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特開2023-150522剥離フィルム、積層フィルム及び剥離フィルムの製造方法
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  • 特開-剥離フィルム、積層フィルム及び剥離フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150522
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】剥離フィルム、積層フィルム及び剥離フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B32B27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059670
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 洋之
(72)【発明者】
【氏名】千嶋 憲治
(72)【発明者】
【氏名】福井 伸良
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01C
4F100AK07A
4F100AK35B
4F100AK36B
4F100AK42A
4F100AL05B
4F100AT00
4F100BA03
4F100CA05B
4F100CA05C
4F100EH462
4F100EH46C
4F100JL14B
4F100JL14C
(57)【要約】
【課題】新規な剥離フィルムを提供する。また、このような剥離フィルムを用いて作製される積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材と、基材の一方の面に形成された剥離層と、を有し、剥離層は、分子構造内にメラミン構造を含む剥離剤と、水酸基価5.0mgKOH/g以下の表面改質剤と、を含み、剥離層における前記表面改質剤の含有率は、剥離層の表面側よりも基材側の方が小さい剥離フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
基材の一方の面に形成された剥離層と、を有し、
剥離層は、分子構造内にメラミン構造を含む剥離剤と、水酸基価5.0mgKOH/g以下の表面改質剤と、を含み、
前記剥離層における前記表面改質剤の含有率は、前記剥離層の表面側よりも前記基材側の方が小さい剥離フィルム。
【請求項2】
前記剥離剤は、アミノアルキッド樹脂を含む請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項3】
前記表面改質剤は、アルキルペンダントポリマー又はアクリルポリマーを含む請求項1又は2に記載の剥離フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の剥離フィルムと、
前記剥離層に接し前記剥離層の上に形成された樹脂層と、を有する積層フィルム。
【請求項5】
分子構造内にメラミン構造を含む剥離剤と、水酸基価5.0mgKOH/g以下の表面改質剤と、を含む混合液を基材の表面に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥させて剥離層を形成する工程と、を有する剥離フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗膜を形成する工程に先立って、前記剥離剤と前記表面改質剤とを選定する工程を有する請求項5に記載の剥離フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルム、積層フィルム及び剥離フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、離型層を有する剥離フィルムが使用されている。例えば、特許文献1には、表面粗さが制御された離型層を有し、成形同時転写用途に用いられる離型フィルム(剥離フィルム)が記載されている。特許文献1の離型フィルムを用いると、樹脂成形品を成形する際に、成形と同時に成形品の表面に転写箔を転写し、装飾を施すことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6205874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、特許文献1に記載の剥離フィルムにより成形品に装飾を施すように、表面の性質を改良する表面改質剤を成形品の表面に転写可能となれば、成形品の物性調整の自由度が高まると考えた。一般に成形品の表面を改質する場合、成形品に表面改質剤の層を形成することがある。しかし、成形品の表面に表面改質剤の層を形成し多層構造とする場合、製造が煩雑となることがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、新規な剥離フィルムを提供することを目的とする。また、このような剥離フィルムを用いて作製される積層フィルムを提供すること、及びこのような剥離フィルムの製造方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0007】
[1]基材と、基材の一方の面に形成された剥離層と、を有し、剥離層は、分子構造内にメラミン構造を含む剥離剤と、水酸基価5.0mgKOH/g以下の表面改質剤と、を含み、前記剥離層における前記表面改質剤の含有率は、前記剥離層の表面側よりも前記基材側の方が小さい剥離フィルム。
【0008】
[2]前記剥離剤は、アミノアルキッド樹脂を含む[1]に記載の剥離フィルム。
【0009】
[3]前記表面改質剤は、アルキルペンダントポリマー又はアクリルポリマーを含む[1]又は[2]に記載の剥離フィルム。
【0010】
[4][1]から[3]のいずれか1項に記載の剥離フィルムと、前記剥離層に接し前記剥離層の上に形成された樹脂層と、を有する積層フィルム。
【0011】
[5]分子構造内にメラミン構造を含む剥離剤と、水酸基価5.0mgKOH/g以下の表面改質剤と、を含む混合液を基材の表面に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥させて剥離層を形成する工程と、を有する剥離フィルムの製造方法。
【0012】
[6]前記塗膜を形成する工程に先立って、前記剥離剤と前記表面改質剤とを選定する工程を有する[5]に記載の剥離フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な剥離フィルムを提供することができる。また、このような剥離フィルムを用いて作製される積層フィルムを提供すること、及びこのような剥離フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態の剥離フィルムを示す概略断面図である。
図2図2は、剥離フィルムの製造方法を示す模式図である。
図3図3は、剥離フィルムの製造方法を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。
図5図5は、本実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1図5を参照しながら、本実施形態に係る剥離フィルム、剥離フィルムの製造方法、積層フィルムについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0016】
[剥離フィルム]
図1は、本実施形態の剥離フィルム1を示す概略断面図である。図1に示すように、剥離フィルム1は、基材10と、基材10の一方の面10aに形成された剥離層20とを有する。
【0017】
(基材)
基材10は、剥離層20を支持するとともに、剥離フィルム1全体の剛性を担保する。基材10の材料は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0018】
基材10が樹脂フィルムである場合は、無延伸フィルムでもよく、一軸又は二軸に延伸された延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムの延伸倍率及び延伸方向は、適宜設定することができる。基材の厚さは特に限定されないが、10~100μmが好ましく、38~70μmがより好ましい。
【0019】
(剥離層)
剥離層20は、剥離剤21と、表面改質剤22とを含んでいる。剥離層20における表面改質剤22の含有率(濃度)は、剥離層20の表面側よりも基材10側の方が小さい。図1に示す剥離層20においては、表面改質剤22の濃度は、剥離層20の表面20aから基材10に向けて漸減している。
【0020】
詳しくは後述するが、剥離層20は、剥離材と表面改質剤とを含む混合液を基材の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させることで製造することができる。この際、乾燥させることにより、塗膜から溶媒が除去される。これにより、硬化剤の濃度が相対的に高まり、前駆体21xの架橋反応または硬化反応が促進される。上記反応の進行に伴い、剥離剤21は、基材10の面10aと結合し、基材10側に存在しやすくなる。相対的に表面改質剤22が剥離層20の表面21a側に押し出され、剥離剤21と表面改質剤22との分離が進行する。その結果、得られる剥離層20においては、表面改質剤22の含有率が、剥離層20の表面20aから基材10側に向けて漸減したものとなる。
【0021】
図1では、表面改質剤22の濃度分布を剥離層20の濃淡で示し、高濃度であるほど濃く示している。剥離層20の製造方法については後述する。
【0022】
(剥離剤)
剥離剤21は、剥離層20の基本的な性質である剥離性を奏する材料である。剥離性とは、剥離層20表面の物体から剥離フィルム1を容易に剥がすことが可能となる性質である。剥離層20表面の物体から剥離フィルム1を剥がす力が小さいほど、剥離性が高いと評価する。
【0023】
剥離剤21は、公知の非シリコーン系剥離剤を採用することができる。「非シリコーン系」とは、剥離剤を構成する化合物の分子構造に、シリコーン結合(Si-O-Si)を含まないことを意味する。
【0024】
非シリコーン系剥離剤としては、公知の種々の材料を採用できるが、なかでもアミノアルキッド樹脂又はメラミン樹脂のいずれか一方又は両方が好ましい。アミノアルキッド樹脂は、アルキド樹脂とメラミン構造を有するアミノ樹脂との混合物を主成分とする合成樹脂である。
【0025】
アルキド樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの縮合物を骨格として、これを油、脂肪酸、ロジン酸系単量体などで変性した熱硬化性樹脂を指す。
【0026】
アルキド樹脂を構成する多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、安息香酸、ロジン、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、無水マレイン酸、アジピン酸、コハク酸を挙げることができる。
【0027】
アルキド樹脂を構成する多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンを挙げることができる。
【0028】
アミノ樹脂としては、ブチル化メラミン樹脂又は尿素樹脂を挙げることができる。
【0029】
アミノアルキッド樹脂として市販されている製品には、テスファイン(昭和電工マテリアルズ株式会社)などが挙げられる。
メラミン樹脂として市販されている製品には、サイメル300、303、325、350、370(Allnex社製)などが挙げられる。
【0030】
上述した剥離剤21は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(表面改質剤)
表面改質剤22は、剥離フィルム1を用いて成形した成形体の表面に転写され、成形体の表面の性質を改質する機能を有する材料である。表面改質剤22により改質する性質としては、成形体表面の接触角(撥水性)、防汚性、撥油性、親水性、接着性、及び帯電防止性、が挙げられる。
【0032】
表面改質剤は、水酸基価が5.0mgKOH/g以下であり、3.0mgKOH/g以下であると好ましい。
【0033】
表面改質剤が有する水酸基は、上述の剥離剤が有する剥離剤が有するメラミン構造と反応することで結合を形成する。そのため、水酸基価が高い表面改質剤は、剥離剤が有するメラミン構造と反応して剥離層に留まり、成形体の表面に転写されにくい。一方、上述のように表面改質剤の水酸基価が小さいほど、剥離剤と反応しにくく、後述の転写を生じやすい。
【0034】
表面改質剤の水酸基価は、以下の方法で測定する。
【0035】
(水酸基価の測定方法)
近赤外分光分析装置(FT-NIR)を用い、下記の測定を行って水酸基価を求める。FT-NIRとしては、例えば、NICOLET iS5N(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いることができる。
【0036】
水酸基価0.1~12.5mgKOH/gに調整した藤森工業製アクリルポリマーを用いて、水酸基価と赤外線の吸収強度との対応関係から検量線を作成する。
【0037】
次いで、測定対称の表面改質剤の溶液(溶液1)を調整し、得られた溶液1の赤外線の吸収強度を測定する。検量線を用いて、吸収強度から溶液1の水酸基価を求める。
次いで、溶液1を希釈して溶液2を調整し、得られた溶液2の赤外線の吸収強度を測定する。検量線を用いて、吸収強度から溶液2の水酸基価を求める。
【0038】
上記希釈と水酸基価の測定とを繰り返し、溶液の水酸基価が0.1~12.5mgKOH/gの範囲内の結果2点以上を用いて、溶液濃度と水酸基価との対応関係を示すグラフを作成する。上記2点以上の結果を用いて線型近似することにより、濃度100%時の水酸基価を算出し、表面改質剤の水酸基価を求める。
【0039】
成形体表面の撥水性を改質する場合、表面改質剤22としては、アルキルペンダントポリマー、アクリル系材料が好ましい。
【0040】
アルキルペンダントポリマーは、主鎖に対して、アルキル基を有する側鎖を有する。アルキルペンダントポリマーの主鎖としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合物、ポリエチレンイミン、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。ポリマーの主鎖と側鎖のアルキル基との間には、必要に応じて、エステル基(-COO-)、アミド基(-CONH-)、エーテル基(-O-)、ウレタン基(-NHCOO-)等の連結基が導入されてもよい。
【0041】
アルキルペンダントポリマーは、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH)、イミノ基(-NH-)等の官能基を有する主鎖と、アルキル基を有する化合物を反応させることで得ることもできる。例えば、イソシアネート基、エポキシ基等の反応性官能基がアルキル基に結合された化合物を、主鎖の官能基と反応させてもよい。この場合は、主鎖とアルキル基との間の連結基が、主鎖の官能基と側鎖の反応性官能基との反応により形成される。
例えば、ポリビニルアルコールの水酸基にアルキルイソシアネートを付加させてもよい。
【0042】
アルキルペンダントポリマーは、ビニル基等の主鎖を形成する官能基とアルキル基とを有するモノマーを用いてポリマーを合成することにより得ることもできる。この場合は、主鎖とアルキル基との間の連結基が、モノマーの段階から導入されていてもよい。例えば、アルキル基を有するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル等のアルキル基含有モノマーを、他のビニル系モノマーと共重合させてもよい。
【0043】
アルキルペンダントポリマーにおいて、側鎖のアルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよい。アルキル基の炭素数としては、例えば、8~30が挙げられ、10~24、12~18程度が挙げられる。油脂等の脂肪酸に由来するアルキル基を側鎖に用いる場合は、アルキルペンダントポリマーが、アルキル基の炭素数が異なる組成の混合物であってもよい。
【0044】
アルキルペンダントポリマーは、剥離層の上に成膜されるキャスト樹脂等の樹脂層(後述)に応じた耐溶剤性を有することが好ましい。例えば、酢酸エチル等の極性溶媒であれば、長鎖のアルキル基を有するアルキルペンダントポリマーを用いることにより、耐溶剤性を向上することができる。
【0045】
樹脂層の成膜に使用される材料が、イソシアネート系架橋剤等の反応性官能基を有する添加剤を含有する場合は、アルキルペンダントポリマーが、反応性官能基と反応し得る水酸基等の官能基を有しないことが好ましい。これにより、反応性官能基と離型剤との反応による剥離力の増大を抑制することができる。
【0046】
アルキルペンダントポリマーの商品名としては、アシオ産業株式会社のアシオレジン(登録商標)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社のピーロイル(登録商標)、中京油脂株式会社のレゼム、花王株式会社のエキセパール(登録商標)等が挙げられる。
【0047】
剥離層20全体において、剥離剤21と表面改質剤22との合計に対する剥離剤の比率は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上90質量%以下がより好ましく、30質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
剥離層20は、実質的に剥離剤21と表面改質剤22とから形成されてもよい。また、剥離層20は、必要に応じて添加剤を配合してもよい。添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、増粘剤、潤滑剤、発泡剤、消泡剤、無機粒子、有機粒子等が挙げられる。
【0049】
剥離フィルム1としては、基材10の材料としてポリエステルであるPETを用い、剥離層20の剥離剤21にアミノアルキッド樹脂を用いたものが好ましい。後述する方法で剥離層20を形成する際、剥離剤21は、アミノアルキッド樹脂が生じる反応において、基材10の表面の水酸基ともエステル結合を形成する。これにより、剥離層20は基材10の面10aに強固に結合しやすくなる。
【0050】
また、剥離フィルム1としては、基材10の材料としてポリエステルであるPETを用い、剥離層20の剥離剤21にメラミン樹脂を用いたものも好ましい。
【0051】
基材10と剥離剤21とが上記組み合わせの場合、成形品に撥水性を付与する表面改質剤22としては、アルキルペンダントポリマーが好ましい。
【0052】
[剥離フィルムの製造方法]
図2,3は、剥離フィルムの製造方法を示す模式図である。
まず、図2に示すように、剥離剤21と表面改質剤22とを含む混合液を基材10の面10aに塗布して塗膜29を形成する(塗膜を形成する工程)。
【0053】
例えば、剥離剤21としてアミドアルキッド樹脂を用いる場合、剥離剤21の前駆体21xと表面改質剤22との混合物を溶媒に溶解した後、公知の塗布方法により基材10に塗布する。なお「塗膜」には、溶媒が含まれているものとする。
【0054】
混合液には、必要に応じて前駆体21xの硬化剤も混合する。硬化剤は、エステル結合を促進する酸触媒が挙げられる。
【0055】
用いる溶媒は、溶媒に対する前駆体21xの溶解度と、溶媒に対する表面改質剤22の溶解度とを考慮し、均一に溶解可能な溶媒を選択するとよい。用いる溶媒としては、例えば、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、アセトンやメチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤のような極性溶媒や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0056】
塗布方法は特に限定されないが、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ダイコーティング、ブレードコーティング等が挙げられる。薄い塗膜29を形成するには、組成物を塗布する前に塗工用の溶剤に溶解し、粘度を調整することが好ましい。
【0057】
次いで、図3に示すように、塗膜29を乾燥させて剥離層20を形成する(剥離層を形成する工程)。
【0058】
乾燥させることにより、塗膜29から溶媒が除去される。これにより、硬化剤の濃度が相対的に高まり、前駆体21xの重合反応が促進される。重合反応の進行に伴い、剥離剤21は、基材10の面10aと結合し、基材10側に存在しやすくなる。相対的に表面改質剤22が剥離層20の表面21a側に押し出され、剥離剤21と表面改質剤22との分離が進行する。その結果、得られる剥離層20においては、表面改質剤22の含有率が、剥離層20の表面20aから基材10側に向けて漸減したものとなる。
【0059】
なお、図2に示す塗膜を形成する工程に先立って、剥離剤と表面改質剤との好適な組み合わせを判定する試験を行い、剥離剤と表面改質剤とを選んでもよい(選定する工程)。
【0060】
剥離剤と表面改質剤との組み合わせを判定する試験として、剥離フィルムを積層する材料と同材料の試験片を用いた簡易評価を採用することができる。具体的には、用意する試験片に剥離フィルムを積層し、剥離フィルムから表面改質剤を転写させた後に剥離し、試験片において剥離フィルムを積層した面(転写面)の物性を測定する。測定結果から、剥離フィルムに採用した剥離剤と表面改質剤との組み合わせにより、所望の表面改質が可能か否かを判断することができる。
【0061】
例えば、剥離フィルムが、剥離フィルムを積層した面に撥水性を付与する機能を有する場合、上記判定する試験として、転写面の接触角の測定試験を採用することができる。転写面の接触角が90°以上である場合、十分な撥水性を付与できると判断することができる。
【0062】
以上のような製造方法により、剥離フィルム1を得ることができる。
【0063】
[積層フィルム]
図4,5は、本実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。図4に示すように、積層フィルム100は、上述の剥離フィルム1の剥離層20に接し、剥離層20の上に形成された樹脂層50を有する。樹脂層50は、剥離層20の表面20aに接する。
【0064】
樹脂層50は、剥離層20の上にキャストして形成することができる。樹脂層50の材料としては、溶剤に可溶な樹脂、無溶剤でも流動化された液状樹脂、又は塗布後にラジカル重合等により硬化させることが可能な液状モノマーを含む樹脂組成物であれば特に限定されないが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、溶剤可溶性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0065】
キャストされる樹脂の溶剤としては、特に限定されないが、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、アセトンやメチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。塗料を基材に塗布した後に乾燥することで、溶剤は樹脂層から除去される。塗料を低粘度に調整して樹脂をキャストすると、剥離層の上で薄いフィルム状の樹脂層を容易に形成することができる。キャストにより形成される樹脂層の厚さは特に限定されないが、1~50μmが挙げられる。
【0066】
塗料の塗布後に樹脂を架橋することにより、樹脂層50の耐溶剤性を高めてもよい。樹脂層50を架橋するには、塗料に架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。キャストされる樹脂の主剤は、架橋剤と反応することが可能な官能基として、水酸基、カルボキシ基等を有することが好ましい。
【0067】
図5に示すように、積層フィルム100から樹脂層50を剥離することで、樹脂フィルムとして単離することができる。その際、樹脂フィルムにおいて剥離層20と接していた表面50aには、剥離層20から表面改質剤22が転写される。これにより、表面50aが改質された樹脂フィルムが得られる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0069】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(水酸基価の測定)
上述の(水酸基価の測定方法)に従って測定した。
【0071】
[実施例1~11、比較例1~9]
(剥離フィルムの作製)
基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
PETフィルム上に、剥離剤と表面処理剤とを表1~4に示す組成で混合した混合液を塗布し、乾燥させることで、PETフィルムの表面に剥離層を有する実施例1~11、比較例1~9の剥離フィルムを作製した。
【0072】
用いた剥離剤及び表面処理剤は、以下の通りである。
【0073】
表面処理剤1:アルキルペンダントポリマー(ピーロイル1050、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)。水酸基価2.4mgKOH/g。
表面処理剤2:アクリルポリマーA(藤森工業株式会社製)。水酸基価0.9mgKOH/g。
表面処理剤3:アクリルポリマーB(藤森工業株式会社製)水酸基価59.8mgKOH/g。
【0074】
剥離剤1:アミノアルキッド樹脂100質量部と、硬化剤3質量部との混合物
アミノアルキッド樹脂:テスファイン303、昭和電工マテリアルズ株式会社
硬化剤:ドライヤー900(p-トルエンスルホン酸のトルエン溶液)、昭和電工マテリアルズ株式会社
【0075】
剥離剤2:メラミン樹脂70質量部と、水酸基含有アクリル30質量部と、硬化剤3質量部との混合物
メラミン樹脂:サイメル370、allnex社製
水酸基含有アクリル:アクリルポリマーB、藤森工業株式会社製
【0076】
(積層フィルムの形成)
実施例、比較例の各剥離フィルムについて、剥離層にエポキシ樹脂(EPOX AH357、株式会社プリンテック製)を塗布した。塗工ギャップ130μmで塗工した後、130℃で3分間加熱して、樹脂層(積層フィルム)を形成した。樹脂層表面に粘着テープ(31Bテープ、日東電工株式会社)を貼り付け、室温で20時間エージングした。
【0077】
(評価1:剥離力測定)
積層フィルムを25mm幅に切削して試験片を作製した。試験片の剥離フィルムを固定し、31Bテープを把持して剥離することにより、剥離力(gf/25mm)を測定した。剥離速度は、0.3m/分、剥離角度は、180°とした。1000gf=1kgf=9.80665Nである。
【0078】
試験は、卓上形精密万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAGS-X)を用いて行った。試験を2回行い、測定値の算術平均値を求める剥離力とした。結果を表1~4に示す。
【0079】
(評価2:接触角測定)
剥離力測定後、剥離フィルムを剥がしたエポキシ樹脂フィルム(樹脂フィルム)の表面(表面50a)に純水を滴下し、表面50aの接触角を測定した。
【0080】
試験は、全自動接触角計(協和界面科学株式会社製、DMo-701)を用いて行った。表面50aに純水を3μl滴下し、10秒後に接触角を測定した。試験を3回行い、測定値の算術平均値を求める接触角とした。結果を表1~4に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表中「巻き取り不可」とは、作製した剥離フィルムの剥離層の表面にべたつきがあり、剥離フィルムを巻き取ることができず、剥離力、接触角の評価ができなかったことを示す。
【0086】
評価の結果、実施例1~4のいずれの剥離フィルムにおいても、剥離剤を用いていない比較例2の剥離フィルムと比べて剥離力が低減し、容易に剥離可能であった。また、実施例1~4のいずれの剥離フィルムにおいても、剥離層に表面処理剤を含まない比較例1の剥離フィルムと比べて、得られたエポキシ樹脂フィルムの表面の接触角が大きくなり、撥水性が付与されていることが確認できた。
【0087】
すなわち、実施例1~4の剥離フィルムを用いると、キャスト法により樹脂フィルムを容易に形成可能であるとともに、得られる樹脂フィルムの表面を改質可能であることが確認できた。
【0088】
同様に、実施例5~11においても、剥離層に表面処理剤を含まない比較例の剥離フィルムと比べて、得られたエポキシ樹脂フィルムの表面の接触角が大きくなり、撥水性が付与されていることが確認できた。
【0089】
一方、水酸基価が高い表面処理材を用いた比較例6,7については、含有率を30質量%にまで増やしても、接触角が合格基準にまで大きくならなかった。表面処理材の水酸基価が高く、剥離剤が有するメラミン構造と反応しやすいことから、剥離剤と表面処理材とが結合し、表面処理材が樹脂フィルムの表面に転写されなかったものと考えられる。
【0090】
以上の結果から、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0091】
1…剥離フィルム、10…基材、20…剥離層、21…剥離剤、22…表面改質剤、29…塗膜、50…樹脂層、100…積層フィルム
図1
図2
図3
図4
図5