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特開2023-149658植物バイオマス糖化酵素として利用可能なポリペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149658
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】植物バイオマス糖化酵素として利用可能なポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20231005BHJP
   C12P 7/10 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231005BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12N15/56
C12P7/10 ZNA
C12N9/42
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058339
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】黒木 知香子
(72)【発明者】
【氏名】玉田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD11
4B050LL02
4B050LL05
4B064AF01
4B064CA21
4B065AA72X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
(57)【要約】
【課題】酵素活性、特に比較的低温条件下での酵素活性がより向上したシマミミズ由来セルラーゼ(Ef-EG2)変異体ポリペプチドを提供すること。
【解決手段】(1)配列番号11に示されるアミノ酸配列であり、且つ要件a、要件b、及び要件c:(要件a)X43が塩基性アミノ酸であること、(要件b)X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、及び(要件c)X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、からなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列B、又は(2)前記アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列C、を含む、ポリペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号11に示されるアミノ酸配列であり、且つ要件a、要件b、及び要件c:
(要件a)X43が塩基性アミノ酸であること、
(要件b)X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、及び
(要件c)X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、
からなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列B、又は
(2)前記アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列C、
を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
前記要件aにおける前記塩基性アミノ酸がアルギニン又はリシンであり、
前記要件bにおいて、X363が塩基性アミノ酸であり且つX372が酸性アミノ酸であり、且つ/或いは
前記要件cにおいて、X149が塩基性アミノ酸であり且つX387が酸性アミノ酸である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記要件aにおける前記塩基性アミノ酸がアルギニンであり、
前記要件bにおいて、X363がアルギニンであり且つX372がアスパラギン酸であり、且つ/或いは
前記要件cにおいて、X149がアルギニンであり且つX387がグルタミン酸である、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリペプチドのコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のポリペプチドを含む、酵素製剤。
【請求項7】
植物バイオマス糖化処理用又は植物バイオマス由来糖発酵物製造用である、請求項6に記載の酵素製剤。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマスの糖化処理物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドと前記植物バイオマスとを接触させる際の温度が5~45℃である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマス由来糖発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物バイオマス糖化酵素として利用可能なポリペプチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の大量消費に起因するCO2ガス排出量の増加や、化石燃料の枯渇が問題となっており、その代替燃料としてバイオエタノールが注目されている。バイオエタノールの使用により発生するCO2ガスは、植物が成長過程で吸収したCO2が原料となっているため、空気中のCO2濃度に影響を与えないカーボンニュートラルな資源であることが知られている。
【0003】
現在、主要なバイオエタノール原料として、トウモロコシやサトウキビなどが利用されている。しかし、これらは食品や家畜飼料などとしても利用されるため、価格の高騰が懸念されている。そのため、食品と競合しないバイオエタノール生産の原料として木質バイオマスが注目されている。
【0004】
木質バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが主な構成成分であり、廃棄・焼却処分される作物残渣や廃木材、森林の未利用部分などが含まれる。これらのセルロース系バイオマスを有効に利用するためには効率的な糖化・発酵プロセスが必須であり、主な糖化工程として「酸糖化法」及び「酵素糖化法」が挙げられる。酸による糖化法は分解率が高く短い時間で反応が可能であるものの、高温での処理や廃液の処理などのエネルギーコストが高く、環境への大きな負荷が懸念される。また、酵素を用いた糖化法では、環境への負荷は比較的小さいものの、カビ由来のセルラーゼ剤が主に利用されているため50~60℃での反応が必要であり、続くSaccharomyces cerevisiaeを用いた発酵工程の温度(25~30℃)との間にはギャップもある。そこで、セルロース系バイオマスからの糖化工程を常温近傍で行うことにより、連続糖化発酵の実現とエネルギーコストの削減が望まれている。
【0005】
ミミズは環形動物門貧毛目の生物で、地球上で3000~7000種存在すると言われており、土壌中の有機物を分解する分解者として約4億年前から地球上に存在している。ミミズは土壌中の微生物層を豊かにする等の土壌改良、有機物分解など、様々な働きがあることで知られている。シマミミズ(Eisenia fetida)は好生育条件下では1日に自身の重量の約半分の有機物を分解することができるので、欧米諸国の教育機関や一般家庭では有機ゴミを処理するのに用いられている(ミミズコンポスト)。E. fetidaはアミラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼ、マンナナーゼなど、様々な有機物を分解する酵素を持つことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Carbohydrate polymers, 2014年,101巻,Page 511-516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者が得たシマミミズ由来セルラーゼ(Ef-EG2(アミノ酸配列:配列番号1))は、低温条件下においても活性が一定以上保持されることが報告されている(非特許文献1)。しかし、植物バイオマスの糖化処理をより効率的に行うためには、さらなる活性の向上が望まれる。
【0008】
本開示は、その一態様において、酵素活性、特に比較的低温条件下での酵素活性がより向上したシマミミズ由来セルラーゼ(Ef-EG2)変異体ポリペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、(1)配列番号11に示されるアミノ酸配列であり、且つ要件a、要件b、及び要件c:(要件a)X43が塩基性アミノ酸であること、(要件b)X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、及び(要件c)X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、からなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列B、又は(2)前記アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列C、を含む、ポリペプチド、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本開示は、一態様において、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. (1)配列番号11に示されるアミノ酸配列であり、且つ要件a、要件b、及び要件c:
(要件a)X43が塩基性アミノ酸であること、
(要件b)X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、及び
(要件c)X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、
からなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列B、又は
(2)前記アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列C、
を含む、ポリペプチド。
【0011】
項2. 前記要件aにおける前記塩基性アミノ酸がアルギニン又はリシンであり、
前記要件bにおいて、X363が塩基性アミノ酸であり且つX372が酸性アミノ酸であり、且つ/或いは
前記要件cにおいて、X149が塩基性アミノ酸であり且つX387が酸性アミノ酸である、項1に記載のポリペプチド。
【0012】
項3. 前記要件aにおける前記塩基性アミノ酸がアルギニンであり、
前記要件bにおいて、X363がアルギニンであり且つX372がアスパラギン酸であり、且つ/或いは
前記要件cにおいて、X149がアルギニンであり且つX387がグルタミン酸である、項1又は2に記載のポリペプチド。
【0013】
項4. 項1~3のいずれかに記載のポリペプチドのコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0014】
項5. 項4に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0015】
項6. 項1~3のいずれかに記載のポリペプチドを含む、酵素製剤。
【0016】
項7. 植物バイオマス糖化処理用又は植物バイオマス由来糖発酵物製造用である、項6に記載の酵素製剤。
【0017】
項8. 項1~3のいずれかに記載のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマスの糖化処理物の製造方法。
【0018】
項9. 前記ポリペプチドと前記植物バイオマスとを接触させる際の温度が5~45℃である、項8に記載の製造方法。
【0019】
項10. 項1~3のいずれかに記載のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマス由来糖発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、酵素活性、特に比較的低温条件下での酵素活性がより向上したシマミミズ由来セルラーゼ(Ef-EG2)変異体ポリペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】Ef-EG2 D43Rについて、温度依存性試験(実施例6-2)の結果を示す。縦軸は比活性を示し、横軸は活性測定温度を示す。
図2】Ef-EG2 D43Rについて、熱安定性試験1(実施例6-3)の結果を示す。縦軸は残存比活性(恒温処理前の比活性を100%とした場合の相対値)を示し、横軸は、恒温処理の温度を示す。
図3】Ef-EG2 D43Rについて、熱安定性試験2(実施例6-4)の結果を示す。縦軸は残存比活性(恒温処理前の比活性を100%とした場合の相対値)を示し、横軸は、恒温処理(50℃)の時間を示す。
図4】Ef-EG2 N372D及びEf-EG2 Q387Eについて、温度依存性試験(実施例6-2)の結果を示す。縦軸は比活性を示し、横軸は活性測定温度を示す。
図5】Ef-EG2 N372D及びEf-EG2 Q387Eについて、熱安定性試験1(実施例6-3)の結果を示す。縦軸は残存比活性(恒温処理前の比活性を100%とした場合の相対値)を示し、横軸は、恒温処理の温度を示す。
図6】Ef-EG2 N372D及びEf-EG2 Q387Eについて、熱安定性試験2(実施例6-4)の結果を示す。縦軸は残存比活性(恒温処理前の比活性を100%とした場合の相対値)を示し、横軸は、恒温処理(20℃)の時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.定義等
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;トレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0024】
本明細書において、DNA、RNAなどのヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0025】
本明細書において、アミノ酸の変異は、具体的には、アミノ酸の欠失、置換、挿入、又は付加である。
【0026】
本明細書において、アミノ酸配列中のアミノ酸の位置は、アミノ酸一文字表記+N末端アミノ酸から数えた場合のアミノ酸番号で示すことがある。例えば、「D43」は、N末端から43番目のアミノ酸であるアスパラギン酸を示す。例えば、「D43R」は、N末端から43番目のアミノ酸であるアスパラギン酸のアルギニンへの置換変異を示す。例えば、「X43」は、N末端から43番目のアミノ酸(Xは、任意のアミノ酸)を示す。
【0027】
2.ポリペプチド
本開示は、その一態様において、(1)配列番号11に示されるアミノ酸配列であり、且つ要件a、要件b、及び要件c:(要件a)X43が塩基性アミノ酸であること、(要件b)X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、及び(要件c)X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であること、からなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列B、又は(2)前記アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列C、を含む、ポリペプチド(本明細書において、「本開示のポリペプチド」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0028】
配列番号11に示されるアミノ酸配列は、アミノ酸配列A(配列番号1:シマミミズ由来の野生型セルラーゼ(endo-1,4-β-glucanase)(Ef-EG2)のアミノ酸配列)のD43、R149、R363、N372、及びQ387が任意のアミノ酸(X)となったアミノ酸配列である。
【0029】
アミノ酸配列Bは、配列番号11に示されるアミノ酸配列において、要件a、要件b、及び要件cからなる群より選択される少なくとも1種の要件を満たすアミノ酸配列であり、その限りにおいて特に制限されない。
【0030】
要件aは、X43が塩基性アミノ酸であることである。 要件aにおける塩基性アミノ酸としては、側鎖に塩基性官能基(アミノ基等)を有し且つ酸性官能基(カルボキシ基等)を有しないアミノ酸である限り特に制限されず、例えばアルギニン、リシン、ヒスチジン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルギニン、リシン等が挙げられ、特に好ましくはアルギニンが挙げられる。
【0031】
要件bは、X363及びX372が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であることである。
【0032】
なお、本明細書において、「イオン性相互作用が可能な組み合わせ」とは、正電荷の側鎖を有するアミノ酸と負電荷の側鎖を有するアミノ酸との組み合わせであり、具体的には塩基性アミノ酸と酸性アミノ酸との組合せである。塩基性アミノ酸については、上記要件aにおける説明が援用される。酸性アミノ酸としては、側鎖に酸性官能基(カルボキシ基等)を有し且つ塩基性官能基(アミノ基等)を有しないアミノ酸である限り特に制限されず、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。
【0033】
イオン性相互作用が可能な、X363とX372との組合せとしては、例えば以下の組合せが挙げられる。
(bb1)X363が塩基性アミノ酸であり且つX372が酸性アミノ酸である組み合わせ、
(bb2)X363が塩基性アミノ酸であり且つX372がアスパラギン酸である組み合わせ、
(bb3)X363が塩基性アミノ酸であり且つX372がグルタミン酸である組み合わせ、
(bb4)X363がアルギニンであり且つX372が酸性アミノ酸である組み合わせ、
(bb5)X363がアルギニンであり且つX372がアスパラギン酸である組み合わせ、
(bb6)X363がアルギニンであり且つX372がグルタミン酸である組み合わせ、
(bb7)X363が酸性アミノ酸であり且つX372が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(bb8)X363がアスパラギン酸であり且つX372が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(bb9)X363がグルタミン酸であり且つX372が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(bb10)X363が酸性アミノ酸であり且つX372がアルギニンである組み合わせ、
(bb11)X363がアスパラギン酸であり且つX372がアルギニンである組み合わせ、
(bb12)X363がグルタミン酸であり且つX372がアルギニンである組み合わせ。
【0034】
本開示の一態様においては、X363とX372との組合せとして、上記(bb1)~(bb12)の内の、任意の1種の組合せ、又は任意の2種以上の組合せを採用することができる。
【0035】
本開示の一態様において、要件bにおいては、好ましくはX363が塩基性アミノ酸であり且つX372が酸性アミノ酸であり、より好ましくはX363がアルギニンであり且つX372がアスパラギン酸である。
【0036】
要件cは、X149及びX387が、両者間でイオン性相互作用が可能なアミノ酸であることである。
【0037】
イオン性相互作用が可能な、X149とX387との組合せとしては、例えば以下の組合せが挙げられる。
(cc1)X149が塩基性アミノ酸であり且つX387が酸性アミノ酸である組み合わせ、
(cc2)X149が塩基性アミノ酸であり且つX387がアスパラギン酸である組み合わせ、
(cc3)X149が塩基性アミノ酸であり且つX387がグルタミン酸である組み合わせ、
(cc4)X149がアルギニンであり且つX387が酸性アミノ酸である組み合わせ、
(cc5)X149がアルギニンであり且つX387がアスパラギン酸である組み合わせ、
(cc6)X149がアルギニンであり且つX387がグルタミン酸である組み合わせ、
(cc7)X149が酸性アミノ酸であり且つX387が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(cc8)X149がアスパラギン酸であり且つX387が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(cc9)X149がグルタミン酸であり且つX387が塩基性アミノ酸である組み合わせ、
(cc10)X149が酸性アミノ酸であり且つX387がアルギニンである組み合わせ、
(cc11)X149がアスパラギン酸であり且つX387がアルギニンである組み合わせ、
(cc12)X149がグルタミン酸であり且つX387がアルギニンである組み合わせ。
【0038】
本開示の一態様においては、X149とX387との組合せとして、上記(cc1)~(cc12)の内の、任意の1種の組合せ、又は任意の2種以上の組合せを採用することができる。
【0039】
本開示の一態様において、要件cにおいては、好ましくはX149が塩基性アミノ酸であり且つX387が酸性アミノ酸であり、より好ましくはX149がアルギニンであり且つX387がグルタミン酸である。
【0040】
上述の通り、アミノ酸配列Bは、要件a、要件b、及び要件cの内の少なくとも1つを満たせばよい。このため、アミノ酸配列Bは、要件aを満たさない場合、要件bを満たさない場合、要件cを満たさない場合等を包含する。本発明の一態様において、アミノ酸配列Bは、要件aを満たさない場合(この場合、要件b及び/又は要件cを満たすことになる)、要件aに関するアミノ酸が野生型配列(アミノ酸配列A)から変異していないことが好ましい。同様に、本発明の一態様において、アミノ酸配列Bは、要件bを満たさない場合(この場合、要件a及び/又は要件cを満たすことになる)、要件bに関するアミノ酸が野生型配列(アミノ酸配列A)から変異していないことが好ましい。同様に、本発明の一態様において、アミノ酸配列Bは、要件cを満たさない場合(この場合、要件a及び/又は要件bを満たすことになる)、要件cに関するアミノ酸が野生型配列(アミノ酸配列A)から変異していないことが好ましい。より具体的には以下のとおりである。
【0041】
アミノ酸配列Bにおいて、要件aを満たさない場合、X43は、アミノ酸配列Aにおける対応するアミノ酸(D43:アスパラギン酸)であることが好ましい。アミノ酸配列Bにおいて、要件bを満たさない場合、X363は、アミノ酸配列Aにおける対応するアミノ酸(R363:アルギニン)であることが好ましく、X372は、アミノ酸配列Aにおける対応するアミノ酸(N372:アスパラギン)であることが好ましい。アミノ酸配列Bにおいて、要件cを満たさない場合、X149は、アミノ酸配列Aにおける対応するアミノ酸(R149:アルギニン)であることが好ましく、X387は、アミノ酸配列Aにおける対応するアミノ酸(Q387:グルタミン)であることが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、「対応するアミノ酸」とは、2つの配列をBLAST(設定はデフォルト)で比較した場合に、アライメント配列上同一の位置のアミノ酸であることを示す。例えば、アミノ酸配列Aにおいて、アミノ酸配列BにおけるX43に対応するアミノ酸とは、アミノ酸配列Aとアミノ酸配列Bと配列比較して得られるアライメント配列において、アミノ酸配列Aにおいて、アミノ酸配列BにおけるX43と同一の位置のアミノ酸を示す。
【0043】
アミノ酸配列Cは、アミノ酸配列Bに対して1又は複数個のアミノ酸が変異してなるアミノ酸配列である。変異としては、保存的置換が好ましい。「複数個」は、例えば2~300、2~200、2~100、2~50、2~40、2~30、2~20、2~10、2~5、2~3、又は2である。任意のアミノ酸を変異させる際に、セルラーゼ活性が著しく損なわれないように変異させるアミノ酸の位置等の変異の態様を設計する技術は公知である。例えば、立体構造予測モデル、ドメイン構造、酵素活性部位等の情報を参照して、活性に影響のない部位を選択して変異させたり、本開示のポリペプチドが特徴とする要件(要件a、要件b、要件c)が規定するアミノ酸以外のアミノ酸を選択して変異させれば、見かけ上の変異の数が多くとも、活性への影響を少なくすることができる。
【0044】
本開示のポリペプチドは、セルラーゼ活性が著しく損なわれない限りにおいて、上記以外の他のアミノ酸配列、例えば分泌シグナル配列、タンパク質タグ、蛍光タンパク質、発光タンパク質、プロテアーゼ認識配列(TEVプロテアーゼ認識配列等)等のシグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0045】
本開示のポリペプチドは、セルラーゼ活性が著しく損なわれない限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0046】
本開示のポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0047】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0048】
本開示のポリペプチドは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0049】
さらに、本開示のポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0050】
本開示のポリペプチドは、酸または塩基との塩の形態であってもよい。塩は、特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0051】
本開示のポリペプチドは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0052】
本開示のポリペプチドのセルラーゼ活性は、後述の実施例6-2に記載の方法に従って、温度条件40℃で測定する。本開示のポリペプチドのセルラーゼ活性(比活性1)は、同じ方法で発現及び精製して得られたシマミミズ由来セルラーゼ(Ef-EG2(アミノ酸配列:配列番号1))のセルラーゼ活性(比活性2)よりも高い。比活性1は、比活性2に対して、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.7倍以上、さらに好ましくは1.9倍以上、よりさら好ましくは2倍以上であることができる。
【0053】
本開示のポリペプチドは、そのアミノ酸配列に応じて、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
【0054】
本開示のポリペプチドは、合成後、精製してもよい。例えば、培養物から遠心、濾過等により集菌し採取した菌体から本開示のポリペプチドを抽出する。先ず、抽出第一段階としての菌体の破砕には、酵素による消化、浸透圧による破壊、急激な加圧減圧、超音波、種々のホモジナイザー等々を用いることができる。次いで、菌体破砕物を分別するための手段として、物理的な低速遠心、超遠心、濾過、分子ふるい、膜濃縮等、化学的な沈殿剤、可溶化剤、吸脱着剤、分散剤等、物理化学的な電気泳動、カラムクロマトグラフィー、支持体、透析、塩析等を、それぞれ組合せて用いることができる。また、これ等の手段の適用においては、温度、圧力、pH、イオン強度等の物理化学的条件を適宜、設定できる。
【0055】
3.ポリヌクレオチド、細胞
本開示は、その一態様において、本開示のポリペプチドのコード配列を含む、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本開示のポリヌクレオチド」と示すこともある。)、本開示のポリヌクレオチドを含む、細胞(本明細書において、「本開示の細胞」と示すこともある。)に関する。以下に、これらについて説明する。なお、以下に説明の無い事項については、上記の項目2の記載を援用する。
【0056】
本開示のポリペプチドのコード配列は、本開示のポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0057】
本開示のポリヌクレオチドは、その一態様において、本開示のポリペプチドの発現カセットを含む。
【0058】
本開示のポリペプチドの発現カセットは、細胞内で本開示のポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。本開示のポリペプチドの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された本開示のポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0059】
本開示のポリペプチドの発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、対象細胞に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター等が挙げられる。その他にも、プロモーターとして、例えばtrcやtac等のトリプトファンプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、アルコール(例えばメタノール)誘導プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター等が挙げられる。
【0060】
本開示のポリヌクレオチドは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。)を含んでいてもよい。
【0061】
本開示のポリヌクレオチドは、ベクターの形態であることができる。使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2、pPIC3.5K、pPICZα A等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpcDNA、pCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
【0062】
本開示の細胞は、本開示のポリヌクレオチドを含む限り特に制限されない。細胞としては、例えば、Escherichia coli K12等の大腸菌、Bacillus subtilis MI114等のバチルス属細菌、Saccharomyces cerevisiae AH22等の酵母、Spodoptera frugiperda 由来の Sf細胞系もしくはTrichoplusia ni由来のHighFive細胞系、嗅神経細胞等の昆虫細胞、COS7細胞等の動物細胞等を挙げることができる。動物細胞としては、好ましくは、哺乳動物由来の培養細胞、具体的には、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等が挙げられる。
【0063】
本開示の細胞は、その一態様において、本開示のポリペプチドを発現している。
【0064】
4.酵素製剤
本開示は、その一態様において、本開示のポリペプチドを含む、酵素製剤(本明細書において、「本開示の酵素製剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。なお、以下に説明の無い事項については、上記の項目2~3の記載を援用する。
【0065】
本開示の酵素製剤は、必要に応じて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水、油脂等が挙げられる。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0066】
本開示の酵素製剤中の本開示のポリペプチドの含有量は、特に制限されず、例えば0.005~2mg/mL、好ましくは:0.01~1mg/mLである。
【0067】
本開示の酵素製剤は、植物バイオマス糖化処理、植物バイオマス由来糖発酵物製造等において好適に利用することができる。このため、本開示の酵素製剤は、好ましくは植物バイオマス糖化処理用又は植物バイオマス由来糖発酵物製造用である。
【0068】
植物バイオマスとしては、セルロースを含む植物由来材料である限り特に限定されず、例えば植物体そのもの、植物体の加工品(例えば、植物体の機械的加工品、植物体又はその機械的加工品の化学処理品等)等が挙げられる。
【0069】
植物体としては、例えば、針葉樹材、広葉樹材、非樹木系材料が例示され、具体的には、例えばスギ、マツ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイ ヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等の針葉樹材;アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ブナ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク、アカシア、ユーカリ等の広葉樹材;イネ、サトウキビ、ムギ、トウモロコシ、パイナップル、オイルパーム、ケナフ、綿、アルファルファ、チモシー、タケ、ササ、タケ、テンサイ等の非樹木系材料が挙げられる。
【0070】
植物体の機械的加工品としては、例えば丸太、角材、板材、無垢材、木質材料、集成材、単板積層材、合板、木質ボード、パーティクルボード、ファイバーボード、木片、粒子状木材(チップ、パーティクル、木粉等)、繊維状木材、圧搾物、破砕物等が挙げられる。
【0071】
植物バイオマス糖化処理とは、植物バイオマス中のセルロース等の多糖類を加水分解して単糖類や小糖類を生成させる処理であり、その限り特に限定されない。
【0072】
植物バイオマス由来糖発酵物とは、植物バイオマス糖化処理物(植物バイオマス糖化処理して得られる物)に含まれる単糖類や少糖類を基質とした発酵により得られる生成物であり、その限りにおいて特に制限されない。
【0073】
植物バイオマス由来糖発酵物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等アルコール、キシリトール等の糖アルコール、カルボン酸、アミノ酸、ペプチド、芳香族化合物等が挙げられる。発酵処理として、具体的には、上記した糖の発酵物を生成する微生物として公知の微生物(発酵処理用微生物)、例えばZymomonas mobilis、Zymobactor palmae、Saccharomyces cerevisiae、Aspergillus oryzae、Corynebacterium glutamicum、Kluyveromyces marxianus、Candida shehateae、Candida tenuis、Thermoanaerobacter mathranii、Thermoanaerobacter thermosaccarolyticum、Thermoanaerobacter saccarolyticum、Pichia stipititis、Klebsiella oxytoca、Pacysolten tannophilus、又はBrettanomyces naardensis等の微生物による発酵処理が挙げられる。これらの微生物としては、単糖類や少糖類を基質として、糖の発酵物を生成する微生物である限り、遺伝子組み換え微生物も採用することができる。
【0074】
5.製造方法
本開示は、その一態様において、本開示のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマスの糖化処理物の製造方法(本明細書において、「本開示の製造方法1」と示すこともある。)に関する。
【0075】
本開示は、その一態様において、本開示のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることを含む、植物バイオマス由来糖発酵物の製造方法(本明細書において、「本開示の製造方法2」と示すこともある。)に関する。
【0076】
以下に、これらについて説明する。なお、以下に説明の無い事項については、上記の項目2~4の記載を援用する。
【0077】
本開示のポリペプチドと植物バイオマスとの接触の態様は特に制限されないが、例えば溶媒(通常、水)を含む反応溶液中で両者を混合する態様が挙げられる。反応溶液は緩衝剤を含むことが好ましい。反応溶液のpHは、例えば4.5~6.5、好ましくは5.0~6.0、より好ましくは5.2~5.7であることができる。反応溶液中の本開示のポリペプチドの含有量は、例えば0.0005~0.2mg/mL、好ましくは:0.001~0.1mg/mLである。接触時の温度は、特に制限されないが、比較的低温であることが好ましく、例えば5~45℃、好ましくは10~45℃、より好ましくは20~45℃、さらに好ましくは25~40℃であることができる。接触時間としては、例えば5分間~5日間、好ましくは1時間~4日間が挙げられる。なお、反応溶液には、他の糖加水分解酵素(例えばエンド-β-1,4-キシラナーゼ、β-キシロシダーゼ、α-L-アラビノフラノシダーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、α-D-グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、キシログルカナーゼ、エンド-β-1,4-マンナナーゼ、β-マンノシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、又はアセチル(ガラクト)グルコマンナンエステラーゼ等)が含まれていてもよい。反応溶液が他の糖加水分解酵素を含む場合、その種類に応じて、上記反応条件を適宜変更することができる。
【0078】
本開示のポリペプチドと植物バイオマスとを接触させることにより、植物バイオマスの糖化処理物(植物バイオマス中のセルロース等の多糖類が加水分解されて生成される、単糖類や小糖類を含む。)を得ることができる。これらは通常可溶画分に含まれるので、本開示のポリペプチドと植物バイオマスとの接触後、固液分離(例えば遠心分離、ろ過等)して、可溶画分(液体画分)を回収することが好ましい。
【0079】
本開示の製造方法2は、植物バイオマス由来糖発酵物を得るために、通常、植物バイオマスの糖化処理工程の後、得られた糖化処理物を発酵処理することを含む。発酵処理は、通常、糖化処理物と発酵処理用微生物とを接触させることにより行うことができる。この接触の態様は特に制限されないが、例えば発酵処理用微生物の培地中で行うことができる。発酵処理の条件は、使用した微生物の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、培地中、10~60℃、好ましくは20~50℃、より好ましくは30~40℃で、4時間~5日間、好ましくは12時間~4日間、より好ましくは1~3日間という条件が例示される。
【0080】
発酵処理により、植物バイオマス由来糖発酵物を得ることができる。これらは通常可溶画分に含まれるので、発酵処理後、固液分離(例えば遠心分離、ろ過等)して、可溶画分(液体画分)を回収することが好ましい。
【実施例0081】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
実施例1.D43R置換変異導入プラスミドの作製
シマミミズ(Eisenia fetida)由来野生型セルラーゼ(Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)のコード配列(塩基配列:配列番号2)が、細胞外分泌発現用ベクター(pPICZα A (Invitrogen Cat. no. V195-20))のマルチクローニングサイトに導入されてなるEf-EG2 WT発現ベクター(既報:Takao Arimori, Akihiro Ito, Masami Nakazawa, Mitsuhiro Ueda and Taro Tamada, Crystal structure of endo-1,4-β-glucanase from Eisenia fetida. J. Synchrotron Rad. (2013). 20, 884-889、にて作製)を準備した。Ef-EG2 WT発現ベクターを鋳型とした部位特異的変異導入により、Ef-EG2 WTにD43R置換変異が導入されてなる変異型Ef-EG2(Ef-EG2 D43R(アミノ酸配列:配列番号3、コードする塩基配列:配列番号4))の発現ベクター(Ef-EG2 D43R発現ベクター)を作製した。部位特異的変異導入は、PrimeSTAR Mutagenesis Basal kit(Takara社製)のプロトコルに従って行った。
【0083】
実施例2.D43K置換変異導入プラスミドの作製
実施例1と同様にしてEf-EG2 WT発現ベクターを鋳型とした部位特異的変異導入により、Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)にD43K置換変異が導入されてなる変異型Ef-EG2(Ef-EG2 D43K(アミノ酸配列:配列番号5、コードする塩基配列:配列番号6))の発現ベクター(Ef-EG2 D43K発現ベクター)を作製した。
【0084】
実施例3.N372D置換変異導入プラスミドの作製
実施例1と同様にしてEf-EG2 WT発現ベクターを鋳型とした部位特異的変異導入により、Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)にN372D置換変異が導入されてなる変異型Ef-EG2(Ef-EG2 N372D(アミノ酸配列:配列番号7、コードする塩基配列:配列番号8))の発現ベクター(Ef-EG2 N372D発現ベクター)を作製した。
【0085】
なお、Ef-EG2 WTの結晶構造データ(PDB 3WC3:https://www.rcsb.org/structure/3WC3)に基づくと、Ef-EG2 WTのN372とR363の側鎖間の距離は4Å以下である。このため、N372D置換変異により、D372とR363とが、酸性アミノ酸の負電荷と塩基性アミノ酸の正電荷の間に生じる水素結合を伴ったイオン性相互作用に基づいた塩橋の形成が可能になる。
【0086】
実施例4.Q387E置換変異導入プラスミドの作製
実施例1と同様にしてEf-EG2 WT発現ベクターを鋳型とした部位特異的変異導入により、Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)にQ387E置換変異が導入されてなる変異型Ef-EG2(Ef-EG2 Q387E(アミノ酸配列:配列番号9、コードする塩基配列:配列番号10))の発現ベクター(Ef-EG2 Q387E発現ベクター)を作製した。
【0087】
なお、Ef-EG2 WTの結晶構造データ(PDB 3WC3:https://www.rcsb.org/structure/3WC3)に基づくと、Ef-EG2 WTのQ387とR149の側鎖間の距離は4Å以下である。このため、Q387E置換変異により、E387とR149とが、酸性アミノ酸の負電荷と塩基性アミノ酸の正電荷の間に生じる水素結合を伴ったイオン性相互作用に基づいた塩橋の形成が可能になる。
【0088】
実施例5.Ef-EG2 WT及び変異型Ef-EG2の発現及び精製
実施例1~4で作製したプラスミドそれぞれを用いて、酵母発現系でEf-EG2 WT及び変異型Ef-EG2を発現させ、精製した。具体的には以下のようにして行った。
【0089】
酵母として、メタノール資化性酵母(Pichia pastoriss GS115株)を用いた。EasySelect Pichia Expression Kit (Invitrogen) を用いて、P. pastoris発現系を構築した。P. pastoris発現系では、メタノール添加にによりAOXプロモーター下流遺伝子の発現を誘導することができる。
【0090】
Ef-EG2 WT発現ベクター及び変異型Ef-EG2発現ベクター(実施例1~4)それぞれのマルチコピー形質転換体を、常法に従って作製した。200 mlのBMGY培地(組成:1% yeast extract、2% peptone、100 mM potassium phosphate(pH 6.0)、1.34% YNB (Yeast Nitrogen Base)、4×10-5% biotin、1% glycerol)に、作製した形質転換株のシングルコロニーを植菌し、28℃、200-230 rpmでOD600が2-6になるまで2日間培養した。培養液を500 ml容遠沈管に移し、8,200×g、10 min、室温で遠心した。沈殿を少量のBMMY培地(組成:1% yeast extract、2% peptone、100 mM potassium phosphate(pH 6.0)、1.34% YNB(Yeast Nitrogen Base)、4×10-5% biotin、0.5% methanol)に懸濁し、800 mlのBMMY培地に植え継いだ。これを17℃で7日間、200-230 rpmで振とう培養した。誘導を維持するため、24時間ごとに100%メタノールを終濃度0.5%となるように添加した。培養終了後、培養液を15,400×g、30 min、4℃で遠心し、上清を回収した。
【0091】
回収した培養上清を、0.80 μmフィルター、0.45 μmフィルターの順に吸引ろ過し、限外ろ過によって濃縮した。回収した培養上清に1× Protease Inhibitor Cocktail(ナカライテスク社製)を添加して、粗酵素液を得た。粗酵素液をHisTrapTM FF(GE healthcare社製)アフィニティーカラムクロマトグラフィーに供し、発現タンパク質の精製を行った。具体的な方法は次のとおりである。樹脂1 mlをMilliQ水5 ml、Binding buffer(組成:20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、500 mM NaCl、20 mM imidazole) 5 mlで平衡化した。樹脂にサンプルを1 ml/minでアプライした。Binding buffer 15 mlで樹脂を洗浄した。Elution buffer(組成:20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、500 mM NaCl、200 mM imidazole) 15 mlで発現タンパク質を溶出させ分画精製した。SDS-PAGEにて目的タンパク質の発現を確認し、単一のバンドであることを確認した。これを精製酵素として以下の実施例で用いた。
【0092】
実施例6.Ef-EG2 WT及び変異型Ef-EG2の酵素学的性質の評価
実施例5で得られたEf-EG2 WT及び変異型Ef-EG2の酵素液(Ef-EG2 WT:0.0613~0.0632mg/mL、Ef-EG2 D43R:0.0251~0.0256 mg/mL、Ef-EG2 D43K:0.509 mg/mL、Ef-EG2 N372D:0.0215~0.0345mg/mL、Ef-EG2 Q387E:0.0224~0.0316 mg/mL)を用いて、酵素活性の温度依存性及び熱安定性を測定した。酵素活性はソモギ-ネルソン法により測定した。具体的な方法は以下のとおりである。
【0093】
<実施例6-1.ソモギ-ネルソン法>
・ソモギ試薬
A液: 15% 硫酸銅液(CuSO4・5H2O 15 g / 100 ml)
B液: 無水炭酸ナトリウム25 g、酒石酸カリウムナトリウム(ロッセル塩)25 g、炭酸水素ナトリウム20 g、無水硫酸ナトリウム200 gを蒸留水で1 Lとした。
【0094】
・ネルソン試薬
1000 mlメスフラスコに(NH4)6Mo7O24・4H2O 25 gを900 mlの蒸留水に溶かし、これに濃硫酸42 gとNa2HAsO4・7H2O 3 gを加えた。さらに蒸留水を加え全体積1 Lとした。
【0095】
以下のように混ぜ合わせ、還元糖を測定した。基質溶液は、0.4% (w/v) CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液である。
【0096】
【表1】
【0097】
以下の実施例6-2~6-4に示す温度及び時間でインキュベートし、ソモギ試薬 (A液40 μl、B液1 mlを混合し要事調整) 100 μlを加え、ボルテックスで混ぜ合わせた。Blankに酵素溶液10 μlを加えた。100℃で10 min煮沸し、10 min以上氷水で急冷した。ネルソン試薬100 μlを加え、ボルテックスで混ぜ合わせて20 min静置した。蒸留水1 mlを加えて遠心後、655 nm吸光測定を行った。
【0098】
<実施例6-2.温度依存性試験>
各酵素の温度依存性を比較するために、上記のソモギ・ネルソン法において、Sample及びBlankのインキュベートを10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、又は60℃で15 mim行い、活性の測定を行った。bufferは0.1 M Acetate buffer (pH 5.5) を用いた。
【0099】
<実施例6-3.熱安定性試験1>
各酵素の熱安定性を比較するため、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃の温度で30 min恒温処理し、氷上で冷却後、残存活性を上記のソモギ・ネルソン法により測定した。上記のソモギ・ネルソン法において、Sample及びBlankのインキュベートを37℃、15 minで行った。bufferは0.1 M Acetate buffer (pH 5.5) を用いた。
【0100】
<実施例6-4.熱安定性試験2>
各酵素の熱安定性を比較するため、20℃又は50℃で0 min、5 min、10 min、15 min、30 min、45 min、60 min、90 min恒温処理し、冷却後、残存活性を上記のソモギ・ネルソン法により測定した。上記のソモギ・ネルソン法において、Sample及びBlankのインキュベートを37℃、15 minで行った。bufferは0.1 M Acetate buffer (pH 5.5) を用いた。
【0101】
<結果>
Ef-EG2 D43Rについて、温度依存性試験(実施例6-2)の結果を図1に示し、熱安定性試験1(実施例6-3)の結果を図2に示し、熱安定性試験2(実施例6-4)の結果を図3に示す。
【0102】
Ef-EG2 N372D及びEf-EG2 Q387Eについて、温度依存性試験(実施例6-2)の結果を図4に示し、熱安定性試験1(実施例6-3)の結果を図5に示し、熱安定性試験2(実施例6-4)の結果を図6に示す。
【0103】
図1及び4より、
・Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)におけるD43の塩基性アミノ酸への置換変異、
・Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)におけるR363及び/又はN372の、両者間でイオン性相互作用が可能になるアミノ酸への置換変異、
・Ef-EG2 WT(アミノ酸配列:配列番号1)におけるR149及び/又はQ387の、両者間でイオン性相互作用が可能になるアミノ酸への置換変異、
の導入により、比活性を大きく向上させることができることが分かった。また、これらの変異は、熱安定性(特に比較的低温下での安定性)に対する影響が無い又は少ないことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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