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  • 特開-電子聴診器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150319
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】電子聴診器
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61B7/04 G
A61B7/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059369
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅士
(72)【発明者】
【氏名】竹本 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
(72)【発明者】
【氏名】瀬志本 明
(72)【発明者】
【氏名】潘 春暉
(72)【発明者】
【氏名】游 挺
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ひとみ
(57)【要約】
【課題】電子聴診器のチェストピースと聴診対象とが適切な圧力で接触した状態で生体音を取得することのできる電子聴診器を提供する。
【解決手段】電子聴診器は、マイクロフォン1で生体音を取得する集音部10と、集音部10の支持部20とを備えている。集音部10は、聴診対象に接触する圧力を検知する圧力センサ7を備え、支持部20は、聴診対象に接着する接着部材6を備えるとともに、集音部10を聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動させ、移動した位置で集音部10を固定可能に支持するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロフォンで生体音を取得する集音部と、
前記集音部の支持部とを備えている電子聴診器であって、
前記集音部は、聴診対象に接触する圧力を検知する圧力センサを備え、
前記支持部は、前記聴診対象に接着する接着部を備えるとともに、前記集音部を前記聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動させ、移動した位置で前記集音部を固定可能に支持する
電子聴診器。
【請求項2】
前記集音部は、前記支持部と接合するネジ部を備え、
前記支持部は、前記ネジ部に係合するネジ穴を備え、前記ネジ部の回転により前記集音部を移動させ、前記ネジ部の回転が停止された位置で前記集音部を固定可能に支持する、
請求項1記載の電子聴診器。
【請求項3】
予め設定した圧力範囲を記憶する記憶部と、
前記圧力センサで検知された圧力と前記記憶部に記憶されている前記圧力範囲とを比較し前記圧力センサで検知された圧力が前記圧力範囲か否かを判定する比較部と、
前記比較部の判定結果を報知する報知部と
を備えている、請求項1または2記載の電子聴診器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子聴診器に関し、特に電子聴診器の取り扱いに慣れていない者であってもチェストピースと聴診対象とが適切な接触圧力で接触した状態で生体音を取得することができる電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔診療では、聴診器の取り扱いに慣れていない患者(聴診対象)やその家族などが電子聴診器を使って心音等の生体音を取得し、信号処理等が施された生体音信号を患者側の情報通信端末からインターネット等で接続された医師側の情報通信端末に送信し、医師の診察を受ける場合がある。
【0003】
しかし、電子聴診器の取り扱いに慣れていない者が生体音を取得する場合、電子聴診器のチェストピースを持つ手の振動や、患者が動くことで発生する擦れ音などの雑音が取得する生体音に混入する。
【0004】
聴診器を持たずに聴診することができる方法として、吸盤によってチェストパッドを患者に固定する聴診器が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3222551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来提案されている聴診器は、聴診器を持たずに聴診対象に固定することができるが、聴診器のダイアフラムと聴診対象の体表面との接触圧力を調整することができなかった。そのため、接触圧力が小さい場合には生体音の信号レベルが小さく生体音を検知することができない。これに対して接触圧力が大きすぎる場合には生体音から変換される生体音信号が歪み、雑音も大きくなる。そのため聴診器のダイアフラムと聴診対象との接触圧力が適切でないと所望の生体音信号が得られないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、電子聴診器のチェストピースと聴診対象とが適切な圧力で接触した状態で生体音を取得することのできる電子聴診器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子聴診器は、マイクロフォンで生体音を取得する集音部と、前記集音部の支持部とを備えている電子聴診器であって、前記集音部は、聴診対象に接触する圧力を検知する圧力センサを備え、前記支持部は、前記聴診対象に接着する接着部を備えるとともに、前記集音部を前記聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動させ、移動した位置で前記集音部を固定可能に支持する構成としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子聴診器によれば、チェストピースの集音部と聴診対象とが生体音を取得するために好適な圧力で接触し、適切な信号レベルの生体音を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である電子聴診器の説明図で、電子聴診器の構造を説明する図である。
図2】本発明の一実施形態である電子聴診器の説明図で、電子聴診器の信号処理を説明する図である。
図3】電子聴診器を聴診対象に接触圧力を変えて接触させた場合に出力される生体音信号を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電子聴診器について、図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に説明する部材、材料等は、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また図面において同一符号は同等あるいは同一のものを示し、各構成要素間の大きさや位置関係などは便宜上のものであり、実態を反映したものではない。
【0012】
(実施形態)
図1は、本発明の電子聴診器の一実施形態の説明図であり、(a)は電子聴診器のチェストピースの断面模式図を、(b)は接触対象に接触するチェストピースの接触面の平面模式図を示す。図2は、本発明の電子聴診器の一実施形態の説明図であり、電子聴診器の信号処理を説明する図である。
【0013】
図1の(a)に示す本実施形態に係る電子聴診器のチェストピース100は、内部にマイクロフォン1を備える集音部10と、この集音部10を支持する支持部20が備えられている。
【0014】
集音部10には、マイクロフォン1につながる集音空間2が設けられている。集音部10が聴診対象に接触すると、集音空間2を覆う膜3を介して集音空間2に生体音が伝わり、これをマイクロフォン1が電気信号に変換する。この電気信号は、後室4に配置されている信号処理装置5により信号処理がなされ、図示しないイヤーピース、イヤフォン、ヘッドフォン、スピーカー、遠隔診療等のための情報通信端末等へ生体音信号として出力され、医師が診断等を行う。信号処理装置5による信号処理は、図2に示す信号処理装置5内の生体音信号生成部51により、マイクロフォン1で取得した生体音に基づく電気信号についてフィルタリングや増幅処理等を行い生体音信号に変換される。変換された生体音信号は、イヤーピース等の出力部30に出力される。信号処理装置5から出力部30へ出力される生体音信号は、有線または無線により伝送することができる。
【0015】
マイクロフォン1を容量型のMEMSトランスデューサで構成する場合、膜3が振動することで集音空間2内の圧力が変化し、MEMSトランスデューサで容量変化を検知し、信号処理を施すことで生体音信号に変換される。マイクロフォン1は、容量型MEMSトランスデューサに限定されず、圧電素子、エレクトリックコンデンサマイク等を用いることができる。
【0016】
電子聴診器の取り扱いに慣れていない者がチェストピース100を聴診対象に接触させる際、その接触圧力を適切な圧力にすることができない場合や、聴診中に接触圧力を一定に保つことができない場合がある。このようにチェストピース100を聴診対象に押し当てる圧力が適切でないと、所望の生体音信号を得ることができず好ましくない。
【0017】
そこで本実施形態に係る電子聴診器は、取り扱いに慣れていない者であっても適切な接触圧力でチェストピース100を聴診対象に接触可能とするため、集音部10を聴診対象に接着させるとともに、集音部10の位置を聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動して集音部10を固定するための支持部20を備えている。
【0018】
支持部20には、接着部として聴診対象との接触面に粘着シール等の接着部材6が配置されている。図1の(b)に示す例では、聴診対象との接触面にドーナツ形状の粘着テープからなる接着部材6が配置されている。接着部材6は、複数に分割された粘着テープとすることもできる。また粘着テープの代わりに、例えば一般的な吸盤を備える構造としたり、支持部20の内部に空間を形成し、この空間を負圧にすることで吸盤として機能させる構造とすることもできる。接着部を適宜選択することで、電子聴診器のチェストピース100に手を触れていない状態で、接着部の種類に応じた一定の接着力で支持部20が聴診対象に接着することができる。
【0019】
支持部20は、集音部10を聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動させ、その移動させた位置で集音部10を固定できるように支持している。集音部10の位置を移動させることで、集音部10と聴診対象との接触圧力を調整することができる。
【0020】
一例として、図1の(a)に示す集音部10にネジ部8Aを形成し、このネジ部8Aと係合するように支持部20にネジ穴8Bを形成する。このネジ部8Aとネジ穴8Bで構成される係合部8によって集音部10が支持部20に支持される構造となる。
【0021】
図1の(b)に示すように集音部10の聴診対象との接触面を円形として、集音部10に接合する回転盤9を回転させると、ネジ部8Aが回転し、その回転方向に応じて集音部10を聴診対象側に突出させる方向、またはその逆方向であって聴診対象から離れ集音部10の内部に入り込む方向、に移動させることができる。その結果、集音部10と聴診対象との接触圧力が変化する。回転盤9の回転を停止すると、集音部10はその位置で固定することができる。
【0022】
また本実施形態に係る電子聴診器は、集音部10の聴診対象との接触面に圧力センサ7が配置されている。図1の(b)に示す例では、4個の圧力センサ7が配置されている。これらの圧力センサ7は、接着部材6によってチェストピース100の支持部20が聴診対象に接着する状態の集音部10と聴診対象との接触面の接触圧力を検出する。集音部10の表面が聴診対象に適切な接触圧力で接触する場合、集音部10は、適切な信号レベルの生体音を取得することができる。
【0023】
圧力センサ7によって検出された圧力値が適切な接触圧力でない場合、集音部10の位置を移動して集音部10と聴診対象との接触圧力を適切な圧力値となるように調整する。
【0024】
圧力センサ7によって検出された圧力値が適切な接触圧力か否かは、次のように判定する。例えば図2に示すように、信号処理装置5に圧力センサ7から出力された圧力値が入力する比較部52と、予め適切な接触圧力となる設定圧力範囲を記憶し比較部52に出力する記憶部53を備える構成とする。圧力センサ7としては、例えば圧力を感知すると2つの電極間の抵抗値が変わる感圧抵抗素子を用いることができる。
【0025】
記憶部53に記憶される設定圧力範囲は、チェストピース100を聴診対象に接着させた状態で集音部10を聴診対象に接触圧力を変化させて接触させ、得られる生体音信号から設定する。例えば、図3に集音部10を聴診対象に接触圧力を変えて接触させた場合に得られる生体音信号を示す。図3において、(a)は集音部10と聴診対象との接触圧力が低い場合の生体音信号を、(b)は(a)に示す場合より接触圧力が高い場合の生体音信号を、(c)は(b)に示す場合より接触圧力が高い場合の生体音信号をそれぞれ示している。図3の(a)~(c)を比較すると、(a)に示す接触圧力とした場合、生体音信号を得ることができず、(c)に示す接触圧力とした場合、生体音信号が大きく一部の信号は飽和している。これらに対して(b)に示す接触圧力とした場合は、雑音の少ない生体音信号が得られることがわかる。このような雑音の少ない生体音信号が得られる接触圧力を予め確認しておくことで、所望の生体音信号が得られる接触圧力範囲が決定される。
【0026】
図2に示すように、予め確認された接触圧力範囲は設定圧力範囲として記憶部53に記憶しておく。圧力センサ7から出力される圧力値と、記憶部53に記憶されている設定圧力範囲は比較部52に入力され、圧力センサ7から出力された圧力値が設定圧力範囲内であるか否かが判定される。判定結果は報知部40に出力される。報知部40は、聴診対象、電子聴診器を扱う者または遠隔診療を行う医師等に判定結果を認知させるもので、例えば電子聴診器に備えられているLEDの色、点灯、消灯、点滅等の状態を変化させるものである。またスピーカーから音を発する構成としたり、表示装置に判定結果を文字で表示する構成とすることもできる。なおこのようなLED、スピーカー、表示装置などの報知部40は、電子聴診器、特にチェストピースと一体の構成とすることは必ずしも必要ではなく、報知部40に対して判定結果を送信する構成のみを電子聴診器に備えることとしてもよい。
【0027】
判定結果が、集音部10の接触圧力が設定圧力範囲内となっている場合、その状態で出力される生体音信号は適切な信号レベルの生体音を取得して得られた生体音信号となる。一方、判定結果が、集音部10の接触圧力が設定圧力範囲外となっている場合、集音部10の位置を移動させ、再度集音部10の接触圧力を設定圧力範囲と比較して判定結果を得る。これを繰り返すことで、集音部10の接触圧力を設定圧力範囲内とすることができる。
【0028】
好適な圧力値となった集音部10で、マイクロフォン1によって取得される生体音は適切な信号レベルの生体音となり、歪や雑音の少ない生体音信号に変換される。
【0029】
このように電子聴診器の取り扱いに慣れていない者であっても、電子聴診器を聴診対象に接着させ、集音部10の接触圧力を調整することができれば、雑音がなく適切な信号レベルの生体音信号を取得することが可能となる。
【0030】
以上本発明の電子聴診器の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず種々変更可能である。例えば、圧力センサ7から出力される圧力値が設定圧力範囲内であるか否を判定する比較部52の出力を生体音信号生成部51に入力する構成とし、圧力センサ7から出力される圧力値が設定圧力範囲内の場合のみ生体信号生成部51から出力部30に生体音信号が出力される構成とすることもできる。集音部10の位置を変える方法は、ネジを回転させる方法に限らず、種々変更可能である。例えば、集音部10を聴診対象側に押し込むと所定の寸法だけ聴診対象側に移動した位置で固定され、集音部10を押し込む回数により集音部10の位置を変更できる構成としてもよい。この場合、押し込んだ集音部10を逆方向、すなわち聴診対象側と反対の方向に移動させるには、押し込んだ集音部10の固定状態を解除すると集音部10が聴診対象側と反対の方向に移動可能とすればよい。また、メンブレン型のチェストピースに限らず、ベル型のチェストピースに本発明を適用することも可能である。
【0031】
(まとめ)
(1)本発明の電子聴診器の一実施形態は、マイクロフォンで生体音を取得する集音部と、上記集音部の支持部とを備えている電子聴診器であって、上記集音部は、聴診対象に接触する圧力を検知する圧力センサを備え、上記支持部は、上記聴診対象に接着する接着部を備えるとともに、上記集音部を上記聴診対象側に突出させる方向またはその逆方向に移動させ、移動した位置で上記集音部を固定可能に支持する構成とすることができる。
【0032】
本実施形態の電子聴診器によれば、集音部と聴診対象が生体音を取得するための好適な圧力で接触し、適切な信号レベルの生体音を取得することができる。
【0033】
(2)上記集音部は、上記支持部と接合するネジ部を備え、上記支持部は、上記ネジ部に係合するネジ穴を備え、上記ネジ部の回転により上記集音部を移動させ、上記ネジ部の回転が停止された位置で上記集音部を固定可能に支持する構成とすることができる。
【0034】
(3)予め設定した圧力範囲を記憶する記憶部と、上記圧力センサで検知された圧力と上記記憶部に記憶されている上記圧力範囲とを比較し上記圧力センサで検知された圧力が上記圧力範囲か否かを判定する比較部と、上記比較部の判定結果を報知する報知部とを備えている構成とすることもできる。
【0035】
これにより、その都度、集音部と聴診対象との好適な接触圧を探りながら聴診を行う必要がなく、さらに好適な接触圧範囲に該当したことが自動的に検知されるため、電子聴診器の取り扱いに慣れていない者であっても、容易に雑音がなく適切な信号レベルの生体音信号を取得することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 マイクロフォン
2 集音空間
3 膜
4 後室
5 信号処理装置
51 生体音信号生成部
52 比較部
53 記憶部
6 接着部材
7 圧力センサ
8 係合部
8A ネジ部
8B ネジ穴
9 回転盤
10 集音部
20 支持部
30 出力部
40 報知部
100 チェストピース
図1
図2
図3