(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149920
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド、ヘッドユニットおよび液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231005BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 607
B41J2/01 403
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058733
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】甘利 清志
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓
(72)【発明者】
【氏名】村井 秀世
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EC08
2C056EC21
2C056EC46
2C056EC53
2C056FA15
2C056HA05
2C057AF71
2C057AH20
2C057AM16
2C057AM31
2C057AN07
2C057BF04
2C057DB07
(57)【要約】
【課題】ノズル孔の吐出不良を防止する。
【解決手段】ノズル孔14を有するノズル板15と、ノズル板15の内側に形成された流体流路16と、ノズル板15に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弾性体を先端部に保持したニードル弁17と、ニードル弁17を軸線方向で往復駆動する駆動体(圧電素子18)とを有し、弾性体をノズル板15に対して離間する位置へ移動させることで液体流路16の液体がノズル孔14から液滴として吐出される液滴吐出ヘッド10において、ニードル弁17の弾性体17aと異なる位置に、流体流路16の液体と接触する凹部17c及び/又は凸部17bを形成したことを特徴とする。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弾性体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を軸線方向で往復駆動する駆動体とを有し、前記弾性体が前記ノズル板から離間することにより前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドにおいて、
前記ニードル弁の前記弾性体と異なる位置に、前記流体流路の液体と接触する凹部及び/又は凸部を形成したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記凹部が、前記ニードル弁の周側面に形成された溝部によって構成されていることを特徴とする請求項1の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記溝部が、矩形状、台形状又は三角形状の断面形を有することを特徴とする請求項2の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記溝部が、前記ニードル弁の長手方向に螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項2又は3の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記凸部が、前記ニードル弁の周側面に形成されたフランジ部によって構成されていることを特徴とする請求項1の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記凸部が、前記ニードル弁の長手方向に螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記フランジ部が、矩形状、台形状又は三角形状の断面形を有することを特徴とする請求項5の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記フランジ部の前記ノズル孔とは反対側に、前記ノズル孔側に傾斜したテーパ面が形成されていることを特徴とする請求項7の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記フランジ部が、前記ニードル弁とは別体の弾性部材で構成されていることを特徴とする請求項5の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項11】
前記液滴吐出ヘッドの前記駆動体の駆動を制御する制御部を有し、当該制御部は、前記液滴吐出ヘッドが前記ノズル孔から液滴を吐出しないとき、前記ノズル孔から液滴が吐出しない範囲で前記駆動体を微駆動するように構成されていることを特徴とする請求項10の液滴吐出装置。
【請求項12】
ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能なニードル弁と、当該ニードル弁を軸線方向で往復駆動する駆動体とを有し、前記ニードル弁が前記ノズル板から離間することにより前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドの前記駆動体の駆動を制御する制御部とを備え、
当該制御部は、前記液滴吐出ヘッドが前記ノズル孔から液滴を吐出しないとき、前記ノズル孔から液滴が吐出しない範囲で前記駆動体を微駆動するように構成されていることを特徴とするヘッドユニット。
【請求項13】
請求項12のヘッドユニットを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、ヘッドユニットおよび液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置は、例えば特許文献1(特開2020-023177号公報)に記載のように、微細なノズル孔を有するノズル板にニードル弁の先端部の弾性体を当接・離間させることで、数百kPaの高圧液体をノズル孔から液滴として吐出する。ニードル弁の後端部は、圧電素子などの駆動体(アクチュエータ)に連結される。このような液滴吐出装置は様々な分野で使用され、例えば自動車の車体に図形等を高画質で描画したり、液体レジストやDNA試料を液滴として吐出したり、機械部品にオイルを定量吐出したりするのに使用される(特許文献2:特開2000-317369号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
液滴吐出装置に使用する液体の種類は用途に応じて多岐にわたり、液体の粘度は種類によって大きく異なる。液滴吐出装置の描画性能は液体粘度によって大きく影響されるので、使用する液体粘度に対応してノズル孔の大きさ等が決められる。
【0004】
しかしながら、チキソトロピー性(略して「チキソ性」とも称する)を有する液体や沈降性を有する液体は、装置休止時に液体流れが止まると増粘、沈降する。このため、装置休止後に装置を再起動すると、増粘、沈降した液体によって不吐出や吐出曲がり等の吐出不良が発生し、所期の液滴吐出性能ないし描画性能が得られない。
【0005】
そこで、液滴吐出装置に液体循環装置などを外付けし、強制的に一定の流速を得ることが行われている。しかしながら、液体循環装置などを取り付けるとコスト高になる。また、液体循環装置では液体流路から分岐して各ノズル孔に至る分岐流路の液体まで移動させるのは難しい。
【0006】
このため、当該分岐流路でチキソ性流体が増粘しやすく、また沈降性液体が粗密に分離しやすい。したがって、再起動・再吐出時の吐出不良の課題を解消することができていない。
【0007】
一方、ノズル内のメニスカスを微振動させることにより、チキソトロピーによるインク粘度の上昇を抑える技術も提案されている(特許文献3:特開2005-212412号公報)。しかしながら、再起動・再吐出時の吐出不良の課題は依然として解消することができていない。
【0008】
そこで本発明の目的は、ノズル孔の吐出不良を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の液滴吐出ヘッドは、ノズル孔を有するノズル板と、当該ノズル板の内側に形成された流体流路と、前記ノズル板に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能な弾性体を先端部に保持したニードル弁と、当該ニードル弁を軸線方向で往復駆動する駆動体とを有し、前記弾性体が前記ノズル板から離間することにより前記液体流路の液体が前記ノズル孔から液滴として吐出される液滴吐出ヘッドにおいて、前記ニードル弁の前記弾性体と異なる位置に、前記流体流路の液体と接触する凹部及び/又は凸部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズル孔の吐出不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3A】液滴吐出モジュールの(a)断面図と(b)B部の拡大断面図である。
【
図3B】ニードル弁の凹凸構造を示す拡大図である。
【
図4】ニードル弁の凸部の変形例1を示す図である。
【
図5】ニードル弁の凸部の変形例2を示す図である。
【
図6】ニードル弁の凸部の変形例3を示す図である。
【
図7A】ニードル弁の駆動方法を示すフローチャートである。
【
図7B】(a)d31タイプの圧電素子の印加電圧を示す図、(b)弁開度とニードル弁の変位量の関係を示す図、(C)せん断速度を説明するための図である。
【
図7C】d33タイプの圧電素子の印加電圧を示す図である。
【
図8】(a)圧電素子の印加電圧とニードル弁の位置関係を示す図、(b)弁開度とニードル弁の変位量の関係を示す図、(c)吐出時と休止時の液体粘度変化を示す図、(d)せん断速度と液体粘度の関係を示す図、(e)液体の沈降状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(●液滴吐出ヘッド)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、液滴吐出ヘッドの全体斜視図である。この液滴吐出ヘッドは、液体としてのインクを吐出する。
【0013】
液滴吐出ヘッド10はハウジング11を備える。ハウジング11は金属または樹脂からなる。また、ハウジング11は、その上部に電気信号の通信のためのコネクタ29を備える。また、ハウジング11の左右には、インクをヘッド内に供給するための供給ポート12と、インクをヘッドから排出するための回収ポート13を設けている。
【0014】
図2はヘッドユニット60を示す図で、液滴吐出ヘッドの
図1のA-A矢視断面を示す図でもある。ヘッドユニット60は、液滴吐出ヘッド10と駆動制御装置40とを有する。
【0015】
液滴吐出ヘッド10はノズル板15を有する。ノズル板15はハウジング11に接合されている。ノズル板15は、インクを吐出する複数のノズル孔14を備える。これら複数のノズル孔14は、後述の複数の液滴吐出モジュール30にそれぞれ対応している。
【0016】
ハウジング11は、後述の複数の液滴吐出モジュール30に共通の流路16を備えている。流路16は、供給ポート12側からのインクを、ノズル板15上を経て回収ポート13側へ送る経路である。インクは、流路16上を
図2に示す矢印a1~a3で示す方向へ送られる。
【0017】
流路16を流れるインクなどの液体に、用途に応じてチキソ性を付与する溶剤を添加することができる。溶剤の種類は様々であるが、例えばポリエチレングリコールなど平均分子量が7000~8000の溶剤を添加することができる。前述した「液体」にはインクだけでなく塗料等も含まれる。
【0018】
溶剤を30vol%程度以上添加することで、液体にチキソ性が発現する。このチキソ性は溶剤添加比率を増加すると増大する。使用時の適正な粘度範囲は使用液体によって変化するので、使用液体に応じて溶剤添加量を調節する。
【0019】
吐出を休止すると、
図8(e)に示すように、沈降性液体などは流路内で粒子沈降により粗密が発生することが知られている。沈降性液体としては、例えば白インクに含まれる酸化チタン、赤インクに含まれる酸化鉄レッドなどがある。
【0020】
再吐出時に沈降した粒子により液室内で粗密状態となり吐出不安定となることから、再吐出と同時に撹拌を得る必要がある。そこで本実施形態では、ノズル孔14を開閉するニードル弁17に後述する凹凸構造を設けた。これにより、ニードル弁17の再駆動と同時に流路内の液体を撹拌することができ、吐出不安定を解消することができる。
【0021】
供給ポート12と回収ポート13との間には、複数(channel)の液滴吐出モジュール30が配置されている。液滴吐出モジュール30は流路16内のインクをノズル孔14から吐出する。
【0022】
液滴吐出モジュール30の数はノズル孔14の数に対応しており、本例では1列に並べた8個のノズル孔14に対応する8個の液滴吐出モジュール30を備えた構成を示している。なお、ノズル孔14および液滴吐出モジュール30の数および配列は前記に限るものではない。
【0023】
例えば、ノズル孔14および液滴吐出モジュール30の数は、複数ではなく1個であってもよい。また、ノズル孔14および液滴吐出モジュール30の配列は、1列ではなく複数列で配置してもよい。
【0024】
前記の構成により、供給ポート12は加圧した状態のインクを外部から取り込み、インクを矢印a1方向へ送り、インクを流路16に供給する。流路16は、供給ポート12からのインクを矢印a2方向へ送る。そして、回収ポート13は、流路16に沿って配置したノズル孔14から吐出しなかったインクを矢印a3方向へ排出する。
【0025】
液滴吐出モジュール30は、ノズル孔14を開閉するニードル弁17と、ニードル弁17を駆動する駆動体としての圧電素子18とを備える。圧電素子18は、電圧印加により大きく伸長駆動するd33タイプや、小さく短縮駆動するd31タイプを使用することができる。
【0026】
ここではd31タイプの圧電素子18を使用する。d31タイプの圧電素子18は、電圧を印加することでニードル弁17が上動してノズル孔14を開放し、電圧印加を停止することでニードル弁17が下動してノズル孔14を閉塞する。
【0027】
d33タイプの圧電素子18を使用することも、勿論可能である。その場合、d33タイプの圧電素子18に電圧を印加することでニードル弁17が下動してノズル孔14を閉塞し、電圧印加を停止することでニードル弁17が上動してノズル孔14を開放する。
【0028】
ハウジング11は、圧電素子18の上端部と対向する位置に規制部材19を備えている。この規制部材19は、圧電素子18の上端部に当接しており、圧電素子18の固定点をなしている。ここで、ノズル孔14は吐出口の一例で、ノズル板15は吐出口形成部材の一例で、ニードル弁17は開閉弁の一例で、圧電素子18は駆動体の一例である。
【0029】
(●液滴吐出モジュール)
図3Aは、液滴吐出ヘッドを構成する液滴吐出モジュール単体の説明図である。
図3A(a)は液滴吐出モジュールの全体断面図、
図3A(b)は
図3A(a)のB部の拡大図である。
【0030】
ニードル弁17は、その先端にフッ素樹脂などの弾性部材で構成された弾性体(弁体)17aを備えている。ニードル弁17の先端をノズル板15に押し付けた際に、弾性体17aが圧縮されることで、ニードル弁17がノズル孔14を確実に閉塞する。
【0031】
また、ニードル弁17とハウジング11との間には、軸受部21を設ける。軸受部21とニードル弁17との間には、Oリングなどのシール部材22を設けている。
【0032】
ハウジング11の内側の空間11a内には圧電素子18を収容している。保持部材23は中央空間23a内に圧電素子18を保持している。
【0033】
圧電素子18とニードル弁17は、両者の同軸上にある保持部材23の先端部23bを介して連結されている。保持部材23の先端部23b側がニードル弁17と連結し、保持部材23の後端部23c側がハウジング11に取り付けられた規制部材19によって固定されている。
【0034】
駆動制御装置40によって圧電素子18に電圧が印加されることで、圧電素子18が収縮し、圧電素子18が保持部材23を介してニードル弁17を引っ張る。これにより、ニードル弁17がノズル孔14の周囲におけるノズル板15から離間してノズル孔14を開放する。
【0035】
これにより、流路16に加圧供給したインクがノズル孔14から吐出される。また、圧電素子18に電圧を印加していないときは、ニードル弁17がノズル孔14を閉塞している。この状態では、流路16にインクが加圧供給されていても、ノズル孔14からインクが吐出することはない。ニードル弁17の弾性体17aは、圧電素子18に印加する電圧を変化させることにより、ノズル板15に対して当接する位置と離間する位置との間で移動可能である。
【0036】
駆動制御装置40は、駆動パルス生成部である波形発生回路41、増幅回路42、ドライバ回路43および制御部44を有する。波形発生回路41が後述する駆動パルス波形を生成し、増幅回路42が必要な値まで電圧値を増幅する。そして、増幅された電圧がドライバ回路43を通して圧電素子18に印加される。
【0037】
この電圧印加により、駆動制御装置40は、ニードル弁17の開閉を制御し、液滴吐出ヘッドからのインクの吐出を制御する。波形発生回路41が十分な値の電圧を印加できる場合には増幅回路42は省略可能である。
【0038】
波形発生回路41は、圧電素子18に印加する電圧の時間経過に伴う波形である駆動パルスを生成する。波形発生回路41は、外部のPCや装置内部のマイコンから印刷データを入力され、この入力データに基づいて駆動パルスを生成する。
【0039】
波形発生回路41は、圧電素子18に印加する電圧を変更でき、複数の駆動パルスを生成できる。前述のように、波形発生回路41が駆動パルスを生成することにより、圧電素子18が駆動パルスに従って伸縮し、ニードル弁17を開閉移動させる。
【0040】
(●ニードル弁の凹凸構造)
ニードル弁17の先端部は、
図3A(b)のように、流路16からノズル孔14に至る分岐流路16aに挿入されている。当該先端部の弾性体17aを除く外周面(周側面)に、複数の凸部17bと複数の凹部17cによる凹凸構造が形成されている。
【0041】
当該凹凸構造によって後述するせん断作用と撹拌作用が得られる。凹凸構造の少なくとも一部は、せん断作用を効果的に発生させるために分岐流路16a内に位置するように形成することができる。凹凸構造の残りは、共通流路16内に位置するように形成することができる。また、分岐流路16aの内面に凹凸構造を付与することも可能である。これにより、せん断作用と撹拌作用を強めることができる。
【0042】
凸部17bは、ニードル弁17の先端部の周方向に連続する断面矩形状(円板状ないしフランジ状)の突起部である。凹部17cは、ニードル弁17の先端部の周方向に連続する断面矩形状の溝部である。
【0043】
凸部17bと凹部17cがニードル弁17の先端部の軸線方向(長手方向)に交互に複数形成されている。図示例では凸部17bが5つ、凹部17cが6つである。
【0044】
ニードル弁17の先端部の凹凸構造は、凸部17bまたは凹部17cを1つだけ形成してもよいし、凸部17bと凹部17cを複数形成してもよい。凸部17bと凹部17cの数は、使用する液体の種類、性質等に対応して適宜変更可能である。また、凸部17bと凹部17cの大きさや形状(突出量、深さ等)も、使用する液体の種類、性質等に対応して適宜変更可能である。
【0045】
図3B(a)~(e)は、凹部17cと凹部の変形例1~5を示すものである。
図3B(a)は凸部17b、凹部17cの断面形を矩形状にしたものである。このように矩形状断面にすると突起部ないし溝部の縁が角張るので、ニードル弁17の上下動によるせん断速度増大(粘度低下)に有効に作用する。
【0046】
図3B(b)は凸部17bと凹部17cの断面形を台形状にしたもの、
図3B(c)は凸部17bの断面形を台形状にすると共に凹部17cの断面形を三角形状にしたもの、
図3B(d)は凸部17bの断面形を三角形状にすると共に凹部17cの断面形を台形状にしたものである。また、
図3B(e)は凸部17bと凹部17cを螺旋状に形成したものである。凹凸構造が台形状、三角形状、螺旋状のように傾斜面を含むことで、撹拌作用を増大することができる。
【0047】
(●凸部の変形例)
図4~
図6は、凸部17bの変形例1~3を示したものである。
図4の変形例1は、ニードル弁17の先端部にフランジ部17dを設けたものである。
【0048】
このフランジ部17dは、ニードル弁17の先端部に一体成形してもよいし、フランジ部17dを別部材で構成してニードル弁17に接着剤等で固定してもよい。フランジ部17dによって、分岐流路16aやノズル孔14内の液体の流速を上げると共に液体を撹拌することが可能となり、すぐれた吐出安定性を得ることができる。
【0049】
フランジ部17dは、できるだけノズル孔14に近い分岐流路16a内に配設するのがよい。ノズル孔14に近付くほど増粘、沈降の影響が大きいからである。
【0050】
図5の変形例2は、ニードル弁17の先端部にテーパ面17e1付きのフランジ部17eを設けたものである。このフランジ部17eも、ニードル弁17の先端部に一体成形してもよいし、フランジ部17eを別部材で構成して接着剤等でニードル弁17に固定してもよい。
【0051】
フランジ部17eの周縁部に、ノズル孔14側(下流側)に向かって傾斜したテーパ面17e1が付けられている。このテーパ面17e1によって、ニードル弁17の上動時のノズル孔14側への液体流れを円滑化すると共に、ニードル弁17の下動時のノズル孔14側への液体押込み効果で液滴吐出力(吐出速度)を増大することができる。
【0052】
図6の変形例3は、ニードル弁17の先端部に浮遊フランジ部17fを遊嵌したものである。この浮遊フランジ部17fの上下両側には、一対の固定ワッシャ17gが配設されている。固定ワッシャ17gはニードル弁17の先端部に固定(溝嵌合)され、浮遊フランジ部17fの上下動の範囲を規制する。
【0053】
図6の変形例では、ニードル弁17の上下動によって、浮遊フランジ部17fが上下動すると共に不規則に揺動する。これにより、ノズル孔14の近傍の液体にランダムなせん断作用と撹拌作用を及ぼすことができ、当該液体がチキソ性液体及び沈降性液体の場合は当該液体を使用範囲内とし、ノズル孔14の吐出安定性を確保することができる。浮遊フランジ部17fの断面形状は、矩形状のように直角の角部を有するものに限らず、台形状や端部R形状であってもよい。
【0054】
(●フローチャート)
次に、ニードル弁17を駆動する圧電素子18の制御方法を
図7Aを参照して説明する。前述したように、圧電素子18が作動してニードル弁17が上下動している吐出時は、ニードル弁17の前述した凹凸構造によって液体にせん断力と撹拌力が作用しているので、増粘、沈降は発生しにくい。
【0055】
しかし、ニードル弁が閉状態で停止していると、分岐流路16aの液体が滞留して増粘、沈降が発生しやすい。そこで、ニードル弁17が閉状態で停止している時間が所定時間以上に長引くときに、
図7AのフローチャートのステップS6のようにニードル弁17を微駆動する。
【0056】
詳しくは、
図7AのフローチャートのステップS1で、
図3A(a)に示す制御部44が液滴吐出ヘッド10で描画するための画像データを受け取る。ステップS2でモジュール別の駆動タイミング処理(ON/OFF)が行われる。
【0057】
次に、ステップS3でモジュールの休止有無が判定される。モジュールの休止がない場合(吐出モード)はステップS4でノズル孔14から液滴が吐出される。ステップS3でモジュールの休止有りと判定されると(休止モード)、ステップS5で吐出が休止される。
【0058】
次に、吐出休止状態が所定時間継続するときは、ステップS6でニードル弁17が所定時間微駆動される。この微駆動では、ノズル孔14から液体が漏れない範囲でニードル弁17が微駆動される。その後、ステップS7で再び微駆動なしの吐出休止状態となる。
【0059】
微駆動用の駆動信号(画像信号)は制御部44のメモリに記憶(格納)することが可能であり、当該画像信号に基づいて駆動波形を生成し、ニードル弁17を微駆動することができる。また、微駆動用の駆動波形を、液体吐出用の駆動波形とは別に用意することもできる。
【0060】
図7B(a)は、前述した
図7Aのフローチャートにおける圧電素子18に対する印加電圧の変化を示したものである。休止時がフローチャートのステップS5~S7に対応する。
【0061】
微駆動の印加電圧は、ノズル孔14から液体が漏れない程度の印加電圧である。すなわち、弾性体17aの潰し量の範囲内でサイン波の電圧を印加する。弾性体17aの「潰し量の範囲内」とは、ノズル孔14を閉塞して液漏れを防止するのに必要な弾性体17aの圧縮量の範囲内のことをいう。微駆動の上下方向の変位は、ニードル弁17ないし弾性体17aの上下方向の変位に対応する。
【0062】
図7B(b)は、弁開度とニードル弁17の変位量の関係を示したものである。ニードル弁17が休止時に下動端まで移動したところで、ノズル孔14が全閉となる(弁開度0%)。前述したステップS6は、この全閉状態からニードル弁17を所定時間微駆動する。
【0063】
図7B(c)はせん断速度を図示したものである。四辺形は液体の微小要素であり、四辺形の下辺が固定側、上辺が移動側である。固定側と移動側の間の距離をΔy、移動側の移動速度をVとすると、せん断速度D=V/Δyと表すことができる。
【0064】
すなわち、Δyが小さいほどせん断速度Dを大きくすることができる。D=V/Δyの関係式に基づいて、ニードル弁17の凹凸構造の各寸法を設定することができる。狭い分岐流路16a内に凹凸構造を設けると、せん断速度Dを大きくするのに有利である。
【0065】
なお、d31タイプの圧電素子18を使用する場合の電圧波形の例として
図7B(a)を説明したが、上述のようにd33タイプの圧電素子18を使用してもよい。
図7Cは、d33タイプの圧電素子18を使用する場合の、圧電素子18に対して印加する電圧波形を示したものである。
【0066】
この場合、液滴吐出ヘッドは、d33タイプの圧電素子18に所定の電圧を印加することによりニードル弁17を下動させてノズル孔14を閉塞し、電圧印加を停止することでニードル弁17を上動させてノズル孔14を開放し、ノズル孔14から液滴を吐出する。また、微駆動の印加電圧として、ノズル孔14を閉塞するときの所定の電圧と、当該所定の電圧よりも小さな値の電圧との間で振動する電圧を用いる。この小さな値の電圧は、ノズル孔14から液体が漏れない程度の印加電圧である。
【0067】
図8(a)は、圧電素子18に対する印加電圧の変化を示したもので、印加電圧をゼロにするとノズル孔14が閉じることを示している。
図8(b)は、弁開度とニードル弁17の変位量の関係を示したもので、ニードル弁17が休止時に下動端まで移動したところでノズル孔14が全閉(弁開度0%)となることを示している。
【0068】
図8(c)は、液体の粘度がノズル孔14からの液滴吐出時と休止時で大きく増減する状態を模式的に示したものである。
図8(d)は、せん断速度と粘度の関係を示したもので、ニードル弁17の凹凸構造によるせん断速度を大きくすることで、吐出休止時の粘度を使用粘度範囲まで低減することができることを示している。
【0069】
図8(e)は、使用状態から休止状態になったときの液体の沈殿状態を示したものである。使用状態ではほぼ均一な液相であったのが、休止状態では複数層に分離する。図示例では上から、低粘度、中粘度、高粘度の三層に粘度分離する状態を示している。
【0070】
このように粘度分離した状態ではノズル孔14で不吐出や吐出曲がり等の吐出不良が発生する。本実施形態のようにニードル弁17に凹凸構造を設けると、当該凹凸構造で液体を撹拌することができ、液相分離を解消して再起動・再吐出時の吐出不良を防止することができる。
【0071】
(●液滴吐出装置)
次に、前述したヘッドユニット60を備えた液滴吐出装置について、
図9を用いて説明する。
図9に示すように、液滴吐出装置100は、対象物の一例である液体の吐出対象物200に対向して設置している。液滴吐出装置100は、X軸レール101と、このX軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101およびY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。
【0072】
Y軸レール102は、X軸レール101がY方向に移動可能なように、X軸レール101を保持する。また、X軸レール101は、Z軸レール103がX方向に移動可能なように、Z軸レール103を保持する。
【0073】
そして、Z軸レール103は、キャリッジ1がZ方向に移動可能なように、キャリッジ1を保持する。ここで、キャリッジ1は、
図2のヘッドユニット60の一例であり、前述の駆動制御装置40と液滴吐出ヘッド10を備えている。
【0074】
液滴吐出装置100は、キャリッジ1をZ軸レール103に沿ってZ方向に動かす第1のZ方向駆動部92と、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX方向に動かすX方向駆動部72を備える。また、液滴吐出装置100は、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY方向に動かすY方向駆動部82を備える。さらに、液滴吐出装置100は、キャリッジ1に対してヘッド保持体70をZ方向に動かす第2のZ方向駆動部93を備える。
【0075】
キャリッジ1は、ヘッド保持体70を備えている。ヘッド保持体70は、保持体の一例である。
【0076】
また、キャリッジ1は、
図9に示した第1のZ方向駆動部92からの動力によりZ軸レール103に沿ってZ方向へ移動可能である。ヘッド保持体70は、
図9に示した第2のZ方向駆動部93からの動力によりキャリッジ1に対してZ方向へ移動可能である。
【0077】
前記構成の液滴吐出装置100は、キャリッジ1をX軸、Y軸およびZ軸の方向に動かしながら、ヘッド保持体70に設けたヘッドから液体の一例であるインクを吐出し、液体の吐出対象物200に描画を行う。ここで、キャリッジ1およびヘッド保持体70のZ方向への移動は、Z方向と平行である必要はなく、少なくともZ方向の成分を含んでいれば斜めの移動であってもよい。
【0078】
図9において液体の吐出対象物200の表面形状は平面として示しているが、液体の吐出対象物200の表面形状は、車やトラックの車体、航空機の機体などのように鉛直に近い面、もしくは曲率半径の大きい面でもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0080】
以上の説明では、駆動制御装置が圧電素子などの駆動体に電圧を印加して開閉弁を開閉する実施例ついて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、空圧、油圧、電磁力により開閉弁を開閉してもよい。この場合、駆動制御装置が生成する駆動パルスは、空圧、油圧、電磁力による加圧機構を設定した圧力で駆動させるための駆動波形である。
【0081】
本願において、「液滴吐出装置」は、液滴吐出ヘッド又はヘッドユニットを備え、液滴吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液滴吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0082】
この「液滴吐出装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0083】
例えば、「液滴吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0084】
また、「液滴吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0085】
前記「液体が付着可能なもの」とは、前述した液体の吐出対象物のことであり、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0086】
前記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0087】
また、「液滴吐出装置」は、液滴吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液滴吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液滴吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0088】
また、「液滴吐出装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0089】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0090】
10:液滴吐出ヘッド
14:ノズル(吐出口)
15:ノズル板(吐出口形成部材)
16:液体流路
17:ニードル弁(開閉弁)
17a:弾性体(弁体)
17b:凸部
17c:凹部
17d:フランジ部
17e:フランジ部
17e1:テーパ面
17f:浮遊フランジ部
17g:固定ワッシャ
18:圧電素子(駆動体)
30:液滴吐出モジュール
40:駆動制御装置
41:波形発生回路(駆動パルス生成部)
60:ヘッドユニット
100:液滴吐出装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】
【特許文献1】特開2020-023177号公報
【特許文献2】特開2000-317369号公報
【特許文献3】特開2005-212412号公報