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特開2023-150539単離エクソソームを含む組成物及びその製造方法
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  • 特開-単離エクソソームを含む組成物及びその製造方法 図1
  • 特開-単離エクソソームを含む組成物及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150539
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】単離エクソソームを含む組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20231005BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P43/00
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059693
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小木戸 謙
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
(72)【発明者】
【氏名】中川 史子
(72)【発明者】
【氏名】篠田 達也
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA25
4B065BA30
4B065BD14
4B065BD18
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA20
4C087ZC51
(57)【要約】
【課題】新たな種類の機能的エクソソームを含有する組成物の提供。
【解決手段】下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【請求項2】
組織及び臓器からなる群より選ばれる少なくとも1つの線維化を抑制するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【請求項4】
下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【請求項5】
前記単離エクソソームが、CD9及びCD63からなる群より選ばれる少なくとも1つの表面マーカーが陽性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記単離エクソソームが、間葉系幹細胞に由来する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
組成物の製造方法であって、
下記工程(1)を含み、
前記組成物が、下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つの単離エクソソームを含む組成物である、前記製造方法:
工程(1)下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmであるエクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmであるエクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つのエクソソームを、エクソソームを含む液体試料から単離する工程。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【請求項8】
前記工程(1)が、前記エクソソームを含む液体試料を、陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)が、下記工程(a1)乃至(a3)からなる群から選択される少なくとも1つの工程をさらに含む、請求項7又は8に記載の製造方法:
工程(a1):陽イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、
工程(a2):限外ろ過を行う工程、
工程(a3):サイズ排除クロマトグラフィーを行う工程。
【請求項10】
前記工程(1)が、エクソソームを含む液体試料を陽イオン交換クロマトグラフィー及び限外ろ過からなる群より選ばれる少なくとも1つに供して混合物を取得し、さらに前記混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
下記工程(2)をさらに含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の製造方法:
工程(2):単離されたエクソソームを有効成分として製剤化する工程。
【請求項12】
前記エクソソームを含む液体試料が、間葉系幹細胞の培養上清である、請求項7~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単離エクソソームを含む組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エクソソームを用いた治療研究が徐々に行われるようになっている。細胞治療に対するエクソソーム治療の利点としては例えば以下のものを挙げることができる:(1)産生細胞を長期維持培養することで大量のエクソソームを得ることができる(製造コストを抑制できる)、(2)体内の免疫系で排除されない(他家治療が可能)、(3)細胞そのものでは無いので、体内で異常増殖(腫瘍化)のリスクがない、(4)幹細胞が生き残りにくい患部の環境でも、効果を発揮できる、(5)静脈投与によって毛細血管で目詰まりしないので大量のエクソソームを投与できる(外来で治療可能、入院不要)。
【0003】
このような機能的であり、産業的価値の高いエクソソームを効果的に精製する方法としては、超遠心法、アフィニティ法が挙げられ、更に、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、それらの組み合わせ等が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/027185号
【特許文献2】国際公開第2021/163696号
【特許文献3】国際公開第2020/191369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エクソソームの機能の解明とその利用については、まだ十分とは言えず、さらなる活用が期待されている。
本開示は、新たな種類の機能的エクソソームを含有する組成物と、その製造方法及び用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は以下のとおりである。
[1]下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
[2]組織及び臓器からなる群より選ばれる少なくとも1つの線維化を抑制するための、[1]に記載の組成物。
[3]下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
[4]下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
[5]前記単離エクソソームが、CD9及びCD63からなる群より選ばれる少なくとも1つの表面マーカーが陽性である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記単離エクソソームが、間葉系幹細胞に由来する、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]組成物の製造方法であって、
下記工程(1)を含み、
前記組成物が、下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つの単離エクソソームを含む組成物である、前記製造方法:
工程(1)下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmであるエクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmであるエクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つのエクソソームを、エクソソームを含む液体試料から単離する工程。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
[8]前記工程(1)が、前記エクソソームを含む液体試料を、陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものである、[7]に記載の製造方法。
[9]前記工程(1)が、下記工程(a1)乃至(a3)からなる群から選択される少なくとも1つの工程をさらに含む、[7]又は[8]に記載の製造方法:
工程(a1):陽イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、
工程(a2):限外ろ過を行う工程、
工程(a3):サイズ排除クロマトグラフィーを行う工程。
[10]前記工程(1)が、エクソソームを含む液体試料を陽イオン交換クロマトグラフィー及び限外ろ過からなる群より選ばれる少なくとも1つに供して混合物を取得し、さらに前記混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものである、[7]に記載の製造方法。
[11]下記工程(2)をさらに含む、[7]~[10]のいずれかに記載の製造方法:工程(2):単離されたエクソソームを有効成分として製剤化する工程。
[12]前記エクソソームを含む液体試料が、間葉系幹細胞の培養上清である、[7]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、新たな種類の機能的エクソソームを含有する組成物と、その製造方法及び用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】各溶出フラクションにおける表面抗原定濃度の測定結果、並びに260nm及び280nmの各波長での吸光度を示す図である。
図2】各溶液における線維化抑制試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>
本開示の一実施形態は、下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物である。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【0010】
本開示に係る組成物(組成物1)は、特定範囲の電気伝導度を有する単離エクソソームを含む。このため、本組成物では、特定の単離エクソソームに基づく機能の発揮が期待される。これをさらに説明すれば、電気伝導度という指標を用いることによって、ある種のエクソソームを単離エクソソームとして特定できることが見出された。本組成物は、この特定された単離エクソソームに基づく機能を有することができる。
【0011】
本開示におけるエクソソームとは、細胞外小胞として知られ、脂質二重層を含む細胞由来成分として捉えることができる。エクソソームの直径は、例えば、50nm~1000nm、50nm~300nm、又は50nm~200nmである。エクソソームの直径は、ナノ粒子トラッキング解析法(NTA)、電子顕微鏡等により測定することができる。
「単離エクソソーム」とは、特定範囲の電気伝導度を有するエクソソームとして分離精製されたエクソソームであることを意味する。分離精製の方法としては、特に制限されないが、例えば後述する製造方法における単離工程に記載の方法を挙げることができる。
【0012】
本開示において、単離エクソソームの電気伝導度の測定方法は、当業者に既知の装置及び方法を用いて行うことができる。電気伝導度は、例えば、Cytiva製のAKTA(登録商標)purifier等の装置を用いて測定することができ、具体的な装置の操作、UV及び電気伝導度等の測定に関しては、製造者のマニュアルに従い行うことができる。また、電気伝導度は、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、特に、ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによりエクソソームを単離するときに測定することができる。陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びポリマー及びポリマーとしては、例えば、それぞれ、後述の陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが挙げられる。
【0013】
電気伝導度の測定条件は、以下の通りとすることができる。
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
ここで、HEPESは、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸を表す。ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリマーを担体とし、陰イオン交換基を担体の表面に有するカラムクロマトグラフィーである。陰イオン交換基としては、第4級アンモニウム(QA)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、エチレンジアミン(EDA)等の官能基を挙げることができる。当該条件で測定される電気伝導度としては、画分開始時から画分終了時までの電気伝導度を採用する。
【0014】
電気伝導度の測定における上述の温度、溶媒、及びカラム以外の他の条件については特に限定されず、具体的な、電気伝導度測定時の他の条件に関しては、後述の<単離エクソソームを含む組成物の製造方法>の項における工程(1)の手順1~4の各記載を援用できる。
【0015】
本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームの電気伝導度は、特定の値の電気伝導度としてのみならず、ある範囲を有する電気伝導度として確認することができる。ここで、「ある範囲を有する電気伝導度」とは、溶出フラクションの取得における取得開始時(すなわち、画分開始時)から取得終了時(すなわち、画分終了時)までの電気伝導度を表す。すなわち、上記条件に従って測定した場合に溶媒(すなわち、溶離液)中のNaClの濃度が濃度勾配に応じて変化し得る事情、及び、溶出フラクションの取得に際して一定の時間を要することに起因して、電気伝導度はある範囲を以って表される。
上述の条件で測定されたときの電気伝導度は、70~120mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、均質性の観点から、75~110mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、80~100mS/cmであってよい。このような単離エクソソームの電気伝導度は、上記の範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、70mS/cm以上、76mS/cm以上、77mS/cm以上、83mS/cm以上、85mS/cm以上、91mS/cm以上、又は98mS/cm以上で、かつ、111mS/cm以下、105mS/cm以下、又は104mS/cm以下のものであってよい。単離エクソソームにおける、画分開始時の電気伝導度と画分終了時の電気伝導度との差は、電気伝導度が上記範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、50mS/cm以内、35mS/cm以内、又は20mS/cm以内とすることができ、かつ、検出限界以上、すなわち、0mS/cmを超えていればよく、1mS/cm以上、5mS/cm以上、又は10mS/cm以上とすることができる。
これらの範囲の電気伝導度を有する単離エクソソームは、より均質な単離エクソソームとして、高い効果が期待できる。
【0016】
本実施形態の組成物は、特定機能を有する組成物であり、例えば組織及び臓器からなる群より選ばれる少なくとも1つの線維化を抑制するための組成物であってもよい。線維化は様々な組織及び臓器に生じる現象であり、線維化が生じる組織又は臓器としては、例えば、肝臓、肺、腎臓、すい臓、心臓、血管(例えば冠動脈等)等が挙げられる。
本実施形態において、線維化を抑制するとは、当該組成物を対象に投与したときに、当該組成物を対象に投与していない対照と比較して線維化が全く生じないこと、線維化が生じたとしても対照よりも少ない量又は領域での線維化しか生じないこと等を言う。
本実施形態の組成物は、医薬組成物であってもよく、組織及び臓器からなる群より選ばれる少なくとも1つの線維化の治療又は予防に使用することができる。
【0017】
線維化が抑制されていることは、当業界で既知の方法によって確認することができる。このような線維化抑制の確認方法としては、例えば、アクチンα2(ACTA2)発現量の測定を利用した確認方法等を挙げることができる。
【0018】
本実施形態の組成物は、線維化抑制機能以外の他の機能を奏するものであってもよい。線維化抑制機能以外の機能としては、例えば、抗炎症作用、血管新生作用、抗老化作用、細胞増殖促進作用、細胞遊走促進作用、コラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質産生促進作用等を挙げることができる。本実施形態の組成物は、これらの線維化抑制機能以外の機能に基づく症状又は疾患の治療又は予防に使用可能な医薬組成物であってもよい。
【0019】
本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームは、通常、エクソソームが発現していることが既知の表面分子を発現しているものとすることができる。エクソソームが発現していることが既知の表面分子であって、エクソソーム表面に特有な表面分子としては、C
D9、CD63、CD81等を挙げることができる。単離エクソソームは、例えば、CD9及びCD63からなる群より選ばれる少なくとも1つの表面マーカーが陽性である。また、本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームは、CD9、CD63等の表面マーカーのみならず、その他の任意の表面マーカーが陽性となるものであってもよい。
【0020】
本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームの由来は、特定の電気伝導度を有する限り特に限定されず、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞等を挙げることができ、脂肪、骨髄、臍帯血、胎盤等の間葉系幹細胞由来であってよく、脂肪由来幹細胞であってよい。
【0021】
本実施形態において、組成物とは、その成分として上述した単離エクソソームのみを含む単一成分のものであってもよく、単離エクソソームと他の任意の成分を含む複数成分のものであってもよい。ここで組成物の形態としては、液状、ゲル状、固体状のいずれであってもよい。固体状の形態としては、例えば、凍結状態、凍結乾燥状態等の形態が挙げられる。
ここで、他の任意の成分は、薬学的に許容される担体、溶媒、添加剤等であってよく、例えば希釈剤、賦形剤、結合剤、安定剤、pH調整剤、増粘剤、抗酸化剤、等張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、凍害防止剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、制菌剤等が挙げられる。
【0022】
本実施形態において、組成物の対象への投与方法、組成物に含まれる単離エクソソームの含有量、対象への組成物の投与量等は、該組成物に含まれる単離エクソソームの有する線維化抑制能等の特定の機能又は活性が発揮できる限り特に限定されず、投与対象の有する疾患の種類、疾患の程度、症状、投与対象の年齢、体重等によって適宜定めることができる。
【0023】
本実施形態の組成物の剤形は投与経路等によって適宜選択することができる。例えば、経口投与の場合、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合は、注射剤、液剤、懸濁剤等に製剤化することができ、これらの剤形の組成物を動脈内、静脈内、髄内、髄腔内、腸内等の投与経路で対象に投与することができる。
【0024】
本実施形態の組成物が線維化抑制効果等の機能又は活性を発揮できる限り、その組成物中の単離エクソソームの含有量は特に限定されない。
例えば、固形製剤の場合、組成物1g当たりのエクソソーム数で表したとき、下限を1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×1010個/g以上、1.0×1011個/g以上とすることができ、また上限を1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×1010個/g以下、1.0×1011個/g以下、1.0×1012個/g以下とすることができる。また、これらの下限及び上限を任意に組み合わせて一定の範囲としてもよく、例えば、1.0×10個/g以上かつ1.0×1012個/g以下としてもよく、1.0×10個/g以上かつ1.0×1010個/g以下としてもよい。また、組成物1gあたり、1ng~1000mgとしてもよく、1μg~1000mgとしてもよく、1mg~1000mgとしてもよい。
【0025】
また液剤の場合、組成物1mL当たりのエクソソーム数で表したとき、下限を1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×1010個/mL以上、1.0×1011個/mL以上とすることができ、また上限を1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×1010個/mL以下、1.0×1011個/mL以下、1.0×1012個/mL以下とすることができる。また、これらの下限及び上限を任意に組み合わせて一定の範囲としてもよく、例えば、1.0×10個/mL以上かつ1.0×1012個/mL以下としてもよく、1.0×10個/mL以上かつ1.0×1010個/mL以下としてもよい。また、組成物1mL当たり、1ng/mL~1000mg/mLとしてもよく、1μg/mL~1000mg/mLとしてもよく、1mg/mL~1000mg/mLとしてもよい。
【0026】
本実施形態の組成物が線維化抑制効果等の機能又は活性を発揮できる限り、その組成物の投与量は限定されないが、例えば、60kgのヒトにおいて、単離エクソソーム量に換算したときの1日当たりの投与量で、固形製剤の場合、下限を1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×10個/g以上、1.0×1010個/g以上、1.0×1011個/g以上とすることができ、また上限を1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×10個/g以下、1.0×1010個/g以下、1.0×1011個/g以下、1.0×1012個/g以下とすることができる。また、これらの下限及び上限を任意に組み合わせて一定の範囲としてもよく、例えば、1.0×10個/g以上かつ1.0×1012個/g以下としてもよく、1.0×10個/g以上かつ1.0×1010個/g以下としてもよい。また、組成物1gあたり、1ng~1000mgとしてもよく、1μg~1000mgとしてもよく、1mg~1000mgとしてもよい。
【0027】
また液剤の場合、60kgのヒトにおいて、単離エクソソーム量に換算したときの1日当たりの投与量で、下限を1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×10個/mL以上、1.0×1010個/mL以上、1.0×1011個/mL以上とすることができ、また上限を1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×10個/mL以下、1.0×1010個/mL以下、1.0×1011個/mL以下、1.0×1012個/mL以下とすることができる。また、これらの下限及び上限を任意に組み合わせて一定の範囲としてもよく、例えば、1.0×10個/mL以上かつ1.0×1012個/mL以下としてもよく、1.0×10個/mL以上かつ1.0×1010個/mL以下としてもよい。また、組成物1mL当たり、1ng/mL~1000mg/mLとしてもよく、1μg/mL~1000mg/mLとしてもよく、1mg/mL~1000mg/mLとしてもよい。
【0028】
本実施形態の組成物は、使用時において溶媒を当業者に既知の方法により適宜置き換えることができ、例えば、溶媒をダルベッコ リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)に置き換えた場合、温度:25℃、溶媒:DPBS、カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーの条件で測定したときの電気伝導度が、20mS/cm以下となるように調製してもよい。
【0029】
本実施形態の単離エクソソームを含む組成物の製造方法は、後述の<単離エクソソームを含む組成物の製造方法>の項における記載を援用できる。
【0030】
<電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>
本開示の他の実施形態は、下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む、組成物である。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
ここで、HEPESは、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸を表す。ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリマーを担体とし、陰イオン交換基を担体の表面に有するカラムクロマトグラフィーである。陰イオン交換基としては、第4級アンモニウム(QA)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、エチレンジアミン(EDA)等の官能基を挙げることができる。当該条件で測定される電気伝導度としては、画分開始時から画分終了時までの電気伝導度を採用する。
【0031】
本開示に係る他の組成物(組成物2)は、特定範囲の電気伝導度を有する他の単離エクソソームを含む。このため、本組成物では、特定の単離エクソソームに基づく機能の発揮が期待される。これをさらに説明すれば、電気伝導度という指標を用いることによって、ある種のエクソソームを単離エクソソームとして特定できることが見出された。電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む本組成物(組成物2)は、この特定された単離エクソソームに基づく機能として、上述した、電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物(組成物1)と同一又は異なる機能を有し得る。
【0032】
本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームの電気伝導度は、特定の値の電気伝導度としてのみならず、ある範囲を有する電気伝導度として確認することができる。ここで、「ある範囲を有する電気伝導度」とは、溶出フラクションの取得における取得開始時(すなわち、画分開始時)から取得終了時(すなわち、画分終了時)までの電気伝導度を表す。すなわち、上記条件に従って測定した場合に溶媒(すなわち、溶離液)中のNaClの濃度が濃度勾配に応じて変化し得る事情、及び、溶出フラクションの取得に際して一定の時間を要することに起因して、電気伝導度はある範囲を以って表される。
上述の条件で測定されたときの電気伝導度は、15~55mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、均質性の観点から、25~50mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、35~45mS/cmであってよい。このような単離エクソソームの電気伝導度は、上記の範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、17mS/cm以上、18mS/cm以上、24mS/cm以上、27mS/cm以上、32mS/cm以上、36mS/cm以上、39mS/cm以上、45mS/cm以上、又は47mS/cm以上で、かつ、55mS/cm以下、又は53mS/cm以下のものであってよい。単離エクソソームにおける、画分開始時の電気伝導度と画分終了時の電気伝導度との差は、電気伝導度が上記範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、40mS/cm以内、25mS/cm以内、又は10mS/cm以内とすることができ、かつ、検出限界以上、すなわち、0mS/cmを超えていればよく、1mS/cm以上、又は5mS/cm以上とすることができる。
これらの範囲の電気伝導度を有する単離エクソソームは、より均質な単離エクソソームとして、高い効果が期待できる。
【0033】
本実施形態の組成物は、例えば、抗炎症作用、血管新生作用、抗老化作用、細胞増殖促進作用、細胞遊走促進作用、コラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質産生促進作用等の機能を奏するものであってもよい。
【0034】
本実施形態において、電気伝導度の測定方法、電気伝導度の測定条件、単離エクソソームの表面マーカー、単離エクソソームの由来、組成物に含まれる成分、剤形、投与方法、組成物に含まれる単離エクソソームの含有量、対象への組成物の投与量等の各記載は、<電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>の項におけ
る記載を援用することができる。
【0035】
<電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソーム及び電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>
本開示の他の実施形態は、下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物である。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
ここで、HEPESは、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸を表す。ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリマーを担体とし、陰イオン交換基を担体の表面に有するカラムクロマトグラフィーである。陰イオン交換基としては、第4級アンモニウム(QA)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、エチレンジアミン(EDA)等の官能基を挙げることができる。当該条件で測定される電気伝導度としては、画分開始時から画分終了時までの電気伝導度を採用する。
【0036】
本開示に係る他の組成物(組成物3)は、複数の、特定範囲の電気伝導度を有する単離エクソソームを含む。このため、本組成物では、複数の、特定の単離エクソソームに基づく機能の発揮が期待される。これをさらに説明すれば、電気伝導度という指標を用いることによって、ある種のエクソソームの組み合わせを単離エクソソームとして特定できることが見出された。電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む本組成物(組成物3)は、上述した、電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物(組成物1)の有する機能と、電気伝導度が15~55mS/cmを含む組成物(組成物2)の有する機能の両機能を有することもできる上、組成物1と組成物2の各組成物が有さない組成物3に特有の機能を有することもできる。
【0037】
本実施形態の組成物に含まれる単離エクソソームの電気伝導度は、特定の値の電気伝導度としてのみならず、ある範囲を有する電気伝導度として確認することができる。ここで、「ある範囲を有する電気伝導度」とは、溶出フラクションの取得における取得開始時(すなわち、画分開始時)から取得終了時(すなわち、画分終了時)までの電気伝導度を表す。すなわち、上記条件に従って測定した場合に溶媒(すなわち、溶離液)中のNaClの濃度が濃度勾配に応じて変化し得る事情、及び、溶出フラクションの取得に際して一定の時間を要することに起因して、電気伝導度はある範囲を以って表される。
【0038】
電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームについては、上述の条件で測定されたときの電気伝導度は、70~120mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、均質性の観点から、75~110mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、80~100mS/cmであってよい。このような単離エクソソームの電気伝導度は、上記の範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、70mS/cm以上、76mS/cm以上、77mS/cm以上、83mS/cm以上、85mS/cm以上、91mS/cm以上、又は98mS/cm以上で、かつ、111mS/cm以下、105mS/cm以下、又は104mS/cm以下のものであってよい。単離エクソソームにおける、画分開始時の電気伝導度と画分終了時の電気伝導度との差は、電気伝導度が上記範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、50mS/cm以内、35mS/cm以内、又は20mS/cm以内とすることができ、かつ、検出限界以上、すなわち、0mS/cmを超えていればよく、1mS/cm以上、5mS/cm以上、又は10mS/cm以上とすることができる。
【0039】
電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームについては、上述の条件で測定されたときの電気伝導度は、15~55mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、均質性の観点から、25~50mS/cmの範囲に含まれるものであってよく、35~45mS/cmであってよい。このような単離エクソソームの電気伝導度は、上記の範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、17mS/cm以上、18mS/cm以上、24mS/cm以上、27mS/cm以上、32mS/cm以上、36mS/cm以上、39mS/cm以上、45mS/cm以上、又は47mS/cm以上で、かつ、55mS/cm以下、又は53mS/cm以下のものであってよい。単離エクソソームにおける、画分開始時の電気伝導度と画分終了時の電気伝導度との差は、電気伝導度が上記範囲に含まれるものであれば特に制限はなく、40mS/cm以内、25mS/cm以内、又は10mS/cm以内とすることができ、かつ、検出限界以上、すなわち、0mS/cmを超えていればよく、1mS/cm以上、又は5mS/cm以上とすることができる。
これらの範囲の電気伝導度を有する単離エクソソームは、より均質な単離エクソソームとして、高い効果が期待できる。
【0040】
本実施形態の組成物としては、例えば以下の組成物が挙げられる。
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が25~50mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が35~45mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が75~110mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が75~110mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が25~50mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が75~110mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が35~45mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が80~100mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が80~100mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が25~50mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物;
・上述の条件で測定されたときの電気伝導度が80~100mS/cmである単離エクソソームと、上述の条件で測定されたときの電気伝導度が35~45mS/cmである単離エクソソームとを含む組成物。
【0041】
本実施形態の組成物は、これらの2種類の特定の電気伝導度を有する単離エクソソームを組み合わせて含むことによって、これらの2種類の特定の電気伝導度を有する単離エクソソームそれぞれの機能を奏するものであってもよく、それぞれの単離エクソソームが有
する機能を互いに高めあう効果を有するものであってもよく、また、それぞれの単離エクソソームを組み合わせたことにより新たな効果を生じるものであってもよい。
【0042】
また、例えば上述の条件で測定されたとき、対象の電気伝導度が55mS/cmより大きく70mS/cm未満である場合、その対象において不純物である核酸が多く検出されることがある。本実施形態の組成物は、そのような不純物を含まず、すなわち特定のエクソソームを高純度で含むものである。
【0043】
本実施形態において、電気伝導度の測定方法、電気伝導度の測定条件、単離エクソソームの表面マーカー、単離エクソソームの由来、組成物に含まれる成分、剤形、投与方法、組成物に含まれる単離エクソソームの含有量、対象への組成物の投与量等の各記載は<電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>の項における記載及び<電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>の項における記載を援用することができる。
【0044】
<単離エクソソームを含む組成物の製造方法>
本開示の他の実施形態は、組成物の製造方法であって、
下記工程(1)を含み、
前記組成物が、下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmである単離エクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つの単離エクソソームを含む組成物である、前記製造方法:
工程(1)下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmであるエクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmであるエクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つのエクソソームを、エクソソームを含む液体試料から単離する工程である。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
ここで、HEPESは、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸を表す。ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリマーを担体とし、陰イオン交換基を担体の表面に有するカラムクロマトグラフィーである。陰イオン交換基としては、第4級アンモニウム(QA)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、エチレンジアミン(EDA)等の官能基を挙げることができる。当該条件で測定される電気伝導度としては、画分開始時から画分終了時までの電気伝導度を採用する。
【0045】
本開示に係る製造方法によれば、本開示に係る1又は2の特定の単離エクソソームを含む組成物を効率よく得ることができる。
【0046】
工程(1)の単離工程は、エクソソームを含む液体試料を、イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行ってもよく、特定のエクソソームを単離できる限り特に限定されず、例えば、以下の手順1~4により行うことができる。
【0047】
手順1.カラムの平衡化
カラムは、例えば、陰イオン交換カラムである、BIA Separations製のCIMmultus(登録商標) EV 1mL Monolithic Column(2μm channels)を用いることができる。工程(1)の単離工程は、エクソ
ソームを含む液体試料を、陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものであってもよく、この場合、カラムは表面官能基として第4級アンモニウム(QA)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、エチレンジアミン(EDA)等を有するものであってもよい。また工程(1)の単離工程が、エクソソームを含む液体試料を、陽イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものであるものであってもよく、この場合、カラムは表面官能基としてスルホン酸(‐SOH)等を有するものであってもよい。また、カラムは、モノリス構造を有するカラムであってもよく、モノリス構造は網目状の骨格が繋がった特徴的な構造をもつ一体型の多孔質体のため、モノリスカラムを用いた場合は、通常の粒子充填型カラムと比較して高流速で高分解能のクロマトが可能であり、結果として大量に処理することが可能となる。
イオン交換クロマトグラフィーを行うための装置は、例えば、Cytiva製のAKTA(登録商標)purifierを用いて行うことができる。具体的な装置の操作、UV及び電気伝導度等の測定に関しては、製造者のマニュアルに従い行うことができる。
【0048】
イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液は、例えば、50mM HEPES緩衝液(pH7.0)(A液)及び、2M NaClの50mM HEPES緩衝液(pH7.0)(B液)を用いることができる。または当該単離工程において、NaClの代わりにKClを用いてもよい。または当該単離工程において、溶離液のpHは中性付近であってよく、pH6.8~7.2程度であってよい。
カラムの平衡化は、上記カラムに、A液99%、B液1%の混合液(NaCl濃度20mM)を20mL通液すること等により行うことができる。
【0049】
手順2.エクソソームのカラムへの吸着
上記平衡化したカラムに、エクソソームを含む溶液を、例えば流速を5mL/分で通すことにより、カラムにエクソソームを吸着させることができる。
【0050】
手順3.非吸着成分の溶出
エクソソームを吸着させたカラムに、例えばA液99%及びB液1%の混合液(NaCl濃度20mM)を20mL通液させ、カラムに吸着していない成分を溶出させることができる。このときの流速は、例えば5mL/分としてもよい。
【0051】
手順4.エクソソームの溶出
エクソソームを吸着させたカラムに、例えばA液99%及びB液1%からA液0%及びB液100%まで(NaCl濃度20mMから2Mまで)のリニアグラジエント又はステップグラジエントの溶離液(20mL)を通液し、カラムに吸着させたエクソソームを溶出させることができる。NaClを含む溶離液の流速は、例えば1mL/分としてもよい。カラム、培養上清および移動相の温度は25℃で行ってもよい。溶離液におけるNaCl濃度のグラジエントの幅は、必要に応じて適宜狭くしてもよく、広くしてもよい。
【0052】
また、工程(1)の単離工程は、エクソソームを含む液体試料を、イオン交換クロマトグラフィー以外の態様によっても行うことができる。例えば、エクソソームを含む溶液を、陰イオンを電気的結合により結合できる表面を有する担体と接触することによって、エクソソームを担体に吸着させた後、エクソソームと担体を分離させる溶液に接触させることによってエクソソームを単離する態様が考えられる。担体の形状はどのようなものであってもよく、例えば球状、平板状であってよい。
エクソソームを吸着した担体を、エクソソームを含む溶液から効率的に回収する操作を行うことができる。回収操作としては、例えば、担体が球状である場合、担体の長径よりも小さな孔径の孔を有する膜を使って、エクソソームを含む溶液からエクソソームを吸着した担体を分離する方法が挙げられる。また、担体が磁気を帯びている場合には、磁石を使って、エクソソームを含む溶液からエクソソームを吸着した担体を分離することが可能
である。
【0053】
工程(1)は、下記工程(a1)乃至(a3)からなる群から選択される少なくとも1つの工程をさらに含んでもよい。
工程(a1):陽イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、
工程(a2):限外ろ過を行う工程、
工程(a3):サイズ排除クロマトグラフィーを行う工程。
【0054】
工程(a1)における陽イオン交換クロマトグラフィーの記載は、上述の工程(1)の記載を援用できる。陽イオン交換クロマトグラフィーに供することによりエクソソームの精製度を上げることができる。陰イオン交換クロマトグラフィーを陽イオン交換クロマトグラフィーと組み合わせて用いる場合、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に陽イオン交換クロマトグラフィーを行ってもよく、陽イオン交換クロマトグラフィーの後に陰イオン交換クロマトグラフィーを行ってもよい。また、陰イオン交換クロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーの各手段は1回以上行ってもよい。
【0055】
工程(a2)における限外ろ過は、ろ過フィルター表面に沿って並行方向に液を流すものである。限外ろ過の例としては、タンジェンシャルフローフィルトレーションが挙げられる。
精製度を上げる観点のみならず、量産性又はコストの観点からも、イオン交換クロマトグラフィーと限外ろ過とを組み合わせることは有用である。
【0056】
限外ろ過において、使用する装置、使用するフィルターの分画分子量(NMWC)、流速、置換溶媒等は、限外ろ過によりろ過を行う液体から不純物を取り除くことができる限り特に限定されない。
例えば、装置としては、KR2iシステム(レプリジェン製)を用いることができる。また、タンジェンシャルフローフィルトレーションに用いられるタンジェンシャルフローフィルターの分画分子量(NMWC)は、例えば500kDaのものを用いることができ、このフィルターは、市販されているものを使用することができる。また、タンジェンシャルフィルトレーションを行う際の流速は、例えば50mL/分であってよく、精製のための置換溶媒としては、例えば、50mM Tris緩衝液(pH8.0)を用いることができ、この精製のための置換溶媒はさらに0.1wt%のノニオン性界面活性剤を含んでもよく、500mM NaClを含んでもよい。この精製処理は1又は複数回行ってもよい。ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体等が挙げられる。
【0057】
さらに、核酸分解処理を行ってもよい。これにより、エクソソームを含む液体試料中の、不純物としての核酸を除去することができる。核酸分解処理は、限外ろ過の前に行っても、限外ろ過の後に行っても、限外ろ過の前と後の両方に行ってもよい。核酸分解処理を限外ろ過の前に行う場合には、例えば核酸分解酵素等を溶媒に添加して、一定時間酵素反応を行ってよい。核酸分解処理を限外ろ過の後に行う場合には、例えば限外ろ過によって得られたろ液に核酸分解酵素等を添加して、一定時間酵素反応を行ってよい。核酸分解処理を限外ろ過の前と後の両方に行う場合には、例えば核酸分解酵素等を溶媒に添加して、一定時間酵素反応を行うと共に、限外ろ過によって得られたろ液に核酸分解酵素等を添加して、一定時間酵素反応を行ってよい。核酸分解処理に際して、核酸分解酵素と共に、核酸分解酵素の活性化剤を用いて、核酸分解酵素を活性化してもよい。核酸分解処理の後、核酸分解酵素含有溶媒から核酸分解酵素非含有溶媒に置換してもよい。
陰イオン交換クロマトグラフィーを限外ろ過と組み合わせて用いる場合、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に限外ろ過を行ってもよく、限外ろ過の後に陰イオン交換クロマトグラフィーを行ってもよい。また、陰イオン交換クロマトグラフィーと限外ろ過の各手
段は1回以上行ってもよい。
【0058】
上述のとおり、核酸分解処理は、限外ろ過の前、限外ろ過の後、又は限外ろ過の前と後の両方に行ってもよい。したがって、陰イオン交換クロマトグラフィーを限外ろ過及び核酸分解処理と組み合わせて用いる場合、例えば以下の順で行うことができる。
・核酸分解処理、限外ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィーの順;
・核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過の順;
・限外ろ過、核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィーの順;
・限外ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理の順;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理、限外ろ過の順;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、核酸分解処理の順;
・核酸分解処理、限外ろ過、核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィーの順;
・核酸分解処理、限外ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理の順;
・核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、核酸分解処理の順;
・核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理、限外ろ過の順;
・限外ろ過、核酸分解処理、陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理の順;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、核酸分解処理、限外ろ過、核酸分解処理の順。
また、本開示のエクソソームの製造方法においては、陰イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、及び核酸分解処理の各手段を1回以上用いてもよい。
【0059】
工程(a3)におけるサイズ排除クロマトグラフィーは、分子の大きさの違いによって分子を分離する手法である。サイズ排除クロマトグラフィーは、精製度を向上させるものである限り特に限定されず、当業者に既知の方法により行うことができ、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー等により行うことができ、ゲルろ過クロマトグラフィーであってよい。
陰イオン交換クロマトグラフィーをサイズ排除クロマトグラフィーと組み合わせて用いる場合、陰イオン交換クロマトグラフィーの後にサイズ排除クロマトグラフィーを行ってもよく、サイズ排除クロマトグラフィーの後に陰イオン交換クロマトグラフィーを行ってもよい。また、陰イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーの各クロマトグラフィーは1回以上行ってもよい。
【0060】
本開示の製造方法において、陰イオン交換クロマトグラフィーを、陽イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、及びサイズ排除クロマトグラフィーからなる群より選ばれる少なくとも1つと組み合わせて使用することができる。したがって、本実施形態においては、例えば、以下の手法の組み合わせを用いることができる。
・陰イオン交換クロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーとの組み合わせ;・陰イオン交換クロマトグラフィーと限外ろ過との組み合わせ;
・陰イオン交換クロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーとの組み合わせ;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及び限外ろ過の組み合わせ;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及びサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせ;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、及びサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせ;
・陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、限外ろ過、及びサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせ。
また、限外ろ過を用いる組み合わせにおいては、上述のとおり、核酸分解処理をさらに組み合わせることができる。
【0061】
本実施形態において、各工程において液中の粒子濃度の測定は当業者に既知の方法によ
り行うことができ、例えばナノ粒子トラッキング装置Zeta View(パーティクルメトリクス製)を用い、ソフトウェアに付属するEV測定メソッドで、488nmレーザーを使用して測定することができる。
【0062】
工程(1)が、エクソソームを含む液体試料を陽イオン交換クロマトグラフィー及びタンジェンシャルフローフィルトレーションからなる群より選ばれる少なくとも1つに供して混合物を取得し、さらに前記混合物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われるものとしてもよい。このように、陽イオン交換クロマトグラフィー及びタンジェンシャルフローフィルトレーションからなる群より選ばれる少なくとも1つと、陰イオン交換クロマトグラフィーとの組み合わせを用いることにより、より一層、精製度が向上したエクソソームを得ることができる。精製度がより一層向上したエクソソームは、医療製剤用原料として好適である。
【0063】
さらに、工程(2):単離されたエクソソームを有効成分として製剤化する工程を含んでもよい。製剤化の方法は特に限定されず、当業者に既知の方法により行うことができる。
例えば、上述の<電気伝導度が70~120mS/cmである単離エクソソームを含む組成物>の項に記載した成分を含むように製剤化することができ、剤形及び含有量等に関しても上述の通りである。
【0064】
エクソソームを含む液体試料は、例えば、血液、組織液等の生体試料であってもよく、エクソソームを産生する細胞の培養上清であってもよい。エクソソームを産生する細胞の培養上清は、エクソソームの由来となる細胞を培養した際に得られる培養上清であればよく、間葉系幹細胞の培養上清であってよく、脂肪由来肝細胞の培養上清であってよい。
【0065】
エクソソームを含む液体試料は、分離精製効率を高めるために、前処置を行ってもよい。前処理としては、例えば遠心分離、フィルターろ過、遠心分離とフィルターろ過との組み合わせ等が挙げられる。遠心分離の条件は液体試料から不純物を除去することができるものであれば特に限定されず、遠心加速度、温度、及び遠心時間は適宜定めることができる。例えば1500G、4℃で10分間遠心分離を行ってもよく、10000G、4℃で30分間遠心分離を行ってもよい。また、フィルターろ過は0.22μmフィルター等で行ってもよい。遠心分離とフィルターろ過はそれぞれ1又は複数回行ってもよく、また遠心分離とフィルターろ過を組み合わせて行ってもよい。
【0066】
<エクソソームの単離方法>
本開示の他の実施形態は、エクソソームの単離方法であって、
下記条件で測定されたときの電気伝導度が70~120mS/cmであるエクソソーム及び下記条件で測定されたときの電気伝導度が15~55mS/cmであるエクソソームからなる群より選ばれる少なくとも1つのエクソソームを、エクソソームを含む液体試料から単離する方法である。
条件:
温度:25℃
溶媒:50mM HEPES(pH7.0)バッファー+NaCl(0.02Mから2Mまでの濃度勾配)
カラム:ポリマー陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
【0067】
本開示に係る単離方法によれば、本開示に係る1又は2の特定のエクソソームを効率よく単離することができる。
本実施形態において、<単離エクソソームを含む組成物の製造方法>における各記載を援用できる。
【0068】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【実施例0069】
以下実施例により本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1:培養上清の調製>
脂肪由来幹細胞(ロンザ製)をPRIME-XV MDF-1培地(富士フイルム和光純薬製)に懸濁し、得られた細胞懸濁液を、CellBIND表面処理T175フラスコ(コーニング製)に、1フラスコあたり2.0×10個の細胞となるように添加した後、5%CO、37℃で72時間培養した。培養後、培養上清を除去し、終濃度がそれぞれ10ng/mL及び1%となるように、線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2;R&D テクノロジー製)及びインスリン-トランスフェリン-セレニウム溶液(ITS溶液;ヴェントリアバイオサイエンス製)が添加されたDMEM/F12培地(富士フイルム和光純薬製)を25mL添加し、5%CO、37℃で48時間培養した。培養後、回収した培養上清を1500G、4℃で、10分間遠心分離した後、上清を0.22μmフィルター(メルク製)でろ過し、培養上清を得た。
【0071】
<実施例2:タンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)による培養上清の精製>
KR2iシステム(レプリジェン製)に限外ろ過フィルタ(D02-E500-05N)を取り付け、実施例1により得られた培養上清200mLを流速50mL/分の速度で循環させながらろ過を実施し、50mLまで濃縮した。得られた濃縮液50mLを、20mM NaClの50mM HEPES緩衝液(pH7.0)で15体積分置換を行い、精製液を得た。
【0072】
<実施例3:粒子濃度の測定>
実施例2で調製した精製液を、ナノ粒子トラッキング装置Zeta View(パーティクルメトリクス製)を用い、ソフトウェアに付属するEV測定メソッドで、488nmレーザーを使用し、粒子濃度を測定した。Sensitivityを82、Shutterを100に設定した条件下で測定した結果、精製液中の粒子濃度は5.8×10個/mLであった。
【0073】
<実施例4:カラムによるエクソソームの精製>
(1)カラムの平衡化
カラムは、陰イオン交換カラムである、BIA Separations製のCIMmultus(登録商標) EV 1mL Monolithic Column(2μm
channels)を用いた。装置はCytiva製のAKTA(登録商標)purifierを用い、260nmでの吸光度(UV260nm)、及び280nmでの吸光度(UV280nm)、電気伝導度を製造者のマニュアルに従い、測定した。溶離液には、50mM HEPES緩衝液(pH7.0)(A液)及び、2M NaClの50mM HEPES緩衝液(pH7.0)(B液)を調製し、用いた。A液99%、B液1%の混合液(NaCl濃度20mM)を20mL通液し、カラムを平衡化した。
(2)エクソソームのカラムへの吸着
実施例2で調製した精製液(5.8×10個/mL)13.5mLを、上記(1)で平衡化したカラムに供し、培養上清中に含まれるエクソソームをカラムに吸着させた。カラムへの吸着時における培養上清の流速を5mL/分とした。
【0074】
(3)非吸着成分の溶出
サンプルを吸着させたカラムにA液99%、B液1%の混合液(NaCl濃度20mM)を20mL通液させ、カラムに吸着していない成分を溶出させた。溶出時の流速は5mL/分とした。
(4)エクソソームの溶出
エクソソームを吸着させたカラムに、A液99%、B液1%からA液0%、B液100%まで(NaCl濃度20mMから2Mまで)のリニアグラジエントの溶離液(20mL)を通液し、カラムに吸着させたエクソソームを溶出させた。溶出フラクションは1mLずつ回収した。NaClを含む緩衝液の流速は1mL/分とした。なお、カラム、培養上清および移動相の温度を25℃で実施した。
【0075】
<実施例5:回収画分の表面抗原定量>
実施例4(4)で得られた各溶出フラクション中の表面抗原濃度は、CD9/CD63
Exosome ELISA Kit, Human(コスモバイオ製)、CD9/CD9 Exosome ELISA Kit、CD63/CD63 Exosome ELISA Kit(以上、ハカレル製)の各キットを用い、製造元提供のマニュアルに従い、酵素結合免疫測定法(ELISA)により定量した。各溶出フラクションを、各ELISAキットに付属のアッセイバッファーで下表の希釈率でそれぞれ希釈して調製した希釈フラクションを測定に供した。各ELISAの測定結果に希釈率を乗じて各表面抗原の濃度とした。各ELISAにおいて、最大値を示した画分を1とし、各画分の相対値を算出した。
【0076】
以上の結果を下記の表1~3に示す。また、AKTA(登録商標)purifier(Cytiva製)を用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)で検出された各溶出フラクションにおける紫外吸収スペクトル(UV)、電気伝導度と、ELISAにより測定された表面抗原の相対値(相対比とも言う)を図1に示した。UVは、260nmでの吸光度(UV260nm)、及び280nmでの吸光度(UV280nm)を示した。また表面抗原の相対値は、各溶出フラクションにおける表面抗原(CD9/CD63、CD9/CD9、CD63/CD63)の量を、最大値を示した溶出フラクションにおける値を1としたときの相対値を示した。表面抗原の相対値を表す棒グラフは、画分ごとに左からCD9/CD63、CD9/CD9、CD63/CD63の測定結果を表す。
【0077】
ここでの画分開始時から画分終了時までの電気伝導度を本エクソソームの電気伝導度とした。エクソソームに発現している表面マーカーであるCD9、CD63の発現量のピークはフラクション4付近とフラクション11付近に2つあることが示された。そのため、そのピーク付近のフラクションであるフラクション3、4、5、10、11、及び12を以下の実施例で用いた。なお、n.d.は検出できなかったことを示す(以下も同じ)。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
<実施例6:精製フラクションの粒子濃度の測定>
実施例4で回収したフラクションのうち、CD9、CD63の発現量が高いフラクション3、4、5、10、11、及び12の各フラクション中の粒子濃度を実施例3に倣って測定した。結果を表4に示す。
【表4】

【0082】
<実施例7:線維化抑制試験用エクソソームサンプルの調製>
KR2iシステム(レプリジェン製)に限外ろ過フィルタ(D02-E500-05N)を取り付け、実施例1により得られた培養上清200mLを流速50mL/分の速度で循環させながらろ過を実施し、50mLまで濃縮した。得られた濃縮液50mLを、0.1wt%のノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体)を含有する、500mM NaClの50mM Tris緩衝液(pH8.0)で6体積分置換を行った。得られた精製液に、BIAseparations製CORNERSTONE Exosome Process Development Pack付属の核酸分解酵素(Kryptonase)と当該核酸分解酵素の活性化剤の各バイアルを1本分ずつ添加し、得られた混合物をろ過することなく、KR2iシステムで2時間、循環させた。その後、0.1wt%のノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体)を含有する、20mM NaClの50mM HEPES緩衝液(pH7.0)で12体積分置換を行い、精製液(5.4×10個/mL)を得た。得られた精製液45.9mLを実施例4の方法に供して、エクソソームを溶出させて、エクソソームを含むフラクションを得た。得られた各フラクションの電気伝導度を当システムで測定すると共に、実施例3の方法により、各フラクションにおける粒子濃度を測定した。各フラクションの画分開始時から画分終了時までの電気伝導度と粒子濃度を表5に記す。
【0083】
【表5】

【0084】
<実施例8:Mag Exo溶液の調製>
実施例1で調製した培養上清(20mL)を、メンブレンの分子量カットオフ(MWCO)が100kDaである遠心ろ過チューブ(ザルトリウス製)に添加し、3000G、4℃で、1mL以下になるまで濃縮した。得られた濃縮液から、Mag Capture
(登録商標) エクソソームアイソレーションキット PS(富士フイルム和光純薬製)を用いて、当該キット付属のプロトコルに従って精製エクソソーム溶液を調製し、「Mag Exo溶液」とした。
【0085】
<実施例9:線維化抑制試験>
(1)サンプルの濃縮、PBSバッファーへの置換
実施例7で得たフラクションからエクソソーム溶液A(電気伝導度:18~53mS/cm;画分1~4)、エクソソーム溶液B(電気伝導度:53~76mS/cm;画分5~7)およびエクソソーム溶液C(電気伝導度:83~104mS/cm;画分9~11)と、Mag Exo溶液の各エクソソーム溶液をそれぞれ、遠心式フィルター(メルク製)を用いて、14000G、25℃で、2分間遠心分離を行い、濃縮した後、得られた濃縮液にダルベッコ リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(ギブコ製)を添加し、各エクソソームのDPBS溶液(500μL)を調製した。後述の線維芽細胞のウェルへのエクソソーム溶液の添加に際し、ウェル間のNaCl濃度がほぼ同程度になるように、遠心分離による濃縮操作とDPBSの添加を繰り返した。当該操作を繰り返すことによって、各エクソソーム溶液の電気伝導度をDPBSの電気伝導度(20mS/cm)以下に収め、最終的に各エクソソーム溶液を100μL以下まで濃縮した。
【0086】
(2)線維化抑制試験の実施
肺由来線維芽細胞(プロモセル製)を、終濃度がそれぞれ、10%及び0.1%となるようにウシ胎児血清(FBS)(ギブコ製)及びゲンタマイシン硫酸-アンホテリシン溶液(ロンザ製)が添加されたDMEM(ギブコ製)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。次いで、得られた細胞懸濁液(500μL)を、24穴プレートの各ウェルに、1ウェルあたり4000個の肺由来線維芽細胞となるように添加し、5%CO、37℃で24時間培養した。培養後、培養上清を除去した後、終濃度が0.1%となるようにゲンタマイシン硫酸-アンホテリシン溶液(ロンザ製)が添加されたDMEM培地、並びに終濃度がそれぞれ、0.1%及び10ng/mLとなるようにゲンタマイシン硫酸-アンホテリシン溶液及びトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β;ぺプロテック製)が添加されたDMEM培地の各培地をそれぞれ500μL添加し、5%CO、37℃で24時間培養した。培養後、TGF-βの入ったウェルに対し、エクソソーム溶液A(終濃度2.0×10個/mL;DPBS溶液)、エクソソーム溶液B(終濃度1.0×10個/mL;DPBS溶液)、エクソソーム溶液C(終濃度1.0×10個/mL;DPBS溶液)、及びMag Exo溶液(終濃度1.0×10個/mL;DPBS溶液)をそれぞれ添加し、5%CO、37℃で48時間培養した。培養後、培養上清を除去した後、500μLのDPBSで洗浄した。洗浄後、200μLのAccutase(ナカライテスク製)で細胞を剥離し、400μLのDPBSを添加した後、1.5mLチューブ(住友ベークライト製)に細胞を回収し、300G、25℃で、3分間遠心分離し、上清を除去した。
【0087】
回収した細胞に対し、PureLink(登録商標) RNA Mini kit (Thermo Fisher Scientific製)を用いて当該キットのプロトコルに従ってRNAを抽出した。当該RNAに対し、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific製) を用いて当該キットのプロトコルに従ってcDNA溶液を調製した。当該cDNAに対し、TaqMan Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher Scientific製)を用い、当該試薬のプロトコルに従って定量PCRを実施した。
【0088】
定量PCRのプローブは、TaqMan Gene Expression Assay (FAM)のアクチンα2プローブ(ACTA2:Hs00426835_g1)又
はグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼプローブ(GAPDH:Hs02786624_g1)を用いた。ACTA2発現量および内在性コントロールであるGAPDH発現量をΔΔCt法により求めた。GAPDH発現量に対するACTA2相対発現量を計算した。TGF-β無添加の細胞のACTA2相対発現量を1.0として各サンプルのACTA2の相対発現量を計算し、その結果を図2に示した。
【0089】
図2中、TGF-は、TGF-β無添加の細胞のACTA2相対発現量を示し、TGF+は、エクソソーム無添加の場合のACTA2相対発現量を示し、エクソソーム溶液Aは、電気伝導度:18~53mS/cmであるエクソソームのDPBS溶液を細胞に添加した場合のACTA2相対発現量を示し、エクソソーム溶液Bは、電気伝導度:53~76mS/cmであるエクソソームのDPBS溶液を細胞に添加した場合のACTA2相対発現量を示し、エクソソーム溶液Cは、電気伝導度:83~104mS/cmであるエクソソームのDPBS溶液を細胞に添加した場合のACTA2相対発現量を示し、Exo Mag溶液は、実施例8において調製したエクソソーム溶液(「Exo Mag溶液」)を細胞に添加した場合のACTA2相対発現量を示す。*はP<0.01を示す。
【0090】
エクソソーム無添加の場合のACTA2相対発現量(すなわち、TGF+でのACTA2相対発現量)と比較し、エクソソーム溶液Cを添加した場合のACTA2相対発現量には有意差が認められ(P<0.01)、エクソソーム溶液Cは線維化抑制作用を示すことが分かった。
一方で、エクソソーム溶液Aとエクソソーム溶液Bを添加した場合のACTA2相対発現量は、エクソソーム無添加の場合のACTA2相対発現量と比較して差が認められなかった。また、エクソソーム溶液Cは同一エクソソーム濃度条件のMag Exo溶液と比較し、より強い線維化抑制作用を示した(図2)。
このことから、実施例7で得られた電気伝導度が83~104mS/cmである単離されたエクソソームを含む組成物が線維化抑制作用を有し、したがって、強い線維化抑制作用を有するエクソソーム溶液を製造することが可能であることが分かった。
図1
図2