンEをブロー成形し、微粒子数を測定した。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0050】
比較例4
〈固体触媒成分の調製〉 撹拌装置を備えた3リットルガラスフラスコに、金属マグネシウム粉末30.0g(1.23モル)およびチタンテトラブトキシド168.0g(0.494モル)を入れ、ヨウ素1.5gを溶解したn-ブタノール192g(2.59モル)を90℃で2時間かけて加え、さらに発生する水素ガスを排除しながら窒素シール下で140℃で2時間撹拌した。これを110℃とした後に、テトラエトキシシラン26g(0.125モル)とテトラメトキシシラン19g(0.125モル)を加え、さらに140℃で2時間撹拌した。次いで、ヘキサン2.1リットルを加えて、均一溶液を得た。 この均一溶液を撹拌装置を備えた10リットルのステンレス製オートクレーブに入れ、オートクレーブの内温を45℃に保ちジエチルアルミニウムクロライド1.0モルとi-ブチルアルミニウムジクロライド0.5モルを含むヘキサン溶液800mlを1時間かけて加え、さらに60℃で1時間撹拌し粒子を生成させた。再び45℃とした後、50%ヘキサン溶液1.04kg(3.35モル)を2時間かけて加えた。すべてを加えた後、60℃で1時間撹拌を行い固体触媒成分を得た。得られた固体触媒成分はヘキサンを用いて残存する未反応物および副生成物を除去した後、ヘキサンスラリーとしてポリエチレンFの製造に用いた。
【0051】
〈ポリエチレンFの製造〉 内容積370Lの連続式重合器の第1段目に脱水精製したヘキサンを110L/時間、有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを110mmoL/時間、上記固体触媒成分を0.4g/時間、エチレンを25.4kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.28moL/moLなるようにそれぞれを供給しながら、温度85℃、全圧30kg/cm2、平均滞留時間を3.4時間の条件下で連続的に第1段目(低分子量成分)の重合を行った。低分子量成分のMFRは16g/10分、密度は0.974g/cm3であった。
【0052】
第1段目の重合体を含むヘキサンスラリーは、フラッシュタンクにて未反応の水素およびエチレンを除去した後、内容積545リットルの別の連続式重合器に導入した。この重合器に追加のヘキサンを45L/時間供給しながら、エチレンを21.5kg/時間、1-ブテンを0.8kg/時間、水素を対エチレン濃度比0.12moL/moL、温度80℃、全圧20kg/cm2、平均滞留時間を3.3時間の条件下に第2段目(高分子量成分)の重合を行った。高分子量成分の密度は0.940g/cm3であった。第2段重合器からの排出物はフラッシュタンクにて未反応の水素、エチレン、1-ブテンを除去した後、50L/時間のヘキサンにて洗浄した後、乾燥工程を経てエチレン系共重合体を得た。低分子量成分の割合は50重量%、高分子量成分の割合は50重量%とした。上記の製造プロセスで2段重合したパウダーを添加剤無添加によりペレット化し、ポリエチレンFを得た。物性測定結果を表1に示す。
【0053】
ポリエチレンFをブロー成形し、微粒子数を測定した。樹脂の物性と容器の評価結果を表1に示す。
【0054】