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特開2023-149833コンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149833
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】コンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N27/26 351P
G01N27/26 351F
G01N27/26 351B
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058610
(22)【出願日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人日本コンクリート工学会 コンクリート工学年次論文集,Vol.43,No.1,2021 2021年6月15日発行 〔刊行物等〕公益社団法人日本コンクリート工学会 コンクリート工学年次大会2021(名古屋)オンライン開催(zoom開催) 第4会場[非破壊検査・診断3](講演番号1199)(https://zoom.us/j/96900796974?pwd=bCt4MmtJbktZT01tejV1S1drUG9ZQT09#success) 2021年7月8日開催
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 永手
(72)【発明者】
【氏名】平間 昭信
(72)【発明者】
【氏名】金子 泰明
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA02
2G050BA02
2G050BA03
2G050CA01
2G050DA01
2G050EB02
2G050EC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、非破壊検査であっても、コンクリート構造物内において、腐食した鉄筋の測定範囲が明確化でき、コンクリート構造物を局所的に破壊する必要がなく、埋設されたコンクリート中鉄筋のインピーダンススペクトルに基づき鉄筋腐食の有無を絶対値で評価できるコンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置を提供する。
【解決手段】本発明は、測定電極7と該測定電極7の外周面に当接して測定面2に設置された第一対極3とからなりコンクリート構造物1の電位測定が行える測定部6と、前記コンクリート構造物1の基準電位が測定できる基準電極8と、第二対極4と、前記第一対極3と第二対極4間に通電される高周波交流電流と低周波交流電流とを有する交流電源9と、前記第一対極3と前記第二対極4間に通電された電流値を測定する電流測定器10と、測定電位と基準電位との電位差を計測する電位差測定器11とを有していることを特徴とする。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の測定面に設置される測定電極と該測定電極の外周面に当接して前記測定面に設置された第一対極とからなり前記コンクリート構造物の電位測定が行える測定部と、
該測定部から水平方向に所定の間隔をあけて設置され、前記コンクリート構造物の基準電位が測定できる基準電極と、
前記測定部から前記水平方向に所定の間隔をあけて設置される第二対極と、
前記測定部と前記第二対極間に設置され、前記第一対極と第二対極間に通電される高周波交流電流と低周波交流電流とを有する交流電源と、
前記第一対極と前記第二対極間に通電された電流値を測定する電流測定器と、
前記測定部と前記基準電極間に設置され、前記測定電極と前記基準電極とにより前記測定部略下側の測定電位と前記コンクリート構造物の基準電位との電位差を計測する電位差測定器と、を有し、
前記電流測定器と電位差測定器での計測で、前記それぞれの交流電流通電時にそれぞれ測定された電流値及び電位差値により前記測定部略下側のインピーダンスが求められ、求められたインピーダンスにより前記コンクリート構造物に埋設された鉄筋の腐食箇所が検出できる、
ことを特徴とするコンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置。
【請求項2】
コンクリート構造物の測定面に設置される測定電極と該測定電極の外周面に当接して前記測定面に設置された第一対極とからなり前記コンクリート構造物の電位測定が行える測定部と、
該測定部から水平方向一方側に所定の間隔をあけて設置され、前記コンクリート構造物の基準電位が測定できる基準電極と、
前記測定部から前記水平方向他方側に所定の間隔をあけて設置される第二対極と、
前記測定部と前記第二対極間に設置され、前記第一対極と第二対極間に通電される高周波交流電流と低周波交流電流とを有する交流電源と、
前記第一対極と前記第二対極間に通電された電流値を測定する電流測定器と、
前記測定部と前記基準電極間に設置され、前記測定電極と前記基準電極とにより前記測定部略下側の測定電位と前記コンクリート構造物の基準電位との電位差を計測する電位差測定器と、を有し、
前記電流測定器と電位差測定器での計測で、前記それぞれの交流電流通電時にそれぞれ測定された電流値及び電位差値により前記測定部略下側のインピーダンスが求められ、求められたインピーダンスにより前記コンクリート構造物に埋設された鉄筋の腐食箇所が検出できる、
ことを特徴とするコンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンクリート構造物におけるコンクリート中鉄筋の腐食箇所を非破壊検査手法により検出するコンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のコンクリート構造物に埋設された鉄筋の腐食状態を推定する自然電位法は、コンクリートの状態によって測定値が変化し、腐食の判定を誤る可能性があった。また、コンクリート中鉄筋の腐食速度を把握する従来技術は、前記埋設された鉄筋と電気的導通を得るために、コンクリート構造物に例えばドリルなどで孔をあけるなど局所的に破壊する必要があり、前記コンクリート中鉄筋の腐食診断測定に手間と時間を要するなど利便性の面で課題となっていた。
【0003】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決する手法としてコンクリート中鉄筋の腐食程度を評価する完全非破壊手法、いわゆるDHz法を創案した(特願2020-83852号)。このDHz法は、コンクリート構造物のある測定面の中で、腐食の有無を相対値で評価する手法である。そのため、コンクリート構造物に埋設された鉄筋が該コンクリート構造物内部でつながっている面積内でのみ腐食の有無を評価することができ、一方で埋設された鉄筋がつながっていない異なる測定範囲での評価ができないことが課題として挙げられている。
【0004】
そこで、本発明は、コンクリート構造物の測定面に設置される電極と対極の電極配置を工夫することで腐食速度の推定に用いられるインピーダンススペクトルを算出することができ、コンクリート中鉄筋のインピーダンススペクトルが得られることにより腐食の有無を絶対値で評価することが可能となる。その結果、前記コンクリート構造物に埋設された鉄筋がコンクリート構造物内部でつながっていない状況においても、鉄筋の腐食の有無を評価することができ、さらには、例えば2つの異なるコンクリート構造物に埋設された鉄筋同士の腐食状態を比較検討することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2020-83852号
【特許文献2】特開2019-105513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであって、非破壊検査であっても、コンクリート構造物内に埋設された鉄筋の腐食箇所推定が容易となり、また、コンクリートの状態によって鉄筋腐食有無あるいは腐食箇所の判定を誤りにくく、また埋設鉄筋との電気的導通を得るためにドリルなどでコンクリート構造物を局所的に破壊する必要がなく、コンクリート中鉄筋のインピーダンススペクトルに基づき鉄筋の腐食有無を絶対値で評価でき、その結果、例えば埋設鉄筋がつながっていない状況下においても鉄筋の腐食有無を評価できるコンクリート中鉄筋の腐食箇所検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
コンクリート構造物の測定面に設置される測定電極と該測定電極の外周面に当接して前記測定面に設置された第一対極とからなり前記コンクリート構造物の電位測定が行える測定部と、
該測定部から水平方向に所定の間隔をあけて設置され、前記コンクリート構造物の基準電位が測定できる基準電極と、
前記測定部から前記水平方向に所定の間隔をあけて設置される第二対極と、
前記測定部と前記第二対極間に設置され、前記第一対極と第二対極間に通電される高周波交流電流と低周波交流電流とを有する交流電源と、
前記第一対極と前記第二対極間に通電された電流値を測定する電流測定器と、
前記測定部と前記基準電極間に設置され、前記測定電極と前記基準電極とにより前記測定部略下側の測定電位と前記コンクリート構造物の基準電位との電位差を計測する電位差測定器と、を有し、
前記電流測定器と電位差測定器での計測で、前記それぞれの交流電流通電時にそれぞれ測定された電流値及び電位差値により前記測定部略下側のインピーダンスが求められ、求められたインピーダンスにより前記コンクリート構造物に埋設された鉄筋の腐食箇所が検出できる、
ことを特徴とし、
または、
コンクリート構造物の測定面に設置される測定電極と該測定電極の外周面に当接して前記測定面に設置された第一対極とからなり前記コンクリート構造物の電位測定が行える測定部と、
該測定部から水平方向一方側に所定の間隔をあけて設置され、前記コンクリート構造物の基準電位が測定できる基準電極と、
前記測定部から前記水平方向他方側に所定の間隔をあけて設置される第二対極と、
前記測定部と前記第二対極間に設置され、前記第一対極と第二対極間に通電される高周波交流電流と低周波交流電流とを有する交流電源と、
前記第一対極と前記第二対極間に通電された電流値を測定する電流測定器と、
前記測定部と前記基準電極間に設置され、前記測定電極と前記基準電極とにより前記測定部略下側の測定電位と前記コンクリート構造物の基準電位との電位差を計測する電位差測定器と、を有し、
前記電流測定器と電位差測定器での計測で、前記それぞれの交流電流通電時にそれぞれ測定された電流値及び電位差値により前記測定部略下側のインピーダンスが求められ、求められたインピーダンスにより前記コンクリート構造物に埋設された鉄筋の腐食箇所が検出できる、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非破壊検査であっても、コンクリート構造物内に埋設された鉄筋の腐食箇所推定が容易となり、また、コンクリートの状態によって鉄筋腐食有無あるいは腐食箇所の判定を誤りにくく、また埋設鉄筋との電気的導通を得るためにドリルなどでコンクリート構造物を局所的に破壊する必要がなく、コンクリート中鉄筋のインピーダンススペクトルに基づき鉄筋の腐食有無を絶対値で評価でき、その結果、例えば埋設鉄筋がつながっていない状況下においても鉄筋の腐食有無を評価できるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の測定基本原理を説明する説明図である。
図2】従来の測定方法に関する測定概要を説明する説明図である。
図3】実験例に使用する試験体の寸法と配筋を説明する説明図である。
図4】従来の測定方法を用いて行ったコンクリート試験体の測定結果を説明する説明図である。
図5】本発明の測定方法に関する測定概要を説明する説明図(1)である。
図6】本発明の測定方法を用いて行ったコンクリート試験体の測定結果を説明する説明図である。
図7】本発明の測定方法に関する測定概要を説明する説明図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
まず、本発明の測定基本原理を図1に基づき説明する。
図1(a)は、アルカリ性の水溶液に鉄を浸せきし、この状態で、鉄に低周波から高周波の異なる周波数の交流電流を通電し、通電した1時間、10日間、12日間、15日間、20日間、30日間経過後の鉄の電気抵抗を測定した結果を示したインピーダンススペクトルである。そして、前記水溶液には随時塩化ナトリウムを添加し、前記の経過時間ごとに図1(b)に示す塩分濃度にし、鉄の腐食を生じさせるものとした。
【0011】
図1(a)に基づき鉄の腐食状態に伴う周波数[Hz]と電気抵抗[Ω]の関係について説明する。図1(a)は、横軸が周波数[Hz]、縦軸が電気抵抗[Ω](インピーダンス[kΩ・cm])の両対数グラフで示した図である。
【0012】
図1(a)に示すように、鉄の電気抵抗[Ω]は、通電する交流電流[A]の周波数[Hz]により異なることが理解できる。そして、周波数による電気抵抗の変化は鉄の腐食が進行するにしたがって小さくなることも理解できる。すなわち、鉄の腐食が生じていない1時間経過後及び10日間経過後の曲線は、該曲線の傾きが大きく、低周波から高周波に周波数を変えるにつれて電気抵抗も大きく変化していることが認められる。一方で、鉄の腐食が最も生じている30日間経過後で塩分濃度1.0Mの場合は、曲線の傾きが最も小さく、低周波から高周波に周波数を変えたとしても電気抵抗の変化は小さな変化であることが認められる。
【0013】
この結果から、鉄の腐食が生じていない健全な場合は、周波数による電気抵抗の変化が大きくなるのに対し、鉄が腐食している場合は、周波数による電気抵抗の変化は小さくなることが認められる。
【0014】
したがって、図1に示すように、様々な周波数の交流電流に対応する電気抵抗をプロットした図を作成し、低周波から高周波に周波数を変化させた際の電気抵抗の変化を測定すれば鉄の腐食箇所が認識できるものとなる。
【0015】
ところで、電気抵抗の取得方法は、コンクリート表面から鉄筋5中に所定の周波数の交流電流を印加し、その印加したときの鉄筋5中からコンクリート表面間の電位差変化を得て、オームの法則により、電気抵抗とする。
【0016】
ここで、前記電気抵抗を測定する上で、コンクリート表面からのかぶり部分のコンクリートと埋設鉄筋5とが接している部分(界面部分)の電気抵抗が重要な要因となる。この界面部分の電気抵抗が大きいか、あるいは小さいかによって、埋設鉄筋5の腐食有無を判断することができるためである。
【0017】
前記界面部分の電気抵抗を得る方法について簡単に説明する。
まず、界面部分の電気抵抗は、高周波の交流電流を印加した場合には該電気抵抗がゼロの状態となる特性がある。そのため、高周波の交流電流を印加した場合は、前記かぶり部分のコンクリートだけの電気抵抗を得ることができるのである。そして、印加する周波数を高周波から低周波に変化していくにつれて、前記界面部分の電気抵抗が徐々に発現し、最終的には、前記かぶり部分のコンクリートの電気抵抗と前記界面部分の電気抵抗との和が低周波の交流電流を印加したときに得られる電気抵抗となる。そのため、低周波の交流電流を印加したときの電気抵抗と、高周波の交流電流を印加したときの電気抵抗との差をとれば、前記界面部分だけ電気抵抗を得ることができるのである。
【0018】
これにより、埋設鉄筋5の腐食有無、場合によっては埋設鉄筋5の腐食状態まで判断することが可能となる。従来法では、これら測定においては埋設鉄筋5との導通を要するが、本手法では不要であることが特徴である。
【0019】
次に、従来の電気抵抗の測定方法について図2に基づいて説明する。
従来の測定方法において使用される使用機器は、測定照合電極である測定電極7、該測定電極7の外周面に当接して設けられた第一対極3を使用する。また、高周波及び低周波の交流電流など周波数の異なる交流電流を通電できる交流電源9、例えば電流計などが用いられる電流測定器10、例えば電位差計などが用いられる電位差測定器11が必要となる。
【0020】
コンクリート構造物1表面、すなわち測定面2に前記測定電極7を設置し、該測定電極7の外周面に当接して前記第一対極3を測定面2に設置する。前記測定電極7と第一対極3から構成された測定部6の測定箇所を変えて測定を行う。
【0021】
そして、従来の測定方法では、コンクリート構造物1に埋設された鉄筋5との電気的導通を得るために、コンクリート構造物1表面からコンクリート内部に向かって局所的に例えばドリルなどで孔をあける必要がある。穿孔後、その孔からコンクリート内部の鉄筋5と電気的に導通した例えば銅線などの金属線12を配線する。
【0022】
図2に示すように、前記測定電極7とRE端子(Reference Electrode端子)、第一対極3とCE端子(Counter Electrode端子)、鉄筋5と導通した金属線12とWE(Working Electrode)_V端子およびWE_I端子とを接続しておく。
そして、RE端子とWE_V端子とを測定用ケーブルなどで接続、すなわち、前記測定電極7と埋設鉄筋5と導通した金属線12とを接続する。また、前記RE端子とWE_V端子間には、電位差測定器11を接続して設置する。
そして、CE端子とWE_I端子とを測定用ケーブルなどで接続、すなわち第一対極3と埋設鉄筋5と導通した金属線12とを接続する。前記CE端子とWE_I端子間には、交流電源9と電流測定器10とを接続して設置する。
次いで、CE端子とWE_I端子間に、例えば、周波数0.01Hz~100Hz範囲の低周波電流及び高周波交流電流を連続的に印加する。
【0023】
前述の測定であるが、電流測定器10によってCE端子・WE_I端子間に流れる電流データをそれぞれの周波数の交流電流(Iobs)毎に取得する。なお、交流電流の振幅の目安は、後述する電位差(Vobs)の振幅が50mVとなる程度であることが好ましい。
【0024】
次いで、前記CE端子とWE_I端子間に低周波電流あるいは高周波交流電流を通電している状態において、前記RE端子とWE_V端子間の電位差を測定する。前記RE端子とWE_V端子間の電位差は、前記電位差測定器11によって測定され、前記測定された電位差は測定部6付近の電位データとなる。
【0025】
ここで、電位データの測定であるが、埋設鉄筋5の電位は測定中には変化しない。そのため、埋設鉄筋5の電位を基準として、測定面2に設置した測定部6、すなわち測定電極7が測定面2と接しているコンクリート構造物1表面の電位との電位差を測定するのである。
【0026】
下記に示した数式(1)により、前記測定により取得した電位差(Vobs)を印加交流電流(Iobs)で除すことで、インピーダンスが得られる測定結果(Zobs)となる。
Zobs = Vobs / Iobs ・・・(1)
各周波数の交流電流(Iobs)毎に、測定結果(Zobs)を算出し、インピーダンススペクトルを取得する。
【0027】
ここで、従来の測定方法手順に基づいた実験の一例を示す。コンクリート中鉄筋の腐食を測定するコンクリート構造物1として、一例を挙げれば、図6に示すものが実験例として挙げられる。図3(a)はコンクリート試験体の平面図、図3(b)はコンクリート試験体の右側面図、図3(c)はコンクリート試験体の正面図を表している。また、コンクリート試験体の水平方向の長さをX、該Xに対して垂直な水平方向の長さをY、該XとYに垂直な鉛直方向の長さをZとしている。本実験例においては、コンクリート試験体の寸法をX:1600mm×Y:1600mm×Z:100mmのものが使用されている(図3参照)。
【0028】
そして、 第一鉄筋のかぶりが50mmで、第二鉄筋のかぶりが69mmとなるように、鉄筋5を縦方向と横方向に15本ずつ、例えば格子状に配筋してある。なお、本実験例においては、φ19mm×1600mmの鉄筋5を用いている。
【0029】
本実験例では、埋設鉄筋5の全面を腐食させた腐食試験体と、埋設鉄筋5の全面が腐食していない非腐食試験体の2種類のコンクリート試験体を用意した。なお、腐食試験体で用いた鉄筋5は、コンクリートに埋設する前に大気中で3%の塩水を噴霧し腐食させたものである。また、鉄筋5同士は溶接で電気的に短絡し、鉄筋5の端部箇所に測定用のリード線(金属線12)を接続して測定を行った。
【0030】
本実験例における測定位置、すなわち測定部6の設置位置は、X:150mm×Y:150mm×Z:100mmとした場合の、各コンクリート試験体の測定結果を図4に示す。
図4は、各周波数の交流電流(Iobs)を印加毎に、電位差(Vobs)を取得し、数式(1)を用いて、測定結果(Zobs)、すなわちインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスを基にインピーダンススペクトルを得たプロット図である。なお、縦軸は虚部[Ω]を、横軸は実部[Ω]を示している。
【0031】
図4から、各コンクリート試験体(非腐食試験体及び腐食試験体)において得られたスペクトルと横軸実部[Ω]との交点はコンクリート抵抗を表している。非腐食試験体のコンクリート抵抗は300[Ω]程度であるのに対し、腐食試験体のコンクリート抵抗は550[Ω]程度であることがプロット図から読み取れる。また、鉄筋5の腐食状態は、スペクトルの立ち上がりから考察することができるが、腐食試験体のスペクトルの方が非腐食試験体のスペクトルよりもスペクトルの立ち上がりが小さくなっている(図4参照)。したがって、図4の結果からスペクトルの立ち上がりが小さければ、埋設鉄筋5が腐食していると判別することができるのである。
【0032】
次に、本発明の測定概要につき図5などを参照して説明する。
本発明の測定方法において使用される使用機器は、測定照合電極である測定電極7、該測定電極7の外周面に当接して設けられた第一対極3、基準照合電極である基準電極8、第二対極4を使用する。また、高周波及び低周波の交流電流など周波数の異なる交流電流を通電できる交流電源9、例えば電流計などが用いられる電流測定器10、例えば電位差計などが用いられる電位差測定器11が必要となる。
【0033】
コンクリート構造物1表面、すなわち測定面2に前記測定電極7を設置し、該測定電極7の外周面に第一対極3を当接した状態で測定面2上に設置する。前記測定電極7と第一対極3から構成されている測定部6の設置箇所を変えて測定を行う。
【0034】
次いで、本発明の電極配置について説明する。
まず、コンクリート構造物1の基準電位を測定できる基準電極8が前記測定部6から所定の間隔をあけて設置される。そして、前記測定部6及び前記基準電極8からそれぞれ所定の間隔以上あけて、第二対極4が設置される。前記基準電極8は、前記測定部6を構成する第一対極3と第二対極4間に通電する電流の影響を受けない位置に設置する必要がある。
【0035】
前記測定部6を構成する測定電極7は、前記第一対極3と第二対極4間に交流電流を通電したときの、コンクリート構造物1表面、すなわち測定面2から埋設鉄筋5中の電位を測定している。そして、基準電極8はコンクリート構造物1表面の電位を測定している。ここで、前記第一対極3と第二対極4間に通電する電流の影響を全く受けない位置に電極が設置されているときは、埋設鉄筋5中の電位と同等の電位とみなすことができる。そのため、前記基準電極8は、前記通電する電流の影響を受けない位置に設置されていることから埋設鉄筋5と同様に扱うことができるのである。これにより、従来法では、これら測定においては埋設鉄筋5との電気的導通を要するが、本発明は埋設鉄筋5と電気的導通を得る必要がないのである。
【0036】
図5は、本発明の電極配置の一例を示している。図5から理解されるとおり、コンクリート構造物1の基準電位を測定できる基準電極8を前記測定部6から水平方向の一方側に所定の間隔をあけて測定面2上に設置されている。そして、前記測定部6から水平方向他方側、つまり前記測定部6を挟んで前記基準電極8と反対側に、前記測定部6から所定の間隔をあけて第二対極4が設置される。なお、図5では図面に向かって測定部6の右側に基準電極8を、測定部6の左側に第二対極4を設置しているが、基準電極8が左側、第二対極4が右側となるように配置しても問題ない。
【0037】
また、図5に示すように直線状に電極配置する他に、例えば図7に示すように上から見て略L字状となるように電極を設置することも考えられる。測定面2上に、測定部6から垂直な水平方向に所定の間隔を空けて基準電極8(あるいは第二対極4)を設置し、前記測定部6から水平方向に所定の間隔をあけて第二対極4(あるいは基準電極8)を設置する電極配置である。前記略L字状に電極を配置する場合においても、基準電極8は、第一対極3と第二対極4間に通電する電流の影響を受けない位置に設置する必要があるため、前記基準電極8と前記第二対極4間は離れた位置に互いを設置する必要がある。
【0038】
ところで、測定部6と基準電極8間の所定の間隔、いわゆる離間距離は、測定面2から埋設鉄筋5の埋設深さ、コンクリート強度、コンクリートの含水率などがコンクリートを通る電流に影響を及ぼすため、測定するコンクリート構造物1ごとに応じて前記測定部6と基準電極8間の離間距離を長くしたり、短くしたりすることにより正確な測定結果を取得することができ、埋設鉄筋5の腐食を判断できるのである。これは、測定部6と第二対極4間の離間距離についても同様である。
【0039】
これにより、前記測定部6から所定の間隔をあけて基準電極8及び第二対極4を配置することで、従来の測定方法のようにコンクリート構造物1に局所的に例えば孔をあけるような破壊が不要となる。つまり、前記基準電極8と前記第二対極4が、従来の埋設鉄筋5との電気的導通のかわりとなるのである。これは、本発明の特徴の一つである。
【0040】
次に、本発明の測定手順につき説明する。
まず、図5に示すように、測定部6を構成する測定電極7にRE端子を、第一対極3にCE端子をそれぞれ接続しておく。さらに、基準電極8にWE_V端子を、第二対極4にWE_I端子をそれぞれ接続しておく。
その後、RE端子とWE_V端子とを測定用ケーブルなどで接続、すなわち、前記測定電極7と基準電極8とを接続する。また、前記RE端子とWE_V端子間には、電位差測定器11を接続して設置する。
そして、CE端子とWE_I端子とを測定用ケーブルなどで接続、すなわち第一対極3と第二対極4とを接続する。前記CE端子とWE_I端子間には、交流電源9と電流測定器10がそれぞれ接続されて設置されている。
次いで、CE端子とWE_I端子間に、例えば周波数0.01Hz~100Hz範囲の低周波電流及び高周波交流電流を連続的に印加する。
【0041】
前述の測定であるが、電流測定器10によってCE端子・WE_I端子間に流れる電流データをそれぞれの周波数の交流電流(Iobs)毎に取得する。なお、交流電流の振幅の目安は、後述する電位差(Vobs)の振幅が50mVとなる程度であることが好ましい。
【0042】
次いで、前記CE端子とWE_I端子間に低周波電流あるいは高周波交流電流を通電している状態において、前記RE端子とWE_V端子間の電位差を測定する。前記RE端子とWE_V端子間の電位差は、前記電位差測定器11によって測定され、前記測定された電位差は測定部6付近の電位データとなる。
【0043】
ここで、電位データの測定であるが、基準電極8が接しているコンクリート表面の電位は測定中には変化しないため、前記基準電極8の電位を基準として、測定面2に設置した測定部6、すなわち測定電極7が前記測定面2に接しているコンクリート構造物1表面の電位から電位差を測定するのである。
【0044】
下記に示した数式(1)から、前記測定により取得した電位差(Vobs)を印加交流電流(Iobs)で除すことで、インピーダンスが得られる測定結果(Zobs)、となる。なお、数式(1)で算出されるインピーダンスは、絶対値で算出される数値である。
Zobs = Vobs / Iobs ・・・(1)
各周波数の交流電流(Iobs)毎に、測定結果(Zobs)を算出し、インピーダンススペクトルを取得する。
【0045】
ここで、本発明の測定方法に基づいた実験の一例を示す。なお、本実験例に用いられる2種試験体の寸法及び配筋条件は、先述した従来の測定方法に基づく実験の一例と同様である。
【0046】
すなわち、コンクリート中鉄筋の腐食を測定するコンクリート構造物1として、一例を挙げれば、図3に示すものが実験例として挙げられる。図3から理解されるとおり、コンクリート試験体の水平方向の長さをX、該Xに対して垂直な水平方向の長さをY、該XとYに垂直な鉛直方向の長さをZとしている。本実験例においては、コンクリート試験体の寸法をX:1600mm×Y:1600mm×Z:100mmのものが使用されている(図3参照)。
【0047】
そして、 第一鉄筋のかぶりが50mmで、第二鉄筋のかぶりが69mmとなるように、鉄筋5を縦方向と横方向に15本ずつ、例えば格子状に配筋してある。なお、本実験例においては、φ19mm×1600mmの鉄筋5を用いている。
【0048】
本実験例では、埋設鉄筋5の全面を腐食させた腐食試験体と、埋設鉄筋5の全面が腐食していない非腐食試験体の2種類のコンクリート試験体を用意した。なお、腐食試験体で用いた鉄筋5は、コンクリートに埋設する前に大気中で3%の塩水を噴霧し腐食させたものである。また、鉄筋5同士は溶接で電気的に短絡している。
【0049】
本実験例における測定位置、すなわち測定部6の設置位置は、X:150mm×Y:150mm×Z:100mmとし、第二対極4はX:150mm×Y:1450mm×Z:100mm位置に設置した。また、基準電極8はX:1450mm×Y:150mm×Z:100mm位置に設置した。これらの電極の配置は、図7に示すとおりである。
【0050】
本実験例の条件では、前記測定部6と前記第二対極4との所定の間隔、つまり離間距離を1300mmとし、同じく前記測定部6と前記基準電極8との所定の間隔、つまり離間距離を1300mmとした。この離間距離は、コンクリート構造物1の大きさや厚み、鉄筋の数、鉄筋5のかぶり位置、コンクリート強度、コンクリートの弾性係数などが考慮された上で、適宜決定される距離である。
【0051】
そして、測定部6を構成する測定電極7にRE端子を、第一対極3にCE端子をそれぞれ接続し、また、基準電極8にWE_V端子を、第二対極4にWE_I端子を接続する。その後、RE端子とWE_V端子とを接続、すなわち、前記測定電極7と基準電極8とを接続する。また、CE端子とWE_I端子とを接続、すなわち第一対極3と第二対極4とを接続する。そして交流電源9と電流測定器10は、前記CE端子とWE_I端子間に設置され、電位差測定器11は、前記RE端子とWE_V端子間に接続されている。
【0052】
前述した実験例の電極配置に従って得られた各コンクリート試験体の測定結果を図6に示す。なお、図6は本発明による測定結果と共に従来法による測定結果をあわせて表記している。
【0053】
図6は、第一対極3と第二対極4間に各周波数の交流電流(Iobs)を印加毎に、前記測定電極7と基準電極8間の電位差(Vobs)を取得し、数式(1)を用いて、測定結果(Zobs)、すなわちインピーダンスを算出している。該算出したインピーダンスを基にインピーダンススペクトルをプロットしたプロット図である。なお、縦軸は虚部[Ω]を、横軸は実部[Ω]を示している。
【0054】
各コンクリート試験体(非腐食試験体及び腐食試験体)において得られたスペクトルと横軸実部[Ω]との交点はコンクリート抵抗を表しているが、両結果とも非腐食試験体のコンクリート抵抗は300[Ω]程度であり、腐食試験体のコンクリート抵抗は550[Ω]程度であるとの結果が得られた。また、スペクトルの立ち上がりから考察できる鉄筋5の腐食状態は、両結果とも非腐食試験体のスペクトルよりも腐食試験体のスペクトルの方がスペクトルの立ち上がりが小さくなっている(図6参照)。
【0055】
以上から、本発明の測定方法に基づき得られたスペクトルは、従来の方法、つまり埋設鉄筋5に導通させて得られたスペクトルと概ね一致し、コンクリート中鉄筋5との導通することなく、非導通でコンクリート構造物に埋設されたコンクリート中鉄筋5の腐食の有無を評価することができる。また、本発明による測定方法で得られるインピーダンスは、絶対値で算出されるため、仮にコンクリート構造物1に埋設されたコンクリート中鉄筋5がつながっていない状況下においても、測定位置ごとに鉄筋腐食の有無を評価することを可能とするものである。
【符号の説明】
【0056】
1 コンクリート構造物
2 測定面
3 第一対極
4 第二対極
5 鉄筋
6 測定部
7 測定電極
8 基準電極
9 交流電源
10 電流測定器
11 電位差測定器
12 金属線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7