(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149626
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法、および分散液
(51)【国際特許分類】
C09C 3/12 20060101AFI20231005BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09C3/12
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058286
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】武田 怜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智海
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA25
4J037AA30
4J037CB23
4J037DD05
4J037DD21
4J037EE03
4J037EE14
4J037EE43
4J037FF02
4J037FF15
(57)【要約】
【課題】疎水性の高い材料と混合した場合であっても、凝集がより抑制された無機粒子を得ることができる無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法、および分散液を提供する。
【解決手段】シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、を有し前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下である、無機粒子の表面修飾方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、
前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、を有し、
前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、
前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、
前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下である、無機粒子の表面修飾方法。
【請求項2】
前記メチル基含有シラン化合物と、前記炭化水素基含有シラン化合物との質量比が99:1~35:65である、請求項1に記載の無機粒子の表面修飾方法。
【請求項3】
さらに、前記シラン化合物と水とを混合して、加水分解された前記シラン化合物を含む加水分解液を得る工程Aを有し、
前記工程Bにおいて、前記加水分解液と前記無機粒子とを混合することにより、前記混合液を得る、請求項1または2に記載の無機粒子の表面修飾方法。
【請求項4】
シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、
前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、
前記第1の分散液に、疎水性溶媒を加えて、第2の分散液を得る工程Dと、を有し、
前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、
前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、
前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下であり、
前記工程Dは、前記第1の分散液を加熱した後に、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d1、前記第1の分散液を加熱しながら、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d2、および、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加えた後に、前記第1の分散液を加熱する工程d3から選択されるいずれかの工程である、分散液の製造方法。
【請求項5】
前記メチル基含有シラン化合物と、前記炭素数が2以上5以下の炭素水素基含有シラン化合物との質量比が99:1~35:65である、請求項4に記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記シラン化合物と水とを混合して、加水分解された前記シラン化合物を含む加水分解液を得る工程Aを有し、
前記工程Bにおいて、において、前記加水分解液と前記無機粒子とを混合することにより、前記混合液を得る、請求項4または5に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
無機粒子と、少なくとも一部が前記無機粒子に付着したシラン化合物と、を含み、
前記シラン化合物は、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、
前記無機粒子の含有量が10質量%以上49質量%以下であり、
前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が65質量%以上98質量%以下である、分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法および分散液に関する。
【0002】
無機粒子は、屈折率調整効果、熱線遮蔽機能等、様々な性能を部品、部材や材料に付与することができる。したがって、無機粒子は、化粧料、樹脂製品や光学部品等の様々な技術分野において利用されている。
【0003】
無機粒子は、無修飾の場合、一般にその表面に水酸基が存在するため、通常は親水性である。そこで、疎水性材料に無機粒子を添加する場合には、シランカップリング剤等の表面改質剤により、無機粒子の表面を疎水性に改質することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、顔料の表面がn-オクチルトリエトキシシラン等の特定のシランカップリング剤により被覆処理された化粧料用顔料が提案されている。この化粧料用顔料は、化粧料に配合した際に高い撥水性を有しながら、感触はしっとりとして重くなく、肌への付着性が高いという特徴がある。
また、特許文献2では、1つ以上の反応性官能基を有する表面修飾剤により表面が修飾され、かつ分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の無機酸化物粒子を含有してなる無機酸化物透明分散液が提案されている。
また、特許文献3では、疎水性の高い材料と混合するために、高濃度な表面修飾材料中で無機粒子を表面修飾する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-181136号公報
【特許文献2】国際公開第2007/049573号
【特許文献3】国際公開第2020/203459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3で提案された表面修飾方法では、無機粒子と疎水性の高い材料とを混合することはできるものの、疎水性の高い材料中で無機粒子が凝集し、その凝集粒子径が大きいという課題があった。そのため、疎水性の高い材料中での無機粒子同士の凝集がより抑制される表面修飾方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、疎水性の高い材料と混合した場合であっても、凝集がより抑制された無機粒子を得ることができる無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法、および分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様は、シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、を有し、前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下である、無機粒子の表面修飾方法を提供する。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の第二の態様は、シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、前記第1の分散液に、疎水性溶媒を加えて、第2の分散液を得る工程Dと、を有し、前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下であり、前記工程Dは、前記第1の分散液を加熱した後に、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d1、前記第1の分散液を加熱しながら、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d2、および、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加えた後に、前記第1の分散液を加熱する工程d3から選択されるいずれかの工程である、分散液の製造方法を提供する。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の第三の態様は、無機粒子と、少なくとも一部が前記無機粒子に付着したシラン化合物と、を含み、前記シラン化合物は、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記無機粒子の含有量が10質量%以上49質量%以下であり、前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が65質量%以上98質量%以下である、分散液を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、疎水性の高い材料と混合した場合であっても、凝集がより抑制された無機粒子を得ることができる無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法、および分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【
図2】本発明の実施例1の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【
図3】本発明の実施例2の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【
図4】本発明の実施例2の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【
図5】本発明の比較例1の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【
図6】本発明の比較例1の硬化物の電界放出型透過電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の無機粒子の表面修飾方法、分散液の製造方法、および分散液の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、量、数、種類、比率、構成、位置、順番、比率等について、省略、追加、置換、または変更が可能である。
【0014】
本実施形態の無機粒子の表面修飾方法は、シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、を有し、前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下である。
【0015】
なお、上記シラン化合物と上記無機粒子との合計含有量には、後述するシラン化合物の加水分解で発生するアルコールを含まない。すなわち、上記シラン化合物と上記無機粒子との合計含有量とは、シラン化合物と、加水分解されたシラン化合物と、無機粒子との含有量を意味する。なお、上記合計含有量が、上記シラン化合物に付着した無機粒子の含有量を含めた値であることは言うまでもない。
【0016】
また、本実施形態の分散液の製造方法は、シラン化合物と無機粒子とを混合し、混合液を得る工程Bと、前記混合液中において前記無機粒子を分散し、前記無機粒子が分散した第1の分散液を得る工程Cと、前記第1の分散液に、疎水性溶媒を加えて、第2の分散液を得る工程Dと、を有し、前記シラン化合物が、メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記無機粒子の含有量が、10質量%以上49質量%以下であり、前記工程Bにおいて、前記混合液中における前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が、65質量%以上98質量%以下であり、前記工程Dは、前記第1の分散液を加熱した後に、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d1、前記第1の分散液を加熱しながら、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加える工程d2、および、前記疎水性溶媒を前記無機粒子が凝集しない速度で加えた後に、前記第1の分散液を加熱する工程d3から選択されるいずれかの工程である。
【0017】
本実施形態において、上記シラン化合物と上記無機粒子の合計含有量は、固形分により評価することができる。
本実施形態において固形分とは、揮発可能な成分を除去した際の残留物をいう。例えば、分散液1.2gを磁性るつぼに入れて、ホットプレートで、150℃で1時間加熱した場合に、揮発せずに残留する成分(金属酸化物粒子やシラン化合物等)を固形分とすることができる。
【0018】
本実施形態においては、上記の各工程に先立ち、シラン化合物と水とを混合して、加水分解されたシラン化合物を含む加水分解液を得る工程(加水分解工程)を有してもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0019】
(工程A(加水分解工程))
本工程においては、シラン化合物と水とを混合して、加水分解されたシラン化合物を含む加水分解液を得る。このように、予めシラン化合物の少なくとも一部が加水分解した加水分解液を用いることにより、後述する分散工程において無機粒子にシラン化合物が付着しやすくなる。
メチル基含有シラン化合物と、炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とは、それぞれ単独で加水分解してもよく、一緒に加水分解してもよい。
【0020】
メチル基含有シラン化合物は、無機粒子の表面に緻密に付着することで、本実施形態により分散液を得ることができる。得られた分散液は、疎水性材料への無機粒子の混合を可能とする。
粘度が低く、後述する分散工程における無機粒子の分散が容易となる観点から、メチル基含有シラン化合物は、好ましくは、さらにアルコキシ基を含むことが好ましい。
このようなメチル基およびアルコキシ基を含むシラン化合物中のアルコキシ基の数は、1以上3以下であることが好ましく、アルコキシ基の数は3であることがより好ましい。必要に応じて、アルコキシ基の数は1や2であってもよい。アルコキシ基の炭素数は任意に選択できるが、1以上5以下であることが好ましい。前記アルコキシ基の炭素数は、1以上3以下や、2以上4以下であってもよい。
【0021】
このようなメチル基含有シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジエトキシモノメチルシラン、モノエトキシジメチルシラン、ジメチルクロロシラン、メチルジクロロシランが挙げられる。メチル基含有シラン化合物は、前記の化合物からなる群から選択される少なくとも1種を好ましく含むことができる。無機粒子の表面に付着しやすい点から、メチルトリメトキシシランとメチルトリエトキシシランを用いることが好ましい。シラン化合物で表面修飾した無機粒子の分散安定性向上の点から、メチルトリエトキシシランを用いることが好ましい。
【0022】
炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物(以下、「炭化水素基含有シラン化合物」と略記する場合がある)は、疎水性材料中における無機粒子の過剰な凝集を抑制することができる。
炭素数が2以上5以下の炭化水素基としては、疎水性材料と相溶しやすいものであれば特に限定されない。無機粒子への表面修飾のしやすさを考慮すれば、炭素数は2以上4以下であることがより好ましい。
炭素数が2以上5以下の炭化水素基としては、鎖式の脂肪族炭化水素基あってもよく、環式の脂肪族炭化水素基であってもよい。
炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物は、アルコキシ基を1以上3以下含むことが好ましく、アルコキシ基を3含むことがより好ましい。アルコキシ基の炭素数は1以上5以下であることが好ましく、1以上3以であることがより好ましい。
【0023】
炭素数が2以上5以下の炭化水素基としては、アルキル基であってもよく、アルケニル基であってもよく、アルキニル基であってもよい。
アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
【0024】
このような炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物としては、例えば、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジエチルクロロシラン、エチルジクロロシラン等が挙げられる。これらの炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アルコキシ基、特にメトキシ基を有するシラン化合物は、金属酸化物粒子に付着しやすいため好ましい。これらの中でも、エトキシ基を有するシラン化合物は、シラン化合物で表面修飾した金属酸化物粒子の分散安定性向上の点で好ましい。
【0025】
上記メチル基含有シラン化合物と上記炭化水素基含有シラン化合物の25℃における粘度は、例えば、50mPa・s以下であることが好ましい。
これらのシラン化合物の粘度が50mPa・s以下であることにより、分散媒を多く含有させることなく、無機粒子をシラン化合物中に分散させることができる。なお、ここでいう粘度とは、JIS Z 8803:2011に準拠して測定される粘度をいう。
【0026】
上記メチル基含有シラン化合物と上記炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の使用割合は、混合したい疎水性材料との相溶性を勘案しながら調整すればよい。上記メチル基含有シラン化合物と上記炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の使用割合は、例えば、質量比で、99:1~35:65であってもよく、90:10~40:60であってもよく、80:20~45:55であってもよい。
【0027】
メチル基含有シラン化合物のみで無機粒子を表面修飾すると、疎水性材料中に混合することはできるが、無機粒子同士の凝集粒子径が大きくなる。
炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物のみで無機粒子を表面修飾すると、後述する工程Dで無機粒子同士が凝集し、分散液を得ることができない。
しかし、メチル基含有シラン化合物と炭化水素基含有シラン化合物を併用して表面修飾することで、疎水性材料に混合することが可能な分散液が得られ、さらに疎水性材料中での無機粒子同士の凝集が抑制された分散液を得ることができる。
【0028】
加水分解液中における上記シラン化合物の含有量は、特に限定されず、加水分解液中の他の成分の残部とすることができるが、例えば、60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上97質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本工程において、加水分解液は水を含む。水は、シラン化合物の加水分解反応の基質となる。
加水分解液中における水の含有量は、特に限定されず、上記シラン化合物の量に対応して適宜設定できる。例えば、加水分解液に添加される水の量が、上記シラン化合物1molに対し、0.5mol以上5mol以下であることが好ましく、0.6mol以上3mol以下であることがより好ましく、0.7mol以上2mol以下であることがさらに好ましい。これにより、シラン化合物の加水分解反応を充分に進行させつつ、過剰量の水により製造される分散液において、無機粒子の凝集が生じることをより確実に抑制することができる。
【0030】
あるいは、加水分解液中における水の含有量は、例えば、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、加水分解液には、触媒が添加されてもよい。触媒としては、例えば、酸または塩基を用いることができる。
酸は、加水分解液中およびこれを含んで調製される混合液において、シラン化合物の加水分解反応を触媒する。一方、塩基は、加水分解されたシラン化合物と無機粒子の表面の官能基、例えば、水酸基やシラノール基との縮合反応を触媒する。これにより、シラン化合物が無機粒子に付着しやすくなり、無機粒子の分散安定性が向上する。
【0032】
ここで、上記の「酸」とは、いわゆるブレンステッド-ローリの定義に基づく酸をいい、ここでは、シラン化合物の加水分解反応においてプロトンを与える物質をいう。また、上記の「塩基」とは、いわゆるブレンステッド-ローリの定義に基づく塩基をいい、ここでは、シラン化合物の加水分解反応およびその後の縮合反応においてプロトンを受容する物質をいう。
【0033】
本実施形態で用いられる酸としては、シラン化合物の加水分解反応においてプロトンを供給可能であれば特に限定されず、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸等の無機酸や酢酸、クエン酸、ギ酸等の有機酸が挙げられる。酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本実施形態で用いられる塩基としては、シラン化合物の加水分解反応またはその後の縮合反応においてプロトンを受容可能であれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上述した中でも、触媒としては酸を用いることが好ましい。酸としては、酸性度の観点から、無機酸が好ましく、また、塩酸がより好ましい。
【0036】
加水分解液中における触媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、10ppm以上1000ppm以下であることが好ましく、20ppm以上800ppm以下であることがより好ましく、30ppm以上600ppm以下であることがさらに好ましい。これにより、シラン化合物の加水分解を充分に促進させつつ、シラン化合物の不本意な副反応を抑制することができる。
【0037】
また、加水分解液は、親水性溶媒を含んでいてもよい。親水性溶媒は、加水分解液中において、水とシラン化合物の混和を促進させ、シラン化合物の加水分解反応をより一層促進させる。
【0038】
このような親水性溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、ニトリル系溶媒等が挙げられる。これらの親水性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
アルコール系溶媒としては、例えば、炭素数1~4の分岐または直鎖状アルコール化合物およびそのエーテル縮合物が挙げられる。これらのアルコール系溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、アルコール系溶媒に含まれるアルコール化合物は、第1級アルコール、第2級アルコールおよび第3級アルコールのいずれであってもよい。また、アルコール系溶媒に含まれるアルコール化合物は、一価アルコール、二価アルコールおよび三価アルコールのいずれであってもよい。より具体的には、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メタンジオール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-ブチンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール等が挙げられる。
【0040】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
ニトリル系溶媒としては、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。
【0041】
上述した中でも、水と疎水性溶媒双方との親和性に優れ、これらの混和を促進させる観点から、親水性溶媒は、好ましくはアルコール系溶媒を含む。この場合において、アルコール系溶媒を構成するアルコール化合物の炭素数は、好ましくは1以上3以下、より好ましくは1以上2以下である。
上述した中でも、メタノールおよびエタノール、特にメタノールは、上記のアルコール系溶媒の効果を充分に発現することができるために好適に用いることができる。
【0042】
また、加水分解液中における親水性溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。これにより、加水分解液中におけるシラン化合物および水の含有量を充分に大きくすることができる。また、加水分解液中における親水性溶媒の含有量は、例えば、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。これにより、シラン化合物と水との混和をより一層促進することができ、その結果、シラン化合物の加水分解反応を効率よく進行させることができる。なお、加水分解液中において、加水分解反応由来の化合物を除く親水性溶媒が含まれなくてもよい。
【0043】
本実施形態では、アルコキシ基を有するシラン化合物を用いる場合、これを加水分解するため、アルコキシ基由来のアルコール化合物が混合液中に含まれることとなる。加水分解反応は、無機粒子の吸着水でも進行するため、加水分解工程A、混合工程B、分散工程C、添加工程Dのいずれでも起こりうる。そのため、アルコール化合物を除去する工程がない限りは、最終的な分散液にはアルコール化合物が含まれることとなる。そのため、エバポレータ等で、これらのアルコール化合物を除去する工程を適宜設けてもよい。除去工程は、アルコールが完全に除去されるまで行ってもよく、5質量%程度残存していてもよい。
【0044】
本工程においては、加水分解液を調製後、一定の温度で所定の時間保持してもよい。これにより、シラン化合物の加水分解をより一層促進させることができる。
この処理において、加水分解液の温度は、特に限定されず、シラン化合物の種類によって適宜変更できるが、例えば、5℃以上65℃以下であることが好ましく、30℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0045】
また、保持時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上180分以下であることが好ましく、30分以上120分以下であることがより好ましい。
【0046】
なお、上記の加水分解液の保持において、加水分解液を適宜撹拌してもよい。
また、本工程は、必要に応じて行うことができ、省略されてもよい。
【0047】
(工程B(混合工程))
本工程においては、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子とを混合して混合液を得る。なお、上述した加水分解工程により加水分解液を得ている場合、混合液はメチル基含有シラン化合物の加水分解液と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の加水分解液と無機粒子とを混合することにより、得られる。または、混合液は、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の加水分解液と無機粒子とを混合することにより、得られる。
【0048】
そして、混合液中における無機粒子の含有量が10質量%以上49質量%以下であり、上記メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量が65質量%以上98質量%以下であるように、混合が行われる。
【0049】
このように、本実施形態においては、混合液中のメチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量が非常に大きい。そして、従来、必須であると見なされてきた有機溶媒、水等の分散媒は、混合液中に含まれない、あるいは非常に少量のみ混合される。あるいは、加水分解により、不可避的なアルコール化合物が少量含まれる程度である。このような場合であっても、混合液中において分散工程を経ることにより、無機粒子の均一な分散が可能であるとともに、メチル基含有シラン化合物と炭化水素基含有シラン化合物の無機粒子への均一な付着(表面修飾)が達成されることを本発明者ら等は見出した。
【0050】
ここで、シラン化合物が無機粒子に「付着する」とは、シラン化合物が無機粒子に対し、これらの間の相互作用により接触または結合することをいう。接触としては、例えば、物理吸着が挙げられる。また、結合としては、イオン結合、水素結合、共有結合等が挙げられる。
【0051】
これに対し、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量が65質量%未満である場合、上記3成分以外の成分、例えば、分散媒が多くなり過ぎて、後述する分散工程においてシラン化合物を充分には無機粒子の表面に付着させることができない。この結果、無機粒子表面に水酸基が多く残存し、得られる分散液を疎水性の高い材料と混合した際に、無機粒子が凝集してしまい、疎水性の高い材料に濁りが生じてしまう。メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量は、65質量%以上であればよいが、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上である。
【0052】
これに対し、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量が98質量%を超えると、混合液の粘度が高くなり過ぎて、後述する分散工程においてメチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物を充分には無機粒子の表面に付着させることができない。メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物と無機粒子との合計含有量は、98質量%以下であればよいが、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0053】
また、上述したように、混合液中における無機粒子の含有量が10質量%以上49質量%以下である。これにより、無機粒子に対するメチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の量を適切な範囲内とすることができ、無機粒子の表面に均一にこれらのシラン化合物を付着させることができるとともに、混合液の粘度の上昇を抑制することができる。
【0054】
これに対し、混合液中における無機粒子の含有量が10質量%未満である場合、無機粒子に対して上記シラン化合物の量が過剰となり、得られる分散液において過剰の上記シラン化合物が無機粒子の凝集を誘発する。混合液中における無機粒子の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0055】
また、無機粒子の含有量が49質量%を超えると、無機粒子に対して上記シラン化合物の量が不足し、無機粒子に充分な量の上記シラン化合物が付着しない。また、無機粒子の含有量が多くなり過ぎる結果、混合液の粘度が大きくなり過ぎて、後述する分散工程において、無機粒子を充分に分散できない。混合液中における無機粒子の含有量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0056】
混合液中における無機粒子の含有量に対する上記メチル基含有シラン化合物と上記炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物の合計含有量の比率は、特に限定されないが、例えば、100質量%以上800質量%以下であることが好ましく、140質量%以上600質量%以下であることがより好ましく、180質量%以上400質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、無機粒子に対する上記シラン化合物の量を適切な範囲内とすることができ、無機粒子の表面に均一に上記シラン化合物を付着させることができる。
【0057】
混合液中に含まれる無機粒子は、特に限定されない。本実施形態において、無機粒子としては、例えば、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄粒子、酸化銅粒子、酸化スズ粒子、酸化セリウム粒子、酸化タンタル粒子、酸化ニオブ粒子、酸化タングステン粒子、酸化ユーロピウム粒子、酸化イットリウム粒子、酸化モリブデン粒子、酸化インジウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化ゲルマニウム粒子、酸化鉛粒子、酸化ビスマス粒子、および酸化ハフニウム粒子並びにチタン酸カリウム粒子、チタン酸バリウム粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、ニオブ酸カリウム粒子、ニオブ酸リチウム粒子、タングステン酸カルシウム粒子、イットリア安定化ジルコニア粒子、アルミナ安定化ジルコニア粒子、シリカ安定化ジルコニア粒子、カルシア安定化ジルコニア粒子、マグネシア安定化ジルコニア粒子、スカンジア安定化ジルコニア粒子、ハフニア安定化ジルコニア粒子、イッテルビア安定化ジルコニア粒子、セリア安定化ジルコニア粒子、インジア安定化ジルコニア粒子、ストロンチウム安定化ジルコニア粒子、酸化サマリウム安定化ジルコニア粒子、酸化ガドリニウム安定化ジルコニア粒子、アンチモン添加酸化スズ粒子、およびインジウム添加酸化スズ粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む無機酸化物粒子が好適に用いられる。
【0058】
無機粒子は、得られる分散液の用途に応じてその種類を適宜選択できる。例えば、得られる分散液中の無機粒子を発光素子の封止部材の材料として用いる場合、透明性や封止樹脂(樹脂成分)との相溶性(親和性)を向上させる観点から、混合液は、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子およびシリカ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の無機粒子を含むことが好ましい。また、無機粒子は、封止部材の屈折率を向上させる観点から、屈折率が1.7以上であることが好ましい。このような無機粒子としては、上述したシリカ粒子以外の無機酸化物粒子が挙げられる。封止部材の材料として用いる場合、無機粒子は、より好ましくは酸化ジルコニウム粒子および酸化アルミニウム粒子の少なくとも一方である。
【0059】
なお、無機粒子は、混合液において一次粒子として分散していてもよいし、一次粒子が凝集した二次粒子として分散していてもよい。通常、無機粒子は、二次粒子として分散している。
【0060】
無機粒子の平均一次粒子径は、例えば、3nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上17無機粒子の0nm以下であることがより好ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。無機粒子の平均一次粒子径が上記範囲であることにより、分散液の透明性が高くなる。また、発光素子、例えば、LED(light emitting diode)の封止部材の材料として用いる場合には、発光素子(LED)の明るさを向上させることができる。
【0061】
無機粒子の平均一次粒子径の測定は、例えば、透過型電子顕微鏡での観察により行うことができる。例えば、透過型電子顕微鏡画像中の無機粒子を所定数、例えば、100個を選び出す。そして、これらの無機粒子各々の最長の直線分(最大長径)を測定し、これらの測定値を算術平均して求める。
【0062】
ここで、無機粒子同士が凝集している場合には、この凝集体の凝集粒子径を測定するのではない。この凝集体を構成している無機粒子の粒子(一次粒子)の最大長径を所定数測定し、平均一次粒子径とする。
【0063】
また、本工程において、混合液にさらに有機溶媒を混合してもよい。有機溶媒を混合することにより、上記シラン化合物の反応性を制御することが可能となり、無機粒子表面への上記シラン化合物の付着の程度を制御することが可能となる。さらに、有機溶媒により、混合液の粘度の調節が可能となる。
【0064】
このような有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒、飽和炭化水素系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、混合工程でシラン化合物が加水分解された場合には、上記シラン化合物由来の化合物、例えば、アルコール系溶媒が混合液中に含まれることとなる。
【0065】
混合液中における有機溶媒の含有量は、上述した無機粒子および上記シラン化合物の含有量を満足するものであれば特に限定されない。なお、混合液中に有機溶媒が含まれなくてもよいことはいうまでもない。
【0066】
また、混合液には、必要に応じて上述した以外の成分、例えば、分散剤、分散助剤、酸化防止剤、流動調整剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤等の一般的な添加剤等が混合されてもよい。
【0067】
(工程C(分散工程))
本工程において、混合液中において無機粒子を分散し、無機粒子が分散した第1の分散液を得る。
本実施形態において、金属酸化物粒子は、加水分解された高濃度のシラン化合物中において分散される。したがって、得られる第1の分散液においては、金属酸化物粒子の表面に比較的均一にシラン化合物が付着しており、かつ、金属酸化物粒子が比較的均一に分散する。
【0068】
無機粒子の分散は、公知の分散機により行うことができる。分散機としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、ホモジナイザー、ディスパー、撹拌機等が好適に用いられる。
【0069】
ここで、本工程においては、分散液中における無機粒子の粒径(分散粒径)がほぼ均一となるように、過剰なエネルギーは付与せず、必要最低限のエネルギーを付与して分散させることが好ましい。
【0070】
工程Dの前に、第1の分散液に含まれる無機粒子に、さらに、シラン化合物やシリコーン化合物等の一般的な表面修飾材料で表面修飾した第1の分散液を得てもよい。
【0071】
(工程D(添加工程))
本工程において、工程C(分散工程)で得られた、上記の第1の分散液に、疎水性溶媒を添加し、第1の分散液を、所望の固形分濃度に調整した第2の分散液を得る。
分散工程で得られた第1の分散液は、固形分濃度が高い。そのため、粘度が高く、ハンドリング性が悪い。しかしながら、固形分濃度を低くするために、単純に、得られた第1の分散液に疎水性溶媒を添加すると、無機粒子の表面の疎水性が低いため、無機粒子が凝集してしまい、均一な分散液が得られなかった。
【0072】
そこで、本発明者等は、検討した結果、第1の分散液を加熱し、一方で、疎水性溶媒を徐々に添加することで、固形分濃度の低い分散液に調整できることを見出した。この作業を行うことにより、所望の固形分濃度に調整された第2の分散液が得られる。
【0073】
上記のメカニズムは、以下のように推測される。
第1の分散液を加熱することにより、無機粒子に付着したシラン化合物の重合が進行して、無機粒子の表面の疎水性が向上する。なお、シラン化合物の重合反応が進行し過ぎても無機粒子は凝集する。そのため、前記重合反応が進行中の第1の分散液に、疎水性溶媒を徐々に添加する。このような添加を行うことにより、過剰な重合反応を抑制しつつ、無機粒子の表面が徐々に疎水化され、疎水性の溶媒を徐々に混合することができる。
【0074】
すなわち、無機粒子が凝集しない程度の量の疎水性溶媒を添加し、かつ、添加した量の疎水性溶媒と相溶できる程度に、シラン化合物の重合反応を進行させる。このことにより、所望の固形分に調整された、分散液を得ることができる。
【0075】
上述の通り、疎水性溶媒は、無機粒子が凝集しないように、徐々に添加すればよい。そのため、上記分散工程で得た第1の分散液を加熱してから疎水性溶媒を添加してもよく、疎水性溶媒を添加してから第1の分散液を加熱してもよく、あるいは、第1の分散液の加熱と疎水性溶媒の添加を同時に行ってもよい。
すなわち、より具体的に説明すると、添加工程は、上記の第1の分散液を加熱した後に、上記の疎水性溶媒を上記の無機粒子が凝集しない速度で加える工程d1であってもよく、上記の第1の分散液を加熱しながら、上記の疎水性溶媒を上記の無機粒子が凝集しない速度で加える工程d2であってもよく、または、上記の疎水性溶媒を上記の無機粒子が凝集しない速度で加えた後に、上記の第1の分散液を加熱する工程d3であってもよい。
なお工程d1では、無機粒子を加える際に、分散液の加熱を継続してもよいし、加熱を中止してもよい。分散液の温度は一定であってもよいし、分散液の温度が変化していてもよい。前記温度は一定に維持することが好ましい。工程d2では、無機粒子を加える際には、分散液の温度は一定であってもよいし、分散液の温度が変化していてもよい。
上記の疎水性溶媒は、連続して加えてもよく、2回以上に分けて断続的に加えてもよい。断続的に加える場合、回数の限定はないが、例えば、2回~6回や、3回~5回に分けて、加えることができる。複数回に分けて疎水性溶媒を加える場合、疎水性溶媒の量は同じでもよいし、変化させてもよい。
【0076】
無機粒子が凝集しない速度は、特に限定されない。疎水性溶媒の添加の速度や割合は、任意に選択できる。例えば、1時間で3質量%以上20質量%以下の範囲で固形分濃度が低くなるような添加の速度で、連続的に疎水性溶媒を添加すればよい。言い換えると、疎水性溶媒を連続的に1時間添加した後には、添加前と添加後の分散液中の固形分の差が、3質量%以上20質量%以下の範囲であってもよい。加熱温度が高い場合には、疎水性溶媒の添加量を多くし、加熱温度が低い場合には、疎水性溶媒の添加量を少なくするように、疎水性溶媒の添加量を適宜調整すればよい。
【0077】
上述したように、疎水性溶媒の添加の速度や割合は、任意に選択できる。例えば、30分毎、1時間毎、または2時間毎に、3質量%以上20質量%以下の範囲で固形分濃度が低くなるように、疎水性溶媒を段階的に添加すればよい。加熱温度が高い場合には、一度に添加する疎水性溶媒の添加量を多めにし、加熱温度が低い場合には、一度に添加する疎水性溶媒の添加量を少なくするように、疎水性溶媒の添加量を適宜調整すればよい。この場合、疎水性溶媒の添加時間や添加回数も好ましく調整してよい。
【0078】
加熱温度は、シラン化合物の重合反応が進行する温度であれば特に限定されない。加熱温度は、例えば、35℃以上80℃以下であることが好ましい。前記加熱温度は、40℃以上75℃以下や、45℃以上70℃以下や、50℃以上65℃以下であってもよい。加熱温度が35℃以上であることにより、シラン化合物の重合反応を進行させることができる。一方、加熱温度が80℃以下であることにより、シラン化合物の急激な反応による無機粒子の凝集を抑制することができる。
【0079】
加熱時間は、固形分の調整が終わるまで適宜実施すればよい。例えば、4時間以上12時間以下であることが好ましい。加熱時間が4時間以上であることにより、シラン化合物の重合反応が進行し、疎水性溶媒と混合することが可能となる。一方、加熱時間が12時間以下であることにより、シラン化合物の重合反応が進み過ぎることによる無機粒子の凝集を抑制することができる。
【0080】
疎水性溶媒は、本実施形態の分散液と混合したい材料と相溶できるものであれば特に限定されない。疎水性溶媒としては、例えば、芳香族類、飽和炭化水素類、不飽和炭化水素類等が挙げられる。これらの疎水性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、芳香族類、特に芳香族炭化水素が好ましい。芳香族類は、メチル系シリコーン樹脂との相溶性に優れ、これにより得られる組成物の粘度特性の向上および形成される封止部材の品質(透明性、形状等)の向上に資する。
【0081】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、1-フェニルプロパン、イソプロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、2-エチルトルエン、3-エチルトルエン、4-エチルトルエン等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
これらの中でも、分散液の安定性や、後述する組成物製造時における分散媒の除去等における取り扱い性の容易性の観点から、芳香族炭化水素としては、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましく用いられる。
【0083】
最終的な分散液に含まれる疎水性溶媒の含有量は、所望の固形分となるように適宜調整すればよい。疎水性溶媒の含有量は、例えば、40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
本工程により、所望の固形分に調整された第2の分散液が得られる。第2の分散液を用いることにより、分散液のハンドリング性が向上する。
【0084】
以上により、分散液を得ることができる。本実施形態に係る方法を用いて製造された分散液は、無機粒子が均一に分散するとともに無機粒子の表面がメチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物により均一かつ充分に修飾されている。さらには、疎水性の高い材料と分散液とを混合した場合において、無機粒子は、均一に疎水性の高い材料中に分散することができ、無機粒子同士の凝集も抑制される。その結果、疎水性の高い材料の濁りがより防止される。このため、疎水性の高い材料の色調に影響をほとんど与えることなく、無機粒子の目的とする機能が発揮される。
【0085】
上記第2の分散液に含まれる無機粒子に、さらに、シラン化合物やシリコーン化合物等の一般的な表面修飾材料で表面修飾し、第3の分散液を得て、疎水性材料中での無機粒子同士の凝集をさらに抑制することもできる。
【0086】
(分散液)
本実施形態の分散液は、無機粒子と、少なくとも一部が上記無機粒子に付着したシラン化合物と、を含み、前記シラン化合物は、メチル基含有シラン化合物と炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物とを含み、前記無機粒子の含有量が10質量%以上49質量%以下であり、前記シラン化合物と前記無機粒子との合計含有量が65質量%以上98質量%以下である。
なお、上記シラン化合物と上記無機粒子との合計含有量は、固形分により評価することもできる。
【0087】
本実施形態の分散液は、上述した本実施形態の分散液のC工程(分散工程)までの製造方法により製造される。したがって、無機粒子が均一に分散するとともに無機粒子の表面が上記メチル基含有シラン化合物と2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物により均一かつ充分に修飾されている。さらには、疎水性の高い材料と分散液とを混合した場合において、無機粒子は、均一に疎水性の高い材料中に分散することができ、疎水性材料の白濁が防止される。その結果、疎水性の高い材料の色調にほとんど影響を与えることなく、無機粒子の目的とする機能が発揮される。
【0088】
また、本実施形態の分散液は、分散しにくい無機粒子、例えば、微粒の無機粒子の場合に、上述したような効果をより顕著に得ることができる。
【0089】
無機粒子の体積基準50%粒子径D50は、特に限定されないが、例えば、30nm以上400nm以下であることが好ましく、40nm以上300nm以下であることがより好ましく、50nm以上250nm以下であることがさらに好ましい。一般に、上記のような範囲の粒子径は、高い比表面積に起因して無機粒子同士が凝集しやすい。しかしながら、本実施形態の分散液は、無機粒子にシラン化合物が均一かつ充分に付着しているため、無機粒子の安定した分散が可能である。また、分散液を疎水性の高い材料と混合した際にも、無機粒子の凝集が抑制され、安定して疎水性の高い材料中で分散することができる。
【0090】
さらに、無機粒子の体積基準90%粒子径をD90、無機粒子の体積基準50%粒子径をD50をとした際の、D90/D50は、特に限定されないが、例えば、1.0以上3.0以下であることが好ましく、1.0以上2.5以下であることがより好ましく、1.0以上2.3以下であることがさらに好ましい。D90/D50は、無機粒子の粒度分布の形状の指標であり、無機粒子の粒子径の均一性の指標となる。D90/D50が上述したような範囲内にあることにより、分散液中の無機粒子の粒子径が比較的均一となる。また、本実施形態の分散液に含まれる、このような均一な粒子径を有する無機粒子は、疎水性の高い材料中においても比較的安定して、均一に分散することができる。このようなD90/D50の範囲は、上述した本実施形態の分散液の製造方法により、比較的容易に達成可能である。
【0091】
なお、無機粒子のD50およびD90は、それぞれ、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積百分率が50%、90%のときの無機粒子の粒子径D50およびD90であることができる。無機粒子の粒子径D50およびD90は、動的光散乱式の粒度分布計(例えば、HORIBA社製、型番:SZ-100SP)により測定することができる。測定は、固形分をアルコール化合物で5質量%に調整した分散液を対象として、光路長10mm×10mmの石英セルを用いて行うことができる。
【0092】
また、無機粒子のD50およびD90は、無機粒子が一次粒子または二次粒子のいずれの状態で分散しているかに関わらず、分散している状態の無機粒子の径に基づいて測定、算出される。また、本実施形態において、無機粒子のD50およびD90は、表面修飾材料が付着した無機粒子のD50およびD90として測定されてもよい。分散液中には、表面修飾材料が付着した無機粒子と、表面修飾材料が付着していない無機粒子とが存在し得るため、通常、無機粒子のD50およびD90は、これらの混合状態における値として測定され得る。
【0093】
無機粒子の平均一次粒子径は、例えば、3nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上170nm以下であることがより好ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。無機粒子の平均一次粒子径が上記範囲であることにより、分散液の透明性が高くなる。また、本実施形態の分散液を、発光素子、例えば、LEDの封止部材の材料として用いる場合には、発光素子(LED)の明るさを向上させることができる。
【0094】
なお、分散液中における無機粒子、シラン化合物の種類、含有量や、他の成分については、上述した混合液と同様であるので説明を省略する。
ただし、上記シラン化合物の無機粒子への付着に際し、加水分解等の分解反応が生じる場合には、分散液中における上記シラン化合物の含有量が混合液中における上記シラン化合物の含有量と比較して小さくなり得る。したがって、分散液中の上記シラン化合物と無機粒子との合計含有量についても、混合液中における上記シラン化合物と無機粒子との合計含有量と比較して小さくなり得る。また、分解反応によって生じる化合物、例えば、アルコール系化合物が、分散液中において、混合液の場合と比較して増加しうる。
【0095】
上述したように、本実施形態の分散液を疎水性の高い材料と混合した場合であっても、無機粒子が疎水性の高い材料中に均一に分散可能であり、疎水性の高い材料の白濁を抑制することが可能である。疎水性の高い材料としては、例えば、炭素や疎水性基を多く含む、有機溶媒、樹脂材料、油脂等が挙げられる。より具体的には、例えば、メチル基を多く含むシリコーン等が挙げられる。
【0096】
また、本実施形態の分散液を用いた場合、疎水性の高い材料中における微粒の無機粒子の均一な分散を達成することができる。また、本実施形態の分散液中の無機粒子をさらにシリコーン化合物等で表面修飾することにより、疎水性がさらに高い材料にも混合が可能な分散液を得ることができる。したがって、本実施形態の分散液は、疎水性の高い材料中に微粒の無機粒子を均一に分散させることが求められる部材、例えば、発光素子の封止部材等の光学部材の材料として適している。よって、本実施形態に係る分散液は、光学部材用分散液、特に、発光素子の封止部材用分散液であることができる。
【実施例0097】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、あくまでも本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0098】
[実施例1]
(分散液の作製)
(i)加水分解工程
メチルトリエトキシシラン(商品名:KBE-13、信越化学工業社製)90.78質量部と、水9.21質量部と、塩酸(1N)0.01質量部とを用意した。これらを容器に添加して混合し、加水分解液を得た。次いで、この加水分解液を60℃で30分撹拌し、メチルトリエトキシシランの加水分解処理を行い、加水分解液を得た。
プロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE-3033、信越化学工業社製)47.92質量部と、水4.15質量部と、塩酸(1N)0.02質量部と、メタノール47.92質量部とを用意した。これらを容器に添加して混合し、加水分解液を得た。この加水分解液を60℃で1時間撹拌し、プロピルトリエトキシシランの加水分解処理を行い、加水分解液を得た。
【0099】
(ii)混合工程(工程B)
平均一次粒子径が9nmの酸化アルミニウム(Al2O3)粒子(住友化学株式会社製)30g、メチルトリエトキシシランの加水分解液77.1g、およびプロピルトリエトキシシランの加水分解液32.6gを混合して、混合液を得た。すなわち、酸化アルミニウム粒子とメチルトリエトキシシランとプロピルトリエトキシシランとを、質量比で、30:49:21の割合で混合した。
混合液中の酸化アルミニウム粒子の含有量は21.5質量%、メチルトリエトキシシランとプロピルトリエトキシシランの合計含有量は71.6質量%、酸化アルミニウム粒子とメチルトリメトキシシランとプロピルトリエトキシシランの合計含有量は93.1質量%であった。
【0100】
(iii)分散工程(工程C)
この混合液をビーズミルで11時間分散処理した後、ビーズを除去し、第1の分散液を得た。
【0101】
(iv)添加工程(工程D)
得られた第1の分散液を60℃で2時間加熱した。次いで、固形分濃度が40質量%となるように分散液にトルエンを添加し、この分散液を60℃で2時間加熱した。
次いで、固形分濃度が30質量%となるように分散液にトルエンを添加し、この分散液を60℃で1時間加熱した。
次いで、固形分濃度が20質量%となるように分散液にトルエンを添加し、この分散液を60℃で1時間加熱することで、実施例1の分散液(第2の分散液)を得た。
【0102】
(疎水性樹脂との混合安定性の評価)
(i)シリコーン処理
固形分濃度が20質量%の実施例1の分散液88.1質量部と、メトキシ基含有フェニルシリコーンレジン(商品名:KR217、信越化学工業社製)11.9質量部とを混合し、混合液を調製した。次いで、この混合液を110℃で1時間加熱し、酸化アルミニウム粒子がさらにシリコーンで表面修飾された評価用の分散液Aを得た。
得られた分散液A1の固形分濃度はトルエンで30質量%に調整した。
【0103】
(ii)メチル系シリコーン樹脂との混合
得られた評価用分散液A1を3.8gと、メチルフェニルシリコーン(商品名:KER-2500-B、信越化学工業社製)15.0gとを混合した。すなわち、シラン化合物と無機粒子の合計含有量と、メチル系シリコーン樹脂を、質量比で7:93となるように混合し、混合液を調製した。
次いで、この混合液をエバポレータによりトルエンを除去し、LEDを封止できる評価用の組成物B1を得た。
【0104】
(硬化物の評価)
組成物B1を、テフロン(登録商標)コートされた1mm厚のSUS容器に、膜厚が1mm厚となるように充填した。次いで、組成物B1を100℃で2時間加熱した後、150℃で4時間加熱することで、評価用の硬化物C1を得た。
硬化物C1を薄片化したものを試料とし、電界放出型透過電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F、日本電子社製)で観察した。結果を
図1および
図2に示す。
図1および
図2から硬化物C1では、400nm程度の凝集粒子が観察されたが、凝集粒子径は200nm~600nm程度であった。
【0105】
(LEDパッケージの作製)
組成物B1で封止する前のLEDパッケージの明るさを、全光束測定システム(大塚電子社製)にて、LEDパッケージに電圧3V、電流150mAを印加し測光することにより測定した。すなわち、光学素子そのものの明るさXを測定した。
【0106】
組成物B1を1質量部と、蛍光体粒子(イットリウム・アルミニウム・ガーネット:YAG)を0.38質量部混合した組成物(表面修飾酸化アルミニウム粒子と樹脂の合計量:蛍光体粒子=100:38)を、リードフレーム内に300μmの厚みで充填した。その後、室温で3時間保持した。次いで、ゆっくりと組成物B1を加熱硬化させて封止部材を形成し、評価用のLEDパッケージD1を作製した。
【0107】
LEDパッケージD1について、全光束測定システム(大塚電子社製)にて、LEDパッケージに電圧3V、電流150mAを印加し測光することにより明るさYを測定した。
光学素子そのものの明るさX(lm)に対して、白色LEDパッケージD1の明るさY(lm)の向上率を算出した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例2]
実施例1において、酸化アルミニウム粒子を用いる替わりに、平均一次粒子径が12nmの酸化ジルコニウム粒子(住友大阪セメント株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の分散液を得た。
【0109】
実施例1の分散液を用いる替わりに、実施例2の分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用の分散液A2を得た。
【0110】
(ii)メチル系シリコーン樹脂との混合
得られた評価用分散液A2を1.6gと、メチルフェニルシリコーン(商品名:KER-2500-B、信越化学工業社製)15.1gと、を混合した。すなわち、シラン化合物と無機粒子の合計含有量と、メチル系シリコーン樹脂を、質量比で3:97となるように混合した。
次いで、この混合液をエバポレータによりトルエンを除去し、LEDを封止できる評価用の組成物B2を得た。
【0111】
実施例1において組成物B1を用いる替わりに、組成物B2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価用の硬化物C2、評価用のLEDパッケージD2を得た。
【0112】
実施例1同様に硬化物C2を電界放出型透過電子顕微鏡で観察した。結果を
図3および
図4に示す。
図3および
図4から硬化物C2では、実施例1同様に、400nm程度の凝集粒子が観察され、凝集粒子径は200nm~600nm程度であった。
実施例1同様に測定したLEDパッケージD2の明るさの向上率を表1に示す。
【0113】
[比較例1]
(分散液の作製)
(i)加水分解工程
メチルトリエトキシシラン(商品名:KBE-13、信越化学工業社製)90.78質量部と、水9.21質量部と、塩酸(1N)0.01質量部とを用意した。これらを容器に添加して混合し、加水分解液を得た。次いで、この加水分解液を60℃で30分撹拌し、メチルトリエトキシシランの加水分解処理を行い、加水分解液を得た。
【0114】
(ii)混合工程(工程B)
平均一次粒子径が9nmの酸化アルミニウム(Al2O3)粒子(住友化学株式会社製)30質量部、上記加水分解液70質量部を混合して、混合液を得た。
混合液中の酸化アルミニウム粒子の含有量は30質量%、メチルトリエトキシシランの含有量は63.5質量%、酸化アルミニウム粒子とメチルトリエトキシシランの合計含有量は93.5質量%であった。
【0115】
(iii)分散工程(工程C)
実施例1の分散工程(工程C)で、実施例1の工程Bで得られた混合液を用いる替わりに、比較例1の工程Bで得られた混合液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、工程C、工程Dを行い、固形分を20質量%に調整した比較例1の分散液を得た。
【0116】
実施例1の分散液を用いる替わりに、比較例1の分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価用の分散液A3、評価用の組成物B3、評価用の硬化物C3、評価用のLEDパッケージD3を得た。
【0117】
実施例1同様に硬化物C3を電界放出型透過電子顕微鏡で観察した。結果を
図5および
図6に示す。
図5および
図6から硬化物C3では、実施例1同様に、400nm程度の凝集粒子が観察され、凝集粒子径は200nm~600nm程度であった。しかし、観察される凝集粒子径は、実施例1よりは大きかった。
実施例1同様に測定したLEDパッケージD3の明るさの向上率を表1に示す。
【0118】
[比較例2]
(ii)混合工程(工程B)
比較例1の混合工程(工程B)で、酸化アルミニウム粒子の替わりに、平均一次粒子径が12nmの酸化ジルコニウム粒子を用いたこと以外は比較例1と同様にして、混合液を得た。
【0119】
(iii)分散工程(工程C)
この混合液をビーズミルで6時間分散処理した後、ビーズを除去し、第1の分散液を得た。
【0120】
(iv)添加工程(工程D)
実施例1の添加工程(工程D)で、実施例1の工程Cで得られた分散液を用いる替わりに、比較例2の工程Cで得られた分散系を用いたこと以外は実施例1と同様にして、固形分が20質量%に調整された比較例2の分散液を得た。
【0121】
実施例2の分散液を用いる替わりに、比較例2の分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、評価用の分散液A4、評価用の組成物B4、評価用の硬化物C4、評価用のLEDパッケージD4を得た。
【0122】
実施例1同様に硬化物C4を電界放出型透過電子顕微鏡で観察した。硬化物C4では、500nm以上の凝集粒子が多く形成されていることが確認された。
実施例1同様に測定したLEDパッケージD4の明るさの向上率を表1に示す。
【0123】
【0124】
以上、実施例1と比較例1を比較すると、どちらの分散液もメチル系シリコーン樹脂と混合することは可能であった。しかし、実施例1は、比較例1よりも硬化物中の無機粒子の凝集粒子径が小さく、LEDパッケージの明るさをより向上することができた。
また、実施例2と比較例2を比較すると、どちらの分散液もメチル系シリコーン樹脂と混合することは可能であった。しかし、実施例2は、比較例2よりも硬化物中の無機粒子の凝集粒子径が小さく、LEDパッケージの明るさをより向上することができた。
【0125】
これらの結果より、高濃度のメチル基含有シラン化合物中で表面修飾するよりも、高濃度のメチル基含有シラン化合物および炭素数が2以上5以下の炭化水素基含有シラン化合物中で無機粒子を表面修飾することにより、疎水性の高い材料中での無機粒子同士の凝集が抑制されることが確認された。