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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149877
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058670
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】百田 怜史
(72)【発明者】
【氏名】古本 有加里
(72)【発明者】
【氏名】市坪 大輝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA15
5F057BB03
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA16
5F057EA17
5F057EA27
5F057EA29
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】高品位の表面を実現し得る研磨用組成物を提供する。
【解決手段】本発明により提供される研磨用組成物は、シリカ粒子(A)と、塩基性化合物(B)と、第1水溶性高分子(C1)と、第2水溶性高分子(C2)と、水(D)と、を含み、上記第1水溶性高分子(C1)は、ポリビニルアルコール系ポリマーである。上記第1水溶性高分子(C1)の所定のエッチングレート測定に基づくエッチングレートER1と上記第2水溶性高分子(C2)の所定のエッチングレート測定に基づくエッチングレートER2の比(ER2/ER1)は、以下の関係:0.6≦ER2/ER1≦10;を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒としてのシリカ粒子(A)と、塩基性化合物(B)と、第1水溶性高分子(C1)と、第2水溶性高分子(C2)と、水(D)と、を含み、
前記第1水溶性高分子(C1)は、ポリビニルアルコール系ポリマーであり、
以下のエッチングレート測定:
(1)水溶性高分子0.105質量%およびアンモニアを含み、残部が水からなり、かつpHが10.4であるエッチングレート測定用薬液LEを用意する;
(2)25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液に1分間浸漬したあと、25℃にてフッ化水素(HF)水溶液(5%)に30秒間浸漬したシリコン単結晶基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する;
(3)前記シリコン単結晶基板を前記薬液LEに25℃にて48時間浸漬する;
(4)前記薬液LEから前記シリコン単結晶基板を取り出し、25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する;
(5)洗浄後の前記シリコン単結晶基板の質量W1を測定する;および
(6)前記W0と前記W1との差および前記シリコン単結晶基板の比重からエッチングレート[μm/h]を算出する;
に基づく前記第1水溶性高分子(C1)のエッチングレートER1および前記第2水溶性高分子(C2)のエッチングレートER2が、以下の関係:
0.6≦ER2/ER1≦10;を満たす、研磨用組成物。
【請求項2】
前記第1水溶性高分子(C1)は、けん化度が70%以上の非変性ポリビニルアルコール;アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマー;およびアルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位を含むポリビニルアルコール系ポリマー;からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記第1水溶性高分子(C1)の含有量は、前記砥粒100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第2水溶性高分子(C2)は、前記第1水溶性高分子(C1)とは異なる化学構造を有するポリビニルアルコール系ポリマー;窒素原子を含有するポリマー;および(メタ)アクリル酸単位を含むポリマー;からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記窒素原子を含有するポリマーは、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーである、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記第2水溶性高分子(C2)の含有量は、前記砥粒100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
界面活性剤(E)をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤(E)はノニオン性界面活性剤である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
シリコン材料からなる表面の研磨に用いられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の研磨用組成物の濃縮液。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して、研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体装置の構成要素等として用いられるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)と仕上げポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。シリコンウェーハ等の半導体基板を研磨する用途で主に使用される研磨用組成物に関する技術文献として、特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6185432号公報
【特許文献2】特許第6348927号公報
【特許文献3】特許第6232243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨用組成物には、研磨対象物を効率よく研磨する研磨能力を有するものが用いられる。例えば、上述のシリコンウェーハ等の半導体基板その他の基板の研磨には、砥粒による機械的研磨作用および塩基性化合物による化学的研磨作用(アルカリエッチング)が利用され、これらの作用により高い加工力が発揮され得る。加工力が高い研磨用組成物によると、製造効率や費用効果を改善することができ、好ましい。かかる研磨において、砥粒としてシリカ粒子を使用することにより、良好な品質を有する研磨面を効率よく実現することができる。
【0005】
また、上記基板の研磨に用いられる研磨用組成物には、例えば、仕上げポリシング工程(特に、シリコンウェーハ等の半導体基板やその他の基板の仕上げポリシング工程)に用いられる研磨用組成物など、研磨後において高品質の表面を実現する性能が求められる。研磨面の表面品質向上は、水溶性高分子を研磨用組成物に含ませ、上記水溶性高分子でアルカリエッチングから基板を保護するなどの方法により実現される。例えば、特許文献1~3には、シリカ粒子、塩基性化合物および水溶性高分子を含む研磨用組成物が開示されている。
【0006】
ところで、研磨用組成物に含ませる水溶性高分子は、その特性に依存して、異なるメカニズムで研磨後の表面品質を向上させる効果を発揮することがある。このため組み合わせによる相乗効果や、あるいはさらに異なる効果を発揮させることを期待して、2種以上の水溶性高分子を研磨用組成物に含ませることがある。しかしながら2種以上の水溶性高分子を含む研磨用組成物において、欠陥(例えばLPD-N(Light Point Defect Non-cleanable))や微小スクラッチ(例えばヘイズライン)を低減させて、研磨後の表面品質を向上させることについては、依然として改良の余地があった。
【0007】
そこで本発明では、少なくとも2種の水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、高品位の表面を実現し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書によると、研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子(A)と、塩基性化合物(B)と、第1水溶性高分子(C1)と、第2水溶性高分子(C2)と、水(D)と、を含む。ここで、上記第1水溶性高分子(C1)はポリビニルアルコール系ポリマーである。上記第1水溶性高分子(C1)および上記第2水溶性高分子(C2)は、該第1水溶性高分子(C1)のエッチングレートER1と該第2水溶性高分子(C2)のエッチングレートER2が以下の関係:0.6≦ER2/ER1≦10;を満たすように選択される。
【0009】
ここで、上記水溶性高分子のエッチングレートとは、アルカリによる腐食(エッチング)から水溶性高分子が研磨対象物表面を保護する性能を評価する指標となるものである。上記水溶性高分子のエッチングレートは、以下のエッチングレート測定に基づいて求められる。
【0010】
[エッチングレート測定]
(1)水溶性高分子0.105質量%およびアンモニアを含み、残部が水からなり、かつpHが10.4であるエッチングレート測定用薬液LEを用意する。
(2)25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液に1分間浸漬したあと、25℃にてフッ化水素(HF)水溶液(5%)に30秒間浸漬したシリコン単結晶基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する。
(3)上記シリコン単結晶基板を上記薬液LEに25℃にて48時間浸漬する;
(4)上記薬液LEから上記シリコン単結晶基板を取り出し、25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する;
(5)洗浄後の上記シリコン単結晶基板の質量W1を測定する。
(6)上記W0と上記W1との差および上記シリコン単結晶基板の比重からエッチングレート[μm/h]を算出する。
【0011】
上記構成の研磨用組成物によると、エッチングから基板を保護する性能が比較的近い第1水溶性高分子と第2水溶性高分子とを併用しているため、2種以上の水溶性高分子を使用するメリットを享受しつつ、研磨対象物であるシリコンウェーハの表面を偏りなく均一に保護することができる傾向にある。上記第1水溶性高分子としてポリビニルアルコール系ポリマーを採用することにより、上記構成による効果はより適切に発揮され得る。上記構成の研磨用組成物によると、研磨後において欠陥(例えばLPD-N)や微小スクラッチ(例えばヘイズライン)が低減した高品質な表面を実現できる傾向にある。
【0012】
なお、上記研磨用組成物に含まれる水溶性高分子のうち、少なくとも2種がいずれもポリビニルアルコール系ポリマーである場合は、上記エッチングレート測定に基づくエッチングレートがより高い方を上記第1水溶性高分子(C1)とみなし、上記エッチングレート測定に基づくエッチングレートがより低い方を上記第2水溶性高分子(C2)とみなすものとする。
【0013】
いくつかの態様において、上記第1水溶性高分子(C1)は、けん化度70%以上の非変性ポリビニルアルコール;アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマー;およびアルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位を含むポリビニルアルコール系ポリマー;からなる群から選択される少なくとも1種である。かかる第1水溶性高分子(C1)を第2水溶性高分子(C2)とともに用いると、研磨後の表面品質がより向上する傾向にある。
【0014】
いくつかの態様において、上記第1水溶性高分子(C1)の含有量は、上記砥粒100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下である。かかる組成によると、ここに開示される技術による効果は好ましく実現され得る。
【0015】
いくつかの態様において、上記第2水溶性高分子(C2)は、上記第1水溶性高分子(C1)とは異なる化学構造を有するポリビニルアルコール系ポリマー;窒素原子を含有するポリマー;および(メタ)アクリル酸単位を含むポリマー;からなる群から選択される少なくとも1種である。かかる第2水溶性高分子(C2)を第1水溶性高分子(C1)とともに用いると、研磨後の表面品質がより向上する傾向にある。
いくつかの態様において、上記窒素原子を含有するポリマーは、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーである。かかるポリマーを第1水溶性高分子(C1)とともに用いると、研磨後の表面品質がより向上する傾向にある。
【0016】
いくつかの態様において、上記第2水溶性高分子(C2)の含有量は、上記砥粒100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下である。かかる組成によると、ここに開示される技術による効果は好ましく実現され得る。
【0017】
いくつかの態様において、研磨用組成物は、界面活性剤(E)をさらに含む。かかる構成によると、研磨後の表面品質はより改善される傾向にある。好ましい一態様において、上記界面活性剤(E)はノニオン性界面活性剤である。
【0018】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコン材料からなる表面の研磨に好ましく用いられ得る。上記研磨用組成物を用いてシリコン材料からなる表面に対し研磨を行うことにより、高品質のシリコン材料からなる表面を効率よく実現することができる。
ここに開示される研磨用組成物は、濃縮液であり得る。ここに開示される研磨用組成物は、濃縮液で製造、流通、保存され得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。砥粒としてのシリカ粒子は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。研磨用組成物に砥粒を含ませることで、砥粒含有による機械的研磨作用に基づき、研磨レートを向上することができる。また、後述するシリコンウェーハ等のようにシリコンからなる表面を有する研磨対象物の研磨(例えば仕上げポリシング)に用いられ得る研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を採用することが特に有意義である。
【0021】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下であり、例えば2.2以下である。シリカ粒子の真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0023】
砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均一次粒子径は特に限定されないが、研磨レート等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、上記平均一次粒子径は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは45nm以下である。より低ヘイズの表面を得やすくする観点から、いくつかの態様において、砥粒の平均一次粒子径は、43nm以下でもよく、40nm未満でもよく、38nm未満でもよく、35nm未満でもよく、32nm未満でもよく、30nm未満でもよい。
【0024】
なお、本明細書において平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径(BET粒子径)をいう。上記比表面積は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定することができる。
【0025】
砥粒(典型的にはシリカ粒子)の平均二次粒子径は特に限定されず、例えば15nm~300nm程度の範囲から適宜選択し得る。研磨レート向上の観点から、上記平均二次粒子径は30nm以上であることが好ましく、35nm以上であることがより好ましい。いくつかの態様において、上記平均二次粒子径は、例えば40nm以上であってもよく、42nm以上でもよく、好ましくは44nm以上でもよい。また、上記平均二次粒子径は、通常、250nm以下であることが有利であり、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。いくつかの好ましい態様において、上記平均二次粒子径は120nm以下であり、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば60nm以下であってもよく、50nm以下であってもよい。
【0026】
なお、本明細書において平均二次粒子径とは、動的光散乱法により測定される粒子径(体積平均粒子径)をいう。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装社製の製品名「ナノトラック UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0027】
シリカ粒子の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状または繭型形状をしたシリカ粒子を好ましく採用し得る。
【0028】
特に限定するものではないが、シリカ粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上であり、1.2以上であってもよい。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、シリカ粒子の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下であり、1.4以下であってもよい。
【0029】
シリカ粒子の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0030】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、シリカ粒子以外の砥粒(以下、「非シリカ砥粒」ともいう。)を含んでもよい。非シリカ砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ここに開示される技術は、砥粒として、実質的にシリカ粒子のみを用いる態様で好ましく実施され得る。そのような観点から、砥粒の総量に占めるシリカ粒子の割合は90重量%以上が適当であり、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上(例えば99~100重量%)である。
【0032】
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、塩基性化合物を含有する。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。研磨用組成物に塩基性化合物を含ませることで、その化学的研磨作用(アルカリエッチング)により、研磨対象物は効率よく研磨され得る。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、リンを含む塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。リンを含む塩基性化合物の例としては、第四級ホスホニウム化合物が挙げられる。このような塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0034】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH、F、Cl、Br、I、ClO 、BH 等であり得る。上記第四級アンモニウム化合物の例として、アニオンがOH-である第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。
【0035】
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも1種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。なかでも水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム)およびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0036】
<水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、研磨対象表面の保護や、研磨後の研磨対象表面の濡れ性向上等に役立ち得る。ここに開示される研磨用組成物は、エッチングに対する研磨対象面の保護性能(基板保護)に関して特定の条件を満たす少なくとも2種の水溶性高分子を含むことを特徴とする。すなわち、ここに開示される研磨用組成物は、第1水溶性高分子と、第2水溶性高分子とを含み、該第1水溶性高分子のエッチングレートER1と、該第2水溶性高分子のエッチングレートER2は、特定の条件を満たす。ここで本明細書において、水溶性高分子のエッチングレートは、以下に示す所定のエッチングレート測定に基づいて求められる。後述する実施例においても同様である。
【0037】
[エッチングレート測定]
(1)水溶性高分子0.105質量%およびアンモニアを含み、残部が水からなり、かつpHが10.4であるエッチングレート測定用薬液LEを用意する。
(2)25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液に1分間浸漬したあと、25℃にてフッ化水素(HF)水溶液(5%)に30秒間浸漬したシリコン単結晶基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する。
(3)上記シリコン単結晶基板を上記薬液LEに室温にて48時間浸漬する。
(4)上記薬液LEから上記シリコン単結晶基板を取り出し、25℃にてNHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する。
(5)洗浄後の上記シリコン単結晶基板の質量W1を測定する。
(6)上記W0と上記W1との差および上記シリコン単結晶基板の比重からエッチングレート[μm/h]を算出する。
【0038】
上記所定のエッチングレート測定に基づくエッチングレートは、砥粒によるメカニカル作用の影響を除いた条件で、水溶性高分子がアルカリによる腐食から研磨対象物表面を保護する性能を評価する指標となり得るものであり、水溶性高分子の特性に依存する。エッチングレートがより低いということは、研磨対象物の表面に水溶性高分子が吸着し、該表面が塩基性化合物等により化学的にエッチングされる事象を抑制する性能、すなわち研磨対象物の表面を保護する性能がより高いことを示す傾向にある。
【0039】
ここに開示される研磨用組成物は、エッチングレートが比較的近い2種類の水溶性高分子を含むことを特徴とする。すなわち、第1水溶性高分子と第2水溶性高分子の基板保護性能が比較的近いことを特徴とする。このような2種の水溶性高分子を含む研磨用組成物によると、研磨対象物の表面を偏りなく均一に保護することができるため、研磨後において欠陥(例えばLPD-N)や微小スクラッチ(例えばヘイズライン)が低減した高品質な表面を実現できる傾向にある。
【0040】
ここに開示される技術における好ましい一態様において、第1水溶性高分子のエッチングレートER1[μm/h]と第2水溶性高分子のエッチングレートER2[μm/h]の比である(ER2/ER1)は、0.6以上10以下である。エッチングレート比(ER2/ER1)が上記範囲であると、第1水溶性高分子と第2水溶性高分子の基板保護性能は比較的近いため、研磨後において欠陥(例えばLPD-N)や微小スクラッチ(例えばヘイズライン)が低減した高品質な表面を実現できる傾向にある。
【0041】
2種の水溶性高分子を併用するメリットを享受しつつ、高品位な表面を実現できる観点から、より好ましい一態様において上記エッチングレート比(ER2/ER1)は0.7以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは0.9以上である。いくつかの態様において、上記エッチングレート比(ER2/ER1)は1.0以上であってもよく、1.5以上であってもよい。また、高品位な表面を実現できる観点から、好ましい一態様において、上記エッチングレート比(ER2/ER1)は8.0以下であり、6.0以下であってもよく、4.0以下であってもよく、3.0以下であってもよく、2.0以下であってもよい。
【0042】
水溶性高分子のエッチングレートは、水溶性高分子の種類や分子量等によって制御することができる。
【0043】
<第1水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、第1水溶性高分子としてポリビニルアルコール系ポリマーを含む。ポリビニルアルコール系ポリマーを含む研磨用組成物によると、高品質な研磨面が得られやすい。特に限定的に解釈されるものではないが、ポリビニルアルコール系ポリマーは、基板表面に対して作用することで基板表面を保護していると考えられ、これにより研磨面品質改善(具体的にはヘイズ低減)に寄与していると考えられる。第1水溶性高分子としてのポリビニルアルコール系ポリマーを、第2水溶性高分子と組み合わせて使用することにより、各水溶性高分子の異なる作用に基づくメリットを享受しつつ、高い表面品質を効果的に実現することができる。
【0044】
本明細書において、ポリビニルアルコール系ポリマーとは、その繰返し単位としてビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)を含むポリマーを指す。ポリビニルアルコール系ポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、交互共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、1種類の非VA単位のみを含んでもよく、2種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0045】
上記ポリビニルアルコール系ポリマーは、非変性ポリビニルアルコール(非変性PVA)であってもよく、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であってもよい。ここで非変性PVAとは、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成し、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)およびVA単位以外の繰返し単位を実質的に含まないポリビニルアルコール系ポリマーをいう。上記非変性PVAのけん化度は、例えば60%以上であってよく、水溶性の観点から70%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上でもよい。いくつかの態様において、非変性PVAのけん化度は98%以上(完全けん化)であってもよい。
【0046】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と、オキシアルキレン基、カルボキシ基、(ジ)カルボン酸基、(ジ)カルボン酸エステル基、フェニル基、ナフチル基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する非VA単位とを含む変性PVAであってもよい。また、変性PVAに含まれ得る非VA単位としては、例えば後述するN-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位、エチレンに由来する繰返し単位、アルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルに由来する繰返し単位、(ジ)アセトン化合物に由来する繰返し単位等であってもよいが、これらに限定されない。上記N-ビニル型のモノマーの一好適例として、N-ビニルピロリドンが挙げられる。上記N-(メタ)アクリロイル型のモノマーの一好適例として、N-(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。上記アルキルビニルエーテルは、例えばプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテルであり得る。上記炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルは、例えばプロパン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等の、炭素原子数3以上7以下のモノカルボン酸のビニルエステルであり得る。上記(ジ)アセトン化合物の好適例として、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセチルアセトンが挙げられる。
【0047】
また、いくつかの好ましい態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーとして、アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーが用いられる。アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーに含まれるVA単位の一部がアセタール化された変性PVAが挙げられる。上記ポリビニルアルコール系ポリマーに含まれるVA単位の一部がアセタール化された変性PVA(アセタール化PVA(ac-PVA))は、ポリビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基の一部をアルデヒド化合物またはケトン化合物と反応させ、アセタール化することにより得ることができる。典型的には、アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーはポリビニルアルコール系ポリマーとアルデヒド化合物とのアセタール化反応により得られる。いくつかの好ましい態様において、上記アルデヒド化合物の炭素数は1~7であり、より好ましくは2~7である。
【0048】
上記アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、t-ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド等の直鎖または分岐アルキルアルデヒド類;シクロヘキサンカルバルデヒド、ベンズアルデヒド等の脂環式または芳香族アルデヒド類;が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。なかでも、水に対する溶解性が高くアセタール化反応が容易である点から、直鎖または分岐アルキルアルデヒド類であることが好ましく、そのなかでもアセトアルデヒド、n-プロピルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、n-ペンチルアルデヒドであることがより好ましい。
【0049】
アルデヒド化合物としては、上記の他にも、2-エチルヘキシルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド等の炭素数8以上のアルデヒド化合物を用いてもよい。
【0050】
アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分であるVA単位と、次の一般式(1)により表されるアセタール化された構造単位(以下、「VAC単位」ともいう。)とを含む。
【0051】
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子、または、直鎖または分枝アルキル基であり、該アルキル基は官能基によって置換されていてもよい。)
【0052】
いくつかの好ましい態様において、上記式(1)中のRは水素原子または炭素数1~6の直鎖または分枝アルキル基である。Rは、これらのうち1種でもよく、2種以上が組み合わさっていてもよい。ヘイズ低減性能向上の観点から、Rは炭素数1~6の直鎖または分枝アルキル鎖であることが好ましい。
【0053】
ヘイズ低減性能の向上の観点から、アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーのアセタール化度は1モル%以上とすることができ、5モル%以上でもよく、10モル%以上であることが好ましく、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、特に好ましくは25モル%以上(例えば27モル%以上)である。親水性向上の観点から、アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーのアセタール化度は60モル%未満とすることが好ましく、さらには50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、特に好ましくは35モル%以下(例えば33モル%以下)である。なお、本明細書において、「アセタール化度」とは、アセタール化ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位に占めるアセタール化された構造単位(VAC単位)の割合のことを指す。
【0054】
また、ポリビニルアルコール系ポリマーとして、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基が導入されたカチオン変性ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するカチオン性基が導入されたものが挙げられる。また、ビニルアルコール系ポリマーとして、非VA単位が化学式:-CH-CH(CR(OR)-CR(OR)-R)-により表される構造部分を有するものであってもよい。ここでR~Rはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはR-CO-(式中、Rはアルキル基を示す。)を示す。例えば、上記化学式中のR~Rの少なくとも1つが有機基である場合、当該有機基は、炭素数1以上8以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基等であってもよい。また、上記化学式中のRは、炭素数1以上8以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり得る。
【0055】
いくつかの態様において、上記変性PVAとして、側鎖に1,2-ジオール構造を有する変性PVAが用いられる。例えば、上記変性PVAとして、上記R~Rが水素原子である非VA単位を含む変性PVA(ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体(BVOH))が好ましく採用され得る。
【0056】
ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーに非VA単位を含有させないことをいい、典型的には全繰返し単位のモル数に占める非VA単位のモル数の割合が2%未満(例えば1%未満)であり、0%である場合を包含する。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0057】
ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50重量%以上(例えば50重量%超)であってよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上、または95重量%以上、または98重量%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいい、典型的にはポリビニルアルコール系ポリマーにおける非VA単位の含有量が2重量%未満(例えば1重量%未満)であることをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量は、例えば95重量%以下であってよく、90重量%以下でもよく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよい。
【0058】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量が50重量%より高いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50重量%より低い(すなわち、非VA単位の含有量が50重量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0059】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。
【0060】
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100重量%が非VA単位であってもよい。
【0061】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むポリビニルアルコール系ポリマーの例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のポリビニルアルコール系ポリマーを用いることができる。
【0062】
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖;N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸ビニルに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖;スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖;オキシアルキレン単位を主繰返し単位とするポリマー鎖;等が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0063】
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0064】
この明細書において、N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50重量%超(例えば70重量%以上、または85重量%以上、または95重量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0065】
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0066】
この明細書において、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0067】
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0068】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキシドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。2種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキシドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、交互共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0069】
ポリマー鎖Bのさらに他の例として、アルキルビニルエーテル(例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、モノカルボン酸ビニルエステル(例えば、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、カチオン性基(例えば、第四級アンモニウム構造を有するカチオン性基)が導入されたポリマー鎖、等が挙げられる。
【0070】
ここに開示される技術におけるいくつかの態様において、第1水溶性高分子としてのポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位および非VA単位を含む共重合体である変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。また、第1水溶性高分子としての変性ポリビニルアルコール系ポリマーのけん化度は、通常は50モル%以上であり、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、例えば75モル%以上である。
【0071】
第1水溶性高分子(具体的にはポリビニルアルコール系ポリマー)の重量平均分子量(Mw)は、例えば、100×10以下とすることができ、60×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、30×10以下であってもよく、好ましくは20×10以下、例えば10×10以下であってもよく、8×10以下でもよく、5×10以下でもよく、3×10以下でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwが小さくなると、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散安定性は向上する傾向にある。また、研磨表面を好適に保護して表面品質を維持または向上する観点から、上記Mwは例えば0.2×10以上であってもよく、通常は0.5×10以上であることが好ましい。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwの増大につれて、研磨対象物の保護や濡れ性向上の効果は高まる傾向にある。そのような観点から、いくつかの態様において、上記Mwは0.8×10以上が適当であり、好ましくは1.0×10以上であり、2×10以上であってもよく、3×10以上でもよく、例えば4×10以上でもよく、5×10以上でもよい。
【0072】
水溶性高分子のMwとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキシド換算)から算出される分子量を採用することができる。上記第1水溶性高分子、後述の第2水溶性高分子のMwについても同様である。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定は、例えば下記の条件で行うことができる。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0073】
第1水溶性高分子(具体的にはビニルアルコール系アルコール)のエッチングレートER1は、第2水溶性高分子のエッチングレートER2との関係における上述する特定の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。いくつかの態様において、基板保護性の観点から、第1水溶性高分子のエッチングレートER1は10μm/h以下であることが好ましく、より好ましくは5μm/h以下であり、さらに好ましくは4μm/h以下であり、3.5μm/h以下であってもよい。研磨レート向上の観点からは、第1水溶性高分子のエッチングレートER1は、通常1.0μm/h以上であることが適切であり、好ましくは1.5μm/h以上であり、より好ましくは1.8μm/h以上であり、さらに好ましくは2.0μm/h以上である。いくつかの態様において、第1水溶性高分子のエッチングレートER1は、2.5μm/h以上であってもよく、2.8μm/h以上でもよい。
【0074】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物における第1水溶性高分子(具体的にはポリビニルアルコール系ポリマー)の含有量は、砥粒(典型的にはシリカ粒子)100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、欠陥低減等の観点から0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、1.5重量部以上であってもよく、2重量部以上でもよく、3重量部以上でもよく、3.5重量部以上でもよい。砥粒100重量部に対する第1水溶性高分子の含有量は、例えば50重量部以下であってもよく、30重量部以下でもよい。研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対する第1水溶性高分子の含有量は、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下であり、3重量部未満であってもよく、2.5重量部以下でもよく、2重量部以下でもよい。第1水溶性高分子(具体的にはポリビニルアルコール系ポリマー)の使用量を上記の範囲から適切に設定することにより、研磨後の高い表面品質を実現することができる。
【0075】
<第2水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、第1水溶性高分子(具体的にはポリビニルアルコール系ポリマー)の他に、第2水溶性高分子を含む。第2水溶性高分子は、典型的には、第1水溶性高分子とは異なる化学構造を有するポリマーである。第2水溶性高分子は、第1水溶性高分子とエッチングレートに関して上述する特定の条件を満たす限りにおいて、特に限定されず、種々のものが用いられ得る。
【0076】
第2水溶性高分子としては、分子中に、水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド構造、イミド構造、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造等を含む化合物が挙げられる。第2水溶性高分子としては、例えばセルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、窒素原子を含有するポリマー、(メタ)アクリル酸単位を含むポリマー等が用いられ、窒素原子を含有するポリマーの一態様として、N-ビニル型ポリマー、N-(メタ)アクリロイル型ポリマー等が用いられ得る。第2水溶性高分子は、天然物由来のポリマーであってもよく、合成ポリマーであってもよい。
【0077】
いくつかの態様では、第2水溶性高分子として天然物由来のポリマーが用いられる。天然物由来のポリマーとしては、セルロース誘導体やデンプン誘導体が挙げられる。
【0078】
いくつかの態様では、第2水溶性高分子としてセルロース誘導体が用いられる。ここで、セルロース誘導体は、主たる繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもHECが好ましい。
【0079】
他のいくつかの態様では、第2水溶性高分子としてデンプン誘導体が用いられる。デンプン誘導体は、主繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーであり、例えばアルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0080】
他のいくつかの好ましい態様では、第2水溶性高分子として合成ポリマーが用いられる。ここに開示される表面品位の改善効果は、第2水溶性高分子として合成ポリマーを用いる態様において好ましく発揮される。
【0081】
いくつかの態様では、第2水溶性高分子としてオキシアルキレン単位を含むポリマーが用いられる。オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)や、エチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)またはブチレンオキシド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキシド(PPO)ブロックとを含むジブロック共重合体、またはトリブロック共重合体等であり得る。上記トリブロック共重合体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック共重合体が含まれる。通常は、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体がより好ましい。
【0082】
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0083】
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0084】
いくつかの好ましい態様では、第2水溶性高分子としてポリビニルアルコール系ポリマーが用いられる。なお、上記研磨用組成物に2種以上のビニルアルコール系ポリマーが含まれる場合は、上記エッチングレート測定に基づくエッチングレートが高い方を第1水溶性高分子とし、上記エッチングレート測定に基づくエッチングレートが低い方を第2水溶性高分子とするものとする。
【0085】
第2水溶性高分子としてのポリビニルアルコール系ポリマーとしては、第1水溶性高分子として好ましく用いられ得るポリマーとして挙げられたものを、好ましく用いることができる。好ましい一態様において、第2水溶性高分子として、N-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を非VA単位として含む変性PVAを用いることができる。他の態様において、第2水溶性高分子として好ましく用いられ得るポリビニルアルコール系ポリマーについては、説明が重複するため省略する。
【0086】
他のいくつかの態様においては、第2水溶性高分子としてN-ビニル型ポリマーが用いられ得る。N-ビニル型ポリマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。このようなポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)等が含まれる。
【0087】
N-ビニルラクタム型モノマー(すなわち、一分子内にラクタム構造とN-ビニル基とを有する化合物)の具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマー鎖を含むブロック共重合体、交互共重合体やグラフト共重合体等が挙げられる。
N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0088】
他のいくつかの態様においては、第2水溶性高分子としてN-(メタ)アクリロイル型ポリマーが用いられ得る。N-(メタ)アクリロイル型ポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル型とは、アクリロイル型およびメタクリロイル型を包括的に指す意味である。また、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。
【0089】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。他には、例えば、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを包括的に指す意味である。
【0090】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-アクリロイルモルホリン、N-アクリロイルチオモルホリン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、アクリロイルモルホリン系ポリマー(PACMO)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーの典型例として、N-アクリロイルモルホリン(ACMO)の単独重合体およびACMOの共重合体(例えば、ACMOの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。第2水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されていてもよい。
【0091】
いくつかの態様では、第2水溶性高分子としてカルボン酸系ポリマーが用いられる。カルボン酸系ポリマーの例としては、マレイン酸単位を含むポリマー、(メタ)アクリル酸単位を含むポリマー等が挙げられる。マレイン酸単位を含むポリマーの例としては、スチレン-マレイン酸共重合体またはその塩、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレンスルホン酸-マレイン酸共重合体またはその塩、スチレンスルホン酸塩とマレイン酸との共重合体、マレイン酸-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸単位を含むポリマーの例としては、ポリアクリル酸またはその塩、スチレン-アクリル酸共重合体またはその塩、スチレンスルホン酸-アクリル酸共重合体またはその塩、スチレンスルホン酸塩とアクリル酸との共重合体、アクリル酸-酢酸ビニル共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。
【0092】
第2水溶性高分子がポリビニルアルコール系ポリマーである場合において、第2水溶性高分子のMwは、例えば、100×10以下とすることができ、60×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、30×10以下であってもよく、好ましくは20×10以下、例えば10×10以下であってもよく、8×10以下でもよく、5×10以下でもよく、3×10以下でもよい。また、研磨表面を好適に保護して表面品質を維持または向上する観点から、上記Mwは例えば0.2×10以上であってもよく、通常は0.5×10以上であることが好ましい。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwの増大につれて、研磨対象物の保護や濡れ性向上の効果は高まる傾向にある。そのような観点から、いくつかの態様において、上記Mwは0.8×10以上が適当であり、好ましくは1.0×10以上であり、1.2×10以上であってもよい。
【0093】
第2水溶性高分子がN-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーである場合において、第2水溶性高分子のMwは、例えば、100×10以下とすることができ、50×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、30×10以下であってもよく、10×10以下でもよく、8×10以下でもよく、6×10以下でもよい。また、表面品質を向上する観点から、上記Mwは、例えば1×10以上であってもよく、2×10以上でもよく、3×10以上(例えば、4×10以上)でもよい。Mwの高い第2水溶性高分子を使用することにより、高い表面品質が得られやすい。
【0094】
第2水溶性高分子がN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーである場合において、第2水溶性高分子のMwは、例えば、100×10以下とすることができ、70×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、60×10以下であってもよく、50×10以下でもよく、35×10以下でもよく、35×10未満でもよく、30×10以下でもよく、20×10以下でもよい。また、表面品質を向上する観点から、上記Mwは、例えば1.0×10以上であってもよく、5×10以上でもよく、10×10以上(例えば、10×10超)でもよい。Mwの高い第2水溶性高分子を使用することにより、高い表面品質が得られやすい。
【0095】
第2水溶性高分子が(メタ)アクリル酸単位を含むポリマーである場合において、第2水溶性高分子のMwは、例えば、800×10以下とすることができ、500×10以下が適当である。濃縮効率等の観点から、上記Mwは、300×10以下であってもよく、好ましくは200×10以下、例えば175×10以下であってもよく、150×10以下でもよく、140×10以下でもよい。また、研磨表面を好適に保護して表面品質を維持または向上する観点から、上記Mwは例えば20×10以上であってもよく、50×10以上でもよく、100×10以上(例えば、130×10以上)でもよい。Mwの高い第2水溶性高分子を使用することにより、高い表面品質が得られやすい。
【0096】
第2水溶性高分子がオキシアルキレン単位を含むポリマーである場合において、第2水溶性高分子のMwは、10×10以下とすることができ、5×10以下でもよく、3×10以下でもよく、2×10以下でもよい。上記Mwは、1×10以上とすることができ、1.2×10以上でもよく、1.5×10以上でもよい。
【0097】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記第2水溶性高分子として、上記第1水溶性高分子のMwよりも高いMwを有するものが好ましく用いられ得る。上記相対的Mwを有する2種の水溶性高分子のMwを使用することにより、研磨後の高い表面品質を好ましく実現することができる。
【0098】
第2水溶性高分子のエッチングレートER2は、第1水溶性高分子のエッチングレートER1との関係における上述する特定の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。いくつかの態様において、基板保護性の観点から、第2水溶性高分子のエッチングレートER2は、例えば20μm/h以下とすることができ、15μm/h以下であることが好ましく、10μm/h以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5μm/h以下であり、特に好ましくは4μm/h以下であり、3.5μm/h以下であってもよい。研磨レート向上の観点からは、第2水溶性高分子のエッチングレートER2は、通常1.0μm/h以上であることが適切であり、好ましくは1.5μm/h以上であり、より好ましくは1.8μm/h以上であり、さらに好ましくは2.0μm/h以上である。いくつかの態様において、第2水溶性高分子のエッチングレートER2は、2.4μm/h以上であってもよく、2.8μm/h以上でもよい。
【0099】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物における第2水溶性高分子の含有量は、砥粒(典型的にはシリカ粒子)100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、ヘイズ低減等の観点から0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、2重量部以上であってもよい。また、砥粒100重量部に対する第2水溶性高分子の含有量は、例えば50重量部以下であってもよく、30重量部以下でもよい。研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対する第2水溶性高分子の含有量は、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下であり、例えば3.5重量部以下であってもよい。第2水溶性高分子の使用量を上記の範囲から適切に設定することにより、高い表面品質を得ることができる。
【0100】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の合計含有量は、砥粒(典型的にはシリカ粒子)100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、表面品質の改善等の観点から0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上であり、特に好ましくは4重量部以上であり、6重量部以上であってもよい。また、砥粒100重量部に対する上記水溶性高分子の合計含有量は、例えば50重量部以下であってもよく、30重量部以下でもよい。研磨用組成物の分散安定性等の観点から、いくつかの態様において、砥粒100重量部に対する上記水溶性高分子の合計含有量は、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは12重量部以下であり、10重量部以下(例えば10重量部未満)であってもよい。
【0101】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記第1水溶性高分子の含有量W1に対する第2水溶性高分子の含有量W2の比(W2/W1)は、重量基準で例えば0.01以上であり、0.1以上が適当であり、好ましくは0.2以上であり、0.4以上であってもよく、0.6以上でもよく、0.8以上でもよい。また、上記比(W2/W1)の上限値は、重量基準で例えば10以下であり、5以下が適当であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは2未満であり、1以下(1未満)であってもよい。上記比(W2/W1)を上記の範囲で適切に設定することにより、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮され得る。
【0102】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、任意成分として、上記第1水溶性高分子および第2の水溶性高分子以外の水溶性高分子(以下、任意水溶性高分子ともいう。)を含んでもよい。
【0103】
研磨用組成物が、任意水溶性高分子を含む態様において、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子全体に占める任意水溶性高分子の含有比率は、特に限定されないが、第1水溶性高分子および第2水溶性高分子の作用を効果的に発揮する観点から、凡そ50重量%以下(例えば50重量%未満)とすることが適当であり、30重量%以下であってもよく、10重量%未満でもよく、3重量%未満でもよく、1重量%未満でもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物が任意水溶性高分子を実質的に含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0104】
<界面活性剤>
いくつかの態様において、研磨用組成物は、少なくとも1種類の界面活性剤を含むことが好ましい。研磨用組成物に界面活性剤を含有させることにより、研磨面のヘイズを低減し得る。ここに開示される技術によると、上記水溶性高分子の組合せと界面活性剤とを含む組成で、研磨面の品質をより改善させることができる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0105】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)、EOとPOとのランダム共重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、EO付加モル数が1~10程度(例えば3~8程度)のものを好ましく採用することができる。
【0106】
いくつかの態様において、ノニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。ノニオン性界面活性剤を使用することにより、ヘイズ低減性能がさらに向上する傾向がある。
【0107】
界面活性剤の分子量は、例えば1×10未満であり、濾過性や洗浄性等の観点から9500以下が好ましく、例えば9000未満でもよい。また、界面活性剤の分子量は、界面活性能等の観点から、通常、200以上であることが適当であり、ヘイズ低減効果等の観点から250以上(例えば300以上)であることが好ましい。界面活性剤の分子量のより好ましい範囲は、該界面活性剤の種類によっても異なり得る。例えば、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる場合、その分子量は、例えば2000未満であることが好ましく、1900以下(例えば1800未満)であることがより好ましく、1500以下であることがさらに好ましく、1000以下(例えば500以下)であってもよい。また、例えば界面活性剤としてEOとPOとのブロック共重合体を用いる場合、その重量平均分子量は、例えば500以上であってよく、1000以上であってもよく、さらには1500以上であってもよく、2000以上、さらには2500以上であってもよい。上記重量平均分子量の上限は、例えば1×10未満であり、9500以下が好ましく、例えば9000未満でもよく、7000未満でもよく、5000未満でもよい。
【0108】
界面活性剤の分子量としては、化学式から算出される分子量を採用してもよく、あるいは、GPCにより求められる重量平均分子量の値(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用してもよい。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの場合、化学式から算出される分子量を採用することが好ましく、EOとPOとのブロック共重合体の場合、上記GPCにより求められる重量平均分子量を採用することが好ましい。
【0109】
特に限定するものではないが、研磨用組成物が界面活性剤を含む態様において、界面活性剤の含有量は、洗浄性等の観点から、通常は、砥粒(典型的にはシリカ粒子)100重量部に対して、20重量部以下とすることが適当であり、10重量部以下が好ましく、6重量部以下(例えば3重量部以下)がより好ましい。界面活性剤の使用効果をよりよく発揮させる観点から、砥粒100重量部に対する界面活性剤含有量は、0.001重量部以上が適当であり、0.01重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上であってもよい。
【0110】
<水>
ここに開示される研磨用組成物に含まれる水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。なお、ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(例えば99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0111】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、例えば有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えばシリコンウェーハの仕上げポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0112】
有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、イタコン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グリコール酸、マロン酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、ヒドロキシエチリデン二リン酸(HEDP)、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸、ニトリロトリス(メチレンリン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等の有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、塩酸、リン酸、硫酸、ホスホン酸、硝酸、ホスフィン酸、ホウ酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が挙げられる。
【0113】
上記キレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。キレート剤の好適例としては、例えばエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。上記防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0114】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該研磨用組成物が基板(例えばシリコンウェーハ)に供給されることで該基板の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.001モル/L以下、好ましくは0.0005モル/L以下、より好ましくは0.0001モル/L以下、さらに好ましくは0.00005モル/L以下、特に好ましくは0.00001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
【0115】
<pH>
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に限定されず、基板等に応じて適当なpHが採用され得る。いくつかの態様において、研磨用組成物のpHは8.0以上が適当であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上である。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。一方、シリカ粒子の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、通常、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。
【0116】
なお、ここに開示される技術において、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-72))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0117】
<研磨液>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で基板の表面上に供給され、その基板の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0118】
研磨液における砥粒(典型的にはシリカ粒子)の含有量は特に制限されず、例えば0.005重量%以上であり、0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03重量%以上、さらに好ましくは0.06重量%以上である。砥粒含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下であり、例えば1重量%以下であってもよく、0.5重量%以下でもよく、0.4重量%以下でもよい。これにより、表面品質の維持を実現しやすくなる。
【0119】
研磨液における塩基性化合物の含有量は、特に制限されない。研磨レート向上等の観点から、通常は、上記含有量を0.0005重量%以上とすることが適当であり、0.001重量%以上とすることが好ましく、0.003重量%以上とすることがさらに好ましい。また、表面品質向上(例えばヘイズ低減)等の観点から、上記含有量は、0.1重量%未満とすることが適当であり、0.05重量%未満とすることが好ましく、0.03重量%未満(例えば0.025重量%未満、さらには0.01重量%未満)とすることがより好ましい。
【0120】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨液における第1水溶性高分子(具体的にはポリビニルアルコール系ポリマー)の含有量W1は、表面品質向上等の観点から、例えば0.0001重量%以上であってよく、通常は0.0005重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.001重量%以上であり、例えば0.002重量%以上であってもよく、0.003重量%以上でもよい。上記第1水溶性高分子の含有量W1の上限は特に限定されず、例えば0.05重量%以下とすることができる。濃縮液段階での安定性や研磨レート、洗浄性等の観点から、いくつかの態様において、第1水溶性高分子の含有量W1は、好ましくは0.03重量%以下、より好ましくは0.015重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下である。ここに開示される研磨液は、例えば第1水溶性高分子の含有量W1が、0.008重量%以下、0.006重量%以下または0.004重量%以下である態様でも実施され得る。
【0121】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨液における第2水溶性高分子の含有量W2は、表面品質向上等の観点から、例えば0.0001重量%以上であってよく、通常は0.0005重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.001重量%以上であり、0.002重量%以上であってもよく、0.003重量%以上であってもよく、0.005重量%以上でもよい。上記第2水溶性高分子の含有量W2の上限は特に限定されず、例えば0.1重量%以下とすることができる。濃縮液段階での安定性や研磨レート、洗浄性等の観点から、いくつかの態様において、第2の水溶性高分子の含有量W2は、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.02重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下である。
【0122】
研磨液における水溶性高分子の合計含有量は、特に限定されず、いくつかの態様において、例えば0.0001重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、上記合計含有量は、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上、さらに好ましくは0.002重量%以上であり、例えば0.005重量%以上であってもよい。また、上記合計含有量の上限は、例えば0.5重量%以下であり、研磨レート等の観点から、0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下、さらには0.015重量%以下)とすることがさらに好ましい。
【0123】
界面活性剤を含む場合、研磨液における界面活性剤の含有量(2種以上の界面活性剤を含む場合にはそれらの合計含有量)は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲であれば特に制限はない。通常、上記界面活性剤の含有量は、洗浄性等の観点から、例えば0.00001重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい含有量は0.0001重量%以上であり、より好ましくは0.0003重量%以上、さらに好ましくは0.0005重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量を0.1重量%以下とすることが好ましく、0.01重量%以下とすることがより好ましく、0.005重量%以下(例えば0.002重量%以下)とすることがさらに好ましい。
【0124】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、基板に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨液を基板に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0125】
研磨用組成物(すなわち濃縮液)を希釈して研磨に用いる場合、上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば25重量%以下とすることができる。研磨用組成物の分散安定性や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下である。いくつかの好ましい態様において、砥粒の含有量を10重量%以下としてもよく、5重量%以下としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液における砥粒の含有量は、例えば0.1重量%以上とすることができ、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。
【0126】
いくつかの態様において、上記濃縮液における塩基性化合物の含有量は、例えば、0.25重量%未満とすることができる。保存安定性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは0.15重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液における塩基性化合物の含有量は、例えば0.005重量%以上とすることができ、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.05重量%以上である。
【0127】
いくつかの態様において、上記濃縮液における水溶性高分子の合計含有量は、例えば、3重量%以下とすることができる。研磨用組成物の濾過性や洗浄性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以下である。また、上記含有量は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、通常は0.001質量%以上であることが適当であり、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上である。
【0128】
研磨用組成物に界面活性剤が含まれる態様において、上記濃縮液における界面活性剤の含有量は、例えば0.25重量%以下とすることができ、好ましくは0.15重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下であり、0.05重量%以下であってもよく、0.025重量%以下でもよい。また、上記濃縮液における界面活性剤の含有量は、例えば0.0001重量%以上とすることができ、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.01重量%以上である。
【0129】
<研磨用組成物の調製>
ここに開示される技術において使用される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0130】
研磨用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0131】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する基板の研磨に適用され得る。基板の材質は、例えば、シリコン材料、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された基板であってもよい。基板の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する基板の研磨、もしくは基板の端部の研磨(例えばウェーハエッジの研磨)に適用され得る。
【0132】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコン材料からなる表面の研磨(典型的にはシリコンウェーハの研磨)に特に好ましく使用され得る。シリコン材料の具体例としては、シリコン単結晶、アモルファスシリコンおよびポリシリコン等が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、シリコン単結晶からなる表面の研磨(例えばシリコンウェーハの研磨)に特に好ましく使用され得る。
【0133】
ここに開示される研磨用組成物は、基板(例えばシリコンウェーハ)のポリシング工程に好ましく適用することができる。基板には、ここに開示される研磨用組成物によるポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0134】
ここに開示される研磨用組成物は、基板(例えばシリコンウェーハ)の仕上げ工程またはその直前のポリシング工程に用いることが効果的であり、仕上げポリシング工程における使用が特に好ましい。ここで、仕上げポリシング工程とは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。ここに開示される研磨用組成物は、また、仕上げポリシングよりも上流のポリシング工程(粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。)、例えば仕上げポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0135】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm~100nmの表面状態に調製されたシリコンウェーハのポリシング(典型的には仕上げポリシングまたはその直前のポリシング)への適用が効果的である。仕上げポリシングへの適用が特に好ましい。基板の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。
【0136】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、基板の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて基板としてのシリコンウェーハを研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0137】
次いで、その研磨液を基板に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨を行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て基板の研磨が完了する。
【0138】
上記研磨工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0139】
ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された基板は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとHとHOとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0140】
上述したように、ここに開示される技術には、上述したいずれかの研磨方法によるポリシング工程(好ましくは仕上げポリシング)を含む研磨物の製造方法(例えば、シリコンウェーハの製造方法)および該方法により製造された研磨物(例えばシリコンウェーハ)の提供が含まれ得る。
【実施例0141】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0142】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子、界面活性剤および脱イオン水を混合して、各例に係る研磨用組成物の濃縮液を調製した。砥粒としては平均一次粒子径25nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としてはアンモニアを使用した。水溶性高分子としては、Mwが約1.3×10のアセタール化ポリビニルアルコール(ac-PVA;第1水溶性高分子、アセタール化度24モル%)と、ビニルアルコール単位とN-ビニルピロリドン単位とを90:10のモル比で有し、Mwが約1.4×10であるランダム共重合体(PVA-PVP;第2水溶性高分子)を使用した。界面活性剤としては、エチレンオキサイド付加モル数5のポリオキシエチレンデシルエーテル(C10EO5)を使用した。得られた研磨用組成物の濃縮液を脱イオン水で体積比40倍に希釈することにより、砥粒の濃度を0.08%、塩基性化合物の濃度を0.005%、ac-PVAの濃度を0.003%、PVA-PVPの濃度を0.001%、C10EO5の濃度を0.0006%とする各例に係る研磨用組成物を得た。
【0143】
(実施例2)
第2水溶性高分子としてMwが約4.9×10のポリ(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)(PHEAA)を使用した。またPHEAAの濃度を0.002%とした。その他は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0144】
(実施例3)
第1水溶性高分子としてMwが約6000のアルキル基変性PVA(疎水変性PVA)を使用し、第2水溶性高分子として約10.5×10のポリアクリロイルモルホリン(PACMO)を使用した。またPACMOの濃度を0.004%とした。その他は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。本例で使用したアルキル基変性PVAは、ビニルアルコール単位とn-プロピルビニルエーテル単位とを85:15のモル比で有するランダム共重合体である。
【0145】
(実施例4)
第2水溶性高分子としてMwが約136×10のポリアクリル酸(PAA)を使用した。またPAAの濃度を0.005%とした。その他は実施例3と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0146】
(実施例5)
第1水溶性高分子としてMwが約7.0×10であり、完全けん化(けん化度98%以上)のポリビニルアルコール(PVA)を使用した。またPVAの濃度を0.003%とした。その他は実施例4と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0147】
(比較例1)
第2水溶性高分子としてポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)を使用した。またPVMEの濃度を0.003%とした。その他は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0148】
各例で用いた第1水溶性高分子および第2水溶性高分子のエッチングレートをエッチングレート測定に基づいて求めた。得られた結果を表1に示す。
【0149】
<シリコンウェーハの研磨>
基板として、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、COP(Crystal Originated Particle:結晶欠陥)フリー)を下記の研磨条件1により予備ポリシングしたシリコンウェーハを用意した。予備ポリシングは、脱イオン水中に砥粒(平均一次粒子径が35nmのコロイダルシリカ)0.6%および水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)0.08%を含む研磨液を使用して行った。
【0150】
[研磨条件1]
研磨装置:岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤の回転速度:20rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨液の供給レート:1.0L/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2min
【0151】
上記で調製した各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、上記予備ポリシング後のシリコンウェーハを下記の研磨条件2により研磨した。
【0152】
[研磨条件2]
研磨装置:岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤の回転速度:52rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:50rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製 製品名「POLYPAS275NX」
研磨液の供給レート:1.5L/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:4min
【0153】
研磨後のシリコンウェーハを研磨装置から取り外し、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、超音波発振器を取り付けた第1洗浄槽を用意し、該第1洗浄槽に上記洗浄液を収容して70℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを洗浄槽に6分浸漬した。その後、25℃の脱イオン水(DIW)を入れた第2洗浄槽に15分浸漬したのち、再び第1洗浄槽に6分、第2洗浄槽に16分浸漬した後、シリコンウェーハを乾燥させた。
【0154】
<LPD-Nおよびヘイズライン測定>
洗浄後のシリコンウェーハ表面に存在するLPD-Nの個数およびヘイズラインを、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「Surfscan SP5」を用いて、同装置のDCモードで計測した。計測されたLPD-Nの個数を表1に示した。また計測されたヘイズラインを、比較例1のヘイズラインを10000とする相対値に換算した値を表1に示した。なお、LPD-NとはLight Point Defect Non-cleanableのことである。またヘイズラインとは、上記検査装置により測定される、所定の測定面積内に存在する微小スクラッチの合計面積のことを指す。
【0155】
各例の概要および評価結果を表1に示す。なお、表中、「-」は測定不可を示す。
【0156】
【表1】
【0157】
表1に示されるように、シリカ粒子と、塩基性化合物と、水とを含む研磨用組成物において、第1水溶性高分子としてのポリビニルアルコール系ポリマーと、該第1水溶性高分子とは化学構造が異なる第2水溶性高分子とを含み、第1水溶性高分子のエッチングレートER1と第2水溶性高分子のエッチングレートER2の比(ER2/ER1)が0.6以上10以下である研磨用組成物を使用した実施例1~5では、上記エッチングレート比(ER2/ER1)が0.5である研磨用組成物を使用した比較例1に比べて、LPD-Nの数およびヘイズラインのいずれもが顕著に低減しており、高い表面品質が実現した。
【0158】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。