IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-切削装置の制御方法 図1
  • 特開-切削装置の制御方法 図2
  • 特開-切削装置の制御方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149997
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】切削装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/013 20060101AFI20231005BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20231005BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20231005BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20231005BHJP
   C25C 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23Q15/013
B23C3/00
B23C9/00 Z
B23Q17/09 H
C25C1/00 303A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058855
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 賢太郎
【テーマコード(参考)】
3C001
3C022
3C029
4K058
【Fターム(参考)】
3C001KB04
3C001SB03
3C001TA05
3C001TB03
3C022AA01
3C022AA07
3C022AA08
3C022AA09
3C022AA10
3C022QQ05
3C029CC05
4K058AA13
4K058EC01
4K058FB03
(57)【要約】
【課題】アノード矯正設備の稼働率の低下を防止することができる切削装置の制御方法を提供する。
【解決手段】アノードAの耳部rの厚さの測定値と予め定められているアノードAの耳部rの厚さの許容値とを比較し、アノードAの耳部rの厚さの測定値が許容値以下である場合には切削装置10の送り速度を基準速度とし、アノードAの耳部rの厚さの測定値が許容値を超えると切削装置10の送り速度を基準速度より低速とする制御を行う切削装置の制御方法であって、アノードAの耳部rの厚さの測定値に基づいて、切削装置の送り速度を基準速度と低速との間で切り替える通常運転モードS1と、切削装置10の送り速度を強制的に低速で実施させる強制低速運転モードS2と、を有しており、強制低速運転モードS2の状態において、切削装置10に加わる負荷が所定の値を越えた場合には、切削装置10の送り速度を低速よりも遅い微速に切り替える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードの耳部の厚さの測定値と予め定められているアノードの耳部の厚さの許容値とを比較し、アノードの耳部の厚さの測定値が許容値以下である場合には切削装置の送り速度を基準速度とし、アノードの耳部の厚さの測定値が許容値を超えると切削装置の送り速度を基準速度より低速とする制御を行うアノードの耳部を切削する切削装置の制御方法であって、
アノードの耳部の厚さの測定値に基づいて、切削装置の送り速度を基準速度と低速との間で切り替える通常運転モードと、
切削装置の送り速度を強制的に低速で実施させる強制低速運転モードと、を有しており、
強制低速運転モードの状態において、切削装置に加わる負荷が所定の値を越えた場合には、切削装置の送り速度を低速よりも遅い微速に切り替える
ことを特徴とする切削装置の制御方法。
【請求項2】
強制低速運転モードにおいて、
アノードの耳部の厚さの測定値が許容値より大きい制限値を超えると、切削装置の送り速度を低速から微速に切り替える
ことを特徴とする請求項1記載の切削装置の制御方法。
【請求項3】
作業者が操作する外部入力手段からの外部入力によって通常運転モードと強制低速運転モードとを切り替える
ことを特徴とする請求項1または2記載の切削装置の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置の制御方法に関する。さらに詳しくは、電解精製に使用するアノードの耳平面を切削する切削装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅精鉱から電気銅を製造する場合には、以下の工程で電気銅が製造される。
まず、銅精鉱を自熔炉において溶融してマットを製造し、このマットを転炉で酸化することによって粗銅を製造する。この粗銅を精製炉において精製したのち鋳造して、アノードが形成し、このアノードを電解精製することによって、電気銅が製造される。
【0003】
電解精製では、アノードとカソードとが交互に並ぶように銅電解槽中の硫酸銅溶液に浸漬されるが、アノードおよびカソードは、アノードおよびカソードに電気を供給する電極(ブスバー)に懸垂された状態で保持される。
【0004】
しかし、鋳造されたままのアノードには歪みや曲がりなどがあり、そのままでは電解槽に吊下げられないので、アノードはアノード矯正設備のアノードプレス工程(アノード整型機)で整型される。このアノードプレス工程では、アノードの垂直性の矯正とともに、切削装置においてブスバーと接触するアノードの耳部下面の平準化及び耳部の鋳バリ除去が実施される。具体的には、アノードの耳部下面は、切削装置のフライスカッター等によって切削され平準が行われる(例えば、特許文献1等)。また、切削装置はアノードの耳部下面と交差する面(アノードの前面または背面側に位置する面、耳平面という場合がある)を切削するフライスカッター等を備えており、このフライスカッター等によって、アノードの耳部下面の切削と同時に、アノードの耳平面が切削されて鋳バリの除去が行われる。
【0005】
ところで、アノードプレス工程ではアノードの耳部の厚さも測定されており、測定されたアノードの耳部の厚さがあらかじめ設定された厚み(以下では正常厚みという)から外れている場合がある。例えば、アノードの耳部の厚さが正常厚みよりも厚くなっている場合がある。アノードの耳平面を切削するフライスカッター等はアノードの耳部が正常厚みであることを前提に切りこみ量が所定の量(つまり適切に鋳バリを除去できる量)となるように調整されている。そのため、アノードの耳部の厚さが正常厚みよりも厚くなった場合には、アノードの耳平面に対する切削装置のフライスカッター等の接触状態が変化し、アノードの耳平面を切削する際の切削抵抗が大きくなる可能性がある。アノードの耳平面を切削する際の切削抵抗が大きくなると、フライスカッター等のモータに電力を供給するサーボアンプの過負荷異常が発生する場合があり、サーボアンプの過負荷異常が発生すると切削面が荒れるという問題が生じる。
【0006】
そこで、アノードの耳部の厚さが正常厚みから外れた場合には、サーボアンプの過負荷異常が発生することを防止するために、切削装置の送り速度を遅くして切削抵抗を小さくすることが行われている。具体的には、アノードの耳部の厚さが正常厚みから外れたことが通知されると、作業者が制御盤等を操作して、切削装置の送り速度を、通常の送り速度から低速の状態に切り替える制御が行われている。
【0007】
一方、アノード矯正設備の稼働率を向上する上では、切削装置におけるアノードの耳部下面や耳平面の切削を早くすることが望ましい。つまり、切削装置の送り速度をできるだけ速くして切削を行うことが望ましい。しかし、送り速度を速くして耳平面の切削を行った場合、アノードの耳部の厚さが正常厚みの範囲内であってもサーボアンプの過負荷異常が発生しやすい。このため、実際の操業では、サーボアンプの過負荷異常を防ぐために、上述したような送り速度を切り替える制御を行わず、強制的に送り速度を低速として切削作業を行う操業(強制低速度操業)も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭60-134510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、強制低速度操業を実施してもアノード耳部の厚みによってはサーボアンプの過負荷異常が発生する場合があり、強制低速度操業の状態においてサーボアンプの過負荷異常が発生すれば切削装置が停止してアノード矯正設備が即時停止してしまう。アノード矯正設備が即時停止した場合、自動運転を再開するには、アノード矯正設備の各装置を個別に手動で操作して原点まで移動させる等の調整作業が必要となり、作業者の労働負担及び修理コストの増加等が生じる。そして、自動運転の停止が頻繁に発生すれば、アノード矯正設備の稼働率が低下するため、操業の遅れも発生する。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、アノード矯正設備の稼働率の低下を防止することができる切削装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の切削装置の制御方法は、アノードの耳部の厚さの測定値と予め定められているアノードの耳部の厚さの許容値とを比較し、アノードの耳部の厚さの測定値が許容値以下である場合には切削装置の送り速度を基準速度とし、アノードの耳部の厚さの測定値が許容値を超えると切削装置の送り速度を基準速度より低速とする制御を行うアノードの耳部を切削する切削装置の制御方法であって、アノードの耳部の厚さの測定値に基づいて、切削装置の送り速度を基準速度と低速との間で切り替える通常運転モードと、切削装置の送り速度を強制的に低速で実施させる強制低速運転モードと、を有しており、強制低速運転モードの状態において、切削装置に加わる負荷が所定の値を越えた場合には、切削装置の送り速度を低速よりも遅い微速に切り替えることを特徴とする。
第2発明の切削装置の制御方法は、第1発明において、強制低速運転モードにおいて、アノードの耳部の厚さの測定値が許容値より大きい制限値を超えると、切削装置の送り速度を低速から微速に切り替えることを特徴とする。
第3発明の切削装置の制御方法は、第1または第2発明において、作業者が操作する外部入力手段からの外部入力によって通常運転モードと強制低速運転モードとを切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、操業状態に合わせて切削装置の稼動状態を適切な状態に維持できるので、過負荷による切削装置の停止を効果的に防止できる。したがって、切削装置の停止に起因するアノード矯正設備の稼働率低下を防止することができる。
第2発明によれば、アノードの耳部の厚さの測定値に基づいて低速と微速を切り替えるので、過負荷による切削装置の停止を効果的に防止できる。
第3発明によれば、外部入力手段を操作することによって作業者が通常運転モードと強制低速運転モードとを切り替えることができるので、切削装置の過負荷を未然に防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の切削装置の制御方法の概略制御フロー図である。
図2】切削設備1の概略説明図である。
図3図2のX方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の切削装置の制御方法は、銅電解製錬に使用するアノードの耳部を切削する切削装置の制御方法であって、切削装置の稼働状態を適切に維持できるようにしたことに特徴を有している。
【0015】
<アノードプレス工程について>
まず、本実施形態の切削装置の制御方法を説明する前に、本実施形態の切削装置の制御方法によって制御される切削装置10を採用したアノードプレス工程を実施する切削設備1の一例を説明する。
【0016】
図2および図3において、符号Cは、アノードAを搬送するチェーンコンベアを示している。このチェーンコンベアCは、一対のチェーンCa,Caを備えており、アノードAは、一対の耳部r,rを一対のチェーンCa,Caに引っ掛けた状態で搬送される。
【0017】
チェーンコンベアCの移動経路には、切削設備1が設けられている。
この切削設備1は、アノードAをクランプするクランプ装置2と、このクランプ装置2の位置と一対のチェーンCa,Caとの間でアノードAを移動させる昇降装置3と、クランプ装置2によって保持されているアノードAの一対の耳部r,rをそれぞれ切削する一対の切削装置10,10と、一対の切削装置10,10をアノードAに対してそれぞれ接近離間させる一対の移動機構5,5と、を備えている。
【0018】
クランプ装置2は、アノードAを前後から挟んで保持する保持部2a,2aを備えている。この保持部2a,2aをシリンダ機構などで接近離間させることによって、アノードAを保持する。
【0019】
昇降装置3は、アノードAの一対の耳部r,rをひっかけて保持する保持バー3a,3aを備えている。この保持バー3a,3aを、シリンダ機構などによって昇降させることによって、アノードAを、クランプ装置2の位置と一対のチェーンCa,Caとの間で移動させることができるようになっている。
【0020】
一対の切削装置10,10は、クランプ装置2によって保持されているアノードAの耳部rを切削するものであり、クランプ装置2の両側にそれぞれ設けられている(図2参照)。具体的には、一対の切削装置10,10は、アノードAの一対の耳部r,rの下面を切削するフライス12と、アノードAの耳平面を切削するフライス(図示せず)と、を備えており、アノードAの一対の耳部r,rの下面と耳平面raとを同時に切削できるようになっている。ここでいうアノードAの耳平面raとは、アノードAの耳部rの下面と交差する面(アノードの前面または背面が側に位置する面、図3でアノードAの耳部rの左右方向の面)を意味している。
【0021】
一対の切削装置10は、各切削装置10が配置される移動テーブル5aを備えた一対の移動機構5,5によってアノードAに対して同時に接近離間できるようになっている。各移動機構5の移動テーブル5aは、レールなどに移動可能に設けられており、移動テーブル5aと設備のフレームなどとの間に設けられたシリンダ等によって移動できるようになっている。
【0022】
以上のような構成であるので、アノードAは、以下のよう作動して一対の耳部r,rの下面および耳平面raが切削される。
【0023】
まず、アノードAは、一定の間隔(図3のL2)を空けた状態で、チェーンコンベアCの一対のチェーンCa,Caに吊り下げられており、一対のチェーンCa,Caを移動させることによって、切削設備1に搬送される。
【0024】
アノードAが所定の位置まで移動すると、一対のチェーンCa,Caは移動を停止する。すると、昇降装置3の保持バー3a,3aが上昇し、アノードAは、保持バー3a,3aに一対の耳部r,rが引っ掛けられた状態でチェーンコンベアCの上方まで持ち上げられる。
【0025】
やがて、アノードAがクランプ装置2の位置まで上昇すると、保持部2a,2aによってアノードAは前後から挟まれて保持される。アノードAがクランプ装置2の保持部2a,2aによって保持されると、昇降装置3の保持バー3a,3aは下降する。
【0026】
昇降装置3の保持バー3a,3aが下降すると、一対の移動機構5,5によって一対の切削装置10,10がアノードAに接近し、一対の切削装置10,10によってアノードAの一対の耳部r,rの下面および耳平面raがそれぞれ切削される。なお、一対の移動機構5,5による一対の切削装置10,10の移動速度、つまり、一対の切削装置10,10をアノードAの一対の耳部r,rに接近させる速度が、一対の切削装置10,10の送り速度になる。以下では、一対の移動機構5,5による一対の切削装置10,10の移動速度を、単に、一対の切削装置10,10の送り速度という。
【0027】
アノードAの一対の耳部r,rの下面および耳平面raの切削が終了すると、一対の移動機構5,5によって一対の切削装置10,10をアノードAから離間する。すると、昇降装置3の保持バー3a,3aが、アノードAの一対の耳部r,rを引っ掛けることができる位置まで上昇し、クランプ装置2によるクランプが解除される。
【0028】
クランプ装置2によるクランプが解除されると、昇降装置3の保持バー3a,3aが下降し、やがてアノードAは、一対の耳部r,rがチェーンコンベアCの一対のチェーンCa,Caに引っ掛かった状態となる。
【0029】
昇降装置3の保持バー3a,3aがさらに下降し、アノードAがチェーンコンベアCの一対のチェーンCa,Caに吊り下げられた状態となると、チェーンコンベアCの一対のチェーンCa,Caが移動し、アノードAは切削設備1から搬出される。
【0030】
<本実施形態の切削装置の制御方法について>
アノードAは、上述した切削設備1に搬入される前に、アノード整型機によって整型され、その際に、アノードAの一対の耳部r,rの厚さ(図3では左右方向の長さ)が測定される。本実施形態の切削装置の制御方法を採用した切削設備1では、アノードAの一対の耳部r,rの厚さの測定値(以下単に測定値という場合がある)に基づいて、一対の切削装置10,10の送り速度が調整される。つまり、一対の移動機構5,5の作動を制御する制御部には測定値の情報が供給されており、制御部は、この測定値の情報に基づいて一対の移動機構5,5の作動、つまり、一対の切削装置10,10の送り速度を制御する機能を有している。
【0031】
なお、アノードプレス工程において、アノードAの一対の耳部r,rは、その厚さがそれぞれ別々に測定されているため、上記送り速度の制御は、各耳部rを切削する切削装置10ごとに異なる制御を行うことが望ましい。つまり、同一のアノードAでも、各耳部rの厚さに応じて、それぞれ切削装置10の送り速度を調整することが望ましい。しかし、一対の耳部r,rの厚さは概ね一致しておりその差がわずかである場合が多いので、一対の耳部r,rの厚さの測定値の平均値や、一対の耳部r,rの厚さのいずれかの測定値を代表値として、一対の切削装置10,10の送り速度を制御してもよい。この場合、一対の切削装置10,10の送り速度は同じ送り速度になる。
【0032】
以下の説明では、一対の切削装置10,10の送り速度が同じ速度となるように制御部が一対の移動機構5,5の作動を制御することを前提として、「一対の切削装置10,10の送り速度」を単に「切削装置10の送り速度」という。
【0033】
図1に示すように、制御部は、移動機構5の作動モードとして、通常運転モードS1と強制低速運転モードS2とを有している。なお、通常運転モードS1と強制低速運転モードS2との切り替えは、切削設備1に設けられたタッチパネルを作業者が操作して、制御部に切り替え信号を送信することによって切り替えることができる。なお、通常運転モードS1と強制低速運転モードS2との切り替えは、切削装置10の負荷率に基づいて、制御部が実施してもよい。
【0034】
まず、通常運転モードS1は、測定値が所定の値(許容値)以下の場合には、切削装置10の送り速度が基準速度となるように移動機構5の作動を制御し、測定値が許容値を超えた場合には、切削装置10の送り速度が基準速度より低速となるように移動機構5の作動を制御するモードである。
【0035】
一方、強制低速運転モードS2は、切削装置10の送り速度を低速の状態となるように移動機構5の作動を制御するモードである。この強制低速運転モードS2の状態では、測定値が許容値以下の場合でも、切削装置10の送り速度は低速の状態に維持される。
【0036】
また、制御部は、強制低速運転モードS2で移動機構5の作動されている状態において、測定値が許容値より大きい制限値を超えると、切削装置10の送り速度を低速より遅い微速となるように移動機構5の作動を制御する機能も有している。つまり、制御部は、強制低速運転モードS2で移動機構5の作動されている状態でも、測定値に基づいて、切削装置10の送り速度を低速の状態と微速の状態とで切り替える機能も有している。
【0037】
<本実施形態の切削装置の制御方法による作動>
移動機構5の作動を制御する制御部が上記のごとき機能を有しているので、切削装置10は以下のように送り速度が制御される。以下、図1のフローに基づいて送り速度の制御を説明する。
【0038】
まず、運転が開始されると、通常は、通常運転モードS1によって移動機構5の作動が制御される。つまり、アノードプレス工程で測定されたアノードAの耳部rの厚さの測定値が許容値以下の場合には、送り速度を基準速度としてアノードAの耳部rが切削され、測定値が許容値より大きくなると、送り速度が基準速度から低速に切替えられてアノードAの耳部rが切削される。なお、通常運転モードS1の場合、送り速度を低速としてアノードAの耳部rを切削した後、測定値が許容値以下となると、送り速度が基準速度に戻されてアノードAの耳部rが切削される。
【0039】
一方、切削設備1の操業状態や処理するアノードAの形状から、作業者が送り速度を低速で実施すべきと判断した場合には、作業者は、作業盤のタッチパネルを操作して、移動機構5の作動モードを通常運転モードS1から強制低速運転モードS2に切り替える。すると、強制低速運転モードS2によって移動機構5の作動が制御される。つまり、アノードプレス工程で測定されたアノードAの耳部rの厚さの測定値に係らず、送り速度が低速の状態でアノードAの耳部rの切削が実施される。
なお、運転開始時時から、強制低速運転モードS2で操業するように運転モードを切り替えてもよい。
【0040】
ここで、強制低速運転モードS2によって移動機構5の作動が制御されている状態で、測定値が許容値より大きい制限値を超えると、送り速度を低速とした状態でアノードAの耳部rを切削しても、切削装置10が自動停止してしまう可能性がある。そこで、測定値が制限値を超えると、移動機構5の送り速度を低速から微速に切り替える制御が行われる。すると、測定値が制限値を超えているアノードAの耳部rを切削しても、切削装置10が自動停止してしまうことを防止できる。なお、送り速度を微速としてアノードAの耳部rを切削した後、測定値が制限値以下となると、送り速度は低速に戻されてアノードAの耳部rが切削される。
【0041】
また、強制低速運転モードS2によって移動機構5の作動が制御されている状態において、作業者が通常運転モードS1で稼動しても問題が生じないと判断した場合には、作業者は、作業盤のタッチパネルと操作すれば、移動機構5の作動モードを強制低速運転モードS2から通常運転モードS1に切り替えることができる。
【0042】
以上のように、制御部が、移動機構5の作動モードとして、通常運転モードS1と強制低速運転モードS2とを有し、これらを切り替えることができる機能を有していれば、操業状態に合わせて、切削装置の稼動状態を適切な状態に維持できる。
【0043】
しかも、強制低速運転モードS2で移動機構5の作動されている状態において、アノードAの耳部rの厚さの測定値が制限値を超えた場合でも、過負荷による切削装置の停止を効果的に防止できる。
【0044】
そして、制御盤のタッチパネルからの入力だけで作業者が通常運転モードS1と強制低速運転モードS2とを切り替えることができるので、切削装置10の過負荷を未然に防止しやすくなる。しかも、メンテナンス用のパソコンなど用いることなくモードを変更できるので、特別な技能を有するエンジニアによる作業を行わなくても、現場の作業者が簡単にモードを変更できるので、切削装置10の操作性がよくなる。
【0045】
<外部入力手段について>
上記例では、作業者が通常運転モードS1と強制低速運転モードS2とを切り替える手段として制御盤に設けられたタッチパネルを例示した。しかし、モードを切り替えるための外部入力手段はとくに限定されず、種々の公知の入力手段を採用することができる。
【0046】
<モード変更の基準となる現象について>
また、強制低速運転モードS2における切削装置10の送り速度を低速と微速との間で切り替える基準となる現象は、アノードAの一対の耳部r,rの厚さの測定値に限られない。切削装置10に加わる負荷が所定の値を越える現象、つまり、切削装置10が自動停止するような現象であればよい。例えば、切削装置10の負荷電流等に基づいて、強制低速運転モードS2における切削装置10の送り速度を低速と微速との間で切り替えるようにしてもよい。切削装置10の過負荷等の現象が生じる場合には、アノードAの一対の耳部r,rの厚さの測定値が上述した制限値や許容値を越えない場合でも、切削装置10の送り速度を微速としてアノードAの耳部rの切削が行われる。
【実施例0047】
本発明の切削装置の制御方法によって切削装置を制御してアノードプレス工程を実施した場合における操業効率を向上できることを確認した。
【0048】
従来の制御方法によって切削装置を制御してアノードプレス工程を実施した場合と、自動運転停止した状況を比較すると、本発明の切削装置の制御方法を採用した場合、3カ月の平均で、月当たり自動運転停止時間を14%以下程度まで低下させることができた。
【0049】
以上の結果より、本発明の切削装置の制御方法によって切削装置を制御すれば、アノードプレス工程の操業効率を大幅に向上できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の切削装置の制御方法は、銅電解製錬に使用するアノードの耳部を切削する装置の制御方法として適している。
【符号の説明】
【0051】
1 切削設備
2 クランプ装置
3 昇降装置
5 移動機構
10 切削装置
12 フライス
A アノード
r 耳部
ra 耳平面
S1 通常運転モード
S2 強制低速運転モード

図1
図2
図3