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特開2023-149544テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149544
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/16 20060101AFI20231005BHJP
   A61K 8/9771 20170101ALI20231005BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K36/16
A61K8/9771
A61Q7/00
A61P5/28
A61P17/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058174
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 祥太
(72)【発明者】
【氏名】平中 夏海
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083EE22
4C088AB02
4C088AC05
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA92
4C088ZC10
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物由来の組成物の中からテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤に、イチョウ葉抽出物を有効成分として含有せしめる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチョウ葉抽出物を有効成分として含有するテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤。
【請求項2】
イチョウ葉抽出物を有効成分として含有する抗男性ホルモン剤。
【請求項3】
イチョウ葉抽出物を有効成分として含有するHGFmRNA発現促進剤。
【請求項4】
イチョウ葉抽出物を有効成分として含有するHGFタンパク質産生促進剤。
【請求項5】
イチョウ葉抽出物を有効成分として含有するKAP5.1mRNA発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのステロイドホルモンは産生臓器から分泌された分子型で、受容体と結合してその作用を発現するが、アンドロゲンと総称される男性ホルモンの場合、例えば、テストステロンは標的臓器の細胞内に入ってテストステロン5α-レダクターゼにより5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)に還元されてから受容体と結合し、アンドロゲンとしての作用を発現する。
【0003】
アンドロゲンは重要なホルモンであるが、それが過度に作用すると、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビ等)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等の様々な好ましくない症状を誘発する。そのため、これらの各種症状を改善するために過剰のアンドロゲンの作用を抑制する方法、具体的には、テストステロンを活性型5α-DHTに還元するテストステロン5α-レダクターゼの作用を阻害することにより、活性な5α-DHTが生じるのを抑制する方法や、テストステロンから生じた5α-DHTが受容体と結合するのを阻害することによりアンドロゲン活性を発現されない方法が知られている。
【0004】
従来、テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用を有するものとして、ヒトリシズカ抽出物(特許文献1参照)、クエルカス(Quercus)属に属する植物またはその抽出物(特許文献2参照)、アヤメ科植物ヒオウギ又はその根茎の乾燥物(特許文献3参照)等が知られている。
【0005】
毛髪は、成長期、退行期、休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期へかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられている。そして、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞へ働きかけてその増殖を促すなど、毛髪への分化に重要な役割を担っている(非特許文献1参照)。
【0006】
肝細胞成長因子(HGF)は、肝細胞の増殖を促進する因子として劇症肝炎患者血漿から発見された。HGFは、肝臓に限らず、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞などの増殖を促進することが知られている。HGFの血中濃度は、肝疾患をはじめ、肺炎、白血病、がん、心筋梗塞などの様々な疾患において上昇することが報告されている。また、HGFは、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進する効果が認められている。特許文献4には、HGFを肺線維症予防剤の有効成分として利用する技術が開示されている。
【0007】
また、毛包の毛乳頭細胞において、HGFが発現していることが示され(非特許文献2参照)、HGFが毛根の活発化を介した育毛効果を有することが明らかになった。これまでに、HGF産生の促進作用を有する植物エキスとして、例えば米などが知られている(特許文献5参照)。
【0008】
また、毛髪に関する問題としては、抜け毛、薄毛等といった毛根・毛包の状態に関するものの他に、毛髪が硬い、柔らかい、細い、はり・こしがない、枝毛、くせ毛等といった毛髪の質(髪質)に関するもの等がある。さらに、髪質に関する問題として、日常のヘアケア、ヘアメイク、紫外線暴露等による毛髪の損傷に起因するものや、毛幹形成における問題に起因するもの等があり、髪質に関する問題には、極めて多様な要因が関与している。
【0009】
従来、毛髪の細さや、はり・こしのなさを改善するために、例えば育毛有効成分を配合した育毛剤や養毛剤等を使用することが考えられる。しかしながら、育毛剤や養毛剤等の使用では、髪が太くならず、はり・こしを与えるほどの効果は期待できないという問題があった。これらを改善するため、アルコキシシランの加水分解で生成したシラノール化合物を毛髪に浸透させ、かつ毛髪内部で重合させる方法が提案されている(特許文献6参照)。しかし、化学物質を用いて毛髪を改質するこの方法では、毛髪に自然なはり・こしを付与するという点で十分とはいえなかった。
【0010】
一方で、生化学的・分子生物学的に髪質を改善する試みもなされている。毛髪は、その表面を覆うキューティクル(毛小皮)、その内部にある毛皮質(コルテックス)及び毛髪の中心を占める毛髄質(メデュラ)から構成されている。このうち、毛髪の損傷においては、その表面を覆うキューティクルが重要な役割を担っていることが知られている(非特許文献3参照)。そのため、キューティクルを効果的に再生することができれば、毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質の改善が可能になると考えられている。
【0011】
最近、ケラチン関連タンパク質(Keratin-associated protein;KAP)のうち、KAP5ファミリー遺伝子のmRNA発現量と毛髪のはり・こしの強さとの間に相関関係があることが明らかにされた(特許文献7参照)。また、KAP5ファミリーの一つであるKAP5.1が、成長過程にあるキューティクルに局在することも報告されている(非特許文献4参照)。このため、KAP5ファミリー、特にKAP5.1mRNAの発現を促進することができれば、キューティクルの再生、及び毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質の改善につながると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-088076号公報
【特許文献2】特開2003-238435号公報
【特許文献3】特開平09-301884号公報
【特許文献4】特開2006-131649号公報
【特許文献5】特開2004-99503号公報
【特許文献6】特開2005-320314号公報
【特許文献7】特開2006-014721号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「Trends Genet」,第8巻,56-61(1992年)
【非特許文献2】アンチエイジングシリーズ(1)、白髪・脱毛・育毛の実際,NTS,1-18(2005年)
【非特許文献3】日本化粧品技術者会誌,第36巻,第3号,207-216(2002年)
【非特許文献4】Int. J. Trichology,2(2),89-95(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、安全性の高い天然物由来の組成物の中からテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を解決するために、本発明は、イチョウ葉抽出物を有効成分とするテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤及び抗男性ホルモン剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、イチョウ葉抽出物を有効成分とするHGFmRNA発現促進剤を提供する。
【0017】
また、本発明は、イチョウ葉抽出物を有効成分とするHGFタンパク質産生促進剤を提供する。
【0018】
また、本発明は、イチョウ葉抽出物を有効成分とするKAP5.1mRNA発現促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、イチョウ葉抽出物を有効成分とし、安全性に優れたテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤は、イチョウ葉抽出物を有効成分として含有する。
【0021】
本実施形態における有効成分としての抽出原料は、イチョウ(学名:Ginkgo biloba L.)の葉である。
【0022】
イチョウ(学名:Ginkgo biloba L.)は、北海道、本州、四国、九州等に自生するイチョウ科イチョウ属に属する落葉高木であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用するイチョウの構成部位としては、葉部である。
【0023】
イチョウ葉抽出物に含まれるテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、イチョウ葉からテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。なお、抽出物には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0024】
上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま、または粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0025】
抽出に用いられる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、またはこれらの混合物等が挙げられ、室温または溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。抽出原料に含まれるテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有する成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0026】
抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0027】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0028】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましい。水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
【0029】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温または還流加熱下で抽出することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて撹拌しながら、30分~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得ることができる。得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥することにより乾燥物が得られる。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には50~95℃で1~4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、40~80℃で30分~4時間程度である。
【0030】
以上のようにして得られた抽出液は、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0031】
なお、得られた抽出液はそのままでもテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤として使用することができるが、濃縮液または乾燥物としたもののほうが好ましい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0032】
また、イチョウ葉は特有の匂いを有しているため、その生活活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、例えば活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0033】
以上のようにして得られるイチョウ葉抽出物は、テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用してテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤の有効成分として用いられ得る。
【0034】
本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤は、イチョウ葉抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0035】
上記抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。上記抽出物を製剤化したテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤及び抗男性ホルモン剤は、イチョウ葉抽出物が有するテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用を通じて、テストステロン5α-レダクターゼの活性を阻害することができる。これにより、アンドロゲンの作用を抑制することができ、男性ホルモンが関与している各種疾患、例えば、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビ等)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等を予防、治療又は改善することができる。そのため、イチョウ葉抽出物は、育毛化粧料等の有効成分として用いることもできる。ただし、本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤及び抗男性ホルモン剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
本実施形態におけるHGFmRNA発現促進剤及びHGFタンパク質産生促進剤は、イチョウ葉抽出物が有するHGFmRNA発現促進作用及びHGFタンパク質産生促進作用を通じて、HGFmRNAの発現及びHGFタンパク質の産生を促進することができる。これにより、例えば、各臓器由来の上皮細胞、内皮細胞、造血系細胞などの増殖を促進したり、臓器の障害や線維化を抑制し、再生を促進したり、脱毛症、線維症、肝臓疾患、閉塞性動脈硬化症などを改善乃至治療したりすることができる。そのため、イチョウ葉抽出物は、育毛化粧料等の有効成分として用いることもできる。ただし、本実施形態におけるHGFmRNA発現促進剤及びHGFタンパク質産生促進剤は、これらの用途以外にもHGFmRNA発現促進作用及びHGFタンパク質産生促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0038】
本実施形態におけるKAP5.1mRNA発現促進剤は、イチョウ葉抽出物が有するKAP5.1mRNA発現促進作用を通じて、KAP5.1mRNAの発現を促進することができる。これにより、キューティクルの再生、及び毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質を改善することができる。そのため、イチョウ葉抽出物は、髪質改善剤等の有効成分として用いることもできる。ただし、本実施形態におけるKAP5.1mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもKAP5.1mRNA発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤は、優れたテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料や頭髪化粧料等の化粧料等に配合するのに好適である。
【0040】
テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤を配合可能な化粧料としては、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸等が挙げられる。テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量は、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。化粧料は、上記抽出物が有するテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用、HGFmRNA発現促進作用、HGFタンパク質産生促進作用及びKAP5.1mRNA発現促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0041】
なお、本実施形態に係るテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤はヒトに対して好適に適用されるものであるが、テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害効果、HGFmRNA発現促進効果、HGFタンパク質産生促進効果及びKAP5.1mRNA発現促進効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0042】
以下、製造例、試験例等を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。なお、下記の試験例においては、イチョウ葉抽出物は、製造例で得られた抽出物を被験試料として使用した。
【0043】
〔製造例〕イチョウ葉抽出物の製造
イチョウの葉の乾燥物10gに70容量%エタノール溶液150mLを加え、還流抽出器を用いて80~90℃にて2時間加熱抽出を行い濾過した。残渣についてさらに同様の抽出処理をした。得られた抽出液を合わせて減圧下にて濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥してイチョウ葉抽出物(2.5g)を得た。
【0044】
〔試験例1〕テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用試験
イチョウ葉抽出物について、下記の方法によりテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用の試験を実施した。
【0045】
蓋付V底試験管にて、プロピレングリコールで調製した4.2mg/mLのテストステロン20μL、1mg/mL NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)含有5mmol/mL Tris-HCl緩衝液(pH7.13)825μLを混合した。これに、50%エタノールにて調製した被験試料溶液80μLと、S-9(オリエンタル酵母工業社製,ラット肝臓ホモジネート)75μLとを加えて混合し、37℃にて60分間インキュベートした。その後、塩化メチレン1mLを加えて反応を停止させた。これを遠心分離し(1600×g,10分間)、塩化メチレン層を分取して、分取した塩化メチレン層について、下記の条件にてガスクロマトグラフィー分析に供し、3α-アンドロスタンジオール、5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)およびテストステロンの濃度を定量した。なお、コントロールとして、被験試料溶液の代わりに試料溶媒(50%エタノール)を同量(80μL)用いて同様に処理し、ガスクロマトグラフィー分析に供した。
【0046】
<ガスクロマトグラフィー条件>
使用装置:Shimadzu GC-2014(島津製作所社製)
カラム:DB-1701(内径:0.53mm,長さ:30m,膜厚:1.0μm)(J&W Scientific社製)
カラム温度:240℃
注入口温度:300℃
検出器:FID
試料注入量:1μL
スプリット比:1:2
キャリアガス:窒素ガス
キャリアガス流速:3mL/min
【0047】
3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT及びテストステロンの濃度の定量は、下記の方法により行った。具体的には、3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT及びテストステロンの標準品を塩化メチレンに溶解し、当該溶液をガスクロマトグラフィー分析に供し、これらの化合物の濃度(μg/mL)及びピーク面積から、ピーク面積と化合物の濃度との対応関係を予め求めた。そして、テストステロンとS-9との反応後の3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT及びテストステロンのそれぞれのピーク面積あたりの濃度を、予め求めた対応関係を利用して、下記式(1)に基づいて求めた。
【0048】
A=B×C/D・・・(1)
式中の「A」は、3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT又はテストステロンの濃度を表し、「B」は、3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT又はテストステロンのピーク面積を表し、「C」は、標準品の濃度を表し、「D」は、標準品のピーク面積を表す。
【0049】
上記式(1)に基づいて算出された3α-アンドロスタンジオール、5α-DHT及びテストステロンの濃度を用いて、下記式(2)に基づき、変換率(テストステロン5α-レダクターゼによりテストステロンが還元されて生成した3α-アンドロスタンジオール及び5α-DHTの濃度と、テストステロンの初期濃度との濃度比)を算出した。
【0050】
変換率=(E+F)/(E+F+G)・・・(2)
式中の「E」は、3α-アンドロスタンジオールの濃度を表し、「F」は、5α-DHTの濃度を表し、「G」は、テストステロンの濃度を表す。
【0051】
上記式(2)に基づいて算出された変換率を用いて、下記式(3)に基づき、テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0052】
テストステロン5α-レダクターゼ活性阻害率(%)=(1-H/I)×100・・・(3)
式中の「H」は、試料添加時の変換率を表し、「I」は、試料無添加時の変換率を表す。
【0053】
上記試験の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、イチョウ葉抽出物は、優れたテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0056】
〔試験例2〕HGFmRNA発現促進作用試験
イチョウ葉抽出物について、下記の方法によりHGFmRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0057】
ヒト正常毛乳頭細胞(HFDPC:頭頂部由来)を60mmシャーレに播種し、ヒト正常毛乳頭細胞用培地(DPCGM)を用いて37℃、5%CO下で培養した。
【0058】
培養後、増殖添加剤を含まない毛乳頭細胞基本培地(DPCBM)で溶解した被験試料を各シャーレに3mL添加して37℃、5%CO下で2時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のDPCBMを用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0059】
この総RNAを鋳型とし、HGF及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。各mRNAの発現量は、GAPDHmRNAの発現量で補正し算出した。下記式によりHGFmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0060】
HGFmRNA発現促進率(%)= A / B ×100
式中の「A」は、被験試料添加時の補正値を表し、「B」は、被験試料無添加時の補正値を表す。
【0061】
上記試験の結果を表2に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のHGF mRNA発現促進率は100%となる。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、イチョウ葉抽出物は、高いHGFmRNA発現促進率を示した。この結果から、イチョウ葉抽出物は、優れたHGFmRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0064】
〔試験例3〕HGFタンパク質産生促進作用試験
イチョウ葉抽出物について、下記の方法によりHGFタンパク質産生促進作用の試験を実施した。
【0065】
ヒト正常毛乳頭細胞(HFDPC:頭頂部由来)を60mmシャーレに播種し、ヒト正常毛乳頭細胞用培地(DPCGM)を用いて37℃、5%CO下で培養した。
【0066】
培養後、増殖添加剤を含まない毛乳頭細胞基本培地(DPCBM)で溶解した被験試料を各シャーレに3mL添加して37℃、5%CO下で72時間培養した。培養後、培地中のHGF量を、Human HGF Quantikine ELISA Kit (R&D Systems社製)を用いて定量した。得られた結果から、下記式よりHGFタンパク質産生促進率(%)を算出した。
【0067】
HGFタンパク質産生促進率(%)= A / B ×100
式中の「A」は、被験試料添加時の補正値を表し、「B」は、被験試料無添加時の補正値を表す。
【0068】
上記試験の結果を表3に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のHGFタンパク質産生促進率は100%となる。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、イチョウ葉抽出物は、高いHGFタンパク質産生促進率を示した。この結果から、イチョウ葉抽出物は、優れたHGFタンパク質産生促進作用を有することが確認された。
【0071】
〔試験例4〕KAP5.1mRNA発現促進作用試験
イチョウ葉抽出物について、下記の方法によりKAP5.1mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0072】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10cells/2mLの細胞密度になるように播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。
【0073】
培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0074】
この総RNAを鋳型とし、KAP5.1及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。KAP5.1mRNAの発現量は、GAPDHmRNAの発現量で補正し算出した。下記式によりKAP5.1mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0075】
KAP5.1mRNA発現促進率(%)= A / B ×100
式中の「A」は、被験試料添加時の補正値を表し、「B」は、被験試料無添加時の補正値を表す。
【0076】
上記試験の結果を表4に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のKAP5.1mRNA発現促進率は100%となる。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示すように、イチョウ葉抽出物は、高いKAP5.1mRNA発現促進率を示した。この結果から、イチョウ葉抽出物は、優れたKAP5.1mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のテストステロン5α-レダクターゼ活性阻害剤、抗男性ホルモン剤、HGFmRNA発現促進剤、HGFタンパク質産生促進剤及びKAP5.1mRNA発現促進剤は、化粧料等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。