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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149916
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッドとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20231005BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/16 501
B41J2/14
B41J2/14 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058728
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】金松 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 牧人
(72)【発明者】
【氏名】甘利 清志
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 秀之
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF71
2C057AG04
2C057AG99
2C057AN07
2C057AP82
2C057AP90
2C057BF04
2C057DB07
(57)【要約】
【課題】弁体をノズル孔に対して高精度に位置決めする。
【解決手段】ノズル孔111を有するノズル板101と、ノズル板101の内側に形成された流体流路112と、ノズル孔111に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弁体113aを先端部に保持したニードル弁113と、ニードル弁113を駆動する駆動部(圧電素子114)とを有し、弁体113aをノズル板101に対して離間する位置へ移動させることで液体流路112の液体がノズル孔111から液滴として吐出される液滴吐出ヘッド1の製造方法において、液滴吐出ヘッド1の弁体113aをノズル板101に押圧する工程と、押圧状態でノズル板101を加熱する工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弁体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を駆動する駆動部とを有し、前記弁体を前記ノズル板に対して離間する位置へ移動させることで前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドの製造方法において、
前記液滴吐出ヘッドの前記弁体を前記ノズル板に押圧する工程と、
当該押圧状態で前記ノズル板を加熱する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弁体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を駆動する駆動部とを有し、前記弁体を前記ノズル板に対して離間する位置へ移動させることで前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドの製造方法において、
前記液滴吐出ヘッドの前記弁体を前記ノズル板に押圧する工程と、
当該押圧状態で前記ノズル板を加熱する工程と、
前記弁体を前記ノズル板から離間する方向に引張る工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記弁体が熱可塑性樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1又は2の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記ノズル板を前記流体流路と反対側から加熱することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記ノズル板の前記流体流路と反対側に加熱部材を接触させることを特徴とする請求項4の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記ノズル板を前記弁体の熱変形温度以上の温度で加熱することを特徴とする請求項4又は5の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ノズル板の熱変形温度が前記弁体の熱変形温度よりも高いことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記弁体が、前記ノズル孔の周囲の位置で前記ノズル板に当接可能な先端縁部と、当該先端縁部の内側に形成され、前記ノズル孔に対向する対向凹部を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弁体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を駆動する駆動部とを有し、前記弁体を前記ノズル板に対して離間する位置へ移動させることで前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドにおいて、
前記弁体と前記ノズル板に、前記ノズル孔の周囲において互いに嵌合可能な凹部と凸部が形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記弁体に凹部が形成され、前記ノズル板に前記弁体の凹部と嵌合可能な凸部が形成されていることを特徴とする請求項9の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
前記弁体に凸部が形成され、前記ノズル板に前記弁体の凸部と嵌合可能な凹部が形成されていることを特徴とする請求項9の液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
前記弁体が熱可塑性樹脂で構成されていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
前記凸部が円錐形状を有することを特徴とする請求項9から12のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項の液滴吐出ヘッドを製造する方法であって、
組立てを完了した前記液滴吐出ヘッドの前記弁体を前記ノズル板に押圧し、前記凹部と前記凸部を嵌合する工程と、
当該押圧状態で前記ノズル板を加熱する工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記弁体が、前記ノズル孔の周囲の位置で前記ノズル板に当接可能な先端縁部と、当該先端縁部の内側に形成され、前記ノズル孔に対向する対向凹部を有することを特徴とする請求項14の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記弁体の凹部又は凸部が前記弁体の前記先端縁部に形成されていることを特徴とする請求項14から18のいずれか1項の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドと、弁体をノズル孔に対して高精度に位置決めする液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置は、例えば特許文献1(特開2020-023177号公報)に記載のように、ノズル板に形成された微細なノズル孔の周囲にニードル弁の先端部の弁体を当接・離間させることで、数百kPaの高圧液体をノズル孔から液滴として吐出する。ニードル弁の後端部は、圧電素子などの駆動体(アクチュエータ)に連結される。このような液滴吐出装置は様々な分野で使用され、例えば自動車の車体に図形等を高画質で描画したり、液体レジストやDNA試料を液滴として吐出したり、機械部品にオイルを定量吐出したりするのに使用される(特許文献2:特開2000-317369号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ニードル弁は微細なノズル孔に対応して非常に細く一定の長さを有する。この細長いニードル弁の先端部にノズル孔の開閉を担う弁体が配設されている。ノズル孔の軸線方向に液滴をまっすぐ吐出したり、ノズル孔閉止時の液漏れを防止したりするためには、ノズル板に当接・離間する弁体がノズル孔に対して高精度に位置決めされている必要がある。
【0004】
弁体の軸線がノズル孔の軸線に対して傾斜していると、液滴がノズル孔から斜め方向に吐出したり、ノズル孔を弁体で閉じた閉止時に液漏れが発生したりする。弁体の軸線が傾斜していなくても、弁体の当接面(封止面)の形状のバラつきで、液滴の斜め方向吐出や液漏れが発生することもある。また、弁体の軸線が傾斜しておらず、弁体の当接面(封止面)の形状も適正であっても、ニードル弁の長さのバラつきや駆動体に対する取付け誤差等によって、弁体の軸線方向の封止位置がバラつくことがある。
【0005】
弁体はフッ素樹脂などの弾性体で構成されており、適正に組立てられた液滴吐出ヘッドでは、ノズル孔閉止時に弁体が所定の圧縮量でノズル孔を完全封止する。
【0006】
しかしながら、弁体の軸線方向の封止位置がバラつくと、封止状態における弁体の圧縮量に過不足が生じる。弁体の圧縮不足の場合は液漏れが発生し、反対に圧縮過剰の場合は当面の液漏れは防止できても経時的には弁体寿命の早期低下を招来して液漏れ発生や液滴異常吐出につながる。
【0007】
そこで本発明の目的は、弁体をノズル孔に対して高精度に位置決めする液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弁体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を駆動する駆動部とを有し、前記弁体を前記ノズル板に対して離間する位置へ移動させることで前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記液滴吐出ヘッドの前記弁体を前記ノズル板に押圧する工程と、当該押圧状態で前記ノズル板を加熱する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、弁体をノズル孔に対して高精度に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの正面図である。
図1B】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの斜視図である。
図2A】下部ハウジングを取外した液滴吐出ヘッドの正面図である。
図2B】液滴吐出ヘッドの下端部の拡大斜視図である。
図3】液滴吐出ヘッドの液体流路を横断する断面図である。
図4】液滴吐出ヘッドの(a)液体流路に沿った断面図と(b)ノズル板の平面図である。
図5】ニードル弁の先端部の拡大断面図である。(a)(b)(c)
図6】液滴吐出ヘッドの製造工程の第1実施形態を示す断面図である。
図7】液滴吐出ヘッドの製造工程の第2実施形態を示す断面図である。
図8】液滴吐出ヘッドの製造工程の第3実施形態を示す断面図である。
図9】(a)(b)は2種類の液滴吐出ヘッドの断面図である。
図10】液滴吐出ヘッドを加熱・加圧する状態を示す断面図である。
図11】液滴吐出ヘッドが加熱・加圧で変形する状態を示す断面図である。
図12】液滴吐出装置500の斜視図である。
図13】液滴吐出装置500の駆動部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(●液滴吐出ヘッド)
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1Aは液滴吐出ヘッド1の正面図、図1Bは液滴吐出ヘッド1を斜め下方から見た斜視図である。
【0012】
液滴吐出ヘッド1のハウジング10は、上部ハウジング10aと下部ハウジング10bを有する。上部ハウジング10aの上にカバー20が取付けられ、このカバー20の内側に電装品が配設されている。カバー20の上端部には電装品のコネクタ部2が設けられている。
【0013】
下部ハウジング10bの下面に、耐腐食性のステンレス鋼(SUS)などの金属で構成されたノズル板101が配設されている。ノズル板101に形成された微細なノズル孔111から液滴が吐出される。
【0014】
下部ハウジング10bの内側には図3のように液体の流路112が形成されている。この流路112の一端は供給ポート11に連通し、他端は回収ポート12に連通している。
【0015】
供給ポート11と回収ポート12は循環通路Lを介して連結され、循環通路LのポンプPによって加圧された加圧液体が供給ポート11に供給されるようになっている。ノズル孔111から吐出されなかった加圧液体は、回収ポート12から回収された後、循環通路LとポンプPを経由して再び供給ポート11に供給される。
【0016】
前述した下部ハウジング10bを取外すと、図2A図2Bのように軸状部材としてのニードル弁113の先端部が、上部ハウジング10aの下面の軸受121から露出する。ニードル弁113は耐腐食性のSUSなどの金属で構成され、細い部分で直径1mm以下、太い部分でも直径2mm程度で非常に細い。この細いニードル弁113が上部ハウジング10aの軸受121から、例えば1~20mmの長さで露出する。
【0017】
ニードル弁113の先端部にはノズル孔111を開閉する弁体113aが配設されている。当該弁体113aはフッ素樹脂などの弾性体で構成されている。弁体113aの上側には、シール部材としての弾性を有するOリング113bと、当該Oリング113bをニードル弁113に固定するためのワッシャー113cが配設されている。Oリング113bは、耐薬品性に優れた例えばパーフロロエラストマー(FFKM)で構成することができる。
【0018】
弁体113aの先端部に、円錐状の対向凹部113a1と、当該対向凹部113a1を取り囲む先端縁部113a2と、先端縁部113a2の周方向等間隔に形成されたV字状切欠き113a3が形成されている。円錐状の対向凹部113a1の直径はノズル孔111の直径よりも大きい。これにより、先端縁部113a2がノズル孔111の形状で変形するのを防止する。
【0019】
このような形状により弁体113aの耐久性を向上することができる。また、後述するようにノズル板101の平面転写時に、先端縁部113a2以外にノズル孔111形状が不要に転写されるのを防止することができる。
【0020】
弁閉止時は前記対向凹部113a1がノズル孔111に対向し、先端縁部113a2がノズル孔111の周囲のノズル板101に圧縮状態で当接する。切欠き113a3によって、ノズル板101に対する弁体113aの当接・離間(開閉)がスムーズに行える。
【0021】
(●ニードル弁の開閉駆動)
図3に示すように、ニードル弁113と当該ニードル弁113を駆動する圧電素子114が上部ハウジング10aに配設されている。圧電素子114は、保持部材115の中央空間115a内に保持されている。
【0022】
この保持部材115の上下両端部にはバネ部が形成され、当該バネ部によって圧電素子114が軸線方向で圧縮状態に保持されている。保持部材115の先端部115bとニードル弁113の後端部は、圧電素子114とニードル弁113を同軸状にして連結されている。これにより、圧電素子114が長手方向で収縮したとき、保持部材115も長手方向で収縮して、ノズル孔111が開く方向の付勢力をニードル弁113に作用させることができる。
【0023】
圧電素子114は、電圧印加手段によって電圧が印加されたときにd31モードで動作して、ノズル孔111が開く方向にニードル弁113を駆動する。つまり、ニードル弁113は、圧電素子114に電圧が印加されることによりノズル孔111が開く方向に駆動される。
【0024】
したがって、圧電素子114に電圧を印加していないときには、ニードル弁113の弁体113aがノズル板101に当接し、ニードル弁113がノズル孔111を閉塞している。このため、流路112に加圧液体が供給されていても、ノズル孔111から液体が吐出されることはない。
【0025】
そして、圧電素子114に電圧を印加することで、圧電素子114が収縮して、保持部材115を介してニードル弁113を引っ張るので、ニードル弁113の弁体113aがノズル板101から離間してノズル孔111を開放する。これにより、流路112に供給されている加圧液体が液滴となってノズル孔111から吐出される。
【0026】
圧電素子114は、電圧が印加されたときにニードル弁113を閉じる方向に伸長するd33モードで動作させることも可能である。圧電素子がd33モードで動作するときには、電圧を印加した状態でニードル弁113の弁体113aがノズル板101側に押し付けられてノズル孔111を閉塞する。
【0027】
液滴を吐出させるときは、圧電素子114に対する電圧の印加を停止あるいは電圧を低くすることで、ニードル弁113の弁体113aを開く方向に移動させてノズル孔111を開放する。圧電素子114のd33モードは、応答性が高く変位量が大きい。したがって、ニードル弁113の開閉動作の応答性を高め、ノズル孔111から吐出する液体の液滴速度、液滴量のバラつきを小さくしたい場合はd33モードが適する。
【0028】
(●ニードル弁の上下移動)
保持部材115は、上部ハウジング10a内で図3の上下方向に位置調整可能に配設されている。保持部材115の後端部115cは、固定ねじ124によって、上部ハウジング10aに位置決め固定できるようになっている。保持部材115の後端部115cには、軸線方向と直角方向に雌ねじ孔115dが形成され、この雌ねじ孔115dに固定ねじ124の先端が螺合されている。
【0029】
上部ハウジング10aの上端部には、図3に示すように軸線方向の長孔30が形成され、この長孔30に固定ねじ124が挿通されている。固定ねじ124を緩めると、保持部材115が上下移動可能になる。
【0030】
固定ねじ124は、図3の状態で、弁体113aとノズル板101との間に所定の隙間δが形成される位置で長孔30に対して締付け固定される。この状態で液滴吐出ヘッド1が製品として納品される。
【0031】
(●液滴吐出ヘッド)
図1B図4(a)(b)に示すように、供給ポート11から回収ポート12に向かう流路112に沿って、ノズル板101に二列のノズル孔111が形成されている。各列は4つのノズル孔111で構成され、これらノズル孔111がニードル弁113の先端の弁体113aで開閉される。なお、図4(a)の2aと2bはコネクタ部2のリード線である。
【0032】
従来、ノズル板101のノズル孔111の列間は、補強について特に考慮されてなかった。ノズル孔111を二列にすると、流路112の幅ないし容積が増大し、その分だけノズル板101の受圧面積が増加する。そうすると、下部ハウジング10bに対するノズル板101の周縁部の接着部分に過大な剥離力が作用し、接着部分での剥離・液漏れが発生しやすいという課題があった。
【0033】
(●本発明の原理)
図5(a)、は弁体113aがノズル孔111に対して適正に位置決めされた状態を模式的に示した図である。このように弁体113aが適正に位置決めされていると、圧電素子114の伸縮による弁体113aの上下動によりノズル孔111から適正量で吐出された液滴が、垂直方向下方に向かってまっすぐ飛翔する。また、ノズル孔111閉止時に弁体113aが過不足なく適正に圧縮されるので、ノズル孔111からの液漏れを防止し、弁体113aの適正圧縮により弁体寿命の早期低下を防止することができる。
【0034】
ところが、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1で図5(b)のように弁体113aの軸線が傾斜していると、液滴がノズル孔111から斜め方向に吐出したり、液滴吐出量がバラついたり、或いはノズル孔111閉止時に弁体113aの先端縁部113a2とノズル板101との間の隙間を通して液漏れが発生したりする。そこで、本実施形態では、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1の軸受とノズル板101を、図5(b)のように上下のクランプ40、50で挟む。そして弁体113aに連結したニードル弁113を加圧装置によって軸線方向下方に押圧する。
【0035】
ニードル弁113の上端部は、圧電素子114を保持した保持部材115の下端部に連結されているので、当該保持部材115の後端部115cを治具で押圧する。当該治具は、圧縮ばね等の付勢部材を有する治具である。治具を上部ハウジング10aの上端部に取付ける。この時、保持部材115の後端部115cを位置決め固定する固定ねじ124は緩めておく。
【0036】
治具の押圧状態で、図5(b)のようにノズル板101の下面に加熱部材としての加熱ブロック70を接触させ、ノズル板101を加熱する。加熱ブロック70には、例えば棒ヒーター(φ5mm)を使用することができる。
【0037】
ノズル板101を加熱すると、ノズル板101に押付けられている弁体113aの先端縁部113a2(図2Bの拡大図参照)が、熱と押圧力により熱変形し、ノズル板101の平面形状に馴染む。換言するとノズル板101の平面形状が弁体113aの先端縁部113a2に転写される。
【0038】
加熱の温度は、弁体113aの材料の軟化点温度から溶融温度近傍までの任意の温度である。このような温度で加熱することにより、弱い押圧力でも弁体113aを塑性変形することができる。また、流路112と反対側のノズル板101の下面に加熱ブロック70を接触させればよいので、温度勾配を付けやすく、必要箇所のみの加熱が容易であり、温度のオーバーシュートを抑制可能であり、圧電素子114側に熱影響を及ぼすこともない。
【0039】
図5(c)において、aは弁体113aの直径、bは弁体113aの高さ、cは高低差、dはノズル板101の厚みである。弁体113aの先端縁部113a2を加熱することで、弁体113aの傾斜による弁体113aの先端縁部113a2での径方向の高低差cを低減することができ、最終的には図6(c)のように高低差cを解消することができる(高低差c=0)。
【0040】
弁体113aの材料は、加熱時に低圧で変形する柔らかさと、冷却後は変形しない固さを有する材料であればよい。特に加熱により塑性変形する熱可塑性樹脂がよく、転写後の剥離性がよい材料や柔らかい材料および耐薬品性が高い材料がより望ましい。
【0041】
例えば、PP、PE、PTFE、PCTFE、TPEなどの材料がより望ましい。また、フッ素系ゴム(パーフロゴム)のように架橋にて硬化する材料でもよい。実施形態では、フッ素樹脂(PCTFE)を使用した。「PCTFE」は、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)を表す記号である。
【0042】
ノズル板101の材料は、弁体113aの材料よりも熱変形温度が高い材料にする。加熱によるノズル板101の変形や物性変化を防止するためである。本実施形態ではステンレス製のノズル板101を使用した。使用材料等をまとめると以下の通りである。
・弁体113aの材料:フッ素樹脂(PCTFE)
・ノズル板101の材料:ステンレス(0.2mm厚、ノズル孔近傍では0.05~1mm)
・押圧力:0.2MPa ・加熱温度:250℃
・ニードル弁113の材料:ステンレス ・押圧・加熱時間:30秒
【0043】
弁体113aとノズル板101は、弁閉止時に互いに嵌合可能な凹部と凸部を有する形状にすることができる。これにより、弁閉止時における弁体113aとノズル孔111の互いの位置ズレを防止することができ、ノズル孔111の封止性を確保し液漏れを防止することができる。
【0044】
凹部と凸部はいずれに形成してもよい。すなわち、弁体113aに凹部を形成し、ノズル板101に弁体113aの凹部と衝合可能な凸部を形成したり、この反対に弁体113aに凸部を形成し、ノズル板101に弁体113aの凸部と嵌合可能な凹部を形成したりしてもよい。凹部と凸部の具体例については図9図11で後述する。
【0045】
(●実施形態1)
次に、本願発明の4つの実施形態を図6図8を参照してそれぞれ説明する。図6の実施形態1は、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1のニードル弁が図6(a)のように傾斜しているという前提である。
【0046】
図6(a)~(d)は実施形態1の工程を順番に示すもので、まず図6(a)のように軸受とノズル板101を上下のクランプで固定する。次に、図6(b)のように弁体113aを加圧治具によって軸線方向下方に押圧する。弁体113aの先端縁部113a2がノズル板101に接触した位置が弁体113aの押圧開始の原点となる。
【0047】
弁体113aの押圧状態で、図6(c)のようにノズル板101の下面に加熱ブロック70を接触させ、ノズル板101を加熱する。そうすると、ノズル板101に押付けられている弁体113aの先端縁部113a2(図2Bの拡大図参照)が熱と押圧力により軟化して熱変形し、弁体113aの先端縁部113a2が全周にわたってノズル板101の平面形状に馴染む。弁体113aの沈下量が所定量(例えば原点から0.02mm)に到達したら弁体113aの押圧力を解除する。
【0048】
これにより、弁体113aの傾斜によって弁体113aの先端縁部113a2の径方向で存在していた高低差cが低減される。例えば当初の高低差c=0.02mmがc=0.0005mmまで低減される。これはノズル板101の通常の表面粗さ(1μm)以下であり、十分満足できる値である。
【0049】
高低差cを十分に低減できない場合は、弁体113aの沈下量をさらに増やすことができる。この場合、図6(b)⇒(c)⇒(d)⇒(b)の工程を繰り返すことができる。最終的には図6(c)のように高低差cを解消することもできる(高低差c=0)。
【0050】
押圧・加熱を所定時間(例えば30秒間)継続した後、図6(d)のように弁体113aを上昇させてノズル板101から離間(剥離)させる。加熱時間は長すぎると液体吐出ヘッド1の他の部分に熱影響が及ぶので、最小限がよい。また、ニードル弁113を弁体113aに比べて熱伝導性のよいステンレスで構成することで、弁体113aの先端縁部113a2以外に熱影響(熱変形)が及ぶのを防止することができる。
【0051】
弁体113aを上昇させると弁体113aが自然冷却し、熱変形で高低差cが解消された図6(d)の形状が保持される。最後に、上部ハウジング10aに対する保持体の後端部の位置を所定位置に調整し、固定ねじ124を締付ける。これで液体吐出ヘッド1の弁体113a調整作業を終了する。
【0052】
実施形態1により、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1のニードル弁や弁体113aが傾斜していても、前述した押圧・加熱処理を当該ヘッド1に施すことによって、図6(d)の弁体113a形状を得ることができることが分かる。熱変形させた図6(d)の弁体113a形状であれば、ニードル弁のストローク位置に関わらず弁体113aの先端縁部113a2をノズル板101と常に平行に維持することができる。
【0053】
したがって、ノズル孔111からの液滴吐出が適正に行われ、弁閉止時の液漏れも防止することができる。また、複数のノズル孔111を有する液滴吐出ヘッド1の場合、各ノズル孔111の液滴速度、液滴量および液滴飛翔方向のバラつきを小さくすることができる。
【0054】
(●実施形態2)
図7は実施形態2を示すものである。この実施形態2は、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1のニードル弁は傾斜してないが、図7(a)のように、弁体113aの先端縁部113a2の形状がバラついているという前提である。図示例は、弁体113aの先端縁部113a2が径方向で高低差cがある状態を示している。
【0055】
図7(a)~(c)は実施形態2の工程を順番に示すもので、まず図7(a)のように軸受とノズル板101を上下のクランプで固定する。次に、図7(b)のように弁体113aを加圧治具によって軸線方向下方に押圧する。
【0056】
この押圧状態で、ノズル板101の下面に加熱ブロック70を接触させ、ノズル板101を加熱する。そうすると、ノズル板101に押付けられている弁体113aの先端縁部113a2(図2Bの拡大図参照)が、熱と押圧力により軟化して熱変形し、弁体113aの先端縁部113a2が全周にわたってノズル板101の平面形状に馴染む。弁体113aの沈下量が所定量に到達したら弁体113aの押圧力を解除する。
【0057】
これにより、弁体113aの形状バラつきにより先端縁部113a2の径方向で存在していた高低差cが低減される。例えば当初の高低差c=0.02mmがc=0.0005mmまで低減される。
【0058】
これはノズル板101の通常の表面粗さ(1μm)以下であり、十分満足できる値である。最終的には図7(c)のように高低差cを解消することもできる(高低差c=0)。
【0059】
押圧・加熱を所定時間(例えば30秒間)継続した後、弁体113aを上昇させてノズル板101から離間させる。これで弁体113aが自然冷却し、熱変形で高低差cが解消された図6(c)の形状が保持される。
【0060】
最後に、上部ハウジング10aに対する保持体の後端部の位置を所定位置に調整し、固定ねじ124を締付ける。これで液体吐出ヘッドの弁体113a調整作業を終了する。
【0061】
実施形態2により、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1の弁体113aの先端縁部113a2の形状がバラついていても、前述した押圧・加熱処理を当該ヘッドに施すことによって、図7(c)の弁体113a形状を得ることができることが分かる。図7(c)の弁体113a形状であれば、ニードル弁のストローク位置に関わらず弁体113aの先端縁部113a2をノズル板101と常に平行に維持することができる。したがって、ノズル孔111からの液滴吐出が適正に行われ、弁閉止時の液漏れも防止することができる。
【0062】
(●実施形態3)
図8は実施形態3を示すものである。この実施形態3は、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1のニードル弁や弁体113aが傾斜しておらず、弁体113aの当接面(封止面)の形状も適正であるが、弁体113aの軸線方向の封止位置にバラつきがあるという前提である。図示例では、弁体113aの高さをH、先端縁部の幅をwとして表す。
【0063】
図8は弁体113aの軸線方向の封止位置が高すぎる状態を誇張して示している。すなわち、弁閉止時に弁体113aによるノズル孔111の封止が不完全になる場合である。なお、図8とは反対に組立てを完了した液滴吐出ヘッド1の弁体113aが圧縮過剰になっている場合は、固定ねじ124の位置を再調整した後に前述した実施形態1、2を適用することができる。
【0064】
図8(a)の上図は弁体113aの封止位置が高すぎてノズル孔111が開いている極端な例であるが、図8(a)の下図のようにノズル板101に弁体113aが当接している状態でも、弁体113aの圧縮不足で液漏れが発生することがある。このような、弁体113aの軸線方向の封止位置のバラつきは、ニードル弁の長さのバラつきや、圧電素子の保持体115に対するニードル弁の取付け誤差等によって生じる。
【0065】
図8(a)~(c)は実施形態3の工程を順番に示すもので、まず図8(a)のように軸受とノズル板101を上下のクランプで固定する。次に、図7(b)のように弁体113aを加圧治具によって軸線方向下方に押圧する。
【0066】
この押圧状態で、ノズル板101の下面に加熱ブロック70を接触させ、ノズル板101を加熱する。そうすると、ノズル板101に押付けられている弁体113aの先端縁部113a2(図2Bの拡大図参照)が、熱と押圧力により軟化して熱変形し、弁体113aの先端縁部113a2が全周にわたってノズル板101の平面形状に馴染む。
【0067】
弁体113aの沈下量が所定量に到達したら弁体113aの押圧力を解除する。この熱変形の過程で、弁体113aの先端縁部113a2が図7(b)の拡大図のように肥厚化する。但し、先端縁部113a2とノズル板101との接触部分の幅は、材料の流動が摩擦力や粘着力にて拘束されるので、殆ど変化しない(wO≒w1)。
【0068】
次に、今度は図8(c)のように弁体113aを治具によって軸線方向上方に引っ張る。弁体113aの先端縁部113a2は、図7(b)の段階でノズル板101に幅w1で固着した状態になっているので、図8(c)のように弁体113aを上方に引っ張ると弁体113aの先端縁部113a2の上部が軸線方向に延びる。この軸線方向の伸長にともなって、先端縁部113a2に近い部分で幅(厚み)がやや減少するが、先端縁部113a2とノズル板101との接触部分の幅は殆ど変化しない(w1≒w2)。
【0069】
このときの引っ張り上げる長さ(高さ)は、弁体113aの軸線方向の封止位置を適正化する長さである。すなわち、弁閉止時における弁体113aの圧縮量が適正化されるように弁体113aをH1⇒H2に引っ張り上げる。
【0070】
引張り・加熱を所定時間(例えば30秒間)継続した後、加熱部材をノズル板101から離間させ、次に弁体113aをノズル板101から離間(剥離)させてから自然冷却する。これで、熱変形させた図8(c)の形状が保持される。
【0071】
最後に、上部ハウジング10aに対する保持体の後端部の位置を所定位置に調整し、固定ねじ124を締付ける。これで液体吐出ヘッドの弁体113a調整作業を終了する。
【0072】
以上の実施形態3によって、組立てを完了した液滴吐出ヘッド1の弁体113aの軸線方向の封止位置にバラつきがあっても、封止状態における弁体113aの圧縮量を適正化することができる。したがって、圧縮不足による液漏れ発生を防止することができる。また、圧縮過剰による弁体寿命の早期低下、液滴異常吐出を防止することができる。
【0073】
このように、本実施形態によれば液滴吐出ヘッド1の組立後の弁体113aの高精度の最終仕上加工を簡単容易に行うことができる。また、ニードル弁の所定ストローク量により弁閉止時にノズル孔111を隙間なく確実に閉じることができる。
【0074】
これにより、
1)弁体113aに追加の圧力を掛けることなく低圧での封止が可能になる(弁体寿命延長)。
2)ノズル孔111を確実に封止できるので流路112側への逆流を防ぐことができ、大量の液滴(インク)を高速で吐出することができる。
3)液滴吐出ヘッドの各ノズル孔における弁体との距離を一定化することができ、ノズル孔への流れ込みが一定となり、吐出曲がりが低減でき、圧電素子114などの駆動部の変位量や変位時間の調整量を低減することができる。
【0075】
(●液滴吐出ヘッドの変形例)
次に、液滴吐出ヘッド1の変形例(凹部と凸部の具体例)について説明する。図9(a)(b)は、液滴吐出ヘッド1の2つの変形例を示す断面図である。
【0076】
前述した実施形態では、弁体113aの押圧時に当該弁体113aの先端縁部113a2の位置ズレについては特に考慮していなかった。しかし、ノズル孔111を中心基準とする先端縁部113a2の位置(半径位置)が周方向でバラついていると、各ノズル孔111からの液滴吐出状態(液滴速度、液滴量および液滴飛翔方向)がバラつく。
【0077】
ノズル孔111に向かう液体流れの圧力損失が周方向で不均一になるからである。また、各ノズル孔111の封止性もバラつく。
【0078】
そこで図9(a)(b)の変形例は、弁体113aの先端縁部113a2の位置(半径位置)を凹凸嵌合により規制するようにしている。これにより、各ノズル孔111からの液滴吐出状態(液滴速度、液滴量および液滴飛翔方向)を改善することができる。
【0079】
具体的には、
1)ノズル孔111の液滴速度を上昇して液滴吐出距離を延長することができる。
2)ノズル孔111の液滴量を増大することができる。
3)ノズル孔111の軸線方向を基準とする液滴飛翔方向のずれ量を低減することができる。
【0080】
また、各ノズル孔111の封止性も向上することができる。例えば、弁体113aに約1Nの荷重を掛けてノズル孔111を封止していたのが、0.2Nの荷重でも封止可能になる。このようにノズル孔111の封止に必要な荷重を大幅に低減することができる(封止性向上)。
【0081】
図9(a)は弁体113aの先端縁部(図2Bの先端縁部113a2)に形成した凸部113a4を、ノズル板101の内面(上面)に形成した凹部101aに嵌合するようにしたものである。凸部113a4は弁体113aの先端縁部に周方向等間隔で3か所に形成され、各凸部113a4は円錐形状で先端部が尖っている。
【0082】
凸部113a4の先端部が尖っているので、凸部113a4を凹部101aに挿入しやすい。凸部113a4の基端側直径は例えば0.2mm、先端までの高さは例えば0.2mmとすることができる。
【0083】
一方、凹部101aは凸部113a4の位置に対応するようにノズル孔111の周囲に周方向等間隔で3か所に形成され、各凹部101aは図11に示すように円筒形状である。ノズル孔111を中心基準として各凹部101aまでは同一半径とされている。
【0084】
凹部101aの直径は例えば0.2mm、高さは0.2mmとすることができる。弁体113aの凸部113a4がノズル孔111の周囲において凹部101aに嵌合することで、弁体113aの先端縁部113a2の位置が規制される。
【0085】
また、図9(b)は弁体113aの先端縁部(図2Bの先端縁部113a2)に形成した凹部113a5に、ノズル板101の内面(上面)に形成した凸部101bを嵌合するようにしたものである。凹部113a5は弁体113aの先端縁部に周方向等間隔で3か所に形成され、各凹部113a5は円錐形状で、例えば底面直径0.4mm、深さ0.4mmとすることができる。
【0086】
一方、ノズル板101の凸部101bは凹部113a5の位置に対応するようにノズル孔111の周囲に周方向等間隔で3か所に形成され、各凸部101bは円錐形状で先端部が尖っている。凸部101bの先端部が尖っているので、凸部101bを凹部113a5に挿入しやすい。凸部101bの基端側直径は例えば0.4mm、先端までの高さは例えば0.4mmとすることができる。弁体113aの凹部113a5にノズル板101の凸部101bを嵌合することで、弁体113aの先端縁部113a2の位置が規制される。
【0087】
前記凸部113a4、101bと凹部101a、113a5の数は、3つに限定されるものではない。凸部113a4、101bと凹部101a、113a5は、少なくとも各1つあれば弁体113aの先端縁部113a2の位置を規制することができるが、凸部と凹部の数を増やすほど先端縁部113a2の位置精度を高めることができる。
【0088】
ノズル孔111の直径方向で凸部と凹部を各2つ設けると、各1つ設けた場合よりも先端縁部113a2の位置をより正確に規制することができる。また、凸部と凹部を図9のように周方向等間隔に3つ設けると、先端縁部113a2の位置をさらに正確に規制することができる。凸部と凹部を3つ以上設けることも勿論可能である。
【0089】
凸部と凹部は、必ずしも周方向等間隔である必要はない。凸部と凹部が周方向不等間隔であっても弁体113aの先端縁部113a2の位置を規制することが可能である。
【0090】
なお、弁体113aはフッ素樹脂などの弾性体で構成されるので、図9(a)のように弁体113aに凸部113a4を形成するよりも、図9(b)のようにステンレスのノズル板101に凸部101bを形成する方が耐久性で有利ある。
【0091】
(●液滴吐出ヘッドの押圧・加熱)
図10は、図9(a)に示す液滴吐出ヘッド1を押圧・加熱処理する状態を示す断面図である。図9(b)の液滴吐出ヘッド1にも、同様の押圧・加熱処理が可能である。図10の押圧・加熱の際の使用材料等をまとめると以下の通りである。
・弁体113aの材料:フッ素樹脂(PCTFE)
・ノズル板101の材料:ステンレス(0.5mm厚)
・押圧力:最大0.4MPa ・加熱温度:250℃
・ニードル弁113の材料:ステンレス ・押圧・加熱時間:30秒
・弁体113a:直径1mmのフッ素樹脂(PCTFE)
【0092】
図9のように凸部113a4、101bと凹部101a、113a5を設けただけでノズル孔111を中心基準とする弁体113aの先端縁部113a2の位置を規制することができるが、図10のように液滴吐出ヘッド1を押圧・加熱することで先端縁部113a2の位置精度を高めることができる。
【0093】
すなわち、図10のように圧電素子114とニードル弁113を介して弁体113aに押圧力を掛けた状態で、ノズル板101の下面に加熱ブロック70を接触させる。この加熱ブロック70には、例えば棒ヒーター(φ5mm)を使用することができる。加熱ブロック70の熱でノズル板101が加熱されると、図11(a)⇒(e)のように弁体113aが熱と押圧力により軟化して熱変形する。
【0094】
図11(a)(b)は弁体113aの凸部113a4の位置決め段階である。弁体113aに対する押圧力はごく僅かである(例えば0.001N以下)。
【0095】
弁体113aに対する押圧制御(荷重制御)は、圧電素子114を電圧制御することでも行うことができる。この場合、圧電素子114の往復ストローク距離は、前記凹凸の高さより大きくても、小さくても、いずれでもよい。
【0096】
図11(a)は、弁体113aの凸部113a4の先端部をごく僅かな押圧力でノズル板101の凹部101aに差し込む状態を示している。この状態で凸部113a4と凹部101aの間には同軸に対してノズル孔111の半径方向にずれ量ε1があるとする。
【0097】
図11(b)のように凸部113a4を凹部101aに嵌合させる過程で、凸部113a4のテーパ面によって当初のずれ量がε1⇒ε2のように低減される。これにより、ノズル孔111に対する弁体113aの先端縁部の位置精度を高めることができる。
【0098】
図11(b)のように弁体113aの位置決めした後、図11(c)のように弁体113aに押圧力(例えば0.2MPa)を掛ける。これにより、弁体113aの凸部113a4が凹部101a内で押し潰されて肥厚化する。
【0099】
凸部113a4の肥厚化により凸部113a4内の隙間が低減され、(b)の同軸ずれ量ε2が極小(殆どゼロ)になる。例えば、ずれ量ε1=10μmであったものを、押圧・加熱により3μmにまで低減することができる。
【0100】
この状態で、弁体113aにさらに大きな押圧力(例えば0.4MPa)を掛け、加熱ブロック70をノズル板101の下面に接触させてノズル板101を加熱する。この加熱により弁体113aの凸部113a4が熱と押圧力により軟化して熱変形する。これにより、ノズル板101の封止面である内面形状が弁体113aの先端縁部(封止面)に精密転写されると共に、押圧に伴う弁体113aの内部応力が解消される。
【0101】
押圧・加熱を所定時間(例えば30秒間)継続した後、加熱ブロック70をノズル板101から離間させる。また弁体113aの押圧力を解除する。
【0102】
そして、ノズル板101に対する弁体113aの固着防止のため、弁体113aを図11(e)のようにノズル板101から離間させる。弁体113aの離間は、圧電素子114の保持部材115を引上げたり、圧電素子114を電圧制御したりすることで行うことができる。
【0103】
これで弁体113aの凸部113a4が冷却固化し、図11(e)の弁体形状が保持される。また弁体113aの封止面である先端縁部に、ノズル板101の封止面である内面形状が精密転写された状態が保持される。したがって、ノズル孔111からの液滴吐出状態のバラつきを解消することができると共に、ノズル孔111からの液漏れも防止することができる。
【0104】
(●液滴吐出装置)
次に、図1Aの液滴吐出ヘッド1を利用した液滴吐出装置500の実施形態を図12図13を参照して説明する。図12は液滴吐出装置500の斜視図、図13は液滴吐出装置500の駆動部の斜視図である。
【0105】
液滴吐出装置500は、車両のボンネットなどの曲面を有する印刷対象物700に対向させて据付けられる移動可能な枠ユニット802を備えている。枠ユニット802を構成する左右の枠部材810,811には、枠部材810,811に架け渡されるようにして、可動ユニット813が垂直方向(Y方向)へ昇降可能に取り付けられている。
【0106】
可動ユニット813には、可動ユニット813上を水平方向(X方向)に往復移動可能に配置されたモータを内蔵する駆動部803と、この駆動部803に取り付けられて印刷対象物700へ向けて液体を吐出する液滴吐出ユニット501とが搭載されている。
【0107】
また、液滴吐出ユニット501からの液体の吐出、駆動部803の往復移動及び可動ユニット813の昇降を制御するコントローラ805と、このコントローラ805に対して指示を行うPC(パーソナルコンピュータ)などの情報処理装置806とを備えている。情報処理装置806には、形状や大きさなどの印刷対象物700に関する情報を記録保存するデータベース部(DB部)807が接続されている。
【0108】
枠ユニット802は、金属柱状体等によって形成された上下左右の枠部材808,809,810,811と、枠ユニット802を自立させるために下側の枠部材809の両側に直角且つ水平に取り付けられた左右の脚部材812a,812bを備えている。そして、左右の枠部材810,811の間に架け渡された可動ユニット813は、駆動部803を支持した状態で昇降可能に構成されている。
【0109】
印刷対象物700は、液体の吐出方向(Z方向)に直角に、すなわち、枠ユニット802の上下左右の枠部材808,809,810,811によって形成される平面に対向するようにして配置される。この場合、印刷を行うべき所定の位置に印刷対象物700を配置させるためには、例えば、多関節型アームロボットのアームの先端に取り付けたチャックによって印刷対象物700の印刷領域の裏側を吸着保持させることによって行うことができる。多関節型アームロボットを用いることで印刷対象物700をプリント位置に正確に配置することが可能となり、印刷対象物700の姿勢を適宜に変更することもできる。
【0110】
駆動部803は、図12に示すように、可動ユニット813上を水平方向(X方向)に往復移動可能に配置されている。可動ユニット813は、枠ユニット802の左右の枠部材810,811に架け渡されるようにして水平に配設されたレール830と、このレール830と平行となるように配設されたラックギヤ831と、レール830の一部に外嵌されてスライドしながら移動するリニアガイド832と、このリニアガイド832と連結されてラックギヤ831と噛合うピニオンギヤユニット833と、このピニオンギヤユニット833を回転駆動する減速機836付きのモータ834と、印刷点位置検出用のロータリエンコーダ835を備えて構成されている。
【0111】
モータ834を駆動(正転又は逆転)することによって、液滴吐出ユニット501を可動ユニット813に沿って右方向または左方向に移動させる。そして、駆動部803は液滴吐出ユニット501のX方向の駆動機構として機能する。なお、減速機836の筐体の両側にはリミットスイッチ837a,837bが取付けられている。
【0112】
液滴吐出ユニット501は、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ホワイトの各色の液体を吐出する複数の液滴吐出ヘッド1、又は、複数のノズル列を有する液滴吐出ヘッド1を備えている。この液滴吐出ユニット501の各液滴吐出ヘッド1又は液滴吐出ヘッド1の各ノズル列に対しては、液体タンクから各色の液体が加圧供給される。
【0113】
この液滴吐出装置500においては、可動ユニット813をY方向に移動させ、液滴吐出ユニット501をX方向に移動させて、印刷対象物700に所要の画像を印刷する。前述の「液滴吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターンや一様な塗料の膜などを形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0114】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。例えば、液体流路112は必ずしも循環通路Lに接続されている必要はなく、回収ポート12がなく供給された液体をすべてノズル孔111111から吐出する型式の液滴吐出ヘッドにも適用可能である。また、圧電素子114は、長手方向に伸縮作動する他の駆動体に代替可能である。例えば、電磁ソレノイドで長手方向に伸縮作動するピストンを圧電素子114の代わりに使用することも可能である。
【符号の説明】
【0115】
1:液滴吐出ヘッド 2:コネクタ部
10:ハウジング 10a:上部ハウジング
10a1~10a5:連結部 10b:下部ハウジング
11:供給ポート 12:回収ポート
20:カバー 30:長孔
40、50:クランプ 70:加熱ブロック(加熱部材)
101:ノズル板101 101a:凹部
101b:凸部 111:ノズル孔
112:液体流路 113:ニードル弁
113a:弁体 113a1:対向凹部
113a2:先端縁部 113a3:切欠き
113a4:凸部 113a5:凹部
113b:Oリング 113c:ワッシャー
114:圧電素子 115:保持部材
115a:中央空間 115b:先端部
115c:後端部 115d:雌ねじ孔
121:軸受 124:固定ねじ
500:液滴吐出装置 501:液滴吐出ユニット
700:印刷対象物 802:枠ユニット
803:駆動部 805:コントローラ
806:情報処理装置 807:データベース部(DB部)
808~811:枠部材 812a,812b:脚部材
813:可動ユニット 830:レール
831:ラックギヤ 832:リニアガイド
833:ピニオンギヤユニット 834:モータ
835:ロータリエンコーダ 836:減速機
836:減速機 837a,837b:リミットスイッチ
L:循環通路 P:ポンプ
δ:隙間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0116】
【特許文献1】特開2020-023177号公報
【特許文献2】特開2000-317369号公報
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12
図13