IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キッコーマン株式会社の特許一覧

特開2023-150111おからを用いた組織状大豆加工品の製造方法及び組織状大豆加工品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150111
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】おからを用いた組織状大豆加工品の製造方法及び組織状大豆加工品
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20231005BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L11/00 Z
A23J3/16 501
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059031
(22)【出願日】2022-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】奥下 歩
(72)【発明者】
【氏名】勝川 雅裕
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB19
4B020LB24
4B020LC04
4B020LG07
4B020LK08
4B020LP16
(57)【要約】
【課題】おからを主原料とし、特殊な装置を使用しなくても、崩れにくく、適度な弾力を有する組織状大豆加工品が得られるおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法及び組織状大豆加工品を提供する。
【解決手段】蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を、二軸エクストルーダーにより組織化し、更に、必要に応じて乾燥して、蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%含有し、水分活性が0.625以下、ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cmである組織状大豆加工品を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を二軸エクストルーダーにより組織化する工程を有し、
前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである
おからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有する請求項1に記載のおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥おから粉末として、脱皮大豆から製造されたものを用いる請求項1又は2に記載のおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項4】
乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を組織化したものであり、
前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである
おからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項5】
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有する請求項4に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項6】
前記乾燥おから粉末は、脱皮大豆から製造されたものである請求項4又は5に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項7】
蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%とを含有し、
水分活性が0.625以下であり、
ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cmである
請求項4~6のいずれか1項に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おからを用いて組織状大豆加工品を製造する方法及びこの方法により製造された組織状大豆加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性原料を用いた代用肉の普及に伴い、大豆蛋白を組織化させた組織状蛋白食品の需要が高まっている。また、従来、大豆蛋白と共に又は大豆蛋白に代えて、おからを用いて組織状大豆加工品を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。特許文献1及び2には、主成分である脱脂大豆におからを加えた原料と水とを、二軸エクストルーダーで加圧・加熱しながら混合・混練することにより、組織状の大豆蛋白を製造する方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献3,4には、オリフィス構造を有する冷却ダイを具備した二軸型エクストルーダーで、生おから又は乾燥おからを連続的に高温高圧処理することにより、おからを組織化する方法が記載されている。一方、特許文献5には、腎臓病の食事療法に適した組織状蛋白食品を製造するため、リン及びカリウムを低減する処理を行った脱皮大豆から分離され、有機溶媒による抽出で脂質5%以下に調製されたおからを、二軸エクストルーダーで150~280℃で処理して組織化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-144593号公報
【特許文献2】特開2016-149967号公報
【特許文献3】特開昭61-152254号公報
【特許文献4】特開平3-22951号公報
【特許文献5】特開昭64-30542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なおからは、食物繊維を多く含有し、粒も大きく、大きさにばらつきもあるため、おからを含む原料から代替肉などに用いられる組織状大豆加工品を製造すると、結着不良により成形しにくく、崩れやすくなる。このため、通常の装置及び条件では、おからの配合量は最大でも原料の30質量%程度と考えられている。
【0006】
一方、特許文献3,4に記載されているオリフィス構造を有する冷却ダイを具備した二軸型エクストルーダーのような特殊な装置を用いれば、冷却ダイにより原料処理物が冷却されて高粘度になって、生成した三次元のネットワーク構造が破壊されにくくなると共に、含有水分が水蒸気に変化するのが抑制され、水蒸気による突沸現象が発生しにくくなるため、おから配合量が30質量%を超える原料から組織状大豆加工品を製造することが可能である。しかしながら、特許文献3,4に記載されている装置により製造される組織状大豆加工品は、密度が高く、乾燥しにくいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、おからを主原料とし、特殊な装置を使用しなくても、崩れにくく、適度な弾力を有する組織状大豆加工品が得られるおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法及び組織状大豆加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、原料に「蛋白含有率」、「食物繊維含有率」及び「粒子径」が特定の範囲にある乾燥おから粉末を用いると、蛋白質が組織化されやすくなり、オリフィス構造を有する冷却ダイが設置されていない通常の二軸型エクストルーダーを使用して、おからを主原料とした原料から、乾燥しやすく、かつ、水戻りがよく、常温流通が可能な組織状大豆加工品を製造できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明に係るおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法は、乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を二軸エクストルーダーにより組織化する工程を有し、前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである。
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有していてもよい。
また、本発明の組織状大豆加工品の製造方法は、前記乾燥おから粉末として、脱皮大豆から製造されたものを用いてもよい。
【0009】
本発明のおからを用いた組織状大豆加工品は、乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を組織化したものであり、前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである。
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有していてもよい。
また、前記乾燥おから粉末は、脱皮大豆から製造されたものでもよい。
本発明のおからを用いた組織状大豆加工品は、例えば、蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%とを含有し、水分活性が0.625以下であり、ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cmである。
【0010】
本発明における「おから」は、原料大豆を蒸煮やボイルなどによって加熱した後にすり潰し、圧搾して豆乳を搾り出した後の固形物であり、「乾燥おから粉末」は、前述したおからを乾燥及び粉末化したものであり、以下の説明においても同様である。また、「水分活性」は、食品中の水分のうち自由水を示す指標であり、本発明で特定している組織状大豆加工品の「水分活性」の範囲は、ノバシーナ社製 水分活性測定装置(Lab MASTER-aw, Lab PARTNER-aw)により測定した値に基づいている。
【0011】
更に、本発明で特定している組織状大豆加工品の「乾燥嵩比重」の範囲は、組織状大豆加工品を90℃の温度条件下で8時間減圧乾燥した後、ビーズ置換法により、株式会社東新理興製 ガラスビーズ No.040(粒子径:0.350~0.500mm)を使用し、以下に示す方法及び条件で測定した嵩比重の値に基づいている。組織状大豆加工品の嵩比重を測定する際は、先ず、開口部の周囲に高さを延長するためのアジャスターが取り付けられた100mlのステンレス容器を用意し、ステンレス容器に上端を超える量のビーズを入れ、ホソカワミクロン株式会社製 パウダテスタ(登録商標)を用いて100回タッピングを行う。その後、ステンレス容器からアジャスターを取り外し、ステンレス容器の上端を超えている分のビーズをすり切り、ステンレス容器に残ったビーズの質量を測定して、ビーズの比重を求める。
【0012】
次に、ステンレス容器内のビーズの一部を別の容器に取り出し、空いたスペースに乾燥後の組織状大豆加工品約10gを入れた後、ステンレス容器の開口部の周囲にアジャスターを取り付けてその高さを延長する。更に、取り出したビーズをステンレス容器に戻して、ホソカワミクロン株式会社製 パウダテスタ(登録商標)を用いて100回タッピングを行う。その後、アジャスターを取り外し、ステンレス容器の上端を超えているビーズをすり切り、すり切られたビーズの質量を測定する。そして、組織状大豆加工品約10gを入れたことによりステンレス容器からあふれた(すり切られた)ビーズの質量及びステンレス容器の容積(100ml)から、組織状大豆加工品の嵩比重を算出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蛋白含有率、食物繊維含有率及び粒子径が特定の範囲にある乾燥おから粉末を主原料としているため、従来のおから含有原料よりも組織化されやすくなり、特殊な装置を使用しなくても、崩れにくく、適度な弾力を有する組織状大豆加工品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施形態に係る組織状大豆加工品は、蛋白含有率、食物繊維含有率及び粒子径が特定の範囲にある乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を組織化したものである。
【0016】
[乾燥おから粉末]
本実施形態の組織状大豆加工品の原料組成物に配合される乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmである。乾燥おから粉末の蛋白含有率が25質量%未満の場合、蛋白質が十分に組織化されないことがある。なお、原料の組織化の観点から、乾燥おから粉末の蛋白含有率は、28質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上である。一方、乾燥おから粉末の蛋白含有率の上限は、特に限定されるものではないが、一般に36質量%程度である。
【0017】
また、乾燥おから粉末の食物繊維含有率が47質量%を超えると、蛋白質が十分に組織化されないことがある。なお、原料の組織化の観点から、乾燥おから粉末の食物繊維含有率は、42質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。一方、原料の組織化の観点から、乾燥おから粉末の食物繊維含有率はできるだけ少ない方が好ましいが、一般に乾燥おから粉末の食物繊維含有率は33質量%程度が下限である。
【0018】
更に、乾燥おから粉末のメディアン径が100μmを超えると、蛋白質が十分に組織化されないことがある。一方、乾燥おから粉末の粒径は小さい方が原料を組織化しやすくなるが、一般に乾燥おから粉末のメディアン径は20μm程度が下限である。
【0019】
一方、蛋白含有率、食物繊維含有率及び粒子径が前述した範囲にある乾燥おから粉末を用いることにより、原料組成物における乾燥おから粉末の配合量を70質量%以上にしても、良好に組織化できるため、オリフィス構造を有する冷却ダイが設置されていない二軸エクストルーダーを用いて、崩れにくく、かつ、適度な弾力を有する組織状大豆加工品を製造することができる。なお、本実施形態の組織状大豆加工品では、乾燥おから粉末の配合量を70質量%以上としているが、これは、この範囲で特に前述した乾燥おから粉末を用いる効果が顕著になるためであり、当然ながら、原料組成物における配合量が70質量%未満の場合でも、組織状態が良好で、崩れにくく、適度な弾力を有する組織状大豆加工品を製造することができる。
【0020】
本実施形態の組織状大豆加工品に用いられる乾燥おから粉末は、例えば以下の方法で製造することができる。先ず、種皮及び/又は胚軸の全部又は一部が除去された脱皮大豆を、蒸煮やボイルなどによって加熱してからすり潰し、それを圧搾して豆乳を搾り出すことにより、おからを調製する。その際、大豆から種皮や胚軸を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば加熱した大豆を補助脱皮機、続いて剥皮機にかけ、風選により皮を分離し、その後、多段式篩装置にかけて子葉と胚軸を分離することによって行うことができる。次に、前述した方法で調製されたおからを、熱風で乾燥し、粉砕機にかけることにより粉末化して、乾燥おから粉末を得る。
【0021】
[その他の原料]
本実施形態の組織状大豆加工品は、乾燥おから粉末のみを原料としてもよいが、原料組成物全質量の30質量%以下の範囲で、分離大豆蛋白、小麦グルテン、脱脂大豆及びえんどう豆などの植物性蛋白質素材を配合することもできる。これにより、繊維質が多くなり、結合強度が強い組織状大豆加工品を製造することができる。
【0022】
また、本実施形態の組織状大豆加工品に用いられる原料組成物には、本発明の効果に影響しない範囲であれば、前述した乾燥おから粉末及び植物性蛋白質素材の他に、食塩などの調味料、動物性又は植物性油脂、香料、原料の流動性改善、大豆臭抑制又は呈味改善を目的とした各種添加物などが配合されていてもよい。
【0023】
[製造方法]
次に、本実施形態の組織状大豆加工品の製造方法について説明する。本実施形態の組織状大豆加工品の製造方法では、乾燥おから粉末を70質量%以上含有し、必要に応じて植物性蛋白質素材を30質量%以下の範囲で含有する原料組成物と水を、二軸エクストルーダーに投入して加圧混練する。その際、乾燥おから粉末には、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmであるものを用いる。また、加水量は、原料組成物の配合などに応じて適宜設定することができるが、原料組成物100質量部に対して10~50質量部の水を投入することが好ましい。
【0024】
冷却ダイを備える二軸エクストルーダーを用いた場合、加圧混練により発生した水蒸気が冷却ダイで冷却されて水になるため、取り出される混練物(組織状大豆加工品)は水分を多く含む。一方、本実施形態の組織状大豆加工品の製造方法では、冷却ダイを使用していないため、混練物(組織状大豆加工品)に含まれる水分は、二軸エクストルーダーから排出直後に水蒸気として放出され、水分量が低減された混練物(組織状大豆加工品)が得られる。その後、二軸エクストルーダーから順次排出された混練物を、必要に応じて所定の大きさにカットし、乾燥機などに静置して乾燥させる。
【0025】
これにより、原料組成物中の蛋白質が組織化され、蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%とを含有し、水分活性が0.625以下であり、90℃の温度条件下で8時間減圧乾燥した後、ビーズ置換法を用いて測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cmである組織状大豆加工品が得られる。
【0026】
前述したように、冷却ダイを備える二軸エクストルーダーを用いて製造された従来の組織状大豆加工品は、水分量が多いため冷凍か冷蔵で保存する必要があるが、本実施形態の方法で製造された組織状大豆加工品は、水分活性を0.625以下にすることができるため、カビが生えにくく、常温保存が可能で、「乾物」として保管・流通することができ、使い勝手がよい。また、本実施形態の方法で製造された組織状大豆加工品は、多孔質であるため、乾燥しやすく、また、調理する際には水戻りしやすく、味もしみこみやすい。
【0027】
本実施形態の組織状大豆加工品の製造方法では、主原料として食物繊維含有量が低く、粒子径が小さい乾燥おから粉末を用いているため、原料に含まれる蛋白質の組織化が阻害されず、結着性が良好で、適度な硬さがある組織状大豆加工品を長尺で製造することができる。このような長尺の組織状大豆加工品は、カッティングヘッドを使用して切断したり、ローラーを用いて引き延ばしたりすることで、粒状(そぼろ状・大豆状・ダイス状など)、スライス状、繊維状などの任意の形状・大きさに加工することができるため、代替肉として様々な調理品に利用することが可能となる。
【0028】
また、本実施形態の組織状大豆加工品の製造で用いる装置は、オリフィス構造や冷却ダイを備えていない二軸エクストルーダーであり、混練条件も、原料におからを用いず、大豆蛋白のみを用いて製造する場合と同等である。
【0029】
以上詳述したように、本実施形態の組織状大豆加工品は、蛋白質含有量、食物繊維含有量及び粒子径が特定の範囲にある乾燥おから粉末を主原料としているため、蛋白質が良好に組織化されている。このため、本実施形態の組織状大豆加工品は、乾燥おから粉末配合量が70質量%以上であるにもかかわらず、崩れにくく、適度な弾力を有する。
【0030】
また、本実施形態の組織状大豆加工品は、冷却ダイを使用せずに製造されているため、水分含有量が少なく、乾燥代替肉に好適である。特に、水分活性を0.625以下、90℃の温度条件下で8時間減圧乾燥後の乾燥嵩比重を0.5~0.9g/cmにした組織状大豆加工品は、常温保管が可能であり、保存性及び流通性にも優れている。
【0031】
従来の組織状大豆加工品は、主原料が大豆蛋白や脱脂大豆であるため、大豆蛋白特有の臭いや脱脂大豆由来の大豆臭が強いという問題があるが、本実施形態の組織状大豆加工品は、主原料が乾燥おから粉末であるため、大豆蛋白特有の臭いや大豆臭がほとんど感じられず、薄味の食品にも適用できる。
【0032】
本実施形態の組織状大豆加工品は、代替肉に好適であり、例えば具入り調味料の具材、即席麺や冷凍麺の具材、ガパオライスなどのような肉そぼろ状食品の他、ウインナー、ハンバーグ及びナゲットなど様々な調理品において肉の代わりに用いることができる。なお、本実施形態の組織状大豆加工品の形状は、そぼろ状に限定されるものではなく、カットの仕方次第で塊状やスライス状にすることもできるため、塊肉を用いる食品にも利用することが可能である。
【実施例0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0034】
<第1実施例>
先ず、本発明の第1実施例として、原料に乾燥おから粉末のみを使用して組織状大豆加工品を作製し、評価した。具体的には、下記表1に示す乾燥おから粉末A~Dを、原料フィーダーにより18~35kg/時間の速度で二軸エクストルーダーに供給し、スクリュー回転数を100~200rpm、ダイの孔数を1個、シリンダー(バレル)先端の設定温度を180℃とし、加圧及び加熱しながら混合・混練した。このとき、二軸エクストルーダーに、原料(乾燥おから粉末)100質量部あたり10~50質量部の水を添加した。また、ダイでの処理物(混練物)の冷却は行わなかった。
【0035】
その結果、本発明の実施例である乾燥おから粉末Aを用いたNo.1の試料は、おからに含まれる蛋白質が組織化され、連続的に組織状大豆加工品を製造することができた。一方、蛋白含有率、食物繊維含有率及びメディアン径の全てが本発明の範囲から外れる乾燥おから粉末Bを用いたNo.2の試料、並びに、蛋白含有率及び食物繊維含有率が本発明の範囲から外れる乾燥おから粉末C,Dを用いたNo.3,4の試料は、蛋白質の組織化不足により、組織状大豆加工品を形成できず、二軸エクストルーダーから粉状のおからが排出された。
【0036】
そこで、連続的に組織状大豆加工品を形成することができたNo.1の試料についてのみ、評価を行った。評価用試料には、組織状大豆加工品10.0g、食塩1.2g、水38.8gをレトルトパウチに入れて密封し、120℃で20分間殺菌したものを用い、3名の分析型官能評価パネルにより、「弾力」、「香り(大豆臭)」及び「口あたり」を官能評価した。また、各項目の評価は、原料に脱脂大豆粉末のみを使用して製造された組織状大豆加工品(粒状大豆蛋白)を、評価用試料と同様の方法で調製した基準試料と比較することにより行った。
【0037】
〔弾力〕
評価用試料と基準試料を食し、その食感により両者の弾力を比較し、下記の5段階で評価した。
5点:基準試料よりも強い。
4点:基準試料と同等。
3点:基準試料よりもやや弱い。
2点:基準試料よりも弱い。
1点:弾力がほとんど感じられない。
【0038】
〔香り(大豆臭)〕
評価用試料と基準試料について、食したときに感じられる大豆臭を比較し、下記の5段階で評価した。
5点:基準試料よりも弱い。
4点:基準試料よりやや弱い。
3点:基準試料と同等。
2点:基準試料よりやや強い。
1点:基準試料よりも強い。
【0039】
〔口あたり〕
評価用試料と基準試料について、食したときに感じられるざらつきを比較し、下記の5段階で評価した。
5点:基準試料よりも弱い。
4点:基準試料よりやや弱い。
3点:基準試料と同等。
2点:基準試料よりやや強い。
1点:基準試料よりも強い。
【0040】
本実施例では、各評価項目の合計点が12点以上であったものを合格とした。以上の結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
上記表1に示すように、本発明の要件を満たす乾燥おから粉末Aを用いたNo.1の組織状大豆加工品は、大豆蛋白や脱脂大豆などの蛋白質素材を用いずにおから粉末のみで形成したにもかかわらず、良好に組織化され、適度な弾力を有し、大豆臭が弱く、口当たりが良好であった。また、このNo.1の組織状大豆加工品は、連続製造も可能であった。
【0043】
<第2実施例>
次に、本発明の第2実施例として、前述した第1実施例で用いた乾燥おから粉末A~Dに、植物性蛋白質素材である分離大豆蛋白(不二製油社製 フジプロ748)を添加した原料組成物を、第1実施例と同様の方法及び条件で組織化してNo.5~8の組織状大豆加工品を製造した。その際、乾燥おから粉末と分離大豆蛋白との配合割合は、質量比で、乾燥おから粉末:分離大豆蛋白=75:25とした。なお、本実施例で用いた分離大豆蛋白は、蛋白含有率が85.5質量%であり、食物繊維は含まれていない。
【0044】
そして、第1実施例と同様の方法及び基準で、No.5~8の組織状大豆加工品を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
上記表2に示すように、本発明の要件を満たす乾燥おから粉末Aを用いて作製した実施例のNo.5の組織状大豆加工品は、弾力及び口あたりが良好で、大豆臭も感じられなかった。また、このNo.5の組織状大豆加工品は、連続製造が可能であった。
【0047】
一方、本発明の要件を満たさない乾燥おから粉末B~Dを用いた比較例No.6~8は、分離大豆蛋白を25質量%配合したことにより、組織状大豆加工品を成形することができたが、No.6の組織状大豆加工品は、弾力がなく、口あたりも悪かった。また、比較例のNo.7,8の組織状大豆加工品は、粒子径が小さい乾燥おから粉末を用いたため口あたりは良好であったが、弾力が劣っていた。
【0048】
<第3実施例>
次に、本発明の第3実施例として、前述した第2実施例で用いた乾燥おから粉末A(メディアン径51μm)、乾燥おから粉末C(メディアン径45μm)及び分離大豆蛋白を特定の割合で配合した原料組成物を、第1実施例と同様の方法及び条件で組織化してNo.9~12の組織状大豆加工品を製造し、第1実施例と同様の方法及び基準で評価した。その結果を下記表3に示す。なお、下記表3には、比較のため、実施例2で作製したNo.5の組織状大豆加工品の評価結果を併せて示す。
【0049】
【表3】
【0050】
上記表3に示すように、2種類の乾燥おから粉末を併用した場合も、乾燥おから粉末全体として、蛋白含有率、食物繊維含有率及びメディアン径が本発明の範囲内となっている実施例のNo.9~11の組織状大豆加工品は、乾燥おから粉末Aを単独で用いて作製したNo.5の組織状大豆加工品と、同等の評価結果が得られた。これに対して、乾燥おから粉末を併用した結果、蛋白含有率及び食物繊維含有率が本発明の範囲から外れた比較例のNo.12の組織状大豆加工品は、口あたりは良好であったが、弾力が劣っていた。
【0051】
<第4実施例>
次に、本発明の第4実施例として、前述した第2実施例で用いた乾燥おから粉末A(メディアン径51μm)と分離大豆蛋白(不二製油社製 フジプロ748)を、質量比で、75:25の割合で配合した原料組成物を、二軸エクストルーダーを用いて下記表4に示す条件で組織化し、No.13~16の組織状大豆加工品を製造した。そして、得られた各組織状大豆加工品の「乾燥嵩比重」及び「水分活性」を測定すると共に、以下に示す方法及び基準で「吸水性」及び「硬さ」を評価した。
【0052】
〔吸水性〕
各組織状大豆加工品(乾燥状態の質量W)を10倍量のお湯(98℃)に10分間浸漬した後、水をよく切ってから質量Wを測定し、下記数式1から吸水率(%)を求めた。そして、吸水率が200%以上ものを○(合格)、200%未満のものを×(不合格)とした。
【0053】
【数1】
【0054】
〔硬さ〕
各組織状大豆加工品を10倍量のお湯(98℃)に10分間浸漬した後、水をよく切ったものを評価用試料とし、3名の分析型官能評価パネルによって官能評価した。評価は、原料に脱脂大豆粉末のみを使用して製造された組織状大豆加工品(粒状大豆蛋白)を、評価用試料と同様の方法で調製した基準試料と比較することにより行った。
【0055】
具体的には、評価用試料と基準試料を食し、その食感により両者の硬さを比較し、下記3段階で評価した。
○:基準試料よりも柔らかい。
△:基準試料と同等。
×:基準試料よりも硬く、芯が残っていた。
【0056】
以上の結果を下記表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
上記表4に示すように、本発明の要件を満たす乾燥おから粉末Aを用いたNo.13~16は、冷却ダイの有無にかかわらず、所定形状の組織状大豆加工品を製造することができた。特に、乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cmの範囲内にあるNo.13~15の組織状大豆加工品は、吸水性が高いため、味が染みこみやすく、また、硬さも従来品と同等か従来品よりも柔らかいため、代替肉として好適なものであった。
【0059】
以上の結果から、本発明によれば、おからを70質量%以上含有し、崩れにくく、適度な弾力を有する組織状大豆加工品を製造できることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を二軸エクストルーダーにより組織化する工程を有し、
前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmであり、
ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cm である組織状大豆加工品を得る
おからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有する請求項1に記載のおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥おから粉末として、脱皮大豆から製造されたものを用いる請求項1又は2に記載のおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法。
【請求項4】
乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を組織化したものであり、
前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmであり、
ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cm である
おからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項5】
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有する請求項4に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項6】
前記乾燥おから粉末は、脱皮大豆から製造されたものである請求項4又は5に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【請求項7】
蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%とを含有し、
水分活性が0.625以下である
請求項4~6のいずれか1項に記載のおからを用いた組織状大豆加工品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、原料に「蛋白含有率」、「食物繊維含有率」及び「粒子径」が特定の範囲にある乾燥おから粉末を用いると、蛋白質が組織化されやすくなり、オリフィス構造を有する冷却ダイが設置されていない通常の二軸型エクストルーダーを使用して、おからを主原料とした原料から、乾燥しやすく、かつ、水戻りがよく、常温流通が可能な組織状大豆加工品を製造できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明に係るおからを用いた組織状大豆加工品の製造方法は、乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を二軸エクストルーダーにより組織化する工程を有し、前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmであり、ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cm である組織状大豆加工品を得る
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有していてもよい。
また、本発明の組織状大豆加工品の製造方法は、前記乾燥おから粉末として、脱皮大豆から製造されたものを用いてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明のおからを用いた組織状大豆加工品は、乾燥おから粉末を70質量%以上含有する原料組成物を組織化したものであり、前記乾燥おから粉末は、蛋白含有率が25~36質量%、食物繊維含有率が33~47質量%、メディアン径が20~100μmであり、ビーズ置換法により測定した乾燥嵩比重が0.5~0.9g/cm である
前記原料組成物は、植物性蛋白質素材を30質量%以下含有していてもよい。
また、前記乾燥おから粉末は、脱皮大豆から製造されたものでもよい。
本発明のおからを用いた組織状大豆加工品は、例えば、蛋白質を25~51質量%と、食物繊維を23~47質量%とを含有し、水分活性が0.625以下である