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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150131
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】端子及び端子付電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20231005BHJP
   H01R 4/18 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
H01R13/03 A
H01R13/03 D
H01R4/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059076
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】慶留間 鴻
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲朗
【テーマコード(参考)】
5E085
【Fターム(参考)】
5E085BB12
5E085EE11
5E085EE12
5E085FF01
5E085FF16
5E085HH29
5E085JJ03
(57)【要約】
【課題】筒状部と導体との間の電気抵抗の増加、及び、延在部と被接続部材との間の電気抵抗の増加を抑制できる端子、及び端子付電線を提供すること。
【解決手段】全体が同一のアルミニウム材料から成る端子である。端子は、前記端子における一端側に設けられ、導体が挿入される中空部を有する筒状部と、前記端子における前記一端側とは異なる他端側に設けられ、貫通孔が形成された板状の延在部とを備える。前記延在部のうち、被接続部材と接続する部分はめっき層を備える。前記延在部のビッカース硬度は、前記筒状部のうち、前記延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が同一のアルミニウム材料から成る端子であって、
前記端子における一端側に設けられ、導体が挿入される中空部を有する筒状部と、
前記端子における前記一端側とは異なる他端側に設けられ、貫通孔が形成された板状の延在部と、
を備え、
前記延在部のうち、被接続部材と接続する部分はめっき層を備え、
前記延在部のビッカース硬度は、前記筒状部のうち、前記延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度よりも大きい、
端子。
【請求項2】
請求項1に記載の端子であって、
前記延在部のビッカース硬度は35HV0.1以上であり、
前記筒状部のうち、前記延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度は35HV0.1未満である、
端子。
【請求項3】
アルミニウム材料から成る前記導体、及び前記導体を被覆する絶縁層を含む電線と、
前記電線と接続した請求項1又は2に記載の端子と、
を備える、
端子付電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は端子及び端子付電線に関する。
【背景技術】
【0002】
端子付電線は、電線と端子とを備える。端子は、電線が備える導体に接続している。導体及び端子の材料は、従来、銅又は銅合金であった。特許文献1に、導体及び端子の材料がアルミニウム材料である端子付電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-119865号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
端子は筒状部を備える。導体は筒状部に挿入される。筒状部に導体が挿入された状態で筒状部をかしめること(圧縮、圧着等)により、筒状部と導体とが接続される。これにより、筒状部と、挿入された導体との間に応力が作用する。応力は、時間の経過とともに小さくなることがある。導体及び端子の材料がアルミニウム材料である場合、時間の経過とともに応力が小さくなり易い。応力が小さくなると、筒状部と導体との間の接触力が小さくなり、筒状部と導体との間の電気抵抗が増加する。
【0005】
また、端子は延在部を備える。延在部は、ボルト等により被接続部材に接続する。延在部は、被接続部材と接する部分にめっき層を備える。端子の材料がアルミニウム材料である場合、端子と被接続部材とを高温環境に曝すと、延在部とボルトとの線膨張差によって延在部に応力がかかり、延在部が塑性変形し、めっき層が壊れる。その結果、延在部と被接続部材との間の電気抵抗が増加する。延在部と被接続部材との間の電気抵抗が増加すると、電流を流したとき、端子付電線が発熱する。端子付電線の発熱は、電線断線や接触不良の原因となり得る。
【0006】
本開示の1つの局面では、筒状部と導体との間の電気抵抗の増加、及び、延在部と被接続部材との間の電気抵抗の増加を抑制できる端子、及び端子付電線を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、全体が同一のアルミニウム材料から成る端子である。端子は、前記端子における一端側に設けられ、導体が挿入される中空部を有する筒状部と、前記端子における前記一端側とは異なる他端側に設けられ、貫通孔が形成された板状の延在部とを備える。前記延在部のうち、被接続部材と接続する部分はめっき層を備える。前記延在部のビッカース硬度は、前記筒状部のうち、前記延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度よりも大きい。
【0008】
本開示の1つの局面の端子において、延在部のビッカース硬度は、筒状部のうち、延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度よりも大きい。延在部のビッカース硬度が大きいため、高温環境下でも、延在部と被接続部材との間の電気抵抗が増加し難い。
【0009】
また、筒状部のうち、延在部の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度が小さいため、導体と筒状部との間に作用する応力が緩和され難く、導体と筒状部との接触力が下がり難く、導体と筒状部との間の電気抵抗が増加し難い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】端子付電線の構成を表す斜視図である。
図2】端子と被接続部材とを接続した状態を表す説明図である。
図3】端子の製造方法を表す説明図である。
図4】中空部内に露出部の一部を挿入した状態を表す側断面図である。
図5図5Aは、1回目の圧縮が終了したときの端子付電線の断面図である。図5Bは、2回目の圧縮が終了したときの端子付電線の断面図である。図5Cは、3回目の圧縮が終了したときの端子付電線の断面図である。
図6】板材と被接続部材とを接続した状態を表す説明図である。
図7】板材における切断面の位置を表す説明図である。
図8】切断面におけるビッカース硬度の測定位置を表す説明図である。
図9】1回のヒートサイクルにおける温度の変化を表す説明図である。
図10】実験例1におけるビッカース硬度の測定結果を表す表である。
図11】実験例1における電気抵抗増加量の測定結果を表す表である。
図12】実験例1において測定したビッカース硬度と電気抵抗増加量との関係を表すグラフである。
図13】端子における切断面の位置を表す説明図である。
図14】延在部での切断面におけるビッカース硬度の測定位置を表す説明図である。
図15】筒状部での切断面におけるビッカース硬度の測定位置を表す説明図である。
図16】実験例2におけるビッカース硬度の測定結果を表す表である。
図17】実験例2における電気抵抗増加量の測定結果を表す表である。
図18】実験例2において測定したビッカース硬度と電気抵抗増加量との関係を表すグラフである。
図19】実験例1及び実験例2において測定したビッカース硬度と電気抵抗増加量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.端子5の構成
端子5の構成を、図1図2図15に基づき説明する。図1に示すように、端子5は、筒状部6と延在部8とを備える。筒状部6と延在部8とは一体的に形成されている。筒状部6は、端子5における一端側に設けられている。延在部8は、端子5における前記一端側とは異なる他端側に設けられている。
【0012】
筒状部6は、例えば、軸方向に直交する断面が円形である筒状の形態を有する。筒状部6は、その内部に中空部7を有する。中空部7に後述する導体3を挿入可能である。筒状部6は、軸方向における端部に開口部6aを有する。中空部7は、開口部6aにおいて、筒状部6の外側と連通している。開口部6aの形状は、例えば、円形である。開口部6aの直径は、例えば、導体3の外径と同等の大きさ、又は、導体3の外径の90~95%程度の大きさである。導体3は、開口部6aを通り、中空部7に挿入される。導体3を開口部6aから中空部7に挿入する際、結束バンド等を用い、導体3の外径が筒状部6の内径と同等程度になるまで導体3を圧縮すると、導体3に与えるダメージを少なく、また、スムーズに中空部7に導体3を挿入できる。
【0013】
延在部8は、例えば、本体部8aと、ボルト孔9とを備える。本体部8aの形態は、例えば、板状である。ボルト孔9は、本体部8aを貫通する貫通孔である。
例えば、図2に示すように、延在部8は、被接続部材101と接続する。延在部8の一部と、被接続部材101の一部とは重ねられる。被接続部材101は、ボルト孔103を備える。ボルト孔103は、例えば、被接続部材101を貫通している。
【0014】
ボルト孔9の位置と、ボルト孔103の位置とを一致させる。例えば、ボルト105、ナット107、スプリングワッシャー110、及び2個のワッシャー111を用いて、延在部8を、被接続部材101に接続する。ボルト105は、ボルト孔9及びボルト孔103に差し込まれている。
【0015】
端子5の全体が、同一のアルミニウム材料により構成される。アルミニウム材料とは、アルミニウムを含む材料である。アルミニウム材料として、純アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい。
【0016】
純アルミニウムは、Al及び不可避不純物から成る材料である。純アルミニウムとして、例えば、電気用純アルミニウム(ECAl)が挙げられる。アルミニウム合金として、例えば、Al-Fe-Zr等が挙げられる。
【0017】
Al-Fe-Zrは、0.01~0.10質量%のZrと、0.1質量%以下のSiと、0.2~1.0質量%のFeと、0.01質量%以下のCuと、0.01質量%以下のMnと、0.01質量%以下のMgと、0.01質量%以下のZnと、0.01質量%以下のTiと、0.01質量%以下のVと、を含み、残部がAlと不可避不純物とから成るアルミニウム合金である。
【0018】
端子5は、めっき層を備える。めっき層は、端子5の表面の一部又は全部に形成されている。めっき層は、例えば、延在部8のうち、少なくとも、被接続部材101と接する部分に形成されている。めっき層として、例えば、Snめっき層、Agめっき層等が挙げられる。
【0019】
延在部8のビッカース硬度は、筒状部6のうち、延在部8の厚さ方向に位置する部分のビッカース硬度より大きい。延在部8のビッカース硬度は、35HV0.1以上であることが好ましい。延在部8のビッカース硬度が35HV0.1以上である場合、高温環境下でも、延在部8と被接続部材101との間の電気抵抗の増加を一層抑制することができる。延在部8のビッカース硬度は、大きい方が好ましく、特に上限は無いが、例えば、60HV0.1以下とすることができる。なお、HV0.1とは、100gfの荷重で押圧したときのビッカース硬度である。
【0020】
図15に示す測定部6bは、延在部8の厚さ方向Xであって、中空部7の外縁から、径方向に1mm~2mm離れた位置にある。この測定部6bにおいて、ビッカース硬度の測定を行った。この測定部6bは、筒状部6のうち、延在部8の厚さ方向Xに位置する部分の一部である。この測定部6bのビッカース硬度は35HV0.1未満であることが好ましい。測定部6bのビッカース硬度が35HV0.1未満である場合、導体3と端子5とを接続してから時間が経過しても、導体3と端子5との間の電気抵抗が増加し難い。
【0021】
2.端子5の製造方法
端子5は、例えば、図3に示す方法で製造できる。S1では、アルミニウム材料から成る材料201を用意する。
【0022】
S2では、丸棒成形を行うことにより、材料201から棒材203を得る。棒材203の直径は、例えば、16mmである。その後、400℃で3時間焼鈍する。
S3では、棒材203における一方の先端部に対し冷間鍛造を行うことで、延在部8を形成する。延在部8の板厚は、例えば、5.8mmである。延在部8の軸方向での長さは、例えば、30mmである。
【0023】
S4では、S3の後、焼鈍を行うことなく、ドリルを用いて、開口部6a及び中空部7を形成する。その結果、筒状部6が形成される。また、焼鈍を行うことなく、ドリルを用いて、延在部8にボルト孔9を形成する。
【0024】
S5では、端子5の表面にめっき層205を形成する。めっき層205は、例えば、下地と表層との2層を備える。下地は、例えば、Cuの層である。表層は、例えば、Snの層である。下地の膜厚は、例えば、2μmである。表層の膜厚は、例えば、8~13μmである。めっき層205は、例えば、電気めっきにより形成することができる。端子5の中空部7の内面には、めっき層は形成していない。
【0025】
図3で示す方法で製造された端子5において、延在部8のビッカース硬度は、測定部6bのビッカース硬度より大きい。その理由は以下のとおりである。S3において冷間鍛造を行うことで、延在部8のビッカース硬度は大きくなる。S3の後、焼鈍を行わないので、延在部8のビッカース硬度は、大きいままで維持される。
【0026】
一方、棒材203のうち、測定部6bとなる部分に対しては冷間鍛造時の加工が小さいので、測定部6bのビッカース硬度は延在部8に比べて大きくならない。その結果、延在部8のビッカース硬度は、測定部6bのビッカース硬度より大きい。
【0027】
端子5を製造する方法は、以下の別法であってもよい。図3のS2において、アルミニウム材料から成るパイプを用意する。S3において、パイプの一端側をプレス加工する。プレス加工した部分は、パイプの中空部が閉じ、延在部8となる。パイプのうち、プレス加工をしない部分は、筒状部6となる。別法においても、S3の後、焼鈍は行わない。次に、端子5の表面にめっき層205を形成する。端子5の中空部7の内面には、めっき層は形成していない。
【0028】
別法で製造された端子5においても、延在部8のビッカース硬度は、測定部6bのビッカース硬度より大きい。その理由は以下のとおりである。延在部8は、パイプのうち、プレス加工が行われた部分である。延在部8のビッカース硬度は、プレス加工を行うことで大きくなる。プレス加工の後、焼鈍を行わないので、延在部8のビッカース硬度は、大きいままで維持される。
【0029】
一方、パイプのうち、筒状部6となる部分に対してはプレス加工を行わないので、測定部6bのビッカース硬度は大きくならない。その結果、延在部8のビッカース硬度は、測定部6bのビッカース硬度より大きい。
【0030】
3.端子付電線1の構成
端子付電線1の構成を、図1に基づき説明する。端子付電線1は、図1に示すように、電線2と端子5とを備えている。
【0031】
電線2は、いわゆる絶縁電線である。電線2は、導体3と、絶縁層4とを備えている。絶縁層4は、導体3を被覆する。電線2の端部において、導体3は露出している。導体3のうち、露出している部分を露出部3aとする。露出部3aの一部又は全部は、中空部7内に挿入される。
【0032】
導体3は、電線2の芯線である。導体3として、例えば、金属線、又は、複数の金属素線を撚り合わせた撚り線が挙げられる。導体3を構成する金属材料として、例えば、アルミニウム材料等が挙げられる。アルミニウム材料として、例えば、純アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられる。純アルミニウムとして、例えば、電気用純アルミニウム(ECAl)が挙げられる。
【0033】
アルミニウム合金として、例えば、以下のAl-Zr、Al-Fe-Zr等が挙げられる。Al-Zrは、0.03~1.5質量%のZrと、0.1~1.0質量%のFe及びSiと、を含み、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金である。
【0034】
Al-Zrの組成において、「0.1~1.0質量%のFe及びSi」とは、以下の意味を有する。Al-ZrがFe及びSiの両方を含有する場合は、Fe及びSiの合計濃度が0.1~1.0質量%である。Al-ZrがFeを含有し、Siを含有しない場合は、Feの濃度が0.1~1.0質量%である。Al-ZrがSiを含有し、Feを含有しない場合は、Siの濃度が0.1~1.0質量%である。なお、ここでの「含有しない」とは、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析で、検出限界以下であることを意味する。
【0035】
絶縁層4は絶縁材料から形成されている。絶縁層4は、導体3を被覆する。絶縁層4の材料として、例えば、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、及びシリコーン系樹脂等が挙げられる。絶縁層4は、露出部3aを除き、電線2の長さ方向の全体にわたって設けられている。
【0036】
導体3の材料の引張強度は、端子5の材料の引張強度より大きいことが好ましい。導体3の材料の引張強度は、端子5の材料の引張強度よりも、20MPa以上大きいことが好ましい。
【0037】
例えば、導体3の材料をAl-Fe-Zrとし、端子5の材料をECAlとすることができる。この場合、導体3の材料の引張強度は、端子5の材料の引張強度よりも、約24MPa以上大きい。
【0038】
例えば、導体3の材料をAl-Zrとし、端子5の材料をECAlとすることができる。この場合、導体3の材料の引張強度は、端子5の材料の引張強度よりも、約46MPa以上大きい。
【0039】
例えば、導体3の材料の組成と、端子5の材料の組成とを同じとすることができる。この場合、製造工程中の熱処理や加工度等を調整することで、導体3の材料の引張強度を、端子5の材料の引張強度よりも大きくすることが好ましい。
【0040】
導体3の材料のビッカース硬度は、端子5の材料のビッカース硬度より大きいことが好ましい。導体3の材料のビッカース硬度が端子5の材料のビッカース硬度より大きい場合、筒状部6と導体3との間に作用する応力が緩和され難く、筒状部6と導体3との間の電気抵抗が増加し難い。
【0041】
端子付電線1は、例えば、ビル、風力発電機、鉄道車両や自動車等に用いられる配線材として用いることができる。
4.端子付電線1の製造方法
端子付電線1は、例えば、以下の方法で製造できる。
【0042】
(4-1)準備工程
電線2と、端子5とを準備する。例えば、導体3と端子5とは、ともにアルミニウム材料から成る。次に、図4に示すように、中空部7内に露出部3aの一部を挿入する。
【0043】
例えば、露出部3aに導電粒子入りのコンパウンドを塗布してから、露出部3aを中空部7に挿入することができる。また、中空部7に導電粒子入りのコンパウンドを塗布又は充填してから、露出部3aを中空部7に挿入してもよい。導電粒子入りのコンパウンドは、例えば、導電粒子と、フッ素系油とを含む。導電粒子として、例えば、Ni-Pから成る導電粒子、Ni-Bから成る導電粒子、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0044】
(4-2)圧縮・接続工程
次に、図5Aに示すように、中空部7内に露出部3aを挿入した状態で、筒状部6にある圧縮部位P1を圧縮して、圧縮部10を形成する。次に、図5Bに示すように、筒状部6にある圧縮部位P3を圧縮して、圧縮部12を形成する。最後に、図5Cに示すように、筒状部6にある圧縮部位P2を圧縮して、圧縮部11を形成する。
【0045】
露出部3aの軸方向において、圧縮部10、11、12は、圧縮部10、圧縮部11、圧縮部12の順に、位置をずらして重ならないように並んでいる。露出部3aの軸方向において、圧縮部10は、圧縮部11、12よりも、延在部8の側にある。圧縮部10、11、12を形成することで、端子5は導体3に接続する。なお、圧縮部10、11、12は、一部重なるように形成されていてもよい。
【0046】
例えば、圧縮冶具を用い、圧縮部位P1~P3において、筒状部6の周方向の全周にわたって所定の圧力を加えることで、圧縮部10、11、12を形成することができる。圧縮部10、11、12は、圧縮変形(塑性変形)している。露出部3aの軸方向に直交する断面において、圧縮部10、11、12の形状は、例えば、6角形である。
【0047】
また、圧縮部位P1~P3において、一方から所定の圧力を加え、圧着してもよい。なお、圧縮すること、及び圧着することは、かしめることに対応する。
5.端子5及び端子付電線1が奏する効果
(5-1)延在部8のビッカース硬度は、測定部6bのビッカース硬度よりも大きい。延在部8のビッカース硬度が大きいため、高温環境下でも、延在部8と被接続部材101との間の電気抵抗が増加し難い。
【0048】
また、測定部6bのビッカース硬度が小さいため、導体3と筒状部6との間に作用する応力が緩和され難く、導体3と筒状部6との接触力が下がり難く、導体3と筒状部6との間の電気抵抗が増加し難い。
【0049】
(5-2)延在部8のビッカース硬度は35HV0.1以上である。そのため、高温環境下でも、延在部8と被接続部材101との間の電気抵抗の増加を一層抑制することができる。
【0050】
また、測定部6bのビッカース硬度は35HV0.1未満である。そのため、導体3と筒状部6との間の電気抵抗の増加を一層抑制することができる。
6.実験例1
(6-1)板材108の製造
図6に示す板材108を用意した。板材108には3種類がある。3種類の板材108において、めっき層を除く部分の材料は、それぞれ、ECAl(0)、Al-Fe-Zr(0)、及びAl―Zr(T5)である。(0)と(T5)とはそれぞれアルミの質別記号である。(0)は、完全に焼きなまし処理をして軟化させたものである。(T5)は、高温加工で冷却後、人工時効処理したものである。
【0051】
板材108は、延在部8を模擬するものである。板材108は、延在部8と同様に、ボルト孔9を備える。板材108は、表面にめっき層を備える。めっき層は、下地であるCuめっき層と、Snめっき層とから構成される。Cuめっき層の厚さは2μmである。Snめっき層の厚さは8~13μmである。
【0052】
(6-2)ビッカース硬度の測定
3種類の板材108のそれぞれについて、以下の方法でビッカース硬度を測定した。板材108を、図7に示す切断面109で切断した。切断面109は、板材108の主面と平行な切断面である。切断面109は、板材108の厚さ方向における中心を通る。切断面109を研磨してから、切断面109のうち、図8に示す1~6の測定場所で、ビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度の測定方法は、JIS Z 2244:2009に規定された方法であった。ビッカース硬度の測定条件は、加重:100gf、押込時間:15秒であった。
【0053】
測定位置1~6は、ボルト孔9の周囲にある。測定位置1~6は、格子状に配置されている。一方の方向において、測定位置同士の間隔は5mmである。前記一方とは直交する方向において、測定位置同士の間隔は9mmである。ビッカース硬度の測定結果を図10に示す。
【0054】
(6-3)電気抵抗増加量の測定
3種類の板材108のそれぞれについて、以下の方法で電気抵抗増加量を測定した。図6に示すように、板材108を、被接続部材101と接続した。被接続部材101は、板材108と同一組成、同一条件で作製された部材であった。板材108の一部と、被接続部材101の一部とは重ねられた。被接続部材101は、被接続部材101を貫通するボルト孔103を備えていた。ボルト孔9の位置と、ボルト孔103の位置とを一致させた。ボルト105、ナット107、スプリングワッシャー110、及び2個のワッシャー111を用いて、板材108を、被接続部材101に接続した。ボルト105は、ボルト孔9及びボルト孔103に差し込まれた。トルクレンチを用い、締付トルクが45N・mとなるように、ボルト105とナット107とを締め付けた。
【0055】
次に、板材108と被接続部材101との間の電気抵抗R1を室温下で測定した。次に、板材108と被接続部材101とを恒温槽に収容し、恒温槽内の温度を、図9に示すヒートサイクルを300サイクル繰り返すように変化させた。1つのヒートサイクルは、恒温槽内の目標温度を120℃に設定した状態で2.5時間収容する区間と、恒温槽内の目標温度を-20℃に設定した状態で3時間収容する区間とから成る。1つのヒートサイクルにおいて、恒温槽内の温度が120℃となる時間が15分以上となるようにし、―20℃となる時間が15分以上となるようにした。
【0056】
300サイクルの終了後、板材108と被接続部材101との温度を室温に戻し、板材108と被接続部材101との間の電気抵抗R2を測定した。R2からR1を差し引いた値を電気抵抗増加量とした。電気抵抗増加量を図11に示す。電気抵抗増加量の単位はμΩである。
【0057】
図10に示す各板材108のビッカース硬度(6点で測定した値の平均値)と、図11に示す各板材108の電気抵抗増加量(2点で測定した値の平均値)との関係を図12に示す。ビッカース硬度が大きいほど、電気抵抗増加量は小さかった。
7.実験例2
(7-1)端子5A、5Rの製造
図3のS1~S5に示す工程により、端子5Aを製造した。めっき層205を除けば、端子5Aの材料はECAlであった。棒材203の直径は16mmであった。延在部8の板厚は5.8mmであった。延在部8の軸方向での長さは30mmであった。めっき層205は、中空部7を除く全表面に形成された。めっき層205は、下地であるCuの層と、Snの層とから成るものであった。下地の膜厚は2μmであった。Snの層の膜厚は8~13μmであった。
【0058】
基本的には端子5Aの製造方法と同様にして、端子5Rを製造した。ただし、端子5Rの製造方法では、S3の工程の後、400℃で3時間の焼鈍を行ってから、S4の工程を行った。
【0059】
(7-2)ビッカース硬度の測定
端子5A、5Rのそれぞれについて、ビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度の測定方法は実験例1と同様であった。図13に示すように、切断面301、303、305において端子5A、5Rを切断し、切断面301、303、305を研磨した。切断面301は延在部8の断面である。切断面301は、延在部8の厚さ方向と直交する。切断面301は、延在部8の厚さ方向における中心を通る。
【0060】
切断面303、305は筒状部6の切断面である。切断面303、305は筒状部6の軸方向と直交する。切断面303は、筒状部6の軸方向において、開口部6aからの距離が30mmの位置にある。切断面305は、筒状部6の軸方向において、開口部6aからの距離が10mmの位置にある。
【0061】
切断面301のうち、図14に示す1~12の測定場所で、ビッカース硬度を測定した。測定位置1~12は、ボルト孔9の周囲にある。測定位置1~12は、格子状に配置されている。一方の方向において、測定位置同士の間隔は5mmである。前記一方とは直交する方向において、測定位置同士の間隔は9mmである。
【0062】
切断面303のうち、図15に示す13~16の測定場所で、ビッカース硬度を測定した。測定位置13、15は、中空部7の外縁から、径方向に1mm離れている。測定位置14、16は、中空部7の外縁から、径方向に2mm離れている。測定場所13、14は、筒状部6のうち、延在部8の厚さ方向Xにおける測定部6bにある。
【0063】
切断面305のうち、図15に示す17~20の測定場所で、ビッカース硬度を測定した。測定位置17、19は、中空部7の外縁から、径方向に1mm離れている。測定位置18、20は、中空部7の外縁から、径方向に2mm離れている。測定場所17~18は、筒状部6のうち、延在部8の厚さ方向Xにおける測定部6bにある。
【0064】
ビッカース硬度の測定結果を図16に示す。図16における「筒状部上下」とは、測定位置13、14、17、18でのビッカース硬度の平均値である。図16における「筒状部左右」とは、測定位置15、16、19、20でのビッカース硬度の平均値である。
【0065】
(7-3)電気抵抗増加量の測定
端子5A、5Rのそれぞれについて、以下の方法で電気抵抗増加量を測定した。図2に示すように、端子5A、5Rの延在部8を、被接続部材101と接続した。被接続部材101は、端子5A、5Rと同一組成、同一条件で作製された部材であった。延在部8の一部と、被接続部材101の一部とは重ねられた。延在部8のうち、被接続部材101と接する部分にはめっき層205が形成されていた。
【0066】
被接続部材101は、被接続部材101を貫通するボルト孔103を備えていた。ボルト孔9の位置と、ボルト孔103の位置とを一致させた。ボルト105、ナット107、スプリングワッシャー110、及び2個のワッシャー111を用いて、延在部8を、被接続部材101に接続した。ボルト105は、ボルト孔9及びボルト孔103に差し込まれた。トルクレンチを用い、締付トルクが45N・mとなるように、ボルト105とナット107とを締め付けた。
【0067】
次に、延在部8と被接続部材101との間の電気抵抗R1を室温下で測定した。次に、延在部8と被接続部材101とを恒温槽に収容し、恒温槽内の温度を、図9に示すヒートサイクルを300サイクル繰り返すように変化させた。1つのヒートサイクルは、恒温槽内の目標温度を120℃に設定した状態で2.5時間収容する区間と、恒温槽内の目標温度を-20℃に設定した状態で3時間収容する区間とから成る。1つのヒートサイクルにおいて、恒温槽内の温度が120℃となる時間が15分以上となるようにし、―20℃となる時間が15分以上となるようにした。
【0068】
300サイクルの終了後、延在部8と被接続部材101との温度を室温に戻し、延在部8と被接続部材101との間の電気抵抗R2を測定した。R2からR1を差し引いた値を電気抵抗増加量とした。電気抵抗増加量を図17に示す。電気抵抗増加量の単位はμΩである。電気抵抗増加量の測定は、n数を2として行った。
【0069】
実験例2におけるビッカース硬度と電気抵抗増加量との関係を図18に示す。ビッカース硬度は、図16に示す延在部8にある12点で測定した値の平均値であり、電気抵抗増加量は、図17に示す2点で測定した値の平均値である。ビッカース硬度が大きいほど、電気抵抗増加量は小さかった。実験例1、2におけるビッカース硬度と電気抵抗増加量との関係を図19に示す。図19は、図12図18の結果をまとめてプロットしたものである。ビッカース硬度が大きいほど、電気抵抗増加量は小さかった。
【0070】
8.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0071】
(8-1)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0072】
(8-2)上述した端子付電線の他、端子付電線を構成要素とする製品、端子の製造方法、端子付電線の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0073】
1…端子付電線、2…電線、3…導体、3a…露出部、4…絶縁層、5、5A、5R…端子、6…筒状部、6a…開口部、6b…測定部、7…中空部、8…延在部、8a…本体部、9…ボルト孔、10、11、12…圧縮部、101…被接続部材、103…ボルト孔、105、107…ボルト、108…板材、109…切断面、110…スプリングワッシャー、111…ワッシャー、201…材料、203…棒材、205…めっき層、301、303、305…切断面、P1~P3…圧縮部位
図1
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