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特開2023-150223扁平電線、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、および扁平電線の製造方法
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  • 特開-扁平電線、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、および扁平電線の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150223
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】扁平電線、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、および扁平電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20231005BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B7/00 301
H01B7/00 306
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059215
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 由香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩信
(72)【発明者】
【氏名】児島 直之
【テーマコード(参考)】
5G309
5G311
【Fターム(参考)】
5G309FA05
5G311CA05
5G311CB01
5G311CC01
5G311CD05
5G311CF04
(57)【要約】
【課題】例えば、改善された新規な構成を有した扁平電線や、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、あるいは当該扁平電線の製造方法を得る。
【解決手段】扁平電線は、例えば、それぞれ第一方向に延びるとともに第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体と、複数の導体を取り囲むとともに第一方向に延びた絶縁被覆と、を備え、絶縁被覆は、第一方向および第二方向に延びるとともに第一方向および第二方向と交差した第三方向において複数の導体を挟む二つの幅広壁と、二つの幅広壁とを繋ぐとともに第一方向に延びた二つの端壁と、を有し、幅広壁は、複数の導体が第一方向に直線状に延びるとともに第二方向に直線状に並んだ状態で当該複数の導体と接する略平坦な内面を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体と、
前記複数の導体を取り囲むとともに前記第一方向に延びた絶縁被覆と、
を備え、
前記絶縁被覆は、前記第一方向および前記第二方向に延びるとともに前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向において前記複数の導体を挟む二つの幅広壁と、前記二つの幅広壁とを繋ぐとともに前記第一方向に延びた二つの端壁と、を有し、
前記幅広壁は、前記複数の導体が前記第一方向に直線状に延びるとともに前記第二方向に直線状に並んだ状態で当該複数の導体と接する略平坦な内面を有した、扁平電線。
【請求項2】
前記幅広壁は、それぞれ略一定の厚さを有した、請求項1に記載の扁平電線。
【請求項3】
それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体と、
前記複数の導体を取り囲むとともに前記第一方向に延びた絶縁被覆と、
を備え、
前記絶縁被覆は、前記第一方向および前記第二方向に延びるとともに前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向において前記複数の導体を挟む二つの幅広壁と、前記二つの幅広壁とを繋ぐとともに前記第一方向に延びた二つの端壁と、を有し、
前記二つの幅広壁は、それぞれ略一定の厚さを有した、扁平電線。
【請求項4】
前記複数の導体が前記第一方向に直線状に延びるとともに前記第二方向に直線状に並んだ状態で、互いに隣接した二つの前記導体の間における前記二つの幅広壁の間の第一間隔の、前記導体を前記第三方向に挟む位置における前記二つの幅広壁の間の第二間隔に対する比が、95%以上かつ100%以下である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の扁平電線。
【請求項5】
前記導体は、アルミニウム系金属材料で作られた複数の素線が撚られて構成されており、
前記素線の直径は、0.22[mm]以上かつ0.42[mm]以下である、請求項1~4のうちいずれか一つに記載の扁平電線。
【請求項6】
前記素線の直径は、0.30[mm]以上かつ0.32[mm]以下である、請求項5に記載の扁平電線。
【請求項7】
前記導体は、撚線である、請求項1~6のうちいずれか一つに記載の扁平電線。
【請求項8】
請求項1~7のうちいずれか一つに記載の扁平電線と、
導体で作られ前記絶縁被覆から露出した前記複数の導体が電気的に接続された端子と、
前記複数の導体が露出した部分と前記絶縁被覆との境界部分を取り囲む囲繞チューブと、
を備えた、端子付き扁平電線。
【請求項9】
請求項8に記載の端子付き扁平電線を少なくとも一つ備え、車両に取付可能に構成されたワイヤハーネス。
【請求項10】
それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体をノズルの第一開口から第一方向に送り出しながら、絶縁性を有した合成樹脂材料を流動性を有した状態で前記ノズルの前記第一開口を取り囲む周状の第二開口から吐出させて、前記第一開口から前記第一方向に離れた位置で吐出された前記合成樹脂材料の内面が略平坦な状態で前記複数の導体を取り囲むとともに、前記合成樹脂材料の内面と前記複数の導体間との間に隙間が形成されるようにして前記第一方向に延びた絶縁被覆を形成する工程と、
前記絶縁被覆を固化する工程と、
を備えた、扁平電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平電線、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、および扁平電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、幅方向に並んだ複数の導体が絶縁被覆で取り囲まれた扁平電線が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-023229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の扁平電線にあっては、例えば、より柔軟性が高かったり、より耐振動性が高かったり、あるいは熱収縮チューブで被覆された部位における水に対するシール性がより高かったりするような、改善された新規な構成を有した扁平電線が得られれば、有益である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、改善された新規な構成を有した扁平電線、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、および扁平電線の製造方法を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の扁平電線は、例えば、それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体と、前記複数の導体を取り囲むとともに前記第一方向に延びた絶縁被覆と、を備え、前記絶縁被覆は、前記第一方向および前記第二方向に延びるとともに前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向において前記複数の導体を挟む二つの幅広壁と、前記二つの幅広壁とを繋ぐとともに前記第一方向に延びた二つの端壁と、を有し、前記幅広壁は、前記複数の導体が前記第一方向に直線状に延びるとともに前記第二方向に直線状に並んだ状態で当該複数の導体と接する略平坦な内面を有する。
【0007】
前記扁平電線では、前記幅広壁は、それぞれ略一定の厚さを有してもよい。
【0008】
本発明の扁平電線は、例えば、それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体と、前記複数の導体を取り囲むとともに前記第一方向に延びた絶縁被覆と、を備え、前記絶縁被覆は、前記第一方向および前記第二方向に延びるとともに前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向において前記複数の導体を挟む二つの幅広壁と、前記二つの幅広壁とを繋ぐとともに前記第一方向に延びた二つの端壁と、を有し、前記二つの幅広壁は、それぞれ略一定の厚さを有する。
【0009】
前記扁平電線では、前記複数の導体が前記第一方向に直線状に延びるとともに前記第二方向に直線状に並んだ状態で、互いに隣接した二つの前記導体の間における前記二つの幅広壁の間の第一間隔の、前記導体を前記第三方向に挟む位置における前記二つの幅広壁の間の第二間隔に対する比が、95%以上かつ100%以下であってもよい。
【0010】
前記扁平電線では、前記導体は、アルミニウム系金属材料で作られた複数の素線が撚られて構成されており、前記素線の直径は、0.22[mm]以上かつ0.42[mm]以下であってもよい。
【0011】
前記扁平電線では、前記素線の直径は、0.30[mm]以上かつ0.32[mm]以下であってもよい。
【0012】
前記扁平電線では、前記導体は、撚線であってもよい。
【0013】
本発明の端子付き扁平電線は、例えば、前記扁平電線と、導体で作られ前記絶縁被覆から露出した前記複数の導体が電気的に接続された端子と、前記複数の導体が露出した部分と前記絶縁被覆との境界部分を取り囲む囲繞チューブと、を備える。
【0014】
本発明の端子付きワイヤハーネスは、例えば、端子付き扁平電線を少なくとも一つ備え、車両に取付可能に構成される。
【0015】
本発明の扁平電線の製造方法は、例えば、それぞれ第一方向に延びるとともに前記第一方向と交差した第二方向に並べられた複数の導体をノズルの第一開口から第一方向に送り出しながら、絶縁性を有した合成樹脂材料を流動性を有した状態で前記ノズルの前記第一開口を取り囲む周状の第二開口から吐出させて、前記第一開口から前記第一方向に離れた位置で吐出された前記合成樹脂材料の内面が略平坦な状態で前記複数の導体を取り囲むとともに、前記合成樹脂材料の内面と前記複数の導体間との間に隙間ができるようにして前記第一方向に延びた絶縁被覆を形成する工程と、前記絶縁被覆を固化する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば、改善された新規な構成を有した扁平電線や、端子付き扁平電線、ワイヤハーネス、あるいは当該扁平電線の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態の扁平電線の長手方向の端面を示す例示的かつ模式的な斜視図である。
図2図2は、実施形態の扁平電線の長手方向と直交した例示的かつ模式的な断面図である。
図3図3は、実施形態の端子付き扁平電線の端部の例示的かつ模式的な斜視図である。
図4図4は、実施形態の端子付き扁平電線の製造方法の手順を示す例示的なフローチャートである。
図5図5は、実施形態の端子付き扁平電線の扁平電線の製造方法においてパイプ押出による絶縁被覆の形成で用いられるノズルの例示的かつ模式的な断面図である。
図6図6は、図3のVI-VI断面図である。
図7図7は、実施形態の端子付き扁平電線の扁平電線が車両に取り付けられた状態を示す例示的かつ模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0019】
本明細書において、序数は、方向や、部位、間隔等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0020】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表す。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに互いに直交している。
【0021】
[実施形態]
[扁平電線]
図1は、扁平電線10の長手方向の端面を示す斜視図である。図1に示されるように、扁平電線10は、複数の導体12と、当該複数の導体12を取り囲む絶縁被覆13と、を有している。図1において、Y方向は、扁平電線10の長手方向であり、X方向は、扁平電線10の幅方向であり、Z方向は、扁平電線10の厚さ方向である。
【0022】
扁平電線10は、可撓性を有している。扁平電線10が可撓性を有することにより、扁平電線10をより多くの場所に配置することができ、ひいては車両のような扁平電線10が配策される対象物における扁平電線10を含む部品のレイアウトの自由度が向上したり、対象物に対する扁平電線10の配策作業をより容易にあるいはより迅速に行うことができたり、といった利点が得られる。
【0023】
導体12は、一例として、円形断面の複数の素線11が撚られて構成された撚線である。素線11は、例えば、JIS規格のA1000番台アルミニウム(純アルミニウム)や、アルミニウム合金のような、アルミニウム系金属で作られている。ただし、素線11の材料はこれには限定されず、例えば、純銅や、銅合金のような銅系金属であってもよいし、他の導電性を有した金属材料であってもよい。なお、導体12は、撚線でなくてもよいが、撚線であるのが好ましい。導体12が撚線でなく単線である場合、曲げ時の柔軟性を保つことが難しいからである。
【0024】
複数の導体12は、Y方向に延びるとともに、X方向に互いに寄せて隣接した状態に並べられている。Y方向は、第一方向の一例であり、X方向は、第二方向の一例である。
【0025】
絶縁被覆13は、複数の導体12を取り囲むとともに、Y方向に延びている。絶縁被覆13のY方向と交差した断面は、長円状の扁平形状を有している。ただし、断面形状は、長円状には限定されず、例えば、長方形状のような、他の形状であってもよい。
【0026】
絶縁被覆13は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・四フッ化エチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの合成樹脂材料や、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム材料、ゴム弾性を有した合成樹脂材料(エラストマー)など、柔軟性(可撓性)および絶縁性を有した材料で作られる。
【0027】
また、絶縁被覆13は、複数の層が積層された構成を有してもよい。一例としては、内層がポリイミドやポリエチレンテレフタレートのような耐熱性の高い合成樹脂材料で作られ、当該内層を取り囲む外層が上述した合成樹脂材料で作られてもよい。この場合、導体12の発熱による絶縁被覆13(外層)の損傷を抑制することができる。
【0028】
絶縁被覆13は、二つの幅広壁13aと、二つの端壁13bと、を有している。幅広壁13aは、それぞれ、複数の導体12に沿ってY方向に延びるとともにX方向に延びている。また、二つの幅広壁13aは、Z方向において複数の導体12を挟んでいる。二つの端壁13bのうちの一つは、X方向の端部に位置する導体12に沿ってY方向に延び、二つの幅広壁13aを繋いでいる。二つの端壁13bのうちのもう一つは、X方向の反対方向の端部に位置する導体12に沿ってY方向に延び、二つの幅広壁13aを繋いでいる。二つの端壁13bは、複数の導体12とX方向に並ぶとともに、当該X方向において複数の導体12を挟んでいる。Z方向は、第三方向の一例である。
【0029】
図2は、扁平電線10の長手方向と直交した断面の一部を示す図である。図2に示されるように、幅広壁13aは、略一定の厚さでX方向に延びている。幅広壁13aは、外面13a1と、内面13a2と、を有している。内面13a2は、複数の導体12のZ方向またはZ方向の反対方向の端部12a、言い換えると厚さ方向の端部12aと、接している。また、幅広壁13aは、互いに隣接した二つの導体12の端部12aの間で略真っ直ぐに掛け渡されている。
【0030】
導体12がそれぞれY方向に直線状に延びるとともに、複数の導体12がX方向に直線状に並んだ状態(以下、これを平置状態と称する)において、幅広壁13aは、略一定の厚さでY方向およびX方向に延び、略平板のようになる。また、当該平置状態において、外面13a1および内面13a2は、いずれも、Y方向およびX方向に延び、略平面のようになる。すなわち、幅広壁13aは、複数の導体12の間の凹部に食い込んでいない。
【0031】
このような構成において、互いに隣接した二つの導体12と、内面13a2との間には、隙間gが形成される。上述したように、平置状態では、幅広壁13aは、略平板状である。このため、二つの導体12の間の隙間gが設けられた位置における幅広壁13aの厚さth1と、二つの幅広壁13aが一つの導体12をZ方向に挟む位置における幅広壁13aの厚さth2とは、略同じである。また、上述したように、平置状態では、内面13a2は、略平面状である。このため、二つの導体12の間の隙間gが設けられた位置における二つの内面13a2間のZ方向の高さHs1と、二つの幅広壁13aが一つの導体12をZ方向に挟む位置における二つの内面13a2間のZ方向の高さHs2とは、略同じである。高さHs1は、第一間隔の一例であり、高さHs2は、第二間隔の一例である。後述するパイプ押出によって成形された本実施形態の扁平電線10では、平置状態において、高さHs1の最小値の高さHs2の最大値に対する比(Hs1/Hs2)は、95[%]以上かつ100[%]以下である。発明者らの研究により、当該比(Hs1/Hs2)が95[%]以上かつ100[%]以下の範囲内である場合に、後述する種々の好適な特性が得られることが判明している。
【0032】
また、発明者らの研究により、放熱性の観点から、Y方向(長手方向)と交差した断面における導体12の仮想外接円Cの直径Dcに対する、複数の導体12の幅W(図1参照)の比は、3以上であるのが好ましく、5以上であるのがより好ましく、6以上9以下であるのがより一層好ましいことが判明している。なお、直径Dcは、円相当径とも称され、幅Wは、列幅とも称されうる。
【0033】
[端子付き扁平電線]
図3は、端子付き扁平電線100の端部の斜視図である。図3に示されるように、端子付き扁平電線100は、扁平電線10と、端子20と、熱収縮チューブ30と、を備えている。
【0034】
端子20は、例えば、導電性を有した金属材料のような導体で作られている。図3の例では、端子20は、丸型端子である。ただし、端子20は、丸型端子には限定されず、平型端子や、ギボシ端子、クワ型端子のような他の端子であってもよい。
【0035】
端子20は、扁平電線10の長手方向の端部において絶縁被覆13が部分的に取り除かれて露出した複数の導体12と、電気的かつ機械的に接続されている。端子20と複数の導体12とは、例えば、溶接や、圧着等によって、結合される。なお、図3の例では、複数の導体12は、平坦に並んだ状態で端子20と接続されているが、これには限定されず、丸く束ねられた状態で端子20と接続されてもよい。
【0036】
また、端子20と複数の導体12との接続部分は、熱収縮チューブ30によって取り囲まれている。熱収縮チューブ30は、熱を加えることにより収縮し、当該接続部分において、複数の導体12、端子20、および絶縁被覆13の周囲を、密着した状態で取り囲んでいる。
【0037】
熱収縮チューブ30は、例えば、エラストマや、ポリオレフィン、フッ素ポリマー、フッ素ゴム、シリコーンゴム等により作られる。熱収縮チューブ30は、囲繞チューブの一例である。
【0038】
熱収縮チューブ30は、扁平電線10から露出した複数の導体12と絶縁被覆13との境界部分を取り囲んでいる。境界部分を取り囲んだ熱収縮チューブ30により、当該境界部分から絶縁被覆13内への水の浸入が抑制される。
【0039】
[端子付き扁平電線の製造手順]
図4は、端子付き扁平電線100の製造の手順を示すフローチャートである。図4に示されるように、まずは、複数の導体12の周囲にパイプ押出により絶縁被覆13を形成する(S1)。
【0040】
図5は、パイプ押出を実行するノズル200の断面図である。図5に示されるように、ノズル200には、X方向に寄せられた平坦な複数の導体12を送り出す送出開口200aが設けられている。また、ノズル200には、送出開口200aを取り囲む周状の吐出開口200bが設けられている。吐出開口200bは、通路200cを介して導入開口200dと連通している。
【0041】
このような構成のノズル200において、送出開口200aは、Y方向に延びており、複数の導体12は、送出開口200aから略一定の速度でY方向に送出される。送出開口200aは、第一開口の一例である。
【0042】
他方、絶縁被覆13を構成する合成樹脂材料は、流動性を有した状態で、導入開口200dから通路200c内に導入され、吐出開口200bから吐出される。吐出開口200bは、第二開口の一例である。
【0043】
流動性を有した状態の合成樹脂材料は、送出開口200aおよび吐出開口200bからY方向に離れた位置で複数の導体12の周囲に付着し、不図示の送出機構によって送出開口200aからY方向に移動する複数の導体12と一体となり、当該移動する複数の導体12に引っ張られることにより細くなりながら、当該複数の導体12を取り囲む。これにより、上述した図1,2に示されるような絶縁被覆13が形成される。
【0044】
ここで、仮に、ノズル200内で、吐出開口200bから吐出される前の流動性を有した状態の合成樹脂材料が、送出開口200aから送出される前の複数の導体12を取り囲む場合、合成樹脂材料は、流路内の圧力により、互いに隣接した二つの導体12間の隙間g(図2参照)に進入してしまう。この場合には、幅広壁13aは、複数の導体12の外周に沿った凹凸形状を有し、図1,2に示されるような、略一定の厚さで略平板状に延びて互いに隣接した導体12間に隙間gを形成するような幅広壁13aや、略平面状に延びた内面13a2は、形成されない。
【0045】
この点、本実施形態では、上述したように、流動性を有した状態の合成樹脂材料は、送出開口200aおよび吐出開口200bからY方向に離れた位置で複数の導体12の周囲に接するため、複数の導体12に接する位置において、合成樹脂材料はある程度の硬さを有するとともに、絶縁被覆13を複数の導体12に押しつける力がそれほど大きくならない。このため、吐出された合成樹脂材料の内面が略平坦な状態で複数の導体12の周囲に配置され、略一定の厚さの幅広壁13aや、略平面状の内面13a2が得られる。なお、この際に、合成樹脂材料の内面と複数の導体12間との間に、隙間gが形成される。このような絶縁被覆13の押出成形は、パイプ押出と称されうる。
【0046】
次に、複数の導体12を取り囲むとともにY方向に延びた絶縁被覆13を、冷却し、固化する(S2、図4参照)。S2における冷却は、自然冷却であってもよいし、強制冷却であってもよい。なお、絶縁被覆13は、固化された状態にあっても、可撓性および柔軟性を有している。
【0047】
S2の後、絶縁被覆13が部分的に除去され、複数の導体12が部分的に露出する(S3)。
【0048】
次に、S3において露出した複数の導体12と端子20とが電気的かつ機械的に接続される(S4)。
【0049】
次に、複数の導体12と端子20との接続部分を熱収縮チューブ30で被覆する(S5)。
【0050】
図6は、図3のVI-VI断面図であって、端子付き扁平電線100のうち複数の導体12が熱収縮チューブ30で取り囲まれている部位の断面図である。図6図1,2と比較すれば明らかとなるように、熱収縮チューブ30で取り囲まれた部位では、図1,2に示されたような導体12の形態が崩れ、互いに隣接した導体12間の隙間g(図2参照)に素線11が入り込んでいる。このような導体12の形態の崩れにより、熱収縮チューブ30が素線11に密着しやすくなり、素線11と熱収縮チューブ30との間からの水の浸入を抑制することができる。すなわち、境界部分における水に対するシール性を向上することができる。
【0051】
ここで、仮に、導体12間の隙間gに絶縁被覆13の幅広壁13aが進入している場合には、当該隙間gへの進入部位が導体12の形態を保持するため、絶縁被覆13が取り除かれ複数の導体12が熱収縮チューブ30で取り囲まれている部位においても、導体12の形態は崩れ難くなる。この場合、隣り合う導体12の間には、比較的深い谷状の隙間gが残ることになる。すると、熱収縮チューブ30は隙間gの奥まで入り難くなり、熱収縮チューブ30と素線11との間に隙間が残りやすくなり、ひいては当該隙間から水が浸入しやすくなってしまう。
【0052】
すなわち、本実施形態では、図5に示されるようなノズル200を用いて、所謂パイプ押出によって、複数の導体12を取り囲む絶縁被覆13を形成することにより、複数の導体12を構成する素線11が移動しやすくなり、言い換えるとほぐれやすくなり、これにより、熱収縮チューブ30で取り囲まれる部位においても、導体12の形態の崩れが生じやすくなり、ひいてはシール性が向上しているのである。このようなパイプ押出による利点は、水に対するシール性(止水性)にとどまらず、扁平電線10の柔軟性(折れ曲がり易さ、捩れ易さ)や、耐振動性などにおいても現れる。すなわち、導体12の形態が崩れ易いほど、複数の導体12の断面形状が変化しやすくなって、扁平電線10が変形しやすくなるとともに、振動のエネルギを弾性変形によって吸収しやすくなる分、素線11が断線し難くなる。
【0053】
[実験結果に基づく素線径の決定]
発明者らは、パイプ押出によって作製した扁平電線10に対して実験を行い、好適な素線11の直径(素線径)のスペックを見出した。表1は、実験結果を示す。実験に用いた扁平電線10は、素線11が撚られた7本の導体12と、厚さ略1.0[mm]の絶縁被覆13と、を有している。素線11の材料は、純アルミニウム(JIS A1070)であり、絶縁被覆13の材料は、難燃架橋エチレン酢酸ビニル共重合体である。導体12は、仮想外接円C(図2参照)が略2.5[mm]になるように作製し、複数の導体12は、図1,2に示されるように幅方向に寄せられ直線状に並ぶように作製した。扁平電線10の厚さは、略4.5[mm]となった。
【表1】
【0054】
シール性については、端子側にプラスチック管を取り付け、圧力をかけてエアを送り込んだ際の逆側末端からのエア漏れを目視で確認する試験を行った。○は、エア圧50[kPa]でエア漏れが無かった場合を示し、△は、エア圧30[kPa]でエア漏れが無かった場合を示し、×は、エア圧30[kPa]未満でエア漏れが生じた場合を示す。
【0055】
柔軟性については、長さが扁平電線の厚さの約90倍(=約405[mm])の試料を平行板に挟み曲げ半径を扁平電線の厚さの約18倍(=約80[mm])から扁平電線の厚さの約9倍(=約40[mm])まで変形させた際の最大反発力の測定を行った試験を行った。○は、反発力が5[N]以下である場合を示し、△は、25[N]以下である場合を示し、×は、反発力が25[N]より大きい場合を示す。
【0056】
耐振動性については、振動板に端子を取り付けた状態で加速度を重力加速度の約4.5倍(約44[m/s])の振動を加える試験を行った。○は、600時間経過時に素線断線がない場合を示し、△は、300時間経過時に素線断線がない場合を示し、×は、300時間未満で素線断線があった場合を示す。
【0057】
表1から明らかとなるように、シール性、柔軟性、および耐振動性については、素線径が細いほど、好適な結果が得られた。
【0058】
また、端末部の端子への接合にあたり、0.18[mm]の細線では接合時の超音波振動や圧着による断線が生じ、アルミニウム材では、酸化膜や、素線本数が多いことによる素線間の導通性の低下等により、素線間抵抗の増加が発生する。
【0059】
表1に示されるように、素線11がアルミニウム系金属材料で作られた場合、素線径は、0.26[mm]以上かつ0.42[mm]以下であるのが好ましく、0.30[mm]以上かつ0.32[mm]以下であるのがより好ましいことが判明した。
【0060】
[対象物への配策]
図7は、端子付き扁平電線100が車両に取り付けられた状態を例示する模式図である。図7に示されるように、端子付き扁平電線100は、単独あるいは他の電線と組み合わせたワイヤハーネスとして、車両に組み付けることができる。ワイヤハーネスとしての端子付き扁平電線100または、当該端子付き扁平電線100を含むワイヤハーネスは、例えば、当該ワイヤハーネスに取り付けられたハーネスクリップのような固定具(不図示)あるいは後付けの固定具を用いて、車両に組み付け可能に構成されている。
【0061】
上述したように、端子付き扁平電線100に含まれる扁平電線10は、柔軟性が比較的高いため、例えば、車両における配策経路の自由度が高まりひいては端子付き扁平電線100や他の部品のレイアウトの自由度が高まったり、あるいは端子付き扁平電線100(ワイヤハーネス)の取付作業をより容易にあるいはより迅速に実行できたり、といった利点が得られる。なお、端子付き扁平電線100が組み付けられる対象物は、車両には限定されない。
【0062】
以上、説明したように、本実施形態の扁平電線10では、絶縁被覆13は、Y方向(第一方向)およびX方向(第二方向)に延びるとともにZ方向(第三方向)において複数の導体12を挟む二つの幅広壁13aを有し、当該幅広壁13aは、平置状態で複数の導体12と接する略平坦な内面13a2を有している。また、幅広壁13aは、略一定の厚さを有している。
【0063】
また、本実施形態の製造方法では、Y方向に延びX方向に隣接して並んだ複数の導体12をノズル200の送出開口200a(第一開口)からY方向に送り出しながら、絶縁性を有した合成樹脂材料を流動性を有した状態でノズル200の送出開口200aを取り囲む周状の吐出開口200b(第二開口)から吐出し、送出開口200aからY方向に離れた位置で複数の導体12の周囲に付着し複数の導体12を取り囲むとともにY方向に延びた絶縁被覆13を形成する。
【0064】
このような構成および方法によれば、複数の導体12において素線11がより移動しやすくなるため、例えば、熱収縮チューブ30(囲繞チューブ)で複数の導体12が取り囲まれた部位における水に対するシール性が向上したり、扁平電線10の柔軟性が向上したり、扁平電線10の耐振動性が向上したり、といった種々の利点が得られる。
【0065】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…扁平電線
11…素線
12…導体
12a…端部
13…絶縁被覆
13a…幅広壁
13a1…外面
13a2…内面
13b…端壁
20…端子
30…熱収縮チューブ(囲繞チューブ)
100…端子付き扁平電線
200…ノズル
200a…送出開口(第一開口)
200b…吐出開口(第二開口)
200c…通路
200d…導入開口
C…仮想外接円
Dc…直径
g…隙間
Hs1…高さ(第一間隔)
Hs2…高さ(第二間隔)
th1…厚さ
th2…厚さ
W…幅
X…方向(第二方向)
Y…方向(第一方向)
Z…方向(第三方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7