IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特開2023-149564除害設備の制御システム及び制御方法
<>
  • 特開-除害設備の制御システム及び制御方法 図1
  • 特開-除害設備の制御システム及び制御方法 図2
  • 特開-除害設備の制御システム及び制御方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149564
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】除害設備の制御システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C22B3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058202
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】大道 陽平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
4K001DB38
(57)【要約】
【課題】低コストで水使用量を極力抑えつつ、操業負荷を一定に維持することができる除害設備の制御システム及び制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】オートクレーブ10を用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備20の制御システム100であって、除害設備20は、外部から受け入れた水を除害設備20内で循環させ、循環させた水に酸性蒸気を接触させることで洗浄し、循環後の水を外部に払い出す機構を有し、制御システム100は、少なくとも、オートクレーブ10の上流工程側に設けられニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を測定するスラリー流量測定手段30と、除害設備20の機構を制御する制御手段40とを備え、制御手段40は、スラリー流量測定手段30によるスラリーの流量の情報を取得し、流量に応じて除害設備20における水の払い出し流量を調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートクレーブを用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備の制御システムであって、
前記除害設備は、外部から受け入れた水を該除害設備内で循環させ、該循環させた水に前記酸性蒸気を接触させることで洗浄し、前記循環後の水を外部に払い出す機構を有し、
当該制御システムは、少なくとも、
前記オートクレーブの上流工程側に設けられ前記ニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を測定するスラリー流量測定手段と、
前記除害設備の前記機構を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、前記スラリー流量測定手段による前記スラリーの流量の情報を取得し、該流量に応じて前記除害設備における前記水の払い出し流量を調整することを特徴とする除害設備の制御システム。
【請求項2】
前記制御手段は、送液ポンプの送液量を調整することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、調整弁の開閉度を調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
オートクレーブを用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備の制御方法であって、
前記除害設備は、外部から受け入れた水を該除害設備内で循環させ、該循環させた水に前記酸性蒸気を接触させることで洗浄し、前記循環後の水を外部に払い出す機構を有し、
前記オートクレーブの上流工程側から送られる前記ニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を計測し、該スラリーの流量に応じて前記除害設備における前記水の払い出し流量を調整することを特徴とする除害設備の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬における除害設備の制御システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching)法が注目されている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50重量%程度まで向上させたニッケル・コバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
ニッケル・コバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬法においては、ニッケル酸化鉱石を高温加圧酸浸出して、浸出スラリーを得る浸出工程と、浸出工程で得られた浸出スラリーのpHを予備中和工程で調整した後、固液分離して、ニッケル及びコバルトのほかに不純物元素として亜鉛等を含有する粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る固液分離工程が含まれる。
【0004】
この湿式製錬方法における浸出工程では、ニッケル酸化鉱石を含む原料スラリーがヒータータンク(昇温昇圧設備)で段階的に昇温及び昇圧された後、オートクレーブに供給され、オートクレーブにおいて、同様に昇温及び昇圧された硫酸を原料スラリーに添加し、高温高圧下で撹拌して有価金属を高温加圧酸浸出し、その後、得られた浸出スラリーをフラッシュタンクで常温常圧まで降温降圧する。
【0005】
このとき、オートクレーブおよびフラッシュタンクは適宜除害設備に加圧蒸気を排気することで適切な圧力となるよう調整している。また除害設備には酸性蒸気が流入することから、除害設備内の循環水を適量払い出しおよび受け入れすることで循環水のpHが中性となるよう調整する必要がある。払い出しおよび受け入れ水量が少ない場合には、循環水のpHが低下することで酸性蒸気を除害設備から排出してしまう環境リスクが上昇し、pH調整のための対応として操業負荷を落とすこと等につながる。また、逆に払い出しおよび受け入れ水量が多い場合には除害設備で使用する水量が増加してしまうというデメリットがある。
【0006】
このような課題に対して、例えば特許文献1には、有害ガスが供給される吸気部と、該吸気部の上部に設けられ、シャワー室を有する湿式排気処理部と、該シャワー室に連続する排気部と、前記吸気部の下部に設けられた循環水槽と、前記循環水槽の水を前記シャワー室に供給する循環水供給手段と、を備えている湿式除害装置において、前記循環水槽の水を浄化するための水処理手段を備えていることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、水を循環させて該水にハロゲンを含む排ガスを溶解させ、かつその後に残る排ガスを排出する循環水槽と、循環水槽力放出された、排ガスが溶解した水を加圧下で中和剤により処理し、前記循環水槽に戻す中和槽とを有することを特徴とする除害装置が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2では、除害設備に水処理手段や加圧手段などを追加する必要があり、大がかりな設備の改良を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-248018号公報
【特許文献2】国際公開第2007/083426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、低コストで水使用量を極力抑えつつ、操業負荷を一定に維持することができる除害設備の制御システム及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、オートクレーブに供給する鉱石スラリー流量見合いで除害設備の循環水払い出し流量を決定することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の一態様は、オートクレーブを用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備の制御システムであって、除害設備は、外部から受け入れた水を除害設備内で循環させ、循環させた水に酸性蒸気を接触させることで洗浄し、循環後の水を外部に払い出す機構を有し、制御システムは、少なくとも、オートクレーブの上流工程側に設けられニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を測定するスラリー流量測定手段と、除害設備の機構を制御する制御手段とを備え、制御手段は、スラリー流量測定手段によるスラリーの流量の情報を取得し、流量に応じて除害設備における水の払い出し流量を調整する。
【0013】
本発明の一態様によれば、硫酸浸出されるスラリー流量をスラリー流量測定手段によって見積もり、当該スラリー流量に応じて制御手段により除害設備における水の払い出し流量を調整することにより、水使用量を極力抑えつつ、循環水のpHを中性に保つことで操業負荷を一定に維持することができる。
【0014】
このとき、本発明の一態様では、制御手段は、送液ポンプの送液量を調整するとしてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様では、制御手段は、調整弁の開閉度を調整するとしてもよい。
【0016】
本発明の他の態様は、オートクレーブを用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備の制御方法であって、除害設備は、外部から受け入れた水を除害設備内で循環させ、循環させた水に酸性蒸気を接触させることで洗浄し、循環後の水を外部に払い出す機構を有し、オートクレーブの上流工程側から送られるニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を計測し、スラリーの流量に応じて除害設備における水の払い出し流量を調整する。
【0017】
本発明の他の態様によれば、硫酸浸出されるスラリー流量を計測して見積もることで、当該スラリー流量に応じて除害設備における水の払い出し流量を調整することにより、水使用量を極力抑えつつ、循環水のpHを中性に保つことで操業負荷を一定に維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低コストで水使用量を極力抑えつつ、操業負荷を一定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を示す工程図である。
図2】浸出工程における各装置の構成と、本発明の一実施形態に係る除害設備の制御システムの構成を示す概略図である。
図3】本発明が適用される除害設備の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る除害設備の制御システム及び制御方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.除害設備の制御システム及び制御方法
2-1.浸出工程の概要
2-2.除害設備の制御システム及び制御方法
【0021】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、除害設備の制御システム及び制御方法のより具体的な説明に先立ち、本発明の一実施形態に係る除害設備の制御システム及び制御方法が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0022】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用する。
【0023】
浸出工程S2では、スラリー調製工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。本発明の一態様に係る除害設備の制御システム及び制御方法は、主に浸出工程S2において適用される。詳細については後述する。
【0024】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれており、そのpHは非常に低い。
【0025】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高めて所定の範囲に調整する。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0026】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0027】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0028】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。脱亜鉛工程S6では、微加圧された反応槽にて粗硫酸ニッケル溶液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで含まれる亜鉛を硫化し、ポンプと配管を用いてその亜鉛硫化物を含む粗硫酸ニッケル溶液を固液分離を行う濾過機へ送液する。
【0029】
硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
【0030】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。この反応槽にて生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0031】
<2.除害設備の制御システム及び制御方法>
(2-1.浸出工程の概要)
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、本発明の一実施形態は、主に浸出工程S2において、発生した酸性蒸気を水(循環水)と接触させて吸収し、外部に排出しないようにする除害設備に適用されるものである。なお、同様の方式で発生したガスを水等の液体に接触させて回収する除害設備であれば、他の場面や工程においても適用可能であり、本発明の一実施形態は必ずしもニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における浸出工程のみに限定されるわけではない。
【0032】
図2は、浸出工程における各装置の構成と、本発明の一実施形態に係る除害設備の制御システムの構成を示す概略図である。浸出工程S2では、前工程のスラリー調製工程S1で調製された鉱石スラリーがヒータータンク50(昇温昇圧設備)により段階的に昇温及び昇圧された後、オートクレーブ10に供給される。ヒータータンク50としては、特に限定されるものではないが、一例として多段式の向流式直接加熱型熱交換器が用いられる。この際、加熱媒体としては、水蒸気が用いられ、例えば、ボイラーなど一般的な方法によって発生させた水蒸気を使用してもよいが、オートクレーブ10から排出される浸出スラリーを段階的に降温及び降圧するフラッシュタンク60で発生する水蒸気を回収し循環して使用することが好ましい。なお、図2では、第1ヒータータンク50A、第2ヒータータンク50B、第3ヒータータンク50Cの3段で示しているが、段数は3段に限定されるものではない。
【0033】
オートクレーブ10としては、特に限定されるものではなく、外熱式又は加圧水蒸気の吹込みにより加熱される、縦型又は横型の加圧容器等が用いられる。オートクレーブ内では、硫酸により、鉱石中に含まれるニッケル及びコバルトとともに、鉄、アルミニウム、亜鉛などの不純物元素の一部も浸出され、これらを含有する浸出スラリーが得られる。
【0034】
続いて、浸出スラリーは、オートクレーブ10から、浸出後のスラリーを常温常圧まで降温降圧するフラッシュタンク60へ供給され、段階的に降温及び降圧される。なお、図2では、第1フラッシュタンク60A、第2フラッシュタンク60B、第3フラッシュタンク60Cの3段で示しているが、段数は3段に限定されるものではない。
【0035】
フラッシュタンク60は、浸出工程S2と次工程との操業条件のギャップを埋めるものである。すなわち、オートクレーブの浸出条件としては、ニッケル及びコバルトの高浸出率を得るため、通常、200~300℃程度の温度が選ばれる。一方、それに続く予備中和工程S3、或いは固液分離工程S4では、通常、安全性と経済性から大気圧下の条件で操業される。したがって、フラッシュタンク60では、浸出後の高温高圧のスラリーから段階的に加圧蒸気を回収しながら、降温降圧する必要がある。
【0036】
各フラッシュタンク60には、蒸気排出配管70等が設けられ、浸出後の高温高圧のスラリーから段階的に加圧蒸気を排出して減圧する。蒸気排出配管70は、高温高圧の加圧蒸気に耐えるための材質及び構造からなり、一例として図2に示すように、各段のフラッシュタンク60から、温度と圧力が同程度であるヒータータンク50へと循環供給されて利用される。図2の例では、第1フラッシュタンク60Aは第3ヒータータンク50Cと蒸気排出配管70Aで接続され、第2フラッシュタンク60Bは第2ヒータータンク50Bと蒸気排出配管70Bで接続され、第3フラッシュタンク60Cは第1ヒータータンク50Aと蒸気排出配管70Cで接続される。
【0037】
一方で、これらの蒸気排出配管70等によっても調整しきれない過剰分の加圧蒸気(酸性蒸気)については、オートクレーブ10や各フラッシュタンク70から除害設備20へと送られる。図3は、本発明が適用される除害設備の一例を示した概略図である。
【0038】
除害設備20の気液接触容器19では、オートクレーブや各フラッシュタンクから加圧蒸気(酸性蒸気)が供給されてガス雰囲気が形成され、上部から水を供給して気液接触させることで蒸気の酸性成分を水に吸収させて洗浄(無害化)する。加圧蒸気(酸性蒸気)は、例えば、気液接触容器19の下方から内部に供給され、上昇気流により気液接触容器19の上部へと流れる。そして、気液接触容器19の上部には、一例とて噴霧手段22が設けられ、水(循環水)が供給(噴霧)される。したがって、加圧蒸気(酸性蒸気)は図3中の破線矢印のように容器内を上昇する際に水(循環水)と気液接触することになり、洗浄(無害化)される。酸性成分が洗浄されて無害化された蒸気は、気液接触容器19の頂部に設けられた排出管23から除害ファン21を介して排出される。排出時には、例えば、濃度測定手段やpH測定手段などにより蒸気が無害化されていることを確認することが好ましい。
【0039】
また、噴霧手段22から供給された水は、加圧蒸気(酸性蒸気)と接触後、気液接触容器19の底部24に貯留される。底部24の水は、循環ポンプ25により、再度上部の噴霧手段22へと送られて循環する。
【0040】
気液接触容器19の内部で水を循環させ続けると、加圧蒸気の酸性成分を吸収して循環水のpHが低下するため、気液接触容器19には適宜、新しい水の供給(受け入れ)と放出(払い出し)が行われる。新しい水の受け入れと払い出しは、一例として送液ポンプ26、27や調整弁28、29などを介して行われる。気液接触容器19の底部24の水は、pH測定手段などでpHを管理し、放出後にはアルカリなどを用いて中和し、処理することが好ましい。あるいは、気液接触容器19内にアルカリ溶液を供給し、アルカリ水溶液を循環させるようにしてもよい。
【0041】
(2-2.除害設備の制御システム及び制御方法)
次に、本発明の一実施形態に係る除害設備の制御システム及び制御方法について説明する。本発明の一態様は、オートクレーブ10を用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備20の制御システム100であって、除害設備20は、外部から受け入れた水を除害設備20内で循環させ、循環させた水に酸性蒸気を接触させることで洗浄し、循環後の水を外部に払い出す機構を有し、制御システム100は、少なくとも、オートクレーブ10の上流工程側に設けられニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を測定するスラリー流量測定手段30と、除害設備20の機構を制御する制御手段40とを備え、制御手段40は、スラリー流量測定手段30によるスラリーの流量の情報を取得し、流量に応じて除害設備20における水の払い出し流量を調整する。
【0042】
スラリー流量測定手段30は、ニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を測定するものであり、例えば、電磁式流量計や超音波式流量計等を利用することができる。スラリー流量測定手段30は、上述したスラリー調製工程S1後のスラリーで、オートクレーブで硫酸により浸出されるまでの間の状態、すなわちオートクレーブ10の上流工程側のスラリー流量を測定する。したがって、図2に示すようにヒータータンク50に供給される前にスラリー流量測定手段30を設けてもよいし、各ヒータータンク50A,50B,50Cの間やオートクレーブ10に供給される直前にスラリー流量測定手段30を設けてもよい。
【0043】
制御手段40は、スラリー流量測定手段30によるスラリーの流量の情報を取得し、流量に応じて除害設備20における水の払い出し流量を調整する。制御手段40は、例えば、PC(personal computer)やタブレット端末などの情報処理機能と情報通信機能を有する機器が用いられる。一例として、スラリー流量測定手段30により測定されたスラリー流量の情報は通信手段(有線又は無線)により制御手段40に送られ、スラリー流量に応じてあらかじめ設定された出力処理情報を除害設備20の機器に送信して、当該機器の動作を制御する。
【0044】
一例として、制御手段40は、送液ポンプ26,27の送液量を調整することができる。例えば、制御手段40は、送液ポンプ26,27の回転数などを制御することによって送液量を制御するようにしてもよい。
【0045】
あるいは、制御手段40は、調整弁28,29の開閉度を調整することができる。調整弁28,29の開閉度により、受け入れ側又は払い出し側の水量を調整することもできる。
【0046】
制御手段40は、循環水の払い出し流量を調整する。したがって、制御手段40は、少なくとも払い出し側の送液ポンプ27、又は、調整弁29(あるいはその両方)を制御することが好ましい。これらに加えて、受け入れ側の送液ポンプ26、又は、調整弁28(あるいはその両方)を制御してもよいが、受け入れ側の水量は、除害設備内の水量が一定となるように調整しておいてもよい。
【0047】
以上が本発明の一実施形態にかかる除害設備の制御システムの構成である。また、本発明の一態様は、オートクレーブを用いたニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出プロセスにおいて発生した酸性蒸気を洗浄する除害設備の制御方法であって、除害設備は、外部から受け入れた水を除害設備内で循環させ、循環させた水に酸性蒸気を接触させることで洗浄し、循環後の水を外部に払い出す機構を有し、オートクレーブの上流工程側から送られるニッケル酸化鉱石のスラリーの流量を計測し、スラリーの流量に応じて除害設備における水の払い出し流量を調整する。
【0048】
調整の一例としては、鉱石スラリー流量が設備設計値よりも多い時には、循環水の払い出し流量を多く設定し、鉱石スラリー水量が設備設計値よりも少ない時には、循環水の払い出し流量を少なく設定する。これらの設定値は、循環水のpHが中性の範囲から低下しすぎないように、例えば、経験則などに基づいて設定することができる。一例として、鉱石スラリー流量と循環水の払い出し水量とが比例関係となるように設定することもできる。
【0049】
なお、循環水のpHを基準にして除害設備における水の水量を調整する方法も考えられるが、中性域の水溶液はpHの変化が大きく安定しないため、pHの変化に応じてすぐに送液量(払い出し流量)を調整することが困難である。したがって、本発明による鉱石スラリー流量の変化に応じて水の払い出し流量を調整する方法が最も適しているといえる。
【0050】
このように、本発明によれば、硫酸浸出されるスラリー流量を計測して見積もることで、当該スラリー流量に応じて除害設備における水の払い出し流量を調整することにより、水使用量を極力抑えつつ、循環水のpHを中性に保つことで操業負荷を一定に維持することができる。
【実施例0051】
以下、本発明について、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
従来の除害設備からの循環水の払い出し量を一定とする操業を比較例として、本発明の一態様に係る除害設備の制御方法を適用した時(実施例)の効果を検証した。具体的には、鉱石スラリー流量の設備設計値と従来の除害設備からの循環水の払い出し量を1(100%)とし、本発明の一態様では、鉱石スラリーの流量の変化に応じて表1に示すように循環水の払い出し流量を変化させて操業を行った。
【0053】
【表1】
【0054】
(効果1)
除害設備の循環水のpHを測定し、年間の操業における1日平均pHを算出した。その結果、本発明の一態様を適用した実施例では1日平均pHが7.4であり、従来の比較例の1日平均pHの6.6よりも上昇させることができた。これにより、循環水のpHを中性領域に保つことができ、酸性蒸気を除害設備から排出してしまうという環境リスクをより低減できることが分かった。
【0055】
(効果2)
循環水のpH低下により操業負荷を落とす頻度を計測し、1日当たりの平均頻度を算出した。その結果、実施例では0.2回/日であり、比較例では8.1回/日であった。これにより、除害設備の循環水のpH低下に起因して操業負荷を落とす頻度を大きく減少させることができ、操業負荷を一定に維持することができることが分かった。
【0056】
(効果3)
除害設備の水使用量を計測し、年間の操業における1日平均流量を算出した。その結果、比較例での水使用量を100とした時に実施例での1日平均流量は83であり、水使用量を17%削減することができた。これにより、水使用量を節約できることが分かった。
【0057】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0058】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、除害設備の制御システム及び制御方法の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 オートクレーブ、19 気液接触容器、20 除害設備、21 除害ファン、22 噴霧手段、23 排出管、24 (気液接触容器の)底部、25 循環ポンプ、26 送液ポンプ(受け入れ側)、27 送液ポンプ(払い出し側)、28 調整弁(受け入れ側)、29 調整弁(払い出し側)、30 スラリー流量測定手段、40 制御手段、50(50A,50B,50C) ヒータータンク、60(60A,60B,60C) フラッシュタンク、70(70A,70B,70C) 蒸気排出配管、100 制御システム
図1
図2
図3