(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149925
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】医療用マーカー
(51)【国際特許分類】
A61B 34/20 20160101AFI20231005BHJP
A61B 17/04 20060101ALI20231005BHJP
A61B 17/122 20060101ALI20231005BHJP
A61B 90/90 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A61B34/20
A61B17/04
A61B17/122
A61B90/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058747
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 竜朗
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB01
4C160CC06
4C160NN04
(57)【要約】
【課題】取付安定性に優れて留置可能期間が向上されるとともに、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカーを提供する。
【解決手段】医療用マーカー100は、無端状の線材111、112で構成されたループ部分110を有するループ部材105と、ループ部材105のループ部分110に対してスライド可能に外嵌されるチューブ130と、を備える。ループ部材105、およびチューブ130のうちの少なくとも一方の一部または全体は、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体により構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の管腔臓器内に留置される医療用マーカーであって、
無端状の線材で構成されたループ部分を有するループ部材と、
前記ループ部材のループ部分に対してスライド可能に外嵌されるチューブと、を備えており、
前記ループ部材、および前記チューブのうちの少なくとも一方の一部または全体が、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されていることを特徴とする医療用マーカー。
【請求項2】
前記ループ部材は、前記チューブの内腔に引き込まれないように構成された係止部分を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用マーカー。
【請求項3】
前記ループ部材の前記係止部分の一部または全体が、前記蛍光体によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内視鏡を利用して管腔臓器内に挿入されて、管腔臓器の外側から位置を視認可能なマーカーとして利用することができる医療用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食道、胃、大腸等の消化管の癌等の疾患は、主として消化管の粘膜から発生し進行する。同様に、肺癌は、主として気管粘膜から発生し、膀胱癌は、主として膀胱粘膜から発生し進行する。そのため、消化管、気管、膀胱等の管腔臓器の疾患の診断を確定させるには、内視鏡を管腔臓器内に挿入して粘膜を観察し、患部組織を生検することが必須となっている。そして、その確定診断に基づき、患部組織は必要に応じて外科的に切除される。
【0003】
しかしながら、外科的切除術において、外科医は管腔臓器の外側からアプローチするため、管腔臓器内の患部を直接的に視認することはできない。すなわち、開胸または開腹手術下や腹腔鏡手術下では、肉眼または腹腔鏡で消化管、肺または膀胱を観察した場合、見えるのは粘膜ではなく、消化管漿膜面、気管漿膜面、膀胱腹膜面である。そのため、管腔臓器の外側から観察した場合でも切除域を確定できるように、管腔臓器の内側からマーキングを行うことが必要となる。
【0004】
このようなマーキングを行うためのマーカーとして、例えば下記の特許文献1に記載されている医療用マーカーが知られている。特許文献1には、弾力で略V字状に開脚する一対のアーム板部と、アーム板部の各先端部に形成してある爪部と、一対のアーム板部の長手方向に沿って移動可能にアーム板部に取り付けられ、爪部の方向に移動させることにより、一対のアーム板部を閉脚させる締め付けリングとを有し、少なくともいずれか一方の爪部の外面に、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発光する蛍光色素を含む蛍光部材と、励起光および蛍光の少なくとも一方を反射する反射材とを設けたクリップ状の医療用マーカーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている医療用マーカーは、そのクリップ形状により管腔臓器の内壁に取り付けることが容易であるとともに、管腔臓器の内壁に入り込んだ位置に蛍光部材および反射材を配置されて管腔臓器の外側から蛍光の視認が可能となるため、その取り付け位置を容易に特定することができるので有用であるものの、クリップの把持力は必ずしも強くはないという課題がある。
【0007】
医療用蛍光マーカーは、手術前に管腔臓器内の患部近傍に、当該患部の位置を把握できるように取り付けられて、手術時まで留置される必要がある。この点、特許文献1に記載されている医療用マーカーは、クリップの把持力は必ずしも強くはないことから、体内に留置可能な期間は必ずしも長くはない(例えば3日程度)という課題があり、医療現場では、より長くかつ確実に体内に留置することが可能な医療用マーカーが要望されている。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、取付安定性に優れて留置可能期間が向上されるとともに、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る医療用マーカーは、体内の管腔臓器内に留置される医療用マーカーであって、
無端状の線材で構成されたループ部分を有するループ部材と、
前記ループ部材のループ部分に対してスライド可能に外嵌されるチューブと、を備えており、
前記ループ部材、および前記チューブのうちの少なくとも一方の一部または全体が、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、医療用マーカーを構成するループ部分を有するループ部材、およびチューブのうちの少なくとも一方の一部または全体が、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されている。これにより、医療用マーカーが管腔臓器の内壁に縫合された縫合糸等をループ部分によって結紮した状態で、医療用マーカーを管腔臓器の内壁に留置することができ、管腔臓器の内壁への取付安定性に優れ、留置可能期間が向上された医療用マーカーを提供することができる。また、蛍光体が管腔臓器の内壁の近傍に配置されるので、蛍光体が発する蛍光を視認することで医療用マーカーの位置を特定できるようになり、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカーを提供することができる。
【0011】
本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成において、前記ループ部材は、前記チューブの内腔に引き込まれないように構成された係止部分を有していてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、医療用マーカーを管腔臓器内に取り付けるために、管腔臓器の内壁に縫合された縫合糸等をループ部分で結紮しようとする際に、ループ部材がチューブから抜け落ちてしまう事象が防止され、留置容易性に優れた医療用マーカーを提供することができる。
【0013】
本発明に係る医療用マーカーは、上記の構成において、前記ループ部材の前記係止部分の一部または全体が、前記蛍光体によって構成されていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、医療用マーカーを管腔臓器の内壁に取り付けた際に、管腔臓器の内壁の近傍に蛍光体によって構成された係止部分が配置されるので、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における医療用マーカーの構成を示す斜視図であり、チューブがループ部分の中央部に外嵌された状態を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における医療用マーカーの構成を示す斜視図であり、チューブがループ部分の一方側にスライドされた状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態における医療用マーカーの構成を示す斜視図であり、チューブがループ部分の一方側にスライドされた後に、連結用ループが切断された状態を示す図である。
【
図4】
図1に対応する平面図であり、本実施形態における医療用マーカーによる縫合糸の結紮を説明するための図である。
【
図5】
図2に対応する平面図であり、本実施形態における医療用マーカーによる縫合糸の結紮を説明するための図である。
【
図6】
図3に対応する平面図であり、本実施形態における医療用マーカーによる縫合糸の結紮を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置について説明するための図である。
【
図8】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第1工程を示す図である。
【
図9】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第2工程を示す図である。
【
図10】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第3工程を示す図である。
【
図11】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第4工程を示す図である。
【
図12】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第5工程を示す図である。
【
図13】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第6工程を示す図である。
【
図14】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第7工程を示す図である。
【
図15】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第8工程を示す図である。
【
図16】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第9工程を示す図である。
【
図17】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第10工程を示す図である。
【
図18】
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、縫合装置を用いて本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する処置の第11工程を示す図である。
【
図19】本発明の実施形態における複数の医療用マーカーを管腔臓器内に留置した状態を示す図である。
【
図20】本発明の実施形態における医療用マーカーを管腔臓器内に留置する際に用いられる結紮装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本明細書では、本発明に係る医療用マーカーを患者の体内に留置する操作者を基準として、患者の体内側を遠位側とし、操作者の手元側を近位側とする。本明細書において参照する図面は、実際の寸法に対して必ずしも正確な縮尺を有するものではなく、本発明に係る構成を模式的に示すために一部を誇張または簡略化したものである。
【0017】
(医療用マーカー)
まず、
図1~
図6を参照しながら、本実施形態における医療用マーカー100の構成について説明する。
図1~
図3は、本実施形態における医療用マーカー100の構成を示す斜視図であり、
図1はチューブ130がループ部分110の中央部に外嵌された状態を示す図、
図2はチューブ130がループ部分110の一方側にスライドされた後の状態を示す図、
図3はチューブ130がループ部分110の一方側にスライドされた後に、ループ部分110の連結用ループ122が切断された状態を示す図である。また、
図4~
図6は、
図1~
図3のそれぞれに対応する平面図であり、本実施形態における医療用マーカー100による縫合糸4の結紮を説明するための図である。
図4~
図6は、チューブ130を2点鎖線で描き、その内腔に引き込まれた縫合糸4の状態が図示されている。
【0018】
図1~
図6に示すように、本実施形態における医療用マーカー100は、ループ部材105、およびチューブ130を備えて構成されている。
【0019】
ループ部材105は、無端状の線材で構成されたループ部分110、チューブ130の内腔に引き込まれないように構成された係止部分151、およびループ部分110と係止部分151とを接続する接続部分152を有している。
【0020】
ループ部分110は、その主たる部分が、長手方向に沿って対向しながら延在する可撓性を有する2本の線材111、112によって構成されている。2本の線材111、112は、長手方向に沿って左右対称に配置されており、先端側(
図1~
図6の左側)に位置する先端側湾曲部111a、112aおよび基端側(
図1~
図6の右側)に位置する基端側湾曲部111b、112bがそれぞれ外方に膨らんだ湾曲形状にくせ付けされている。なお、線材111、112の線径は、特に限定されないが、例えば0.3~0.8mmとすることができる。
【0021】
2本の線材111、112の先端111c、112cは接続部分152の基端面152aにそれぞれ連結されている。2本の線材111、112の基端111d、112dは基端連結部113において相互に連結されている。これにより、ループ部分110は無端状となっている。なお、2本の線材111、112の先端111c、112cも基端側と同様に相互に連結されて、その連結部が接続部分152の基端面152aに連結されてもよい。
【0022】
チューブ130は、先端面130aおよび基端面130bが開口した円筒状の部材である。チューブ130は、その内腔が拡径可能なように弾性を有することが好ましい。チューブ130の内腔には、ループ部材105の無端状のループ部分110を構成する2本の線材111、112が挿通され、ループ部分110に対してチューブ130がスライド可能に外嵌されている。例えば2本の線材111、112を互いに近接させて、基端連結部113をチューブ130の内腔に圧入することで、チューブ130をループ部分110にスライド可能に外嵌させることができる。
【0023】
チューブ130の軸方向の寸法は、特に限定されないが、例えば3~10mmとすることができる。チューブ130の外径は、特に限定されないが、例えば1~2mmとすることができる。チューブ130の内径は、特に限定されないが、例えば0.1~0.8mmとすることができる。
【0024】
2本の線材111、112の基端側湾曲部111b、112bは、2本の線材111、112が互いに最も近接した場合であってもチューブ130の内径よりも大きな離隔距離を保つように構成されている。これにより、ループ部分110の中央部付近に配置されたチューブ130は、基端側湾曲部111b、112bを越えて基端側に容易にスライドできないようになっている。すなわち、基端側湾曲部111b、112bは、ループ部分110に外嵌されたチューブ130の基端側へのスライドを規制する機能を有しており、チューブ130は、基端側湾曲部111b、112bの近傍より基端側に容易にスライドできず、ループ部分110の基端側から抜け落ちないようになっている。
【0025】
2本の線材111、112の先端側湾曲部111a、112aは、後述するようにチューブ130が先端側にスライドしてその内腔に縫合糸4を保持した場合に、チューブ130の基端面130bより基端側に配置される位置に形成されている。先端側湾曲部111a、112aは、外方に膨らむようにくせ付けされており、縫合糸4を保持した状態のチューブ130の内周面に2本の線材111、112が当接してチューブ130の固定を補助する機能を有している。
【0026】
医療用マーカー100を構成するループ部材105の先端側には、係止部分151および接続部分152が設けられている。係止部分151は、ループ部材105がチューブ130の基端側から抜け落ちないようにするために、チューブ130の内腔に引き込まれないように構成されていて、チューブ130の先端側の端面にループ部材105を係止する役割を有している。
【0027】
係止部分151は、接続部分152よりも先端側に設けられており、略円板状に成形されている。係止部分151の外径は、チューブ130の内径よりも大きく、チューブ130が嵌入不可能な寸法に設定されている。これにより、先端側にスライドしたチューブ130の先端面130aは係止部分151の基端面151aに当接して、チューブ130は、係止部分151を越えてスライドできないようになっている。すなわち、係止部分151は、ループ部分110に外嵌されたチューブ130の先端側へのスライドを規制する機能を有しており、チューブ130は、係止部分151より先端側にスライドできず、ループ部材105がチューブの基端側から抜け落ちないようになっている。なお、係止部分151の形状は略円板状に限定されず、係止部分151の一部または全体がチューブ130の内径よりも大きい寸法を有して、チューブ130の先端側へのスライドを規制できるようになっていればよい。
【0028】
接続部分152は略円柱状に成形されている。接続部分152の外径は、チューブ130の内腔に挿入または圧入し得るように、チューブ130の内径と同等または僅かに大きい寸法に設定されている。上述したように、接続部分152の基端面152aには2本の線材111、112の先端111c、112cがそれぞれ連結されており、ループ部分110に外嵌されたチューブ130は先端側にスライドして、接続部分152をチューブ130の内腔に引き込むように接続部分152に嵌り込むことができる。
【0029】
係止部分151の外径は、例えば0.8~2.0mmの範囲で設定することができる。接続部分152の軸方向の長さ(寸法)は、例えば1~5mmの範囲で設定することができる。接続部分152の外径は、例えば0.3~1.6mmの範囲で設定することができる。
【0030】
ループ部材105のループ部分110に外嵌されたチューブ130がループ部分110の中央部付近に配置されている場合、ループ部分110によってチューブ130の軸方向の両端側にループが形成される。本明細書では、チューブ130の先端面130aより先端側に形成されて、医療用マーカー100を管腔臓器の内壁に取り付けて体内に留置することを目的にして縫合糸4等を結紮するために用いられる先端側のループを結紮用ループ121と記載し、チューブ130の基端面130bより基端側に形成されて、縫合糸4等の結紮時に後述する結紮装置2に連結される基端側のループを連結用ループ122と記載する。
【0031】
医療用マーカー100を用いて縫合糸4を結紮する場合、まず、
図4に示すように結紮用ループ121に縫合糸4の両端部を束ねて通し、後述する結紮装置2を用いて、結紮用ループ121がチューブ130内に引き込まれるように、チューブ130を先端側にスライドさせる。これにより、
図5に示すように結紮用ループ121を形成する2本の線材111、112および接続部分152が縫合糸4とともにチューブ130内に圧入されてチューブ130の内腔に引き込まれる。
【0032】
チューブ130の先端面130aが係止部分151の基端面151aと当接する位置までチューブ130をスライドさせると、チューブ130は、ループ部材105の接続部分152および縫合糸4からの圧力によりその内腔が拡径する。そして、チューブ130内に圧入された縫合糸4は、チューブ130の復元力(締付力)によってチューブ130の内周面と接続部分152の外周面との間に挟まれ、チューブ130内に強固に保持される。
【0033】
また、2本の線材111、112の先端側湾曲部111a、112aは、上述のように縫合糸4を保持したチューブ130の基端面130bより基端側に配置されている。先端側湾曲部111a、112aが外方に湾曲するようにくせ付けされていることで、2本の線材111、112はチューブ130の内周面に押し当たってチューブ130が基端側にずれにくくなり、チューブ130による縫合糸4の締め付け状態が維持されるようになっている。
【0034】
上述のように医療用マーカー100によって縫合糸4を結紮した後、必要に応じて、
図3および
図6に示すように、チューブ130の基端面130bより基端側に延在する2本の線材111、112(連結用ループ122を形成する線材111、112)を切除してもよい。2本の線材111、112の基端側を切除した場合であっても、先端側に残ったループ部材105の部分によって、縫合糸4はチューブ130内に強固に保持される。
【0035】
医療用マーカー100を構成するループ部材105、およびチューブ130のうちの少なくとも一方の一部または全体が、蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されている。具体的には、ループ部材105の一部または全体が蛍光体によって構成されていてもよい。あるいは、チューブ130の一部または全体が蛍光体によって構成されていてもよい。
【0036】
また、医療用マーカー100を構成するループ部材105、およびチューブ130の両方の一部または全体が、蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されていてもよい。具体的には、ループ部材105の一部または全体と、チューブ130の一部または全体とが蛍光体によって構成されていてもよい。
【0037】
後述するように、医療用マーカー100は、医療用マーカー100によって縫合糸4を結紮すること等によって、管腔臓器の内壁に取り付けて体内に留置することができる。医療用マーカー100が蛍光体によって構成されることで管腔臓器の内壁に蛍光体を配置することができ、管腔臓器の外側から蛍光体の蛍光を視認することが可能となる。
【0038】
また、管腔臓器の内壁に取り付けた後に医療用マーカー100の基端側に延在する2本の線材111、112を切除した場合には、
図3および
図6に示すループ部材105の先端側の部分が体内に留置されることになる。このことを考慮して、体内に留置されるループ部材105の先端側の部分(例えば、係止部分151)の一部または全体が、蛍光体によって構成されていてもよい。
【0039】
蛍光色素としては、600~1400nmの赤色ないし近赤外の波長域の蛍光を発するものが好ましい。このような波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、生体の組織表面下5~20mm程度まで良好に到達することができる。
【0040】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)等の水溶性色素や、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等の油溶性色素を使用することができる。中でも、体内で溶出することなく安定に高分子材料中に保持される点から高分子材料に相溶性の高い色素が好ましく、特に、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物等が蛍光の発光強度に優れ、ポリウレタン等の高分子材料に対する相溶性、耐光性、耐熱性にも優れる点で好ましい。
【0041】
蛍光色素を含有した蛍光体は、高分子材料組成物を用いて作製することが可能である。例えば、射出成形やインサート成形等によってループ部材105全体を一体に作製する場合、蛍光色素を含有させた高分子材料を溶融材料として使用することで、ループ部材105全体を蛍光体で構成することができる。また、チューブ130も、蛍光色素を含有させた高分子材料を溶融材料として使用して押出成形等によって作製することで、チューブ130全体を蛍光体で構成することができる。また、ガラスやセラミクス等の無機材料からなるマトリクスを用いて蛍光体の一部または全体を作製してもよく、例えば上記の蛍光色素を含有した蛍光粒子を無機材料からなるマトリクスに分散させて得られた無機蛍光体を、医療用マーカー100を構成する蛍光体として用いてもよい。
【0042】
高分子材料に蛍光色素を含有させる方法としては、例えば、二軸混練機を使用して高分子材料に蛍光色素を混練する方法を使用することができる。また、この場合、蛍光色素を含有した部材の保護や生体への影響等を考慮して、蛍光色素を含有しない透明材料で蛍光色素を含有した部材の外表面を更にコーティングしてもよい。
【0043】
蛍光色素を含む高分子材料組成物における蛍光色素の好ましい濃度は、蛍光色素やバインダーとする高分子材料の種類にもよるが、通常、0.1~0.001質量%とすることが好ましい。
【0044】
蛍光色素を含有させる高分子材料としては、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等を使用することができる。
【0045】
蛍光色素を含む高分子材料組成物には、必要に応じて硫酸バリウム等の造影剤を添加してもよい。これにより、体内で医療用マーカー100が管腔臓器の内壁から外れた場合であっても、管腔臓器内の医療用マーカー100を、X線を用いた撮影により追跡することが可能となる。
【0046】
以下、上述した医療用マーカー100の使用例について説明する。医療用マーカー100を管腔臓器の内壁に取り付けて留置する場合、例えば、下記の結紮装置2および縫合装置3を用いることができる。
【0047】
(結紮装置)
結紮装置2は、
図20に示されているように、連結フック21、シース22、駆動ワイヤ23、ベース側ロック部材25およびシース側ロック部材26を有するロック機構、ベース部27およびスライダ部28を有する操作部を概略備えて構成されている。
【0048】
シース22は内視鏡のチャネルに挿通可能に構成された可撓性を有する中空チューブからなる。シース22としては、樹脂等からなる単純なチューブを用いてもよいが、本実施形態ではコイルチューブを用いている。コイルチューブとしては、ステンレス鋼等の金属からなる長尺平板を螺旋状に巻回してなる平線コイルチューブを用いることができる。ただし、丸線コイルチューブまたは内面平コイルチューブを用いてもよい。なお、シース22としては、ワイヤチューブを用いてもよい。ワイヤチューブは、例えばステンレス鋼等の金属からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を中空となるように螺旋状に撚ってなる中空撚り線からなるチューブである。
【0049】
シース22のコイルチューブの先端(遠位端)には、略円筒状の先端部材24が一体的に固定されており、先端部材24の遠位端面は、医療用マーカー100のチューブ130に当接可能な当接部となっている。ただし、コストや部品点数の低減等の観点からは、先端部材24は設けなくてもよく、この場合には、コイルチューブの遠位端面が医療用マーカー100のチューブ130に当接する当接部となる。
【0050】
駆動ワイヤ23は可撓性を有するワイヤからなり、本実施形態ではワイヤロープを用いている。ワイヤロープは、例えばステンレス鋼等の金属からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を螺旋状に撚ってなる撚り線からなるロープである。ただし、駆動ワイヤ23としては、単線からなるワイヤを用いてもよい。
【0051】
駆動ワイヤ23の先端(遠位端)には、連結フック21が一体的に取り付けられている。連結フック21は、その先端に行くに従って互いに略ハの字状に開脚するように配置された一対のアーム部21aおよびアーム部21aの先端部をそれぞれ内側に折り曲げてなる爪部21bを有する弾性体からなる。アーム部21aの基端部は互いに一体化されて、駆動ワイヤ23の先端(遠位端)に溶接等により一体的に固定されている。
【0052】
連結フック21は、駆動ワイヤ23をシース22に対して遠位端側に押し出すようにスライド(すなわち、シース22を駆動ワイヤ23に対して近位端側にスライド)させることにより、シース22の遠位端から突出して自己の弾性により略ハの字状に開脚する。また、これと反対に、駆動ワイヤ23をシース22に対して近位端側に引き込むようにスライド(すなわち、シース22を駆動ワイヤ23に対して遠位端側にスライド)させることにより、シース22の遠位端の内部に収納されて閉脚するようになっている。
【0053】
駆動ワイヤ23を一定の位置に保持して、シース22を押し出す/引き込むように操作すれば、連結フック21の位置を一定に保ったままで、連結フック21の一対のアーム部21aを自在に開閉(把持または把持解除)することができる。連結フック21としては、ステンレス鋼等の金属からなるものを用いることができる。
【0054】
駆動ワイヤ23が挿通されたシース22の基端部(近位端)は、ベース側ロック部材25およびシース側ロック部材26を有するルアーロック機構を介して、ベース部27の遠位端に接続および固定されている。
【0055】
ベース部27には、スライダ部28がスライド可能に取り付けられており、駆動ワイヤ23の近位端は、シース側ロック部材26およびベース側ロック部材25のそれぞれの通孔を通過して、スライダ部28まで至っており、ロックねじ29を介して、スライダ部28に着脱可能に固定されるようになっている。
【0056】
ベース部27に対してスライダ部28を遠位端側にスライドさせることにより、駆動ワイヤ23の遠位端に設けられた連結フック21がシース22の遠位端から押し出され、自己の弾性によって略ハの字状に開脚する。これと反対に、ベース部27に対してスライダ部28を近位端側にスライドさせることにより、駆動ワイヤ23の遠位端に設けられた連結フック21がシース22の遠位端から埋没してシース22の内部に収容される。
【0057】
(縫合装置)
縫合装置3は、
図8に示されているように、前後一対のアーム31、32と、この前後一対のアーム31、32を作動させるアーム作動部33とを備えている。この縫合装置3は、内視鏡1のシャフトの外側に当該シャフトに沿ってアーム作動部33を取り付けることによって、内視鏡1に固定して使用される。内視鏡1のカメラによって前後一対のアーム31、32の動きを確認しながら、予め縫合糸4が取り付けられた前後一対のアーム31、32を使用して、管腔臓器の内壁に縫合糸4を縫い付けることができる。
【0058】
アーム作動部33は、軸方向に沿って延びた長尺な部材であり、内視鏡1のシャフトの屈曲に追従して屈曲できる程度の柔軟性を有する3本のチューブ(または2本のチューブとワイヤ)から構成されている。すなわち、アーム作動部33は、ケースチューブ33aと、後側アーム移動チューブ33bと、前側アーム移動チューブ33c(または前側アーム移動ワイヤ)とによって構成されている。
【0059】
ケースチューブ33aは、内視鏡取付具1aによって内視鏡1のシャフトに固定される中空なチューブ状の部材である。ケースチューブ33aは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の素材で形成することができる。
【0060】
後側アーム移動チューブ33bは、ケースチューブ33a内に挿通された中空なチューブ状の部材であり、ケースチューブ33a内において、その軸方向に沿って移動可能かつ軸周りに回転できるように設けられている。後側アーム移動チューブ33bの先端には、後側アーム32が連結されている。後側アーム移動チューブ33bは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂製チューブや、金属製ワイヤからなるワイヤチューブ等で形成することができる。特に、後側アーム移動チューブ33bを回転させて後側アーム32を揺動させるため、手元側で後側アーム移動チューブ33bを回転させたときに、その回転量と同じだけ後側アーム32を揺動させることができるようなものが好ましい。例えば、軸方向が互いに平行かつ同軸円状に並ぶように配設された複数本の金属製ワイヤによってワイヤチューブを形成して後側アーム移動チューブ33bとすれば、上記の機能を実現することができる。
【0061】
前側アーム移動チューブ33cは、後側アーム移動チューブ33b内に挿通されたチューブであり、後側アーム移動チューブ33b内において、その軸方向に沿って移動可能かつ軸周りに回転できるように設けられている。前側アーム移動チューブ33cの先端には、前側アーム31が連結されている。前側アーム移動チューブ33cとしては、特に限定されないが、先端部10mm程度は剛性が高く、先端部よりも手元側は軟らかいが進退方向には収縮または拡張しないような素材を用いることが好ましい。例えば、先端10mm程度に、金属等によって形成された剛性の高い棒状部を有し、その部分以外はワイヤ等によって形成されたものを、前側アーム移動チューブ33cとして使用することができる。特に、前側アーム移動チューブ33cを回転させて前側アーム31を揺動させるため、手元側で前側アーム移動チューブ33cを回転させたときに、その回転量と同じだけ後側アーム32を揺動させることができるようなものが好ましい。
【0062】
前側アーム移動チューブ33cの基端および後側アーム移動チューブ33bの基端は、内視鏡1のシャフトを操作する操作部近傍まで延びている。このため、各チューブ33b、33cの基端を操作することによって、各チューブ33b、33cの先端の動き(軸方向に沿った進退、軸周りの回転)を操作できるようになっている。
【0063】
前側アーム移動チューブ33cと後側アーム移動チューブ33bを同時に、またはいずれか一方を、軸方向に沿って移動させれば、前後一対のアーム31、32を互いに接近または離間させることができる。また、前側アーム移動チューブ33cをその軸周りに回転させれば、前側アーム31を前側アーム移動チューブ33cの軸周りに回転させることができ、後側アーム移動チューブ33bをその軸周りに回転させれば、後側アーム32を後側アーム移動チューブ33bの軸周りに回転させることができる。
【0064】
なお、アーム作動部33の外径(すなわち、ケースチューブ33aの外径)は、本実施形態の縫合装置3を取り付けた内視鏡1を管腔臓器内(またはオーバーチューブ内)に挿入することができる程度であればよく、特に限定されない。例えば、アーム作動部33の外径は、アーム作動部33と内視鏡1のシャフトの外径を合わせた径が、11~13mm程度が好ましく、11~12mm程度がより好ましい。
【0065】
後側アーム32は、略短冊状に形成された短冊部材32aを含み、後側アーム32には、後側アーム移動チューブ33bの先端が連結されている。以下、後側アーム移動チューブ33bと後側アーム32の連結部分における後側アーム移動チューブ33bの中心軸を、単に後側アーム移動チューブ33bの先端の中心軸という。なお、後側アーム32には、上下に貫通する貫通孔(不図示)が形成されており、後側アーム移動チューブ33bの先端の中心軸が貫通孔の中心軸とほぼ同軸となるように配設されている。
【0066】
後側アーム32の短冊部材32aの先端部には、針状部材34が設けられている。この針状部材34は、大径部34a、中径部34b、小径部34cおよび矢尻状部34dを有している。矢尻状部34dは、その基端の外径が小径部34cの先端の外径よりも大きく、小径部34cとの連結部分に段差ができるように形成されている。
【0067】
針状部材34は、その先端が前側アーム31に向いた状態かつ、その中心軸が後側アーム移動チューブ33bの先端の中心軸と略平行となるように後側アーム32の短冊部材32aに取り付けられている。
【0068】
後側アーム移動チューブ33bをその中心軸周りに回転させれば、針状部材34の中心軸が後側アーム移動チューブ33bの先端の中心軸と平行な状態を維持したまま、針状部材34を後側アーム移動チューブ33bの先端の中心軸周りに旋回させることができる。
【0069】
なお、針状部材34は、縫合する対象に突き刺してその対象を貫通させることができ、しかも、対象を貫通した状態から逆方向に移動させて対象から引き抜くことができる程度の長さおよび強度を有するものであればよく、その長さ、軸径は特に限定されない。例えば、針状部材34の長さは、7~20mm程度が好ましく、7~10mm程度がより好ましい。また、針状部材34の大径部34aの軸径は1.5~3.0mm程度、中径部34bの軸径は1.0~2.0mm程度、小径部34cの軸径は0.5~1mm程度、矢尻状部34dの軸径は最大径で0.6~1.5mm程度が好ましい。また、針状部材34の素材は特に限定されないが、強度を確保できることから金属製であることが好ましい。
【0070】
針状部材34の大径部34aには、上述した医療用マーカー100が装着されている。医療用マーカー100は、結紮用ループ121を針状部材34の大径部34aが貫通した状態で、チューブ130を結紮用ループ121側にスライドさせることにより、針状部材34の大径部34aに装着されている。
【0071】
前側アーム31の先端部には、略U字状(V字状、コの字状であってもよい)に形成された二股部31sが設けられており、この二股部31sに渡るように、縫合糸4が装着される。縫合糸4の両端には、それぞれ円環状に形成された係合部材4a、4bが取り付けられている。前側アーム31の二股部31sのそれぞれの先端部には、前面(
図8において下面)および後面(
図8において上面)に渡って貫通する貫通孔(不図示)が形成されており、貫通孔の後面側に係合部材4a、4bが係合可能な収容空間(不図示)が形成されている。収容空間は、貫通孔よりも僅かに大きい径であって、係合部材4a、4bがその表裏を貫通する貫通孔が二股部31sの貫通孔に対して略同心となるように配置した状態で、その内壁によって係脱可能に係合され得る程度の径に設定されている。
【0072】
各係合部材4a、4bの貫通孔は、針状部材34の矢尻状部34dを挿通させることはできるが、矢尻状部34dが完全に貫通孔を挿通すると針状部材34から係合部材4a、4bが抜け落ちない構造となっている。具体的には、各係合部材4a、4bは、その内径が針状部材34の矢尻状部34dの外径よりも小さいが針状部材34の小径部34cの先端(つまり矢尻状部34dとの連結部分)の軸径よりも大きくなるように形成されている。なお、二股部31sの中央部には前面(
図8においては下面)に開口する凹状の縫合糸収容部(不図示)が設けられており、二股部31sに渡って配置された縫合糸4の中間部分は、この縫合糸収容部に収容されるようになっている。
【0073】
以下、上述した医療用マーカー100、結紮装置2、縫合装置3および縫合糸4と、内視鏡1とを使用した医療用マーカー100の留置作業を、
図7~
図18を参照して説明する。以下では、管腔臓器の内壁(胃壁等)に医療用マーカー100を取り付ける場合を例として説明する。
【0074】
図7には、管腔臓器の内壁である粘膜5と外壁である漿膜6、管腔臓器の内壁側に生じた腫瘍7が示されている。また、
図8~
図18は、
図7の領域Aの近傍の模式的な拡大図であり、医療用マーカー100を管腔臓器内に留置する処置の第1~第11工程を示す図である。なお、図示明瞭化のため、
図7~
図15では、管腔臓器の粘膜5および漿膜6が断面で示されている。また、
図8~
図18では、管腔臓器の内壁を図面の右側に図示している。
【0075】
まず、
図7に示すように、縫合装置3に医療用マーカー100を装着し、この縫合装置3を内視鏡取付具1aによって取り付けた内視鏡1のシャフトを体内に挿入して、内視鏡1の遠位端を医療用マーカー100の留置位置である管腔臓器内の病変(腫瘍7)の近傍に配置する。
【0076】
その状態で、
図8に示すように、アーム作動部33の後側アーム移動チューブ33bおよび前側アーム移動チューブ33cを操作して前側アーム31を管腔臓器の内壁に押し付けながら、管腔臓器の内壁の突出部Pを前側アーム31の一方の二股部31sと針状部材34との間に挟み込める位置に配置する。これにより、前側アーム31は、前側アーム31の一方の二股部31sと針状部材34との間に突出部Pを挟み込める位置に位置決めされる。なお、内視鏡1に挿通した内視鏡用鉗子等を用いて管腔臓器の内壁を内側に引き込んで管腔臓器の内壁に突出部Pを人為的に形成した後、その突出部Pを針状部材34の先端と前側アーム31との間に配置してもよい。
【0077】
この状態から、アーム作動部33の後側アーム移動チューブ33bを操作して、後側アーム32を前側アーム31に接近させると、
図9に示すように、針状部材34が突出部Pに突き刺さって突出部Pの一方の面から他方の面に貫通し、さらに針状部材34の矢尻状部34dが一方の二股部31sの収容空間内に収容(支持)された係合部材4aの貫通孔を貫通して通過する。これにより、係合部材4aの貫通孔は、針状部材34の小径部34cに至り、係合部材4aが針状部材34に係合された状態となる。
【0078】
次いで、アーム作動部33の後側アーム移動チューブ33bを操作して、後側アーム32を前側アーム31から離間させると、
図10に示すように、係合部材4aが係合された針状部材34が突出部Pに挿通させる際に形成された孔(以下、第1穿孔という)を逆行して突出部Pの一方の面側に戻る。これにより、縫合糸4の一部(係合部材4a側の一部)が突出部Pに形成された第1穿孔を貫通した状態となる。
【0079】
その後、
図11に示すように、前側アーム31の他方の二股部31sと針状部材34によって、突出部Pに形成された第1穿孔とは異なる位置が挟み込まれた状態となるように、前側アーム31と後側アーム32を配置する。
【0080】
この状態から、アーム作動部33の後側アーム移動チューブ33bを操作して、後側アーム32を前側アーム31に接近させると、
図12に示すように、針状部材34が突出部Pに突き刺さって突出部Pの一方の面から他方の面に貫通し、さらに針状部材34の矢尻状部34dが他方の二股部31sの収容空間内に収容(支持)された係合部材4bの貫通孔を貫通して通過する。これにより、係合部材4bの貫通孔は、針状部材34の小径部34cに至り、係合部材4bが針状部材34に係合された状態となる。
【0081】
次いで、アーム作動部33の後側アーム移動チューブ33bを操作して、後側アーム32を前側アーム31から離間させると、
図13に示すように、係合部材4bが係合された針状部材34が突出部Pに挿通させる際に形成された孔(以下、第2穿孔という)を逆行して突出部Pの一方の面側に戻る。これにより、縫合糸4の一部(係合部材4b側の一部)が突出部Pに形成された第2穿孔を貫通した状態となる。
【0082】
これにより、縫合糸4の両端が固定されている一対の係合部材4a、4bがいずれも一本の針状部材34に係合した状態となる。縫合糸4は、突出部Pの一方の面側に配置された針状部材34から第1穿孔を貫通して突出部Pの他方の面側に出て、突出部Pの他方の面側から第2穿孔を貫通して針状部材34に戻る輪を形成する。
【0083】
次いで、
図14に示すように、アーム作動部33を操作して、針状部材34が突出部Pから離間するように移動させる。これにより、縫合糸4の両端が突出部Pから離間するように移動するので、第1穿孔を貫通する縫合糸4と第2穿孔を貫通する縫合糸4とが引き寄せられる。
【0084】
続いて、縫合糸4の結紮作業を行う。この作業には、
図20に示す結紮装置2が用いられる。まず、上述した結紮装置2のシース22を、内視鏡1のチャネルを介して挿入し、針状部材34の大径部34aに装着されている医療用マーカー100の連結用ループ122の近傍にシース22の遠位端を配置する。なお、この挿入作業は、ベース部27に対してスライダ部28を近位端側にスライドして、駆動ワイヤ23の遠位端に設けられた連結フック21がシース22の遠位端から埋没してシース22の内部に収容した状態で行われる。
【0085】
その後、ベース部27に対してスライダ部28を遠位端側にスライドして、駆動ワイヤ23の遠位端に設けられた連結フック21をシース22の遠位端から押し出すと(突出させると)、一対のアーム部21aが自己の弾性によって略ハの字状に開脚する。
【0086】
次いで、連結フック21の一対のアーム部21aで医療用マーカー100の連結用ループ122を把持可能な位置まで近接させる。この状態で、スライダ部28の位置が変化しないようにしつつ、スライダ部28に対してベース部27を遠位端側にスライドすると、シース22が遠位端側に移動して、シース22の遠位端から突出している連結フック21の一対のアーム部21aをその内部に引き込みつつ閉脚させる。
【0087】
これにより、連結フック21の一対のアーム部21a(爪部21b)により、医療用マーカー100の位置がずれることなく、連結用ループ122が把持される。この状態でさらに、スライダ部28に対してベース部27を遠位端側にスライドさせると、一対のアーム部21aに把持された連結用ループ122がシース22の遠位端から内側に引き込まれ、シース22の遠位端面がチューブ130の基端面130bに当接する。その結果、医療用マーカー100が未結紮の状態のまま、結紮装置2のシース22の遠位端に連結された状態となる。
【0088】
次いで、医療用マーカー100が連結されたシース22の先端部を、突出部P側(
図15において下方)へ移動させると、縫合糸4に取り付けられている係合部材4a、4bが医療用マーカー100の結紮用ループ121を通り、
図15に示されているように、医療用マーカー100の結紮用ループ121の内側に縫合糸4の両端部が挿通された状態となる。これにより、縫合糸4が絞り込まれた状態となる。この状態で、スライダ部28に対してベース部27を遠位端側にさらにスライドさせると、連結用ループ122がシース22の内側にさらに引き込まれて、シース22の遠位端面に押されたチューブ130が医療用マーカー100の先端側(医療用マーカー100の係止部分151側)にスライドし、縫合糸4の両端部が束ねられた状態となる。
【0089】
縫合糸4の両端部が束ねられた状態からさらにスライダ部28に対してベース部27を遠位端側にスライドさせると、
図16に示すように、チューブ130の内腔に接続部分152が縫合糸4とともに引き込まれ、チューブ130内に接続部分152および縫合糸4が密着しかつ圧縮された状態で収容される。このとき、チューブ130の先端面130aは、係止部分151の基端面151aに当接して、ループ部材105の接続部分152およびループ部分110の一部と縫合糸4とがチューブ130内に締め付けられた状態で収容される(
図2および
図5に示す状態)。これにより、縫合糸4およびループ部分110は、チューブ130から抜け落ちないように確実に固定される。
【0090】
縫合糸4およびループ部分110をチューブ130によって固定した後、スライダ部28の位置が変化しないようにしつつ、スライダ部28に対してベース部27を近位端側にスライドすると、シース22が近位端側に移動して、シース22の遠位端から連結用ループ122および連結フック21が突出(露出)する。その結果、連結フック21の一対のアーム部21aが自己の弾性により開脚して、連結用ループ122の把持が解除され、
図17に示すように、縫合糸4を結紮した医療用マーカー100は結紮装置2から分離される。
【0091】
最後に、
図18に示すように、医療用マーカー100と縫合装置3との間の縫合糸4をループカッターと称される内視鏡用はさみ鉗子等により切断して、医療用マーカー100と縫合装置3とを切り離す。また、必要に応じて、結紮状態の医療用マーカー100の連結用ループ122をループカッター等により切断して回収してもよい(
図3および
図6に示す状態)。
【0092】
腫瘍7の近傍に複数の医療用マーカー100を留置する場合には、縫合装置3を体外に取り出し、次いで、新たな医療用マーカー100を装着した縫合装置3を体内に挿入して、上述した工程を再び行う。これにより、
図19に示すように、腫瘍7の近傍に位置する管腔臓器の内壁に複数の医療用マーカー100を取り付けることができる。所望の個数の医療用マーカー100を留置すると、医療用マーカー100の留置に係る処置が完了する。
【0093】
以上のように体内に留置された医療用マーカー100は、医療用マーカー100を構成するループ部材105、およびチューブ130のうちの少なくとも一方の一部または全体が、蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されている。医療用マーカー100は、管腔臓器の内壁である体内組織に取り付けられた状態で体内に留置されており、医療用マーカー100を構成する蛍光体の蛍光を管腔臓器の外側から視認することが可能である。例えば管腔臓器の外側からアプローチする手術前に上述のように1つまたは複数の医療用マーカー100を病変(腫瘍7)の近傍に留置しておき、手術時に管腔臓器の外側から励起光を照射して医療用マーカー100を構成する部材が発する蛍光をその蛍光の波長等に応じてカメラ等を適宜用いて視認することで、医療用マーカー100の位置を特定でき、これにより病変(腫瘍7)の位置を管腔臓器の外側から特定できるようになる。
【0094】
また、医療用マーカー100によって結紮する縫合糸4として、蛍光色素を含有した縫合糸4を用いてもよい。蛍光体を含んで構成された医療用マーカー100を用いて蛍光色素を含有した縫合糸4を結紮することで、管腔臓器の外側からの蛍光の視認性をより向上させることができるようになる。
【0095】
また、上述した実施形態では、管腔臓器内に縫い付けた縫合糸4を医療用マーカー100で結紮することにより、管腔臓器内に医療用マーカー100を留置する例について述べたが、医療用マーカー100を取り付ける対象は縫合糸4に限定されず、管腔臓器内の隆起部(ポリープ、腫瘍等)等に取り付けることで管腔臓器内に留置して用いることもできる。
【0096】
以下、上述した実施形態における医療用マーカー100の作用について説明する。
【0097】
上述した実施形態における医療用マーカー100は、無端状の線材111、112で構成されたループ部分110を有するループ部材105と、ループ部材105のループ部分110に対してスライド可能に外嵌されるチューブ130と、を備えている。医療用マーカー100は、ループ部材105、およびチューブ130のうちの少なくとも一方の一部または全体が、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されている。
【0098】
上記の構成によれば、医療用マーカー100を構成するループ部材105、およびチューブ130のうちの少なくとも一方の一部または全体が、励起光の照射により所定の波長域の蛍光を発する蛍光色素を含有した蛍光体によって構成されている。これにより、医療用マーカー100が管腔臓器の内壁に縫合された縫合糸4等を結紮した状態で、医療用マーカー100を管腔臓器の内壁に留置することができ、管腔臓器の内壁への取付安定性に優れ、留置可能期間が向上された医療用マーカー100を提供することができる。また、蛍光体が管腔臓器の内壁の近傍に配置されるので、蛍光体が発する蛍光を視認することで医療用マーカー100の位置を特定できるようになり、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカー100を提供することができる。
【0099】
上述した実施形態における医療用マーカー100では、ループ部材105は、チューブ130の内腔に引き込まれないように構成された係止部分151を有していてもよい。
【0100】
上記の構成によれば、医療用マーカー100を管腔臓器内に取り付けるために、管腔臓器の内壁に縫合された縫合糸4等をループ部分110で結紮しようとする際に、ループ部材105がチューブ130から抜け落ちてしまう事象が防止され、留置容易性に優れた医療用マーカー100を提供することができる。
【0101】
上述した実施形態における医療用マーカー100は、ループ部材105の係止部分151の一部または全体が蛍光体によって構成されていてもよい。
【0102】
上記の構成によれば、医療用マーカー100を管腔臓器の内壁に取り付けた際に、管腔臓器の内壁の近傍に蛍光体によって構成された係止部分151が配置されるので、管腔臓器の外側からの視認性に優れた医療用マーカー100を提供することができる。
【0103】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0104】
1 内視鏡
1a 内視鏡取付具
2 結紮装置
3 縫合装置
4 縫合糸
4a、4b 係合部材
5 粘膜
6 漿膜
7 腫瘍
21 連結フック
21a アーム部
21b 爪部
22 シース
23 駆動ワイヤ
24 先端部材
25 ベース側ロック部材
26 シース側ロック部材
27 ベース部
28 スライダ部
31 前側アーム
31s 二股部
32 後側アーム
32a 短冊部材
33 アーム作動部
33a ケースチューブ
33b 後側アーム移動チューブ
33c 前側アーム移動チューブ
34 針状部材
34a 大径部
34b 中径部
34c 小径部
34d 矢尻状部
100 医療用マーカー
100a 結紮部
105 ループ部材
110 ループ部分
111、112 線材
111a、112a 先端側湾曲部
111b、112b 基端側湾曲部
111c、112c 先端(線材の先端)
111d、112d 基端(線材の基端)
113 基端連結部
121 結紮用ループ
122 連結用ループ
130 チューブ
130a 先端面(チューブの先端面)
130b 基端面(チューブの基端面)
151 係止部分
151a 基端面(係止部分の基端面)
152 接続部分
152a 基端面(接続部分の基端面)
P 突出部