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特開2023-149757シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法及びゼオライト触媒
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  • 特開-シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法及びゼオライト触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149757
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法及びゼオライト触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/40 20060101AFI20231005BHJP
   C07C 1/20 20060101ALI20231005BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20231005BHJP
   C01B 39/36 20060101ALI20231005BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B01J29/40 Z
C07C1/20
C07C15/08
C01B39/36
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058510
(22)【出願日】2022-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】米田 滉司
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】藁谷 友祐
(72)【発明者】
【氏名】谷山 教幸
(72)【発明者】
【氏名】西山 憲和
(72)【発明者】
【氏名】三宅 浩史
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA52
4G073BA63
4G073BA69
4G073BA75
4G073BB04
4G073BB24
4G073BB48
4G073BD15
4G073CZ50
4G073CZ54
4G073DZ04
4G073DZ08
4G073FC04
4G073FC19
4G073GA01
4G073UA03
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BB12C
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BE01C
4G169BE06C
4G169BE17C
4G169CB66
4G169FC04
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZA32A
4G169ZA32B
4G169ZA36A
4G169ZA36B
4G169ZB08
4G169ZB09
4G169ZD09
4G169ZF07A
4G169ZF07B
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC23
4H006BA71
4H006BC10
4H006BC19
4H006DA15
4H039CA41
4H039CL19
(57)【要約】
【課題】キシレンのような複数の異性体を有する芳香族化合物を製造する際に、異性体の中から目的の化合物を高比率かつ高収率で得ることができる、ゼオライト触媒及び当該触媒を製造する方法を提供すること。
【解決手段】亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得ること、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製すること、及び、前記混合液を前記亜鉛添加ゼオライト表面に添加し、水熱合成を行うことを少なくとも含む、シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得ること、
テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製すること、及び、
前記混合液を前記亜鉛添加ゼオライトの表面に添加し、水熱合成を行うことを少なくとも含む、
シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ被膜がシリカライト被膜である、請求項1に記載のゼオライト触媒の製造方法。
【請求項3】
前記亜鉛添加ゼオライトの重量に対する、前記シリカ被膜を有するゼオライト触媒の重量増加率が、40%以下である、請求項1または2に記載のゼオライト触媒の製造方法。
【請求項4】
ゼオライト触媒がパラキシレン製造用触媒である、請求項1~3のいずれかに記載のゼオライト触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法によって得られる、パラキシレン製造用ゼオライト触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法及びゼオライト触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源の代替製法として、二酸化炭素のマテリアル化が注目されている。具体的には、二酸化炭素と水素などを反応させ、化学原料を製造する技術が研究されている。例えば、二酸化炭素をベンゼン、メタノール、エチレン、キシレンなどへ転換することが知られている。
【0003】
キシレン等の芳香族化合物を製造する方法としては、結晶性アルミノシリケートあるいは結晶性ガロシリケートを触媒として、アルコール、オレフィンまたはパラフィンから製造する方法が公知である。しかし、前記触媒を用いる製造方法では、キシレンが、パラ体、メタ体、オルト体の異性体混合物として得られてしまうため、それらの中からパラキシレンを分離するには、特殊な分離装置などが必要となる。そのため、キシレンの中でもパラキシレンを選択的に得ることができる製造方法が求められている。
【0004】
これまでに、キシレン異性体中のパラキシレンの比率が高い芳香族炭化水素混合物を得ることが可能な技術として、アルコール、オレフィンおよびパラフィンから選ばれた少なくとも一つの化合物から芳香族炭化水素を合成する製造方法において、結晶性アルミノシリケートおよび結晶性ガロシリケートから選ばれるシリケートをシリカで修飾した化合物を含む触媒の存在下に反応を行うことを特徴とする芳香族炭化水素の製造方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-208948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案されている技術では、キシレン異性体中のパラキシレンの比率が高い芳香族炭化水素混合物を得ることが可能とされているが、キシレン自体の収率が低下してしまうことが、本発明者らの研究によりわかってきた。
【0007】
したがって、本発明の主な課題は、前記キシレンのような複数の異性体を有する芳香族化合物を製造する際に、異性体の中から目的の化合物を高比率かつ高収率で得ることができる、ゼオライト触媒及び当該触媒を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面は、亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得ること、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製すること、及び、前記混合液を前記亜鉛添加ゼオライトの表面に添加し、水熱合成を行うことを少なくとも含む、シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法に関する。
【0009】
本発明の他の局面に関するゼオライト触媒は、上記製造方法によって得られるゼオライト触媒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キシレンのような複数の異性体を有する芳香族化合物を製造する際に、異性体の中から目的の化合物を高比率かつ高収率で得ることができる、ゼオライト触媒及び当該触媒を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態の製造方法によって得られるゼオライト触媒の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
[ゼオライト触媒の製造方法]
本発明の一実施形態は、亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得ること、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製すること、及び、前記混合液を前記亜鉛添加ゼオライトの表面に添加し、水熱合成を行うことを少なくとも含む、シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法である。
【0014】
このような製造方法により、従来よりも薄膜のシリカ被膜を有するゼオライト触媒を得ることができる。本実施形態で得られるゼオライト触媒は、図1に示すように、コアとなるゼオライト結晶1表面を不活性層となるシリカ被膜2で被覆したコアシェル構造のゼオライト触媒である。コアとなるゼオライト結晶1は亜鉛イオン3を含有している。当該ゼオライト触媒はシリカ被膜2を有することで外表面での反応を抑制することができるため、当該ゼオライト触媒を用いてキシレンのような複数の異性体を有する芳香族化合物を製造する際に、異性体の中から目的の化合物を高い比率で得ることができる。また、前記シリカ被膜2が薄膜であるため、生成ガスの拡散抵抗を低減し、触媒活性を向上させることができる。よって、目的の化合物を高い収率で得られるという利点がある。
【0015】
本実施形態の製造方法では、まず、亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得る。
【0016】
本実施形態では、MFI型ゼオライトを触媒の核(コア)として使用する。MFI型ゼオライトは酸素10員環構造を有するゼオライトであり、特に、ZSM-5型ゼオライト等のアルミノシリケートゼオライトを使用することが好ましい。このようなMFI型ゼオライトを用いることによって、複数の異性体を持つ化合物のうち、分子サイズの差によって、所望の化合物を選択的に得ることができると考えられる。さらには、MFI型ゼオライトを用いることにより、キシレンの中でオルトキシレン及びメタキシレンよりパラキシレンを高い選択率で得ることができるという利点もある。
【0017】
上述したようなMFI型ゼオライトは市販のゼオライトを使用してもよく、もしくは、公知の方法にて合成することもできる。
【0018】
本実施形態で使用できる亜鉛源としては、前記ゼオライトに亜鉛イオンを添加できるものであれば特に限定はなく、例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、水溶液への溶解性という観点から、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等を使用することが好ましい。上述したような亜鉛源はその水和物などを使用することもできる。
【0019】
亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合する比率については特に限定はされないが、例えば、重量比で、MFI型ゼオライト:亜鉛源が100:1~1:10程度となるように混合することが好ましい。より好ましくは、MFI型ゼオライト:亜鉛源が20:1~1:2程度となるように混合する。
【0020】
混合を行う際は、例えば、前記亜鉛源を含む水溶液に、前記MFI型ゼオライトを添加して、混合液を20~100℃の温度で、1~24時間程度攪拌すればよい。
【0021】
その後、濾過、洗浄および乾燥を行い、その後焼成することによって、亜鉛添加ゼオライトを得る。濾過、洗浄および乾燥の方法については特に限定はなく公知の方法を適宜使用できる。乾燥後は、400~600℃程度で1~24時間、焼成を行う。
【0022】
次に、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製する。
【0023】
本実施形態で使用する構造規定剤は少なくともテトラエチルアンモニウムを含む。すでに報告されているゼオライト触媒の製法では、構造規定剤としてテトラプロピルアンモニウムが使用されている。しかし、テトラプロピルアンモニウムは塩基性が高く、コア触媒の溶解と核生成が起こりやすくなるため、シェル層となるシリカ被膜は粗大な核によって形成される。その場合、シリカ被膜の形成を複数回実施しないと、コア触媒を十分に被覆することができない。その結果、シリカ被膜が厚くなってしまいゼオライト触媒活性が下がり、当該触媒を使用した合成における収率が低下する。
【0024】
これに対し、本実施形態のように塩基性の低いテトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤を使用することによって、触媒表面にシリカ被膜を形成する際の結晶成長速度を抑制し、従来法より均一で薄膜のシリカ被膜で触媒を被覆することが可能となる。その結果、ゼオライト触媒活性が上がり、当該触媒を使用した合成・製造における収率が向上すると考えられる。
【0025】
本実施形態の構造規定剤は、前記テトラエチルアンモニウム以外の構造規定剤をさらに含んでいてもよく、例えば、テトラプロピルアンモニウム、トリエチルアミン、エチレンジアミン等を含むこともできる。
【0026】
本実施形態で使用するシリカ源としては、前記亜鉛添加ゼオライトを被覆できるものであれば特に限定はく、目的とするシリカ被膜の組成に応じて適宜選択できる。具体的には、例えば、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられる。
【0027】
前記シリカ被膜は結晶性シリカの被膜であることが好ましく、特に、多孔質であるシリカライト被膜であることが反応物(分子)および生成物(分子)の拡散性の観点から好ましい。よって、前記シリカ源としては、オルトケイ酸テトラエチル、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が好適に使用できる。
【0028】
前記テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤および前記シリカ源と水を含む混合液は、亜鉛添加ゼオライトにシリカ被膜を形成するための原料液として使用される。なお、前記混合液に含まれる溶媒は水のみであってもよいが、シリカ源の溶解性を高めるために、水以外にもエタノール、プロパノール、グリセリン等の水溶性有機溶媒を混合液に含めてもよい。
【0029】
前記混合液中の前記テトラエチルアンモニウムおよび前記シリカ源の量は、特に限定はされず、亜鉛添加ゼオライトにシリカ被膜を形成できる範囲で適宜調整すればよい。
【0030】
前記テトラエチルアンモニウムについては、例えば、モル比で、シリカ源:テトラエチルアンモニウムが100:1~1:1程度となるように混合液中の量を調整することが好ましい。より好ましくは、シリカ源:テトラエチルアンモニウムがモル比で10:1~2:1程度となるような量で使用する。
【0031】
また前記シリカ源については、例えば、重量比で、亜鉛添加ゼオライト:シリカ源が20:1~1:5程度となるように混合液中の量を調整することが好ましい。より好ましくは、亜鉛添加ゼオライト:シリカ源が5:1~1:2程度となるような量で使用する。
【0032】
次に、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水を含有する前記混合液を、亜鉛添加ゼオライト表面に添加する。添加方法は特に限定されず、シリカ源と構造規定剤を含む前記混合液へ亜鉛添加ゼオライトを浸漬してもよいし、もしくは、前記混合液を亜鉛添加ゼオライトの表面に塗布してもよい。
【0033】
その後、水熱合成を行う。本実施形態において、水熱合成の手段は特に限定はされないが、例えば回転式オートクレーブ、撹拌式オートクレーブ、静置式(無撹拌)オートクレーブなどを用いて行うことができる。具体的には、亜鉛添加ゼオライトを前記混合液に浸漬したままオートクレーブに入れて水熱合成することもできるし、前記混合液を表面に塗布した亜鉛添加ゼオライトをオートクレーブ内の熱水中に入れて水熱合成してもよい。
【0034】
前記水熱合成の温度は100~200℃程度であることが好ましく、より好ましくは、150~190℃である。また、前記水熱合成の反応時間は1~200時間程度であることが好ましく、4~48時間程度がより好ましい。
【0035】
水熱合成を行った後、得られた合成物を洗浄および乾燥し、その後焼成することによって、シリカ被膜を有するゼオライト触媒が得られる。洗浄および乾燥の方法については特に限定はなく公知の方法を適宜使用できる。乾燥後に、400~600℃程度で1~24時間、シリカ被膜の焼成を行う。
【0036】
以上の工程により、シリカ被膜を有する本実施形態のゼオライト触媒を得ることができる。得られたゼオライト触媒は、そのまま使用することもできるし、必要に応じて、公知の造粒方法等で粒子サイズを調整してもよい。
【0037】
本実施形態の製造方法によって得られるゼオライト触媒において、シリカ被膜形成前の亜鉛添加ゼオライトの重量に対する、シリカ被膜を形成した後のゼオライト触媒の重量増量率が40%以下であることが好ましい。この重量増加率は、本実施形態で得られるゼオライト触媒では、非常に薄膜のシリカ被膜が形成されていることを示す指標である。前記重量増加率のより好ましい範囲は20%以下である。下限について特に限定はされないが、前記重量増加率が1%未満となると、十分なシリカ被膜が形成されないおそれがあるため、1%以上であることが好ましい。
【0038】
前記重量増加率は、後述の実施例に示す方法で求めた値である。
【0039】
[ゼオライト触媒]
本実施形態の製造方法によって得られる、シリカ被膜を有するゼオライト触媒(以下、単にゼオライト触媒とも称する)は、これまでにない新規なゼオライト触媒である。したがって、本実施形態には上述した製造方法によって得られるゼオライト触媒も包含される。
【0040】
本実施形態のゼオライト触媒の特徴の一つは、シリカ被膜の薄さにある。上述したように従来とは異なる製法によって製造することにより、シリカ被膜を非常に薄膜にすることができ、その結果、ゼオライト触媒活性が上がり、当該触媒を使用した化合物の製造における収率が向上すると考えられる。
【0041】
本実施形態のゼオライト触媒におけるシリカ被膜の膜厚は500nm以下であることが好ましい。ここまで薄膜のシリカ被膜は、従来の製造方法で形成することができなかった。膜厚500nm以下のシリカ被膜を有することによって、当該ゼオライト触媒は、異性体の高い選択性に加え、収率も向上させることができる。前記シリカ被膜の膜厚が500nmを超えると十分な収率が得られない。前記シリカ被膜の膜厚の下限は特に限定する必要はないが、異性体の高選択性を維持する観点から、通常は1nm以上である。より好ましいシリカ被膜の膜厚は5nm以上50nm以下である。
【0042】
前記シリカ被膜の膜厚は、後述の実施例に示す方法で求めた値である。
【0043】
また、本実施形態のゼオライト触媒においては、コア触媒である亜鉛添加ゼオライト100質量部に対して、シリカ被膜の量が1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。前記シリカ被膜の量が100質量部を超えると、前記ゼオライト触媒を用いて化合物を製造する際の収率が不十分となるおそれがある。より好ましい実施形態において、コア触媒である亜鉛添加ゼオライト100質量部に対して、シリカ被膜の量が3質量部以上20質量部以下であることがより望ましい。
【0044】
前記シリカ被膜の量は、後述する実施例に示す重量増加率によって求めることができる。
【0045】
[ゼオライト触媒の用途]
本実施形態のゼオライト触媒は、芳香族化合物の製造に好適に使用できる。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の置換基を有する芳香族炭化水素が挙げられるが、特に、本実施形態のゼオライト触媒はパラキシレンの製造に好適である。パラキシレンは、ポリエチレンテレフタレートの原料となるテレフタル酸の出発原料であり、パラキシレンを高い選択率、かつ、高収率で製造できる本実施形態の触媒は、産業利用上非常に有用である。
【0046】
本実施形態のゼオライト触媒を用いてパラキシレンを製造する方法は特に限定はなく、原料の芳香族炭化水素とメチル化剤を、本実施形態のゼオライト触媒の存在下で反応させることによって、パラキシレンを製造できる。
【0047】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼン、アルキルベンゼン等が挙げられる。また、メチル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテル、炭酸ジメチル、メタン等が挙げられる。
【0048】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0049】
本発明の一つの局面に関するゼオライト触媒の製造方法は、亜鉛源とMFI型ゼオライトとを混合し、亜鉛添加ゼオライトを得ること、テトラエチルアンモニウムを含む構造規定剤とシリカ源と水とを含有する混合液を調製すること、及び、前記混合液を前記亜鉛添加ゼオライトの表面に添加し、水熱合成を行うことを少なくとも含む、シリカ被膜を有するゼオライト触媒の製造方法である。
【0050】
また、前記製造方法において、前記シリカ被膜がシリカライト被膜であることが好ましい。それにより、結晶外表面の反応を抑制するという利点がある。
【0051】
前記亜鉛添加ゼオライトの重量に対する、前記シリカ被膜を有するゼオライト触媒の重量増加率が、40%以下である、請求項1または2に記載のゼオライト触媒の製造方法。
【0052】
また、前記製造方法によって得られるゼオライト触媒がパラキシレン製造用触媒であることが好ましい。
【0053】
さらに本発明の他の局面は、上述の方法によって得られる、パラキシレン製造用ゼオライト触媒である。
【実施例0054】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0055】
<ゼオライト触媒の製造>
(実施例1)
・亜鉛添加ゼオライトの調製
コア触媒として東ソー株式会社製のゼオライト「HSZ-840HOA」(粒径3μm)を1gと、亜鉛源としてナカライテスク株式会社製の硝酸亜鉛・6水和物を2gと、蒸留水66.5gとを混合し、80℃で1晩撹拌した。その後、混合液を吸引濾過し、1Lの蒸留水で洗浄した。それから、90℃の乾燥機で、液体がなくなるまで約一晩かけて乾燥を行った。得られた乾燥物を、550℃で5時間焼成し、亜鉛添加ゼオライトを得た。その際、昇温は5℃/分、降温は自然冷却で行った。得られた亜鉛添加ゼオライトのSi/Al含有比率は16.4であった。
【0056】
・シリカ被膜の形成
シリカ源として富士フィルム和光純薬株式会社製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を0.693gと、構造規定剤としてSIGMA-ALDRICH製の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)35重量%水溶液を0.28gと、蒸留水5.28gをテフロン(登録商標)内筒に入れて、室温で1時間攪拌し、シリカ源と構造規定剤と水とを含む混合液を得た。
【0057】
得られた混合液に、前記で得た亜鉛添加ゼオライトを0.3g入れて、回転式オートクレーブ(HIRO COMPANY社製、「水熱合成反応装置(装置名)」で、温度180℃、10rpmの条件で24時間水熱合成した。
【0058】
その後、上澄み液を捨ててから、水を加えて10分間遠心分離した。この操作を3回繰り返し、洗浄を行った。それから、90℃の乾燥機で、液体がなくなるまで約一晩かけて乾燥を行った。
【0059】
得られた乾燥物を、550℃で5時間焼成し、シリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。その際、昇温は5℃/分、降温は自然冷却で行った。
【0060】
(実施例2~4)
シリカ被膜の形成において、構造規定剤である水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)35重量%水溶液の量を、表1に示す量にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法でシリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。
【0061】
(実施例5~7)
シリカ被膜の形成において、構造規定剤である水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)35重量%水溶液の量を表1に示す量に変更し、かつ、さらに富士フィルム和光純薬株式会社製の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAOH)の10重量%水溶液も表1に示す量で加えた以外は、実施例1と同様の方法でシリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。
【0062】
(実施例8)
シリカ被膜の形成において、シリカ源であるTEOSの量と、蒸留水の量を表1に示す量に変更した以外は、実施例3と同様の方法でシリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。
【0063】
(実施例9)
シリカ被膜の形成において、シリカ源であるTEOSの量と、蒸留水の量を表1に示す量に変更した以外は、実施例4と同様の方法でシリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。
【0064】
(比較例)
・亜鉛添加ゼオライトの調製
実施例1と同様の方法で行った。
【0065】
・シリカ被膜の形成
シリカ源としてシグマ・アルドリッチ社製のフュームドシリカを0.2gと、構造規定剤として富士フィルム和光純薬株式会社製の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAOH)の10重量%水溶液を0.81gと、エタノール2.45gと、蒸留水13.6gをテフロン(登録商標 PTFE樹脂丸棒から自作)内筒に入れて、室温で1時間攪拌し、シリカ源と構造規定剤と水とを含む混合液を得た。
【0066】
得られた混合液に、前記で得た亜鉛添加ゼオライトを0.3g入れて、回転式オートクレーブ(HIRO COMPANY社製、「水熱合成反応装置(装置名)」で、温度180℃、10rpmの条件で24時間水熱合成した。
【0067】
その後、上澄み液を捨ててから、水を加えて10分間遠心分離した。この操作を3回繰り返し、洗浄を行った。それから、90℃の乾燥機で、液体がなくなるまで約一晩かけて乾燥を行った。
【0068】
得られた乾燥物を、550℃で5時間焼成し、シリカ被膜を部分的に有するゼオライト触媒を得た。その際、昇温は5℃/分、降温は自然冷却で行った。
【0069】
以上で得られたゼオライト触媒は、シリカ被膜に被覆されていない箇所がまだあったため、上述したシリカ被膜形成の工程を再度、最初から繰り返した。すなわち、再度、シリカ源と構造規定剤と水を含む混合液を調製し、当該混合液に1回目の焼成で得たゼオライト触媒を入れ、オートクレーブ、洗浄、乾燥、焼成を1回目と同じ条件で行い、シリカ被膜を有するゼオライト触媒を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
<評価方法>
(Si/Al含有比率)
各実施例および比較例で得られたシリカ被膜を有するゼオライト触媒における、SiとAlの含有比率(Si/Al比率)をEDX(エネルギー分散型X線分析)により分析した。その結果を表2に示す。
【0072】
(シリカ被膜形成による重量増加率、及びシリカ被膜の膜厚)
コア触媒である亜鉛添加ゼオライトは、Si、Al、ZnおよびOの各元素からなるが、シェル層であるシリカ被膜はSiおよびOのみからなる。ZnとAlは被膜合成の際に含有量が変化しないと仮定した。また、触媒の重量は体積(=粒径の3乗)に比例すると仮定した。コア触媒粒径としては、東ソー株式会社製のゼオライトの粒径3μmを採用した。
【0073】
なお、以下の式においては、コア(もしくはコア触媒)=亜鉛添加ゼオライト、コアシェル(もしくはコアシェル触媒)=シリカ被膜を有するゼオライト触媒をさす。
【0074】
まず、上記で得られたSi/Al比率の増分がシリカ被膜に含まれるSiに由来することから、重量増加率(%)を以下の式(1)で計算する。
式(1):
[重量増加率(%)] =([コアシェルSi/Al比]-[コアSi/Al比])/([コアSi/Al比]+1)×100
【0075】
また、[重量増加率(%)]={[コアシェル触媒重量]/[コア触媒重量]-1}×100であるから、以下の式(2)が導き出される。
式(2):
[コアシェル触媒重量]/[コア触媒重量]=[重量増加率(%)]/100+1
【0076】
上記で述べた仮定より、触媒の重量は体積(=触媒粒径の3乗)に比例するため、以下の式(3)が導き出される。
式(3):
{[コアシェル触媒粒径]/[コア触媒粒径]}3=[コアシェル触媒重量]/[コア触媒重量]
【0077】
シリカ被膜の膜厚については、コアシェル触媒とコア触媒の触媒粒径の差から、以下の式(4)で計算できる。
式(4):
[シリカ被膜の膜厚]={[コアシェル触媒粒径]-[コア触媒粒径]}/2
=[コア触媒粒径]×{([コアシェル触媒粒径]/[コア触媒粒径])-1}/2
【0078】
また仮定より、式(5):コア触媒粒径=3μmである。
【0079】
なお、前記式(3)及び式(4)におけるコアシェル触媒粒径については、式(3)を式(4)に代入することで、以下の式(6):
[シリカ被膜の膜厚]=[コア触媒粒径]×{{[コアシェル触媒重量]/[コア触媒重量]}1/3-1}/2
となり、「コアシェル触媒粒径」は相殺されるため、触媒重量の比率とコア粒径から膜厚を計算できることになる。
【0080】
上記の式(1)、(2)および(5)を式(6)に代入して、シリカ被膜の膜厚を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
(触媒性能)
実施例1~5、8および比較例のゼオライト触媒を用いて、以下の方法でパラキシレンを製造し、それぞれの触媒のパラキシレン収率とパラキシレン選択率を評価した。
【0083】
・パラキシレンの製造
固定床型反応器に0.05gのゼオライト触媒を充填し、大気圧下400℃でメタノールガスを供給して反応を行った。反応開始から20分後の生成ガスについて分析を実施し、触媒活性を評価した。
【0084】
・生成ガスの分析方法
以下の分析装置および条件で分析を行った:
分析装置:島津製作所製GC-2014
カラム:キャピラリーカラムXylene Master
初期カラム温度:70℃
昇温速度:2℃/min
検出器温度:200℃
【0085】
・収率およびパラキシレン選択率の計算方法
以下の式により求めた:
[パラキシレン収率(Cmol%)]=[パラキシレン生成量(mol)]/[メタノール供給量(mol)]/8×100
[パラキシレン選択率(%)]=[パラキシレン生成量(mol)]/[キシレン(オルト、メタ、パラの合計)生成量(mol)]×100
【0086】
結果を表3に示す。
【表3】
【0087】
(考察)
表2の結果より、実施例の製造方法で得られたゼオライト触媒は、従来法である比較例の製造方法で得られたゼオライト触媒よりも、シリカ被膜の膜厚が薄いことが確認できた。このことは、シリカ被膜形成後の重量増加率によっても裏付けられている。また、表3の結果より、実施例の製造方法で得られたゼオライト触媒は、膜厚が500nm以下のシリカ被膜を有しており、パラキシレン製造における収率が高く、かつ、パラキシレン選択率も高いことが確認できた。
【0088】
一方、比較例の製造方法で得られたゼオライト触媒は、シリカ被膜の膜厚が500nmを超えており、パラキシレンの製造におけるパラキシレン選択率は高いものの、収率が実施例のゼオライト触媒よりも低いことがわかった。
【符号の説明】
【0089】
1 ゼオライト触媒(コア)
2 シリカ被膜(シェル)
3 亜鉛イオン
図1