(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150349
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】分岐型オルガノポリシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C07F7/18 X CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059422
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 那矢
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏子
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP04
4H049VQ79
4H049VR21
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR43
4H049VS79
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来の低分子シロキサンの代替品となり得、極性油剤等との相溶性が良好な分岐型オルガノポリシロキサン化合物、及び前記分岐型オルガノポリシロキサンを簡便に高純度で得られる製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)
(式中、R
1は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
2は、炭素数2又は3のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~3のアルキル基である。nは1又は2であり、mは、n=1のとき、0~3の整数であり、n=2のとき、0又は1である。なお、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)で表される分岐型オルガノポリシロキサン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
2は、独立に炭素数2又は3のアルキル基であり、R
3は、独立に炭素数1~3のアルキル基である。nは1又は2であり、mは、n=1のとき、0~3の整数であり、n=2のとき、0又は1である。なお、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で表される分岐型オルガノポリシロキサン。
【請求項2】
10hPaにおける沸点が87~119℃の範囲である請求項1記載の分岐型オルガノポリシロキサン。
【請求項3】
上記式(1)において、R1がメチル基又はエチル基、R2がエチル基、R3がメチル基、nが1、mが0である請求項1又は2記載の分岐型オルガノポリシロキサン。
【請求項4】
下記式(2)
【化2】
(式中、R
4は、独立に水素原子、又は上記R
1で示される基であり、R
5は、独立に水素原子、又は上記R
3で示される基である。なお、m及びnは、前記式(1)と同じであり、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、炭素数2又は3のアルケンとのヒドロシリル化反応工程を有する、請求項1記載の分岐型オルガノポリシロキサンを製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐型オルガノポリシロキサン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケイ素原子数6個以下のオルガノポリシロキサンは、揮発性が高く、有機化合物との相溶性が高いものが多い。そのため、有機溶剤の代替品や化粧料用の油剤等に使われてきた(特許文献1)。中でも、ケイ素原子数4~6個の環状ポリシロキサンは、合成の容易さなどから数多くの用途に利用されている。しかしながら、近年上記環状ポリシロキサンの環境・安全に対する影響が懸念されるようになった。
【0003】
また、ケイ素原子数6個以下の直鎖状のオルガノポリシロキサンや分岐鎖状のトリストリメチルシロキシメチルシランも、種々の用途に用いられている。しかしながら、ケイ素原子数3個以下の低分子量オルガノポリシロキサンは、皮膚刺激性が強いという問題があり、特に化粧料用途では好ましくない。さらに、これら直鎖状並びに分岐鎖状のオルガノポリシロキサンは、加水分解によって製造することが多い。それゆえに、上記低分子量シロキサンの生成や、複数の生成物を分離する手間などが問題となっていた。
【0004】
また、上記オルガノポリシロキサンは、化粧料に配合される極性油剤に対しては、相溶性が悪く、透明混合できないという問題があり、化粧料の使用感や安定性を損なう場合がある。この傾向は、有機紫外線吸収剤を使用した場合に顕著に現れる。また、ワックス等、化粧料を固化する目的で配合される油性成分との親和性が低い場合、当該油性成分の結晶化を妨げ、期待する製剤の硬度を得ることができなくなる。
【0005】
分岐型テトラシロキサンを高純度で製造する方法として、特許文献2では、ジシロキサン化合物とアルコールと酸触媒の混合液に、トリアルコキシシラン化合物を加えて反応させ、さらに水を加えて共加水分解を行う方法が開示されている。しかしながら、上記ジシロキサンが、炭素原子数が2個以上のアルキル基で置換されている場合には、酸触媒によるシロキサン結合の開裂が起こりにくく、収率が低下する傾向がある。そのため、酸触媒を多量に使用する必要が生じる等の問題が挙げられる。
【0006】
分岐型テトラシロキサンにおいて、分岐点であるケイ素原子に結合したアルキル基の炭素原子数が、2個以上である化合物の合成例は報告されている(特許文献2)。しかしながら、末端基であるトリアルキルシロキシ基のアルキル基の炭素原子数が、2個以上である化合物については、合成された例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2001/015658号
【特許文献2】特開2004-352677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、従来の低分子シロキサンの代替品となり得、極性油剤等との相溶性が良好な分岐型オルガノポリシロキサンを提供することを目的とする。さらに、前記分岐型オルガノポリシロキサンを簡便に高純度で得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明の分岐型オルガノポリシロキサンが、種々の有機化合物との相溶性に優れ、各種溶剤や化粧料の油剤用途に適していることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は分岐型オルガノポリシロキサン及びその製造方法を提供する。
1.下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
2は、独立に炭素数2又は3のアルキル基であり、R
3は、独立に炭素数1~3のアルキル基である。nは1又は2であり、mは、n=1のとき、0~3の整数であり、n=2のとき、0又は1である。なお、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で表される分岐型オルガノポリシロキサン。
2.10hPaにおける沸点が87~119℃の範囲である1記載の分岐型オルガノポリシロキサン。
3.上記式(1)において、R
1がメチル基又はエチル基、R
2がエチル基、R
3がメチル基、nが1、mが0である1又は2記載の分岐型オルガノポリシロキサン。
4.下記式(2)
【化2】
(式中、R
4は、独立に水素原子、又は上記R
1で示される基であり、R
5は、独立に水素原子、又は上記R
3で示される基である。なお、m及びnは、前記式(1)と同じであり、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、炭素数2又は3のアルケンとのヒドロシリル化反応工程を有する、1記載の分岐型オルガノポリシロキサンを製造する製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の低分子シロキサンの代替品となり得、極性油剤等との相溶性が良好な分岐型オルガノポリシロキサンを提供でき、この分岐型オルガノポリシロキサンは各種溶剤や化粧料の油剤用途に適している。また、前記分岐型オルガノポリシロキサンを簡便に高純度で得られる製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合成例1で合成した分岐型オルガノポリシロキサンの
1H-NMRスペクトルのチャートである。
【
図2】合成例1で合成した分岐型オルガノポリシロキサンの
29Si-NMRスペクトルのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
I.分岐型オルガノポリシロキサン
本発明の分岐型オルガノポリシロキサンは、下記式(1)
【化3】
(式中、R
1は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
2は、独立に炭素数2又は3のアルキル基であり、R
3は、独立に炭素数1~3のアルキル基である。nは1又は2であり、mは、n=1のとき、0~3の整数であり、n=2のとき、0又は1である。なお、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で表されるものである。
【0014】
R1は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。中でも、メチル基又はエチル基が好ましい。R2は、独立に炭素数2又は3のアルキル基であり、具体的には、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。中でも、エチル基が好ましい。R3は、独立に炭素数1~3のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。中でも、メチル基又はエチル基が好ましい。nは1又は2であり、1が好ましい。mは、n=1のとき、0~3の整数であり、0~2の整数が好ましい。n=2のとき、0又は1であり、0が好ましい。なお、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。
【0015】
上記式(1)において、R1がメチル基又はエチル基、R2がエチル基、R3がメチル基、nが1、mが0である分岐型オルガノポリシロキサンが好ましい。このような分岐型オルガノポリシロキサンであれば、特に化粧料に配合した際に、軽い感触で、伸びが良い化粧料を与える。また、前記化粧料は撥水性に優れ、化粧膜が均一である。さらに、油性感を強く感じさせず、良好な使用感を達成できる。また、シリコーン、炭化水素油、及びエステル等の各種油剤、25℃で固体状の油性成分、あるいは有機紫外線吸収剤を配合しても、優れた経時安定性、化粧持続性を有する化粧料を得ることができる。
【0016】
上記式(1)で示される分岐型オルガノポリシロキサンとしては、以下のようなものが挙げられる。
【化4】
【0017】
また、本発明の分岐型オルガノポリシロキサンは10hPaにおける沸点が87~119℃の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、特に、取り扱い性に優れ、化粧料 に配合した際には、肌へ塗布しても乾燥感を与えることがなく、また塗布後、油性感を強く感じさせない。なお、沸点が87℃未満であると、揮発速度が早く乾燥感を与えるおそれがある。また、119℃未満のものとすることで、油性感をより感じ難くなる。なお、本発明において沸点とは、試料を10hPaで昇温し、毎秒数滴の速度で還流が繰り返される状態の内温を記録する方法によって測定した、平衡還流沸点である。
【0018】
本発明の分岐型オルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、2.0~6.0mm2/sが好ましく、2.2~3.5mm2/sがより好ましい。粘度は、JIS Z8803:2011記載のキャノンフェンスケ粘度計による25℃での測定値である。
【0019】
本発明の分岐型オルガノポリシロキサンは、極性油剤等との相溶性が良好である。極性油剤としては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オクトクリレン等の有機紫外線吸収剤が挙げられ、特にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルとの相溶性に優れている。
【0020】
II.分岐型オルガノポリシロキサンの製造方法
本発明の分岐型オルガノポリシロキサンは、例えば、下記工程を有するものが挙げられる。この製造方法であれば、上記式(1)の分岐型オルガノポリシロキサンを簡便に高純度で得ることができる。下記式(2)
【化5】
(式中、R
4は、独立に水素原子、又は上記R
1で示される基であり、R
5は、独立に水素原子、又は上記R
3で示される基である。なお、m及びnは、前記式(1)と同じであり、各シロキサン単位の結合順序は上記に制限されるものではなく、シロキサン単位の結合状態は、ブロックであってもランダムであってもよい。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、炭素数2又は3のアルケンとのヒドロシリル化反応工程。
【0021】
R4は、独立に水素原子、又は上記R1で示される基であり、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。R5は、独立に水素原子、又は上記R3で示される基であり、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。なお、m及びnは、上記式(1)と同じである。炭素数2又は3のアルケンとしては、アルケンとしては、エチレン、プロピレンが挙げられる。
【0022】
上記式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、炭素数2又は3のアルケンとの配合比は、上記式(2)中のヒドロシリル基1モルに対する炭素数2又は3のアルケンのモル比として、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.2が好ましい。
【0023】
上記ヒドロシリル化反応は、白金触媒又はロジウム触媒の存在下で行うことが好ましく、具体的には、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体等が好適に使用される。なお、触媒の使用量は、触媒量でよく、特に白金又はロジウム量で、上記式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量に対して50ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましい。
【0024】
上記ヒドロシリル化反応を行う際は無溶剤で行ってもよく、必要に応じ有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などが挙げられる。中でも、無溶剤でヒドロシリル化反応を行うこと、又は有機溶剤として炭化水素、エーテル化合物を使用してヒドロシリル化反応を行うことが好ましい。
【0025】
ヒドロシリル化反応条件は特に限定されないが、気体のエチレンまたはプロピレンを、反応容器内の液中または液外に導入しながら、40~100℃で、1~10時間反応させることが好適である。
【0026】
III.化粧料
分岐型オルガノポリシロキサンは、極性油剤等との相溶性が良好であるため、各種溶剤や化粧料の油剤用途に適している。化粧料等に本発明の岐型オルガノポリシロキサンを配合する場合、その配合量は特に限定されず、0.01~100質量%未満範囲で適宜配合される。その剤型、用途、任意成分配合、及びその配合量は特に限定されず、公知のものを適宜選定することができる。特に、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルとの相溶性に優れるため、サンスクリーン等の日焼け止め製剤に好適である。本発明の分岐型オルガノポリシロキサンを配合した化粧料は、軽い感触で、伸びが良く、また撥水性が高く均一な膜が得られるため、化粧膜の持続性の良い均一な膜が得られ、低温及び高温の保存安定性に優れたサンスクリーンであることも明らかになった。
【0027】
化粧料に紫外線遮蔽効果を所望する場合には、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。本発明における分岐型オルガノポリシロキサンは、紫外線吸収剤との相溶性に優れるため、このような紫外線吸収剤を含有する化粧料は、使用感が良好で、優れた経時安定性、化粧持続性を有する化粧料となる。なお、化合物名を化粧品表示名称、INCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)で記載する場合がある。化粧品表示名称とINCIが対応する場合は英語記載を省略する場合がある。
【0028】
紫外線吸収剤としては、通常化粧料に配合できる原料であれば、特に限定されない。具体的には、オキシベンゾン-1(表示名称(INCI:Benzophenone-1))、オキシベンゾン-2(表示名称(INCI:Benzophenone-2)))、オキシベンゾン-3(表示名称(INCI:Benzophenone-3))、オキシベンゾン-4(表示名称(INCI:Benzophenone-4))、オキシベンゾン-5(表示名称(INCI:Benzophenone-5))、オキシベンゾン-6(表示名称(INCI:Benzophenone-6))、オキシベンゾン-9(表示名称(INCI:Benzophenone-9))、ホモサレート(INCI)、オクトクリレン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、サリチル酸エチルヘキシル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ポリシリコーン-15、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸オクチル(表示名称(INCI:Ethylhexyl Dimethoxybenzylidene Dioxoimidazolidine Propionate))、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸(表示名称(INCI:Terephthalylidene Dicamphor Sulfonic Acid))、エチルヘキシルトリアゾン(INCI)、トリメトキシケイ皮酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル(表示名称(INCI:Isopentyl Trimethoxycinnamate Trisiloxane))、ドロメトリゾールトリシロキサン(INCI)、ジメチルPABAエチルヘキシル(表示名称(INCI:Ethylhexyl Dimethyl PABA))、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル(表示名称(INCI:Isopropyl Methoxycinnamate))、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(表示名称(INCI:Phenylbenzimidazole Sulfonic Acid))、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、ジメトキシケイ皮酸エチルヘキサン酸グリセリル(表示名称(INCI:Glyceryl Ethylhexanoate Dimethoxycinnamate))、グリセリルPABA(INCI)、ジイソプロピルケイ皮酸メチル(表示名称(INCI:Diisopropyl Methyl Cinnamate))、シノキサート(INCI)、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸エチルヘキシル(表示名称(INCI:Ethylhexyl Dimethoxybenzylidene Dioxoimidazolidine Propionate))等が挙げられる。
また、UVA吸収剤(例えば、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル等)と、UVB吸収剤(例えば、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル等)を併用することが可能であり、それぞれを任意に組み合わせることも可能である。
【0029】
この場合、紫外線吸収剤が、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(表示名称(INCI:Ethylhexyl Methoxycinnamate))、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(表示名称(INCI:Diethylamino Hydroxybenzoyl Hexyl Benzoate))、サリチル酸エチルヘキシル(表示名称(INCI:Ethylhexyl Salicylate))、ポリシリコーン-15(INCI)、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン(表示名称(INCI:Butyl Methoxydibenzoylmethane))、オキシベンゾン(表示名称(INCI:Benzophenone))、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(INCI)、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(INCI)及びオクトクリレン(INCI)から選ばれる1種以上の有機紫外線吸収剤であることが好ましい。このような有機紫外線吸収剤であれば、特に、紫外線吸収効果が高まるとともに本発明の分岐型オルガノポリシロキサンとの相溶性に優れるために好ましい。
【0030】
紫外線吸収剤の量は、化粧料中1~50質量%が好ましく、化粧料中3~20質量%がより好ましい。
【実施例0031】
以下、合成例及び実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、本発明の分岐型オルガノポリシロキサンを合成する方法を合成例、本発明の分岐型オルガノポリシロキサンを配合した例を実施例とする。1H-NMRは、Brucker社製AvanceIII400を用いて、29Si-NMRは、JEOL社製ECX-500を用いて、それぞれ測定した。純度は、ガスクロマトグラフィーで測定したクロマトグラムの面積%である。また、動粘度はJIS Z8803:2011記載のキャノンフェンスケ粘度計による25℃での測定値を記載した。なお、合成例は分岐型オルガノポリシロキサンの例であり、実施例及び比較例は化粧料の例である。製品名で記載されている配合量は、配合した製品の配合量である。
【0032】
[合成例1]
1,5-ジエチル-3-エチルジメチルシロキシ-1,1,3,5,5-ペンタメチルトリシロキサン
1Lの4つ口フラスコに、下記式(3)
【化6】
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(純度100%)580gと、塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体0.5質量%のトルエン溶液0.6gを加えた。40~50℃で攪拌をしながら、液中へエチレンガスを吹き込み、60~70℃を保持しながら、ヒドロシリル化反応を行った。反応は、ガスクロマトグラフィーにて追跡し、生成物の割合が、95%以上となったことを確認し、反応を終了した。減圧蒸留(油浴温度90~130℃、1~30hPa)を行い、無色透明液体の溜分630gを得た。得られた溜分の
1H-NMR及び
29Si-NMRスペクトル分析により、目的物である下記式(4)
【化7】
で示される構造のオルガノポリシロキサン(1,5-ジエチル-3-エチルジメチルシロキシ-1,1,3,5,5-ペンタメチルトリシロキサン)を、純度100%、収率83%で得たことを確認した。動粘度は2.5mm
2/sであり、沸点は113℃/10hPaであった。
1H-NMRスペクトルのチャートを
図1、
29Si-NMRスペクトルのチャートを
図2に示す。
【0033】
[合成例2]
1,5-ジエチル-3-トリメチルシロキシ-1,1,3,5,5-ペンタメチルトリシロキサン
1Lの4つ口フラスコに、下記式(5)
【化8】
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(純度72%)490gと、塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体0.5質量%のトルエン溶液0.5gを加えた。40~50℃で攪拌をしながら、液中へエチレンガスを吹き込み、60~70℃を保持しながら、ヒドロシリル化反応を行った。反応は、ガスクロマトグラフィーにて追跡し、生成物の割合が、95%以上となったことを確認し、反応を終了した。減圧蒸留(油浴温度90~130℃、1~30hPa)を行い、無色透明液体の溜分153gを得た。得られた溜分の
1H-NMR及び
29Si-NMRスペクトル分析により、目的物である、下記式(6)
【化9】
で示される構造のオルガノポリシロキサン(1,5-ジエチル-3-トリメチルシロキシ-1,1,3,5,5-ペンタメチルトリシロキサン)を、純度100%、収率36%で得たことを確認した。動粘度は2.2mm
2/sであり、沸点は97℃/10hPaであった。
【0034】
[メトキシケイヒ酸エチルヘキシルとの相溶性試験]
合成例1,2で得られた分岐型オルガノポリシロキサン及びその他のケイ素化合物と、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(有機紫外線吸収剤)との相溶性を下記に示す方法で評価した。評価結果を表1に示す。
(評価方法)
合成例1,2で得られた分岐型オルガノポリシロキサン及びその他のケイ素化合物と、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(OMCと示す場合がある)とを表1に示す質量比で採取した。室温で振盪混合し、翌日の溶解状態を観察した。溶解状態を、溶解:○、分離:×で示す。
【0035】
【表1】
KF-96L-1.5cs:デカメチルテトラシロキサン(信越化学工業(株)製)
KF-96L-2cs:ウンデカメチルペンタシロキサン(信越化学工業(株)製)
TMF-1.5:トリストリメチルシロキシメチルシラン(信越化学工業(株)製)
KF-995:デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業(株)製)
D6:ドデカメチルヘキサシロキサン
【0036】
表1に示されるように、本発明における、合成例1,2で得られた分岐型オルガノポリシロキサンは、その他のケイ素化合物に比べ、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルとの相溶性が高いことが明らかになった。
【0037】
[25℃で固体の油性成分との相溶性と結晶化試験]
合成例2で得られた分岐型オルガノポリシロキサン及びその他のオルガノポリシロキサンについて、25℃で固体の油性成分との相溶性と、結晶化に及ぼす影響を下記に示す方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0038】
(評価方法)
25℃で固体の各油性成分と、合成例2で得られた分岐型オルガノポリシロキサン及びその他のオルガノポリシロキサンとを1:9の質量比で採取し、90℃/20分間加熱してその溶解状態を目視観察した。下記の基準で評価した。
均一溶解:◎
均一分散:〇
分離:×
【0039】
その後、それぞれの加熱混合液をジャー容器に入れ、25℃で2日間静置して固化させ、固形物のレオメーター硬度を測定した。測定は、レオメーターRT2002D・D((株)レオテック製)を用い、RANGE:200g、アダプター:φ3mm(棒型)、試料台速度:5cm/min、侵入幅:1cmの条件で各3回測定した。3回の測定値の平均値を求めた。値が高い方が硬いことを示す(単位:g)。
【0040】
【表2】
KF-96L-1.5cs:デカメチルテトラシロキサン(信越化学工業(株)製)
KF-96L-2cs:ウンデカメチルペンタシロキサン(信越化学工業(株)製)
TMF-1.5:トリストリメチルシロキシメチルシラン(信越化学工業(株)製)
KF-995:デカメチルペンタシロキサン(信越化学工業(株)製)
KF-4422:ジエチルオクタメチルテトラシロキサン(信越化学工業(株)製)
【0041】
表2に示されるように、本発明における分岐型オルガノポリシロキサンは、いずれの固体の油性成分にも良好に溶解又は均一分散した。特に、キャンデリラロウを用いた場合、その他のケイ素化合物がいずれも分離したのに対し、本発明における分岐型オルガノポリシロキサンは均一に分散することが明らかになった。また、ポリエチレンを用いた場合も、直鎖状ジメチルポリシロキサンに比べて、相溶性が良好であることが明らかになった。さらに、加熱された組成物を冷却することにより、混成組成物を固化させることが可能であることも分かった。
【0042】
一般的に、ワックス等の固体の油性成分と相溶性の高い油剤を用いて混成組成物を調製する際、加熱溶解後、冷却されて固化した組成物の硬度が低くなることが知られており、加熱時に均一溶解又は分散しても、冷却後に経時安定性に優れた化粧料を得るための十分な硬度を得ることが難しい場合がある。本発明における分岐型オルガノポリシロキサンを用いた場合、いずれの固体の油性成分にも良好に溶解又は均一分散し、かつ冷却後はその他のケイ素化合物と比較して、高い硬度を有することが明らかになった。
【0043】
以下、本発明の合成例1,2で得られた分岐型オルガノポリシロキサンを配合した、化粧料に係る実施例及び比較例の処方例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。配合量は特に指定のない限り%(質量%)で示す。
【0044】
[実施例1,2、比較例1~3]W/O型サンスクリーン
実施例1,2については、合成例1,2で得られた分岐型オルガノポリシロキサンを使用して、比較例1~3については、これを使用せず、下記の製造方法に従いW/O型サンスクリーンを調製した。実施例1,2及び比較例1~3の組成を表3に示す。
【0045】
【表3】
(注1)デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業(株)製)
(注2)トリストリメチルシロキシメチルシラン(INCI:メチルトリメチコン) (信越化学工業(株)製)
(注3)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(信越化学工業(株)製)
(注4)ジメチコン70~80%+(ジメチコン/(PEG-10/15))クロスポリマー20~30%の混合物(信越化学工業(株)製)
(注5)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン80~85%+架橋型フェニル変性ジメチルポリシロキサン15~20%の混合物(信越化学工業(株)製)
(注6)セチルPEG/PPG-10/1ジメチコン(信越化学工業(株)製)
【0046】
[製造方法]
成分1~12を攪拌し、均一になるよう混合した。別途成分17に成分13~16を均一溶解させ、前述の成分1~12の混合物に穏やかに加え、攪拌して乳化物とした。これを所定の容器に充填し、サンスクリーンを得た。
【0047】
得られたW/O型サンスクリーンについて、(1)感触の良さ(軽い感触)、(2)伸びの良さ、(3)膜の均一性の良さ、(4)化粧膜の持続性、について女性10名の専門パネルにより、下記評点に基づき使用テストを行なった。結果を、得られた平均点から下記評価基準で示す。また、(5)化粧料を40℃で1ヶ月間静置した際の状態、(6)化粧料を5℃で1ヶ月間静置した際の状態、についても観察した。評価結果を表4に示す。
【0048】
(評点)
5点:非常に良好
4点:良好
3点:普通
2点:やや不良
1点:不良
(評価基準)
◎:平均点が4.5点以上
○:平均点が3.5点以上4.5点未満
△:平均点が2.5点以上3.5点未満
×:平均点が1.5点以上2.5点未満
××:平均点が1.5点未満
【0049】
【0050】
表4から明らかなように、実施例1,2のサンスクリーンは比較例1~3と比べ、軽い感触で、伸びが良く、また撥水性が高く均一な膜が得られるため、化粧膜の持続性の良い均一な膜が得られるサンスクリーンであることが実証された。また、保存安定性に優れたサンスクリーンであることも明らかになった。
本発明の分岐型オルガノポリシロキサンは、揮発性が高く、有機化合物との相溶性が高いため、有機溶剤の代替品や化粧料用の油剤等に好適である。また、本発明の製造方法は、分岐型オルガノポリシロキサンを簡便に高純度で得ることができるため、不純物が問題となる用途であっても好適に使用できる。