(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150102
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】漏血センシングシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20231005BHJP
A61M 5/168 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61M1/36 145
A61M5/168 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059016
(22)【出願日】2022-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100140844
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正利
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 晋司
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英里
(72)【発明者】
【氏名】赤井 日出子
【テーマコード(参考)】
4C066
4C077
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC01
4C066FF04
4C066QQ77
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE01
4C077FF01
4C077GG20
4C077HH03
4C077HH17
4C077KK17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】汗等による誤報を抑制し、かつ、血液を検知した場合に、離れた本体機器にも無線で通知することができる漏血センシングシステムを提供する。
【解決手段】血液を汗と区別して検知するセンサ本体部12を有する漏血センサ10と、漏血センサ10により血液の有無を検知した結果を表示、又は、通知する本体機器40と、を備え、漏血センサ10を本体機器40に無線方式で接続する無線通信部70を備える漏血センシングシステム1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を汗と区別して検知するセンサ本体部を有する漏血センサと、
前記漏血センサにより血液の有無を検知した結果を表示、又は、通知する本体機器と、を備え、
前記漏血センサを前記本体機器に無線方式で接続する無線通信部を備える漏血センシングシステム。
【請求項2】
前記無線通信部は、前記漏血センサに設けられた無線送信部と、前記本体機器に設けられた無線受信部からなる請求項1に記載の漏血センシングシステム。
【請求項3】
前記本体機器は、前記漏血センサで検知した結果を表示する表示部、及び、血液が検知された際に透析装置本体に警告する通知部の少なくともいずれか1つを備える請求項1又は2に記載の漏血センシングシステム。
【請求項4】
前記センサ本体部は、
漏血した血液が接触する基材と、
前記基材に光を照射する照射部と、
前記光が前記基材で散乱した散乱光を検出する検出部と、
を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の漏血センシングシステム。
【請求項5】
前記センサ本体部は、
漏血した血液が接触する基材と、
前記基材のインピーダンスを検出する検出部と、
を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の漏血センシングシステム。
【請求項6】
前記基材は、血液が接触した際に血液成分に感応する血液成分感応部材を有する請求項4又は5に記載の漏血センシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏血センシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
漏血センサは、医療現場等において血液の漏出を検出するために用いられる。漏血センサにより血液の漏出が検知された場合、独立したセンサ単体がその場で音を発報したりランプを点灯させてその場で警報を出すこと、または、漏血センサから有線で接続された透析装置本体から警報を出すことが行われている。
【0003】
また、液検知センサの送信部から無線で受信部に送信する液検知センサとして、下記の特許文献1がある。下記の特許文献1には、金属空気電池と送信部を有する液検知センサが、電圧値の変化に基づく検知信号を無線で受信部に送信し、自動的に装置を停止させたり、液漏れの警報を出すことが記載されている。電圧値は、液漏れに基づいた電池反応により変化する。さらに、このセンサを漏血センサとして利用できるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有線での接続では、複数のチューブが存在する中で配線が邪魔になるため、無線接続が望ましい。しかしながら特許文献1に記載の液検知センサは、水により発電する金属空気電池を用いており、汗と血液を区別することなく発電するため誤報が多くなる。誤報が多くなると、漏血しておらず患者の処置が必要ではないのに、患者の所に行くことが多くなり、仕事の効率が悪くなる。また、無線で接続することで、患者から離れた場所にいても漏血したことを知ることができるが、誤報であるとその移動にも時間がかかるため、そのような無線接続のメリットが減じてしまう。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、汗等による誤報を抑制し、かつ、血液を検知した場合に、離れた本体機器にも無線で通知することができる漏血センシングシステムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、血液と汗を区別して検知する漏血センサと、本体機器と、を無線方式で接続することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1]血液を汗と区別して検知するセンサ本体部を有する漏血センサと、前記漏血センサにより血液の有無を検知した結果を表示、又は、通知する本体機器と、を備え、前記漏血センサを前記本体機器に無線方式で接続する無線通信部を備える漏血センシングシステム。
[2]前記無線通信部は、前記漏血センサに設けられた無線送信部と、前記本体機器に設けられた無線受信部からなる[1]に記載の漏血センシングシステム。
[3]前記本体機器は、前記漏血センサで検知した結果を表示する表示部、及び、血液が検知された際に透析装置本体に警告する通知部の少なくともいずれか1つを備える[1]又は[2]に記載の漏血センシングシステム。
[4]前記センサ本体部は、漏血した血液が接触する基材と、前記基材に光を照射する照射部と、前記光が前記基材で散乱した散乱光を検出する検出部と、を備える[1]から[3]のいずれかに記載の漏血センシングシステム。
[5]前記センサ本体部は、漏血した血液が接触する基材と、前記基材のインピーダンスを検出する検出部と、を備える[1]から[3]のいずれかに記載の漏血センシングシステム。
[6]前記基材は、血液が接触した際に血液成分に感応する血液成分感応部材を有する[4]又は[5]に記載の漏血センシングシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血液と汗を区別して検知し、この結果を無線で本体機器に送信することで、漏血センサと本体機器との配線の取り回しを簡略化することができる。また、漏血センサから離れた本体機器に対しても確実に漏血センサで検知した結果の表示、又は漏血の警報を出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の漏血センシングシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】血液を滴下した基材の散乱光強度の経時変化を示す図である。
【
図3】食塩水を滴下した基材の散乱光強度の経時変化を示す図である。
【
図4】第2実施形態の漏血センシングシステムの構成を示すブロック図である。
【
図5】血液及び食塩水を滴下した基材のインピーダンスの経時変化を示す図である。
【
図6】血液及び食塩水を滴下した基材のインピーダンスの変化率の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の漏血センシングシステムの実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。
【0011】
(第1実施形態)
[漏血センシングシステム]
図1は、本発明の第1実施形態の漏血センシングシステムの構成を示すブロック図である。第1実施形態の漏血センシングシステム1は、漏血センサ10と、本体機器40と、を備える。漏血センサ10と本体機器40は、漏血センサ10と本体機器40を無線方式で接続する無線通信部70を備える。
図1に示す第1実施形態の漏血センシングシステム1は、照射した光の散乱光を利用して血液を検知するシステムである。
【0012】
<漏血センサ>
漏血センサ10は、血液と汗を区別して検知するセンサ本体部12を備える。また、漏血センサ10は、センサ本体部12で検知した結果の送受信を制御する漏血センサ制御部14と、センサ本体部12で血液が検知された場合に警報を出す報知部16と、センサ本体部12で検知した結果を表示する表示部18とを備える。
漏血センサ10は、例えば、血液透析における血液の漏出を検出するために用いられる。血液透析における針の穿刺による血液の体外への導出及び体外で処理した血液の体内への導入を行う際の、抜針を原因とする血液の漏出の検出に用いられる。血液の漏出の検出は、針を穿刺した皮膚に基材を貼付し、この基材が吸収した血液を検出することで、血液の漏出を検出する。
【0013】
〔センサ本体部〕
本実施形態のセンサ本体部12は、漏血した血液と接触する基材24と、基材24に光を照射する照射部(光源)26と、照射部26から照射された光が基材で散乱した散乱光を検出し、血液を検知する検出部(光検出器)28と、センサ本体部12の制御、及びセンサ本体部12で検知した結果を漏血センサ制御部14に送信するセンサ本体制御部30と、を備える。
【0014】
≪基材≫
センサ本体部12に設けられる基材24は、血液凝集促進材料を含む血液成分感応部材を有することが好ましい。血液凝集促進材料は、血液との接触により血液(主には赤血球や血小板)の凝集を誘引する材料である。血液成分感応部材は血液凝集促進材料を含むため、血液成分に特異的に感応する。特に、血液成分感応部材は、赤血球に特異的に感応することが好ましい。
【0015】
血液成分感応部材は、血液と接触することにより、血液成分に感応し、光の吸収が増大するため、基材24での光の散乱量が減少する。そのため、凝集した赤血球をセンサ本体部12の検出部28により散乱光強度の減少として検出することにより、センサ本体部12が血液の漏出を検出する。
血液成分感応部材は、光の吸収がさらに増大し、散乱光強度の減少から漏血を検出しやすくなる点から、ヘモグロビンに作用して、メトヘモグロビン、あるいは3価の鉄を含むヘムを生じる部材が好ましい。このような部材として、カチオン性基を有する化合物がヘモグロビンを酸化する作用を利用できる材料として用いることができる。
【0016】
特に水酸イオン(OH-)を放出する塩基性化合物は本実施形態では好ましく利用する事ができる。さらに、漏血センサ10は、透析の際に皮膚に接して用いるものであるので、人体への影響の小さいものが望ましい。塩基性化合物としては、カチオン性重合体が好ましい例として用いることができる。
【0017】
カチオン性重合体は、カチオン性基を有する構成単位を含む重合体であってもよく、カチオン性基を有する構成単位とカチオン性基を有する構成単位以外の他の構成単位とを含む共重合体であってもよい。また、カチオン性重合体は、コアの部分にカチオン性基を含む鎖を有する有機化合物を反応させたデンドリマー構造を有してもよい。
【0018】
カチオン性基としては、たとえば、アンモニウム塩基、ホスホニウム塩基が挙げられる。これらの中でも、アンモニウム塩基が好ましい。
【0019】
アンモニウム塩基としては、-N+H3、-N+H2RA1、-N+HRA1RA2、-N+RA1RA2RA3が挙げられる。
ここで、RA1、RA2、RA3は、それぞれ同一または異なったアルキル基またはアリール基を示す。RA1、RA2、RA3としては、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0020】
ホスホニウム塩基としては、-P+H3、-P+H2RA1、-P+HRA1RA2、-P+RA1RA2RA3が挙げられる。
ここで、RA1、RA2、RA3は、それぞれ同一または異なったアルキル基またはアリール基を示す。RA1、RA2、RA3としては、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0021】
これらのカチオン性基のカウンターアニオンは、特に限定されない。例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、亜硫酸イオン、アルキル硫酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオンやギ酸イオン等のカルボン酸イオンが挙げられる。
【0022】
カチオン性重合体を構成する構成単位が2種類以上ある場合、それぞれの構成単位の含有比率は特に限定されない。カチオン性重合体のカチオン電荷量が以下の好ましい範囲内となるような含有比率とすることが好ましい。
カチオン性重合体のカチオン電荷量は、3meq/g以上が好ましく、5meq/g以上がより好ましく、7meq/g以上がさらに好ましい。カチオン性重合体のカチオン電荷量の上限は、特に限定されない。例えば、ポリビニルアミン塩酸塩のカチオン電荷量がおよそ12meq/gであることを考慮し、また、ラジカル重合可能なモノマー構造を考慮すれば、カチオン性重合体のカチオン電荷量の上限は、12meq/g程度であると考えられる。ここで、ポリビニルアミン塩酸塩とは、ビニルアミン単位のみからなる重合体であって、そのアミノ基のすべてが塩酸塩化されている重合体である。
カチオン性重合体のカチオン電荷量が前記下限値以上であれば、血液成分の感応性が良好となる。前記上限値以下であれば、合成しやすい傾向にある。
重合体のカチオン電荷量は、カチオン性基1つが含まれる重合体の重量に従って決定される。例えば、上述のポリビニルアミン塩酸塩の場合、ビニルアミン塩酸塩モノマー構造一つにカチオン性基一つが存在するため、1eq/81g=12meq/gとなる。
【0023】
基材24の形状は、漏血センサ10として使用され得る形状であれば特に限定されない。また、基材24の大きさは、使用される漏血センサ10に合わせて適宜調整すればよい。
漏血センサ10の小型化、薄型化の点、血液成分感応部材の感応性の点から、基材24の形状はシート状が好ましい。基材24がシート状である場合、基材24に照射された光が、基材24の表面とバルクで光が散乱され、検出部28に光が届くようなものであれば、どのような厚みでも用いることができる。基材24の厚みは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。上限としては、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい
基材24の厚みが前記下限値以上であれば、十分な散乱光が得やすく、シートの耐久性が良好となる傾向にある。前記上限値以下であれば漏血センサ10の漏血検出部分が薄くなり、漏血センサ10の使用が容易になる傾向にある。
【0024】
基材24は、血液成分感応部材のみからなるものであってもよく、基材24の表面に血液成分感応部材を有するものであってもよい。後者の場合、基材24は特に限定されないが、光を吸収しない繊維が集合したもの、例えば、PETフィルム等の樹脂フィルム、織布、不織布、紙が挙げられる。これらの基材24を血液成分感応部材の溶液に浸漬することや、血液成分感応部材の溶液を塗布することで、基材24の表面に血液成分感応部材を有する基材24を準備してもよい。また、基材24は、絆創膏や包帯等の別の基材を重ねて利用することもできる。
【0025】
基材24としては、多孔質構造を有するものが好ましい。基材24が多孔質構造を有すると、光散乱が大きくなり、かつ血液を多孔質構造の空隙に保持できるため、漏血を検出しやすくなる。多孔質構造を有する基材24としては、血液成分感応部材そのものを成形または加工することで多孔質構造を形成したものであってもよく、織布、不織布等の多孔質の基材24の繊維の表面に、血液成分感応部材が付着したものであってもよい。多孔質の基材24の繊維は、織布のみからなっていてもよく、織布と不織布からなっていてもよく、不織布のみからなっていてもよい。
【0026】
血液成分感応部材のみからなる基材24は、例えば、血液成分感応部材の成形、カチオン性重合体を含むカチオン性重合体組成物の成形によって製造できる。
血液成分感応部材、又はカチオン性重合体組成物を繊維状に成形し、カチオン性重合体を含む繊維を織布、不織布としてシート状の基材24を得てもよい。
【0027】
基材24の成形方法は、基材24の形状に応じて選択すればよく、特に限定されない。種々の成形方法を採用できる。例えば、押出成形、射出成型、ブロー成型、プレス成型による成形方法が挙げられる。
シート状の血液成分感応部材を得る場合、血液成分感応部材を含む溶液を、基材となるフィルム(例えば、ポリエステルフィルム)上にアプリケーター等を用いて塗布し、加熱乾燥して成形し、ポリエステルフィルム上に形成することもできる。
【0028】
血液成分感応部材は、血液成分に対する血液成分感応部材の感応性能を損ねない範囲で、血液成分感応部材以外の他の成分を含む。他の成分としては、例えば、血液成分感応部材以外の樹脂成分、粘着付与樹脂、軟化剤、腐食防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤、防カビ剤、pH調整剤、難燃剤、結晶核剤、導電性粒子、無機粒子、有機粒子、粘度調整剤、滑剤、表面処理剤、レベリング剤、架橋剤、消泡剤が挙げられる。
【0029】
≪照射部≫
照射部26は、基材24に光26aを照射する。
図1に示す例では、シート状の基材24の厚さ方向の一方の側に照射部26が配置されている。照射部26の光源としては、LED、半導体レーザ、タングステンランプ等を用いることができる。また、所定の光を用いて検知する場合は、用いる光以外の波長の光をカットするフィルターを組み合わせてもよい。照射部26の光源としては、コストが低く、コンパクトで使いやすい点から、LEDが好ましい。LEDとしては、例えば、赤外LED、赤色LED;青色LED;緑色LED;紫色LED;紫外LED;黄色LED;白色LED;有機EL(OLED)等が適用できる。
安定した血液のセンシングには、血液の吸光度の異なる2つ以上の波長を利用する事が望ましい。例えば、血液は近赤外の吸光度は小さく、可視光領域での吸光度が大きいので、近赤外LEDと緑色LEDを組み合わせて、近赤外LEDと緑色LEDの散乱光を同時に測定する。これにより、近赤外LEDの散乱光強度により、基材が装着されているかを判断する事ができる事に加え、その比(緑色LED散乱光/近赤外LED散乱光)を取れば、センサの位置のずれなどの血液以外での擾乱による変化は緑色LED、近赤外LED両方に同じように起こる事から、血液の吸収の違いのみによる散乱光の変化を感知する事ができる。
【0030】
≪検出部≫
検出部28は、照射部26から照射された光26aのうち、基材24で照射部26と同じ側に散乱した散乱光28aを検出する。検知部28は、基材24の照射部26が配置されている側と同じ側に配置されている。
【0031】
検出部28の散乱光28aを受光する受光素子としては、基材24で光が散乱した散乱光28aを受光できるものであればよく、フォトダイオードやフォトトランジスタ、光電子増倍管を例示できる。コストや寸法の面から、フォトダイオードやフォトトランジスタが望ましい。外光の影響を除くために、検出する光以外の光をカットするフィルターを組み合わせることが望ましい。
【0032】
照射部26及び検出部28と、基材24との距離は、検出部28で充分な強度の散乱光28aが検出されるように調節すればよく、例えば0~10mmとすることができる。
【0033】
照射部26と検出部28が一体となった素子は、フォトリフレクタ、反射フォトセンサー、近接センサ、パルスオキシメータ、心拍センサ用ICとして市販されており、それらを利用する事が小型化、低コスト化の面で好ましい。例えば、GENIXTEK製TPR-105F、Maxim製MAX30101、Osram製SFH7050等の市販の素子を採用できる。
【0034】
≪センサ本体制御部≫
センサ本体制御部30は、漏血センサ制御部14からの指令を受けて、照射部26を制御し、基材24への光26aの照射の実施を制御する。また、検出部28で検出した散乱光28aの強度をAD変換し、デジタル値として漏血センサ制御部14に伝達する。
【0035】
〔漏血センサ制御部〕
漏血センサ制御部14はマイクロコントローラ機能を有しており、センサ本体部12で検知した結果を基に漏血の有無を判断し、それを基に、発報したりその判断結果を無線送信部から送受信したりする。
漏血の有無の判定は、後述するように、基材24に血液が接触すると、基材24からの散乱光28aの強度が低下し、この散乱光28aの強度の低下の程度により血液の有無を判定する。漏血センサ制御部14は、不図示の記憶部を有し、血液が基材に接触する前の散乱光28aの強度(初期の値)を記憶する。また、初期の値に対して、どの程度の割合で散乱光28aの強度が減少した場合に血液があると判定するかその閾値を記憶する。2波長のLED光を利用する際は、上記散乱光強度は、2波長の散乱光の比(例えば緑LEDの散乱光/近赤外LEDの散乱光)で表す。
漏血センサ制御部14は、上記のような漏血判定アルゴリズムをプログラムとしてメモリに有しており、記憶部に記憶された散乱光の初期の値、閾値、及び、検出部28で検出された散乱光28aの強度に基づいて、血液の漏血の有無を判定する。
漏血センサ制御部14は、漏血判定結果を報知部16及び表示部18に通知する。また、漏血センサ制御部14は無線送信部34を有し、本体機器40と無線方式で接続されている。無線送信部34により、漏血判定結果を、無線方式で本体機器40に送信することができる。なお、「漏血判定結果」とは、センサ本体部12で検知した結果、及び、この結果を基に漏血センサ制御部14で漏血の有無を判定した結果の少なくとも一方又は両方を含むものである。
漏血センサ制御部14としては、例えば、無線通信モジュールを備えるTWELITE(登録商標)、Raspberry Pi(登録商標)さらにはWindowsやMac等のマイクロコンピュータ等を用いることができる。また、
図1においては、漏血センサ制御部14に無線送信部34が含まれる構成としているが、漏血センサ制御部14と無線送信部34を別々の構成とすることもできる。この場合、漏血センサ制御部14としてArduino(登録商標)やPIC(登録商標)等のマイクロコントローラを用いることができ、無線送信部34として、TWELITE(登録商標)を用いることができる。無線方式は、特に限定されず、無線LAN、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、Wi-Fi等を用いることができる。
【0036】
〔報知部、表示部〕
報知部16は、漏血センサ制御部14で漏血していると判定した場合に、警告を報知する。報知部16は、漏血センサ制御部14で漏血していると判定された場合に点灯することで視覚的に外部に向けて警告するLEDランプ20、音を鳴らすことで可聴的に外部に向けて警告するブザー22等を用いることができる。
表示部18は、漏血判定結果等を表示する。表示する結果としては、検出部28で検出された散乱光28aの強度、又は、漏血センサ制御部14で求めた初期の値に対する散乱光28aの強度の割合等を表示する。表示部18としては、液晶モジュール23を用いることができる。
なお、
図1においては、漏血センサ10に、報知部16としてLEDランプ20及びブザー22、表示部18を備える構成を示しているが、これらは少なくとも一つ備えていればよく、また、本体機器40又は透析装置本体80に設けられていれば漏血センサ10には、一つも備えていなくてもよい。
【0037】
<本体機器>
本体機器40は、透析装置本体80に接続されるとともに、漏血センサ10と無線方式で接続される。本体機器40は、漏血判定結果を無線方式で受信し、透析装置本体80に送信する。
本体機器40は、漏血センサ10から送信される漏血判定結果の送受信を制御する本体機器制御部42と、漏血センサ10で血液が検知された場合に警報を出す報知部48、漏血判定結果を表示する表示部50を備える。
【0038】
本体機器制御部42は、通知部44を有し、漏血センサ10から受信した漏血判定結果を、報知部48及び表示部50に通知する。また、透析装置本体80に通知(警告)する。また、本体機器制御部42は無線受信部46を有し、漏血センサ10と無線方式で接続されている。無線受信部46により、漏血センサ10から送信した結果を、無線方式で漏血センサ10から受信することができる。なお、漏血センサ制御部14の無線送信部34と本体機器制御部42の無線受信部46とで無線通信部70が構成される。通常は、漏血センサ10から本体機器40へデータが送信されるが、本体機器40から漏血センサ10にコマンドを送信して、必要に応じて漏血センサ10の状態を問い合わせたり、データ送信を要求できる構成にすることもできる。
【0039】
本体機器制御部42としては、漏血センサ10の漏血センサ制御部14と同様に、例えば、無線通信モジュールを備えるTWELITE(登録商標)を用いることができる。また、
図1においては、本体機器制御部42に無線受信部46が含まれる構成としているが、本体機器制御部42と無線受信部46を別々の構成とすることもできる。この場合、本体機器制御部42としてArduino(登録商標)、Raspberry Pi(登録商標)さらにはWindowsやMac等のマイクロコンピュータ等を用いることができ、無線受信部46として、TWELITE(登録商標)やPIC(登録商標)等のマイクロコントローラを用いることができる。無線方式は、特に限定されず、無線LAN、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、Wi-Fi等を用いることができる。
【0040】
報知部48は、漏血センサ10で血液が検知された場合に、警告を報知する。報知部48としては、LEDランプ52又はブザー54を用いることができる。また、表示部50は、漏血判定結果等を表示する。表示部50としては、液晶モジュール56を用いることができる。報知部48及び表示部50の構成は、漏血センサ10の報知部16と表示部18と同様の構成とすることができるので、その説明を省略する。
【0041】
<透析装置本体>
透析装置本体80は、皮膚から穿刺された穿刺針により、動脈からの血液を透析装置本体80に送り、透析装置本体80は、血液中の尿素等の老廃物、又は過剰水分を拡散又はろ過の原理により除去して、静脈に戻す装置である。
透析装置本体80は、本体機器40に接続されており、漏血センサ10により血液が検知された際は、本体機器40の通知部44は透析装置本体80に警告を出す。警告を出された透析装置本体80は、必要に応じて血液透析を中断する。また、透析装置本体80が報知部、又は表示部を備える場合は、透析装置本体80の報知部、又は表示部で漏血を報知、又は、漏血センサの検知の結果を表示することができる。
【0042】
[漏血検出方法]
次に第1実施形態の漏血センシングシステムに用いられる漏血センサ10の漏血検出方法について説明する。漏血センサ10を用いる漏血検出方法では、血液成分感応部材を有する基材24をプローブとして漏血の検出を行う。
漏血センサ10において、漏血によって血液が基材24に浸透すると、血液による光の吸収が増大していき、基材24からの散乱光28aが減少する。この散乱光強度の経時変化を漏血センサ10の検出部28が検出し、あらかじめ血液以外の要因での変化と区別可能な値を設定しておき、その値よりも減少した事をもって漏血を検出する。光源(照射部)と検出器(検出部)、検出回路や散乱体の配置にもよるが、例えば、基材24からの散乱光が初期の40%以上減少したことをもって漏血と判断する事により、明確に汗と区別する事が可能になる。血液による散乱光の変化を増大するための血液成分感応材が基材に含まれていても良い。
【0043】
図2は、基材にブタ血液100μLを滴下し、血液を滴下した時刻を0s(
図2では測定開始後1~2sの大きな変化が見られる時刻、sは秒を表す)とし、フォトトランジスタからの出力(散乱光強度)の経時変化を示す図である。基材は、不織布を用い、基材にそれぞれ、血液成分感応材としてのカチオン性重合体を1.5重量%、5重量%の濃度で含む水溶液、及びカチオン性重合体を含まない水溶液を含侵させている。
図3は、1重量%の食塩水を滴下し、散乱光強度の経時変化を示す図であり、基材は、不織布を用い、基材にカチオン性重合体を5重量%の濃度で含む水溶液を含侵させている。
【0044】
図2に示すように、基材に血液を滴下した場合は、散乱光強度が低下することが確認できる。特に、基材にカチオン性重合体を含ませることでカチオン性重合体を含まない基材よりも散乱光強度を低下させることができる。
図3に示すように、食塩水(汗に相当)を滴下した場合は、散乱光強度が減少することは確認できない。以上より、散乱光強度の減少により血液と汗を区別して確認することができる。
【0045】
図1に示す第1実施形態の漏血センシングシステムによれば、漏血センサ10と、透析装置本体80に接続される本体機器40と、が無線方式で接続されているため、患者に取り付けられた漏血センサ10と、本体機器40との間に配線を設ける必要がなくなる。したがって、漏血センサ10と本体機器40との間の配線の取り回しを簡単にすることができる。
【0046】
また、漏血センサ10は、透析装置本体80が接続された本体機器40と無線方式で接続されるのみでなく、透析装置管理装置(不図示)が接続された本体機器と無線方式で接続されていてもよい。透析装置管理装置を、透析を行っている患者がいる部屋と異なる部屋(例えば、ナースステーション等)に設置することで、漏血センサで検知された結果を、患者から離れた位置にいても知ることができる。これにより、透析を行っている患者の近くにいる必要がなくなり、他の作業行うことができる。特に、本実施形態においては、センサ本体部12は、血液と汗を区別して検知することができるため、誤報を減らすことができる。警報が鳴るたびに患者の近く(透析装置本体の近く)に行き、漏血を確認しなくてはならないが、誤報を減らすことで、漏血していないときの確認を減らすことができ、無線接続の有効性を減じず効果的である。透析装置管理装置としては、コンピュータ、携帯端末等を用いることができ、報知部及び表示部は、透析装置管理装置に設けてもよい。また、本実施形態の本体機器は、報知部48及び表示部50を備えているため、本体機器40を析装置管理装置としてもよい。本体機器40は透析装置本体80に組み込むことも可能である。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の漏血センシングシステムについて説明する。
図4は、本発明の第2実施形態の漏血センシングシステムを示すブロック図である。第2実施形態の漏血センシングシステム101は、血液の漏血の検知を、血液の凝集による血液のイオン伝導に由来する抵抗値(直流)又はインピーダンス(交流)の変化を検知することで行う点で、第1実施形態と相違する。そのため、漏血を検知するセンサ本体部112の構成が第1実施形態と相違する。以下、第2実施形態の漏血センシングシステム101のセンサ本体部112について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
〔センサ本体部〕
本実施形態のセンサ本体部112は、血液成分感応部材を有する基材124と、基材124に設けられた血液成分感応部材と接した導電体126と、導電体126間の抵抗値又はインピーダンスを測定する検出部128と、センサ本体部112の制御、及びセンサ本体部112で検知した結果を漏血センサ制御部14に送信するセンサ本体制御部130と、を備える。
【0049】
≪基材≫
基材124は、血液凝集促進材料を含む血液成分感応部材を有する。血液凝集促進材料として、赤血球は負に帯電していることから、正の電荷を有するカチオン性重合体を用いることができる。使用できるカチオン性重合体としては、第1実施形態で用いカチオン性重合体と同様の材料とすることができる。
また、血液凝集促進材料としては、他に、フィブリノーゲン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、アデノシン二リン酸(ADP)、血小板活性化因子(PAF)、アラキドン酸ナトリウム、ヒドロキシルエチル澱粉等が挙げられる。
【0050】
≪導電体≫
センサ本体部112は、基材124に血液感応部材と接した二つ以上の導電体126を備える。導電体126は、直流電源、交流電源と接続でき、導電体126間の抵抗値またはインピーダンスを測定できるものであれば、特に限定されない。例えば、一例において、導電体126は、電極である。センサ本体部112が備える導電体126の数は、2以上であれば特に限定されない。また、導電体126の形状も、特に限定されない。
【0051】
導電体126の材料も特に限定されない。例えば、銅、銀、金、鉄、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、鉛、ビスマス、白金、チタン等の金属;酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの酸化物;黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料;ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子;シリコン等の半導体材料;さらにはこれらに電荷キャリアを増加させるための添加物を添加したもの;これらの導電体材料を複数混合または組み合わせたもの;粒子状にして分散したもの等が挙げられる。
導電体126の体積抵抗率は102Ωcm以下が好ましく、101Ωcm以下がより好ましく、1Ωcm以下がさらに好ましい。
【0052】
二つ以上の導電体126は互いに適宜、間隔をあけて基材124に接して配置される。導電体126どうしの間隔は、血液が基材124に浸透した際に速やかに導電体126間を満たすようにすることが好ましい。例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。導電体126どうしの間隔の上限としては、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。導電体126どうしの間隔が前記下限値以上であると、加工が容易である。また、導電体126どうしが接触する恐れが少ない。導電体126どうしの間隔が前記上限値以下であると、血液の基材への浸透に時間を要しにくく、センサの感度が向上し、応答速度が速くなる。
【0053】
また、抵抗値またはインピーダンスの変化に基づいて血液の漏出を検出しやすい点から、導電体126の表面の少なくとも一部は、血液凝集促進材料で修飾されていることが好ましい。導電体126の表面に付着した血液凝集促進材料は、基材124の血液凝集促進材料と同一の材料であってもよく、異なる血液凝集促進材料であってもよい。量産性の点から、基材124の血液凝集促進材料と同一のカチオン性重合体が好ましい。
【0054】
導電体126を基材124に配置する方法は特に限定されない。例えば、下記の方法または手段が挙げられる。ただし、導電体126の配置方法はこれらの例示に限定されない。
・導電体126の箔を切って貼り付ける。
・電極のパターンで開口しているマスクを通して真空成膜する。
・導電体126の粒子を分散したインクや導電体の前駆体となるインクを印刷する。
・ベタで成膜し、エッチングやレーザーアブレーション、スクラッチにより部分的に除去する。
・あらかじめ基板上にパターニングした電極を転写する。
【0055】
≪検出部≫
検出部128は、導電体126に直流電圧又は交流電圧を印加した際の導電体126間の抵抗値又はインピーダンスの変化を検知する。検出部128としては、インピーダンス計測器;直流、交流電圧を印可した際に流れる直流、交流電流を測定し、抵抗値またはインピーダンス値として捉える直流又は交流電気抵抗計;LCRメーター;ファンクションジェネレータとオシロスコープを組み合わせて実時間で電圧と電流の関係を測定する装置;静電容量計等が挙げられる。小型化、低コスト化の為に、必要な機能を有するICを用いる事が望ましい。
【0056】
≪センサ本体制御部≫
センサ本体制御部130は、検出部128で検出した抵抗値又はインピーダンス値をAD変換してデジタル情報に変換して、漏血センサ制御部14に送る。
【0057】
漏血センサ制御部14は、センサ本体部112で検知した結果を受信して、漏血の有無を判断し、結果の表示や本体機器に結果を転送する。
漏血の有無の判定は、後述するように、基材124の血液成分感応部材に血液が接触した直後の抵抗値又はインピーダンスの急激な低下が起きた後の抵抗値またはインピーダンスの血液に特有の経時変化を検知することで、汗と血液とを区別して検知する。漏血センサ制御部14は、不図示の記憶部を有し、記憶部は、検出部130で検出した血液の漏血の有無を判定する閾値となる抵抗値又はインピーダンス値を記憶する。さらに不図示の漏血判定のためのアルゴリズムを有し、記憶された抵抗値又はインピーダンス値から単位時間当たりの変化率を測定し、この変化率を閾値と比較することで、血液の漏血の有無を判定する。
また、漏血判定結果を、漏血センサ110に設けられた報知部16及び表示部18に通知する。また、本体機器40に無線方式で送信する。これらのセンサ本体部112で検知した結果を送信する構成、及び、本体機器40の構成については、第1実施形態と同様の構成とすることができる。
【0058】
[漏血検出方法]
次に、第2実施形態の漏血センシングシステムに用いられる漏血センサ110の検出方法について説明する。漏血センサ110は抵抗・インピーダンス方式の漏血センサであり、少なくとも二つ以上の導電体126の間の抵抗値またはインピーダンスの時間変化を検知し、血液の漏血を検出する。例えば、少なくとも二つ以上の導電体の間に直流電流または交流電流を流す。このとき抵抗値またはインピーダンスの時間変化を検知することで、血液の漏血を検出できる。
【0059】
漏血センサ110において、漏血によって血液が基材124の血液成分感応部材に接触すると、接触の直後は抵抗値またはインピーダンスが急激に低下し、その後、血液成分感応部材の効果で抵抗値またはインピーダンスが上昇する、という挙動を示す。対して、基材124の血液成分感応部材が血液を含まない汗(主成分はNaCl水溶液)と接触すると、接触の直後は抵抗値又はインピーダンスが急激に低下するものの、その後、抵抗値又はインピーダンスが一定値にとどまる、または緩やかに減少し続ける、という挙動を示す。
したがって、接触の直後の抵抗値またはインピーダンスの急激な低下が起きた後において、抵抗値またはインピーダンスの血液に特有の経時変化を検知することで、汗と血液とを区別して検出できる。
より具体的には、抵抗値又はインピーダンスを常時又は所望の応答時間に対して充分に小さな時間(例えば所望の応答期間10秒間に対して1秒間)以下の間隔で測定し、その測定値から1秒間当たりの変化率(%/秒)を計算してもよい。この変化率が汗による変化率と区別できる閾値以上になったことをもって漏血と判断できる。この変化率は、用いる血液成分感応材料の特性や、センサ本体部112の構成などにより適切に調整する必要があるが、0.3%/秒以上が好ましく、0.6%/秒以上が好ましい。変化率が前記下限値以上であれば、汗と血液とを区別しやすい。
【0060】
次に、血液、又は食塩水(汗に相当)を基材に滴下したときのインピーダンスの大きさの時間変化及びその変化率について説明する。
図5はインピーダンスの経時変化を示す図であり、
図6はその変化率の推移を示す図である。
図5及び
図6に示すように、カチオン性重合体を5重量%の濃度で含む水溶液を浸透させた基材(不織布)に血液を滴下すると、滴下した直後はインピーダンスが急激に低下し、その後、降下勾配が緩やかとなった後に極小値をとり、上昇に転じる。一方、食塩水を滴下したとき、急激な初期降下の後、降下勾配が緩やかとなり、その後インピーダンスは上昇しなかった。したがって、血液成分感応部材を有する漏血センサ110を用いれば、インピーダンスの変化率0.3%/sを基準として、それよりも大きな変化率を示すものが血液と判断することにより、血液と食塩水(汗)が区別できる。
また、カチオン性重合体を使用しない基材(不織布)に血液を滴下すると、極小値をとった後のインピーダンスの変化率は0.3%/sに到達しない。したがって、基材にカチオン性重合体を使用しない漏血センサを用いて、短時間で血液と食塩水を判別することは難しいことが確認できる。
【0061】
第2実施形態の漏血センシングシステムにおいても、漏血センサ110と、透析装置本体80に接続される本体機器40と、が無線方式で接続されているため、患者に取り付けられた漏血センサ110と、本体機器40との間に配線を設ける必要がなくなる。したがって、漏血センサ110と本体機器40との間の配線の取り回しを簡単にすることができる。
【0062】
また、漏血センサ110は、透析装置管理装置(不図示)が接続された本体機器と無線方式で接続されていてもよい。透析装置管理装置を、透析を行っている患者がいる部屋と異なる部屋に設置することで、漏血センサ110で検知された結果を、患者から離れた位置にいても知ることができる。これにより、透析を行っている患者の近くにいる必要がなくなり、他の作業行うことができる。特に、本実施形態においては、センサ本体部112は、血液と汗を区別して検知することができるため、誤報を減らすことができる。警報が鳴るたびに患者の近く(透析装置の近く)に行き、漏血を確認しなくてはならないため、誤報を減らすことで、漏血していないときの確認を減らすことができ、効果的である。
【符号の説明】
【0063】
1 漏血センシングシステム
10 漏血センサ
12 センサ本体部
14 漏血センサ制御部
16 報知部
18 表示部
20 LEDランプ
22 ブザー
23 液晶モジュール
24 基材
26 照射部
26a 光
28 検出部
28a 散乱光
30 センサ本体制御部
34 無線送信部
40 本体機器
42 本体機器制御部
44 通知部
46 無線受信部
48 報知部
50 表示部
52 LEDランプ
54 ブザー
56 液晶モジュール
70 無線通信部
80 透析装置本体
101 漏血センシングシステム
110 漏血センサ
112 センサ本体部
124 基材
126 導電体
128 検出部
130 センサ本体制御部