IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

特開2023-149614エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料及び成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149614
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20231005BHJP
   C08G 59/22 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08G59/50
C08G59/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058271
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 康幸
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA05
4J036AD08
4J036AE07
4J036AF16
4J036DC03
4J036DC09
4J036FB03
4J036FB05
4J036HA12
4J036JA06
4J036JA11
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】炭素繊維への含浸性と即硬化性を維持しつつ成形物の力学特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、脂環式アミン(C)、コアシェルゴム(D)を必須成分とし、芳香族エポキシ樹脂(B)は、下記一般式(1)で表される構造を有すし、かつ25℃における粘度が100~5000mPa・sであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、脂環式アミン(C)、コアシェルゴム(D)を必須成分とし、芳香族エポキシ樹脂(B)は、下記一般式(1)で表される構造を有し、かつ25℃における粘度が100~5000mPa・sであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(ただし、nは0以上4以下の整数、Rmは0~4個の置換基でありそれぞれ独立して水素原子、炭素数4以下の脂肪族炭化水素基のいずれかを表す)
【請求項2】
脂環式アミン(C)の活性水素当量比が、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ当量に対して、0.7~1.2の範囲である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
脂環式アミン(C)を除く樹脂組成物の25℃における粘度が5~80Pa・sである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(1)で表される芳香族エポキシ樹脂(B)が、レゾルシノールジグリシジルエーテルである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
一般式(1)で表される芳香族エポキシ樹脂(B)が、カテコールジグリシジルエーテルである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
破壊靱性が1.3以上であり、ガラス転移温度が130℃以上であり、引張り弾性率が2GPa以上である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物に、強化繊維を配合してなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項8】
強化繊維の体積含有率が30~75%である請求項7に記載の繊維強化複合材料。
【請求項9】
請求項7に記載の繊維強化複合材料を、硬化して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料及びそれに用いるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れるエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
前記エポキシ樹脂組成物は、樹脂を強化繊維に含浸させて用いることから低粘度であることが求められる。また、繊維強化樹脂成形品として自動車等における構造部品や、電線コア材に用いられる場合には、繊維強化樹脂成形品が過酷な使用環境に晒されることから、耐熱性や機械強度に優れる樹脂であることも求められる。
【0004】
耐熱性や機械強度に加えて硬化時間が短いことも重要である。硬化時間が短くなることで、限られた生産設備の中での生産性を向上させることが可能となるためである。
【0005】
低粘度なエポキシ樹脂組成物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、酸無水物、及びイミダゾール化合物を含有するエポキシ樹脂組成物が広く知られている(特許文献1)。また、2価フェノールのグリシジルエーテルと、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を併用して硬化剤と組み合わせてなるエポキシ樹脂組成物も知られている(特許文献2)また、脂肪族エポキシ樹脂とコアシェル型ゴム粒子とアミン硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物も知られている(特許文献3)。しかし、特許文献1、2及び3で提供されているエポキシ樹脂組成物は、強化繊維への含浸性が高く、硬化物における耐熱性や機械強度にも一定の性能を発現するものの、粘度や硬化に必要な時間が長く、今後ますます高まる要求性能を満足するものではなかった。
【0006】
エポキシ樹脂の機械強度を向上させる方法として、靱性に優れるゴム成分や熱可塑性樹脂を配合する方法などが試されている。例えば、カルボキシル基を含有するアクリロニトリル-ブタジエンゴムのようなゴム成分をエポキシ樹脂に配合することにより、エポキシ樹脂の靱性が改善されることは1970年代から検討されており、一般によく知られている。しかしながら、ゴム成分は、耐熱性低下や弾性率低下を引き起こす上、ゴム成分による靱性改質効果を十分に得るためには、ゴム成分を多量に配合する必要がある。このため、粘度が上昇するうえエポキシ樹脂本来の耐熱性や力学特性が低下し、良好な物性を有する複合材料が得られないという欠点があった。
【0007】
この問題に対して、エポキシ樹脂に実質的に不溶なポリマー粒子を用いる方法が提案されている。中でも、ポリマーを主成分とする粒子状のコア部分と、コア部分とは異なるポリマーをグラフト重合するなどの方法でコア部分の表面の一部あるいは全体を被覆したコアシェルゴム粒子を配合する方法が提案されている(特許文献4)。この方法ではエポキシ樹脂組成物の粘度上昇、エポキシ樹脂硬化物のTg低下を抑制できることが知られている。
【0008】
しかしながら、十分な靱性向上効果を得るためには大量のコアシェルゴム粒子の配合が必要であり、高粘度化する上、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低下し、ひいては繊維強化複合材料の力学特性の低下を引き起こすという問題が依然として残されていた。
【0009】
そこで、低粘度で繊維への良好な含浸性を有しており、より一層優れたTg、弾性率及び即硬化性を有するエポキシ樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-163573号公報
【特許文献2】国際公開第2016/148175号
【特許文献3】国際公開第2020/022950号
【特許文献4】特開平5-65391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では炭素繊維への含浸性と即硬化性を維持しつつ成形物の力学特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、脂環式アミン(C)、コアシェルゴム(D)を必須成分とし、芳香族エポキシ樹脂(B)は、一般式(1)で表される構造を持ち、かつ25℃における粘度が100~5000mPa・sであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【化1】
(ただし、nは0以上4以下の整数、Rmは0~4個の置換基でありそれぞれ独立して水素原子、炭素数4以下の脂肪族炭化水素基のいずれかを表す)
【0013】
本発明の別の態様は、上記エポキシ樹脂組成物に、強化繊維を配合してなることを特徴とする繊維強化複合材料である。強化繊維の体積含有率が30~75%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、低粘度で繊維への良好な含浸性を有しており、即硬化性であり、得られる硬化物は優れた耐熱性及び力学特性を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、脂環式アミン(C)、コアシェルゴム(D)を必須成分とする。以下、エポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、脂環式アミン(C)、コアシェルゴム(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分ともいう。
【0016】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)の配合量は、(A)~(D)成分の合計100質量部の内、45~85質量部、好ましくは45~80質量部、より好ましくは55~75質量部である。
エポキシ樹脂(A)としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレ-ト、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等の液状ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0017】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、好ましくは130~220g/eq.より好ましくは140~200g/eq.である。
エポキシ樹脂(A)は、液状であることが望ましく、25℃における粘度が、好ましくは1000~20000mPa・s、より好ましくは1000~15000mPa・sの範囲から選択するとよい。
【0018】
芳香族エポキシ樹脂(B)は、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であり、かつ、25℃における粘度が100~5000mPa・sであることが必要である。
【化2】
(ただし、nは0以上4以下の整数、Rmは0~4個の置換基でありそれぞれ独立して水素原子、炭素数4以下の脂肪族炭化水素基のいずれかを表す)
具体的には、グリシジルエーテル基が、2つのベンゼン環ユニットをつなぐ脂肪族鎖の両端のエーテル酸素原子に対し、どの位置(オルト位、メタ位、パラ位)でベンゼン環に結合するかによって、オルト位にグリシジルエーテル基を有するカテコール型、メタ位にグリシジルエーテル基を有するレゾルシノール型、パラ位にグリシジルエーテル基を有するヒドロキノン型の異性体が挙げられる。
二量体(n=1)でも、分子鎖の屈曲性を利用した硬化物の自由体積減少による弾性率向上効果の観点から、カテコール型、レゾルシノール型が好ましい。また、二量体ではユニット間連結部分に水酸基を有するため、分子鎖間相互作用が強く、硬化物の弾性率向上のためには、より好ましい。
さらに、それぞれのユニットの芳香環の置換基Rmについて、水素原子または脂肪族炭化水素基いずれかであるが、脂肪族炭化水素基の場合、他の成分との相溶性を保ち、高い機械特性を得るため炭素数4以下であり、より好ましくは炭素数2以下である。
【0019】
芳香族エポキシ樹脂(B)は、nは0以上4以下の整数が好ましく、さらに好ましくは0以上3以下である。nが5以上であると粘度が大きく上昇してしまうため、本検討には適さない。
【0020】
芳香族エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量は、好ましくは100~170g/eq.、より好ましくは110~150g/eq.である。
芳香族エポキシ樹脂(B)は、25℃における粘度が100~5000mPa・sであることが必要である。好ましくは100~1000mPa・s、好ましくは200~700mPa・sである。
【0021】
芳香族エポキシ樹脂(B)は、例えば以下のような製法で得る事ができる。まず、ジヒドロキシベンゼン類に、エピクロルヒドリン、イソプロピルアルコールを溶解、加熱し水酸化ナトリウム水溶液を滴下する。次いで食塩水を分液除去し、過剰のエピクロルヒドリン、イソプロピルアルコール、水を蒸留回収し粗樹脂が得られる。さらにこれをトルエンに溶解し、塩基性水溶液を加え加熱撹拌する。その後、水洗により生成した塩、及びアルカリを油水分離させて除去し、脱水、濾過を経てトルエンを蒸留回収し得ることができる。
【0022】
本発明で使用する芳香族エポキシ樹脂(B)の配合量は、(A)~(D)成分の合計100質量部の内、5~30質量部、好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。
【0023】
脂環式アミン(C)は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、低粘度のものを使用することができる。25℃における粘度が、好ましくは1~100mPa・s、より好ましくは3~50mPa・s、さらに好ましくは5~30mPa・sである。
脂環式アミン(C)としては、例えば、4,4 ′-メチレンビスシクロヘキシルアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ノルボルネンジメチルアミン、N-アミノエチルピペラジン及びこれら環状脂肪族アミンのエポキシ付加物などが挙げられる。
これらの中で反応性が高く低粘度であることから、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ当量に対して、脂環式アミン(C)の活性水素当量比は、0.7~1.2、好ましくは0.8~1.2、より好ましくは0.8~1.1である。活性水素当量比が0.7より低いと硬化物のTgが大きく低下し、1.2より高いと耐熱性が大きく損なわれる。
【0025】
コアシェルゴム(D)としては、架橋されたゴム状ポリマーまたはエラストマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したものである。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物にコアシェルポリマーを適用する場合、コアシェルポリマーは平均粒子径が体積平均粒子径で1~500nmであることが好ましく、3~300nmであればさらに好ましい。なお、体積平均粒子径はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。本発明で使用されるコアシェルポリマーの体積平均粒子径が1nm以下では製造することが困難であるか、または非常に高価となり実質的に使用することができず、体積平均粒子径が500nm以上ではトウプリプレグの製造工程において、強化繊維は1μ程度の繊維の束であるため、これが網のようになり同レベルの大きさのコアシェルポリマーを通さずにロ別されることになり、コアシェルポリマーの分散状態が不均一になる場合があるので好ましくない。
【0027】
コアシェルゴム(D)の配合量は、エポキシ樹脂組成物100質量部中に、0.5~15質量部配合されることが好ましく、1~10質量部であればさらに好ましい。配合量が0.5質量部以上であれば、成形後の繊維強化複合材料に必要とされる破壊靭性が得られやすく、配合量が15質量部以下であれば、得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることを抑え、強化繊維に無理なく含浸できるため、繊維強化複合材料用により適したものとなる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに他の安定剤、改質剤等を含んでいても良い。好ましい安定剤としては、B(OR)(但し、Rは水素原子、アルキル基あるいはアリール基を表す。)で表されるホウ酸化合物が好ましい。ホウ酸化合物の配合量は、樹脂組成物全体100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.1~3質量部である。0.01質量部未満の添加量では貯蔵時の安定性を確保することができず、また10質量部を越えると硬化反応を阻害する効果のほうが大きくなってしまい、硬化不良を誘発する。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これらの添加剤は、樹脂組成物全体100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.01~1質量部を配合することができる。配合量が0.01質量部未満では表面を平滑にする効果が表れず、3質量部を超えると添加剤が表面にブリードアウトを起こしてしまい、逆に平滑性を損なう要因となる。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、脂環式アミン(C)を除く成分(A)、(B)および(D)において、E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が好ましくは1~80Pa・s、より好ましくは1~50Pa・s、特に好ましくは1~10Pa・sである。粘度が高すぎると炭素繊維への含浸性が悪化し、粘度が低すぎる場合、樹脂が流れてしまい硬化物のRCが低くなってしまい十分な性能を発現できない。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維より構成された成形体において、強化繊維の体積含有率は、好ましくは30~75%、より好ましくは45~75%であり、この範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、80~180℃の温度の任意温度で、20分~1時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて硬化物を得ることができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器を想定した場合は、80~150℃の温度の範囲の任意温度で、20分~1時間の範囲の任意時間で加熱硬化することにより、所望する硬化物の物性を得ることができる。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。各実施例の樹脂組成物を得るために、下記の樹脂原料を用いた。
【0036】
(A)エポキシ樹脂
・液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF-170(日鉄ケミアカル&マテリアル株式会社製)エポキシ当量160~180g/eq.、粘度3000mPa・s
・液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:YD-128(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)エポキシ当量184~194g/eq.、粘度13000mPa・s
(B)芳香族エポキシ樹脂
・レゾルシノールジグリシジルエーテル:DE-703(国都化学株式会社)エポキシ当量115~135g/eq.、粘度360mPa・s
(B’)比較用エポキシ樹脂
・トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル:YH-300(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社)エポキシ当量140~155g/eq.、粘度145mPa・s
(C)脂環式アミン
・1,3-ビス( アミノメチル) シクロヘキサン:1,3-BAC(三菱瓦斯化学製)粘度9mPa・s
・ノルボルネンジアミン:NBDA(三井ファイン株式会社)粘度20mPa・s
(D)コアシェルゴム(CSR)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂にコアシェルゴム(CSR)を分散させたマスターバッチ「MX-154」:コアシェルゴム(CSR)配合量40wt%、BPA型エポキシ樹脂配合量60wt%、平均粒径200nm(株式会社カネカ製)粘度30000mPa・s(50℃)
【0037】
測定方法を以下に示す。
(1)エポキシ当量:
JIS K 7236規格に準拠して測定した。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いた。
(2)粘度:
JISK7117-1に準じた。具体的には硬化剤である脂肪族アミンを除いた硬化前樹脂組成物の25℃における粘度をE型粘度計で測定した。
(3)ゲルタイム:アントンパール製レオメーターMCR-102を用い、振動モードにて温度90℃、歪0.1%、周波数1Hzにて時間分散測定を行い、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G"交点の時間をゲルタイムとした。
(3)ガラス転移温度(Tg):
示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて20℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC外挿値の温度で表した。
(4)破壊靭性(K1c):
ASTM E399に準じた。具体的には、幅10mm、厚み2mm、長さ50mmの試験片を作成し、室温23℃下、クロスヘッドスピード0.5 mm/分で測定した。
(5)引張弾性率、引張強度、引張伸び:
JIS K7161に準じた。具体的には、万能材料試験機(島津サイエンス株式会社製 オートグラフAGS-H)を使用した。室温にて、掴み部を含めた全長215mm、幅10mm、厚み2mmの寸法のダンベル試験片を、チャック間114mm、速度50mm/min.で引張試験し、得られた応力-歪線図から引張強度、引張弾性率、引張伸びを求めた。
【0038】
実施例1~3、比較例1~5
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
表1に示す割合にてエポキシ樹脂(A)、芳香族エポキシ樹脂(B)、コアシェルゴム(D)を容器に取り、THINKY PLANETARY VACUUM MIXER(株式会社シンキー社製)を用いて2000rpm、4.0mmhgの条件下で2分混練した。その後、脂環式アミン(C)を加えて、2000rpm、4.0mmhgの条件下で20秒混練することで、表1に示す組成のエポキシ樹脂組成物を調製した。
(2)試験片の作製
上記(1)で作製したエポキシ樹脂組成物を、90℃の温度に加熱した金型に注入し、90℃の温度のオーブンで8分、その後で150℃の温度のオーブンで20分硬化して、厚さ2mmの板状樹脂硬化物を作製した。次に、得られた板状樹脂硬化物を切り出して試験分析に使用した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】