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特開2023-150312磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
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  • 特開-磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置 図1
  • 特開-磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置 図2
  • 特開-磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150312
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/712 20060101AFI20231005BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20231005BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20231005BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20231005BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20231005BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G11B5/712
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/738
G11B5/84 A
G11B5/735
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059356
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小柳 典子
(72)【発明者】
【氏名】山下 達也
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006BA06
5D006BA10
5D006CA05
5D006CC03
5D006DA04
5D006FA05
5D112AA05
5D112AA22
5D112BB04
5D112JJ03
(57)【要約】
【課題】高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】磁性層の表面において測定される算術平均粗さRaは2.5nm以下であり、かつ磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理済の画像において暗部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHDと、磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理より高諧調側で行われる第二の二値化処理済の画像において明部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHBと、の突出高さ差Δ(HD-HB)は0.7nm以上である磁気記録媒体。この磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の表面において測定される算術平均粗さRaは2.5nm以下であり、かつ
前記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理済の画像において暗部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHDと、
前記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の前記第一の二値化処理より高諧調側で行われる第二の二値化処理済の画像において明部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHBと、
の突出高さ差Δ、HD-HB、は0.7nm以上である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記突出高さ差Δは、0.7nm以上3.0nm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記算術平均粗さRaは、0.8nm以上2.5nm以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層は、2種以上の非磁性粉末を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層の非磁性粉末は、アルミナ粉末を含む、請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックを含む、請求項4または5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気テープである、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種データを記録するための記録媒体として、磁気記録媒体が広く用いられている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-209403号公報
【特許文献2】特開2004-348897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体には、優れた電磁変換特性を発揮することが求められ、電磁変換特性のより一層の向上が望まれている。
【0005】
磁気記録媒体は、通常、非磁性支持体上に強磁性粉末を含む磁性層を有し、磁気記録媒体の性能には、磁性層の表面形状が影響し得る。磁性層の表面形状に関して、先に示した特開2014-209403号公報(特許文献1)および特開2004-348897号公報(特許文献2)には、磁性層表面の突起の存在状態を制御することが提案されている。これに対し本発明者は、従来提案されていた磁性層表面の突起の存在状態の制御によって達成され得る電磁変換特性より更に電磁変換特性に優れる磁気記録媒体、詳しくは、高温環境下(例えば雰囲気温度40℃以上、更には60℃以上の過酷な高温環境下)での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供することを目指した。
【0006】
即ち、本発明の一態様は、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、下記[1]の磁気記録媒体に関する。
[1]非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層の表面において測定される算術平均粗さRa(以下、「磁性層表面Ra」とも記載する。)は2.5nm以下であり、かつ
上記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理済の画像において暗部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHDと、
上記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理より高諧調側で行われる第二の二値化処理済の画像において明部領域として特定された領域について、原子間力顕微鏡によって測定される、周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHBと、
の突出高さ差Δ(HD-HB)は0.7nm以上である磁気記録媒体。
【0008】
一形態では、上記[1]の磁気記録媒体は、以下の磁気記録媒体であることができる。
【0009】
[2]上記突出高さ差Δは、0.7nm以上3.0nm以下である、[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]上記算術平均粗さRaは、0.8nm以上2.5nm以下である、[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]上記磁性層は、2種以上の非磁性粉末を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]上記磁性層の非磁性粉末は、アルミナ粉末を含む、[4]に記載の磁気記録媒体。
[6]上記磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックを含む、[4]または[5]に記載の磁気記録媒体。
[7]上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、[1]~[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、[1]~[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]磁気テープである、[1]~[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0010】
本発明の一態様は、下記[10]の磁気テープカートリッジに関する。
[10][9]に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【0011】
本発明の一態様は、下記[11]の磁気記録再生装置に関する。
[11][1]~[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図2】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
図3】実施例および比較例の磁気テープを走行させるために使用したリールテスターの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体に関する。上記磁性層の表面において測定される算術平均粗さRaは、2.5nm以下である。更に、上記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理済の画像において暗部領域として特定された領域について原子間力顕微鏡によって測定される周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHDと上記磁性層の表面を走査型電子顕微鏡により撮像して得られた反射電子像の第一の二値化処理より高諧調側で行われる第二の二値化処理済の画像において明部領域として特定された領域について原子間力顕微鏡によって測定される周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHBとの突出高さ差Δ(HD-HB)は、0.7nm以上である。「HD」および「HB」について、「H」は高さ(Height)の略称として用いている。「HD」について、「D」は暗部領域(Dark region)の略称として用いている。「HB」について、「B」は明部領域(Bright region)の略称として用いている。
【0015】
通常、磁気記録媒体の走行中、磁性層表面と磁気ヘッドとは接触して摺動する。かかる走行を繰り返すことで磁気ヘッドが摩耗すること(以下、「ヘッド摩耗」と記載する。)は、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下をもたらし得る。本発明者は鋭意検討を重ねた結果、算術平均粗さRaが2.5nm以下の表面平滑性に優れる磁性層の表面に、上記暗部領域として特定される領域(詳しくは突起)と上記明部領域として特定される領域(詳しくは突起)とを、上記突出高さ差Δが0.7nm以上の状態で存在させることによって、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体の提供が可能になることを新たに見出した。これは、かかる磁気記録媒体によれば、高温環境下での繰り返し走行におけるヘッド摩耗を抑制できるためと本発明者は考えている。
なお、突起の高さに関して、特開2014-209403号公報(特許文献1)では、磁性層表面の突起の高さを原子間力顕微鏡によって測定し、凸成分と凹成分との体積が等しくなる面を基準面として定め、この基準面の高さを0nmとして、突起の高さを求めている(特開2014-209403号公報(特許文献1)の段落0016参照)。また、特開2004-348897号公報(特許文献2)では、磁性層表面の突起の高さを原子間力顕微鏡によって測定し、突起と窪みの体積が等しくなる面を基準面として定め、この基準面の高さを0nmとして、突起の高さを求めている(特開2004-348897号公報(特許文献2)の段落0025参照)。磁性層の表面にうねりが存在することを考慮し、このように突起の高さを求めていると考えられる。
しかし実際には、磁気記録媒体の走行時、通常、磁気記録再生装置内で磁気記録媒体はテンションをかけられながら走行するため、磁気記録媒体は、磁性層の表面のうねりが引き延ばされた状態で走行していると推察される。中でも、高温環境下では磁性層は軟化し易い傾向があるため、磁性層の表面のうねりがより引き延ばされた状態になり得ると考えられる。この点に関し、上記突出高さHDおよびHBは、詳細を後述する「周辺素地領域」の高さを0nmとして求められる。こうして求められる突出高さHDおよびHBは、うねりが引き延ばされた状態の磁性層の表面における突起の突出状態の指標になり得ると本発明者は考えている。そして本発明者は、かかる突出高さに関して磁性層の表面の突起の存在状態を制御することによって(即ち、突出高さ差Δを制御することによって)、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体の提供が可能になることを見出すに至った。
以下、突出高さ差Δおよび磁性層表面Raについて、更に詳細に説明する。本発明および本明細書において、磁気記録媒体の突出高さΔおよび磁性層表面Raは、製品として出荷された後に使用されていない新品の磁気記録媒体を使用して測定される値とする。
【0016】
<突出高さ差Δ>
本発明および本明細書における上記突出高さHDおよびHBは、磁性層の表面において、以下の方法によって求められる値である。本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」は、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。以下の測定は、測定対象の磁気記録媒体から切り出したサンプル片を用いて行われる。サンプル片のサイズは以下の測定が可能なサイズであればよい。測定環境は、雰囲気温度が25℃±2℃であって相対湿度が45%±25%の環境とする。
(1)原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によって、タッピングモードで測定対象の磁気記録媒体の磁性層の表面の面積10.0μm×10.0μmの領域を撮像してAFM像を取得する。撮像にあたり、サンプル片を、磁性層表面を上方に向けた状態で、磁性層表面と反対側の表面をAFMの試料台に、固定用フィルムによって貼り合わせて固定する。固定用フィルムとしては、例えば市販の固定用フィルムを使用することができる。かかる固定用フィルムとしては、フジコピアン社製FIXFILMシリーズを挙げることができる。後述の実施例および比較例については、固定用フィルムとしてフジコピアン社製FIXFILM HGA2を使用した。FIXFILM HGA2は、片面が粘着面であり、もう一方の片面が吸着面である。後述の実施例および比較例については、FIXFILM HGA2を粘着面によってAFMの試料台に貼り付け、FIXFILM HGA2の吸着面をサンプル片の磁性層表面の反対側の表面と貼り合わせた。撮像条件は、走査周波数:0.70Hz、解像度:512pixel×512pixelとする。こうして撮像することによって、撮像領域についてAFM高さデータを取得する。AFMとしては、日立ハイテクサイエンス社製S-image/Nanonaviを測定モードDFM(Dynamic Force Microscope)にて使用することができ、探針としては日立ハイテクサイエンス社製SI-DF40(背面Alコート)を使用することができる。後述の実施例および比較例についての測定では、このAFMおよび探針を使用し、測定モードはDFMとした。
(2)AFM像を取得した領域と同じ領域について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によってSEM像を取得する。走査型電子顕微鏡としては、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope)を使用する。FE-SEMとしては、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製FE-SEM SU8220を用いることができ、後述の実施例および比較例についての測定では、このFE-SEMを用いた。また、SEM像を撮像する前に磁性層表面へのコーティング処理は行わない。取得するSEM像は、低角反射電子(LA-BSE:Low Angle-Backscattered Electron)像である。以下、単に「反射電子像」と記載する。
撮像条件は、加速電圧:2kV、エミッション:10μA、作動距離:4mm、撮影倍率:13,000倍である。上記の撮像条件下でフォーカス調整を行い、SEM像(反射電子像)を撮像する。撮像された画像からサイズ等を表示する部分(ミクロンバー、クロスマーク等)を消した反射電子像を画像処理ソフトに取り込み、上記(1)で撮像されたAFM像と位置合わせした後、二値化処理する。位置合わせは、先に記載した面積10.0μm×10.0μmの撮像領域内の中央の面積8.5μm×8.5μmの領域について行う。画像解析ソフトとしては、例えば、フリーソフトのImageJを使用することができる。後述の実施例および比較例については、ImageJを使用した。二値化処理によって、画像は明部領域(白色部分)と暗部領域(黒色部分)とに区分けされる。二値化処理としては、以下の2通りの処理(第一の二値化処理および第二の二値化処理)を行う。
上記の撮像条件下で撮像された反射電子像において、以下のように、第一の二値化処理を行い、第一の二値化処理済画像を作成する。
下限値を0諧調、上限値を75諧調~90諧調の範囲の値に設定し、これら2つの閾値(下限値および上限値)により二値化処理を実行する。二値化処理前に画像解析ソフトによってノイズ成分除去処理を行う。ノイズ成分除去処理は、例えば以下の方法により行うことができる。後述の実施例および比較例については、以下の方法によってノイズ除去処理を行った。
画像解析ソフトImageJにおいて、ぼかし処理Gauss Filterを選択しノイズ成分の除去を行う。
こうして得られた第一の二値化処理済画像を暗部領域特定用画像として使用し、この画像において暗部領域(即ち黒色部分)として表示されている部分を、「暗部領域」と特定する。画像解析ソフトによって、第一の二値化処理済画像に含まれるすべての暗部領域について、それぞれ、その面積を求める。求められた面積から、各暗部領域の円相当径を求める。具体的には、求められた面積Aから、(A/π)^(1/2)×2=Lにより、円相当径Lを算出する。ここで、演算子「^」は、べき乗を表す。
円相当径は、小数点以下1桁を四捨五入し、小数点以下2桁以降は切り捨てて、1nm刻みで求めるものとする。
上記二値化処理とは別に、以下のように、第二の二値化処理を行い、第二の二値化処理済画像を作成する。
上記の撮像条件下で撮像された反射電子像において、下限値を140諧調~170諧調の範囲の値に設定し、上限値を255諧調に設定し、これら2つの閾値(下限値および上限値)により二値化処理を実行する。二値化処理前に画像解析ソフトによってノイズ成分除去処理を行う。ノイズ成分除去処理は、例えば以下の方法により行うことができる。後述の実施例および比較例については、以下の方法によってノイズ除去処理を行った。
画像解析ソフトImageJにおいて、ぼかし処理Gauss Filterを選択しノイズ成分の除去を行う。
こうして得られた第二の二値化処理済画像を明部領域特定用画像として使用し、この画像において明部領域(即ち白色部分)として表示されている部分を、「明部領域」と特定する。画像解析ソフトによって、第二の二値化処理済画像に含まれるすべての明部領域について、それぞれ、その面積を求める。求められた面積から、各暗部領域の円相当径を求める。具体的には、求められた面積Aから、(A/π)^(1/2)×2=Lにより、円相当径Lを算出する。
(3)先に記載した位置合わせによって暗部領域として特定された領域のAFM高さデータから、暗部領域として特定されたすべての領域について、それぞれ、基準面からの高さ、即ち、基準面を0nmとする高さを求める。かかる高さは、各暗部領域内のAFM高さデータの算術平均として求めるものとする。本発明および本明細書において、「基準面」とは、撮像領域中の凸成分と凹成分との体積が等しくなる面とする。
こうして、暗部領域として特定されたすべての領域について、基準面を0nmとする高さを求める。
また、暗部領域として特定されたすべての領域について、以下のように、「周辺素地領域」を特定する。
各暗部領域について、この領域の重心位置を円の中心とし、この領域の円相当径を円の直径とする円を基準円として設定する。こうして設定された基準円と同心円状に余白領域および周辺素地領域を特定する。基準円の半径をR(単位:nm)とすると、R=L/2であり、余白領域は、半径が(R+50)nmの円で囲まれる領域から上記基準円で囲まれる領域を除いた、幅50nmのドーナツ状領域である。周辺素地領域は、半径が(R+50+100)nmの円で囲まれる領域から、上記の半径が(R+50)nmの円で囲まれる領域を除いた、幅100nmのドーナツ状領域である。ただし、暗部領域として特定された領域の形状は円形に限定されるものではないため、実際の暗部領域の形状の一部が周辺素地領域として特定されたドーナツ状領域と重なる場合もあり得る。かかる場合には、重なっている部分は周辺素地領域から除外するものとする。AFM高さデータから、こうして特定された周辺素地領域の高さ、即ち、基準面を0nmとする高さを求める。かかる高さは、各周辺素地領域内のAFM高さデータの算術平均として求めるものとする。
こうして、すべての暗部領域の周辺素地領域について、基準面を0nmとする高さを求める。
すべての暗部領域(ただし、基準面を0nmとする場合に周辺素地領域の高さが負の値になる暗部領域を除く)について、それぞれ「基準面を0nmとする高さ」から「基準面を0nmとする周辺素地領域の高さ」を差し引いた値を求める。こうして求められた値の算術平均を、「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHD」とする。
以上の処理は、画像解析ソフト(例えばフリーソフトのImageJ)によって行うことができ、後述の実施例および比較例については、ImageJを使用した。
(4)上記(3)とは別に、先に記載した位置合わせによって明部領域として特定された領域のAFM高さデータから、明部領域として特定されたすべての領域について、それぞれ、基準面からの高さ、即ち、基準面を0nmとする高さを求める。かかる高さは、各明部領域内のAFM高さデータの算術平均として求めるものとする。
こうして、明部領域として特定されたすべての領域について、基準面を0nmとする高さを求める。
また、明部領域として特定されたすべての領域について、暗部領域の周辺素地領域の特定について先に記載した方法によって、「周辺素地領域」を特定する。詳しくは、以下のように、「周辺素地領域」を特定する。
各明部領域について、この領域の重心位置を円の中心とし、この領域の円相当径を円の直径とする円を基準円として設定する。こうして設定された基準円と同心円状に余白領域および周辺素地領域を特定する。基準円の半径をR(単位:nm)とすると、R=L/2であり、余白領域は、半径が(R+50)nmの円で囲まれる領域から上記基準円で囲まれる領域を除いた、幅50nmのドーナツ状領域である。周辺素地領域は、半径が(R+50+100)nmの円で囲まれる領域から、上記の半径が(R+50)nmの円で囲まれる領域を除いた、幅100nmのドーナツ状領域である。ただし、明部領域として特定された領域の形状は円形に限定されるものではないため、実際の明部領域の形状の一部が周辺素地領域として特定されたドーナツ状領域と重なる場合もあり得る。かかる場合には、重なっている部分は周辺素地領域から除外するものとする。AFM高さデータから、こうして特定された周辺素地領域の高さ、即ち、基準面を0nmとする高さを求める。かかる高さは、各周辺素地領域内のAFM高さデータの算術平均として求めるものとする。
こうして、すべての明部領域の周辺素地領域について、基準面を0nmとする高さを求める。
すべての明部領域(ただし、基準面を0nmとする場合に周辺素地領域の高さが負の値になる明部領域を除く)について、それぞれ「基準面を0nmとする高さ」から「基準面を0nmとする周辺素地領域の高さ」を差し引いた値を求める。こうして求められた値の算術平均を、「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHB」とする。
以上の処理は、画像解析ソフト(例えばフリーソフトのImageJ)によって行うことができ、後述の実施例および比較例については、ImageJを使用した。
【0017】
上記(1)~(4)を、磁性層の表面の無作為に選択した3箇所の異なる測定領域について行う(n=3)。こうして得られる3つのHDの値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体についての「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHD」とする。こうして得られる3つのHBの値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体についての「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHB」とする。そして、測定対象の磁気記録媒体について、「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHD」から「周辺素地領域の高さを0nmとする突出高さHB」を差し引いた値(HD-HB)を、「突出高さ差Δ」とする。
【0018】
上記突出高さ差Δについて、本発明者は以下のように推察している。
磁気記録媒体の磁性層には、通常、磁性層表面に研磨性を付与するための非磁性粉末(以下、「研磨剤」とも呼ぶ。)と、摩擦特性制御のために磁性層表面に適度な突起を形成するための非磁性粉末(以下、「フィラー」とも呼ぶ。)と、が含まれる。本発明者は、上記(2)によって暗部領域として特定される領域はフィラーによって磁性層表面に形成された突起であり、上記(2)によって明部領域として特定される領域は研磨剤によって磁性層表面に形成された突起であると考えている。ヘッド摩耗は主に研磨剤によって形成された突起がヘッドと接触することが原因で発生すると推察される。そして、フィラーによって形成された突起を研磨剤によって形成された突起より高く突出させることは、かかる原因で発生するヘッド摩耗を抑制することにつながると考えられる。更に上記磁気記録媒体については、基準面ではなく周辺素地領域の高さを基準として(即ち、周辺素地領域の高さを0nmとして)、突出高さ差Δが定められる。かかる突出高さ差Δを0.7nm以上にすることは、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制することに寄与し得る。この点の詳細は、先に記載した通りである。
【0019】
上記磁気記録媒体において、突出高さ差Δは、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制する観点から、0.7nm以上であり、0.8nm以上であることが好ましく、0.9nm以上であることがより好ましく、1.0nm以上であることが更に好ましい。また、突出高さ差Δは、例えば3.0nm以下であることができる。一形態では、突出高さ差Δが3.0nm以下であることは、走行初期の電磁変換特性を高める観点から好ましい。
【0020】
突出高さ差Δの制御については、例えば、研磨剤としてサイズが小さいものを使用することによって、および/または、フィラーとしてサイズが大きいものを使用することによって、突出高さ差Δの値は大きくなる傾向がある。磁性層形成用組成物の調製時にフィラーを含む分散液(以下、「フィラー液」とも記載する。)の分散処理を強化することによって(例えば分散処理の回数を増やすことによって)、突出高さ差Δの値は小さくなる傾向がある。また、製品として出荷する前の任意の段階で、テンションをかけながら磁気記録媒体を走行させつつ磁性層表面を摺動部材と摺動させることによって、磁性層表面に突出した非磁性粉末(例えばフィラーおよび/または研磨剤)の粒子が削られるか、および/または、粒子が磁性層内部に向かって押し込まれることにより、HDおよびHBの一方または両方を変化させることができる。摺動部材としては、任意の摺動部材を使用することができる。例えば、磁気ヘッドを摺動部材として使用することもできる。例えば上記手段の1つ以上を採用することによって、突出高さ差Δを0.7nm以上に制御することができる。
【0021】
<磁性層表面Ra>
本発明および本明細書における、磁性層の表面において測定される算術平均粗さRa(磁性層表面Ra)は、以下の方法によって求められる。
算術平均粗さRaの測定には、原子間力顕微鏡(AFM)を用いる。測定領域は、40μm角(40μm×40μm)の領域とする。測定は、磁性層表面の無作為に選択した3箇所の異なる測定箇所において行う(n=3)。かかる測定により得られた3つの値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体の磁性層表面Raとする。AFMの測定条件の一例としては、下記の測定条件を挙げることができる。後述の実施例および比較例については、下記の測定条件を採用した。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気記録媒体の磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0022】
上記磁気記録媒体の磁性層表面Raは、2.5nm以下であり、2.4nm以下であることが好ましく、2.3nm以下であることがより好ましい。磁性層表面Raが2.5nm以下の表面平滑性に優れる磁性層の表面において求められる突出高さ差Δを0.7nm以上とすることが、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制することに寄与し得る。また、上記磁気記録媒体の磁性層表面Raは、例えば、0.8nm以上、0.9nm以上、1.0nm以上、1.1nm以上もしくは1.2nm以上であることができ、または、ここに例示した値を下回ることもできる。
【0023】
磁性層表面Raは、磁気記録媒体の製造条件の調整等の公知の方法によって制御することができる。
【0024】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0025】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0026】
強磁性粉末の粒子サイズに関して、粒子サイズの指標としては、平均粒子体積を挙げることもできる。平均粒子体積は、記録密度向上の観点から、2500nm以下であることが好ましく、2300nm以下であることがより好ましく、2000nm以下であることが更に好ましく、1500nm以下であることが一層好ましい。磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子体積は、500nm以上であることが好ましく、600nm以上であることがより好ましく、650nm以上であることが更に好ましく、700nm以上であることが一層好ましい。上記の平均粒子体積は、後述する方法によって求められる平均粒子サイズから、球相当体積として求められる値である。
【0027】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0028】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライトの結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライトの結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライトの結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0029】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0030】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm以上であり、例えば850nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm以下であることがより好ましく、1400nm以下であることが更に好ましく、1300nm以下であることが一層好ましく、1200nm以下であることがより一層好ましく、1100nm以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0031】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/mである。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0032】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0033】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0034】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気記録媒体の走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0035】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0036】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0037】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0038】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0039】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m/kg以上であることができ、47A・m/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m/kg以下であることが好ましく、60A・m/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=10/4π[A/m]である。
【0040】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0041】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe1219の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0042】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0043】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0044】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm以上であり、例えば500nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm以下であることがより好ましく、1300nm以下であることが更に好ましく、1200nm以下であることが一層好ましく、1100nm以下であることがより一層好ましい。
【0045】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0046】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m/kg以上であることができ、12A・m/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m/kg以下であることが好ましく、35A・m/kg以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0048】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0049】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0050】
また、粉末の針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、上記500個の粒子について得た長軸長の算術平均(平均長軸長)と短軸長の算術平均(平均短軸長)から、「平均長軸長/平均短軸長」として求められる。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(平均長軸長/平均短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0051】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0052】
(結合剤)
上記磁気記録媒体は塗布型の磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、特記しない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0053】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0054】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0055】
フィラー
磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、摩擦特性制御のために磁性層表面に適度な突起を形成するための非磁性粉末(フィラー)が挙げられる。フィラーとしては、例えば、平均粒子サイズが20~200nmの非磁性粉末を使用することができる。フィラーの一形態としては、カーボンブラックを挙げることができる。また、フィラーの他の一形態としては、コロイド粒子を挙げることができる。コロイド粒子としては、入手容易性の点から無機コロイド粒子が好ましく、無機酸化物コロイド粒子がより好ましく、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)がより一層好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の2種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。磁性層のフィラー含有量は、例えば強磁性粉末100.0質量部あたり、0.2~3.0質量部であることが好ましく、0.3~1.0質量部であることがより好ましい。
【0056】
研磨剤
磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、磁性層表面に研磨性を付与するための非磁性粉末(研磨剤)を挙げることもできる。研磨剤としては、モース硬度8超の非磁性粉末が好ましく、モース硬度9以上の非磁性粉末がより好ましい。モース硬度の最大値は10である。一方、フィラーとしては、研磨剤として使用される非磁性粉末と比べてモース硬度が低い非磁性粉末、例えばモース硬度8以下の非磁性粉末を使用することができる。研磨剤は、無機物質の粉末であることができ、有機物質の粉末であることもできる。研磨剤は、例えば、無機または有機の酸化物の粉末または炭化物(カーバイド)の粉末であることができる。カーバイドとしては、ボロンカーバイド(例えばBC)、チタンカーバイド(例えばTiC)等を挙げることができる。また、研磨剤としては、ダイヤモンドも使用可能である。研磨剤は、一形態では、無機酸化物の粉末であることが好ましい。具体的には、無機酸化物としては、α-アルミナ等のアルミナ(例えばAl)、酸化チタン(例えばTiO)、酸化セリウム(例えばCeO)、酸化ジルコニウム(例えばZrO)等を挙げることができ、中でもアルミナが好ましい。アルミナのモース硬度は約9である。アルミナ粉末については、特開2013-229090号公報の段落0021も参照できる。研磨剤としては、例えば、平均粒子サイズが0.05~0.2μmの非磁性粉末を使用することができる。磁性層の研磨剤含有量は、例えば強磁性粉末100.0質量部あたり、2.0~10.0質量部であることが好ましく、4.0~8.0質量部であることがより好ましい。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するための添加剤を含有させることもできる。かかる添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0057】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0058】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む1層または2層以上の複数の非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。
【0059】
磁性層表面の平滑性を高める観点からは、その上に磁性層が形成される面となる非磁性層の表面平滑性を高めることが好ましい。この点から、非磁性層に含まれる非磁性粉末として、平均粒子サイズが小さい非磁性粉末を使用することは好ましい。非磁性粉末の平均粒子サイズは、500nm以下の範囲であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましく、50nm以下であることが一層好ましい。また、非磁性粉末の分散性向上の容易性の観点からは、非磁性粉末の平均粒子サイズは、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましい。
【0060】
非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。
【0061】
非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、例えば特開2010-24113号公報の段落0040~0041を参照できる。カーボンブラックは一般に粒度分布が大きい傾向があり、分散性に乏しい傾向がある。そのため、カーボンブラックを含む非磁性層は表面平滑性が低い傾向がある。この点から、一形態では、磁性層と隣接する非磁性層としては、非磁性粉末としてカーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層、または、複数種の非磁性粉末の1種としてカーボンブラックを含む非磁性層であって非磁性粉末全量に占めるカーボンブラックの割合が低い非磁性層を設けることが好ましい。また、非磁性層を複数設け、磁性層の最も近くに位置する非磁性層を非磁性粉末としてカーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層とすることは好ましい。例えば、非磁性支持体と磁性層との間に2層の非磁性層を設け、非磁性支持体側の非磁性層(「下層非磁性層」とも記載する。)を非磁性粉末としてカーボンブラックを含む非磁性層とし、磁性層側の非磁性層(「上層非磁性層」とも記載する。)を非磁性粉末としてカーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層とすることは好ましい。また、複数種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物では、1種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物と比べて非磁性粉末の分散性は低下し易い傾向がある。この点から、複数の非磁性層を設け、各非磁性層に含まれる非磁性粉末の種類を少なくすることは好ましい。また、一形態では、複数種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物において非磁性粉末の分散性を高めるために分散剤を使用することが好ましい。かかる分散剤については後述する。
【0062】
無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。
【0063】
非磁性粉末の一形態としては、非磁性酸化鉄粉末を挙げることができる。その上に磁性層が形成される非磁性層の表面平滑性を高める観点からは、非磁性酸化鉄粉末として粒子サイズが小さいものを使用することは好ましい。この点から、平均粒子サイズが先に記載した範囲の非磁性酸化鉄粉末を使用することが好ましい。非磁性酸化鉄粉末としては、一形態では、α-酸化鉄粉末が好ましい。α-酸化鉄とは、主相がα相の酸化鉄である。
【0064】
非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、非磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。複数の非磁性層が設けられている場合、少なくとも1層の非磁性層において非磁性粉末の含有率が上記範囲であることが好ましく、より多くの非磁性層において非磁性粉末の含有率が上記範囲であることがより好ましい。
【0065】
非磁性層は、非磁性粉末を含み、非磁性粉末とともに結合剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0066】
非磁性層に含まれ得る添加剤としては、非磁性粉末の分散性向上に寄与し得る分散剤を挙げることができる。かかる分散剤としては、例えば、RCOOH(Rはアルキル基またはアルケニル基)で表される脂肪酸(例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸等);上記脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩;上記脂肪酸のエステル;上記脂肪酸のエステルのフッ素を含有した化合物;上記脂肪酸のアミド;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(含有されるアルキル基は炭素数1~5のアルキル基、含有されるオレフィンはエチレン、プロピレン等);フェニルフォスフォン酸;銅フタロシアニン等を使用することができる。これらは、1種のみ使用してもよく、2種以上を併用してもよい。分散剤の含有量は、非磁性粉末100.0質量部に対して、0.2~5.0質量部であることが好ましい。
【0067】
また、添加剤の一例として、有機三級アミンを挙げることができる。有機三級アミンについては、特開2013-049832号公報の段落0011~0018および0021を参照できる。有機三級アミンは、カーボンブラックの分散性向上に寄与し得る。有機三級アミンによりカーボンブラックの分散性を高めるための組成物の処方等については、同公報の段落0022~0024、0027を参照できる。
【0068】
上記アミンは、より好ましくはトリアルキルアミンである。トリアルキルアミンが有するアルキル基は、好ましくは炭素数1~18のアルキル基である。トリアルキルアミンが有する3つのアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の詳細については、特開2013-049832号公報の段落0015~0016を参照できる。トリアルキルアミンとしては、トリオクチルアミンが特に好ましい。
【0069】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0070】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0071】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0072】
<各種厚み>
磁気記録媒体の厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気記録媒体には記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気記録媒体の厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する。)、例えば磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。例えば上記の点から、上記磁気記録媒体の厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましく、5.2μm以下であることが一層好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気記録媒体の厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0073】
例えば、磁気記録媒体の厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気記録媒体の任意の部分からサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(サンプル1枚当たりの厚み)を、磁気記録媒体の厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0074】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
【0075】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも1層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。この点は、複数の非磁性層を有する磁気記録媒体における非磁性層の厚みについても同様である。
【0076】
非磁性層の厚みについては、厚い非磁性層を形成するほど、非磁性層形成用組成物の塗布工程および乾燥工程で非磁性粉末の粒子の存在状態が不均一になり易く、各位置での厚みの違いが大きくなって非磁性層の表面が粗くなる傾向がある。磁性層表面の平滑性を高める観点からは非磁性層の表面平滑性が高いことは好ましい。この点からは、非磁性層の厚みは1.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。また、非磁性層の厚みは、非磁性層形成用組成物の塗布の均一性向上の観点からは、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0077】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
【0078】
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡による断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0079】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体を製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。一形態では、研磨剤の分散液(以下、「研磨剤液」とも記載する。)は、強磁性粉末およびフィラーとは別分散して調製することができる。また、一形態では、フィラーの分散液(フィラー液)は、強磁性粉末および研磨剤とは別分散して調製することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0080】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。磁性層表面の平滑性を高める観点からは、逐次重層塗布を行うことが好ましい。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0081】
(その他の工程)
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種工程については、例えば特開2010-24113号公報の段落0052~0057等の公知技術を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が未乾燥状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける上記塗布層を形成した非磁性支持体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。また、カレンダ処理については、カレンダ条件を強化すると、磁性層表面の平滑性は高まる傾向がある。カレンダ条件としては、カレンダ処理を行う回数(以下、「カレンダ回数」とも記載する。)、カレンダ圧力、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)、カレンダ速度、カレンダロールの硬度等が挙げられる。カレンダ回数を増やすほど、カレンダ処理は強化される。カレンダ圧力、カレンダ温度およびカレンダロールの硬度は、これらの値を大きくするほどカレンダ処理は強化され、カレンダ速度は遅くするほどカレンダ処理は強化される。例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kg/cmであることができ、250~350kg/cmであることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば85~120℃であることができ、90~110℃であることが好ましく、カレンダ速度は、例えば50~300m/分であることができ、50~200m/分であることが好ましい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、例えば、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。
スリットして得られた磁気テープには、通常、サーボパターンが形成される。サーボパターンについて、詳細は後述する。
【0082】
(熱処理)
一形態では、上記磁気記録媒体は、以下のような熱処理を経て製造された磁気テープであることができる。また、他の一形態では、上記磁気記録媒体は、以下のような熱処理を経ずに製造された磁気テープであることができる。
【0083】
熱処理としては、スリットして規格にしたがい決定された幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で行う熱処理を行うことができる。
【0084】
一形態では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気テープカートリッジのリールに巻き取り、磁気テープがリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa(ギガパスカル)以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ。)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻き取りの容易性の観点からは、「最終製品長+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻き取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。また、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻き取り用巻芯」と呼ぶ。)に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(一般に外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻き取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのリールへ磁気テープを巻き取ることができる。一時巻き取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻き取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する先の記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長+α」の長さの磁気テープに施す形態においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一形態では、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長分の磁気テープを巻き取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0085】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的形態について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ。)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0086】
(サーボパターンの形成)
上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(即ち磁気テープ)であることができ、またはディスク状の磁気記録媒体(即ち磁気ディスク)であることができる。いずれの形態においても、磁性層はサーボパターンを有することができる。 「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、磁気テープを例として、サーボパターンの形成について説明する。
【0087】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0088】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0089】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0090】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0091】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0092】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0093】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0094】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0095】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0096】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0097】
また、一形態では、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整して変化させることによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。このようなテンション調整を行うことは、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録または再生を行ってしまうことを抑制することに寄与し得る。
【0098】
[磁気テープカートリッジ]
上記磁気記録媒体は、一形態では、磁気テープであることができる。本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0099】
上記テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0100】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気テープ装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気テープ装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気テープ装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。
【0101】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置に関する。
【0102】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。一形態では、上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。かかる形態の磁気記録再生装置は、一般に摺動型ドライブまたは接触摺動型ドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気記録媒体に記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR:Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「データ用素子」と総称する。
【0103】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0104】
図1に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。図1中、磁気テープMTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、図2に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、図2中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(図2中、符号A)およびBバースト(図2中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(図2中、符号C)およびDバースト(図2中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。図2には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。図2中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【0105】
上記磁気記録再生装置において、一形態では、磁気記録媒体は取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われ、例えば、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に挿入され、取り出される。他の一形態では、磁気記録媒体は可換媒体として扱われず、例えば、磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置のリールに磁気テープが巻き取られ、磁気記録再生装置内に磁気テープが収容される。一形態では、かかる磁気記録再生装置において、磁気テープおよび磁気ヘッドを、磁気記録再生装置中の密閉空間内に収容することができる。本発明および本明細書において、「密閉空間」とは、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法に規定されているヘリウム(He)を使用する浸せき法(ボンビング法)によって評価される密閉度が10×10-8Pa・m/秒以下である空間をいうものとする。密閉空間の密閉度は、例えば、5×10―9Pa・m/秒以上10×10-8Pa・m/秒以下であることができ、または上記範囲を下回ってもよい。一形態では、筐体中の空間全体が上記密閉空間であることができ、他の一形態では筐体中の一部空間が上記密閉空間であることができる。上記密閉空間は、磁気記録再生装置の全体または一部を覆う筐体の内部空間であることができる。筐体の材質および形状は特に限定されず、例えば、通常の磁気記録再生装置の筐体の材質および形状と同様であることができる。一例として、筐体の材質としては、金属、樹脂等を挙げることができる。
【実施例0106】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0107】
後掲の表1中、「BaFe」は平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0108】
後掲の表1中、「金属粉末」と記載されている強磁性粉末としては、先に示した特開2004-348897号公報(特許文献2)の実施例1で使用されている金属粉末に類する鉄-コバルト合金系強磁性粉末(平均粒子サイズ(平均長軸長)50nm)を使用した。
【0109】
後掲の表1中、「SrFe」は以下に記載の方法によって作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」は以下に記載の方法によって作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
以下に記載の各種強磁性粉末の平均粒子体積は、先に記載の方法により求められた値である。以下に記載の各種粉末の粒子のサイズに関する各種値も先に記載の方法により求められた値である。
異方性定数Kuは、各強磁性粉末について振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
【0110】
[強磁性粉末の作製方法]
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法>
SrCOを1707g、HBOを687g、Feを1120g、Al(OH)を45g、BaCOを24g、CaCOを13g、およびNdを235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(後掲の表1中、「SrFe」)の平均粒子体積は900nm、異方性定数Kuは2.2×10J/m、質量磁化σsは49A・m/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0111】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0112】
<ε-酸化鉄粉末の作製方法>
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末(後掲の表1中、「ε-酸化鉄」)の平均粒子体積は750nm、異方性定数Kuは1.2×10J/m、質量磁化σsは16A・m/kgであった。
【0113】
後掲の表1では、非磁性層を一層のみ形成した実施例および比較例については、非磁性層に関する事項は、「下層非磁性層」の欄に示す。
【0114】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
表1に示す平均粒子サイズのα-アルミナ粉末100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業社製)、極性基としてSONa基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0115】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末(種類:表1参照) 100.0部
ポリウレタン樹脂 10.0部
東洋紡社製UR-4800(スルホン酸基含有ポリエステルポリウレタン樹脂)
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(フィラー液)
フィラー 0.5部
種類:カーボンブラック(平均粒子サイズ:80nm)
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0116】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):表1参照
針状比:7
BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:52m/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0117】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:74cm/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 15.0部
【0118】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
磁性液を、上記成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。
フィラー液については、撹拌機付きバッチ型超音波分散装置にて、上記フィラー液の成分を、撹拌回転数1500rpm(revolutions per minute)で30分処理して液化処理した。液化したフィラー液を横型ビーズミル分散機により、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、表1中の「フィラー液分散処理」の欄に示すパス回数で分散処理を行った。分散処理後の液をディゾルバー撹拌機で周速10m/秒で30分間撹拌後、フロー式超音波分散機にて流量3kg/分で3パス処理した。
上記サンドミルを用いて、調製した磁性液およびフィラー液を、上記研磨剤液および他の成分(その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0119】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製
厚み4.1μmの二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが0.1μmとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。即ち、塗布方式としては逐次塗布を採用した。その後、支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.3μmとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧300kg/cm、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った(カレンダ回数:2回)。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。サーボバンドの合計本数は5、データバンドの合計本数は4である。
上記サーボパターン形成後の磁気テープ(長さ970m)を熱処理用巻芯に巻き取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、熱処理温度50℃で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻き取り用巻芯に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(リール外径:44mm)へ最終製品長分(960m)の磁気テープを巻き取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻き取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0120】
[実施例2]
研磨剤として表1に記載の平均粒子サイズのα-アルミナ粉末を使用した点およびフィラー液の分散処理のパス回数を表1に示すように変更した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0121】
[実施例3]
非磁性層の非磁性粉末を、表1に示す平均粒子サイズのα-酸化鉄に変更した点以外は実施例1について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0122】
[実施例4]
乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した点以外は実施例3について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0123】
[実施例5]
強磁性粉末として、表1の「強磁性粉末」の欄に記載の強磁性粉末を使用した点以外は実施例4について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0124】
[実施例6]
非磁性層を以下のように2層形成し、形成した上層非磁性層上に実施例1について記載したように磁性層形成用組成物を塗布して磁性層を形成した点およびカレンダ回数を1回にした点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0125】
<下層非磁性層形成用組成物の処方>
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm) 100.0部
トリオクチルアミン 4.0部
塩化ビニル樹脂 12.0部
ステアリン酸 1.5部
ステアリン酸アミド 0.3部
ブチルステアレート 1.5部
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 510.0部
【0126】
<上層非磁性層形成用組成物の処方>
非磁性粉末 α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):30nm
平均短軸長:15nm
針状比:2.0
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
ステアリン酸 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0127】
上記の下層非磁性層形成用組成物および上層非磁性層形成用組成物のそれぞれについて、上記成分をオープンニーダで240分間混練した後、サンドミルで分散させた。各非磁性層形成用組成物の分散条件としては、分散時間は24時間とし、分散ビーズとしてはビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。こうして得られた各分散液にポリイソシアネート(東ソー社製コロネート3041)を4.0部加え、更に20分間撹拌混合した後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過した。
以上により、下層非磁性層形成用組成物および上層非磁性層形成用組成物を調製した。 実施例1と同様の支持体の一方の表面上に、下層非磁性層形成用組成物を乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように塗布し、雰囲気温度100℃の環境下で乾燥させて下層非磁性層を形成した。下層非磁性層上に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上層非磁性層形成用組成物を塗布し、雰囲気温度100℃の環境下で乾燥させて上層非磁性層を形成した。
【0128】
[実施例7、8]
強磁性粉末として、表1の「強磁性粉末」の欄に記載の強磁性粉末を使用した点以外は実施例6について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0129】
[比較例1]
研磨剤として表1に記載の平均粒子サイズのα-アルミナ粉末を使用した点以外は実施例1について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0130】
[実施例9]
比較例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。作製した磁気テープを磁気テープカートリッジに収容する前に、磁気テープの全長に以下の摺動処理(以下、「製造工程中摺動処理」と呼ぶ)を施した。
IBM社製LTO(Linear Tape-Open)8テープドライブに搭載されている記録再生ヘッド(LTO8ヘッド)を摺動部材として使用した。磁気テープ搬送装置において、磁気テープを以下の走行条件で走行させて上記摺動部材と磁性層の表面とを接触させ摺動させた。以下の磁気テープの長手方向にかけるテンションの値および磁気テープの走行速度は、磁気テープ搬送装置における設定値である。単位に関して、「gf」はグラム重であり、1N(ニュートン)は約102gfである。
(走行条件)
磁気テープの走行速度:4m/秒
磁気テープの長手方向にかけるテンション:100gf
磁気テープの走行パス:20,000シングルパス
ラップ角θ:1°
【0131】
[比較例2]
フィラー液の分散処理のパス回数を表1に示すように変更した点以外、比較例1について記載した方法によって磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0132】
[比較例3]
特開2014-209403号公報(特許文献1)の実施例1の記載にしたがって磁気テープを作製した。ただし、強磁性粉末としては実施例1等と同じ表1に示す強磁性粉末を使用し、研磨剤としては比較例1等と同じ表1に記載の平均粒子サイズのα-アルミナ粉末を使用し、非磁性層の非磁性粉末としては実施例1等と同じカーボンブラックおよび表1に記載の平均粒子サイズのα-酸化鉄を使用した。特開2014-209403号公報(特許文献1)の段落0067に記載されているように、磁性層に含まれるフィラーはコロイダルシリカである。比較例3については、特開2014-209403号公報(特許文献1)の段落0071の記載にしたがい磁性層形成用組成物を調製したため、コロイダルシリカを含む液に対して、他の成分と混合する前の分散処理(フィラー液の分散処理)は行わなかった。
作製した磁気テープを、実施例1と同じ方法で、サーボパターンを形成した後に磁気テープカートリッジに収容した。
こうして、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0133】
[比較例4]
先に記載した金属粉末を使用し、特開2004-348897号公報(特許文献2)の実施例1の記載にしたがって磁気テープを作製した。特開2004-348897号公報(特許文献2)の段落0050に記載されているように、磁性層と非磁性層の塗布方式は同時重層塗布である。比較例4については、特開2004-348897号公報(特許文献2)の段落0050の記載にしたがい磁性層形成用組成物を調製したため、カーボンブラックを含む液に対して、他の成分と混合する前の分散処理(フィラー液の分散処理)は行わなかった。
作製した磁気テープを、実施例1と同じ方法で、サーボパターンを形成した後に磁気テープカートリッジに収容した。
こうして、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0134】
実施例および比較例について、それぞれ磁気テープカートリッジを2つ作製し、1つを以下の突出高さ差Δおよび磁性層表面Raを求めるために使用し、他の1つを後述の高温環境下での繰り返し走行前後の電磁変換特性の評価に使用した。
【0135】
[物性評価]
(1)磁性層表面Ra
AFMの測定条件として下記条件を採用し、実施例および比較例の各磁気テープについて、先に記載した方法により磁性層表面Raを求めた。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気テープの磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0136】
(2)突出高さ差Δ
実施例および比較例の各磁気テープについて、先に記載した方法により、突出高さHDおよび突出高さHBを求めた。求められた値から、突出高さ差Δ(HD-HB)を算出した。
後掲の表2に示す実施例および比較例については、磁性層の表面の3箇所の測定領域について先に記載した方法によって取得された測定結果から、以下のように参照突出高さ差Δrefを求めた。
各測定領域について、基準面を0nmとする暗部領域の高さの算術平均を、すべての暗部領域の算術平均として求めた。こうして3箇所の測定領域について求められた3つの値の算術平均を算出し、これをHDrefとした。また、各測定領域について、基準面を0nmとする明部領域の高さの算術平均を、すべての明部領域の算術平均として求めた。こうして3箇所の測定領域について求められた3つの値の算術平均を算出し、これをHBrefとした。
上記のHDrefとHBrefから、参照突出高さ差Δref=HDref-HBrefを算出した。参照突出高さ差Δrefは、基準面を0nmとして求められた暗部領域と明部領域との突出高さ差ということができる。ここで、「ref」は、「reference」の略称として用いている。
【0137】
[高温環境下での繰り返し走行前後の電磁変換特性の評価]
(1)高温環境下での繰り返し走行前の電磁変換特性の評価
以下の電磁変換特性の評価は、雰囲気温度23℃±1℃相対湿度50%の環境において行った
図3に、磁気テープを走行させるために使用したリールテスターの概略図を示す。
実施例および比較例について、それぞれ、磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープの長手方向の任意の位置から切り出した長さ100mのテープ試料を、IBM社製LTO(Linear Tape-Open)8テープドライブに搭載されている記録再生ヘッド(LTO8ヘッド)を固定した1/2インチリールテスターに、図3に示すように取り付けた。具体的には、テープ試料の一方の端部をリールテスターの一方のテープリールに固定し、他方の端部をリールテスターの他方のテープリールに固定してテープ試料をリールテスターに取り付けた。「LTO8ヘッド」とは、LTO8規格にしたがう磁気ヘッドである。リールテスターにおいてテープ試料を走行させ、磁性層の表面を磁気ヘッドと接触させて摺動させてデータの記録および再生を行った。磁気テープ(上記テープ試料)の走行条件は、以下の条件とした。以下の磁気テープの長手方向にかけるテンションの値および磁気テープの走行速度は、リールテスターにおける設定値である。先に記載したように、単位に関して、「gf」はグラム重であり、1N(ニュートン)は約102gfである。
(走行条件)
磁気テープの走行速度:4m/秒
磁気テープの長手方向にかけるテンション:100gf
磁気テープの走行パス:1シングルパス
ラップ角θ:1°
記録は線記録密度300kfciで行い、再生を行った際の再生出力を測定し、信号対雑音比(再生出力とノイズとの比)としてSNR(Signal-to-Noise Ratio)を求めた。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。
【0138】
(2)高温環境下での繰り返し走行
上記(1)の評価後のテープ試料を、雰囲気温度65℃相対湿度10%の環境において上記(1)に記載したようにリールテスターに取り付けた状態で、上記(1)に記載の走行条件で走行させ、磁性層の表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させた。
【0139】
(3)高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の評価
上記(2)の繰り返し走行後の磁気テープについて、雰囲気温度23℃±1℃相対湿度50%の環境において、磁気テープの走行パスを20,000シングルパスとした点以外は上記(1)に記載したように電磁変換特性を評価した。
【0140】
(4)高温環境下での繰り返し走行前後のSNR低下量(ΔSNR)
上記(1)において記録再生したときのSNRを「繰り返し走行前SNR」とし、上記(3)における20,000シングルパス目に記録再生したときのSNRを「繰り返し走行後SNR」として、以下の式によってΔSNRを算出した。繰り返し走行前のSNRに対する繰り返し走行後のSNRの変化量が3.0dB以内であれば、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ないということができる。
ΔSNR=(繰り返し走行後SNR)-(繰り返し走行前SNR)
【0141】
比較例4は、上記(2)の高温環境下での繰り返し走行中、磁性層に多数の傷が生じてしまったため、上記(3)の電磁変換特性の評価を行うことができなかった(表1中、ΔSNRの欄に「評価不可」と表記)。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
表1に示す結果から、実施例の磁気テープにおいて、比較例の磁気テープと比べて、高温環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が抑制されていることが確認できる。
また、表2に示す結果から、周辺素地領域の高さを0nmとして求められた突出高さ差Δの大小関係は、基準面を0nmとして求められた参照突出高さΔrefの大小関係とは対応しないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の一態様は、データストレージ用磁気テープの技術分野において有用である。
図1
図2
図3